━━━━━ 古菲 ━━━━━
『お待たせしました! お聞きください、この歓声!!
 本日の大本命、前年度“ウルティマホラ”チャンピオン! 古菲選手!!
 そして対するはここ龍宮神社の一人娘! 龍宮真名選手!!』
 はてさて、いったい私はどこまで戦えるアルかね?
 真名は銃使いとはいえ本物の戦場をくぐり抜けてきてる。実戦経験に大きく差があるが、私がネギ坊主との修行でどれほど強くなったかで決まるアルね。
 ネギ坊主の見た感じでは、気も扱えるようになった今の私なら、この大会ルール上においては真名にも勝てる確率はあるとのこと。
 真名は私達との修行には参加せず、たまに見学だけはしているので私の手の内の半分以上は知られているはず。
 しかし、逆に真名の手の内はわからないアルね。知っている銃はこの大会では使えないはずアルし。
 前の試合で楓が無事に2回戦に進出した。
 私も勝ち上がっていってネギ坊主と戦いたいものアル。
 でも私ってもしかしたらクジ運が悪すぎじゃないアルか?
 この試合で真名に勝てても次の試合は楓、そしてその次は小太郎かクウネル・サンダースのどちらかになるとは思うけど……そのクウネル・サンダースはネギ坊主の父親の友人、“紅き翼”のアルビレオ・イマということアルよ。
 そして決勝は絶対にネギ坊主。
 …………全試合で裏の関係者との戦いになるなんて、どう考えても優勝は無理アルよ。
 それに比べると誰も関係者がいない左下の第4ブロックがうらやましいアル………………ネギ坊主が出場しているということだけで最初っから無理っぽいけどネ。
 とはいえ、我只要和強者闘。
 それでいくとこのトーナメント表は望むところアル。何しろ全ての試合で強者と戦えるのだから。
 私は嬉しいアル。この学園にくるまで私が本気で戦える相手はいなかったけど、麻帆良にはネギ坊主を始めとした強者がゴロゴロいるアル。
 さて、基本ルールは15m×15mの能舞台で行なわれる15分一本勝負。
 でも実際のリングは13m×13mといったところ。リング外に出てしまうと10秒カウントで負けになる。
 これは池に落ちないように注意すべきアルね。
 池に落ちたら舞台に上がるのに時間がかかる。真名は確実に遠距離攻撃手段を持っているであろうし、ヘタに池に落ちたら飛び道具で攻撃され続けて舞台に上がれずに“リングアウト10秒”で負けになるアル。
 舞台に柵はついているけど高さは胸元ぐらいまで。しかもこの高さはリング外の床の高さから見てでの話。リング内の床の高さから見ると膝ぐらいまでしかないから、吹っ飛ばされでもしたら柵は無いも同然の高さアル。
 足元は木の板張り。踏ん張りは問題ないアル。
 気をつけるとしたら、板に穴が開くことによって足をとられるかもしれないことアルね。
 真名は手ぶらだけど、長袖のロングコートを着ているので暗器の類の所持は否定出来ない…………というより、絶対持っているはず。
 対する私はアーティファクト“神珍鉄自在棍”のみ。
 ただし観客の前では大っぴらに伸縮とかは出来ないので、扱いやすい1mぐらいの短棍で固定。
 それにしても我ながら注意深くなったものアルね。
 …………ネギ坊主に良いように足元掬われて転ばされ続けたらこうなるアルけど。
 ネギ坊主は日本の剣道でいう“一眼二足三胆四力”を重視していて、“観の目”を強く見ることで複数の相手を同時に相手に出来るらしいアル。
 そのせいで私達全員で攻撃を仕掛けても仕掛けても、私達の思考や動作を見破られているようでなかなか有効打を与えることが出来ないアル。
「右を見るときは左も見てください。そして上を見るときは下も見てください」  
 なんてネギ坊主は言っていたけど、そんなことを平気で出来るのはネギ坊主くらいアルよ。
「古と戦うのはこれが初めてだな。
 ネギ先生との修行でどれくらい強くなったか見させてもらうぞ」
「そうアルね。私も真名と戦うのは楽しみアル。手加減などするでナイヨ」
「無論だ。というより、むしろ今のお前相手なら手加減なんぞする余裕などないだろう」
 戦いが始まる。
 2人でリングの中央に立ち、真名までの距離は約5m。
 …………これはちょっと嫌な距離アルね。
『それでは第4試合Fight!!!』
 朝倉の開始合図とともに瞬動で後ろに跳ぶ。
 私は近距離しか攻撃手段は持たないが、対する真名は遠距離攻撃手段を十中八九持っているアル。これでは接近するまでに真名のいいようにやられてしまう可能性がある。
 それならいっそのこと、超遠距離まで離れればいい。どうせ銃火器は禁止だから、一撃で倒されるようなことはないアル。
 真名相手に距離をとるのは後で大変になるけど、真名の武器も知らずに接近戦を挑むことは出来ないアル。
 そう判断した瞬間、私の額めがけて真名の右手から何か小さなものが凄いスピードで発射された。
 しかし私が後ろに跳んだ分、いくらか余裕を持って対処出来る!
