真っ白な砂の平原の中心にポツンと一つだけそびえたつのは巨大な枯れた花。
既に枯れ果てて長い時間が経過しているのか、皮ははがれ、中身も所々腐っていて腐臭を放っていた。
その姿を見れば誰もがこの花は既に死に絶えた命だろうと思っているだろう。だが一人だけがこの花の本当の叫びに耳を傾けようとしていた。
坊主頭に無精髭を生やした青年は枯れた花の近くにテントを張り、付きっきりで再生に携わろうとしていた。
何度も何度も失敗しながらも、ようやく適合した栄養剤の調合に成功し、根っこの部分に栄養剤が入った注射を何本も差していき、後は根が栄養を吸収するのを待つだけであった。
「これで再生するはずだ……」
力なく放ったひとり言と同時に青年は激しくせき込む。
乾いた咳を何度も放って、治まった頃に口を押さえていた自分の手のひらを見ると真っ赤な吐血が付着していた。
自分もまた残された時間は長くないと判断した青年は、うつろな状態のままで、かつてソルト平原の主と呼ばれた花『ソルトフラワー』の再生に取りかかろうとしていた。
それがもうすぐ死ぬ自分が出来る最後の仕事だと思っていたから。
***
見渡す限り真っ白な砂の平原。
辺りには他の目印らしい物は何もなく方位磁石だけが今回の食材のありかを示す手掛かりであり、ココの占いを頼りにトリコは自分の治療のための第二の食材、汁の『ソルトフラワーの蜜』を求めて、杏子と共に歩いていた。
だが歩いているさなかに杏子は気がかりなことがあった。
あれから自分でも何か自分なりに出来ることはないかと新聞やインターネットでソルトフラワーに付いて調べてみたが、そこで分かったのは絶望的な内容の真実。
ソルトフラワーは塩だけで構成されている平原、ソルト平原の主と呼ばれた存在であり、その理由はこの平原の土壌全ての栄養を吸収し、残ったのは栄養が全て吸収されて絞り取られた塩、通称『サンドソルト』のみが残るだけ。
広い平原全ての栄養を吸収したソルトフラワーの大輪の花から放たれる蜜こそが、多くの美食屋やグルメ家たちを虜にしたスープであり、今回トリコの治療に最適だとココが判断したスープなのだが、図書館で過去ソルトフラワーに関しての記事を読み漁った杏子は重苦しく口を開く。
「大丈夫なのかよ? もう10年近く花を咲かせずに、ドンドンやせ細ってんだろ、その花……」
杏子の言う通り土壌の栄養を吸いつくし、食べる物が無くなった植物に待っている物は緩やかな死だけ。
300メートル近くあるソルトフラワーは移動させることもできず、サンドソルトのみが残ったソルト平原で静かに朽ちてゆく運命だった。
そのため市場では残っている蜜の値段はドンドン高騰していることを知った杏子。
お金のことならば問題ないだろうと踏んだ杏子は現地に行って物を狩るより、普通に買って食べた方が早いのではと提案をするが、トリコはその意見を一蹴した。
治療のために必要なのは一定の量を毎日食べ続けること、市場に出ている冷凍物では買うことはできても量が圧倒的に足りない。
分かってはいたことでも杏子の中でジレンマは消えずに、重い足取りでソルトフラワーの元へと向かうが、そんな中でもトリコは笑顔を浮かべたまま杏子に話しかける。
「まぁ悪いことばかりでもないさ。これを見ろ」
そう言ってトリコが差し出したのは手のひらサイズの電子手帳のような機械。
画面の中には最新の記事が書かれていて、そこにはソルトフラワーの再生が成功するかもしれないとあり、匿名である再生屋が極秘に行っていることが書かれていた。
聞き慣れない再生屋と言う言葉に杏子は困惑の表情を浮かべる。
その顔を見て、トリコは杏子にこの世界において美食屋と同じぐらい重要な職種である再生屋に関してまだ教えていなかったを思い出し、慌てて説明に入る。
再生屋の主な仕事は絶滅危惧食材の保護と絶滅してしまった食材の再生であり、グルメ時代において多くの食材が発見され、市場が賑わったと同時に元々希少だった食材も次々と食い荒らされ、絶滅していく食材も多かった。
グルメ時代の真っただ中において再生屋と言う仕事は軽視されている部分もあり、数も美食屋に比べれば圧倒的に少なく、絶滅してく食材も多かった。
だが近年絶滅していく食材たちが復活していくことから、再生屋と言う仕事も見直されてきていて、数も増えてきて同時に再生屋ならではのメリットも誕生した。
それは食材の乱獲や密猟、法で禁止された食材の商取引を行う者を独断で検挙することが許されている特権だった。
まさしくグルメ時代において重要な食の秩序を守る存在と言える存在であるが、その再生屋がソルトフラワーを再生出来ている保証はどこにもない。
物を見るまでは希望を強く持つことも絶望に染まることも許さないと判断した杏子は、改めて歩を進めて行く。
