━━━━━ 古菲 ━━━━━
待ちに待った学園祭、麻帆良祭当日。
私はクラスのメイドカフェの当番と中武研の出し物の演舞を予定しているぐらいで、他には特にどこか行く予定はないアル。
麻帆良祭には面白そうな格闘大会とかないアルしね。
それにネギ坊主のおかげで私達は告白阻止のパトロールも免除されているしから、ネギ坊主について学園祭を回ってみようと思っていたのアルけど…………。
「…………というわけでネギ坊主。
アスナさん達やクラスの皆の部活の出し物にいかなきゃならなくて時間が足りないみたいネ。そんなネギ坊主にタイムマシンをプレゼントするヨ」
超が壊れたアル。
何だかやけに超の後ろを走り去っていく着ぐるみさん達を遠くに感じるアルよ。
皆楽しそうアルね~。
………………常日頃から科学に魂を売ったマッドサイエンティストと自称していたけど、ついにタイムマシンを作ったなんてまでアホなこと言い出すなんて…………きっと疲れてるアルね。
今すぐ超を保健室に連れて行かなければ。
せっかくの学園祭だけど、超が元に戻るまで私が看病するアルよ。親友がここまで壊れてしまったのに気づかなかった私にも責任があるネ。
アスナ達は予定通りに学園祭を見て回ると良いアル。
「…………超、きっと疲れてるアルよ。
ホラ、ちょっと保健室に行って休むと良いアル。私も付き添うヨ」
「ちょ!? その憐れみの目で見るのはやめるネ、古! それに皆まで!?
私は正気ヨ!!!」
「大丈夫アル。ネギ坊主の治癒は凄いから、少し心と身体を休めてリラックスすると良いアル。
ネギ坊主、お願いできるアルか?」
「…………えーっと、とりあえず話だけなら聞いてあげてもいいんじゃないですか?
(菲さん、その間に葉加瀬さんを呼びましょう。葉加瀬さんならきっと何とかしてくれます)」
「聞こえてるヨ! 本当にコレはタイムマシンなんだヨ!
お願いだから真面目に話だけでも聞いて欲しいネ!」
うん、わかったアルよ。
聞いてあげるから少し落ち着くアル。
古にこんな目で見られるなんて、超鈴音一生の不覚ネ。とブツブツ呟きながら超が取り出したのは…………懐中時計?
これがタイムマシンなのカ? いくら何でも冗談きついアルよ、超。
それに私は既にバカレンジャーを卒業したネ。
「これは懐中時計型航時機“カシオペア”。使用者とそれに密着した同行者を時間跳躍させる脅威の超科学アイテムヨ。
…………と言っても、実はこの航時機。駆動エネルギーに使用者の魔力を使てるネ。だから私1人では動かせないのヨ。
実際に動かしたのは1回だけ。しかも2年半ぐらい前の話ネ」
「超りん、それ大丈夫なん?
それに何で今まで1回しか動かしたことないん?」
「いや、実は動かすのに物凄い魔力が必要なのヨ。24時間の時間移動するだけでも普通の魔法使い5人分くらいの魔力が必要ネ。
しかも複数の人間の魔力が混じてしまうと不具合出てくるから、絶対に1人だけの魔力で動かさなきゃいけないのヨ。
だから作たはいいけど誰も使えなかたのでお蔵入りになてた発明ネ。あ、コレ説明書ヨ」
「えーっと…………普通の魔法使い5人分ってことは、木乃香お嬢様でもそうそう扱うことが出来ないということですか。
確かにそれでは使える人はなかなかいないでしょうね」
そうアルね。
確か普通の魔法使いの魔力量が1~2だとすると、木乃香が5強、ネギ坊主が10だったけど京都で更に増えて20。
それだったらネギ坊主ぐらいしか使える人いないアルね。
「しかもこの世界樹の魔力充ちる今年の学園祭でしか使えないネ。
これを逃したら使えるのは22年後ヨ」
「…………はあ、そうなんですか」
「? ネギ先生?」
「何でこんなの作ったのよ、超さん?
