━━━━━ ヴィルヘルム・ヨーゼフ・フォン・ヘルマン ━━━━━
「…………やはり静か過ぎマス」
「いくら何でもオカシイゼ」
「はい、いくら雨が降っているとはいえ、ここまで人がいないノハ…………」
わかっているよ。どうやら既に気づかれていたようだな。クライアントに今まで調べた調査結果を送ろうとしても、どうやら念話妨害などがされているようで送ることが出来ない。
いったい何時から気づかれていた? 参ったね。クライアントから貰った呪符が役に立たなかったということかね?
それに何故私達を放っておくんだ? …………いや、ここまで人がいないということは、一般人を避難させるために様子を見ていたのかな?
「どうすんダヨ、ヘルマンの旦那?」
「どうもこうもないよ。ここからでは調査結果も送れないから、最低でも一度は学園の外に出なければならないようだ。
もちろんアチラが素直に出してくれたらの話だがね」
…………多分、無理だろう。
私達が侵入して数時間。一般人の避難はとっくに終わっているだろうから、いつでもコチラを襲える状況のはずだ。
学園の外に出ようとしたならばあっという間に襲われる。もしかしたら学園の外に出るまでの道にトラップでも仕掛けられているかもしれないな。そのために私達を放っておいたのかもしれんよ。
さて、どうするか? 素直にクライアントの命令に従うか? それともせっかくの現世なので楽しませてもらうか?
いやぁ、私もクライアントとの契約を果たせないのかもしれないのは残念だけどね。ここまでは表向き順調だが、いくら何でも明らかに順調すぎる。どう考えても絶対気づかれているよ、コレ。
ここまで詰んでそうだったら、自分の楽しみを優先させてもいいんじゃないかね?
それにさっき送ろうとした調査結果は完全じゃない。6つ魔力溜まりのうち1つがまだ未調査のままだ。今向かっている世界樹前広場のことだが。
クライアントとの契約では、
『学園の調査を終わらせて報告して“から”、
ネギ・スプリングフィールドが今後どの程度の脅威となるかの調査にかかれ』
ということだから、調査が終わっていない今なら別に報告の義務があるわけじゃないしね。
しかし本当にどうするか?
まずは世界樹前広場に行ってみるかな。調査が終わってないのは事実だし、トラップがあるかもしれない帰り道よりも世界樹前広場のような広い場所の方が私としては戦いやすい。戦闘のことを考えるなら世界樹前広場だな。
いくら何でも外に出ようとしたらトラップにかかってバッドエンドでした、というのは避けたい。
せっかくの現世なんだからね。どうせなら力一杯戦ってみたいじゃないか。
それにネギ・スプリングフィールドという少年にも興味がある。
私は才能がある少年が好きだ。あの“千の呪文の男”の息子というのならネギ君も期待が持てるだろう。
“千の呪文の男”…………か。前回の召喚は酷かった。
せっかく召喚されて、早速どこぞの村を襲おうとしたのにアクシデントがあったらしく、召喚主が
「え、ちょっと待って? 何で目標が村にいないの?
…………ハア!? 先日メルディアナ魔法学校に見学に行ってそのまま入学した!? まだ3歳のはずじゃなかったか!? 何をどうしたらそうなるんだ!?」
と混乱していたよ。ちなみに彼の言葉はコレが最後だった。その後にいきなり魔法をブチ込まれていたからね。
そして襲ってきたのが“千の呪文の男”だった。おそらく息子の危機を知り、急いで駆けつけてきたのだろう。
私はそのまま一緒に召喚された他の者達と共に“千の呪文の男”に戦いを挑んだが、アッサリと返り討ちにされてしまったよ。
そんな“千の呪文の男”の息子だ。期待を持つなと言われる方が酷じゃないかね?
どうせならトラップにかかって還るよりも、戦って還りたいものだね。6年前の戦いのせいで今までずっと休眠をせざるえなかったが、ようやく現世に戻ってこれたのだから…………。
「決めたよ、調査を続けるとしよう。どちらにしろ選択肢は他にない。逃げ帰るなんて出来るわけないんだからね。
最後の世界樹前広場だ。急ぐとしようじゃないか」
「確かにそうデスネー」
「せっかくのシャバなの二ー」
さてさて、ネギ君はどれほど出来るのかね?
