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No.32760の一覧
[0] 美食屋アンコ!(魔法少女まどか☆マギカ×トリコ)[天海月斗](2012/04/15 18:47)
[1] グルメ1 美食屋トリコとの出会い[天海月斗](2012/04/15 19:01)
[2] グルメ2 美食屋アンコ誕生![天海月斗](2012/04/16 18:50)
[3] グルメ3 美を求める美食屋サニー[天海月斗](2012/04/23 18:41)
[4] グルメ4 対決! トリコ対鰐鮫![天海月斗](2012/04/30 19:18)
[5] グルメ5 生きていた絶滅種[天海月斗](2012/05/07 18:17)
[6] グルメ6 家族が生まれた日[天海月斗](2012/05/22 19:16)
[7] グルメ7 グルメクレジットパニック!?[天海月斗](2012/06/04 19:05)
[8] グルメ8 アンコの誕生日[天海月斗](2012/11/02 23:01)
[9] グルメ9 ジョーカーマンドラゴラ![天海月斗](2012/08/16 18:59)
[10] グルメ10 自食作用発動![天海月斗](2012/09/03 18:55)
[11] グルメ11 毒か? 薬か?[天海月斗](2012/09/24 18:08)
[12] グルメ12 治療のための食事[天海月斗](2012/10/11 18:52)
[13] グルメ13 死を賭した再生[天海月斗](2012/11/19 19:09)
[14] グルメ14 美食屋としての初めての発見[天海月斗](2012/12/03 18:33)
[15] グルメ15 旅の終わり[天海月斗](2013/01/06 18:02)
[16] グルメ16 次のステージへ[天海月斗](2013/03/05 22:10)
[17] グルメ17 杏子の中での激突[天海月斗](2013/03/11 19:01)
[18] グルメ18 そんなのアタシが許さない[天海月斗](2013/05/05 01:23)
[19] グルメ19 美食屋としての入口[天海月斗](2013/05/11 23:46)
[20] グルメ20 螺旋の力[天海月斗](2013/05/26 00:11)
[21] グルメ21 炸裂! ドリルクラッシュ![天海月斗](2013/06/10 18:46)
[22] グルメ22 生きて食すると言うこと[天海月斗](2013/06/10 18:52)
[23] グルメ23 かつて諦めた夢[天海月斗](2013/06/16 01:33)
[24] グルメ24 美食屋と料理人[天海月斗](2013/06/23 01:36)
[25] グルメ25 恐怖を覚えた瞬間[天海月斗](2013/06/30 01:26)
[26] グルメ26 美国織莉子からの転身[天海月斗](2013/07/14 18:25)
[27] グルメ27 その魂を狂者へ[天海月斗](2013/08/03 16:23)
[28] グルメ28 ゴールデンアップル![天海月斗](2013/09/15 00:44)
[29] グルメ29 リンゴが紡いだ絆[天海月斗](2013/09/22 01:24)
[30] グルメ30 絹鳥とグルメ騎士[天海月斗](2013/09/29 00:43)
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[32760] グルメ20 螺旋の力
Name: 天海月斗◆93cbb5bf ID:862977af 前を表示する / 次を表示する
Date: 2013/05/26 00:11





 ココの元で修業を続けてから三カ月の時が流れた。
 レベルアップしたトレーニングの数々を杏子は次々とこなしていき、一日ごとに自分の肉体が急成長していく感覚を覚えていた。
 だがここで不満点も現れた。最初の頃とは比べ物にならないくらい上昇した自分の身体能力ではあるが、ある程度トレーニングに慣れてしまうとどうしてもトリコのパワーと比べてしまうところがあり、今の自分のパワーを見ようと杏子は森の中で手ごろな大きさの木を見つけ、足を大きく開いて大地を掴むイメージを頭の中で作り上げると、上半身の筋肉だけではなく体全体の筋肉を使って拳を振り上げて幹を思い切り殴る。

 衝撃が幹全体に伝わると同時に、パンチを放った部分にちょうど拳大の穴が出来上がったところで振動は収まった。
 普通ならばこの圧倒的なパワーを見て満足するだろうが、杏子は違っていた。
 トリコならばこの程度の木なら幹ごと破壊することは分かっていたので、同じグルメ細胞を移植されているにも関わらず自分のパワーの無さを情けなく感じていた。

「力の無さを気にするなら、それは全く持って下らない悩みと言う物だよ」

 その様子を後ろから見ていたココに声をかけられ、杏子は多少驚きながらも後ろに居たココに気付かないことにも情けなさを覚え、歯がゆい想いが顔に出る。
 二人の間に微妙な空気が流れている間に、杏子の手によって穴を開けられた幹は自己修復が終わり、穴は完全にふさがって無くなっていた。

 新人の美食屋が重宝する『サンドバックウッド』は根さえ大地に埋まっているならば、幹その物を切られても即座に再生できる植物であり、自分のパワーを図るにはちょうど良い樹木。
 その反面切られた方はとても脆くて、せいぜい薪ぐらいにしか使えないと言う難点もあるが、新人の杏子に取ってこれはありがたい存在であると同時に自分の無力さを思い知らされる憎い存在でもある。