歩くたびに食べられる上質な塩、ソルトサンドがシャリシャリと音を立てるが、今はそんなことに構っている暇は無い。
食べ物の上を堂々と歩くことに罪悪感も覚えはしたが、この世界の食べ物はこの程度でダメになるほどやわな作りではない。
焦ってはいけないと分かってはいたが、このソルト平原は半分は死に絶えた大地となっている部分もあるので、強い猛獣も存在せず何もない真っ白な平原をただただ歩き続けている。
景色が全く変わらないことに杏子の中でフラストレーションは溜まる一方であった。
元々の攻撃的で短気な性格が顔を出したのを見ると、トリコは彼女を落ち着かせようと杏子が手に持っている電子手帳に付いての説明に入る。
「今お前が持っている手帳だが、最近IGOで開発された『グルメディクショナリー』と言ってだな。随時猛獣や食材に付いての情報を衛星からの電波を受けて更新される優れ物の代物なんだ」
相変わらずのハイテクぶりに驚かされるばかりであるが、今はそれに構っている暇はないと気持ちに余裕の無い状態の杏子は気の無い返事で「ふーん」と返すと、手で弄びながらトリコの後を追う。
新人の美食屋には重宝される代物だけに価値がよく分かっていない杏子を見ると、多少は気が引けたがその価値を分かってもらおうと詳しいことを話し出す。
「それ2000万円だぞ」
まだまだ出始めたばかりの代物のためにこれだけ高額の値段になってしまった。
トリコに取っては大した金額じゃないが、杏子に取って2000万は大金。
そんな物を適当に弄んでいたかと思うと、一気に杏子の顔は青ざめていき、丁寧に両手で持ち直すとトリコに返そうとする。
「返す……」
「いいよ。オレには必要の無い物だし、お前には必要だろうと思って買った物だ」
自分が危険な状態にあるにもかかわらず、自分のことを考えてくれているトリコ。
自分だけが必要以上に気負っている状態なのが客観的に分かると、杏子の中で落ち着きが取り戻されていく。
まともに話し合いが出来る状態になったのを見ると、トリコは美食屋において大事な心構えの一つを教えようとする。
「大自然へ食材の調達へ向かい……失敗に終わる……よくあることだ」
それは何回も経験し、辛酸を舐めたからこそ分かるトリコの言葉には重みがあった。
笑顔で淡々と語るその姿を見れば、トリコが言いたいことは杏子でも分かった。
そう気負いすぎる必要はない、仮にソルトフラワーがダメでも明日がある。
常に命がけの戦いばかりで今日を生きなければ、明日を生きることが出来ない杏子に取ってこの考え方は今までになかった物。
希望を忘れない、奇跡を信じる心を否定しない、その言葉の本当の意味が少しだけ分かったような気がすると、杏子の中で落ち着きが取り戻され、手で軽く足元にあるサンドソルトをすくいあげると軽く舐めてみる。
普段食べている塩とは違い、今舐めているサンドソルトはとてもきめ細やかで上品な辛さとほのかな甘さがあった。
これ一つだけで最高級の出汁が取れるのではと思えるほどの出来であり、杏子は用意してもらったグルメケースに入れると、先程よりは軽い足取りでトリコの後を追った。
***
歩き続けていると日は落ち、空は闇に覆われていた。
月明かりだけが夜空を照らす中、トリコと杏子はお目当てのソルトフラワーを見つけた。
だが結果は絶望的な物だった。
枯れ果ててヒョロヒョロにやせ細ったそれを見てとてもじゃないが、蜜を採取出来る状態じゃないと踏んだ杏子は愕然とした顔を浮かべていたが、トリコは特にショックを受けた様子もなく、根っこの部分に刺さっていた栄養剤を見ると大地に耳を付けて、その躍動を聞く。
根が栄養を吸っている躍動を耳で感じると続けて茎に耳を添える。
同じように栄養を吸って復活しようとしている感覚を体で感じると、一筋の希望を感じ、未だに愕然となっている杏子を安心させようと話し出す。
「大丈夫だ! まだ希望はあるぜアンコ!」
「ウルサイな……」
トリコの大声にげんなりした声が一つ後方から響く。
第三者の存在に一瞬は驚かされた杏子だが、事前に再生屋がいると言う情報はあらかじめ分かっていること。
だが、まさか現場に泊まりがけで来ているとは思っておらずに、愕然とした顔を浮かべていたが、そんな杏子の心情に構わずに再生屋と思われる影は奥の暗闇から姿を現す。
月明かりに照らされその全容が明らかとなる。
坊主頭に無精髭を蓄えた青年はあくび交じりに気だるそうに現れると、睡眠の邪魔をしたトリコを見ると頭をかきながら面倒くさそうに応対を始める。
「悪いけどソルトフラワーは再生中なんだよ。アンタでも乱獲は許さないぜ、美食四天王トリコさんよ……」
再生屋は睡眠の邪魔をされたことが恨めしいのか、トリコを前にしても臆することなく、最後通告のように宣言すると起きたついでにソルトフラワーの様子を見ようとする。
