「…………一体、どういうことなのだ?」
 全然自分にもわかりません。何故、ゴゴゴゴゴ、と夜叉のオーラを放っているエヴァさんが目の前にいるのかわかりません。
 今すぐウェールズに帰りたいなぁ。
「15年前だぞ、15年前…………!」
 アーニャの買い物に付き合って荷物持ちにされたいなぁ。
 ネカネ姉さんの魔法実技授業で校庭の隅でガタガタふるえて命乞いしたいなぁ。
 アルちゃんの原作から思いっきり離れたしおらしさで微妙な気持ちになりたいなぁ。
 …………まだアルちゃんに“お兄様”って呼ばれるのは違和感があるんですよねぇ。
「私がナギに『登校地獄』をかけられたのが15年前。そのときに3年経ったら解きに来るといわれた。
 そしてこのぼーやは9歳だ」
 現実逃避してる場合じゃありませんね。いつでも逃げれる準備しないと。
 というか学園長たちは何を考えてるんだ?
 刀子先生とシスター・シャークティーは気の毒そうな顔してこちらを見てくるだけだし。
「私にかけた呪いを解く暇はなかったくせに、子供をつくる暇はあったというのか………っ!」
 タカミチ!? タカミチは何処に!?
 自分の担任している生徒なんだからなんとかしてくださいよ!
「………待ってたのに」
 はい、うちの駄目親父が申し訳ありませんでした。土下座して謝りますから許してください。
 まだあの駄目親父はコッソリ生きてるんです。ですので想いをぶつけるのはそちらにしてください。
 って、アレ? ………エヴァさん泣いてる?
「待ってたのに……待ってたのに待ってたのに待ってたのに。ずっとずっと待ってたのに。
 ちゃんとナギの言うとおりに学園の警備員としても頑張ったのに。
 …………どうしてナギは私に会いに来てくれなかったの?」
 …………きっと夏休みの宿題をしない男子中学生のごとく伸ばし伸ばしにしていて、遂にはいけなくなったんでしょう。
 いや、というか泣かないで。そんなボロボロという形容詞が似合う涙を流さないでください。
「来れないなら一言ぐらいあってもいいのに。
 電話でも、手紙でも、人伝でも、なんでもいいから……ぅぐっ、ぇぐっ」
 刀子先生とシスター・シャークティーがエヴァさんを宥めはじめました。
 だけどお願いですから自分のこの混乱具合も宥めて欲しいです。
 そしてタカミチ、いつの間に部屋に入ってきた?
「ぅぐっ、料理もできるように、ぇぐっ、なったのに。
 …………洗濯も、掃除もちゃんとできるようになったのに………う、うううぅぅぅ!!!」
 崩れ落ちるエヴァさんを刀子先生とシスター・シャークティーが支えて心配しています。
 だけどお願いですから自分のこの混乱具合も心配して欲しいです。
 ………………それにしてもエヴァさんが家事一般の勉強? キャラ崩壊しすぎじゃね?
 ヤンデレっぽい感じがなくなったのは助かりますが。
「すまんのぉ、ネギ君。我慢すると約束してたのじゃが…………。
 これでは君も何のことかわからんじゃろう。
 説明するから刀子先生とシスター・シャークティーはエヴァを別室に…………」
「い、いえ。僕が別の部屋に行きましょう。とにかく今はマグダウェルさんを落ち着かせてください。
 タカミチは事情をわかっているんですか? わかってるんなら説明をお願いします」
 とにかく今すぐ混沌としたこの部屋から脱出させてください。それだけが私の望みです。
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「すまなかったね、ネギ君」
「いえ、とにかく説明をお願いします、タカミチ。
 父さんが関わっているのはなんとなくわかりましたが………」
「ああ、実はエヴァはね………」
 タカミチから説明してもらいましたが、エヴァさんがこの学園に来るきっかけは原作と変わらないようです。
 ただし、原作と違うのはこっから。
 エヴァさんは見事に恋する乙女になったようです。
 「ナギに頼まれたから」の理由で学園の警備員として頑張り、「ナギにおいしい料理を食べさせたいから」の理由で料理を頑張り、etcetc。
 エヴァさんは見事に恋する乙女になったようです。
 …………どうしてこうなった?
