━━━━━ エヴァンジェリン・A・K・マクダウェル ━━━━━
夢を見ている。昔の夢だ。
そう……ナギと初めて出会った頃の夢。
風邪を引いて具合が悪いときや、何か嫌なことがあったら良く見る夢。
前に見たのはいつだったか? ネギが来てからは見なくなっていたというのに…………。
「危なかったなー、ガキ」
そう言って、ナギは崖からウッカリ落ちた私を助けた。
…………別に助けられなくとも平気だったんだがな。
ホントにウッカリだったんだ! 足場が崩れたのが悪かったんだ。空も飛べるから別に助けてくれなくとも平気だったんだぞ!
…………オホン! 変な男だった。“闇の福音”と恐れられている私を助けるなんて。
最初は私が“闇の福音”だということを知らないからだと思った。
私のことをガキ呼ばわりしてたし、そもそも私は人前に出るときは幻術を使用して大人の姿になっているので、世間一般には“闇の福音”が本当は子供だということは知られていないはずだったからな。
…………私の異名の一つに“童姿の闇の魔王”というものがあるが、それは幻術を使い始める前の私につけられた異名だ。
そして幻術を覚えてからは、人前に姿を現すときは子供の姿のままのときもあったし大人の姿のときもあった。おそらくこのことから私の本当の姿が世間にはわからなくなっていったのだろう。
「お前は誰だ? なぜ助けた?」
「さあな。まあ食えよ、うまいぜ」
実際にナギは私のような子供が“闇の福音”とは知らなかったみたいだし、そもそも私も英雄であるはずのナギのことは知らなかった。
あの頃は拠点も持たずにずっと放浪していたから、世間の事情には疎かったしな。
だけど、私の正体を明かしても、ナギは相変わらず私への態度を変えなかった。
“闇の福音”を知らないわけでもない。怖がっているわけでもない。かといって甘く見ているわけでもなくて、ただ“それがどうした”という感じだった。
初めてだった。
私の正体を知っても私を恐れず、私を嫌悪せず、ただの見た目通りの子供のように扱う人間は。
(古本や脳味噌筋肉は除く。アレらは人という分類ではない)
ナギに興味が沸いて、少しの間ばかりナギの後をついて行ったが、それでも相変わらずナギの態度は変わらなかった。
そしていつしか私はナギのことが欲しくなっていた。
「もう一ヶ月になるぜ。
俺について来たって何もイイこたねーぞ。どっか行けって」
「やだ。お前がうんと言うまで、たとえ逃げても地の果てまで追ってやるぞ」
私のモノにならないかと聞いても、ただあしらわれるだけだった。
やはり“闇の福音”が怖いのかと思ったし、“偉大な魔法使い”であるナギが私のモノになりたくないと思うのは当然のことかもしれないと思った。
しかし、私のモノにならない理由は
「ガキに興味ない」
からだった。
…………そういう理由で断るか、普通?
まあ、ナギっぽいと言ったらナギっぽいのだろうが。それにあの頃には既に相手がいたんだろうな。
結局ナギの相手は誰なんだろう?
ネギは予想がついているらしいが、あくまで予想だということで教えてはくれなかった。
「まあ、心配すんなって。お前が卒業する頃にはまた帰ってきてやるからさ。
光に生きてみろ。そしたらその時お前の呪いも解いてやる」
「…………本当だな?」
待った。3年待った。
最初はそこそこ悪くはなかった。
学校というのは新鮮だったし、追われる心配がないというのはそれだけでも安心出来た。
部活も入ったりして日本の学生生活を満喫した。麻帆良のお気楽な女子中学生どもには呆れたが、それでも最初はあの騒がしさは気に入っていた。
けどそんな風にお気楽に過ごしていれたのも、初めて中学校を卒業するまでだった。
卒業するまでに来るといったはずのナギは結局来ず、しかもナギが力任せに適当にかけた『登校地獄』のせいで再び中学一年生からやり直すハメになった。
それからの一年は、約束を守らずに遅れてやってきたナギにどう落とし前をつけてやろうかと考えながら過ごした。
次の一年になると、ナギに忘れられたんじゃないかと不安に思い、ナギが来てくれるのをひたすら待った。
そしてあるとき、ナギが死んだと突然聞かされた。
最初は何の冗談だと不機嫌になりながらも、ナギの情報が少しでも手に入ったことに喜んだ。
私を麻帆良に封印してから5年もの間、一度も顔を見せずに約束まですっぽかしたんだぞ。普通、少しは気になって様子を見にくるとかしないか?