完全に自分たちが無い物扱いを受けていることに多少腹が立った杏子だが、一刻を争っている状態なのに加え、今はこの再生屋に頼るしかない状況だと分かっているため、杏子は自分たちが来た目的を話し出す。
「待ってくれ。アタシたちにはどうしてもその蜜が必要なんだ! えっと……」
「ムールだ。ちゃんとさんも付けるようになお嬢さん」
再生屋のムールは杏子に大人としての礼儀を教えると相変わらず二人のことなど目にもくれず、トリコと同じように茎に耳を添えて再生の躍動を肌で感じ取っていた。
知識が無い杏子でもその希望に満ちた目を見れば、ソルトフラワーの再生は順調に進んでいることが分かった。
トリコが言ったように希望はまだあると知ると、杏子の顔にも希望の色が浮かんで詳しいことをムールに聞こうとする。
「それでいつ再生できるんだ!? さっきも言ったがこっちには時間が……」
興奮しきっている杏子を止めるようにムールは手を差し出して、杏子にこれ以上の発言を許そうとしなかった。
そして静かに根が栄養剤を吸い上げているのを見ると再びテントが設置されてるであろう奥の暗がりへと戻っていく。
「食材の再生は食材が決めることだ。そこに人間が入り込める余地なんて微々たるもんだよ……」
全ては自然のままに、この世界では当たり前とされているルールを語るとムールは再び暗がりへと戻って行く。
だがそれでも事態が事態なので杏子はその後を追おうとするが、トリコに肩を掴まれると歩みを止められる。
「よせ、ムールの言う通りだ。今は待とう」
「少しは自分のことも考えろ!」
「考えているさ」
冷静沈着なトリコについつい杏子は怒りをぶつけてしまうが、そんな彼女の怒りを受け流しつつもトリコは思い出を語りだす。
「ガキの頃ソルトフラワーの蜜はオヤジが用意してくれたのを食べただけだが、あれは美味かった……」
「何の話だ!?」
「だからよ……あんな美味いもんをオレ一人が独占しちゃいけないよ。美味いもんは分かち合わないと……」
その優しい声でトリコが何を言おうとしているかが杏子にも伝わった。
今この場でソルトフラワーの蜜を独占すれば、肉体の回復には勤まるかもしれないが、持論を強引に曲げることで心にダメージを負う可能性だってある。
癌と言う病気は肉体の治療だけでなく、患者の精神面を強く持たなければ克服できない病気。
美食屋として強い信念を持つトリコは全てを自然のままに委ねようとして、自らの命も持論を崩さないまま最善の手を尽くそうと努力に励んでいる。
大きすぎるトリコに対して杏子は何も言い返すことができず、ムールと同じ場所でテントを広げようとしているトリコの後を黙って付いていくことしかできなかった。
二人の姿が完全に闇に覆われた時、トリコは携帯で撮った写真を杏子に見せる。
それはソルトフラワーの茎の部分のアップ映像。
所々噛み切られたような痕があちこちに存在していて、野生の動物が食いちぎっているのかと杏子は思っていたが、トリコは小さく首を横に振ると、なぜムールが泊まり込みでソルトフラワーの再生に携わっているのかの推測を語りだす。
「ここにソルトフラワーの茎を食べるような猛獣はいないよ。いるとすればそれは昆虫ぐらいだ」
確かに虫ならば植物の茎は食べるだろうが、歩いている道中にそんな危険な昆虫は見かけられず、杏子の中でも推測が出来上がりだす。
「つまり何か? どこかのバカな昆虫ブリーダーが餌のために勝手にソルトフラワー食べさせて、それを防止するためにムールは泊まり込んでいるって話か?」
「その通りだ」
隣から小さく声が響き、杏子が振り返るとそこには神妙な表情を浮かべたムールが居た。
ムールはどこか儚げな様子でソルトフラワーを見つめながらも、杏子に一枚の手配書を手渡す。
危険な昆虫を交配させて、殺し屋やテロリストに売り渡す。第一級のグルメ犯罪者『ニードル』が恐らくはソルトフラワーの乱獲の犯人であると踏んだムールは自分の手で彼を逮捕するためにここにいるのだと杏子にも理解できた。
「恐らくはこれが俺の最後の再生になる。最後の最後まで俺は再生屋として生きるつもりだ……」
「最後って……」
その決意を秘めた表情に覚悟を感じ取った杏子は詳細をムールから聞こうとしたが、ムールは再び寝なおそうとテントに潜って行った。
様子から言ってこれ以上は何も聞き出せそうにないと踏んだ杏子はトリコが用意してくれたテントに入って行くが、トリコはムールの様子を見て感じ取った物があり、半ば強引にムールのテントの中へと入って行く。
「何だアンタ!? もしかしてそっちの趣味か!?」
寝袋に入ろうとしていたムールは突然乱入してきたトリコに驚き、抗議の声を上げるがトリコは小さく「ちげーよバカ」とだけ言ってムールが感じている不安を打ち消させると、彼の隣に腰掛けて一言質問を投げかける。
