━━━━━ ガンドルフィーニ ━━━━━
「おはよう、ネギ先生。振り替え休日だというのに悪いね。
…………超鈴音の様子はどうだい?」
「おはようございます、ガンドルフィーニ先生。
とりあえず自殺は思いとどまってくれるようになったから大丈夫ですよ。まあ、エヴァさんがチョッカイかけたときとかは、さすがにまだ無理ですけどね」
「…………ソウカイ。ソレハ何ヨリダネ」
…………イカン。思わず日本語を習い始めた頃の発音になってしまった。
今日は6/24の火曜日。土日に行なわれた学園祭の振り替え休日2日目。
とはいえ、明日から通常授業が始まるというのに、学園祭で終わったことの後始末がまだ済んでいない。
あの後、超鈴音は拘束…………というか保護することは出来たのはいいが、彼女は精神的に不安定だったために魔法で無理矢理に眠らせた。眠った後もうわ言をブツブツと呟いていたしな。
それに魔法関係者もそれぞれの受け持ちのクラスのことなどの表の仕事を放っておくわけにはいかないので、ネギ先生の式神に超鈴音達のことは任せてその場は一時解散となった。
そして次の日にでも集合をかけられると思ったが、次の日になっても超鈴音は目覚めず、ずっと眠り続けながら魘されていたらしい。
なのでエヴァンジェリンが持っている1時間が1日になる別荘に連れて行き、時間が彼女の心を癒すのを待たなくてはいけなくなった。
そんなわけで昨日も普通に麻帆良祭の後始末をしただけで終わった。一応学園長やネギ先生が集まって話し合いはしたらしいが…………。
…………まあ、アレは仕方がないけどな。
超鈴音も可哀想に…………。
それで今日、改めて魔法関係者で集まって今後のことを話し合うことになっていたのだが…………。
「…………昨日聞いた時点ではまだ精神的に不安定だということじゃったが?」
「はい。でもさすがに別荘の中で半月以上も時間を置いたら落ち着けてきたようです。
今は木乃香さん達が様子を見てくれていますので大丈夫ですよ」
「それならよろしい。それでは関係者も皆集まったので始めようかの。
まず今回の一件なんじゃが、あくまでも“例年より派手なイベントがあっただけ”とする。既に記録上は存在しないことになっておるので、皆もそのように合わせてくれ。時間移動などという大事が関わっている以上、今回の件を公に晒してしまうと大混乱が引き起こされる可能性があるからの。
…………まあ、どうせ言っても信じてくれないじゃろうし。メルディアナの校長に時間移動が可能かどうか怪しまれないように聞いてみたら、ワシがボケたのかと心配されちゃったし…………」
それは仕方がないですよ、学園長。
私達だって、実際に関わっていなかったら信じることなんて出来ませんしね。
それにこんな事件のことを信じてくれないというのもわかりますし、混乱を引き起こす可能性があるというのも理解出来ます。
ですから無闇に言い触らしたりしてはいけないのはわかるんですが…………。
「…………フム。おそらく皆が気になっているのは、“超鈴音が回避しようとした未来の悲劇”のことじゃな?」
そうだ。それだけは見過ごすわけにはいかない。
確かに未来のことを知るというのは便利だが、現代を生きている人間としてそのような反則をしてはいけないだろう。
未来のことを知っているということに胡座をかいたりせず、自分達が出来ることをやってより良い未来を築き上げていくのが人間として正しいと思う。
しかし、だからといって超鈴音がわざわざ過去に来てまで回避しようとした悲劇を放っておくというのは、さすがに不安になってしまう。
彼女だって理由があってこんなことを仕出かしたのだろう。それを無視するわけにはいかない。
私にも小学校に上がったばかりの娘がいる。
前言を翻すようだが、その娘が生きていく未来に悲劇があってほしくないと思うのは、親としてのワガママなんだろうがそこは譲ることは出来ない。
「ウム。“超鈴音が回避しようとした未来の悲劇”なのじゃが、既にネギ君が超君から聞き出しておる。
そしてこれについてはワシとタカミチ君とネギ君の3人で話し合ったんじゃが………………確かに悲劇じゃ。超君がこの時代に来たのもわかってしまうほどにの。
しかしこれを公表すれば世界が混乱するじゃろう。ヘタをすると戦争さえ引き起こしかねない大事件じゃ。じゃから、基本的に君達にも秘密とする。
なお、“超鈴音が回避しようとした未来の悲劇”が存在すること自体も、みだりに口外しないようにの」
「し、しかし学園長!