クライアントからは“強い”としか聞いていないがとても楽しみだよ。
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フム、世界樹前広場にも誰もいないな。てっきり待ち構えているかとも思っていたのに。
一応契約は契約なのだし調査はしようとは思うのだが…………しかし、空気が違う。視線も感じる。
ここで仕掛けてくるのは間違いないな。
やれやれ、直径3kmの円状にある魔力溜まりをグルッと回るのも面倒臭いものだよ。
休憩がてら、ここで待ち受けるとしようか。
「調査は…………どうすんダ?」
「する必要ないと思いますケドネー」
「規模の大きさはあれど、基本的は普通の魔力溜まりデス」
「やはり麻帆良の特異点はあの世界樹か。
まあ、見ればわかるがね」
調査と言われてもあまりすることはなかったね。バレないように移動する方が面倒だったよ。
結局はバレてはいるだろうがこれで調査も終わりだ。となるからには麻帆良の外に一度出てクライアントに報告するんだが…………どうやら来たようだな。
「…………旦那、結界ダ」
「ああ、君達も気をつけたまえ」
世界樹前広場全体が結界で覆われた。特に私達の身体に弱体化などの影響はないが、おそらく結界から出ることは出来ないだろう。
念話妨害も酷くなった。隣にいるはずのあめ子達にすら念話を送ることが出来ない。
あとは…………雨がやんだ? いや、結界の外の遠くを見たら雨が降っていることは確認出来る。となるとこの結界内だけか。何故そんなことを?
…………もしかしてこちらにスライムであるあめ子達がいることがわかっているのか?
スライムは水系の魔物なだけあって、水があるところのほうが有利だ。こちらのアドヴァンテージを塞ぐつもりか…………。
そう思った瞬間、私達の後ろから悪寒が襲った。
回り込まれたか!? と、思ったが違う。
何故なら私達の正面から光が走ってきて、その光が通り過ぎたと思ったら私の左腕が消し飛んでいたからだ。
「ぐおっっっ!?!?」
「旦那っ!?」
「速いデスっ!?」
「向こうから雷が発生してマシタ!
それがソッチから来た光と合流したデスヨ!」
…………危なかった。後ろからの悪寒おかげで、咄嗟に身を捻ったのが良かった。
身を捻らなかったとしたら、今の正面から来た光は私の左腕ではなく私の胴体を消し飛ばしていただろう。
しかし、今の光は…………ん? 消し飛んだ左腕の断面が焼け焦げている。背後から来たというのは雷らしいから、あの光は同じ雷なのか?
となると背後からの雷は先行放電?
「くっ! 全員動けっ!
止まっているとタダの的だ!」
「雷なんか避けれないデスヨー」
「やつの攻撃の前に先行放電が発生する。
それを感じ取って何とか避けろっ!」
さっき攻撃を避けた後に一瞬だけ見えた。
雷がそのまま地面にぶつからず着地してから、また再びとてつもないスピードで建物の裏に入って身を隠したのを。そしてその着地した雷は人間の子供の姿をしていた。
おそらく彼が“ネギ・スプリングフィールド”だろう。自らの身体を雷化したとでもいうのか?
悪魔の身という私の出身上、普通の人間よりも炎の精霊やら雷の精霊などの人外との面識の方があるが、まさかネギ君がそんなこと出来るとは思わなかったな。
随分と人間離れしているね、彼は。クライアントが言った通りじゃないか。
さて、どうする?
いくら先行放電が発生するといっても、発生してから攻撃するまでの時間は1秒…………いや、0.1秒にも満たない。
その間に先行放電を認識して、それに向かって飛んでくるネギ君を避ける? どんな冗談だね、これは?