「いつ頃から悪いんだ?」
短い言葉だったが、トリコが何を言おうとしているかは分かった。
自分の今の状態を悟られたことが分かって顔色に動揺が見えるムールだが、ムールはあくまで冷静な対応を心掛けてトリコにも接する。
「さて……詳しく話してもらわないと何の事だか分からないな」
「とぼけたって無駄だよ。目の下の隈、痩せこけた頬、くすんだ肌、それらを見ればアンタの命が長くないことぐらい分かる。オレもそうだからな……」
民衆たちのパニックを恐れてか、トリコがグルメ癌にかかっていると言う事実は伏せられたままになっている。
そんなトップシークレットをあっさりとバラすトリコに驚きもしたが、自分の重大な秘密を話してくれたトリコの誠意を見たムールは自分の秘密も語り出す。
「アンタはどんな病気なんだ?」
「グルメ癌だ。治療のため、ここに来たんだよ」
「そうか厄介だな……だが希望はある。俺の場合は完全に治療が不可能な病気だからな……」
そう言うとムールは自嘲的な笑いを浮かべると詳細を話し出す。
詳しいことは分からないが、ドンドン寿命が削られていく病気はグルメ界の呪いと呼ばれる類の病気であるのではと推測された。
それでも再生屋仲間は変わらずに自分と接してくれたが、自分自身病気のことを負い目に感じてしまい、自然と仲間たちから距離を取るようになって最後は一人で死のうとこの場所を選んだことを話した。
「だがそれでもその手の類の病気は完全な治療は無理でも、その人に適合した食材を食べれば、半年から一年の延命は可能なはずだろ? 何も全ての希望を捨てる必要は無いんじゃないのか?」
「いいんだ、俺は天涯孤独の身だ。最後にこれの再生が終わったら、もう悔いは無い。自然のままに旅立っていくさ……」
その言葉から決意が固いのをトリコは感じ取ったが、どこかで諦めている部分もあるのではと感じた。
だが全ては本人が決めたことなので、第三者である自分があれこれ口を挟む権限などどこにもない。
それにこの事実を杏子が知ったら、彼と喧嘩になる可能性だってある。
ただでさえ自分の病気のせいで情緒不安定になっている杏子の精神をこれ以上混乱させるわけにはいかないと踏んだトリコは、一言「邪魔したな」とだけ言うと自分のテントへと戻ろうとする。
チャックを開けて外に出ようとした瞬間、ふと言いたかったことを思い出すとムールの方を振り向いて話し出す。
「まだ選択肢は残っているかもしれないんだ。本当に悔いが無いかどうかはその時に考えても遅くはないだろ」
トリコが何を言ているのか分からず、ムールは困惑した表情を浮かべるが、トリコはその巨体を小さく屈めながら、テントから出て行く。
まるで自分の覚悟をバカにされたかのようで一瞬嫌な気分にもなったが、今はソルトフラワーの再生が先だと思い、ムールは少しでも体を休めるために寝袋に入って眠りに落ちた。
来るべき戦いの時に備えて体力を回復するために。
***
月だけが塩の砂漠を照らす真夜中。
砂漠の気温は日中と夜では天と地ほどの差があると言われているが、このソルト平原ではそんなことは全くなく、昼間と変わらない穏やかな気候が続いていた。
命と呼ばれる物が全くない静寂だけが包むソルト平原を歩む影が一つ。
大きめの眼鏡に坊ちゃん刈りの頭で身長が150にギリギリ届くぐらいの小柄な青年は、陰湿な笑みを浮かべながらグルメケースに入った自分が手塩にかけて育てた昆虫を見ていた。
「もうすぐ美味しいご飯が手に入るからね……」
飼い主である青年の愛情が伝わっているのか、ケースの中の昆虫は体をガタガタと震わせて喜びの感情を伝えようとしていた。
元気な自分の昆虫に青年は歪んだ笑みを浮かべていると、いつの間にか目的地に辿りついたのに気づく。
自分が育てている昆虫の成長にはもっとも適しているソルトフラワーを見つけると、青年はケースの蓋を取って昆虫を放つ。
「一杯食べるんだよ……」
「そこまでだ!」
突然の大声と共にソルトフラワーは煙幕で包まれる。
昆虫が嫌う殺虫剤の成分も入っているのであろう、放たれた昆虫はソルトフラワーに近づくこともできず、青年の頭の上を何度も回っているだけで進むことも戻ることもできないでいた。
青年は自分の昆虫の食事を邪魔した存在を確かめようと、煙幕の中から現れた存在に目を向けると予想通りの存在が姿を現した。
「お前は……再生屋か!?」
「そうだ。俺は再生屋のムール、法で禁止された昆虫を人工的に生み出している、グルメブリーダーのニードルだな!? グルメ八法を犯した罪は重い、お前を逮捕する!」
グルメ犯罪者に取って再生屋が現れたと言うことは死刑宣告にも近い物があった。
