━━━━━ 春日美空 ━━━━━
明日から新学期、3年生の開始ッスか。
ああ、この怠惰な日々ももう終わりなんスね。
…………春休みも夏休みぐらい長ければいいのに。
それにしても学期初めが近くなった分、皆さんイロイロ活動再開してるみたいッスね~。
この前なんか、いいんちょが寮で作った料理を皆で食べさせてもらったし………………アレってやっぱりネギ君に食べさせる練習台だよね?
…………まったくあのショタコンは。
美味いモン食えたからいいけどさ。
「ミソラ…………アイス溶けそう」
「お、ゴメンゴメン。ちょっと考え事してたッスよ」
今日は最後の休みの日ということで、ココネを連れてブラブラと散策中。
学校が始まると、今までみたくココネに構って上げられなくなるッスからね。
ま、学校があったらあったで教会の手伝いをしなくてよくなるのはいいんだけど、最近はシスターシャークティがやけに疲れてるらしく、私を怒ることが少なくなってきたんだよね。
ネギ君が来てからかな? 一時期はネギ君を見習えって五月蝿かったんだけど、最近はそうでもないんだよ。
「美空もネギ先生を見習って…………イヤ、あそこまで到達されると逆に…………。
ああ、主よ。どうやって幼子を導けばいいのでしょう?」
とか、よく1人で祈ってるし。何かあったのかな?
それにしてもネギ君は凄いッスね~。
何でも聞いた話によると春休みに京都に旅行に行ったとき、関西呪術協会が壊滅するのを阻止したらしいじゃん。やっぱ天才ってのは違うんスね。
…………何故かシスターシャークティは後始末に追われて凄く大変だったみたいだけど。
しかもその京都旅行が原因で、アスナや木乃香、ゆえ吉や本屋までコッチ側関係者になるらしいじゃないッスか。何でもテロリストに狙われる可能性があるから、ネギ先生が主になって護衛チームを作るとか。
10歳でそんな大それた仕事を任されるなんて…………。
っていうか、ウチのクラス関係者ばっかりになったんじゃない?
私は平和に過ごしたいんで出来れば関わりあいたくないッスね~。テロリストに狙われるなんて真っ平ゴメンだよ。
普通に平和に。それが学生ってもんでしょ。
「さて、次はどうしようか、ココネ?」
「ミソラ…………アレ、ミソラのクラスの人達じゃナイ?」
ん? …………あー、本当だ。アスナ達じゃん。何やってんだろ?
私らみたく、休み最終日なんだから遊びに来たのかな。
それにしてもアスナも本当に変わったよねぇ。高畑先生LOVEがネギ君LOVEに変わってきてるし、何より期末テストで私より順位が上だったんだもん。
私はガリ勉ってわけじゃないけどシスターシャークティの小言を避けるために、平均点は取るように頑張って300位台はキープしてたけど、まさかあのアスナが200位台に入るなんて…………。
他のバカレンジャーもまき絵以外は私と同じくらいの点数だったし、ネギ君が来てから皆の成績が本当に上がったよねぇ。
………………こりゃ高畑先生が担任クビになるわけだ。
高畑先生が担任クビになることは、シスターシャークティから新学期始まるまでは口外するなって言われてるけどさ。
「お~い! 皆して何やってんの?」
アスナ、木乃香、桜咲さん、本屋にゆえ吉、くーちゃんに楓さん。それに茶々丸さんもいるね。何か茶々丸さんは頭に茶々丸さんに似てる人形乗せてるけど。
………………あと何か二十歳ぐらいのカッコイー兄ちゃんがいるんだけど、この人誰?
「…………あ、春日さんにココネ・ファティマ・ロザさんですね。
シスターシャークティからよく聞いてます」
「ネ、ネギ先生! 今のネギ先生の姿では…………って、シスターシャークティ?