「ガッ!?」
「「ぷりんっ!!!」」
ぷりんが掴まった!? いくらランダムに飛び跳ねていても雷から逃げることは出来なかったか。
ネギ君がその姿を現し、正面から左右の手の貫手でそれぞれぷりんの口と腹を突き破っている。動きを止めている今ならハッキリと見えるが、あれはまさしく雷の精霊だ。
それにしてもいくらスライムとはいえ、少女の姿相手に情け容赦無いな!?
スライムだからまだしも、生物にやったらとてつもないスプラッタな光景になるぞ!
そしてぷりんの身体がみるみると縮まっていく。体中の水分が無くなっていくようだ。
蒸発…………ではない? いったい彼は何をやっているんだ!?
「テメェッ、ぷりんを離セ!」
「させまセン!」
ぷりんを助けようとあめ子とすらむぃがネギ君に挑むが間に合わない。ぷりんはそのまま言葉を残すことも出来ずに消えていった。
それでもそのまま2人がネギ君に襲い掛かるが、ネギ君の指から火花が走ったと思ったら、爆発とともに辺り一帯が水浸しになった。
「大丈夫かっ、2人とも!?」
「クッ、ワリぃっ!」
「…………ぷりんがぁ…………」
爆発で吹っ飛ばされた2人を受け止めるが彼女達に異常はない。爆発の影響はないようだ。
それに辺り一面が水浸し? 確かに雨は降っていたので地面は濡れているが、今の爆発で明らかに地面の水の量は増えた。
…………そうか、電気分解か。
ぷりんの身体の水分を水素と酸素に分解してぷりんを消滅させ、その発生した水素と酸素を目くらましに爆発させた結果で水が発生したのか。
おそらくネギ君は雷化させたその身体を活かし、ぷりんを貫いた両手を陽極と陰極の代わりにして水を電気分解させたのだろう。
物理攻撃の効かないスライムを倒すためにこんな攻撃を…………。
「どうすんダヨ、アレ!?」
それは私が聞きたいよ、すらむぃ! 私ではあの速度は捉えきれない。
弱点があるとするならば、攻撃が始まる前の先行放電。先行放電を捉えれればカウンターを狙えるかもしれん。
しかし、あの威力ではカウンターを仕掛けても迎撃出来ないかもしれない。
危険すぎる賭けだが、考え付く手は他にない。これでいくとしよ…………う?
「…………ゲ」
「何デスカ、コレハ?」
牽制するように私達の周りを飛び回っていたネギ君から何十個もの光の球が放たれた。その光の球は中空に留まり…………えーと、何だったか?
…………ああ、そうだ。まるで人間が作ったプラズマボールのように放電している。
そしてプラズマボールとプラズマボールが放電で結び付き、結界の中をまるで立体的な蜘蛛の巣のように覆い尽くした。放電は最終的に結界で止まっているようだな。
放電は…………いや、雷の糸と言っていいだろう。
雷の糸と糸の隙間は大きく離れていても数m。プラズマボールが中継地点となって糸と糸が絡み合い、縦横無尽に糸が張り巡らされている。まるで本当に蜘蛛の巣の中に居るようだ。
そして糸が不規則に動いているので、必ず私達の身体に何本か当たっている。
おいおい、先行放電潰しか、これは?
時折、その雷の糸が太く輝くことがある。おそらくネギ君がそこを通っているのだろう。
あらかじめ雷の糸で道を作り、その道を雷の速さで立体的に移動する。これで先行放電が発生する弱点を潰された。
考えているな、少年。
私の身体に当たっている糸に警戒すればいいかとも思うが、その当たっている糸が数本もあったらどれは警戒すればいいのかね?
ネギ君は辺り一帯に張り巡らされた糸を使い、縦横無尽に駆け回る。まさしく電光石火の速さだ。いくら道筋が見えると言っても、こんなのを捉えられるわけがない…………また来たっ!?
「ガッ!?」
「旦那!? あめ子!?」
クッ、今度は右腕を持っていかれた! しかも右腕に掴まっていたあめ子ごと。
あめ子は…………駄目だ、もう気配が無い。また電気分解で水素と酸素にでも変えられてしまったか?