令状と確立した証拠が無ければ逮捕できないグルメ警察と違って、再生屋は食の味方であって独断での検挙が許されている。
だがニードルはムールの様子を見て100%の状態ではないと判断すると、邪悪な笑みを浮かべたまま自分の頭の上でオロオロしている昆虫に対して人差し指を一本突き立てる。
意図を察した昆虫は人差し指のてっぺんに止まる。
親指大ほどの紫色のクワガタは小さななりにも関わらず、異様な存在感を放っていて、その姿を見るとムールはクワガタに付いての情報を語りだす。
「捕獲レベル19の『シザースタッグ』か、厄介な物を……」
軽く愚痴をこぼすとムールの脳内でシザースタッグに関する情報が再生されていく。
親指大ほどの大きさにも関わらず、19の高レベルが付いたシザースタッグは自分の何倍もの大きさの猛獣でも切り裂くことができる強靭なハサミを持ち合わせているクワガタ。
だがシザースタッグ自体は植物しか食べず、邪魔さえしなければ襲いかかることはないので、この捕獲レベルに落ち着いた。
しかし今ニードルの手によって品種改良されたであろうシザースタッグは、明らかに自分に対して敵意を向けているのが分かり、恐らくはテロリストか殺し屋に売りさばく商品としてより攻撃的な性格に改造されたのだとムールは思った。
そんなムールの考えを察したのか、ニードルは邪悪な笑みを浮かべながら話し出す。
「そう……このシザースタッグは僕が手塩にかけて育てた最高傑作さ。やれシザースタッグ! 食事の邪魔をしているのは全部アイツだ!」
ニードルの命令を受けると、シザースタッグはジグザグに動きながら頭のハサミを突き出してムールに向かって突っ込んでいく。
その素早い動きに対応しきれずにムールが懐からノッキングガンを取り出した頃には、シザースタッグは自分の眼前にまで来ていて、右の目玉に向かってまっすぐ突進し、そのまま脳まで食い破ろうとしていた。
「ナイ――フ!」
死を覚悟した瞬間に後ろから聞こえた怒声に振り返ると同時に感じたのは鬼の存在。
一瞬その存在に食い殺されるのではとムールは思ってしまい、思わず尻もちを付いてしまう。
それと同時に全容が目に飛び込む。
後ろから現れたトリコはシザースタッグのハサミ目がけて手刀を振り下ろしていて、シザースタッグはトリコのナイフをハサミで受け止めて耐え忍んでいた。
ギチギチと肉にハサミが食い込む嫌な感覚がトリコの中で広がって行く。
即座に左手のフォークを突き出して回避しようとすると、シザースタッグは勢いよく飛び立って、トリコとシザースタッグは互いに距離を保ったまま牽制しあっていた。
「ムール、このクワガタはオレが引き受けた。お前はそこのブリーダーを捕まえてくれ」
「済まない……」
本来目的が違う美食屋の力を借りるのは気が引けたが、背に腹は代えられない。
トリコの申し出を受けるとムールはニードルに目を向けるが、半病人のムールを見るとニードルは余裕めいた笑みを浮かべながら、懐から小型のサブマシンガンを取り出すと勝ち誇った顔を浮かべながら銃口をムールへと向ける。
「ここで全員死んで、ソルト平原の栄養にでもなるんだな!」
引き金が指にかかろうとした瞬間、第三者の攻撃が飛んでくる。
ニードルは即座に銃口をムールから飛んできた攻撃へと向けて引き金を引く。
だが弾丸が発射されるよりも早く放たれた槍はニードルの手首に直撃し、彼の手からサブマシンガンは離れて行った。
「何者だ!? 姿を現せ!」
槍が飛んできた暗がりに向かって声を上げるニードル。
叫びに応えようと杏子は暗がりから銃口をニードルに突き付けた状態で姿を現す。
それは拳銃と言うよりは信号弾を発射する物に近い小型の大砲のような物であり、そのデザインを見るとニードルの脳内で情報が駆け巡る。
今杏子が自分に向かって突き付けている拳銃は山火事などの消化で使用される氷の弾丸を放つタイプの銃。
素人でも扱えるタイプであるが、この場で鎮圧用に用いるのは正しい判断とは言えない。
この『フリーズクラッカーガン』は威力こそ高いが、スピードが極端に遅くグルメ細胞を移植された自分に取ってはスローボールのようなもの。
素人の浅はかさにニードルは高笑いを放って勝ち誇っていた。
「所詮は素人の浅はかな考えだな! そんな物で僕を止められるとでも思っているのか!?」
「グダグダうるせぇよ!」
甲高い声のニードルを相手にするのが嫌になったのか、杏子は引き金を引いてガンから消火用の氷の弾丸、通称『フリーズクラッカー』を銃口から放つ。
30センチ大の雹のような氷の塊が放たれるが、ニードルは余裕めいた笑みを浮かべながら左に飛んでフリーズクラッカーをかわすと、サンドソルトに力なくクラッカーは埋まる。
周りに炎があればここから拡散していくフリーズクラッカーだが、今は炎など全くないのでその真の威力を発揮することは無い。
