━━━━━ エヴァンジェリン・A・K・マクダウェル ━━━━━
麻帆良祭初日が終了した。
私だって麻帆良に来たばかりのころは、今まで体験したことがなかった麻帆良祭を楽しむことが出来ていたが、それでも4年目以降は苦痛になっていた。
しかし今年はネギもいるし、アスナ達と一緒に回ったのは正直言って悪くない。久しぶりに楽しい学園祭となった。
…………中夜祭で朝の4時まで騒いでるウチのクラスの連中には付き合いきれんかったがな。
精神は肉体に影響を受けるから、子供の姿のまま不死となった私はそれなりに若いつもりだったんだが、あいつらといると本当に歳を実感してしまう。
あれが若さか。
凄いとは思うが、今更ああなりたいとは思わんな。
そして狂乱の中夜祭も終わり、疲れたので私の別荘で休むことになったんだが…………。
「アルが…………予選に参加していただと?
それは本当なのか、ネギ?」
「僕と一緒の組にいたクウネル・サンダースって人がそうですよ。
顔も力も隠してたみたいですし、何かの仮装と思われても仕方がない格好してましたけどね」
「もしネギと同じ組じゃなかったら、私も気づけなかったかもしれないわねぇ」
スマン、私はまったく気づかなかった。
どうせネギが無双して終わるだろうと思ってロクに見てなかったからなぁ。
アスナはアルのことは“紅き翼”関連で知っているんだったな。
私はアスナの事情のことを一応聞いてはいるが、まさかアスナが“黄昏の姫巫女”だったとは…………。
タカミチが後見人をしていることから何かあるとは思ってはいたが、随分と大きな事が出てきたものだ。
それにしてもこんなお遊びに参加するなんて、あの古本は何を考えてているんだ?
まあ、アレはおふざけが好きな奴だから、どうせろくでもないことを企んでいるのだろう。そもそもクウネル・サンダースという名前からしてふざけているじゃないか。
「あの人って僕の父と『仮契約』してるんですよね。
“仮契約カード”を見せてもらえば、僕の父が存命かどうかぐらいはわかるんじゃないですか、エヴァさん?」
「ああ、そうだな。
…………ネギはナギが生きてるかどうか知りたくないのか? それにアル自体に興味ないのか?」
「いえ、別に。今の僕は修業中の身ですので。生きてたとしても修行投げ出してまでは探す気はありませんし、死んでたらそれまでですしね。だから生死が判明したとしても、今のところは何かしようとは思いません。
アルビレオ・イマさん自体には…………そうですねぇ、アルビレオ・イマさんに僕の重力魔法が通じるかどうか試してみたいぐらいですかね。ユニコーンガンダムで出場するのやめておけばよかったかな」
「そういえばネギはアルの重力魔法も使えるものな。
出来ないのはアーティファクト関連ぐらいか?」」
「“紅き翼”の映像に残ってたのならだいたいは出来ますね。多分、父が出来ることは全部出来ると思いますよ。
それに今まで話に聞いた感じでは、アルビレオ・イマさんは随分と天邪鬼な性格をしてそうですからね。こちらから会いに行ってもはぐらかされるんじゃないですか?