 ココは歯がゆそうな表情を浮かべている杏子の隣に立つと、振りかぶってサンドバックウッドを殴り飛ばす。
 先程と同じように幹全体が揺れ、殴った部分のみに穴が空くが、ココの場合それだけでは終わらない。
 パンチの衝撃は木一本だけでは収まらず、並んでいた幹にも同じように穴が空いていき、その衝撃はサンドバックウッドの森林地帯から抜けて初めて治まった。
 だがこれが自然とそうなった物でないことを杏子は理解していた。
 ココはこのフィールドを考え、周りに危害が及ばないようにパワーを調節してパンチを放ち、自分にお手本を見せてくれた。
 この辺りの本気の使い分けもまだ自分には出来なく、再び沈んだ顔を浮かべてしまうが、そんな杏子に対してココは顔を上げさせ、まっすぐ自分の目を見させながら話し出す。

「今見ても分かるようにボクにはトリコほどのパワーは無い。じゃあ何でボクは『四天王』なんて呼ばれて、あの三人と肩を並べられたと思う?」
「そりゃ、お前には毒があるんだしさ……」
「こんな物は特徴の一つにすぎない。ボクにはトリコほどのパワーも、サニーのような精密動作も、ゼブラのような聴力も無い。だがそれでもボクが三人と肩を並べられた理由はたった一つだ」

 ココが思う自分の利点と言う物が気になり、杏子の表情も自然と引き締まる。
 ちゃんと話を受け入れる準備が出来たのを見ると、ココは顔に添えていた手を退かして話し出す。

「したたかだからさ。言うならば相手の虚を突き、懐に飛び込むのが少し上手いから、何とかボクはあの三人に付いていけたんだよ」

 自分の性格が他の三人に比べて慎重派だったから、三人と肩を並べることが出来たとココは語る。
 言わんとしていることは分からないでもないが、性格を変えろと言うのはある意味ではパワーを付けろと言うよりも杏子に取っては難題。
 この直情型の性格で今まで数えきれないぐらい取り返しの付かない事態になった自分にとっては冷静さを保つと言うのは難しい課題。
 相変わらず無力感に苛まれている杏子を見て、ココは軽くため息をつくと手で誘導して、杏子のために作った道場へと案内する。
 何度も何度もココ相手にスパーリングを行ったが、一方的にあしらわれるばかりであり、そのたびに杏子はリベンジを近い、来るべき日のためにトレーニングを積んでいた。
 今度こそ一矢報いるぐらいの攻撃を放り込んでやろうと、その拳には自然と力が入っていた。




 ***




 木製の純和風の道場へ到着すると二人は互いに一礼し、中央で向かい合う。
 杏子は背中に背負った槍を取り出し、ココは目の前の杏子に向かって構えを取るとゴング代わりになったのは杏子の突進する足音。
 木の板がダッシュの衝撃に軋む音をBGMにしながら、杏子はココに向かって穂先を突き立てて突っ込んでいくが、それに対していつもなら手を突き出してパワーで押さえこもうとするココだがこの日は違っていた。

 体全体を小さく屈めて肩を突き出して、そのまま突進していく。
 穂先はココの肩で受け止められて、流されるように軌道が変わっていき、体はココの大きな体で受け止められ、付けた勢いを逆に利用されてしまい、暴走した助走エネルギーは後方へと持って行かれ、杏子の体は後方へと吹っ飛ばされる。
 轟音が道場内に響き渡ると大きく壁に穴を開けて、大の字になって杏子は倒れ込んでいたが、見た目以上のダメージが無いことから、何が起こったのか分からないと言った不思議そうな表情を浮かべていて、ココは彼女の元へと向かいその体を起こしながら、今起こしたトリックの説明に入る。

「これはボクシングで言うところのカウンターのようなものさ。相手の力を最大限に利用して、自分は最小限の労力だけで相手を倒す。ボクのようなパワー不足には持ってこいのテクニックさ」
「ここまで行くとカウンターってレベルじゃないと思うが……猛獣相手にもこんなの通用するのか?」

 ダイナミックすぎるのはこの世界では毎度のことなので、一々突っ込むのも馬鹿らしいと思った杏子は、この技術が美食屋として主に戦う相手の猛獣にも通用するのかどうかを聞く。
 カウンターと言う技術は対人間用の物であり、何もかもが規格外に違いすぎる猛獣を相手に人間相手の技術で勝負が出来るのか気になって聞くが、ココは自信満々に答える。

「出来る。カウンターと言う言い方が悪かったのかもしれないね。もっと分かりやすく言うなら、例えば人工衛星を保有している国と核ミサイルを持っている国が戦争をした場合どちらが勝つと思う?」
「そんな物核ミサイルを持っている国だろ。ぶっ放せば一発でサヨナラじゃないか」

