━━━━━ 超鈴音 ━━━━━
「ありがとう、龍宮サン。上手く負けてくれたネ。
人気No.1の優勝候補が1回戦で負けてしまてはアレだからネ。おかげで会場は非常な盛り上がりネ」
「……………………」
あ、何だか本当に悔しそうヨ。
いくら古に対して有利なルールだったはいえ、本気でやって古に負けたのがそんなにショックだたのかネ?
古と龍宮サンの試合が終わた後、報酬を渡すために私の部屋まで来てもらたけど、こんな龍宮サン初めて見るヨ。
モニタには次の試合、田中さんと佐藤選手の試合。
佐藤て人は今まで噂には聞いたことないから、おそらく気に目覚めただけの一般人のようネ。実力も関係者より劣るようで、田中さんのただのパンチが佐藤選手に突き刺さている。
フフフ、未来人の名に懸けて、ネギ坊主のユニコーンガンダムには負けられないヨ。
何せあの田中さんはこの武道会のためにハカセが改造に改造を重ねた一品。いくらネギ坊主には勝てなくても、結構いいところまで善戦してくれなければ困るヨ。そのためにもこの試合ではその全てを発揮していないのだからネ。
この大会で良い結果を出さなければ明日の本番が不安になるシ…………。
「これが報酬ネ」
「遠慮なく頂いておこう」
どうゾ。
羅漢銭で結構500円玉を使ていたし、古の浸透勁でコートも破れてしまたみたいだからネ。
少し色をつけておいたヨ。
しかし、古は本当に強くなたネ。
まさか本気で龍宮サンに勝てるとは思わなかたヨ。
古自身の努力もあるが、やはり勝てた根本的な要因はネギ坊主カ。いくら古が勝つのが予定通りとはいえ、筋書き通りではないのが怖いヨ。
でも確かにネギ坊主の性格なら、ああいう防具にも気を払うのは当然のことネ。予想していなかた私達が悪いヨ。
またくネギ坊主はいろいろとしてくれるヨ。
モビルスーツで出場するといい、古のことといい…………。
それにしても本当に参たヨ。魔法バレのための武道会なのに、魔法を使てくれるような人が全然いないヨ。
あるとしたらネギ坊主か、あの魔法使いのコスプレをしているクウネル・サンダースぐらいのものだけど、そもそもクウネル・サンダースは魔法使いかどうかわからないヨ。
もしかしたら…………というより、普通にタダの一般人?
予選を見る限りでは相当な手練なことはわかたガ…………ん? 出場希望用紙に書かれた所属が図書館島の図書館司書?
…………調べておいた方がよさそうだネ。
計画に不確定要素はつきものとはいえネ。
それ以外の出場者は、自然に気に目覚めただけの一般人か、楓サンや古のように気を使える関係者だヨ。
せかくネットに試合内容を流出させる準備をしていたのに、これじゃ魔法バレ武道会じゃなくて“気が使えるビックリ人間大集合”で終わてしまうネ。
何とかしないといけないヨ。
「…………超、まだ続けるつもりか?」
「当然ヨ。そのために今まで準備してきたのだからネ」
「やはりネギ先生に全て打ち明けるというのは駄目なのか?」
「…………駄目ヨ。不確定要素が大きすぎるネ。
ネギ坊主なら私達より良い手段を思いつくかもしれないというのは同感だけれど、そもそも協力してくれない可能性があるネ。
いや…………それだけならまだいいが、もし全て話した結果で積極的に敵対されてしまたら更に無理ゲーになてしまうヨ」
そう、素直にネギ坊主に事情を話してそれをネギ坊主が信じてくれたとしても、ネギ坊主が私達に協力してくれる…………いや、ネギ坊主に私達が協力するのでもいいが、ネギ坊主が魔法世界を救うために動いてくれる確率は半々。
ヘタしたらそれ以下だと思うヨ。
ネギ坊主は確かに私以上の天才だヨ。だけどそれ以上に子供なのだヨ。ここ最近のネギ坊主を見てよくわかたネ。
超家の家系図にネギ坊主の母親のことは載ていたから、私もネギ坊主の裏の事情はわかている。そしておそらくネギ坊主の頭なら、自分の母親のこととそれに付随する問題のことも既にわかているのだろう。
そんなネギ坊主が、自分の母親を生贄として平和を成立させた魔法世界を救うなんてしてくれるのかネ?