しかもフリーズクラッカーは一発しか打てない。この事実を知っているニードルは懐からサバイバルナイフを取り出して突っ込んでいく。
「今度はこっちのターンだ!」
「いいや。これでジ・エンドだ」
杏子を見ると同じように勝負が決したような勝ち誇った笑みを浮かべていた。
言っている意味が分かったのは自分の足に冷たさが伝わり、それが痛みに変わった瞬間だった。
後ろを振り返った時にはフリーズクラッカーは勢いよく辺りに拡散していて、ニードル自身の体を覆い、逃げようと首だけを伸ばそうとしたが最後には首の先まで氷で覆われ、醜い氷漬けのオブジェが完成した。
「まぁグルメ細胞を移植されているからな。死んじゃいないだろうよ」
「なるほど、溶解熱の原理を利用したのか……」
杏子の狙いが分かるとムールは納得した顔を浮かべる。
氷に塩をかけると、水に塩が溶ける。
塩が水に溶けると言うのは塩を構成している塩素とナトリウムの結び付きが切れて、塩素がマイナスの電気を帯び、ナトリウムがプラスの電気帯びてイオン化してその周囲に水分子を電気的に結合させて安定することです。
この時エネルギーを必要とするので周囲からエネルギーを奪い、周囲の温度を下げる。
このように溶質が溶媒に溶ける熱の出入りを溶解熱と言い、今回の杏子の作戦はその溶解熱の原理を応用した物だった。
一人感心するムールに構わず、杏子は未だに氷の中で苦しそうに口をパクパク動かすニードルに向かって最後の啖呵を切る。
「命までは取らない。テメェみたいに腐りきった人間になんてなりたくもないからな!」
それだけ言うとムールに構わず、杏子はトリコの様子を見ようと彼の方を向くが、そこには予想外の光景が広がっていた。
「ナイフ!」
トリコはシザースタッグを相手にノッキングを施そうとしていたからだ。
何度も何度もナイフをシザースタッグのハサミにぶつけて威嚇はしているのだが、シザースタッグは攻撃力だけならば、実際の捕獲レベル以上の物を持っているため、トリコでも真っ向勝負は厳しい物があった。
だがトリコはそれでもノッキングガンを片手に何度もノッキングを試みようとするが、昆虫は外殻が鎧のように固く、ノッキングする箇所が分かっていても素早いシザースタッグを相手にノッキングは中々成功せず、トリコは歯がゆい思いを繰り返していた。
「何の真似だ!? お前ならその程度の虫なら倒せるだろ!?」
早速杏子は貰ったグルメディクショナリーでシザースタッグに関しての情報を得るとトリコに檄を飛ばす。
詳しいことはまだ分からなくても、トリコに取ってまともに戦えれば決して万全の状態ではなくても、捕獲レベル19程度の相手なら何とかなるだろうと踏んだ杏子はなぜ早急に勝負を決めないのかとトリコに促す。
「ダメだ! こいつは不味くて食えたもんじゃねぇ!」
こんな時でも持論である『食べる以外の目的で獲物は殺さない』を守るトリコ。
だが正当防衛ならばそれは構わないと言う理屈も知っている杏子は引き続きトリコに対して怒鳴り散らす。
「そんなこと言ってる場合か! ソルトフラワーの蜜を飲まないとお前は……」
「ダメだ! 持論を曲げちまったら本当にオレが死んでしまう!」
プライドはある意味では自分を保つための最大の武器である。
強い想いがこもった叫びは杏子の胸に響き、その叫びを聞くと杏子は何も言うことができなかった。
それはかつて自分を保つことができずに、魔女へと変貌してしまったさやかの姿をマジマジと見てしまったからだ。
色々な要因はあるが、その中には自分が取った軽率な行動も一つの要因となっている。
今自分が何の役にも立たないと分かると、杏子はそれ以上何も言わずにトリコの邪魔にならないように奥へと下がって行く。
それと同時に一歩前に出る存在が一つ。
ムールは懐からノッキングガンのパーツを取り出していき、持っていたノッキングガンに加えていくと、瞬く間にライフル型のノッキングガンが出来上がり、最後にトリコに確認を取ろうとする。
「ノッキングが出来ればいいんだな?」
「ああそうだ!」
「俺ならそいつのノッキングは可能だ。少しの間注意を引きつけてもらえるか?」
そう言うムールの言葉に虚栄は無く、自信と言う物が満ち溢れていた。
上級者同士の連携に口を出すべきではないと判断した杏子はトリコの答えを待つ。
「任せられるか?」
「任せておけ。さっきの礼だ」
「頼む!」
トリコの了解を貰うとムールはスコープ越しから、シザースタッグを見つめる。
その間もトリコとシザースタッグの戦いは続いていて、トリコが一瞬の隙を付いてナイフでの攻撃を振り下ろすと、シザースタッグがハサミで受け止める。
何度も繰り返された光景だが、今は第三者の協力がある。