 杏子は分かりきった質問に対して、多少いら立った調子で答えたが、ココは軽く首を横に振って浅はかな杏子の思考をたしなめると同時に答えを発表する。

「発射される前に人工衛星から核の信管に目がけて宇宙からレーザーで貫けば、その国の自滅で終わるさ。ようするにさ、ある物でどこまで工夫して戦えられるか、それが人間だけの利点って奴だよ」

 遠回しに配慮が足りない、考えが浅はかだと言われ、杏子は歯がゆい物を感じていた。
 何もかもが力任せだった魔法少女時代、実力は自分でもかなりの高水準だとは思っていたが、そう言う目線から見れば自分の実力とは三流のレベルなのだと思い知らされてしまう。

 今までも力任せでの戦いではあったが、その中でも考察をして行動を一つ一つ行っていかなければ負けてしまう。ある意味では次のステージに進んだことを思い知らされ、杏子は服に付いた埃を払いのけると、次のトレーニングに向けて柔軟体操をしだすが、靴に感じた違和感を思い出すと、両方を脱ぎ去ってココに投げ飛ばす。

「投げるなよ。これは!?」

 行儀の悪い杏子をココは叱ろうとしたが、持っていた靴を見ると驚愕の表情を浮かべて固まる。
 昨日買ったばかりにも関わらず、泥だらけで底の部分が綺麗に剥けている靴は何年も使いこんだような印象を受けてしまう。
 市販品のそれよりもずっと強力な物を使っているにも関わらず、一日で靴を履き潰してしまう杏子の脚力に驚かされるばかりのココだが、固まってしまっているココに対して杏子は立て続けに着ていたツナギも脱いで同じように投げ飛ばす。

 持った瞬間に勢いよく破けたツナギにココの表情は再び固まってしまう。
 これもまた市販品よりもはるかに強力な特注品を使っているのだが、日々の空気摩擦で焼け焦げたようにボロボロになっているそれを見て、杏子のポテンシャルの高さに驚かされるばかりであるが、脛に感じた痛みに意識を現実に戻されて下を見ると怒った顔の杏子が居た。

「呆けてんじゃねぇよ。また壊れたから新しいのを頼むって話だ」

 脛を蹴りながら話す杏子の足を止めながら、ココは昨日行ったばかりのホームセンターへ向かおうとしていたが、この行為が無駄なそれなのではと思ってしまう。
 金銭面に関しては問題ないのだが、その人に取ってレベルのあった装備を整えるのは当然のこと。
 今のままでは杏子に取っても効率が悪いし、成長の妨げにもなる。そんなことを考えながら道場から出ようとドアを開けると、そこにはひと組の男女が立っていて中に入ろうとしていた。

「ようココ遊びに来たぜ」
「ウチも居るし~」

 サニーは持ってきたお土産をココに手渡すと杏子の元へと向かい、リンは仕事から解放された嬉しさから道場内をはしゃいだ調子で踊りながら歩き、休日を満喫していた。
 リンの様子を見て杏子の中で安堵感が生まれる。
 想い人を失ったことから、さやかのようになるのではと不安に感じていた杏子だが、リン自身トリコの『幸せになってくれ』と言う約束を忘れず、周りのフォローもあってか今では彼女は元気に猛獣使いとして仕事を毎日行っている。
 と言っても激務に追われる毎日なので何かと理由を付けてはサボり、トリコを失った寂しさを忘れようとすっかりゲーマーになってしまったので、その相手をするのに疲れる部分もあったが、彼女がさやかのようにならなかったことが嬉しく自然と杏子の頬も緩んだが、手の甲に感じた触覚の感触に眉間にしわがよる。

「ふむ、グルメ細胞が活発に活動していて結構。後はもう少し美にも気を使ってくれれば及第点だがな」
「勝手に手を舐めまわすんじゃないよ、アタシだからギリギリ許してやるが、一般人にやったらただの変態だぞお前……」

 『舐めまわす』と言う杏子の表現にサニーは露骨に不快そうな顔を浮かべていて、リンはその様子を遠くから見ていてクスクスと笑っていた。
 三か月の修業の成果は確実に現れていて、出会った当初は何が何だか分からなかったサニーの触覚に関しても今では触れられたと言うことが理解できるぐらいにまでは成長した。
 髪の一本一本が手を凌駕する触覚機能を持ち合わせたサニーの髪に触れられると言うことは全身を舐めまわされるような物。
 触れられたと言う感覚程度しかないので、あえて杏子は口頭での注意のみにしていたが、サニーは女性に変態呼ばわりされたことが気に入らないのか反論を始める。

「舐めまわすとは心外だぞアンコ。手の甲へのキスはその人に対しての親愛の表れじゃないか」
「それは海外での社交場の話だろ。アタシは日本じ……」

 異文化コミュニケーションは通用しないことを言おうとした杏子だが、ここは異国どころか全てがデタラメな異世界であることを思い出し、口に出した言葉を飲み込んで言い淀んでしまう。
 一応漢字表記の名前の持ち主はいるようだが、名字だけの人も多いし、そもそも今住んでいるこの場所も母国語こそ日本語であるが、絶対に日本では無い。
 この言い分が通用しないことが分かると、どう反論をしていいか分からず、ワガママなサニーを相手に喧嘩するのも無駄な労力だと判断した杏子は彼女らしいシンプルな結論を出す。