「人の母親を生贄にした人達を助けろ? ああいう恥知らずな人達は僕嫌いなんです。
魔法世界の何も知らない一般人? 恨むのなら僕ではなく、自分達が選挙で選んだ元老院を恨んでもらってください。民主主義っていうものはそういうものでしょう。
僕は魔法世界の人達に対して何の義理も情も持ち合わせていません。自分達のことは自分達でやってください」
という感じで終わらせる確率の方が高いヨ。
アスナさん達に対するネギ坊主の扱いからするとそう思うネ。自分に厳しく敵には容赦なく、味方に優しく守る人には激甘。
「…………超の言っていることはわかるのだがな。確かにネギ先生の性格では協力してくれるとは考えにくい。
それでも現状では成功率は限りなく低いと言わざるを得ないぞ」
「わかてるヨ。こうなてはネギ坊主が明日の朝に、1週間後の未来へ跳ばされることを祈るしかないネ」
やれやれ、ネギ坊主は扱いにくいにも程があるヨ。学園長達の気持ちがよくわかるネ。
大人なのに子供。子供なのに大人。
いろいろとアンバランスな感じダヨ。年齢的には仕方がないのだけどネ。
『おおーっと!? 佐藤選手に田中選手のビームが直撃!!!
大丈夫か佐藤……選……手?
…………。
……………………。
………………………………へ、変態だーーーーーっ!?』
「目が腐る」
ピッ! と龍宮サンがモニタを消した。
…………よく見えなかたけど、田中さんのビームで全裸になたムキムキマッチョがいたような…………。
開発した私が言うのもアレだけど、田中さんの装備はもうちょと考えた方が良かたね。あのビームもこの試合では封印しておけばよかたヨ。
さて、次はネギ坊主と高畑先生の試合カ。
ネギ坊主がどんな戦い方をするのか楽しみだヨ。
━━━━━ 絡繰茶々丸 ━━━━━
このとき解説役を務めていた豪徳寺薫さんは、戦いの様子をこう語られました。
「ユニコーンガンダム選手が高畑選手を倒すのに要した所要時間ですか?
いや…………もうホント10秒ぐらいで、ええ」
それは試合開始の合図からということでしょうか?
「はい。ですからユニコーンガンダム選手が高畑選手の後ろを取るための時間を含めて10秒になります」
そうですね。
…………あ、只今VTRが届いたので確認しましたが、全試合時間は27秒となっております。
ネg…………ユニコーンガンダム選手は試合開始の合図がかかると同時に一瞬にして高畑選手の後ろに回りこみ、高畑選手の背後から首に右腕を回し、左腕でその右腕をを抑えるという絞め技を仕掛けました。
そしてユニコーンガンダム選手が高畑選手の首を絞めて失神させるまでで11秒。アッサリと高畑選手が失神してしまったことに驚いたのか、審判がカウントを取るまでそこから6秒かかっていますね。そして10カウントで試合終了となっています。
その後ろに回ったときなのですが、静止画で確認するとユニコーンガンダム選手の身体のアチラコチラで赤く発光しており、額の一本角が2本の金色の角に分離しています。高畑選手の後ろに回ったときは既に最初の白い姿に戻っていましたが…………。
それと高畑選手の後ろに回ったユニコーンガンダム選手が仕掛けた技は“裸締め”という技とのことですが、高畑選手は逃げることも出来ず、そのまま失神して負けてしまいました。
高畑選手はあの技を外すことは出来なかったのでしょうか?
「え? 裸締めを外せないのですかって? 高畑選手がですか?
…………ん~、やはりわかっていませんね。私らも喧嘩をやっている身ですので、これだけはワカります。
完全にキマった裸締めは絶対に逃げられない。
ちなみに裸締めというのは、相手の背後から両掌を合わせる形で両手を組んで手首や前腕を相手の喉にあて絞め上げる技です。
他にも首に片腕を回してもう一方の片腕の肘の裏もしくは上腕のあたりを掴み、もう一方の手で相手の後頭部を押してそのまま絞めるタイプなんかもあります」
英語ではチョークスリーパー、もしくはスリーパーホールドと呼称されている技ですね。
気管を絞める技であるチョークと、頸動脈を絞めるスリーパーホールドとは本来別のものを指す言葉なのですが、現在では混同されているようです。
そして今回のユニコーンガンダム選手が仕掛けた技は頸動脈を絞めるスリーパーホールドに当たると思われます。
「そうです。先ほど絡繰さんが仰られたように、高畑選手は裸締めを仕掛けられてから10秒ほどで失神してますね。
気管を絞めるチョークでは呼吸が出来なくなりますが、それでも人間は無呼吸で1分以上は生きられます。しかも急所である気管や喉仏を強力に圧迫されたら、もがき苦しむことになりますね。
それに比べて、スリーパーホールドで喉仏や気管を絞めずに綺麗に頚動脈洞だけを圧迫した場合だと苦痛はほとんどありません。そして頚動脈洞反射が起こるため、約7秒で失神して戦闘不能状態に陥ってしまうのです。
ああ、先ほど「完全にキマった裸締めは絶対に逃げられない」と言いましたが、もっと厳密に言うと逃げられる返し技がないというべきですかね。
アハハハ…………ここであえて“技”という言葉を使ったのはですね、“あれは技じゃない”からです」
はい。失神した高畑選手はそのまま後ろに倒れこみました。
その際に背後から裸締めを仕掛けていたユニコーンガンダム選手は、床と高畑選手の間に挟まれてしまいましたね。
「ええ。しかもその挟まれたときの衝撃が強かったのか、裸締めが解かれてしまいましたね。
とはいえ反撃も許さずに、実質10秒で終わらせるなんて素晴らしい勝ち方です」
…………高畑選手は、最初っから最後までずっとポケットに手を入れたままでしたね。
「はい。何を考えてたんですかね、高畑選手は? 余裕のつもりだったのでしょうか?