手にハサミが食い込む痛みに耐えながらも、トリコはムールのノッキングを待った。
「OK! 今だ!」
ノッキングガンから針は杏子の目には見えず、射撃されても音も硝煙も無かった。
傍目から見れば何の変化もないように思われたが、トリコの安堵に満ちた笑みを浮かべると勝負が決したのが分かる。
先程まで敵意をむき出しにして、襲いかかっていたシザースタッグは眠るように地面へと落ちていて、トリコの手から離れて行った。
無事にノッキングが完了したのを見ると、ムールはノッキングガンを解体していき、鞄の中にしまうとシザースタッグをニードルが持っていたグルメケースに入れ直す。
「コイツは俺が責任を持って保護する……」
そう言うとムールは力なく横たわり、虚ろな目を浮かべていた。
突然のことに杏子の思考はストップしてしまうが、トリコは予想通り無理がたたったムールを心配し、そばに行って様子を見る。
「大丈夫か? って聞くのも無粋な話か……」
「俺に残された時間は?」
途絶え途絶えの声でムールは自分に残された時間をトリコに聞く。
トリコは今までの経験からムールに残された時間を計算すると正直にムールに答える。
「今日の朝日を見る頃にはもう命の灯は終わってるよ」
「そうか……できれば再生が成功したかどうかを見たかったが、これも自然の摂理か……」
目の前で命が終わろうとしているのを見て、杏子の中でトラウマが次々と蘇って行く。
自分一人を残して無理心中していった家族、目の前で助けられずに魔女へと変貌していったさやか。
そして今また一つの命が終わろうとしている。
この事実は今目の前に居るトリコでさえ救えられないのではと悪い考えばかりが杏子の中で繰り返され続け、体を小刻みに震わせながら二人を見つめていたが、目に眩い感覚を覚えると杏子は反射的に目を閉じる。
同じように眩しさに目をやられたトリコが振り返ると、既に夜は明けていて朝日が昇っていた。
新しい朝が始まる光景はどんな時でも感動的な物だが、今の一同にそれを感じる余裕は無い。
だが感動は違ったところで起ころうとしていた。
それにいち早く気づいたのはトリコ、横たわっているムールを強引に持ち上げるとソルトフラワーの方を指さす。
「再生が成功しようとしているぞ!」
この言葉でムールの中で最後の気力が湧きだす。
震えながらもムールが両目を開けると、ソルトフラワーは朝日に照らされながら大輪の花を咲かせていて、花の中には大量の美味しそうな蜜が詰まっていた。
自分の最後の仕事が成功したのを見届けると、ムールは満足そうな笑みを浮かべていて、今度こそ思い残すことはないと目を閉じて力なく横たわって行くが、トリコは花からあふれ出す蜜を両手で受け止めると、一番栄養が詰まった一番搾りをムールに向かって差し出す。
「何を!?」
今まではソルトフラワーの再生に喜んでいるだけの杏子だったが、トリコが自分も危険な状況なのにも関わらず、ムールを助けようとしている光景を見て、杏子は素っ頓狂な声を上げる。
目の前に差し出されたソルトフラワーの蜜は目を閉じているムールでも食欲が沸く物であり、反射的にムールは差し出された蜜を吸いこむように飲み干す。
その瞬間に口の中で広がったのは濃縮された極上のスープの旨みだった。
ソルト平原全ての大地の栄養が凝縮された蜜は一口にして、様々な味が舌を襲う物だった。
肉の旨みを感じたかと思えば、魚介のさっぱりした旨みが襲い、時折感じるのはフルーツのさっぱりとした感覚、それで舌の中がリセットされたかと思えば再び濃厚な旨みが襲い、ムールの中で活力が蘇って来る感覚が襲う。
気づくと自分の中で受け入れようとしていた死の安楽は遠のいていき、自力で目を開くことが出来、意識もハッキリした物に戻って行った。
「どうやら延命完了みたいだな」
「なぜ俺を……アンタも相当にヤバい状況だろ?」
「オレの場合量が足りないんだよ。どっちにしろ一番搾りはアンタに譲る予定だったんだ。再生させてくれたのはアンタなんだからな。これで貸し借りなしだぜ」
大食漢のトリコに取って、その言い分はもっともであるが、それでも自分自身もまた命の危機にさらされているにも関わらず、会ったばかりの自分を助けてくれたことが信じられず、ムールは震える足で立ちあがってなぜ自分を助けてくれたのかを聞く。
「何で俺を助けたんだ?」
「ん? 人が人を助けるのに理由が居るか? 目の前で助けられる命があるなら助ける。野生の獣だってそれぐらいはできるさ、それにな……」
最後にトリコは綺麗にノッキングが施されたシザースタッグを指さすと、ムールの中でどこか諦めていたのではないかという想いを代弁しだす。
「アンタは自分の中では悔いは無いと言ったが、周りはそうもいかないだろ。結果的にこうなったんだ。残された時間はアンタが悔いの無いように生きればいい」
