━━━━━ 犬上小太郎 ━━━━━
…………凄い久しぶりな気がするな、出番。
それにしても、やっぱり優勝は無理やったか…………1000万円が。
まあ、ネギが出ることになってた時点で半分以上は諦めとったけど…………。
「ここにいたか。
まだ決勝は始まってないみたいでござるな」
「おー、残念やったな、楓姉ちゃん。試合はまだ始まってないでー」
「おお、楓。怪我は大丈夫アルか?」
楓姉ちゃんが戻ってきた。
やっぱり楓姉ちゃんの戦いは凄かったなぁ。あのクウネルっちゅーのにあそこまで食い下がれるなんて…………。
今の俺では楓姉ちゃんにも敵わんわ。
「大丈夫でござるよ。
さきほどネギ坊主が治してくれたでござる…………トイレで」
「………………は? トイレっ!? ど、どーゆーことアルか!?」
「モビルスーツ状態ではネギ坊主は魔法が使えないでござるからな。
それとモビルスーツの中の人がネギ坊主だということがバレるわけにはいかないから、トイレでコッソリと『咸卦治癒』をしてくれたのでござるよ」
「ほ、ほほぉ…………そういうことなら仕方がないアル…………ね」
え? 何か変な話になってきとらん?
俺を挟んで女の戦い勃発?
「いやぁ……ネギ坊主は幻術で大人の姿になっていたから、そんな大人のネギ坊主……ネギ殿とトイレの個室で2人っきりになるというのはドキドキしたでござるな。何というか背徳感がビシビシと…………。
しかも『咸卦治癒』のために触れ合ったでござるし」
「……………………」
「拙者はネギ坊主に恋愛感情を持っているつもりではなかったが、ネギ坊主に夢中になっているアスナ殿達の気持ちが少しわかったような気がするでござるよ。
頬の怪我を治すために、ネギ殿に頬を優しく撫でられながら「良い試合でしたよ、楓さん」って耳元で囁かれたときは、正直言ってキュンと来たでござる」
「…………ち、ちなみに男子トイレだったアルか? 女子トイレだったアルか?」
「秘密でござる…………と言いたいが、普通に男女兼用のトイレでござったよ」
「そ、それならまだいいカ………………というか楓だけなんてずるいアルよ!」
「だって古は怪我らしい怪我はしてないでござる」
「クッ! こんなときはネギ坊主の過保護振りが憎いアル!!! 防弾服さえ装備してなかったら!!!
…………いや、最後に真名からやられた脇腹が内出血で少し青くなっているから…………」
お願い! 俺の頭の上でそんな話せんといて!
こんなときってどういうリアクションをとればいいんや、俺は!?
「ク、クウネルの奴が舞台に出て来たで!!!」
もうさっさと試合始めてくれや…………。
それにしてもネギはクウネルとどうやって戦うんやろうな?
ビームサーベルがあるからクウネル自身には楽に勝てるんやろうけど、どうやらあのアーティファクトを使われると効かないみたいやし…………。
楓姉ちゃんがビームサーベルを前の試合で使わなければ、虚を突いておそらくあっという間にビームサーベルで勝てたんやろうけど、多分クウネルの奴も何かしらビームサーベル対策を考えているはずや。
「コタロー、よく見ていると良いでござるよ。
この試合でネギ坊主とお主の違いが良くわかるはずでござる」
「ん? ネギがどうやって戦うんかわかるんか?」
「ネギ坊主からは聞いてはいないアル。でも、ネギ坊主の性格からすると簡単に予想出来るアルよ」
…………まあ、楓姉ちゃんも菲部長も俺よりはネギとの付き合い長いからな。しかもネギの従者やし。
それならわかるんやろ。
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『出ました! クウネル・サンダース選手!
口元には余裕の笑みを浮かべているーーー!! 確かにここに至るまで傷らしい傷も負っていないようだ!!
先ほどの準決勝ではフードを脱ぐたびに顔がコロコロと変わっていましたが、それと同時に使う技も変化していきました!
まさに正体不明の謎の無敵魔人だ!!』
相変わらずニヤニヤと笑っててムカつく奴やなぁ。
奴の正体は“紅き翼”のアルビレオ・イマ。
でも強かった。
俺は手も足も出なかったし、楓姉ちゃんも結局負けたしな。
『さあ、対するは!
麻帆良驚異の超科学で作られたらしいロボット!! ASIMOやAIBOなんか目じゃねーよと言わんばかりの高性能!!