相手は無傷。一度も反撃をすることすら出来なかった。
私は両腕を失い、3体いたスライムはすらむぃを残すのみ。
ハハハッ、完敗だな。
私は才能がある子供が好きだ。こんなに才能溢れる子供と出合ったのは今まで長く生きてて初めてだよ。
私は没落したとはいえ爵位持ちの悪魔だが、ネギ君はまだ10歳の少年。私と彼とのこの力の差。ドチラが悪魔かわからんな。
…………って、おおっ!? 雷の糸が変化した!?
今までのようにただ道ではなくて拘束用の糸に変わったようだね。いろいろと考え付くものだ。
ただでさえ両腕を失っているのにこれでは逃げられないね。この糸の拘束も強力だ。しかも張り巡らされていた糸全てが私を拘束しようと収束してくる。
「逃げたまえ、すらむぃ!」
「ヘルマンの旦那っ!?」
私の足に掴まっていたすらむぃを蹴り飛ばす。身体が小さい彼女なら、収束してくる糸をすり抜けて逃げられるだろう。
私は例え倒されたとしても、幾ばくかの休眠を経て復活出来るかもしれない。
だが、彼女達では無理だろう。特にあそこまで跡形も無く消滅させられたぷりんとあめ子は…………彼女達には悪いことをしたね。
とりあえず、何とかして調査結果をクライアントのところに届けてくれたまえ。さすがにやられっぱなしじゃ面白くな「アアッ!!!」って、すらむぃーーーっ!?
ちょっ!? すらむぃもやられた!?
ネギ君が雷となってすらむぃに突撃したら、すらむぃが一瞬で霧のように細かくなって消し飛ばされた!? 一撃であそこまで出来るのか!?
電気分解とかする必要なかったんじゃないのかね!? 本当に情け容赦無いな、ネギ君は!!!
…………あ、駄目だね、これは。
収束して私の身体に巻きついた糸が爆発する最後の瞬間、思ったことはソレだけだった。
━━━━━ ネギ・スプリングフィールド ━━━━━
我は雷糸を巣と張る蜘蛛。
ようこそ、素晴らしきこの惨殺空間へ……。
…………。
……………………。
………………………………僕のキャラじゃないですね。僕はセリフを喋る暇があったら殴りにいくタイプですから。
…………っていうか何だか恥ずかしい! 何でこういうセリフを真面目に本気で喋れるんだ!?
そして所要時間は30秒。
ま、こんなところでしょう。いろいろと実験してみましたし。
原作で使用されていた『雷天大壮』の欠点を僕なりに改良してみたつもりですが、なかなか使えますね。
『雷天大壮』には先行放電が発生するという欠点があり、原作ではそれをヒットアンドアウェイではなくインファイトで戦うことによって補っていました。
しかしこの使い方なら攻める場所は限定されてしまいますが、原作のように攻撃箇所が1個所のみなんてことはないのでカウンターを食らう可能性は低いでしょう。
雷糸を拘束用に変えるなりすれば相手の虚を突けますし、雷糸が相手に触れるとソナーの役割も果たしてくれるので相手の居場所も把握出来ます。中継地点の糸が絡み合っているプラズマボールはちょっと魔力込めれば爆発させることなんかも出来ます。
まあ、欠点といえば雷糸を外に出さないようにするための結界を張らないといけないってことでしょうか? あとは雷糸の維持に魔力が常に必要なことですかね。
とはいえそれでも防衛戦には充分使えますし、広さにもよりますけど結界とプラズマボール用意するのに数秒ですからね。ヘタな詠唱魔法よりは早いでしょう。
「…………う、うぅ…………」
あ、ヴィルさんまだ生きてる。まぁ、建物や敷地に被害を出さないように爆発の威力を絞ったから仕方がないか。
それにしても来たのは本当にヴィルさんだったんですね。今回は別に村を襲われたりしていないのにヴィルさんが来るなんて、偶然って本当に怖いですねぇ。原作と一緒じゃないですか。
さて、それでは解剖…………じゃなくて拷問…………じゃなくて尋問をして、依頼主とかについてのことを聞き出しましょうか。
のどかさんを呼んできて“いどの絵日記”を使えば尋問をしなくて済むんで楽でいいんですけど、このスプラッタな状態のヴィルさんをのどかさんに見せるのは避けたいな。
仕方がない。僕がやるか。
「…………フ、フフフ。君がネギ・スプリングフィールドか。クライアントが言ったように恐ろしい少年だよ、君は。
さすがはあの“千の呪文の男”の息子ということかね」
「? まだ喋れるんですか? …………じゃなかった。僕の父を知ってるんですか?」
「昔ちょっとあってね。それと正直言って限界だ。もうすぐ消えるから安心していいよ」
いや、別にヴィルさんクラスなら、周りを気にしなくていいならグロス単位で襲ってこられても平気ですから別にいいですけどね。僕の一番得意なことはエヴァさんと同じく広範囲殲滅魔法ですから。
それに“昔”? 僕の知らないところで、原作の描写外で何かあったのかな?