「分かったよ! その代わり手の甲以外は絶対にやるんじゃないぞ!」
「美しい判断に感謝する」
「何したり顔で偉そうに言ってんのよ!」

 二人の間でこの件に関して話が付いたと思ったが、そこにリンが割って入る。
 杏子とリンは女性が少ない環境の中での数少ない同性同士と言うことから、自然と話すようになっていき、今ではメールのやり取りなどもしている仲。
 この場で杏子の味方になれるのは同性の自分しかいないと踏んだリンはサニーを相手に講義をしだす。

「お兄ちゃんがやってるのはただのセクハラだし!」
「誰がセクハラだ!? 何度も言うように親愛の表れだと言っているだろ!」
「ネットではそう言うの何て言うのか知ってんの? 今は自重するけど本当引くよ!?」
「やめんか! キショイわ!」

 二人は杏子のことも忘れて喧嘩になってしまい、取り残されたココと杏子は完全に呆けていたが、ココは夕食の支度をするとだけ言って一足先に道場から出ていき、杏子も逃げるようにその場を付いてこうとした。
 言い争いをしている間もサニーは杏子の変化を見逃さなかった。
 裸足で出ていった彼女の足が酷く痛んでいて、グルメ細胞の回復力を持ってしても間に合わないことを。
 直観を信じてきたのは正解だったと思いながらもサニーはリンの相手を続けていた。

「まぁアンコも居なくなったみたいだし、アイツが聞いたら気絶するようなワードだから自重したけど、その辺りも交えて話しても大丈夫?」
「ダメに決まってんだろ!」




 ***




 久しぶりのにぎやかな夕食を終え、杏子とリンが寝入ったのを見届けると、サニーはウイスキーを片手に、ココは飲めないので緑茶を片手に持って乾杯をすると今回来た目的を話し合う。
 一番の目的は杏子の修業が順調に進んでいるかどうかだが、そこで一つの障害が現れたことを見極めると解決方法をココと共にサニーは話し合っていた。
 ツナギや靴だけではなく、体全体を使った斬撃及び打撃の攻撃に最近では槍も毎回のように破損してしまい、鉄塊になってしまうことが多く消耗品と化してしまっていることをココが報告すると、サニーは少し考える素振りをして自分の中で出た結論を話し出す。

「やはりここは上級者向けの装備を与えるべきだ。必要なのは何にも怯まない強力な攻撃力を持った武器と、身を守る強固な防御力を持った衣だ」
「分かってはいるのだが……」

 武器も鎧も肉体のみで勝負をする自分たちにとっては無縁な代物なので、つての無いココは歯がゆさに苦しめられていた。
 こんなことだろうと思い、サニーは拳で軽くうなだれるココの頭を殴って注意をひきつけると、持っていた紙を懐から取り出す。
 そこには優秀な武器職人と自分も贔屓にしているグルメ仕立屋のリストがあり、後はそれを参考にしながら杏子と話し合えと言うことを伝えたかったのか、紙を手渡すと満天の星空をつまみにしながらウイスキーを楽しもうとしていたが、ココは一つだけ気になったことがありサニーに尋ねる。

「何で甲冑師じゃなくて、仕立屋なんだい? 防御を重視するならそっちの方が……」
「アホ、女の子に仰々しい鎧なんか着せられるか。それに防具に関しては俺は一つあてがある。俺には見える、最高に美しい衣に身を包んだアンコの姿がな」

 サニーは自分の直感と杏子を信じていた。自分はこれで帰るがリンは有給を消化するため、もう少しここに居座ることだけを伝えるとサニーは一人美しい妄想に浸っていた。
 まだどういう物になるのかは分からないが、美しい衣に身を包んで可憐に戦う杏子の姿を。
 並べられた紙のリストに埋もれていた中にはスーパーのチラシや、宗教の勧誘のチラシも混じっていて、その一番奥に埋もれていたのは最近美食會の人間を見かけたので注意してほしいと言う警告文であり、杏子も物だけは見ていた。
 だがもう一月も前の情報なので大した警戒はしなくても平気だろうと、その場にいた全員が思っていて、今ココは武器職人の見定めに真剣だった。




 ***




 翌日ココは見定めた武器職人とグルメ仕立屋のところに向かい、杏子の武器と防具に関しての打ち合わせを行うため出かけていて、この日の杏子の修業は一人で行うこととなっていた。
 こうして一人で修業を任されるのも信頼の表れだと言うことがリンは分かっていて、彼女の修業の様子を見守っていた。
 この日杏子は攻撃力の向上のため、ずっと練習中だった技を完全に自分の物にするため、サンドバックウッドに向かってパンチを放つ。
 初めの内は打撃音の鈍い音だったが、だんだんそれはえぐるような炸裂音へと変わっていき、音が変わるたびに杏子は手ごたえと言う物を感じていた。