一回戦ではデスメガネの高畑選手を絞め技で落とし、二回戦では同じロボットの田中選手を完膚なきまでに破壊せしめたユニコーンガンダム選手ーーーっ!!!』
白い何かがズドド、と背中のバーニアから火を噴いて飛んでくる。
舞台に降り立つは一本の角を生やした真っ白なロボット。
そういえばアレは京都で見た2種類とは違うよな。
ネギのやつはいったいどれだけの種類のモビルスーツを使えるんやろ?
そしてネギと俺はいったいどれくらい力の差があるんやろう?
京都ではアッサリとネギ達に負けた。
最初は魔法でヘロヘロにされ、楓姉ちゃんに完封され、電撃で気絶させられて、最後にはネギさんにブン殴られた。
………………本当によく生き残れたよなぁ…………。
『それでは決勝戦―――』
いよいよ始まる。
決勝戦だから観客の声援が凄い。
クウネルは審判の姉ちゃんが試合開始合図をし始めると同時に手にアーティファクトカードを持って、いつでもアーティファクトを使用出来るように準備した。
対するネギは全身の装甲が展開して赤く光り始め、額の一本角もV字に割れて金色に光った。タカミチさんとの試合のときに一瞬見せたあの変身verや。
………………変身出来るってカッコエエなぁ。
『―――Fight!!!』
遂に始まった!
開始合図とともにクウネルのアーティファクトが発現され、たくさんの本がクウネルの周りを取り巻『アーティファクトは使わせません!!!』…………こうとした瞬間、ネギの念話が辺り一帯に響く。
そしてネギが一瞬で間合いを詰め、クウネルの顔にパンチをブチ込んだ。
パンチをブチ込まれたクウネルは舞台に叩きつけられ、そのままネギはクウネルの上に馬乗りになってオラオラを連打している。
…………。
……………………。
………………………………あっれぇ~? タカミチさんのときと同じ展開なの?
「そうでござるよねぇ~」「そうアルよねぇ~」
えっ!? それでええんかい、楓姉ちゃん!? 菲部長も!?
アレは試合じゃないで! リンチか何かの別物やで!
「? 何かネギ坊主の行動は間違っているでござるか?」
え? 間違い?
…………そう言われると……どうなんやろ?
確かにアーティファクトが強力なら、使わせなければいいだけなんやけど………………それでもどっか間違ってあらへん!?
『ちょ!? ちょっと待って下さい、ネギ君!!!』
クウネルの念話も聞こえた。
どうやらクウネルもこの展開は予想外やったみたいやなぁ。
…………あ、観客席にいるエヴァンジェリンがクウネルを指差しながら笑い転げている。
今のクウネルの慌てた感じの念話………………むしろ悲鳴がツボに入ったみたいや。
転移して一度逃げればいいんやないかと思ったけど、よく見たらクウネルのローブにいつの間にかビームサーベルが刺さっていて、それで舞台に縫い付けられている。
ローブが消えていないことから見ると、完全魔法無効化verやないみたいや。きっと影縫いみたく、転移魔法とかの妨害しつつ動きを封じる術式なんやろ。
ネギはそのまま馬乗り状態でオラオラを続けながら、たまに発現し直すクウネルのアーティファクトを殴って弾き飛ばす。
解説席に置かれているネギの電光掲示板には、
『無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄カウントまだ?』
って表示されてる。そういえばクウネルは倒れているのにカウントされてないわ。
あー、審判の姉ちゃんはポカーンとした顔でクウネルがボコられているところを見てるわ。
……………………無理ないな。
「そうでござるよなぁ。
別に実戦じゃなくてルールのある試合なんだから、カウント負けを狙っても良かったのでござるよ。大会ルールがあるからこそ、逆にクウネル殿に勝つ手立てがあるということでござるな」
「でも楓にはつらくないカ?
私達ではあのネギ坊主みたく圧倒的な攻撃で動きを封じることは出来ないし、転移を妨害することも出来ないアルよ」
「それは確かに。でもアレならアーティファクトを使わせないことが出来るし、クウネル殿をビームサーベルで消去して武道会が中止になるやもしれない事態を避けることが出来るでござるな」
「ああ、それはそうアルね。考えてみればクウネルをビームサーベルで消滅させたら、武道会どころじゃなくなるアルね」
アッハッハ、と朗らかに笑っている2人。
変なのは俺か!? 違和感を感じている俺が変なんか!?
言ってることはわかるで! 言ってることはわかるけど、それでも絶対どこかおかしいやん!