ま、いいや。そんなことはどうでも。
前世では世話になったヴィルさんですが、アスナさん達に危害を加えそうな存在を許しておくわけにはいきません。
「…………ネギ君。君は何のために戦ってい「静かに」ゲハッ!?」
喋るな。質問するのはコッチです。
次喋ったらまた喉に踵落としますよ。グリグリとヴィルさんの喉を踏み躙りながら睨みつけます。
あ、でもその前に還っちゃわないように少しだけ治療しますか。その治療の間だけは喋っていいですよ。
「何か言いました? つか、アンタ誰ですか?」
「…………こ、これは失礼した。まだ名乗っていなかったね。…………名乗る前に終わったとも言うが。
私はヴィルヘルム・ヨーゼフ・フォン・ヘルマン伯爵。伯爵などと言ってるが没落貴族でね。今はしがない雇われの身だよ」
「ふーん、そのヴィルさんとやらが麻帆良に何の用です?
というよりさっきの質問は?」
「ヴィ、ヴィルさん? 初めての呼ばれ方だね、それは。
…………いや、特に深い意味はない。私は才能のある少年は好きでね。幼さの割に君は非常に強すぎる。そんな君が何でそこまで強くなったか、何のために戦っているか疑問に思っただけだよ」
…………え? そういえば何でだろ?
前世では死亡フラグを折るために必死に修行して、死亡フラグが折れたと思ったら駄目親父達の修行で必死になって、再転生して原作世界に来たら…………何が目的で修行したんだっけ?
別に強くなって「俺強ぇーーー!」とか「ハーレム築きてぇーーー!」とかは思っていなかったし…………というか思い浮かばなかったし。
だって生きるのに必死過ぎたから。
…………もしかして修行がライフワークになってたのではなかろうか?
身体はイギリス人でも中身は日本人だからなぁ。社畜のようにルーチンワークをするのに慣れていたのかもしれない。
「? どうしたのかね?」
「イエ、別ニ…………。
まあ、アレですよ…………趣味ですよ」
うん、そう。趣味です、趣味。
決して“習慣”とか“慣れ”とかで、修行が骨の髄まで染み込んでいるわけじゃないですよ。
それと他にあるとしたら、あの駄目親父共をボコりたい一心で修行しただけですよ。
「趣味かね?
こう…………“強くなる喜び”とか“戦うのが楽しい”とかはないかね?」
「いえ、そういうのもあります。それらを全部ひっくるめての“趣味”です。趣味は楽しむためにやるものですから。
…………ウン。趣味の結果、僕は強くなりました。まぁ、今の戦い? 駆除? …………はつまらなかったですけど」
「…………弱くてすまなかったね。
というか“駆除”って…………私はゴキブリか?」
「いや、色的に」
だって真っ黒だし。
「…………情け容赦無いな、君は」
「何で敵に対して情けかけたり容赦したりしないといけないんですか?」
「それはそうなんだが…………では何のために戦うのかね?