ナギみたいなバグキャラが死ぬわけないだろうし、生きてることがわかったならいつかは私に会いに来ると信じた。
けど、その後に入ってくる情報も全てナギが死んだことばかりだった。
…………うそつき。
それからはただ変わらない退屈な日々を過ごすだけだった。
授業を受けても結局は卒業出来ないし、ナギの馬鹿げた魔力でかけられた『登校地獄』は解くことも出来ない。
このまま麻帆良で警備員として飼い殺しのような生活がずっと続くのかと思った。
でもそんなとき、ナギの息子がいることを知り、しかもその息子が麻帆良に教師としてやってくることを知った。
ナギの血縁たるネギの血があれば『登校地獄』も解くことが出来るかもしれない。この知らせでようやく私にも希望が持てた。
相手は魔法学校を卒業したばかりのひよっこ魔法使い。そんな奴なら簡単に血をいただくことが出来る。
しかし、私も魔力を極限まで封じられていた。
満月の夜以外はただの人間で、満月の夜ですらかつての私の一割も力を発揮できない状態だったが、私には“魔法使いの従者”である茶々丸がいた。一般の“魔法使いの従者”と茶々丸は若干違うけど。
“魔法使いの従者”とは戦いのための道具。
我々魔法使いは呪文詠唱中、完全に無防備となり、攻撃を受ければ呪文は完成できない。そこを盾となり、剣となって守護するのが“従者”。
いくらナギの息子とはいえ、ひよっこな上にパートナーすらおらず、実戦経験皆無な魔法使い。
そんな坊や相手だったら、封印されている私とはいえ茶々丸さえいれば恐れるに足らん。
とはいえ、学園からの妨害があるかもしれないので、生徒から血を集めて私の力も少しは取り戻すことにした。
それでも遅くとも、3年生になった頃には行動に移せるはずだった。本当はすぐにでも襲って封印を解きたいところだが、焦って元をなくしたらどうしようもないから我慢をした。
………………今から考えると、焦らなくて本当に良かったな。
封印されている私だったら、茶々丸がいようと絶対勝てないぞ、アレ。
しかも敵には容赦をしないネギのことだ。
私は最初の出会いが悪いものではなかったから良かったが、もしウチのクラスの誰かを襲っていたところを目撃でもされたりしていたら…………。
あ、何か涙出てきた。夢の中なのに。
というか、封印がなかったとしても勝てたかどうか…………。
まあ、麻帆良に来たばかりのネギならともかく、少なくとも今のネギには勝てんな。魔力容量が真祖である私の4倍って何なんだ? ネギは本当に人間なのか?
しかも魔力容量以上に戦闘技術がとんでもなさすぎる。『闇の咸卦法』といい『神鳴流』といい『居合い拳』といい『闇の咸卦技法』といい、アレは本当に10歳なのか?
…………『烈破風陣拳』コワイ。
“幻想空間”だろうと痛いものは痛いし、何より魔法使いとしてのネギの相手は精神的に疲れるんだよ!
何が「必殺技出来ましたー。ちょっと相手してください」だよ!!!