これ明らかに使えないじゃない? たまたまネギの魔力量が大きかったから使えるみたいだけどさ」
「マッドサイエンティストの血が騒いだネ…………というのは冗談だヨ。まあ、どうしても必要に駆られてネ。
…………で、このタイムマシンをあげるかわりに、ちょとネギ坊主にお願いがあるヨ」
「…………お願い、ですか?」
「難しいことじゃないネ。しかもネギ坊主にとても良いことヨ。単純にそれを使て、私を10時間前まで連れて行て欲しいネ。
ネギ坊主だて本当に時間移動出来るかわからないのに、自分1人だけで跳んだりアスナさん達を一緒に連れて跳ぶのは不安ダロ? それなら作た私が最初の1回目を一緒に跳べば、何か装置に不安があたりしないことがわかるよネ?
ちゃんとコンピューター上のシミュレーションではバチリ跳べるヨ。必要なのは膨大な魔力だけネ」
「それはそうですけど、何で10時間前に戻りたいんですか?」
そうアルよ。何で超は過去に戻りたいアルか?
それに過去に跳んだりしたらタイムパラドックスというものが起こる可能性があるヨ。ヘタしたら取り返しのつかないことになるアルよ。
頭の良い超が何でその危険を冒してまで過去に跳びたいネ?
「…………私がいろんな研究会に参加していることは知ているカナ? その中の一つに量子力学研究会という大学のサークルがあるネ。
もちろん量子力学研究会もこの学園祭で研究結果を発表することになており、私も長い時間をかけて論文を用意してあたネ。
まあ、最近はロボット研究会の研究室のパソコンでその論文を書いていたのだヨ」
「………………超さん、もしかして?」
うん、アスナ。私もすっごく嫌な予感がするアル。
あの頻繁に爆発事故が起こるというロボット研究会の研究室アルか。
「お察しの通りヨ。爆発じゃないけどネ。
今朝研究室に顔を出したら作りかけのロボットが夜の内に倒れていたらしく、パソコンがロボットの下敷きになて昇天されていたのヨ。
ハードディスクも完璧に破壊されてたからサルベージも不可能ネ。アハハハハ…………ハハハ…………。
…………。
……………………。
………………………………本気でお願いヨ、ネギ坊主っ!
アレは私1人の論文じゃなくて研究会の皆で作た輪読論文ネ! 作た皆のデータを持ち寄ればある程度データの復旧は可能だが、それでも今日の発表までには時間が足りなさ過ぎるネ!!!」
「お、落ち着くアル、超!」
「ちゃんとタイムパラドックスが起きないようにするヨ!
10時間前に戻てロボットが倒れるのを防止するのではなく、データを抜き出した後は今の時間になるまで人目のつかないところでジとして隠れているヨ!
そしてこれから過去に戻るこの私を過去戻った私が引き継ぐネ!!!」
「わ、わかりましたから落ち着いてください、超さん!」
うわぁ、ここまで取り乱した超を見るのは初めてアル。よっぽど切羽詰ってるアルね。
確かに皆で作った論文を自分のミスで駄目にしたら焦るのは仕方がないアル。
これは…………どうしたら良いアル?
私としては超が困っているなら助けてあげたいけど、それでもネギ坊主がタイムマシンなんて胡散臭い物を使うのはやめて欲しいアル。
もしどことも知れぬ異空間にハマり込んで永遠に漂流でもされたらどうすればいいアルね。ネギ坊主が額に指を当てて考え込んでいるけど、危ないことはやめて欲しいアル。
………………でも、ネギ坊主だったら普通に次元の壁も打ち破って戻って来れそう?
って駄目ネ。何て考えをしているのか私は…………。
“ネギ坊主だったら大丈夫”なんて、そんな簡単に考えたら駄目アルよ。
ネギ坊主だって所詮は人間。いくらネギ坊主が凄くたって、何か不測の事態がないとは限らないアルよ。それにネギ坊主が大丈夫でも、一緒に行く超はアウトだし…………。
…………あれ? 何か違う?