「破ッ!」
 “神珍鉄自在棍”で飛んできた何かを弾く。
 落ちてきたその何かを見てみると…………500円玉?
 これは……ネギ坊主の“中の人繋がり”みたいに、コインをとてつもない速さで弾いたアルか。
 魔力か気を込めたのかもしれないが、弾いたときの衝撃はただの500円玉とは思えない重さだったアル。
 だけどネギ坊主の“中の人繋がり”よりは格段に遅いし、電撃の副次効果なんかもついてないアル。しかもネギ坊主のアレは特注で作ったタングステン製だから、真名の500円玉の倍ぐらいに重いアルよ。
 …………値段からいくと500円玉の方がずっと高いんだろうけど。
 真名の遠距離攻撃手段がこれなら、私でも十分対処可能アルね!
━━━━━ 龍宮マナ ━━━━━
 …………マズい。冗談抜きで勝てないかもしれん。
 随分とクレバーな戦い方をするようになったな、古。
 私の今のコインによる攻撃…………名前なんて特に付けていなかったが、解説が“羅漢銭”と呼んでいるからそれでいこうか。
 羅漢銭は銃と違って空気抵抗が大きい分、距離が離れれば離れるほど威力の減衰が激しい。
 攻撃に適している距離は拳銃よりも更に短くて、いいところ5mまでといったところだろう。速度も鉄砲の弾よりは格段に遅く、肉眼でも十分視認出来る速度でしかない。
 だから今みたいに7~8mも距離をとられてしまうと当てるのは難しい。
 今のお互いの立ち位置は、私は開始当初から変わらずリング中央部。対する古は先ほど後ろに下がったときよりも更にリング端ギリギリまで下がっている。
 さすがにリング隅には行かないようにしているが、それでもこれだけ離れられると羅漢銭が当たらない。全て避けられるか棍で弾かれている。
 とりあえず40発ほどコインを撃ってみたが…………これで2万円の出費か。
 しかも古へのダメージは0ときた。やってられないな。他のコインじゃ重さが足りないから、500円玉を使うのは仕方がないのだが。
 ………………今度から500ウォン硬貨でも使うか? あれは50円ぐらいしか価値がないくせに、500円玉と同じくらいの重さだからな。
 しかも古の奴、最後の一発を弾いたときは狙ってやったのかわからないが、観客の方…………ネギ先生が立っているところに向かって弾かれてしまった。そしてネギ先生もその500円玉をキャッチしてた。
 やっぱり狙ってやっただろう。
 …………後で返してくれよ。
 ネコババしないでくれよ。
 今は睨み合いの真っ最中。
 私はコインを撃ってもこの距離なら有効打は無理だし、古もこの距離では攻撃出来ない。膠着状態になっている。
 古はどうやって私の懐に入ろうかと考えているのだろう。細かく左右に動きながら私の動きを伺っている。
 …………あ、舞台に落ちてた500円玉を棍で払って、またネギ先生のほうに跳ばした。
 絶対わざとやってるな。
 さて、どうしようか。
 接近すれば今よりは当たりやすくなるだろうが、古相手にこちらから接近するのは愚策だ。
 かといってこのままではお互いに決め手に欠け、タイムアップでメール投票で勝敗が決まってしまう。
 超からの依頼では、ウルティマホラチャンピオンの古が1回戦で負けては盛り上がりに欠けるので古を勝たせることになっているが、このままではどうなるかわからないな。
 かといって私から仕掛けて手痛いカウンターを食らうのは避けたい。
 明日の本命もあることだしな。
『おおーっと、試合開始直後は激しい展開でしたが、今はお互い距離を置いて睨み合っています!』
『どう見ますか、解説の豪徳寺薫さん?』
『はい。龍宮選手の羅漢銭は確かに驚異的でしたが、さすがにあそこまで離れるとクリーンヒットは望めないでしょう。