………………話が逸れた。
まあ、ナギの息子ということで興味もいくらかあったから、しばらくの間あの坊やを見ていた。観察してわかったが、麻帆良にやってきたネギはナギの息子とは思えなかった。もちろん良い意味で。
10歳のはずなのに教師としても出来てたし、何より10歳のはずなのにナギより大人っぽい。後からよく見てみると、根っこはやはり子供だったがな。
魔力の制御も完璧だったし、襲撃計画を変更しなければならないかとも思った。
そんなことをツラツラと考えていたら、ネギが私の家に何故かいた。
茶々丸が世話になったらしく、そのお礼ということだったがな。
「マグダウェルさんって、“僕のお母さん”だったりしますか?」
「ブフォッ!!!」
アレは紅茶吹いた。
いきなり何を言い出すんだ、このぼーやは…………と焦ったが、理由を聞いてみたらありえなくはない可能性だった。
私がネギの母親、要するにナギの妻か。
確かに私が生きてて麻帆良で平穏に暮らしているとなると、そういう突拍子もない考えに至るのもしょうがないかもしれんな。
…………私が子供を産む、か。
この小さな身体では無理だろうから、やはり何とかして身体を成長させねば。
ネギだって子供は将来欲しいだろうし。
でも、ネギだったら明日にでも「いやぁ、何か不老になっちゃいましたよ」とかひょっこり言ってきそうなんだよなぁ。
私は少なくとも驚きはするだろうが、逆に納得もするだろう。
…………だってネギだし。何やっても不思議じゃないし。
それなら子供は惜しいが、未来永劫2人きりでずっと過ごしていくのも悪くない。
………………また話が逸れた。
しかし、私の内心の葛藤を他所に、その後はトントン拍子に進んだ。
ネギのおかげで『登校地獄』も解けることになり、それからはネギと魔法について議論したり紅茶を飲みながら談話したりなどの友人付き合いをしている。…………今はまだな。
『闇の咸卦法』に驚かされたりいろいろあったが、ネギと付き合っていくうちに、いつの間にか私はネギが欲しくなっていた。
だってそうだろう。
今まで散々ナギに待たされたんだ。しかもいつの間にか子供を作っていたオマケ付きだ。
だったらその借りはナギの息子に返してもらってもいいじゃないか。
ネギはまだまだ子供だが、将来的にはイイ男に育つだろう。
イヤ、私がイイ男に育てる。
既に戦闘能力はナギよりも上だろうし、ナギと違って紳士的だしチャランポランじゃないし頭は良いし真面目だし…………って、ナギがネギに勝ってるトコなくないか?
まぁ、いくら能力が高くても、男はそれだけではないからな。
ネギもナギのように大きな男に…………でもネギがナギみたいないい加減な男に育っても困る。
…………ウン、ネギはネギらしく育ってくれればいいんだ。
とはいえ、ネギが麻帆良で過ごしていくうちに、やはりネギに目をつけるガキ共がワラワラと沸いてきおった。
くっ、ネギに一番最初に目をつけたのは私…………じゃないか、宮崎のどかが一番最初なのか? しかし、その次は私だ。
だが、あいつらはあくまで表の世界の人間であって、魔法に関係ないのなら無視していいだろうと思っていた。
ネギが将来どういう道に歩むはわからんが、魔法使いであることを止めるとは思えんかったからな。パートナーは魔法関係者を選んで当然だろう。それなら焦ることはないと思っていた。
…………が、そいつ等に私のせいで魔法がばれてしまい、私が面倒を見るハメになってしまった。私としたことが、魔法を使えるようになったことに浮かれすぎていた。
面倒を見るのは嫌だったが、ネギがあいつらの面倒を見て、そのせいで仲が深まったとしたら洒落にならん。
………………綾瀬達の才能はともかく、やる気と根性はあるから教えてても苦にはならないがな。
そして先日の京都旅行。
木乃香の里帰りに護衛として付き合ったが、15年振りの麻帆良の外は新鮮だった。
やはり京都は素晴らしかった。神社仏閣巡りは出来たし、料亭の味も麻帆良では味わえない美味を堪能出来た。
また是非とも行きたいものだ。今度は紅葉の時期にでも行きたいな。
だが、そんなせっかくの京都旅行を無粋にも邪魔したのは、ナギの敵でもあった魔法世界全土に指名手配されている犯罪者集団。
“ょぅι゛ょ誘拐犯”だった。
ま、そんな奴らもネギに蹴散らされたがな。見てたら可哀想に思うぐらいボコボコにされていた。
いくらネギが強いことを知らなかったとはいえ、随分と無謀をなことをしたものだ。
しかし、“ょぅι゛ょ誘拐犯”も伊達で魔法世界全土に指名手配されている犯罪者集団ではなかった。
決死の最後の一撃で、ネギに重傷を負わせたのだ。
…………あっという間にネギは完全回復していたけどな。というか、ネギならその気になれば最後の攻撃も回避できたんだろうなぁ。
食らっても平気だから、敵に攻撃するのを優先したんだろう。
相手のフェイトとかいう奴は、もう治らない怪我で両腕とアバラを数本折られている。もうテロリストとしては再起不能だろう。
“人形っぽい”とネギが言っていたから、もしかしたら身体を取り替えるなりして再びやってくるかもしれんが。
そんなこんなで無事に襲撃を撃退したのだが、ちょっとした副作用が起きた。
『咸卦治癒』で『闇の咸卦法』を暴走させたためか、無事に戻ったネギは肉体年齢を自由に操れるようになったのだ。
20歳くらいの大人のネギ。
ナギのように悪ガキのような雰囲気はなく、まさに“大人の男”という形容がピッタリなネギ。木乃香と刹那をお姫様抱っこしていたが、私も是非とも体験したかった。
ああ、早く実年齢も大人になってほしいものだ。やはり現実時間で150日間ほど私の別荘に監きゲフゲフンッ!