 リンが見守っているが、彼女のことなど気にせず何度も何度も精度と言う物を気にしながら打っていくと、自分の中でイメージの形が出来上がっていく。
 トリコのパンチが釘を打ちつける要領で打つ物ならば、自分のイメージはドリルのように回転の力を借りて少ない力を何倍にも増量させて打つパンチ。
 頭の中でパンチの構図が出来上がると、自分の手がドリルになったかのような感覚が出来上がり、サンドバックウッドに向かって殴りかかる。
 パンチが当たる瞬間に手首を内側に捻り、回転の力を加えることでパンチの攻撃力は何倍にも上がる。
 当たった瞬間に螺旋の力が今まで拳大の大きさの穴しか空けられなかったが、威力が円のように広がっていくと、ドンドン穴が大きくなっていき、ブラックホールのように幹全体を食いつくすと最後には幹ごとサンドバックウッドは倒れて辺りに轟音を響かせた。

「アンコ、アンタ今のって……」

 これにはぼんやりと修業を見守っていたリンも驚き、杏子の元へと向かって息を整えている彼女に向かってハンドタオルを手渡す。
 杏子は顔の汗を拭きながら、倒れたサンドバックウッドを見届けると、次に自分の拳を見つめ感慨深いと言った表情を浮かべた。

(これでようやく半人前のボンクラと言ったところかな……)
「アンタ今のってコークスクリューブローじゃないのよ!」

 トリコの威力に少しでも近づけたかと思っていると、リンの甲高い叫び声が響く。
 耳元で怒鳴られて杏子は耳を指で塞ぎながらも、彼女の相手を始めるが、言った言葉の意味が分からず、不機嫌そうな表情を浮かべる。

「あ? 何だよ、そのコークなんちゃらってのは?」

 ボクシングの高等技術である『コークスクリューブロー』を知らない、杏子が本能だけでこのパンチを放ったことにリンは驚き、詳しい原理を説明しだす。
 大体のことが分かると杏子は再生しだしたサンドバックウッドに向かって飛び上がり、再びコークスクリューブローを放つが、今度は横から曲線的な軌道を描きフックの要領でコークスクリューブローを打とうとするが、上手くいかず成功するまで何度も飛び上がってパンチを放つ。

「ちょっと呼吸を整えて、まずは理論をちゃんと理解しないと……」
「そんな暇あるか!」

 リンの呼びかけも無視して、杏子はコークスクリューブローを完全に自分の物にしようと何度も何度も様々なフォームでパンチを放つが初めのような綺麗な円の斬撃が成功することが少なく、歪な形の円だけがサンドバックウッドに出来るだけであった。

「自信が無いなら、回数をこなして経験を積むしかないだろ! 馬鹿って言われるかもしれないけど、理屈や理論よりもアタシは行動で直観的に物を覚えるタイプなんだ。ようやく見つけた一つの到達点だ。グダグダやってる暇なんかねーよ!」

 杏子らしくまくしたてるように一気に自分の言いたいことだけを言うと、コークスクリューブローを完全に自分の物にしようと何度も何度もサンドバックウッドに向かって斬撃音を響かせる。
 そのストイックさにも驚かされたが、リンが本当に驚かされたのは着地の瞬間。
 杏子は本能的に行っていて気付いてなかったが、着地の瞬間に飛び上がっている際、パンチと同じように足首に捻りを加えて飛び上がっているので、普通にジャンプするよりも高く飛び上がっていて、飛び上がる瞬間も回転の力を加えているのでその飛距離は通常に飛び上がった状態の三倍にもなっているだろうと思い、杏子自身も気づいてないが、20メートル近くあるサンドバックウッドを飛び越えそうな勢いでジャンプをしているのは第三者の視点があって初めて分かる物。
 自分も一応グルメ細胞の移植が行われてはいるが、この間まで一般人だった杏子がここまでの成長を遂げることに驚愕の表情をリンは隠せないでいた。
 トリコのグルメ細胞のパワーとそれを使いこなす杏子のポテンシャルに。




 ***




 この日の修業を見守るとリンもまたこれ以上仕事は休められないので、渋々自分の持ち場へと戻っていき、杏子は再びココとの二人暮らしに戻る。
 夕食を終えると話は武器職人とグルメ仕立屋に関してのこととなり、武器に関しては槍で簡単に決まったが、問題はグルメ仕立屋の方。
 サニーの案は確かに良案ではあるのだが、それを杏子が了承してくれるかどうかというのがココに取って一番の悩みの種であり、恐る恐る杏子に向かって切りだす。

「それでサニーに聞いたと思うのだが、アンコちゃんのスピードに合わせるために、ツナギでは役に立たないので特性の防護服を作ろうと言う話になったのだが……」
「何を歯切れの悪い言葉ばかりを……言いたいことがあるならハッキリと言えよ!」