確かに混乱を招きかねないのでみだりに口外しないのはわかりますが、たった3人でその悲劇は避けられるのですか!?」
「わかっとるわい、ガンドルフィーニ君。もし君達の手を借りるときにはもちろん話す。
じゃが、今はまずその悲劇が本当に起こるかどうかの確認をせねばならん。ネギ君がこの夏休みにやってくれることになっておっての。
もちろん今言ったのも確定というわけじゃない。君達の手が借りることや、最悪の場合はそれ自体を公表することも考えておる。とりあえず君達は学園祭の後始末に全力を注いでくれ」
…………まあ、確かにそうか。
私達が“悲劇”があるということを知ったのがこの学園祭でだったからな。まずは本当かどうかを調べる調査には時間が必要か。
それにこんな事件があったのだから、学園祭の後始末や情報の秘匿なども念入りにしないといけないし…………。
しかし、それにしても…………またネギ先生なのか。
確かにネギ先生にはそれだけの力があるし、超鈴音ともその約束をしていたから適任なのだろうけど、やはりネギ先生に頼りきりというのは大人として不甲斐ないものを感じてしまうな。
彼にはこんな事件に関わらず、無事に修行を全うして欲しいものなのだが…………。
「………………というか残念なお知らせなのじゃが、ネギ君のおかげで既に解決の算段がついておるから君達の助けはいらんかもしれんわい」
「いや、僕はただ“こうしたらいいんじゃないか”とアイディアを出しただけなんですけどね。開発していた魔法がちょうど良い具合に使えそうでしたし。
でも、それを超さんに言ったら「そんな単純なことでぇーーーっ!?!?」って泣き出して、エヴァさんの城から投身自殺しようとしたのには焦りましたけど…………」
「(…………そもそも“火星の魔力が足りないのなら、水星から魔力を持ってくればいいじゃない”という発想自体がおかしいよ、ネギ君)」
…………またネギ先生なのかっ!?
それ以前に超鈴音は本当に大丈夫なのか!?
「いや、エヴァさんがたまに
『クラスの皆に……………………「今まで楽しかた」と、伝えてくれないカ』
とか、
『…………でも、本当にまたいつか会えるかもしれないネ。そのときはまた手合わせするネ!』
とか、
『この2年間は思いの他楽しかたネ。今ちょと感動してしまたヨ』
とかのセリフで超さんをからかうことがあるんですけど…………。
そういうときは発作的にどこかに向かって逃げ出そうとしますね」
超鈴音には監視が必要だな。
再犯じゃなくて自殺防止のための監視が…………。
というか“闇の福音”もそんな大人気ないことするなよ。
もう600歳を越えているいい歳なんだろうに…………。
「…………ま、そういうわけじゃ。皆に望むのは不必要に騒ぎ立てず、今回のことを明るみに出さないことじゃ。それ以外は日々の仕事や活動に精を出すように。
“悲劇”については手伝ってもらうときには言うので、そのときはよろしくの。
…………まあ、ネギ君が主に対処してくれるのじゃが………………うん、アレじゃ。“もうイロイロと諦めなさい”」
「え? 学園長?
僕ちゃんと対処しますよ。大丈夫ですよ」
…………ソッチの意味じゃないよ、ネギ先生。
ああ、もういいや。
素直にネギ先生に任しておいて、私は普段の仕事を頑張ろう。
うん、そうしよう。
━━━━━ 高畑・T・タカミチ ━━━━━
「…………アレで本当によかったのかい。ネギ君?」
アレで納得されてしまうネギ君もネギ君なんだけどねぇ。
魔法関係者を集めての会議の後、残ったのは僕とネギ君と学園長の3人。
それにしても超君があんなことを仕出かした動機に、まさか“魔法世界の崩壊”が関係してくるとは思いもしなかったな。
僕だって魔法世界の人達が幻想だということは知っていた。
だが、あと10年ほどで魔法世界が崩壊するなんてことはさすがに思いもよらなかった。もう少しは余裕があるとばかり…………。
しかしネギ君の言った“火星の魔力が足りないのなら、水星から魔力を持ってくればいいじゃない”というのは、案外いけるのかもしれない。
夏休みには長めの休暇も取れるだろうから、魔法世界に行ってクルトやラカンさん、テオドラ皇女に話してみるかな…………。
「問題ありません。別に嘘はついていませんし、これで超さんが必要以上に敵視されることもないでしょう。
さすがにあの結果は僕としても予想外過ぎて、超さんに悪いと思ってますからね。
超さんがこの時代で暮らしていく上に必要なことは、出来るだけ協力するつもりです」
え? 投身自殺云々も嘘じゃないの?