3歳ぐらいの小さなネギ。
あれもたまらん。10歳のネギでさえまだ子供特有の可愛さが残っているのに、幼児のネギはまた格別だった。
是非とも一緒に風呂に入ったり、抱き枕にして眠るなどして愛でたい。クラスの雪広あやかの気持ちが良くわかる気がした。
しかし、どうやらあの肉体年齢操作は今後控えるようだった。肉体に精神も引っ張られるらしく、まだ身体も精神も発達中の今では悪影響があるかもしれないということらしいな。
それならばしょうがいない。ネギが大人になるまではお預けだ。大人になるまで外見を変える必要が会った場合、幻術を使うらしい。
…………よし、年齢詐称薬を大量に用意しておくか!
フフフ、何としてもネギを立派なイイ男に育て上げ、そして私を選ばさせてやろう。
ネギにふさわしいのもこの私だ。
他のやつらと違って魔法の話も出来るし、不老でいつまでも生きていけるし、何より足手まといにはならん。
ネギは英雄の息子なんて生まれのせいで、将来的に苦難の道を歩むことになるだろう。私ならそんなネギを助けてやることが出来る。
まぁ、私の“闇の福音”という立場がネギの障害になることもあるかもしれんが、そんな障害などモノともしないような男に育てえ上げる。
ネギなら出来るはずだ…………っていうか今でも出来るだろ。
いやー、数年後が本当に楽しみだなぁ。
木乃香達は同盟を結ぶなんてアホなことを言っていたが、私にはそんな必要はない。私の実力でネギを勝ち取って見せよう。
実は後でネギと模擬戦をする約束もしてあるしな。
京都旅行での怪我は完治したが、問題がないかを模擬戦で確かめたいそうだ。
麻帆良の中でネギの相手になるのは私ぐらいだろうし、これはそれこそ木乃香達には出来んことだ。
こうやってネギを私に夢中にさせていく。せめてネギの麻帆良での修行が終わる前に、私を女と意識させなければな。
…………ナギが生きているかもしれないということは気にかかるのだがな。
しかしナギにはもう相手がいることだし、ナギの息子ということを差し引いてもネギのことは欲しい。
というか、むしろナギとネギの両方とも欲しい。
ナギに抱きしめられながらネギに足のマッサージをしてもらうとか、ネギに髪を洗わせながらナギに体を洗わせるとかしてみたい。ナギとネギ両方とも私の傍に侍らしたい。
こういうのを父子どゲフゲフンッッッ!!! ……………………少し下品だったな。
だから何にせよ、ネギを手に入れることには結局変わりはないのだ。
ま、木乃香達はネギの従者になるようだが、私は遠慮しておくことにしよう。
ネギを従者にするなら良いのだが、あくまでネギが下で私が上なんだ!
…………戦闘能力的なことはともかく、精神的にのことだがな。
「エヴァさーん、模擬戦お願いします」
お、ネギか。アルちゃんもネギの肩に乗せて一緒に来ている。
はて? しばらくの間、アルちゃんは木乃香につけておくようなことを言っていたような………………ム、だいたい今は夢の中だろうに。
ま、いいか。
たとえ夢の中だろうと、ネギのお願いなら聞いてやろう。
「いやぁ、京都旅行での『闇の咸卦法』暴走の影響ですかね?