ネギ先生がこういうミスするとは思えないし…………もしかして春日さんも魔法生徒なんですか?」
「えー、そうなん?」
ブフォッ!? もしかしてこのカッコイー兄ちゃんってネギ君!? しかもシスターシャークティったら私のこと話してたんスか!?
それに何でネギ君がいきなりこんなに急成長したの…………あ、そうか。幻術かぁ。
うわー、やっばいじゃん。ネギ君大人になったらこんなにカッコ良くなるのかぁ。イケメンで頭も良くて性格も良いなんて、相変わらずチートッスね。
いや、本当に焦ったわ。
よくよく見てみると、ここにいる皆は新しくネギ君担当になった魔法生徒の皆じゃん。
「…………う、うん。まあね。私の場合は親に言われてって感じで、、あまり真面目にやってるわけじゃないんだけどさ。
それより皆してどうしたの? 幻術で大人になったネギ君まで一緒に? もしかしてデートッスかぁ~?」
「ええ、そうよ。せっかくの春休み最終日なんだから、ネギと一緒にデートしようってことになったのよ」
「本当はエヴァさんがネギ先生と約束してたみたいなんだけどね」
「“抜け駆けはナシ”という同盟を組んだため、私達もデートに参加することになりました」
「デートといっても美術館デートでござるがな。ま、たまにはそういうのもいいでござる」
「私は美術館とかそういうところは初めてアル」
…………え? マジでデートなの?
確かに服装を見る限り、落ち着いた感じの服というか上品な余所行きの服って感じするけど、マジでデートなの?
それに“同盟”って何さ? 本気でこの人達ネギ君狙ってんの? いいんちょみたいなショタコンが増殖してるっ!?
いや、でもこの大人ネギ君見てたらしょうがないのか? 確かにカッコイイし。
でも中身も大人っぽいんだよね、この子。ココネと同じくらいの年とは思えないぐらい、というか私達よりむしろ年上って感じ?
「へ~、そうなんだ。でもエヴァちゃんもなの?
確かにいつも一緒にいる茶々丸さんがここにいるけど、当のエヴァちゃんがここにいないじゃん?」
「ああ、それはなー…………最初はここで待ち合わせしてたんだけど、先に来て待ってた大人ネギ君見るなり、茶々丸さん置いて急にどっか行ってもうてなぁ」
「マスターはきっと服を変えにいかれたのだと思います。
今日はネギ先生とのせっかくのデートということで、とても可愛らしい服を着ておいでだったのですが、おそらく大人のネギ先生に釣り合うような服装に変えてこられるかと」
「“闇の福音”も恋する乙女なのですねぇ。修行をつけてくれるときのエヴァンジェリンさんとは大違いなのです」
「でもあのエヴァさんも可愛かったねー。本当にお人形さんみたいでとっても似合っていたのに…………」
「この姿で来るのを予め伝えておけば良かったですね。
ちょっとビックリさせようという気持ちもあったのですが、どうも余計な気を使わせてしまったようで」
へー、あの金髪ちび無口留学生のエヴァちゃんがねぇ。
そういえば最近のエヴァちゃんは居眠りとかサボりが少なくなってたみたいだけど、そういうことなんだ。
エヴァちゃんもネギ君のこと好きなんだ。いやぁ、ネギ君はモテるねぇ、ハッハッハ!
…………あれ? でも気のせいかな?
今なんかとてつもないことが耳に入ってきたような?
「…………“闇の福音”ってナニ?」
あ、それだよ! ナイス、ココネ。
何か気になってたのは“闇の福音”って言葉だよ。
魔法界では寝ない子に「“闇の福音”がさらいにくるぞー」とか言って、ナマハゲ扱いされている伝説の有名極悪人が何で話しに出てくるの?
確かにエヴァちゃんとは同姓同名だけど、そんなんが同級生にいるわけねぇーッスからね。
「あれ? 春日殿達は魔法生徒なのに知らないんでござるか?」
「そういえばまだお2人とも、魔法生徒としてはあまり本格的に活動されていないのでしたよね。だったら知らなくても仕方がないですかね?