予選のときも高畑選手は近づく敵が片っ端から倒れていくというナゾの技を使っていましたが、まさかポケットに手を入れなければ使えない技というわけじゃあるまいし…………。
おそらく余裕のつもりだったのではないかと思います」
油断大敵、ということですね。
…………あ、ユニコーンガンダム選手からのコメントが届きました。試合終了後、高畑選手の介護をする救急班の邪魔にならないようにと控え室に移動したユニコーンガンダム選手ですが、審判が控え室で勝利コメントを貰ってきたようです。
えー…………『煙草臭かった』? ユニコーンガンダム選手のコメントは『煙草臭かった』でした。
それと「長くて呼びづらかったら“ガンダム”だけでいいですよ」ともコメントが…………。
「あー、高畑選手はヘビースモーカーでも有名ですからね。
あれだけ密着したら、そりゃあ煙草臭いでしょ…………ってあれ? ガンダム選手はロボットなんじゃ?」
…………臭いセンサーでも搭載しているのではないでしょうか。
さて、次の試合の準備が出来たようですね。
それでは次の試合に参りましょう。
━━━━━ 神楽坂アスナ ━━━━━
「…………タカミチ、格好悪かったわね」
本当は言っちゃ駄目だけどね。
さすがにアレは無理だろうから…………。
「せっちゃんなら大丈夫?」
「無理です。あそこまで完璧に入られたら、私も高畑先生と同じく落とされて終わりでしょう。高畑先生の後ろをとるときの動きも完璧です。初見では私達でも絶対無理ですよ。
それこそ全力状態のエヴァンジェリンさんクラスでないと無理ではないでしょうか」
…………かなり落ち込んでたけど、タカミチったら大丈夫かしら?
まあ、技の一発、咸卦法の一つも出すことが出来ずに負けちゃったら、気を落とすのも仕方がないけど。
試合後、すぐに起きることが出来たタカミチだけど、さすがにあの結果はショックだったみたい。
しばらく頭抱えて呆然としていたわ。
そこにちびネギとちびせつなちゃんが戻ってきて、会場の裏に怪しいものを見つけたって報告をしてくれたんだけど、調査に行こうにもネギはこれから試合が続くから、ネギの代わりに負けて試合がなくなったタカミチが1人で行ってくれることになった。
戻ってきたばかりでちびネギとちびせつなちゃんも疲れているだろうから、ってことで2人の案内もいらないって言ってたわね。
…………というか、むしろ1人になりたかったみたいね。
私達はさすがに何も言えなかったわ。
これからのネギの試合の応援もしたかったから丁度良かったとはいえねぇ…………。
でもこれで一回戦も終わり。二回戦は
第九試合が アル VS 小太郎君
…………小太郎君も可哀想に。
でも良い体験にはなるだろうから、この試合を糧に成長できたらいいわねぇ。
第十試合が くーちゃん VS 楓
これは…………楓がまだ有利かしら?
第十一試合が ネギ VS 田中さん
ロボット対決か。
…………別に田中さんを壊しても、ネギに修理代とか請求来たりはしないわよね?
第十二試合が…………知らない人達。
別にどうでもいいわ。どうせ準決勝ではネギと戦って終わりなんだから。
…………これだと決勝はネギとアルの試合になりそうかな。
でも、普段のネギならアルにも余裕で勝てるんでしょうけど、今のネギはユニコーンガンダムオンリーだからどうなのかしらね?