予選のときにアルビレオ・イマさんから視線を感じましたから、たまたま偶然にも僕と同じ大会に出ただけということではなく、おそらく理由があって大会に出ているのでしょう。
まあ、十中八九は僕関係なんでしょうがね。何を企んでいるか知りませんが、用があるなら向こうから接触してくるでしょう。それまではこちらも勝手に行動させてもらいますよ」
確かにネギのアルに対する感想は間違っておらんな。
奴の性格を一言で表わすとしたら、“天邪鬼な愉快犯”というところか。
別にそれでいいだろ。アルの奴が何を企んでいるかはわからんが、どうせなら奴もネギの被害者になってみればいいんだ。
会う度に人のことをからかいおって。一度でいいから、あの澄ました顔が変わるのを見てみたかったんだよな。
「超さんも何か企んでるみたいですし、学園祭を単純に楽しむだけというわけにはいかないみたいですねぇ。武道会での超さんの挨拶からして、魔法に関して何か企んでいるみたいですし。
僕はパトロール免除されてて自由時間多いから、少しばかり超さんのことは気をつけて見ておきます。最悪の場合はタイムマシン使いますけどね。
エヴァさんは茶々丸さん関連で事情を少し知ってますよね? というか超さんは未来人なんじゃないですか?」
「? そうなの、エヴァちゃん?」
「…………何故そう思う?」
「今の時代…………その中でも特殊な麻帆良の技術と比べても茶々丸さんはオーバーテクノロジー過ぎます。それは茶々丸さんと他のロボット研究会の作品を見れば一目瞭然です。現代の技術では造れるとは思えず、未来の技術を使っているとしか思えません。
それと超さんは2年半前に1回だけ、“航時機”を使ったことがあると言ってました。しかし、この“航時機”は22年に一度の世界樹の大発光の時期にしか使えないはずです。
そしてその22年に一度の世界樹大発光は今年ですので、2年半前に使うことが出来ないはずです。
となると考えられるのは、超さんは2年半前に“航時機”を使って現代に来た、ということですね。そして過去から来たら茶々丸さんは作れないでしょうから、必然的に未来からということになります」
「…………なるほどねぇ。
そう言われれば確かにそうだわ」
…………超鈴音か。奴は本当にこの学園祭で何かを仕出かすつもりなのか?
ネギがいるだけで無理ゲーなのは確定だろうに。
というか、茶々丸を造るときにある程度の事情は聞いていたが、本当にタイムマシンなんか持っていたんだなぁ。
ネギが持っていた“航時機”というタイムマシンをチラリと見せてもらったが、見ただけではよくわからんな。
タイムマシンと言うものにも興味があるし、後で時間があったら貸してもらうとするか。
そういえば先日、ネギがいないときを見計らって超鈴音が改めて私の意志を確認しに来たな。さすがにネギのことは警戒するか。
私としては超の目的なんか知らないし興味ない。でもせっかくの祭りだから、何かあるなら酒の肴に見物しようと思う程度だった。
だから当初の約定通り、私は手を出さないし、手も貸さない。
茶々丸は貸してやるがな。
ネギに敵対して困らすことになるかもしれない……とも言われた。
しかし、それを聞いてもネギの心配より自殺志願の気でもあるのかと超鈴音の方が少し心配になった。それか研究のし過ぎでついに壊れたかだな。
あのマッドめ。
超鈴音は私とは違うタイプの悪人だ。頭も切れるし、ネギに対してもそこそこは食い下がれるかもしれない。
それぐらいまでは評価してやってもいいだろう。
だが、ネギはそれ以上の存在だ。
ネギと最初に会った頃、ネギは私のことを“ドラゴン”と表現したが、ネギだってそれに似たようなものだろう。
それよりもむしろ千雨が表現した“台風”の方に近いだろうな。
正義もなく悪もなく、ただその存在しているだけで周りに影響を及ぼすような現象…………とまですら言ってもいいだろう。
…………どうしてああなった?
いや、もちろんネギが誰からも一目置かれる存在だということは誇らしいのだが、それでも限度というものが…………。
「否定はせん。しかし詳しくは知らん。私が知っていたのは超鈴音が未来から来たということと、学園祭で何か企んでいるということだけだ。目的までは知らんよ。
それと茶々丸を造ったときの約定で、今回のことに私はノータッチということになっている。超鈴音に手を貸すことはないが、学園の連中に手を貸すこともないぞ。
ああ、その約定で茶々丸は貸してあるがな」
「それならそれで構いませんよ。エヴァさんが超さんにつかないことがわかっただけで楽になりますので。
茶々丸さんは…………ちゃんと手加減しますので大丈夫です。安心してください」
…………茶々丸が敵としてロックオンされてしまったか。
やはりそこら辺の判断はシビアだな。まぁ、実際に敵対行動に移るまでは何もしないだろうが…………。
あれか? “撃っていいのは撃たれる覚悟のある奴だけだ”ということか?