クラスメイトのエヴァさんは“闇の福音”その人ですよ。
…………あ、でも教えてよかったのかな? シスターシャークティはエヴァさんのことを知ってるはずだから、何らかの理由があって教えてなかったのかも」
ンブオフォッッッ!?!?
えっ? ちょっ? 何スかソレっ!? 伝説の有名極悪人がマジで同級生!?
シスターシャークティも知ってたんなら教えてよっ!!!
…………あ、繋いでるココネの手が震えてる!? 魔法世界育ちのココネにはショッキングすぎるッスか!?
「あ、エヴァさん」
ウヒィイイイッ!? ナマハゲが来たぁーーーっ!? ネギ君も何普通に呼びかけてんスか!?
何かいつものちびっこいエヴァちゃんじゃなくて、モデルかと勘違いしてしまいそうなおねーさんが来たッスけど、エヴァちゃんが大きくなったらまさしくああなりそう!
エヴァちゃんはプライベートではゴスロリみたいな可愛い服を着てるみたいだけど、このおねーさんはシックで落ち着いた感じの大人の服をお召しになってるッスね!
「ま……待たせたな、ネギ。それではデートを始めようか」
「はい、エヴァさん。…………うん、先ほどの可愛らしい服も似合ってますけど、大人の姿のエヴァさんにはそういう服の方が似合ってますね」
「そ、そうか!? …………ならいい。それなら行くとし「ナマハゲェーーーッ!?」な、何だいきなりっ!?
麻帆良祭の時期でもあるまいし、どこかに仮装した連中でもいるのか!?」
ナマハゲはアンタッスよ! アンタ!
ええいっ、こんなところにいれるか! 私達は逃げさせてもらうッスよ! ココネ、掴まって!
うりゃっ! かそくそーーーちっ!!!
━━━━━ 絡繰茶々丸 ━━━━━
「…………何だったんだ? アレは同じクラスの春日美空だよな?」
「さあ? 盗んだバイクならぬ、発現させたアーティファクトで走り出したいお年頃なのでは?」
おそらくマスターが“闇の福音”であることに驚いて逃げられたのだと思いますが…………言わぬが花ですね。
それとネギ先生、おそらく他の方はそのネタはわからないと思います。年齢的に考えて。
私はデータとして古今東西の曲をダウンロード出来るので知っていますが。
「いつもと服の感じが違うですね、エヴァンジェリンさん」
「うん? まあ、せっかくネギが大人の姿で来たのだから、私もそれに合わせた服装をと思ってな。
スマンな。着替えのせいで待ち合わせの時刻に遅れたようだ」
「あー、ええなぁ、エヴァちゃん」
「そういう大人っぽいカッコもしてみたいねー」
最近、マスターの服の趣味が変わってきました。
子供のとき、本来の姿の場合は相変わらずにゴスロリといいますか、外見年齢相応にとても似合った可愛らしい服装を好まれます。
しかし、幻術で大人の姿になったときの服装が違うのです。今までの大人の姿の場合、どちらかというと露出が多いといいますか、“妖艶”と形容されるような服を好まれていました。
ところが最近は落ち着いた感じの服装をお召しになられています。
ネギ先生はどうも露出が多い服は好まれず…………というより、「人前でそんな格好したら駄目」とよくマスターに言っておられました。
別荘内などの他人が入り込まない空間ですと構わないらしいのですが、露出が多い服で外に出ようとすると難色を示します。
…………マスターは「ネギがデレてきた」と言ってお喜びでしたが。
思えばクラスの皆さんのスカート丈も長くなってきてるようですね。常日頃からネギ先生が露出が多いのは苦手と言っているせいでしょうか?
「それなら皆さんも大人の服を着てみます? これから美術館に行く予定ですがそれ以外の予定はありません。まずショッピングしてから大人の姿で美術館に行きましょうか?