 明らかに目が泳いだ状態で、動揺しきっているココを一喝する杏子。
 そんな杏子に促され、ココはずっと言い淀んでいた言葉を放つ。

「分かった……アンコちゃんぐらいのスピードになると普通の防護服じゃダメなんだ。そこでグルメ仕立屋の『オリーブ』さんと相談した結果、ある素材を用意してくれれば、アンコちゃんのスピードにも耐えうる防護服を作れると言う話だ」
「その素材ってのは?」

 まだまだ捕獲レベルが一ケタの相手にも苦戦している自分では、とてもではないが要求する素材を捕獲することは出来ないので、杏子はどこか気の抜けた感じで答える。
 今一つ緊張感に欠ける杏子を相手に話していいか悩んだが、勢いに乗って一気に行こうとココはずっと言おうかどうか悩んでいた真実を話す。

「ライトニングフェニックスの羽だ」

 思ってもいなかった素材を言われてしまい、杏子は言葉を完全に失ってしまう。
 確かに一年前トリコから誕生日プレゼントでライトニングフェニックスの羽は貰ったが、その後は忙しさにかまけてクローゼットの肥やしになっている状態。
 一応家から持ってきていて、杏子は一旦自分の部屋に戻るとクローゼットから羽を持ちだして再びココの元へ現れる。

 クローゼットに入れっぱなしでまともな保存もしていなかったにも関わらず、その金色の羽は眩いばかりの光を発していて、久しぶりに感じる優しい光と共に思い出されるのはトリコとの思い出の数々。
 自然とその表情には愁いの色が出てくる。ココは心配していた事態に陥ってしまい、一つの提案を杏子に出す。

「君がその羽に思い出を感じているのは分かる。だからもし本当に手放したくないと言うなら、ボクの方からお父さんに頼んで捕獲をしてもらうから……」
「いや大丈夫だ」

 杏子の顔色を気にしながら話すココを諭すように、杏子は少し寂しげな笑みを浮かべたまま、ライトニングフェニックスの羽をココに向かって手渡す。
 羽を受け取るとココはやせ我慢で自分に羽を手渡したのではないかと思い、杏子の方を向くが彼女は真剣な顔を浮かべたまま丁寧に話し出す。

「これはアイツがアタシのためにくれた物だ。アタシが有効利用してやらないとプレゼントとしての意味が無いだろ。クローゼットの肥やしになっているより100倍マシだ」
「だが服に転生しても永遠に残る物ではないぞ。それこそ激しい環境の中で戦う世界だ。本当にいいんだな?」
「何度も言わせんなバカ」

 その言葉から決意の固さを受け取り、ココは早速懐から携帯電話を取り出すとオリーブに物が手に入ったことを伝え、明日には打ち合わせのためにそちらに向かえることを伝えた。
 電話が終わると杏子が武器職人の候補に挙がっている。からくり細工の武器を得意としている『与一』(よいち)の詳細情報を見ると、オリーブの詳細情報を見比べ、自分の中で結論を出すとココに話しかける。

「ただし、武器も防具に関しても、アタシの使いたい物を使わせるから、あれやれこれや口出しはするからな」

 そう言って軽やかに笑う杏子を見て、次のステージへと進む準備はしっかりと出来ているのを知ると、ココは小さく頷く。
 杏子の中では既に案はあった。後はそれを実行できるだけの能力が与一とオリーブにあるかを祈るだけであった。




 ***




 翌日、初めに向かったのは武器職人の与一の元。
 工房を訪れた二人はまず与一と初めて顔を合わせる。
 ざんぎり頭に大きめの眼鏡をかけた温和そうな男性と言う印象を受け、その線の細さに杏子は頼りなささえ感じていたが、壁に掛けられている仰々しい武器の数々を見て、その不安は払拭させられた。

 ある物は2メートル近くある巨大な大斧に、漫画の中でしか見たことがない蛇腹状に分断する剣、小型の斧を鎖で繋げたヌンチャクなど、その武器を見れば自分の実力も十二分に発揮できると思い、握手を交わして挨拶が終わったココと与一を見ると、与一にオーダーを伝える。

「用意してもらいたい武器は二つだ。これとこれを頼む」

 事前にカタログで大体の目星を付けた杏子が指定した武器は二つ。
 一つは槍ではあるのだが刃の部分が大きく、どちらかと言うと大型の剣に近い形状の槍と、もう一つはこれまで杏子が使ったことの無い三又槍であり、使いなれない武器を使うのにココは苦言を呈す。

「確かに君は器用な方だが、いきなり二刀流と言うのはさすがにどうかと……」
「話はここからだ。この二つにちょっとしたギミックを加えてもらいたい」

 自分自身でもようやく物にしたばかりの能力を武器にも追加しようとしている杏子。
 話を聞いていく内に一人でここまでの事を実行できるのかとココは感心するばかりで、与一は杏子の要望を聞くと自分に作れるかどうかを考えるが、いくつか似たようなタイプの武器も作ったことを思い出すと、結論を出して話し出す。