僕と使い魔の契約を結んでいるせいか、アルちゃんがちょっと変わった能力が使えるようになったんですよ」
ほほお、アルちゃんに新しい能力か。模擬戦に連れてくるというからには、おそらく戦闘に関する能力なんだろうな。
フム、日頃からアルちゃんは戦闘の役に立てないことを気にやんでいたから、よかったじゃないか。
面白い。是非とも私に見せてみ……………………って、おい? 何でアルちゃんの身体が変形していくんだ?
「アルちゃんは身体を武器化できるようになったんですよ。“武態”といいまして。
その威力は使う者の能力次第…………」
ゴキゴキゴキゴキ!
メキョメキョメキョメキョ!
そんな音を立てて、アルちゃんの身体が変形していく。
肉が、骨が、間接がありえない方向に曲がっていき、ついには…………剣に変わったァーーーっ!?
っていうか体積も増えてないかっ!? 明らかにオカシイだろコレっ!?
「そしてェェーーーェ!!」ボンッ!!!
ネギの背丈が急に伸びて大人の…………いや、巨人の背丈へと変わり、それに伴って筋肉が膨れ上がった!
凄い魔力と気だ! 10mはネギと離れているのに、威圧感だけで押しつぶされてしまいそう!
というかお願い! 思い出させないで!!!
せっかくあのマッチョなネギのことは記憶の底に封印していたのに!!!
「僕はアルちゃんの力を最大限発揮する筋力を持ちます!!
僕達主従は1人と1匹でひとつ!!」
ちょっと待ってちょっと待ってちょっと待って!
コレおかしい! どこかおかしい! 絶対おかしい!
コレどこか絶対おかしいからっ!!!
お願いだから、夢なら覚めてくれぇっ!!!
━━━━━ 龍宮マナ ━━━━━
「…………神楽坂明日菜。同盟の件、組んでやろうではないか。
何とかしてネギをマトモな大人に育て上げていこう」
「同盟組んでくれるのはいいけど…………顔色悪いわよ、エヴァちゃん。何かあったの?」
「何、夢見が悪かっただけだ…………。
そうだ、アルちゃん。ネギは京都での一件で肉体に変化があったが、アルちゃんには何もないよな? 使い魔のパスが繋がっているとはいえ、あのネギに引き摺られて何か症状が出たりとか特殊能力が発現したりとかないよな?」
「え? そういうことは特にありませんが」
「ならいい。…………もし何かあったなら、すぐ私に言うんだぞ」
「は、はあ…………?」
いったいどんな夢を見たんだ、エヴァンジェリンは?
どういう夢なのかは興味はあるが、とんでもないのを想像させられそうだから聞くのは恐ろしいな。どうせネギ先生の夢なんだろうが…………。
「というか、何で私までここにいるんだよ?
ネギ先生攻略会議なら当事者だけでやれよ」
「その通りだな。刹那が無理矢理連れてくるから何かと思えば、ネギ先生についての話し合いとは…………」
「…………2人とも、大人のネギ君見て顔赤くなってたくせに何言うてんの?」
「「…………う」」
…………いや、いつものネギ先生とのギャップが凄かったものだからな。
思わず見惚れてしまったことは否定しないが、別に私はネギ先生を男として見ているわけじゃないぞ。長谷川だってそう…………おや? 顔を見る限り、満更でもなさそうだな。
ネギ先生はモテるなぁ。
改めて言うが私は違うぞ。
「とりあえず、さすがにこれ以上増えたらマズイと思うのよ」
「ネギ先生と特別な関係になるには、まず魔法関係者である必要がありますからね。
私達が魔法バレしない限り、おそらくもう増えるということはないでしょう」
「ということで、魔法バレしてネギ君に近づく女の子を増やしたキッカケを作った人はバツゲームやな」
「バツゲーム? …………木乃香さん、もしかしてエヴァさんが以前言っていた“マジで学園長に惚れさせる”って奴ですか?」
「あ、悪夢が…………あの日の悪夢が。いくら中身はさよちゃんだったとはいえ、ネギ先生じゃなくて学園長を好きになるなんて…………」
「…………あれは勘弁して欲しいアル」
「うわぁ…………思い出しちまうから、あのことについて話すのはやめようぜ。
アレのおかげで余計に魔法に関わりたくなくなったんだよなぁ…………」
「ニンニン! 心頭滅却すれば、あのようなことでも平気に…………ならんでござるな」
ハハハ それは大変だったな。
刹那が以前言ってたやつか。惚れ薬を使って魔法の怖さを体験させるという悪夢の一時。
…………私がそんなことになったら自害するな。
「…………ハルナには絶対秘密にしておかないといきませんね」
「だね。秘密にするのは悪いけど、いくらなんでもあの悪夢をもう一度体験するのはイヤだよ。
しかも今度は実際になんでしょう」
「つまり、同盟はこれ以上の新規参入を防ぐのを第一とするのだな?