服を選ぶなんてデートらしくていいですし、皆さんもこれから年齢詐称薬を使って大人の姿になるときがあるかもしれません。それなら前もって用意しておいた方がいいかもしれませんからね。
僕も皆さんの大人の姿を見てみたいと思いますし」
「…………拙者は?」
「…………大人用の服装だけじゃなくて、子供用の服も準備しておきましょう。ウン。
年齢詐称薬を使えば子供にもなれますから」
「それはいいけど…………私はそこまで持ち合わせがないアル」
「そのぐらいなら僕が出しますよ。そもそも僕から誘ったデートなんですしね。
先日、詠春さんから石化治療弾の代金を頂きましたので懐が暖かいんです」
「え? そんなの悪いですよ、ネギ先生…………」
「…………あ、でも確か5発入りカートリッジを10個ほど、50人ぐらいに石化治療弾を使いましたね。
エヴァンジェリンさん、石化治療薬っていくらぐらいするんですか?」
「ん? そりゃあ…………中学生のお前らがそう簡単に出せる金額じゃないのは確かだな」
「別に僕から請求したわけじゃないんですけどね。フェイトに直接石にされた詠春さん達ならともかく、煙で石になったぐらいなら関西呪術教会にも治すことが出来る人はいたでしょうし。
ま、関西呪術教会にも面子があるということでしょう」
日常に使うような解毒薬ではなく、石化治療という特殊な分類となるとその分割高になります。
魔法世界最高級の魔法薬“イクシール”が魔法世界通貨単位で100万ドラクマ。イクシールのように万能薬ではないので安くなるでしょうが、それでも魔法世界で売ったら最低1万ドラクマはするでしょう。
魔法薬自体の物価やそもそもの経済が大きく違うので一概に換算出来ませんが、おそらく日本円では最低でも1発10万円以上…………100万円には届かないでしょうか?
それが50個分となると結構な金額となりますね。
原価がタダであるのなら尚更です。
使うのはネギ先生の魔力ぐらいですからね。
「僕が壊した父の家の修理代金で結構使いましたけどね。…………天体望遠鏡は高かったです。あれが若さゆえの過ちという奴ですか。個人で持つには大きな天体望遠鏡なんですよねぇ、アレ。
それでも皆さんに服を買うぐらいは余裕で残っていますので気になされなくて結構ですよ。石化治療にはアスナさん達にも手伝ってもらいましたからそのお礼ということで」
「調子に乗って羽根なんか生やすからアルよ」
「ネギ先生、千雨さんや龍宮さんはいいのですか?」
「龍宮さんはいいでしょう。あの人はちゃんと学園長から報酬を貰っていましたから。
長谷川さんは…………また今度の機会に何かプレゼントしますよ。長谷川さんの趣味的に考えて、年齢詐称薬でもプレゼントしましょうかね」
「ふーん、そういうことなら買ってもらおうかな。
ところで千雨ちゃんの趣味っていったい何な「スイマセン、聞き逃してください。そういえば口止めされてました」…………そうなの?」
「え、えと…………本当に買ってもらっていいんでしょうか?」
「こういうときは遠慮する方がネギ君に対して悪いで、せっちゃん」
「そ、それなら後で買ってもらった服でファッションショーをするというのはどうでしょうか。
観客はネギ先生1人で…………」
「のどか…………立派になったですね。
なら2人でお揃いの服でも選ぶです。…………ゴスロリでもチャレンジしてみましょうか?」
「ハハハ、ありがとうございます。エヴァさんも欲しいのがあったら言ってくださいね。
茶々丸さんもせっかくのデートなんですし、たまには制服やメイド服だけじゃなくて違う服も試してみたらどうです?」
「っ!? 私もですか!?」
し、しかしネギ先生。私はマスターの従者です。従者たる私が着飾る必要はあまりないと思います。
私は皆さんのように綺麗ではありませんし、間接部分が目立つガイノイドですから、皆さんが着るような服は似合わないかと。
そ、それに後でネギ先生にファッションショーして見せるなんてハズカシイことは………………マスター? 何故ニヤニヤと笑われておいでなのですか?