 しかし接近して羅漢銭を撃とうとしても、おそらく古選手がそれにあわせて接近戦を挑むと思われます。一方の古選手もあの弾丸のような羅漢銭に飛び込むのは至難のはず。
 警戒して両者とも動くことが出来ないのでしょう』
 まったくもってその通りだよ。
 あの解説は変な髪型しているのに、言ってることは普通だな。
 …………ム、古が構えた。
 左手は棍の真ん中を、右手は棍の私から見て奥側を持ち、先端を真っ直ぐ私に向けている
 “突き”の体勢だ。
 多少の被弾は覚悟で強行突破するつもりか。
 確かに私の羅漢銭の一撃よりも、古の棍の一撃の方が攻撃力は上だ。それならそういう考えが浮かんでも仕方があるまい。
 ただし、それは一撃だけに限っての話なのだがな。
 …………来る。
 ドンッ! という踏み込む音と同時に古が凄まじい勢いの突きを放つ。8mの距離を一歩で踏み込んでくる。
 おそらく八極拳の活歩と瞬動を組み合わせたものか。
 数ヶ月前までは気については無自覚に扱っていたというのに、ネギ先生との修行でよほど鍛えたのだろう。基本的な瞬動なら既に楓と遜色ない。虚空瞬動となるとまた違ってくるのだろうがな。
 だが、古の踏み込みよりも私がコインを撃ったのが一瞬早かった。
 もちろん1発だけではなく、一息に撃てる最大発射数の5発だ。
 あまり私の魔眼を舐めないでほしいな、古。瞬動のために足に気を集中させたのが見えたんだよ。
 そのおかげで古が瞬動をする瞬間、もう進路変更出来なくなる瞬間を狙って羅漢銭を撃つことが出来た。
 古の棍が私の身体の中心、鳩尾を狙っている。
 だが古の棍が私を突くよりも早く、私のコインが古の額を打つ!
「クッ!?」
 カウンター気味に撃たれたコインに驚いた古が目標を変え、私の鳩尾ではなく一直線に重なって飛んでくるコインに合わせるために突きの高さを上げる。
 一息に5発撃ったせいで全て弾の軌道はほぼ同じだ。棍の一突きで全ての弾が弾かれる。
 しかし、5発ものコインを一度に弾いたせいで古の突きの威力が格段に下がり、私はそのおかげで古の一撃を楽にかわせる。
 その上、瞬動中なので止まることも出来ずに、そのまま身を横にずらした私の目の前まで来る。
 瞬動は急には止まれないぞ。
 私の目の前には突きの体勢で動きを止めた古。対する私は自由に動けるとはいえ、一度に放てる羅漢銭を全て使い切っている。
 このままでは体勢を立て直した古に接近戦を挑まれて追い詰められるだろう。
 だが、私にはまだ左手が残っている。
 すまないな、古。私は両利きなんだよ。
 開始直後から右手でしか撃っていないから知らなかっただろうがな。
 私の目の前で半身を曝け出している古が体勢を立て直そうとするがもう遅い。
 バチュン! とコインを弾く。この至近距離から5発も当てれば、いくら古でもつらいだろう
 すまないが、いくら負けることになっていても今のお前相手に手加減は出来ないのでな。
 そしてパススッ! と寸分違わず、コインが古に当た……………………“パススッ!”?
 え? やけに音が軽くはないか?
「何の!」
 ズシン! と鈍い音がしたと思ったら、棍から放した古の右手が私の腹に当てられていた。
 それと同時に私の腹の中で衝撃が暴れまわる。これは…………、
「なるほど。浸透勁という奴か………………それよりその服は何だ、古?」
「私達のマスターがオーダーメイドで作ってくれた防弾防刃戦闘服アルよ。
 この服がなかったら危なかったアルね」
 ああ、なるほど。それで羅漢銭の威力が半減したのか。
 …………やっぱりネギ先生なのか。
 ああもう。本気でアレを敵にまわすのは止めておいた方がいいと思うぞ、超。
『ダウン! 龍宮選手ダウンです!