(…………もしかして、私もバツゲームアリなのか?)」
「そうよ、エヴァちゃん。後は、お互いのことを否定しないこと、ネギが誰か1人を選んだらスッパリ諦めること、みたいなルールを決めておきましょう。それと“誰が選ばれるにしても、その女の子が困難な状況に陥った場合には、全員がその女の子を助ける”というのも入れましょうか。
他にも抜け駆けはナシとか襲うのはナシとか襲われるのはアリとか…………」
「おい、“イリアス”混じってねーか?」
ネギ先生がヘレネー?
ヘラクレスとかソッチ系だろ、常識的に考えて。
………………10歳の子供をヘラクレスと形容するのもオカシイな。
ネギ先生と関わるようになってから、私の常識がドンドン崩れていく気がする。
「ちなみに同盟の中での同盟もアリ。ウチとせっちゃんみたいにな」
「私とユエもですー」
「わ、私は…………そのですね…………」
「個人的葛藤は後で1人でね。
今、京都の件のことで魔法先生達が会議をしてるんだけど、ネギが言うにはおそらくネギが正式に魔法先生になって、木乃香と刹那さんがネギ担当の魔法生徒になるんだって。
私とか本屋ちゃん達、それに古菲達には、魔法生徒となってネギと一緒にいるか、“ょぅι゛ょ誘拐犯”と関わるのが嫌ならネギから離れるかを選んでもらうんだって」
「その理由は?」
「ネギ先生は木乃香お嬢様の護衛兼魔法の先生となられます。治癒魔法ならやはりネギ先生ですからね。
京都では“ょぅι゛ょ誘拐犯”を退けることが出来ましたが、もしかしたら木乃香お嬢様を狙って麻帆良までやってくるかもしれません。それにネギ先生御自身が狙われる可能性が高いです。
それに警戒するために、このような処置をとることになりました」
「ネギ君、女子寮の警備を自由にしていいって言われたみたいでな。「やっべ。僕、何だかワクワクしてきましたよ」って言ってたで」
おい、ソレ大丈夫か?
ネギ先生のことだから、うちの女子寮を要塞にしそうだぞ。
「そんでなぁ…………ウチらネギ君の“魔法使いの従者”にしてもらおうと思ってるんよ。もちろん一緒に告白もする」
「ウ、ウチらってことは…………や、やっぱり私もですよね、木乃香お嬢様?」
「もうすぐ、京都に一緒にいったのを集めて今後のことについての話があるみたいなのよ。そのときにね。
でも、ネギのことだからいきなり女の子達に告白された上で、その中の誰か1人を選ぶなんてことは出来ないと思うけどね」
「そりゃそうだろうな。ネギ先生は10歳なんだし」
「うん。だからそのときは“お友達から始めましょう”で終わらせるつもり。
私達がネギのことが好きということを伝えたら、ネギだってこれ以上女の子に期待させるような行動は意識してしなくなるでしょ。少なくとも私達に返事をするまでは。
後は正々堂々、皆で女の勝負」
「千雨ちゃん達はまだ参加しないみたいやけど、もし参加するならルールは守ってな。
参加しないなら、まあ…………立会人ということで」
「へいへい、参加する気はないけど立会人なら構わないよ。いきなり何人もの女の子に告白されるネギ先生も心配だしな。
…………それにしてもネギ先生と離れるかどうか決めなきゃいけないのか。でも、ネギ先生から離れただけで安全になるのか?