「見たらわかるでござろう、コタロー。ネギ坊主は“勝つために戦う”という目的を明確に立てているでござる。
対するコタローは“楽しむために戦う”のが多いでござるな。まぁ、拙者達にもそういうところはあるから悪くは言えないでござるが…………」
「ネギ坊主の思い切りの良さは凄まじいものアルよ。その思い切りの良さが、戦いにおける瞬時の判断力に繋がっているアル。
一言で言って“覚悟をしている”アルよ」
「コタローも覚悟をしているように見えて実はそうではない。ハッキリ言ってあまり物事を深く考えていないでござろう?
深く考え込んでからした“覚悟”と、あまり考えずにした“覚悟”。どちらの覚悟の方が強いのかはわかるはずでござる」
急に話変えんといて。
…………それにしても“覚悟”、か。“意思”っちゅーてもええか。
確かにそれはネギの方が持っているかもしれんな。
考えてみれば俺は京都の時だって“いけ好かない西洋魔術師と戦いたい”なんていう、今考えるとしょうもない理由でネギ達と戦った。
そのためには他の事なんかどうでもええって考えていたけど、今から思えばそもそも考えてなかったんや…………。
…………うわぁ、メッチャ俺ガキやったやん。
「くさるでないゾ、コタロよ。
ネギ坊主が特殊なだけで、コタロの年なら間違いがあって当然アル。反省したのならそれを糧にして、これからへ繋げていけばいいアルよ」
「偉そうなことを言っている拙者達もまだまだ修行中の身でござるしな」
わかっとるわい。
別に慰めなんていらへんよ。
俺が弱いっちゅーのは京都で十分わかっとる。
これから修行を積んでいって、いつかはネギに一泡拭かせたるわ。負けは認めたけど、諦めたりせえへんからな。
『………………あっ!? 失礼しました!
カウントを数えますっ!!!』
いや、もう確実に10秒以上経ってるで、審判の姉ちゃん。
ネギのオラオラはまだ続いている。
クウネルは転移も出来ず、あまりの圧倒的なオラオラのために反撃も出来ない。もう詰んだやんか。
『ネギ君、話を! 少しでいいから話を聞いてください!
実は10年前にナギから頼みを承っていてっ!』
『あなたは何を言っているんですか?
「パワーアップするからちょっと待って」
と言われて待つ馬鹿が何処にいます!?』
そりゃそうやなぁ。
カウントも7……8……9……10。あーあ、終わってもうた。
試合終了の判定の声が響き渡る。
クウネルの奴は何か戦う以外に目的があったみたいやけど、結局ネギのせいでそれは出来んかったみたいや。
まさかこんな力押しで勝つとは…………ネギも酷い奴やな。
舞台には“WRYYYYYーーー!”って感じでクウネルを踏みつけ、吠えるかのように立ち上がるネギ。
そしてローブに穴は開けられたけど、分身体のおかげで怪我一つない状態で判定負けを下された、どこか寂しそうな雰囲気を漂わせているクウネルが横たわっている。
ダメージはないはずなのにピクリとも動かんわ。
…………。
……………………。
………………………………うん、しょうがないわな。
だって、ネギなんやしな。
━━━━━ 瀬流彦 ━━━━━
「ネギ君、優勝出来たみたいですねぇ」
「そりゃあそうだろう。いくらルール縛りがあるとはいえ、ネギ先生が負けるところなんて想像がつかないさ。
それより高畑先生はまだ来な…………お、来たか。授賞式が終わったみたいだから良いタイミングだな」
そうみたいですねぇ。
空を見上げるとユニコーンガンダムが空を飛んでどこかへ去っていくのが見えてますので、授賞式もちょうど終わったのでしょう。
優勝賞金は1000万円か。凄いなぁ。
まあ、どうせネギ君のことだから、自分の従者のために使うんだろうけどさ。
若い…………というより幼いって微笑ましいね。
何度かネギ君の従者へのプレゼント選びに付き合ったことあるけど、真剣にプレゼント選んでいるネギ君の顔を見るとそのときばかりは年相応の顔になっているんだよねぇ。
「ネギ君は呼ばなくていいんですか?」
「…………呼んだ方が心強いのは確かだが、何でもかんでもネギ先生に頼るわけにはいかないさ。高畑先生も来てくれたし、私達でまず何とかしてみようじゃないか。
それにせっかくの麻帆良祭だ。ネギ先生には少しでも良い思い出を作って欲しいからね」
それは確かにそうですけど、相変わらずネギ君に甘いですね、ガンドルフィーニ先生は。
でも確かにネギ君はいつも教師の仕事から魔法先生の仕事まで一生懸命やってくれているから、こういうお祭りのときぐらいは楽しませてあげたいな。
…………それにしても今回の学園祭は告白阻止という大仕事がネギ君のおかげで楽になったのに、ネギ君のクラスの子のおかげで別の手間が増えちゃったよ。
超君の調査をしていた高畑先生が罠に嵌って監禁されたらしいけど、無事に脱出することが出来たので僕達に連絡が回ってきた。
どうやら超君は“魔法の存在を世界に公表する”ということを企んでいるらしいねぇ。
この大会はそのために開かれたのかもしれないけど、あまり大きな成果はなかったようだね。
ネットでもこの大会のことは話題になっていたけど、“魔法”なんて単語が出てきたのは準決勝の第一試合。長瀬君 VS クウネル選手のときだけだった。あとは気が使える人が少し話題に上ったぐらいかな。
最終的にネットの反応は“麻帆良の科学力マジパネェ!”で終わってた。これもネギ君がモビルスーツで出てくれたおかげかな。
ま、それでも見過ごすわけにはいかないから、とりあえず超君を捕まえてから事情を聞くことになったけど…………。
「お待たせしました、ガンドルフィーニ先生」
「ああ、まだ超鈴音は来ていないですよ。
それと高畑先生は大丈夫ですか? 超鈴音に監禁されたと聞いたし、そもそも武道会でネギ君に負けてしまったと聞きましたが、怪我はないですか?」
「…………はい、大丈夫ですよ」
…………アレ? 何でだろう?