超君本当にマズくないかい?
…………ま、アスナ君や木乃香君達が言ってた通りだなぁ。
ネギ君は一見容赦ないように見えるし実際に容赦しないけど、ネギ君自身が決めたルール…………もしくは一線は明確に守るようにしているらしい。
だけど、その一線を間違って越えてしまったら、途端に罪悪感を感じてしまうとのことだった。
今回の件で言うなら、イベントに扮して超君の計画を潰したのはネギ君的に問題ないけど、超君のタイムマシンを壊してしまったせいで超君が未来に帰れなくなったのには罪悪感を感じる、ということらしい。
超君はもう未来に帰れない。
22年後にある次の世界樹大発光のときまで待てば話は別だけど…………。
一応、犬上君に頼んでタイムマシンが麻帆良のどこかに落ちていないか探してもらったらしいけど、コタロー君の鼻で探しても見つかったのはおそらくタイムマシンの部品であろうと思われるものが数個だけだった。
きっと『武装解除』で本当にバラバラに壊れてしまったんだろうな。
超君が新たにタイムマシンを作るのには一年はかかってしまうらしいので、例え別荘を利用しても世界樹の魔力が残っているうちに完成させるのは無理だ。
というか超君の今の精神状態ならもっと無理だろう。
そんなわけでさすがのネギ君も、今の超君には甘い対応をせざるを得ないようだった。
「6/30に過去から跳んでくるエヴァさんが持っているはずの“航時機”を使えば、超さんも未来に帰れる可能性はあるんですけどね。
しかし1週間程度の時間跳躍ならともかく、何十年もの時間を跳ぶのにはやはり世界樹の魔力が減少しているのが心許ないです。
それにそれをしたらエヴァさんが過去に帰れなくなってしまうので、そのせいで過去が変わってしまう可能性があります。
ここは特に変なことはせず、素直にエヴァさんには過去に帰ってもらったほうがいいでしょう。もちろん手紙も改変したりせずに」
「そうじゃろうな。ワシらの行いで過去が変わった場合、今のワシらにどんな影響があるのかがわからん。平行世界のになるのか、それとも古い世界が新たな世界に上書きされるのか…………。
世界がどうなるかわからん以上、超君には悪いがワシらの安全を優先させてもらおう」
…………これが“超君を除いておおむねハッピーエンド?”かぁ。
確かに超君以外は特に問題なく終わることが出来たな。超君以外は。
あ、でもコタロー君はどうなんだろうか?
エヴァが罠にかかって未来に跳んだ後だが、コタロー君はエヴァが戻ってくるかもしれないとのことでネギ君に言われて、エヴァの家の前でずっと番犬をしていたそうだ。
しかも学園祭終了するまでずっと。
どうやらコタロー君のことをネギ君は忘れていたらしい。
エヴァが無事に戻ってこれたことと、詳しくは知らないけど未来のネギ君からの手紙で大変になってしまって忘れたらしいけど…………あのイベントに参加出来ずにずっと番犬をしていたのっての可哀想だなぁ。
せっかくの学園祭最終日だったのに、コタロー君のことを思い出したのは後夜祭が終わって家に帰ったときというからまた可哀想だよ。
…………律儀に番犬をしていたコタロー君もコタロー君なんだけどねぇ。
彼はもう少しわがままな性格だと思っていたんだけど…………。
「それでは学園長。僕は夏休みにウェールズに帰省するついでに魔法世界に行って調査してきますので、魔法世界へのゲートの手配をお願いします。
名目は…………超さんはもちろんアスナさん達も一緒に行くことになるでしょうから、観光とかでいいでしょう。
…………エヴァさんをゲートで連れて行くことは難しいでしょうかね? それでしたら今のうちに、魔法世界まで行ける転移魔法陣の作成を今からしますけど…………」
「エヴァは…………難しいじゃろうなぁ。同姓同名という言い訳は通じんじゃろうし。
素直にその転移魔法陣とやらで行った方が良かろう」
「…………というか、魔法世界まで行ける転移魔法陣なんて作れるのかい?」
「理論上は可能です。
さすがに地球-火星間を跳ぶような転移魔法は魔力の消費量が大きいでしょうから、僕でも一日一回とかそんな頻度でしか使えないでしょうけどね」
…………それだけ出来れば凄いと思うんだけどなぁ。
僕は魔法理論とかのことはからきしだから、それがどれだけ凄いことなのかよくわからないけどさ。
「今回の旅行では実地調査で本当に魔法世界が崩壊するかどうか。それと僕のアイディアで本当にその魔法世界の崩壊を防げるのかどうかなどを調査します。
まあ、1週間もあれば充分ですかね。火星はそんなに広くないですし、今回は超さんの言っていることが正しいかだけか調べればいいでしょう。
本格的な調査は火星に式神を100体ほど置いていくので、その式神に任せます。そして冬休みにでも式神の回収にもう一度行きますよ。
一年や二年程度で終わることではないでしょうから、本格的に動くのは僕の修行が終わってからになるでしょうね」
「そうじゃろうな。ワシやタカミチ君も信頼出来て頼りにもなる人物を見繕っておく。
その者達を納得させるような調査結果をお願いするぞい」
それなら僕は…………どうしようかな?