え? あっ!? ちょ…………ちょっと待って!?
待ってください、マスター! 引き摺らないで! 木乃香さん達も一緒になって引き摺らないでください! 笑って見てないで助けてください、ネギ先生!
歩きます! せめて自分の足で歩きますから!
「何、茶々丸にはこれからもずっと私とネギの面倒を見て貰わねばならんからな。たまにはこんなのもいいだろう。
それに100年後には独り占め出来るとはいえ、それまでアスナ達に獲られてていいというわけではない。刹那と木乃香、のどかと夕映が同盟をそれぞれ結ぶらしいから、茶々丸は私と同盟を結べ。
ネギはお前のことを気に入っているからな」
ソレどういう意味ですか、マスターっ!?
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見られてます。皆さんから見られています。
皆さんはやはり綺麗です。元から可愛いらしい方達でしたが、今の皆さんはいつもの学生服や中学生らしい服装ではなく、まるで那波さんや龍宮さんのような服装です。
………………もしかして表現が変でしょうか?
それと長瀬さんは5~6歳ぐらいの子供の姿です。
「う……うううぅぅ…………?」
「可愛ええよー、茶々丸さん」
「フム、今まで茶々丸を着飾らせることはなかったが、これは勿体無かったな。
それと超や葉加瀬に茶々丸のニューボディー開発を急がせるか。戦闘データが足りないということで開発が滞っていると言っていたが、茶々丸も刹那達の修行に参加させれば問題あるまい」
「おー、“超包子”でのウエイトレスでチャイナ服は見たことあるけど、こういう茶々丸も新鮮アルね」
そ、そんなにジロジロと見ないでください。私がこんな服装をしても…………。
いくら長袖とはいえ、薄手の生地ですので間接部分がこんなに目立っていますし。
ううぅ……そんなに皆さんに見つめられると…………特にネギ先生に見つめられると何か奇妙な感覚です。
胸の主機関部辺りがドキドキして、顔が熱いような…………。
先ほど“ハズカシイ”と思わず言いましたが、確かにこの感覚は“ハズカシイ”というのが妥当かと…………。
「あー、茶々丸が可愛い服を着てるぞーーー」
「茶々丸のくせにーーーっ」
「お姉ちゃんキレーーー」
子供達までっ!?
…………え? 本当に何故ここに子供達がいるのですか!?
「拙者が子供服を選んでたときに知り合ったでござるよ。
いや~、こんな子供の姿になるなんて新鮮でござる。目線も低くなったせいか、見えている世界が全然違うでござるなぁ」
「空飛んでよー、茶々丸ー」
「乗せてよー」
「はいはい、他の人達の迷惑になるからまた今度ね。君達は他のところで遊んできなさい。
…………いや、でも本当に可愛いですよ、茶々丸さん。僕としては間接部分とかは別に気になりませんけど、もし茶々丸さんがそんなに気にされるのなら、幻術で人間の身体のようにしましょうか?」
「え? そそそそそ、それはありがとうございます。
…………ネギ先生が気になさらないというのなら……別にいいです。それに以前頂いた髪留めがありますから…………」
「よし、それでは美術館に…………行く前に昼食をとるか。
もう2時になるのか。興が乗ってスッカリ遅くなってしまったな。まぁ、昼食をとるなら逆に店が混んでなくていいかもしれんな」
「そうですね。
ああ、店員さん。今皆さんが着ている以外の買った服は、この住所に送ってください」
「かしこまりました。
是非ともまたお越しくださいませ~」
上機嫌な店員に見送られて店を出ます。9人分の数着分の服となると結構な金額となりますので、店としては大変な上客だったのでしょう。
さすがにあの量の服を女子寮に持ち込むわけにはいきませんし、そもそも普段の皆さんのサイズとは明らかに違う服ですので、クラスの他の人に見られたら不審に思われてしまいます。
…………特に早乙女さんと同室の宮崎さんと綾瀬さんが。
そのため一度マスターの家に送っていただき、そのまま別荘に保管するとのことです。
うううぅぅ…………ほ、本当にファッションショーをしなければいけないのでしょうか?
