━━━━━ フェイト・アーウェルンクス ━━━━━
「ホンマにお前の予想通りになったようやな。本山の守りは薄くなっとる。
やっぱり俺らが逃げてると思って、街中に人数散らしてるようやな」
「しょうがないよ。残った僕達2人だけで本山に攻め入るなんて、普通の人なら考えもしないだろうからね」
僕達は今、関西呪術協会本山の屋敷が見える位置まで接近している。周りが木だらけだから隠れる場所には困らない。
屋敷の敷地内には警備が少しいるみたいだが障害にならない程度だ。僕がアーウェルンクスとわかっている以上、近衛詠春も生半可な追っ手では返り討ちに遭うとわかっているだろうからね。動かせる手錬の全員を追っ手に回したようだ。
おかげで本山の守りは薄い。
ま、逃げているはずの僕はこんな本山間近にいるわけだけどね。
確か日本ではこういうことを、“灯台下暗し”って言うんだったかな?
「…………小太郎君、体調は大丈夫かい?」
「んー、7割ってとこやな。夜には全快になるで。狗族の治癒力なめんなや」
「そうかい。日没は18時頃。
…………攻め入るのは21時にしようか。あちら側も夕食が終わって一息ついている頃だから、きっと気が緩んでいるだろう…………特にネギ・スプリングフィールド君」
「あ~、そやな。警備担当とかはプロやからそんな油断はせぇへんと思うけど、ネギは別にプロってわけやないからな。
夕飯はどうせ一緒に来た姉ちゃん達と食うんやろうから、俺らを待ち構えてるなんてことはないやろ…………たぶん」
それはそうだろう。彼は関西呪術協会の人間ではなく客人のようなものだから、本山内部で積極的な防衛体勢をとるなんてことは出来ないだろう。
そんなことしたら、“関西呪術協会は信頼出来ない”と言っているようなものだ。
今の彼の立場ではそのようなことは出来ないだろう。麻帆良の一員として西に来ているのだから、関西呪術協会というアウェイでは勝手なことはしないはずだ。
…………きっとね。
「それよりどうやって千草姉ちゃん達を助けるんや?
居場所は座敷牢やろうからわかるけど、気づかれないように千草姉ちゃん達を助け出すのは無理やで。どうすんのや?」
「大丈夫だよ。ちゃんと手は考えてある。
本山に潜り込んだら君は千草さん達の救出に向かってくれ。その際にはこの護符を肌身離さず持っておいてほしい」
「護符? …………何か変わった護符やな。お前の手作りか?
いったい何する気なんや?」
「なに、大したことじゃないよ」
ちょっとばかり、ネギ君の真似をしてみるだけだから。
━━━━━ 綾瀬夕映 ━━━━━
…………疲れたです。
学校の勉強よりも興味深い内容で純粋に楽しむことも出来ましたが、さすがに朝からぶっ通しで行なわれた関西呪術協会から見た裏の世界についての説明は疲れたです。
大まかには麻帆良でネギ先生やエヴァさんから受けた説明と同じでしたが、それでも細かいところは違いましたね。
さて、東西ドチラの道を選ぶかなんですが、やはり西洋魔術になるですね。というか、麻帆良から離れてまで東洋呪術を学ぶ理由がないと言ったところですか。
のどかも同じく西洋魔術を選ぶようですし、離れ離れになることがなくて何よりなのです。
…………まあ、のどかはネギ先生と離れたくないというのが一番なのでしょうが。
「ふぃ~、やっぱり寮の大浴場みたいな南国的なお風呂もいいけど、こういう木で出来てる和風のお風呂も新鮮で良いわよねぇ~」
「アハハ。オジサン臭いでぇ、アスナ」
「寮のお風呂も凄いけど、ここのお風呂も凄いよね~。
昨日入ったときはホントにビックリしちゃった」
「さすがは関西呪術協会の本山といったところですか」
「…………いや、こんなところで関西呪術協会の本山であることを感心されても困るのですが」
確かに良いお湯です。アスナさんの言う通り、この木の芳しい香りもリラックス出来ていいですね。麻帆良は全体的に洋風建築が多いですので、こういう和風の建物自体が新鮮です。
今日の夕食も美味しかったですし、麻帆良では体験出来ないことを体験出来ました。
…………これで京都観光も出来るのなら満点なのですが。
「残念ながらそれは無理でござるよ、夕映殿」
「そりゃそうだろ。あの“幼女誘拐犯”がまだ捕まってないんだからな。
アイツラが京都から逃げたってことが判明すれば観光も出来るけど、さすがに京都の街中に潜伏されてたら観光なんて暢気に出来ないだろ」
「ま、明日の朝までに捕まるのを期待するんだな。私としてもせっかく京都に来れたので、有名処の甘味を食べてみたいとは思っていたのだが。
…………せっかく下調べもして来たというのに」
今日から観光に出ているエヴァさんがうらやましいです。このまま京都観光出来ずに帰ることになりそうですね。
エヴァさんは夕食も何処かの料亭で食べてくるらしく、20時を過ぎた今でも戻ってきてません。
おかげでネギ先生が私達に付きっ切りになってくれたので、むしろ観光に出てくれてありがとうございます、という感じなのですが。
それにしても、ネギ先生には困ったです。
あそこまで恋愛に興味がないというか、恋愛を理解出来ていなかったとは思ってもいなかったです。
のどかのキスも逆効果になってしまったし、これからどうやってネギ先生を攻めればいいのでしょうか?