そういう調査ならネギ君や超君に僕が勝てるわけないし、護衛としてもネギ君がいるなら必要ないだろう。
込める魔力にもよるけど、ちびネギ君だって僕より強いのがいるし…………。
だったら僕の伝手で頼りになる人を探した方が、後々のためにはいいかもしれないな。
「ま、詳しくはネギ君の調査待ちじゃな。かなりの大事ゆえに、ちゃんとした情報がなければワシらとしても動きにくいわい。
幸い、ネギ君のアイディアが使えるようだったら、数年で魔法世界の崩壊は防げるじゃろう。ボンヤリしている暇はないが、焦っても事を仕損じるだけじゃ。
…………ところでネギ君。アルのことはどうするんじゃ? アルのところに行くならこの通行許可証を持っていっておくれ」
「………………アル? …………っ! ああ、クウネルさんですか。アルちゃんじゃなくて。
まあ、そのうち図書館島地下にいきますよ。今は超さんのコトで手一杯ですし、もうすぐ期末テストもありますからね」
…………そういえば、アルが麻帆良に住んでいたんだったっけか。
僕は全然知らなかったよ。
というかネギ君、今アルのこと忘れてただろ?
…………どうやら学園長は知っていたみたいだけどね。
学園長は僕がナギの行方を気にしていたことは知っていたはずなのに、ナギと『仮契約』しているアルのことを黙っているなんて…………。
後でちょっと学園長とも話し合わないといけないみたいだな。
「…………それにしても、超さん自身のことはあまり言われませんでしたね。
悲劇に対処するにしても、超さんをオコジョにして何も個人で出来なくしてから協力させるぐらいのことは言われると思っていたのですが…………」
「み、皆も事の重大性がわかっておるのじゃろう」
さすがに死人に鞭打つようなことは出来ないだろう。
あ、でもオコジョにしたら自殺もしにくくなるだろうから、逆に今の超君には丁度いいのかもしれないな。
それにあくまで学園祭でのことはないことになっているから、理由を新たにでっち上げてまで彼女を拘束する必要はないだろう。
今の超君ならよからぬことを考えるような気力がないだろうからね。
「さて、それではそろそろ僕は失礼します。超さんを何時までも放って置いていくわけにはいかないですからね。
それに半月後の期末テストの準備もしないといけないですし…………」
「それもそうだね。でも今度の期末テストも期待できるんじゃないかい。皆も勉強を頑張っているし。
僕も担任を退いて副担任になったとはいえ、手伝えることがあったら言ってくれ。出来るだけ力になるからさ」
イヤ、本当。僕に手伝えることがあったら言ってよ。
ハハハ、ネギ君には負けるかもしれないけど、僕だって教師の仕事はやれるんだよ。
僕はマダオなんかじゃないよ。
「大丈夫ですよ。タカミチも出張で忙しいのでしょう。
クラスのことは僕に任せて、存分に出張でその力を発揮してください」
いやいや! 僕は戦闘だけしか出来ないわけじゃないんだよ!
というか本気で手伝わせてください。お願いします。
最近アスナ君達の目が何というか…………生暖かいんだよ。
本当にまるで駄目なオッサンになった気になっちゃうんだよ!
━━━━━ 後書き ━━━━━
ま、今回も第一章と同じ方法で最初は行きます。…………そこに至るまでの過程が大分違うと思いますが。
それとタカミチが人生について悩み始めたようです。