決勝は(ある意味で)面白くなりそうだわ。
でも超さんもやっぱり何か企んでいるみたいだし、このまま素直に麻帆良際を終わることが出来なさそうなのが嫌ねぇ。
「フフ…………、タカミチ君も大変ですね」
「あら? アルじゃない」
いきなり私達の後ろに気配が出現したと思ったら、いつの間にかアルが転移していた。久しぶりね。
エヴァちゃーん、ネギの言った通りにやっぱりアルが来たわよ。
「何をやっているんだお前は? 選手控え室に居なくていいのか?」
「あなたも元気そうで何よりです、エヴァンジェリン…………というか、驚いてくれなくて残念です。
アスナさんは随分と変わりましたね。このように改めて間近で見ても信じられませんよ、アスナさん。
人形のようだったあなたが、こんな元気で快活な女の子に成長してしまうとは…………」
「まあね。昔とは大きく変わったという自覚はあるわ」
「はい。友人にも恵まれているようですし、ガトウ・カグラ・ヴァンデンバーグがあなたをタカミチ君に託したのは正解だったようですね。
京都であなたの記憶が戻ってしまったということを聞いたときは心配しましたが、もうあなたは大丈夫のようですね」
ええ、私はもう大丈夫。
ネギがいる。木乃香や刹那さん、エヴァちゃん達もいる。もう昔みたいに空っぽで何も無い私じゃないもの。
「良い顔です。恋する乙女は強いということでしょうか?
フフフ…………ナギのパートナーになると言っていたあなたが、まさかネギ君のパートナーになるとは思いもしませんでしたよ。それにまさかキティまでもがネギ君に熱を上げるなんてのは、さすがの私でも本当に予想外でしたねぇ。
…………というか、本当に驚いてくれませんね。エヴァンジェリンやアスナさんはともかく、木乃香さん達も私を見て驚かないなんて………………あの、刹那さん。
盟友である詠春の娘の木乃香さんに危害を加えようなんて思っていませんから、木乃香さんを庇いつつ不審者を見るような目で見るのはやめてください」
「…………失礼しました」
あらかじめネギがアルについて話してあったからね。ついでに私とエヴァちゃんで、アルの性格について皆に話しておいたわ。
恨むんなら今までの自分の仕出かしたことを恨みなさいな。
それに私がナギのパートナーになるって言ってたのは昔の話よ。
「やれやれ…………どうやら本当にネギ君は規格外のようですね。そんなところもナギに似ています。皆さんで行なっている修行のときも、ネギ君の結界のせいで何をしているかわかりませんし…………。
ああ、そういえば挨拶が遅れましたね。
我が名はアルビレオ・イマ。“千の呪文の男”……ナギ・スプリングフィールドの友人です。あなた達には“ネギ君のお父さんの友人”の方がわかりやすいでしょうか。
それとさっきも言った通り、木乃香さんのお父さんである詠春の盟友でもあります。
まあ、トーナメント表どおりに“クウネル・サンダース”とお呼びください。気に入ってますので」
へぇ~、私達の修行はネギの張った結界内で行うし、ネギは本気で模擬戦を行なうのは“幻想空間”でしかしてないから、やっぱりアルはネギの本当の実力を知らないみたい。
さすがのアルでもネギやエヴァちゃんに気づかれないように“幻想空間”に入り込むなんてことまでは出来ないでしょうし…………。
横にいるエヴァちゃんもそのことを確信したようで、とても凄いイイ笑顔をしている。
どうせ決勝でアルがネギにボコボコにされるのを見て大笑いしてやろうなんて思ってるんでしょうね。
「…………あの、本当に何も聞かれないのですか? 質問とかないのですか?
特にキティ。ナギのことついてとか、何で私がこの大会に出たのかとか…………」
「うん? 聞きたいことはあるにはあるが、今はせっかくの学園祭だからな。学園祭が終わってからでいいだろう。
それにこの大会に出た目的も予想がついている。お前のアーティファクトが関係しているのだろう。ちなみにネギもお前のことはもちろん、お前のアーティファクトのことについても知っているぞ。
ああ、そろそろ菲と楓の試合が始まるな。お前も選手控え室に戻れ、アル」
「…………はい、わかりました。
あと出来ればクウネル・サンダースとお呼びください」
…………アルががっかりしてる。
やっぱりアルって天邪鬼なところがあるから押されたら引くけど、逆に引かれたらつまらなくなっちゃうのかしら。
ネギったら会ったこともないアルの性格をどうしてこうまで理解出来てたのかしらね。おかげでエヴァちゃんはアルをやり込めてご満悦だけどさ。
今の内に予言しておくわ、アル。
ネギは絶対にあなたの思い通りには動かない。
ただし、ネギ的にはそれが当然のことだから、罪悪感とかは感じずに息を吸うようにソレを行なうわよ。
━━━━━ 後書き ━━━━━
“まるで駄目なオッサン”っていうか……チョット軽蔑しちゃいますね。
そこはホラ……男の本能っていうか……ハハ。
ネギは日頃の行いの悪さのせいで超達に信用されてません。
あんだけ散々ハッチャケてたら仕方がありませんが。