「了解。三日後には出来上がると思うから」
「頼むぜ」

 それだけ言うと杏子は足早にオリーブの待つアトリエへと向かう。
 気が早すぎる杏子に呆れながらも、ココはフォローとして作り笑顔を浮かべたまま後のことを任せると慌てて杏子の後を追った。




 ***




 続いて二人が向かったのはサニーもよく服を仕立ててもらっているオリーブのアトリエ。
 カラフルで色鮮やかな壁におしゃれな服がたくさん並べられた空間で、本当に自分が望む防具が作れるのかとも思ったが、ココと挨拶を交わしているオリーブの姿を見ると、何も言えずに絶句してしまう。

 身長が130センチ程度しかない彼女は一見すれば子供にしか見えず、容姿の方も子供らしく頬に紅がかかっていて、どんぐり眼に金髪の髪の毛がミスマッチであり、ある意味では一目見れば忘れられない姿であり、杏子がその姿に圧倒されているとオリーブが杏子に気付いて彼女の元へ向かう。

「あなたが依頼主のアンコちゃんね。私はオリーブ、今回極上の素材を用意してくれたあなたに感謝するわ。要望を言ってどんな服でも作ってみせるわ」

 幼い見た目に反してその態度は淑女のそれであり、柔らかな笑みを浮かべながら手を差し出すオリーブに対して杏子はぎこちない笑顔を浮かべながらもその手を取って二人は握手を交わす。
 早速作ってもらいたい防護服のデザインを描いた紙を尻ポケットから取り出すが、見せた途端に自信が無くなる。

 絵には全く自信が無く、魔法少女時代の赤を基調にしたコスチュームと全く同じ物を作ってもらいたいと要求しようとしたのだが、自分が描いたつたない絵でそれが伝わるのかと情けない想いで一杯になったが、オリーブは絵を受け取ると自分の中で考えをまとめると軽くラフスケッチをして杏子に見せる。

「あなたの要望としてはこんな感じでいいのかしら? 他にも要望があったらすぐに言って」

 オリーブのラフスケッチはまさしく自分が魔法少女時代に着ていたコスチュームと全く同じ物と言っても過言ではなかった。
 あの拙い絵から自分の理想とするコスチュームが出来上がったことに杏子は驚きを隠せないでいたが、オリーブはこれが杏子の理想であることを知ると続けて自分の感想を語り出す。

「とてもエレガントな衣装ね。もし差し支えなければ、この衣装を選んだ理由を教えてくれるかしら」

 オリーブは杏子のコスチュームを気に入り、今後の参考になればと杏子から詳しいことを聞こうとする。
 理由を聞かれると杏子は多少言いにくそうだったが、自分の決意を語り出す。

「強いて言うなら、精一杯の罪滅ぼしってところだ。やっちまったことを忘れないようにするためのせめてもの反省の気持ちって奴だ」

 そう言うと魔法少女時代の苦い思い出が蘇る。
 生きるために物を盗み、人を傷つけ、使い魔を魔女に成長させるために人を見殺しにしたことも少なくない。
 ここでの幸せな生活がそう言った行動が間違いだったと改めて再認識させられてしまい、自分の中で罪の記憶を忘れないためにも、あえて魔法少女時代と同じコスチュームを着て戦い続けようと決意を固めていた。
 杏子の真意は今一つ分からないが、デザインが気に入ったオリーブは早速ライトニングフェニックスの羽をココから受け取ると早速作業に入る。

「この羽なら5着は作れるから、襟とかのデザインを変えることも出来るけども……」
「必要無い。同じ物を5着だ」

 ここでもまた自分の要望だけを伝えると、杏子は一足先に帰っていきココもその後を追った。
 帰った後もオリーブは鼻歌交じりに羽を裁断していき、淡々と服を作っていく。
 ハサミを動かしていくたびに期待が高まっていく、新しい服が出来上がることと、その服を着て活躍する杏子の姿が自分の中で見えていくことが。




 ***




 用事が終わるとココと杏子は帰っていく。
 杏子の後ろをココが守る形で歩く。
 これは最近現れたと言う美食會に関しての防護策であり、後ろを完全にココが守ることで全ての包囲から杏子を守るというスタイルを取っていて、杏子もまた発展途上中の自分が悪の巣窟とも言える美食會を相手に戦おうとは思わない。

 だが食料の独占と言う自分が最も嫌う邪悪をそのままにしておくつもりはない、いずれはちゃんと決着を付けなければいけない相手だと分かっているので、このココの策を大人しく受け入れ二人は家路へと急いでいた。
 変わることなく歩みを進めていく杏子だったが、次に足を踏み出した瞬間に違和感を覚える。
 まるで魔女の結界にでも入ったような感覚を感じた時にはもう遅く、地面全体が泥のように柔らかく歪み、杏子の体は地面へと放り込まれた。