そう言うとトリコは大量に花の中からあふれ出す蜜を直接ガブガブ飲み干して、何度も「うめぇ!」と叫びながら至福のひと時を味わっていた。
そんなトリコに対して杏子は行儀の悪さを指摘して、説教をしようとするが強引に蜜を飲まされるとその美味しさに何も言えなくなっていた。
一人残されたムールはこれから先与えられた命を何に使おうかと少し考えると、最後に自分が言った一言を思い出す。
自分は最後まで再生屋として生きる。その言葉を守ろうとムールは朝日に誓った。
自分の信念を最後まで曲げずに、最後の瞬間が訪れるまで生き通してみせると。
***
ソルトフラワーの再生が成功してから、半年の時が流れた。
多くの再生屋たちが宿を構える癒しの国『ライフ』その国のシンボルとも言える療樹『マザーウッド』
巨大な木の中には多くの再生屋たちが再生所を構えていて、日々様々な食材の再生が行われいてた。
その中でもボス的存在である『与作』の再生所では主である与作が一人喪服姿に着替えると、その上からトレードマークである血まみれの白衣を身に纏って、これから行う葬式に出席しようとしていた。
「鉄平! 準備は出来たのか!?」
与作は葉巻樹に火を付けて一服しながら、ただ唯一居る弟子の『鉄平』に準備は出来たのかどうかを聞く。
上の階段から自慢のリーゼントをセットしながら現れたのは、どこか軽薄な感じも漂わせる右目の上から顔にかけて一本の傷を負った緑色の髪の青年が現れる。
同じように喪服姿にはなっていたが、どうしてもリーゼントのセットが自分の納得のいく物にならなかったが、目の前でイライラしている与作を見ると渋々愛用の櫛を胸ポケットしまうと強制的に準備が出来たのを軽く頷いて合図を送った。
「よーし行くぞ!」
与作は葉巻樹を吸いながら豪快にドアを開けて、既に待っていた弔問客たちと共にマザーウッドの一番奥深くへと潜って行く。
マザーウッドの根の部分は再生屋たちの墓地となっていて、役目を終えた再生屋たちはここで眠りに付いているのがほとんどだ。
これは自分が死んだ後も再生に携わりたいと言う想いから、再生屋たちは死んだのではなくマザーウッドの一部となって生き続けると言う風習から生まれた物であり、ここにまた一つ新たな墓が建設されていた。
小奇麗な新品の墓にはムールと書かれていて、ムールが長い闘病生活を終えて安らかな眠りに付いたのが分かっていた。
鉄平はその墓に線香を上げて手を合わせると、最期を看取った者としてムールの最後を語りだす。
「穏やかな最期でした。まるで眠るように安らかに旅立っていきましたよ」
「自分のやるべきことを全てやりおえたからだろうな……」
そう言うと与作は弔問客の顔をジックリと眺める。
彼らは皆ムールが残してくれた技術を継承して言った弟子たちであり、自分が与えられた半年の間にムールは後世の育成に全力を注いでいた。
それまで自分が培ってきた技術を全てテキスト化して、多くの人間に自分がやってきたことを伝えようと必死になって教え続けた結果。ムールの弟子と呼ばれる存在たちは100人を超えるほどになっていて、全員がムールの葬儀に参加していた。
全員が神妙な顔を浮かべながら合掌をする中で鉄平は一人心の中で眠っているムールに語りかけた。
(お前の魂は死なない……ここに居る全員がお前の心を技術を継承して受け継いで行くんだ。お前は最後まで最高の再生屋だったよムール……)
最後まで立派に再生屋として生きたムールを見て鉄平は誓った。
自分もまた再生屋として恥ずかしくない生き方を最後まで貫こうと。
幼い日の決意を決して曲げずに生き抜こうと。
本日の食材
サンドソルト 捕獲レベル1以下
ソルト平原に広がっている食べられる砂の塩。
普通の塩よりも上品な味わいと奥深さがあり、多くの高級料亭がこのサンドソルトを使用している。
ソルトフラワー 捕獲レベル26
ソルト平原の栄養全てを吸収して、咲く花の蜜は極上の味わい。
近年は栄養の枯渇から蜜が出ないでいたが、ムールの手によって再生に成功した。
シザースタッグ 捕獲レベル19
親指大ほどの大きさだが、油断して手を差し出すと、そのまま手ごと切り取られるほど強靭なハサミを持ったクワガタ。
植物しか食べないので動物には基本的に興味が無い、出会ったらやり過ごすのが無難な昆虫。
投降が遅れて申し訳ありません。年末に向けてプライベートが忙しくて忙しくて……
と言う訳で今回は再生屋編をお送りました。そしてついでに与作と鉄平にも出てもらいました。
しかし、前に見たマミった鉄平には本当に驚かされました。まだ手放しで喜べる状況でもないですけど。
次回は最後の一品を得る狩りになります。
次もがんばりますのでよろしくお願いします。