笑顔のはずの高畑先生が怖いよ。
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「待ちなさい、超君」
授賞式が終わり、会場を出てきた超君を魔法先生達で取り囲む。
僕はあまり攻撃は得意な魔法使いじゃないけど、それでも女の子1人取り押さえるぐらいなら出来るしね。
「やあ、高畑先生。これはこれは皆さんもおそろいで………………え? アレからまだ1時間も経てないヨ?」
「職員室まで来てもらおう、超君。君にいくつか話を聞きたい」
「…………な、何の罪でカナ?」
…………余裕がある子だなぁ。ちょっと高畑先生には及び腰だけど。
だいたい君が高畑先生を監禁したんだろうに、よくその当事者を目の前にしてシラを切れるもんだね。
「罪じゃないよ。ただ話を聞きたいだけさ」
「高畑先生! 何を甘いことを言っているんです。要注意生徒どころではない。この子は危険です!!
魔法使いの存在を狂評するなんて…………とんでもないことです!!」
わかったから落ち着いてください、ガンドルフィーニ先生。
「(お、落ち着くネ、私。高畑先生がいるのは予想外だたガ…………)
…………フフ、古今東西。児童小説、漫画でも魔法使いはその存在を世間に対し秘密にしている…………という話は多いネ。何故カナ?
私から逆に聞こう。何故君達はその存在を世界に対し隠しているのカナ? 例えば…………今大会のように強力な力を持つ人間が存在することを秘密にしておくことは、人間社会にとって危険ではないカ?
……………………そう、例えばネギ坊主のような存在は!!!」
「「「「「………………………………」」」」」
…………。
……………………。
………………………………いや、反論しましょうよ、皆さん。
ホラ、ガンドルフィーニ先生。“痛いところ突かれちゃった!”みたいな顔しないでくださいよ。
高畑先生も頭を抱えてしゃがみこんでないで、何か言ってくださいよ。ネギ君は高畑先生と学園長の担当じゃないですか。
神多羅木先生も明後日の方向を見詰めて煙草吸わないでください。
明石教授も何か言ってくださいよ。娘さんはネギ君のクラスの子でしょう。ネギ先生が信頼出来ないんだったら、そんな娘さんを預けるなんてこと出来ませんよね。
え? 僕?
…………だからネギ君は……ネギ君は………………えーっと…………?
「…………ネギ君はホラ。
何ていうか………………良い子だし?」
「…………本気で言ているのカ、瀬流彦先生? ブチャケたことを聞きたいのだけど、もし“ネギ坊主がグレたら”あなた達はどうするのカナ?
いや、ホントに真面目な話でだヨ…………」
…………あの子だったら、例え魔法封印して独房に突っ込んでも絶対出てこれるよね。
それこそ超凶悪犯みたいな扱いしないと抑えきれない……………………というか、そもそも僕達じゃネギ君を捕まえること自体が出来ないじゃないかっ!!!
…………。
……………………。
………………………………そうなったら全部、高畑先生と学園長に任せよっかな。
━━━━━ 後書き ━━━━━
【ネギの“紅き翼”粛清リスト】
ナギ・スプリングフィールド
ジャック・ラカン
アルビレオ・イマ ← 済
アルのアーティファクトは一粒で二度美味しい。駄目親父抹殺は学園祭終了後ですね。
…………アレ? もしかしてラカンの“半生の書”もあるんじゃね? 一粒で三度美味しい?