 そして3年経って、呪いを解きにナギが来なくても「ナギにはなにか理由があったんだ」と健気に待ち続け、更にナギ死亡の噂が流れても「ナギが死ぬはずがない」と健気に待ち続けました。
 が、それもナギの息子である自分、ネギ・スプリングフィールドの存在を知るまで。
 自分の事を聞いたエヴァさんは理解するまで数分かかり、理解した瞬間気絶したそうです。
 よくよく考えてみればエヴァさんに対して酷い話ですよね。
“あ………ありのままに起こった事を話すぞ!
「私はナギに「待っていろ」と言われて待っていたら、
 いつのまにかナギは他の女と子供をつくっていた」
 な……何を言っているのかわからないと思うが、 
 私もどういうことなのかわからなかった。
 頭がどうにかなりそうだった………。
 “男の甲斐性”だとか“裏切り”とかそんなチャチなもんじゃあ、断じてない。
 もっと恐ろしいものの片鱗を味わったぞ…………”
 といった感じでしょうか?
 …………ハナっからそういう関係じゃなかったんじゃね? というツッコミはしない方がいいですね。
 あ、学園結界はちゃんとエヴァさんの能力を封じているそうです。
 といっても封印したのは攻撃力だけで、不死性に関しては封じてないそうです。
 え? なんで不死性に関しては封じてないのかって?
 …………自殺防止だそうです。 キャラ崩壊しすぎじゃね?
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「はあ、そういう事情だったんですか…………」
 麻帆良に来た初日でもうお腹一杯なんですが。
「そ、それでエヴァにかかっている『登校地獄』を解くためにネギ君に協力して欲しいんだ」
「協力ですか? 事情を聞いた以上それは構いません。
 というか是非とも協力させてください。血を提供すればいいんですか?」
「いいのかい? ありがとう、助かるよ。
 さっきも言ったとおり彼女は15年もの間、ずっと中学生を繰り返していてね。
 せめて『登校地獄』からだけでも解放してあげたいんだ。」
 …………うちの駄目親父が申し訳ありません。
 誠心誠意『登校地獄』解呪に協力させていただきます。
「高畑先生、ネギ君。エヴァンジェリンが落ち着いたそうです」
 ノックして部屋に入ってきたのは黒い肌でタラコ唇の長身男性。ガンドルフィーニ先生ですね。
 …………この人いわゆる“正義の魔法使い”志望で頭が固いんでしたっけ?
 そんな人がこの件で文句もなさそうに動いてるってことは、エヴァさんは麻帆良に受け入れられてるっぽいですねぇ。
 特に葛葉先生やシスター・シャークティーみたいな女性陣は完璧味方になっているでしょう。
 あ、ガンドルフィーニ先生にも幼い娘さんがいるんだったっけ?
 だったら他人事じゃないですね。そんな仕打ちを自分の娘にされたら怒るでしょうし。
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「さっきは済まなかったな、ぼーや…………」
 学園長室に戻ってきた自分たちを迎えたのは、泣き止んだエヴァさんでした。
 だけど目がまだ赤く、腫れぼっています。よっぽどナギのこと好きだったんでしょうねぇ。
「…………本当はわかっていたんだ。実際ナギと私は何もなかったんだからな。
 助けてもらったときに手を繋いだぐらいで、それ以外は頭を撫でてもらえるだけだった。
 でも…………それでも、私はナギのことが…………ぅぐっ」
 お願いですからもう泣かないでください。泣きたいのはこちらです。
 だけどその泣き顔にキュンと来た駄目人間な自分でした。
 なんでこんなに原作と違って可愛くなってるんだ? 闇の福音がこんなに可愛いわけがない。
 駄目だ、この人。早くなんとかしないと…………。
 待て、慌てるな。これはテンプレの通りだ。
 エヴァさんの呪いを解き、15年間もこの学園に縛りつけた駄目親父の所業を謝るのはテンプレ通りだ。
 そしてエヴァさんと良い関係を築き、京都修学旅行での事件を手伝ってもらうのもテンプレ通りだ。
 何も問題はありません。
 自分はテンプレ通りに進めています。
「エヴァンジェリン・A・K・マクダウェルさんっ!!!」
 キリッとした声を出し、エヴァさんの前に進んでしっかりと目と目を合わせます。
 そして自分は、
「タカミチから聞きました。女性にそんなことするなんて最低な駄目親父です。
 駄目親父がしたことの責任は僕がとります。
 どうぞ僕の血を吸って呪いを解いてください」
 と土下座して謝りました。
 …………。
 ……………………。
 ………………………………テンプレ通り、ですよね?