今着ている服以外にも数着買っていただきましたが、それらを着てネギ先生のためにファッションショーを。
…………皆さんは乗り気のようですし。
そういえば店員のネギ先生を凄い人を見るような目で見てましたが、9…………7人もの妙齢の女性(長瀬さんは子供姿でした)を連れているネギ先生はやはりそういう風に見られてしまうのでしょうか?
ネギ先生は全然気になされていないようですが、それは子供だから気になされていないのでしょうか? それともわかってて気になされていないのでしょうか?
うう…………それにこの服装で本当に外を出歩かなければいけないのでしょうか?
そもそも私のようなロボットの身体を見て、ネギ先生は本当に可愛いと思ってくださっているのでしょうか?
駄目です。
どんどん疑問が溢れてきて、思考にエラーが発生しそうです。グルグルと堂々巡り。空回り。袋小路。
いや、それ以前に何故ガイノイドの私が、こういうことに疑問をを抱いているのでしょうか?
根本的な考えについての疑問。疑問を抱くということに対しての疑問。こんなことは今まで考えたこともなかったのに。
私の目の前には、腕を組んで歩くマスターとネギ先生がいます。
本来、今日のデートはネギ先生とマスターお2人のデートのはずでしたので、さすがに他の皆さんも今日はマスターを尊重されて、邪魔をする様子はありません。
というより、もう完璧に“盟友”として認識されているのでしょうか。特に最近のアスナさんは随分と穏やかな性格になられた感じがします。
…………京都旅行で本当に何があったのでしょう?
嬉しそうなマスター。幸せそうなマスター。
私がマスターの従者になってもうすぐ2年になります。最初のマスターは不機嫌なときが多く、私はただ側で控えているぐらいしか…………身の回りのお世話をすることぐらいしか出来ませんでした。
しかし、ネギ先生が麻帆良に来られてから、マスターは嬉しそうに、幸せそうに笑われることが多くなりました。…………たまに頭を抱えているときもありましたが。
それでもネギ先生がマスターを変えた。私には出来なかったのに…………。
幸せそうに、恋人のように腕を組んで歩くマスターとネギ先生。
そしてその周りには、ネギ先生と『仮契約』して“魔法使いの従者”となった皆さんがいます。
昔の意味での“戦友”はなく、現代の変わってしまった意味での“恋人”となった皆さん。
普通に考えるなら、ネギ先生を欲しがっているマスターと対立してネギ先生を奪い合いそうなのですが、むしろ皆さんとマスターの仲は良好です。
先日も別荘にて“ドキッ☆ 女だらけのネギ先生への愚痴大会”を開いて親睦を深めていらっしゃいました。…………そういえば中学生が飲酒をしても良かったのでしょうか?
今まで友人らしい友人もいなかったマスターも皆さん相手になら愚痴を言えるらしく、皆さんと一緒に楽しげな一時を過ごされたようです。
…………私だけが、皆さんとは違う。
私には出来ませんでした。
マスターを変えることも、マスターを嬉しそうにすることも、マスターを幸せそうにすることも、マスターと一緒に楽しむことも。
でも、そんなことは従者たる私には過ぎたこと。
そもそも私のようなニンゲンじゃないガイノイドでは、マスターを変えることなんか出来なかったでしょう。それ以前にそんなことは思いつきもしませんでした。
それでも…………何だか主機関部が痛いです。
それでも私がガイノイドじゃなかったら、私がロボットじゃなかったら、もしも私がニンゲンだったら出来たのでしょうか?