「…………あ、本当に大丈夫だ。もう1人の僕がいる。
今、僕自身と念話が通じました。ちゃんとタイムトラベル出来たらしいです」
え? それ本当アルか?
ネギ坊主は考えことをしていたんじゃなくて、念話をしていたということアルか。
「ってーことはもう未来のネギ君が過去に戻っていて、どっかに隠れてるってことなん?
ん? 過去? 未来? …………過去と未来の関係がややこしいわぁ」
「大丈夫です。言いたいことはわかりますよ、木乃香さん。
もし本当にこれがタイムマシンで僕が超さんと過去に戻っていたのだとしたら、今の時間には僕が2人存在することになると思ってもう1人の僕に念話してみましたけど本当にいました。
超さんが言った通りに昨日の夜へタイムトラベルしてデータを抜き出した後、学園祭のせいで誰も来ない大学の地下の部屋に隠れているそうです」
「ほ、本当カ!? お願いヨ、ネギ坊主! 私を過去に連れて行て欲しいネ! さきも言た通りタイムマシンはあげるし……………………そうだ! この“超包子”専用食券もあげるヨ!
それにネギ坊主が過去に跳ばないと、ずとネギ坊主と私が存在し続けることになるネ!」
「そこまでしてもらわなくても大丈夫ですよ。危険はないみたいですから、ちゃんと過去に連れて行ってあげます。
それではアスナさん達は…………うん、世界樹前広場のカフェ“イグドラシル”で待っててください。僕がそこに行きますので、そこで合流しましょう」
「え? 本当に大丈夫なの、ネ『大丈夫ですよ、アスナさん』うわひゃっ!?」
おお! ネギ坊主から念話がきたアル!
でも目の前のネギ坊主はカードを額に当ててないみたいだから、大学の地下に隠れているというもう1人のネギ坊主が送ってきたということアルね。
本当にネギ坊主がもう1人いるのカ。確かにそれだったらネギ坊主は安全に過去に跳べたという証拠になるアルね。
どうせネギ坊主のことだから、もう1人のネギ坊主が本物かどうかの確認は何らかの方法でしているだろうから安全だろうアルし、それなら過去に跳んで困っている超を助けてあげて欲しいアルよ。
━━━━━ 超鈴音 ━━━━━
計画通り…………っ!
…………おとイカン。思わず顔がニヤケてしまたヨ。
でもこれでネギ坊主に疑われずに“航時機”を渡すことが出来たネ。
しかも元の時間になるまで隠れている間に、説明書を使て懇切丁寧に“航時機”の使い方をレクチャーしておいたヨ。
これならネギ坊主が“航時機”を調べたりする確率は低くなるネ。
精密機械だからバラさないないようにも念を押しておいたし、学園祭期間は忙しいので疑問があたら学園祭後にまとめて聞くということにしておいたヨ。
ネギ坊主の人の良さにつけこんで悪い気もするけどネ。
だが確かにネギ坊主はエヴァンジェリンが表現したように、礼儀正しくお願いして、なおかつ本当に困ていて、そしてネギ坊主でしか解決出来なくて、でもそれはネギ坊主ならあまり手間にならないのなら、大抵のお願いごとは聞いてくれるみたいだヨ。
さすがに全世界への魔法バレの手伝いは無理だろうけどネ。とりあえずはこの結果で満足しておくヨ。
これで学園祭最終日になたとき、“航時機”を持ているネギ坊主は1週間後の未来に跳ばされる。
それに“航時機”に細工してタイムトラベルに必要な魔力を無駄に多くしておいたから、少しでもネギ坊主の力を削ぐことが出来るヨ。本当は魔法使い5人分の魔力なんかいらないネ。
もし最悪の事態になて、ネギ坊主と戦うことになてもそれが有利に働くヨ…………それでも勝てるとは思えないガ。
それにしても暇ネ。
大学の地下に隠れてから7時間。最初は“航時機”のレクチャーなどで時間を潰したが、それでも10時間ともなるとすることはないヨ。私達が過去に飛ぶまであと3時間もあるネ。
まあ、最近は計画の準備に忙しくてロクに休めなかたから、丁度良い休息になたけどネ。
ネギ坊主も私の目の前で寝てる。
スースーと寝息を立て、丸まて横になているネギ坊主は本当に年相応の子供に見えるヨ。
…………寝ているネギ坊主は素直に可愛いと思えるのだがネ。
今いる大学の地下は埃ぽくて薄暗くて肌寒い所だたが、ネギ坊主の結界のおかげで快適な空間になている。
埃ぽいどころかどこかの工場のクリーンルームみたいに空気が澄んでいるし、温かみのある明るさの上に眠くなりそうな室温に保たれている。
ネギ坊主は本当に魔法への考え方が普通の人とは違うネ。何この生活に便利な魔法?