当初、のどかはこの旅行でネギ先生に告白するつもりだったらしいのですが、朝にアルちゃんから見せてもらった好感度ランキングを見る限り、時期尚早と言わざるをえないです。
となると、やはりまだ待つしかないですね。
ネギ先生は10歳ですし、中学卒業までは丸一年あります。中学を卒業してからも魔法に関わっていればネギ先生との関わりも無くならないでしょうから、まだ時間はたくさんあるのです。
焦らずにゆっくりとコトを進めていくほうがいいでしょう。
「ふっふっふ、今日は私がネギの隣で寝るもんね」
「むぅ~、せっかく2日連続でジャンケンに勝てたのに、今日はお父様と一緒に寝なきゃいけないやなんて…………。
せっちゃん。せっちゃんがウチの代わりにネギ君の隣に寝て、アスナが変なことせんように見張っといてな」
「お任せください、木乃香お嬢様。
…………それとせっかく里帰りなされたのですから、少しは親子の語らいを長となさった方がよろしいかと…………」
「お前らは麻帆良に帰ったらネギ先生といつでも寝れるだろう。旅行中ぐらい自重出来ないのか?
というか、その話聞いたら親父さん泣くぞ、近衛」
むぅ、のどかのライバルはアスナさん、木乃香さん、エヴァさんの3人。
残念ながらのどかは他の人より一歩出遅れている感があります。
家族として同じ部屋で暮らしているアスナさんと木乃香さん。同じ魔法使いとして関係を持っているエヴァさん。
対するのどかのネギ先生との関係は、まだ教師と生徒という関係でしかありません。それにその教師と生徒という関係は、アスナさん達も同じなのです。
このままではアスナさん達にリードを許し続けてしまうことになるですね。早く何とかしないと…………。
やはりのどかがネギ先生の“特別”となるには、『仮契約』ぐらいしないと駄目なのかもしれません。
しかし、『仮契約』するにはネギ先生と親密にならないといけないという問題もあります。
…………あれ? ネギ先生と仲良くなるためには『仮契約』が必要で、ネギ先生と『仮契約』するにはネギ先生と仲良くならなければいけない?
駄目じゃないですか、それ。
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お風呂から上がってネギ先生を探してみると、どうやらネギ先生はお茶を片手に夜桜を見ているようでした。
これはなかなか絵になる光景ですね。
外国人の子供が浴衣をピシッと着て、お茶を片手に夜桜を見上げている。
これでネギ先生の頭上に満月でも浮かんでいれば更に絵になったのでしょうが、残念ながら今日は三日月なのです。
「お帰りなさい、皆さん。夜になると一段と寒いですから、身体を冷やさないでくださいよ。残念ですが、このままですと明日は麻帆良に戻らなければいけなくなりそうです。
…………新学期早々の修学旅行の行き先が京都でしたら、近いうちにまた来れたのですがね。
さすがにいくら何でも、修学旅行の日まで“ょぅι゛ょ誘拐犯”が京都に潜伏し続けているなんてことはないでしょうから」
「あー、そういえば修学旅行は結局ハワイになったのよね」
「ハワイはハワイで面白そうアル。
京都ならいつでも来れるだろうから、夏休みにでもまた旅行に来ればいいアルよ」
「それもいいでござるな。
せっかくの旅行が“ょぅι゛ょ誘拐犯”のせいで台無しになったゆえに、夏休みにでもまたこの面子で旅行に行きたいでござるな」
「アハハ、それもいいですね」
グッジョブです。くーふぇさん、楓さん。
これで夏休みに再びネギ先生と旅行することが出来るです。
「木乃香さんは詠春さんのところに?
それと刹那さんは僕達と一緒の部屋で寝るんですよね?」
「はい。いくら私が木乃香お嬢様の護衛とはいえ、さすがに久しぶりの親子水入らずの場面に立ち入る気はありません。
長がいらっしゃるなら私が護衛する必要もないでしょうし」
「そうですか。それでは部屋に行きましょうか。皆さんがお風呂から上がったばかりなのに、いつまでも外にいるわけにもいきませんから」
「そうね、部屋に戻ってトランプでもして遊びましょう。それと今日は私がネギの隣で寝るからね~」
「…………あ、逆隣には私が寝ます。
本来なら、ジャンケンで勝った木乃香お嬢様が寝る予定だったのですけど…………」
「はいはい、どうぞご自由に」
…………しかし、ネギ先生は隣に女性が寝ても全然気にしないですね。今もアスナさんに抱きしめられていますけど平気にしているです。
“10歳だから”といわれたらそれまでなのですが…………。
それによく考えてみたら、刹那さんものどかのライバルになるのでしょうか?