魔法を習う気にはなれないが、“ょぅι゛ょ誘拐犯”とやらが気になるんだよなぁ…………」
面倒見のいいことで。
長谷川も変わったものだ。ネギ先生が来るまではクラスに関わらないようにしていたのにな。
私も参加するつもりなんてないよ。見ていて面白そうだから、立会人という名の傍観者ではいさせてもらうがな。
それに勉強会は続けていきたいし、学園祭のためにネギ先生の手札を少しでも見させてもらおうか。
…………フフフ、今度のテストでは負けんぞ、刹那。
「古菲達も、告白するのか“魔法使いの従者”になるか。そもそもネギ先生から離れるかを今のうちに決めておいた方がいい。言っておくが、ネギ先生から離れるなら別荘での修行には参加出来なくなるからな。
いきなりで悪いとは思うが、“ょぅι゛ょ誘拐犯”の脅威がある以上、既に遊びの範囲を超えてしまったことは覚えておいてくれ。こちら側に来るなら、覚悟を決めてから来てくれ」
「了解でござるよ」
「それは問題ないアルが…………告白、“魔法使いの従者”。
ど、どうしよう。ネギ坊主のことは嫌いじゃないアルけど」
「別に私達と一緒に告白しなくてもいいわよ。
“魔法使いの従者”だけでもいいし、それかネギ担当の魔法生徒になるだけでもいいんだし」
「ネギ先生に特に好きな人がいない場合、ネギ先生だったら全員断るか全員受け入れるかのどっちかになりそうだな。
でもお前らが断られても納得するわけないし、だったらお前ら全員と付き合うことになりそうだ。
…………あの年でハーレムを築くことになるのかぁ」
「そ、それはあくまで千雨さんの予想なのではないですか?」
「えー、ネギ君やったらそうなりそうやけどね。
それでもええんとちゃう? 少なくともネギ君がウチら全員を受け入れることになってもウチはそれでええで」
「ま、ネギの考え次第でしょ。
とはいえ、ハーレムとまではいかなくても、私達全員がお友達から始めることになるとは思うけどね」
やれやれ、ネギ先生も大変だ。
まさか10歳の身空で人生の一大事になるとはな。
ま、複数の女の子から言い寄られるなんて、男冥利に尽きるだろう。
ありがたく受け取っておくんだな、ネギ先生。
「…………それにしても、よくエヴァンジェリンが同盟に参加する気になったんだな?」
「何、お前ら人間の寿命はたかだか100年。しかし私はいつまでも不老でいられる。
どーせネギのことだから、そのうちひょっこりと「いやぁ、何か不老になっちゃいましたよ」なんて言ってくるに決まってるさ。
それならばお前らの力を借りてネギをマトモな人間に育て上げ、100年後からは私がネギを独り占めさせてもらうことにするよ」
「…………そう、なのか……」
…………どうしよう。
エヴァンジェリンの言ってることは明らかにおかしすぎるのに、少し納得してしまった私がいる。確かにネギ先生だったら、そんなこといきなり言い出しても不思議ではない気がしてしまう。
イヤ、オカシイだろ。
そういうことを言い出しそうなネギ先生もオカシイが、ソレを当然と思っているエヴァンジェリンも、あり得そうと思ってしまった私もオカシイだろ。
ネギ先生と関わるようになってから、本気で私の常識がドンドン崩れていく気がするな。
━━━━━ 後書き ━━━━━
ヘルマン卿終了のお知らせ。
飛んで火にいる夏の悪魔です。南無。
そして乙女達の告白決定。
『仮契約』もする予定です。
エヴァ達やちうたんはまだしません。特にエヴァ。
アーティファクトが決まるまで、エヴァは『仮契約』出来ないんだ。諦めてくれ。
それと茶々丸は学園祭編が終わってからですね。今回はマスターであるエヴァにならったということで。
実際は“学園結界”を落とそうとしているときに、『従者召喚』でネギに強制召喚されたらどうしようもないからですね。
ウチのネギなら絶対やります。
ちなみに嘴広鴻のジャンプで好きな3大敵キャラは“大魔王バーン”、“戸愚呂(弟)”、“フリーザ”です。
『烈破風陣拳』
『春の嵐』+『斬空掌』。
『闇の咸卦技法』の一つで、敵を切り刻む竜巻が発生する。
元ネタは幽々白書の仙水の技です。