しかし、こうまで無防備に寝ているように見えるネギ坊主を目の前にしていると、今ここでネギ坊主に仕掛けてしまいたい気持ちが湧き上がるネ。
でもそれは駄目。何故なら
「…………ん? 超さん、今何か不穏当なこと考えませんでしたか?」
「考えてないヨ。別に寝ているネギ坊主の顔に落書きしようとか、寝顔の写真を撮ていいんちょに売りつけようとか考えていないネ」
「本気でやめてください」
こんな風に私が仕掛けようとか考えると、それを察知するようにネギ坊主が目を覚ましてしまうからヨ。
…………というか、何で気づけるネ? 何で起きれるネ?
これでネギ坊主が起きるのは3回目。偶然とかじゃなくて、絶対に私の僅かな心情の揺れに反応して起きてるヨ。まるで熟練した戦士のようネ。
ネギ坊主は今までどんな生活をしてきたのヨ?
「何か変な夢見ました。龍宮さんが
『やぁ、ネギ先生。君のお父さん達に頼まれてね。これから昼夜問わずの四六時中、例え授業中であろうが就寝中であろうがネギ先生に隙があったら不意打ちを仕掛けることになった。
何でも常在戦場の心構えを養うための特訓らしい。私の不意打ちを防げなかったらその日の修行は3倍だそうだよ。
私としても不意打ちが成功したらボーナスが出るので手加減はしないよ。ハッハッハ』
って通告してくる夢です」
「…………ネギ坊主の父親は行方不明だたのじゃないカ?」
「そうなんですけど、所詮は夢ですし。
でもやけにリアルな夢でした。もしかしたらどっかの平行世界では実際に行なわれたことかもしれません………………っていうか実際に行なわれたことです。
…………あー、駄目親父達ブン殴りたいなぁ…………」
…………ネギ坊主、疲れているんじゃないのカ?
何だか平行世界とか支離滅裂なことを口走てるヨ。1km先からのライフルの狙撃はさすがに辛いんだよなぁ、とか言てるヨ。学生なんだからもっとマシなバイトしてくれ、とか言てるヨ。
…………平行世界云々はタイムマシンを持ている私が言えることではないガ。
生徒の告白阻止の仕事が忙しかたのかもしれないヨ。
学園祭をアスナさんや古達と一緒に回る時間をとれるように、準備の方に力を入れてパトロール免除を勝ち取たらしいからネ。
いや、本当に先日は驚いたヨ。
学園長達が世界樹前広場に集まていたと思たら、いきなりエヴァンジェリンの家の近くに出現するんダカラ。
どうやら世界樹前広場の学園長達は幻術だたらしいネ。あとで古から事情を聞いたときは素直に“してやられた”と思たヨ。
でも私にとても別に悪いことじゃないネ。
最終日に世界樹の魔力溜まり6ヶ所を占拠しなければならないが、告白のための人がたくさんいたら怪我人が出る恐れがある。
だけど学園の方で人払いを済ませてくれているのなら、私としても遠慮なく田中さん達を侵攻させられるヨ。これは不幸中の幸いネ。
「…………眠気が覚めたな。あと何時間ですか?」
「3時間。何か暇つぶしを持てくれば良かたネ」
「そうですねぇ」
「そんなに暇なら話でもしようカ。
…………ネギ坊主。現実が一つの物語だと仮定して、君は自分を正義の味方だと思うかネ? 自分のことを…………悪者ではないかと思たことは?