戦うこと自体は“趣味”ではないんだろう」
「…………まあ、わざわざ戦ったりはしません。新技試すとか実戦経験積むため以外では戦おうとは思いませんし。
“何のため”…………と言われたら、“身にかかる火の粉を振り払うため”ですかね。わざわざ僕から仕掛けたりはしませんよ。正当防衛正当防衛」
「君は“過剰防衛”という言葉を知っているかね? まぁ、今回のことでは当てはまらないだろうがな。
…………それにしても“身にかかる火の粉を振り払うため”か。本当にそうなのかね?」
「…………何でです?」
「いや、別に。私のように長く生きているとそれなりに経験を積んでいるものでね。
そうかそうか、“身にかかる火の粉を振り払うため”か。どうにも違う感じがしたんだが、どうやら私の思い違いだったようだ。
君の顔が何というか…………雛を守る親鳥のような顔をしている気がしてね」
ククッ、と笑うヴィルさん。
口では“違う”とは言ってるけど、顔がまるで“コイツ気づいてねーでやんの”って表情してます。
僕は“身にかかる火の粉を振り払うため”に戦っていない? どういうことだ?
確かにこれといった理由は無くて、惰性で生きるために戦っているように自分でも思ってますけど、それだったら“身にかかる火の粉を振り払うため”で間違ってはいないんじゃないの?
…………ニヤケ顔がムカつくな。
「さて、それではもうそろそろお別れの「あ、治療は完了したから還ったり出来ませんよ」…………え?」
「ヴィルさんにはもう少し聞くことありますし、聞くこと終わっても還らないで“封魔の瓶”の中に入ってもらいます」
「いつの間に!? それに両腕どころか両足もなくなっていないかね!?」
「ああ、さっきの雷糸には麻痺効果もつけましたからね。話の最中に切り取ってたのに気づかなかったんでしょう。
それに両足もいらんでしょう。もう使うこともないんですから」
実を言いますと、最近は西洋魔術の修行が上手くいってないんです。
頭打ちになったというか…………レベルがカンストしちゃったのかもしれませんが、最近どうにも伸び悩んでます。なので別方向にも手を広げることにしました。
それともし将来、医者とかになる場合は『治癒』や『自動治癒』、『咸卦治癒』だけでなくて、東洋医術なんかも出来たら治療の選択肢も広がっていいかなぁ、と思ったんですよね。
というわけで、近頃は西洋魔術の修行の他に東洋医術や霊媒治療なんかも勉強してるんですよ。
せっかくなので尋問にもそれらが使えるか、Let's Challenge!
とりあえずその帽子は邪魔ですからとっちゃいましょうね。
「ま、待ちたまえ! 君はいったい何をする気だ!?」
「大丈夫、痛くしませんから…………というかもう痛くないでしょうから」
「君は本当に情け容赦無いなぁっ!!!」
「何で敵に対して情けかけたり容赦したりしないといけないんですか?
さて、いろいろ聞かせてもらいますよ」
それでは手術を始めます。
人間が生き物の生き死にを自由にしようなんておこがましいとは思いますけど…………ま、それが人間ってことなんですよね。
━━━━━ 後書き ━━━━━
救えねぇ。
しかしヴィルさん達の末路はあくまでも戦闘の結果なので、ネギの被害者ではないですよね。
なのでまだ被害者ではありません………………まだ。
とりあえず『雷天大壮』のバージョンアップを自分なりにしてみました。あくまでも技の実験であり、ヘルマン自身を実験体にして何かするということではまだありませんでした。
名前をつけるなら単純に『雷蜘蛛』です。コガネグモを地方によってはカミナリグモと呼ぶところがあるらしいですが…………。
それとスライム達の電気分解などについての科学的なツッコミは御遠慮ください。それ以外では普通に“熱で蒸発”とか“凍らせる”とか、今回のすらむぃみたいに“殴って消し飛ばす”ぐらいしか思いつきませんでした。
あとプラズマボールを知っているなんて、ヴィルさんが人間世界のことをわかりすぎでしょうか。
そして小太郎の出番がないままにヴィルさんがリタイアすることにw
京都-埼玉間で500km以上。前日の夜に出た小太郎は時速25km以上の休み無しで走れば間に合ったんですがね…………。
というか原作でもどうやって麻帆良まで行ったんでしょう? 小太郎は金とか持ってなさそうなので、本気で京都-埼玉間を走り抜いたんでしょうか?