まあ、手加減はしてくれるらしいから取り返しのつかないことにはなるまい。何とかして生き延びろ、茶々丸。
私は知らん。超にもちゃんと警告はしておいたからな。
「さて、それではそろそろ休みますか。
他の人はもう休んでいるみたいですし」
「そうね。ネギは明日は武道会があるんだものね。
エヴァちゃんの別荘があって助かったわ。さすがに4時まで騒いでたらツライわ」
「そういえばネギ。何であの犬もこの中に連れてきたんだ?」
「いや、小太郎君も武道会に出ますからね。どうせなら万全の体調で挑んで欲しいじゃないですか。
それに今日の分の勉強ノルマもありますしね」
学園祭真っ只中なのに勉強させるのか?
そういえば別荘に連れて来たとき、犬にプリント束を渡してたな。
…………あの犬も可哀想に。
後で夜食でも届けさせてやるか。
━━━━━ 高畑・T・タカミチ ━━━━━
まほら武道会本戦がもうすぐ開会する。
観客も多く入っているようだし、この武道会はかなり注目されているようだ。
超君が何を考えているかはわからないが、これだけ観客を集めているということは、何か知らしめたいものか見せたいものがあるということなのだろう。
おそらくは予選開始前に言った“呪文詠唱の禁止”が関係しているはずだ。まったく何を企んでいるのやら。
しかし、幸いにも出場者には魔法使いらしい魔法使いはいないので、魔法自体が使われることはないだろう。
関係者といえば僕、ネギ君、古菲君、楓君、龍宮君、小太郎君、そしてネギ君が言ってたようにアルが出場している。
まさか本当にアルが出場していたなんて…………今まで彼は何をしていたんだ? というか、クウネル・サンダースって名前は何なんだ?
まあ、アルだって魔法をワザとバラすようなことはしないだろう。詳しい話はこの大会が終わって、時間が出来たときに聞けばいい。
そして僕は生まれつき呪文詠唱を出来ない体質だし、古菲君達だって使うのは気だから問題はないだろう。
他にも何名か気も扱えそうな出場者がいるが、おそらく我流で修行をして気に目覚めた一般人みたいだ。
錬度的には昨日の遠当てを使える人と同じくらいだから、これなら麻帆良内では許容範囲で済む。
ネギ君はモビルスーツとして出場しているから魔法を使ってこないし、科学の産物として見せているから魔法がバレることはないだろう。
しかし本当にアレは効果的だね。昨日の予選の他の出場者からもネギ君はロボットだと思われてたみたいだし、魔法バレを避けるためにモビルスーツを開発したというネギ君は間違っていなかった。
アレ見て魔法を思いつく人はいない。さすがはネギ君…………と思っていたけど、
『手加減しませんよ、高畑・T・タカミチさん』
お願いだから、手加減はしなくてもいいから自重はしてくれ、ネギ君。心の底からそう思う。
…………いや、出来れば手加減もしてくれ。
フェイスマスクで顔は見えないけど明らかに楽しんでいる雰囲気なんだよね。
僕の一回戦の相手はネギ君になった。モビルスーツ状態のネギ君の正体をバラすわけにはいかないので初対面の振りをしている。
昨日までは念話で会話していたけど、それでは僕達関係者以外には意思疎通出来ないので、今のネギ君は電光掲示板に似せた魔法具らしきものに字を表示して他の人達と意思疎通をしている。
アレもネギ君が作ったのかなぁ…………?
いやしかし、本当にどうしよう?
僕でネギ君に勝てるのかな?