世には正義も悪もなく、ただ百の正義があるのみ…………とまでは言わないが、思いを通すはいつも力ある者のみ。
正義だろうが悪だろうがネ」
「いきなり哲学ですか? …………まあ、暇だからいいですけど。
“正義の味方”と“悪者”…………ですか。別にあんまりそういうことは考えたことないですね。あくまで僕の主体は“僕”であって、“正義の味方”と“悪者”なんかは副次的なものです。
それと“思いを通すはいつも力ある者のみ”というのはよくわかります。本当によくわかります。ウン。………………コンチクショウ」
後半はやけに実感篭てるネ?
この子昔に何かあたのか…………って、そうか。住んでいた村の壊滅があたヨ。
そのせいでこんな性格になたのかもしれないネ。
「それと僕の個人的な考えですけど、“正義”の反対は“悪”ではないと思うんですよ。
日本の漫画なんかでは何故か“正義 VS 悪”って感じになってますけどね」
「ん? それは私が今言た百の正義と同じで、“正義は一つではなくて人によて変わていくものだ”、ということカ?
悪にも悪なりの正義があると?」
「いえ、それは確かにそうなんですが、言っていることはもっと単純なことです。言葉の意味でのことですよ。
“正義”に対するのは“不義”。もしくは“正しい”に対するは“間違い”か“誤り”。そして“悪”に対するのは“善”であるということです。
だってそうじゃないですか。日本語では“善悪”や“正誤”とは言います。しかし“正悪”とか“善誤”とかは言いませんよね? まぁ、“正邪”とは言いますがね。
例えばテストの答えが“間違っていた”としても、テストの答えが“悪い”なんて表現しません」
…………それは確かにそうだネ。
ネギ坊主の言う通り、言葉の上では“善悪”と“正誤”だヨ。
「基本的にこの世の中は
“善くて、正しいこと”
“悪いけど、正しいこと”
“善いけど、間違っていること”
“悪くて、間違っていること”
の4種類に分かれているんじゃないかと考えてます。
数学のX軸とY軸で構成されている直交座標系を思い浮かべていただければわかりやすいですかね。X軸が“善悪”で、Y軸が“正誤”。
物事はその2次元の座標のどこかの場所にある、と…………」
「なるほどネ」
「例えば“嘘をつく”ということで考えてみましょう。“嘘をつく”というのは世間一般的に“悪いこと”です。
しかしどうでしょう? “嘘をつく”というのは“間違っていること”なんでしょうか?」
「ネギ坊主的には違うのかナ?」
「状況によりけりです。
例えば貴方が医者だったとしましょう。貴方が担当している患者はとても心が弱く、流されやすい人です。
癌になったと言われたらそのショックで死んでしまうような人です。しかし逆に癌になったとしても“治る病気だから大丈夫”と言えば、それを信じて活力が湧いてきて癌すらも治せるような人です。
さて、その人が実際に癌になっていまいました。
貴方は正直に“貴方は癌です”と嘘をつきませんか? それとも“治る病気だから大丈夫”と嘘をつきますか?」
「…………要するに、その場合だと“嘘をつく”=“悪いけど、正しいこと”。
“嘘をつかない”=“善いけど、間違っていること”ということだと言いたいのかナ?」
「正直でいるということは美徳ではあります。ですがそのせいで人が死んだら、それは間違っていることではないでしょうか。
いや、それ以前に“人を死なせること”は“嘘をつくこと”より数段悪いことだと思うので、むしろ相対的に考えれば“悪くて、間違っていること”だとすら思ってしまいますね。
ま、あくまでも僕個人の考えです。更に言うなら“善悪”も“正義不義”も、それぞれ人の考え方、価値観、宗教観などで変わってきます。陳腐な言い方ですが、“この世には絶対の善も悪も正義も不義もない”のだと思っています」
…………それで言うと、私の計画は何なんだろうネ?