 カウントを取ります』
 縛りがあったとはいえ、本気で古と戦って負けるとはなぁ。しかも古は無傷に近いし。
 まあ、いくら武道四天王とは言われていても、最近のあの3人の修行は凄かったからな。いつの間にか追いつかれていたとしても不思議ではないか。
 それにネギ先生の性格を忘れていた私にも非がある。ネギ先生の性格だったら、自らの従者には最高の装備を渡すのはわかりきっていただろうに。
 それでもこんな風に負けたのは、正直言って悔しいな。
 刹那や楓とは一度ヤッてみたいとは思っていたが、これだともし戦ってもアッサリと負けてしまいそうだ。
 麻帆良に来てからでも鍛錬を欠かしたことはないが、それでも強くなるという向上心においては刹那達には遠く及ばないのだろう。
 …………私、この学園祭が終わったらネギ先生たちの修行に混ざって鍛え直すんだ。
━━━━━ ちびせつな ━━━━━
 何気に初めての出番ですー。
 それにしても本体は楽でいいですね。
 調査は式神の私に任せておきながら、自分は悠々とネギ先生の試合を観戦ですか…………。
「ちびせつなさーん、ここから入れそうですよー」
「はーい、ちびネギ先生。………………ここは、下水道でしょうか?」
 ま、それならちびネギ先生は私が独り占めさせてもらいますけどねー。
 只今私はちびネギ先生と一緒にふよふよと浮かんで会場裏を探索中です。
 ネギ先生は本当に凄いですぅ。
 東洋呪術に触れてからまだ半年も経っていないのに、補助目的で本腰を入れていなかったとはいえ長年修行を積んでいた本体よりも上手になるなんて、関西呪術協会の術者でもそんな簡単にはいきません。
 おかげでちびせつなと一緒に行動してくれる“ちびネギ先生”が誕生しました。
 ネギ先生の本体は木乃香お嬢様や私の本体達の相手で精一杯で私に構ってくれる時間はありませんでしたけど、ちびネギ先生は私が独占です。
 ネギ先生から探索のお願いをされたのでわざわざこんな地下に潜ることになりましたけど、ちびネギ先生が一緒なら嬉しいです。まるでデートみたいですぅ。
 しかも不用意に念話で連絡を取ると相手に察知される危険があるので、私達2人ともスタンドアローンで行動中です。
 これって本体達からの邪魔が入らないってことでもありますよね。
 それにちびネギ先生は『千の雷』1発分放てるぐらいの魔力は内蔵しているらしいので、何かに襲われたとしても安心です。
 本体は木乃香お嬢様を守る騎士の立場に誇りを持っていますが、私としてはちびネギ先生に守られるお姫様にも憧れるんですよねー。
「あ、何か奥に扉ありますね。
 行ってみましょうか」
 あ、待って下さい、ちびネギ先生。
 こんなところに1人で置いてかないでくださいー。
━━━━━ 後書き ━━━━━
 遺産分配やっとけやゴルァァァ!
 …………ま、使い古されたネタですかね。“中の人繋がり”。
 ちなみに500円玉の素材であるニッケル黄銅は、同じ体積のタングステンに比べたら半分ぐらいしか質量はありません。
 もちろんバーリトゥードゥだったらたつみーの勝ちです。
 だが、今回の試合ルール上では古の勝ち。防弾防刃戦闘服がなくても古が勝っていたでしょう。
 ネギが用意した防弾防刃戦闘服は二回戦への影響がないぐらいの役割です。気による防御力アップとこの服の防御力が合わされば、小口径の銃弾ぐらいならへっちゃらでしょう。
 でも世界で最初の防弾チョッキは、中世の日本において絹で作られていたものというのは調べてビックリしました。
 そしてちびネギはちびせつなみたく普通に魔法が使えますし、何より最終奥義“自爆”が使えます。威力は内蔵魔力次第です。
 それに加えて、ちびネギは108体までいます。
 しかもまだ増える可能性アリ。
 魔力が余ったら式神符を内職してましたので。