今は0点になったといえ、ネギ先生が刹那さんに対して“色欲”が1点あったことは事実です。それに寮でも木乃香さんと一緒に、ネギ先生を挟んで川の字で寝ている関係です。
木乃香さんがネギ先生のことが好きなのはほぼ確実。
といっても、まだ“男女”としてではなくて“家族”や“姉弟”としての“好き”の方が大きそうですが、それでも恋愛感情を抱いていないというわけじゃないはずです。それはキスの件からもわかります。
そして刹那さんは木乃香さんのことをとても大切に思っているです。
もし木乃香さんがネギ先生のことを本気で好きだということになれば、刹那さんは全力で木乃香さんのことを応援するでしょう。
そこで怖いのが、木乃香さんも刹那さんのことをとても大切に思っているということです。刹那さんもネギ先生のことが好きだったとしたら…………。
というか、実際に刹那さんのネギ先生を見る目が満更ではなさそうなのが怖いです。
もし木乃香さんがネギ先生のことが本気で好きで、刹那さんもネギ先生のことが好きだということになったら、木乃香さんはいったいどういう反応をするでしょうか?
“刹那さんにネギ先生のことを諦めるようにお願いする”?
“刹那さんのことを考えて、木乃香さんがネギ先生のことを諦める”?
……………………それとも、“ネギ先生を2人で分け合いっこする”?
木乃香さんの性格なら、“分け合いっこする”の可能性が一番高いのは私の気のせいなのでしょうか?
そうすれば木乃香さんは、ネギ先生と刹那さんの2人といつまでも一緒にいることが出来るのです。
木乃香さんは独占欲とかはあまりなさそうですし、“皆でいつまでも一緒にいれるならそれでええよ”みたいな考えに落ち着きそうなのです。
刹那さんも木乃香さんのお願いなら、“分け合いっこ”を受け入れそうなのです…………むしろ望むところ?
そ、そうなったら、木乃香さん&刹那さんタッグという強敵にのどか1人で立ち向かわなければいけなくなるです。
…………マズイです。ピンチです。勝率は極めて低いと言わざるをえないです。
よくよく考えれば、エヴァさんにも茶々丸さんという従者がいるのでした。
茶々丸さんがガイノイドとはいえ、ネギ先生はそんなこと気にしなさそうですし、最近の茶々丸さんは本当に人間のようになってきているです。
ネギ先生が来る前に比べたら、それこそ“アナタ誰?”と思うぐらいに…………。
…………こ、こうなったら、私がのどかについてネギ先生を一緒に…………って、何考えているですか、私は!?
私は別にネギ先生のことなんて…………。
「それでは何して遊びます?
“ポーカー”? “大富豪”? “ダウト”? “七並べ”?」
くっ! いつもニコニコと平然としているネギ先生の笑顔が今は憎いです。
私がどれだけネギ先生の鈍感さで苦労していると思うんですか!?
「昨日やったときはネギの1人勝ちだったわよね。
…………魔法なんて使ってないわよね? 前に見せてくれた幻術とか?」
「いや、私も疑いを持ったので魔眼で監視してたが、ネギ先生が幻術を使っていたということはなかった。
身体強化の魔法で視力を強化していたということもなかったはずだ、が…………正直言って、ネギ先生のことだから何かズルしていたと思っている」
「…………結局“大富豪”でも平民以下にはなりませんでしたよね」
「っていうか、“ダウト”で2を最後まで残しておいて、前の人でダウトコールするのやめにするアルよ。
それやられたら、簡単に勝たれて面白くないアル」
「ハッハッハ、バレなきゃイカサマじゃナイデス…………あれ?」
「…………ネギ先生?」
? おや、ネギ先生?
いきなり部屋の外の方を向いてどうしたのですか?
「…………っ!?
『契約執行』 時間無制限 ネギの従者 全員!!!」
「ネギ先生、何をっ!?」
くうっ!? ネ、ネギ先生の魔力が全身に!?
旅行前に何度かこの魔力供給を練習したことがありますけど、このこそばゆい感じは慣れないです。
それ以前にいきなり何を!?
外に何か……………………って、障子の隙間から白い煙が!? 敵襲ですか!? まさか“ょぅι゛ょ誘拐犯”が!?
━━━━━ 後書き ━━━━━
フェイト襲撃開始です。
ちなみにネギはカードゲームのとき別にイカサマしていません。
単純にカードをガンパイしていただけです。チートの身体能力マジパネェ。
それと修学旅行はハワイになりましたが、描写することはないです。
だって作者がハワイ行ったことないんだもん!!!
…………というか、パスポートすら作ったことないや。作ったら会社の出張で中国とか韓国に逝かされるかもしれないんだよなぁ。