マスターを変えることも、マスターを嬉しそうにすることも、マスターを幸せそうにすることも、マスターと一緒に楽しむことも、ネギ先生と『仮契約』することも、ネギ先生の“魔法使いの従者”になることも。
……………………スイマセン。後半間違えました。
やはり思考にエラーが混じっているようです。
落ち着きましょう。デフラグを、エラーチェックをしましょう。
何か記憶ドライブから映像を再生して落ち着きましょう。猫さん達に餌をあげているところとか、困っていたおばあさんのお手伝いをしたところとか、ネギ先生に紅茶を喜んでいただいたところとか…………じゃなくて。
イヤ、違うんです。これは違うんです。
ネギ先生と『仮契約』したいとは思っていません。ネギ先生の“魔法使いの従者”になりたいとは思っていません。私はマスターの従者です。
…………でも、もしマスターとネギ先生が一緒になられたら、それはネギ先生も私の主人になるということでは?
私とマスターはドール契約にて主従の契りを交わしていますが、それならネギ先生とは『仮契約』しても問題ないのでは?
いえ、違います。そもそも『仮契約』をする方向で考えが進んでいるのがおかしいです。
だいたい私はガイノイド。動力は魔力、身体自体は科学の産物の魂を持っていないただの機械人形。だから私は皆さんみたくなりたくても、『仮契約』なんて出来るわけありません。
…………それも違います。ネギ先生と『仮契約』したいとは思っていません。ネギ先生の“魔法使いの従者”になりたいとは思っていません。違いますちがいますチガイマス。
チガ…………違うンデす。チガチガガガガガ「茶々丸さん!?」∬㌍з‰ёゞ㍍★Щーーーーーッ!
「大丈夫ですか、茶々丸さん?」
「どうした? 道の真ん中でボォーッと突っ立ったままで?
早くついて来ないと置いていくぞ」
「…………何でもありません。申しわけありませんでした。少し考えことを…………」
…………危なかったです。
今のは本気で危なかった。思考回路に負荷がかかり過ぎました。ネギ先生に話しかけられていなければ、本気で暴走をしていたでしょう。
考えるのは止しましょう。せっかく皆さんとのデートなのですか「じゃ、行きましょうか」Ю▼£㌦И㊥㌫Дーーーーーッッッ!!!
ネ、ネギ先生!? いきなり私の手を握るなんて…………!?
「皆さん待ってますよ。行きましょう、茶々丸さん」
「そうだな。いい加減私も腹が減った」
え? え? えええぇぇっ!?
いいのですか? このままでいいんですか? ネギ先生は左腕でマスターと腕を組んで、右手で私と手を繋いで歩くなんて状態でいいんですか?
あっ……引っ張られる。ネギ先生と繋いだ手を引っ張られて、ネギ先生とマスターと一緒に並んで歩く。
…………いいんですか? 一緒に並んで歩いてもいいんですか?
チャリ
ポケットから音が鳴る。
京都旅行の際にネギ先生から頂いた髪留め。
戦闘のときは壊れてしまうかもしれないから外して、麻帆良に帰ってきてからは私のガイノイドの身体を見ても不思議に思う人はいないので、あれ以来なかなかつける機会がありません。
それでも家に置いておく事なんて出来ず、使いもしないのに何故かいつも持ち歩いてしまっているネギ先生からのプレゼント。
…………わたしのたからもの…………。
繋いだ手から、ネギ先生の温もりが感じられます。
あくまで私の手のセンサーが認識したことを私も認識しているだけですが、それでもこの温もりは他の温かさとは違う気がします。
それこそずっと手を繋いでこの温もりを感じていたいぐらいに。
…………お願いです、ネギ先生。ワガママは言いません。ネギ先生のお役にも立ちます。
ヒトの心がよく理解することが出来ない機械人形ですけど。『仮契約』することも出来ない魂のない機械人形ですけど…………。
今だけは手を繋いでいてください。
━━━━━ 後書き ━━━━━
そしてエヴァとのデートのはずが茶々丸の回でした。
だってエヴァ主体のデートだったら、最後にホテルに連れ込むことしか思いつかないんですもん。