“善くて、正しいこと”ではないとは思う。何だかんだで私の計画では世界に混乱を招くことになるのだカラ。
でも“悪いけど、正しいこと”と“善いけど、間違っていること”のどちらかと言えば、“悪いけど、正しいこと”だと思いたいヨ。
私の目的である強制認識魔法による全世界への魔法バレで、魔法使いは今までよりも大手を振って人助けを出来るようになるし、何より魔法世界の崩壊を防ぐことが出来るヨ。
だが一度世界に魔法の存在が知れれば、相応の混乱が世界を覆うことになてしまう。もちろん今後十数年の混乱に伴って、それでも起こり得る政治的軍事的に致命的な不足な事態については私が監視し調整するが…………ネギ坊主はそれでは納得しないだろうネ。
…………やはりこれではネギ坊主を仲間に引き入れるのは難しい…………かナ?
今のがネギ坊主の考え方ならば、協力してくれる可能性はある。
しかし、それでも私のやり方ではネギ坊主を味方につけるのには何かが足りないとしか思えないヨ。
ここはヘタに情報を開示せずに、このまま1週間後の未来に跳んでいてもらた方がいいネ。
少しでも色気を出してネギ坊主を引き込もうとしたら、そこから私の計画に辿り着いてしまいそうな怖さがあるヨ。
「相変わらずネギ坊主は物事を考えているネ。10歳とは思えないヨ。
そうだ。突然話は変わるが、“まほら武道会”というのは知ているカナ?」
「うん? 本当に突然ですね。知ってますよ。25年ぐらい前までは麻帆良祭の目玉だった格闘大会ですよね。
最近は秋の体育会の大格闘大会みたいには盛況じゃないみたいですが…………」
「知ているなら話は早い。実は私はその“まほら武道会”を復活させようと思ているネ。
麻帆良祭で開かれる格闘大会はいくつもあるが、どれもショボイものばかり。そのいくつものショボイ大会をM&Aでまとめて、一つの大きい大会にしようと思ているのヨ。
ネギ坊主も出てみないカ? 今日の夜に受付・予選で、明日の8時から本戦開始ヨ」
「何でまたそんなことを?
超さん、あんまり派手なことはしないほうがいいんじゃないですか? 超さんは学園長達に目をつけられてるんですよ?
僕も超さん達には注意しておくように言われてますし」
え? 最近は大人しくしてたはずヨ。
「月一でロボット研究会の入っている大学棟で爆発事故起こしてたら当然でしょうに。あとロボットの暴走事故とかもです。
そもそも試作実験機が暴走したときのために捕獲部隊が用意されてるってどういうことなんですか?」
「…………ゴメンナサイ」
しまた。素で目つけられることしてしまてたヨ。
でもそれは私だけでなく、むしろ他の研究会員が原因のときの方が多いんだヨ。私だけのせいじゃないネ。
「明日の8時からとなると…………だったらちょうど良いかな」
「ん? 何かあるのかナ?」
「…………柿崎さんが僕用のメイド服用意してるようなこと言ってたんですよ。
ですから柿崎さんが当番の明日の午前にクラスへ顔を出したら、僕もメイド服で接客させられそうなんですよね」
さすがは3-Aのエロ番長、柿崎サンネ。
ネギ坊主に苦手意識を持たせるなんて只者じゃないヨ。
渋るようだたらナギ・スプリングフィールドのことを話題にして“まほら武道会”に出てもらおうと思ていたが、これならそんなことしなくても出てもらえそうヨ。
━━━━━ 後書き ━━━━━
正義やら悪云々は自分の勝手な考えですので、あまり深くは突っ込まないでください。
あと第一章での没ネタみたく、2人きりになった超がショタに目覚めるとか思いついてしまったけど一応自重しました。