この武道会では、ネギ君はモビルスーツで戦う。
モビルスーツを発現させているときは他の魔法を使えなくなるから、魔法に関しては警戒しなくていい。
警戒するとなるとモビルスーツ自体の性能と武器、特にあのマグナム弾とやらの魔法を込めた弾を警戒すべきだけど、それでも観客に被害を及ぼすようなことはネギ君はしないだろう。
そこら辺のことについてはネギ君は信頼出来る。
けどそれだけで勝てるのかな。
最初っから『咸卦法』フルパワーでいくしかないなぁ。さすがに鎧袖一触されたら、いくら何でも情けなさすぎる。
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そうこうしているうちに本戦が始まった。最初の一試合目は犬上小太郎君の試合だ。
相手は筋骨隆々な男性だが、我流で気を扱えるようになっただけの一般人のようだから小太郎君でも問題ないだろう。
それにしても小太郎君が麻帆良に来てくれてよかったと思う。ネギ君には同世代の男の子の知り合いがいなかったからね。
僕もネギ君の友達のつもりだけど、やはり年齢差があるから気心の知れた間柄というわけにはいかない。
その点、小太郎君は同年代だし真っ直ぐな心意気をした少年だ。学園長が言っていたようにネギ君にとってのいい生贄…………じゃなかった、友達になってくれるだろう。
…………小太郎君ならネギ君と一緒でもやっていけるさ。
彼は元気もいいし、真面目なネギ君とは性格的にあうかもしれないしね。ウン。
お、小太郎君の一撃が顎に決まった。
相手はもう立てないみたいだな。これで小太郎君は2回戦進出か。
第二試合はアルと大豪院ポチという人の試合か。
大豪院って人は…………大学生かな? 何か随分と濃い顔をしているけど。それと親は何を考えて“ポチ”って命名したんだ? それともただのリングネームなのかな?
これも問題なくアルの勝ちで終わるだろう。アルは後衛型の魔法使い寄りだけど、体術も十分出来るからね。
第三試合は楓君と中村達也という人の試合。
これも問題なく楓君の勝ちで終わるだろう。楓君もネギ君と一緒に修行するようになってから、ますます強くなってきているし。
刹那君と楓君の2人がかりでは、ヘタしたら僕でも勝てないかもしれないな。
第四試合は龍宮君と古菲君の試合か。
…………改めてこうして見ると、3-A関係者の出場者が多いなぁ。
それにしてもこの試合は見所がある。
“四音階の組み鈴”の一員として数々の紛争地域を渡り歩いた龍宮君と、ネギ君の“魔法使いの従者”で昨年度のウルティマホラのチャンピオンの古菲君。
実戦ならおそらく龍宮君のほうが有利だろうけど、銃火器使用禁止のこの大会ならどうなるかはわからない。古菲君もネギ君との修行でドンドン強くなっているみたいだからね。
第五試合が絡繰さんの弟?の田中さんの試合。
ネギ君が言うには、田中さんは超君達が作った大学工学部で実験中の新型ロボット兵器で絡繰さんの弟ということだけど、絡繰君とは随分と趣が違うロボットだな。
絡繰君はエヴァの人形の流れを汲んだ造形をしているから、きっと田中さんは超君達の趣味ということなんだろう。
…………ああいうのが趣味なのか、超君達は?
最近の若い女の子の趣味はわからないなぁ。
それにしても、超君はいったい何を考えてこの大会を開いたんだか?
彼女に関してはナゾだらけだ。
僕達、魔法使いの力を持ってしても2年前にこの学園に入学する以前の足取りは、いったいどこの何者なのかが全く追えない。
何かを企んでいるようだけど目的はさっぱりわからない。今は監視するぐらいしか出来ないな。
まあ、ネギ君が注意してみてるらしいし、刹那君が会場の裏を探ってくれているらしいから、僕はネギ君との試合の方に集中するかな。
集中しないとあっという間に僕の負けで終わりそうだしね。
…………うん、第六試合は僕とネギ君の試合だ。
やるだけやるしかないだろう。
第七と第八試合は一般人同士の戦い。
この2つは問題ないな。
さて、少しばかり準備運動しておくかな。考えてみればネギ君と戦うのは初めてだ。
初めて会ったばかりのネギ君は小さかったけど、あれからもう6年。まさか僕より強くなるなんてあの時は思いもしなかったよ。
フフフ、ネギ君と戦えるのがこんなに嬉しいなんてね。
ネギ君との試合は怖さもあるけど、それでも嬉しさの方が勝っている。
勝てないまでも“男同士の戦い”に恥じない戦いをしたいね。少しぐらいは年上として良いところは見せたいよ。
━━━━━ 後書き ━━━━━
次回は 古菲 VS たつみー です。
基本的に流れは原作とは変えないつもりですが、それでもネギの存在だけでどんどん狂っていく感じがします。
まいったなぁ。
そして小太郎が無罪放免で麻帆良に住むことになった最大の理由が発覚。
頑張れ、小太郎。生きていればきっといつかは良いことがあるさ。