「バカな!?」

 地面その物が消えて無くなると言う予想外の事態にココも対処が間に合わず、手を差し出すが一歩遅く杏子の体は完全に地面の中へと消えて無くなる。
 ココは何度も何度も地面を殴って杏子の安否を確かめるが、杏子の姿が消えると地面は元の硬いそれに変わってしまう。
 この状態にココは知識をフル動員させて、この状況を再現できる猛獣が居るかを考えると一匹の猛獣が思い浮かぶ。

 『クレイリザード』は地面に埋まって相手が自分の泥の背中に獲物がかかるのを待つ待ち受け型のタイプの猛獣であり、その消極的な性格から能力の割には捕獲レベルの低い猛獣であり背中の泥は加工すれば猛獣を捕まえられる落とし穴になることも出来、新人の美食屋は重宝する代物である。
 改良すれば特定の相手を拉致するためのフィールドを作り上げることぐらい簡単だろうと踏み、ココは目に力を込めて電磁波を見極めると恐らくは美食會の刺客が入ったであろう入口を探し出す。

「間に合ってくれアンコちゃん!」




 ***




 杏子の視界に広がるのは見渡す限りの暗闇だったが、突如眩いばかりの光に包まれると一人の男性の姿が確認できる。
 男性以外は相変わらず全てが暗闇に包まれていて、行燈の灯だけが二人を照らしていて、男は杏子の姿を確認すると軽やかな笑みを浮かべて話し出す。

「待たせるなよ」
「アタシはお前なんか待ってねぇよ! どうせ美食會のクソ野郎だろ!?」

 挑発的な態度は逆効果だとは分かっているが、杏子は実際に見合わせると美食會に対して怒りの感情がメラメラと燃えあがってしまい、ついつい声を荒げてしまう。
 自分のことを知っているなら話は早いとばかりに、漆黒のローブに身を包んだ男性は自己紹介を始める。

「私は美食會のスカウトマン『ダイナ』と言う。単刀直入に言おう、美食四天王トリコのグルメ細胞を移植され、メキメキと頭角を現している存在、実に興味深い。美食會に入れ、そうすれば君の実力は二倍、三倍にも跳ね上が……」
「断る!」

 ダイナが全てを言い終える前に杏子は断言すると、彼に対して憎しみの表情を向けたまま杏子は戦いの体勢を取って啖呵を切りだす。

「テメェらのことは大体聞いてる。この世全ての食い物を独占しようとしている。どうしようもないカスの集団だってことわな! アタシだって偉そうに人に対して説教出来る身分じゃねぇがな、それでもテメェらよりはマシだ! 様子見で済まそうと思ったが気が変わった。今この場でぶっ殺す!」

 この世界にも多くの難民や飢え死にする子供たちが居ることは知っている。
 原因は色々な要因が重なってのことだが、その中には美食會の存在も大なり小なり関わっている。
 倒すべき存在が分かっているのはシンプルでやりやすい。
 怒りをぶつける相手に一気に怒りをぶつけようと、自慢の脚力で一気に距離を詰めよってまだ完全には会得しきれていないコークスクリューブローでのストレートを放つが、拳が放たれる前にダイナは左へと攻撃をかわし、杏子のパンチは空を切った。

「宣言しよう。次は左のフックが飛ぶ」

 言い終えるよりも先に杏子の左のフックが飛ぶが、それもダイナは攻撃が発動するよりも先にかわし、余裕めいた見下した笑みを浮かべる。

「次は右の前蹴り、左の振り下ろしのパンチ、次は首を掴んでのひざ蹴り……」

 全ての攻撃を発動する前にダイナはいいあて、そしてその通りに攻撃しようとしていた杏子の攻撃は全てかわされ、風を切る空しい音だけが響き渡る。
 予想以上に厳しい相手だと判断した杏子は一旦距離を取って呼吸を整えるが、ダイナは追撃しようとはせずにニヤニヤと下衆な笑みを浮かべたまま行動を起こそうとはしなかった。

「テメェどんなトリックを使いやがった!?」

 攻撃が当たらない苛立ちから杏子はダイナに向かって叫ぶと、彼は余裕めいた笑みを崩すことなく応対を始める。

「次に君が何を話すのか答えよう『黙ってないで何とか言えよ!』とね」
「黙ってないで何とか言えよ! あ!?」

 ダイナの言った通りの発言になったことが自分でも恐怖を感じ、今自分が対峙している相手が予想以上の強敵なのかと痛感させられてしまう。
 杏子の中で自分の存在が恐怖心として芽生えだしたのを見届けると、ダイナは意気揚々と語り出す。

「そろそろ種明かしをしよう。君は私には絶対に勝てない、なぜなら私は対戦相手の心が読めるのだからな」
「何だと!?」

 噂の段階ではあるが魔法少女時代にも聞いたことがあった。
 未来を見通せる魔法少女が居ると、結局その魔法少女とは一回も出会わずに人生を終えたため、それが真実かどうかも分からない。
 だがもし出会ったらそんな魔法少女にどうすれば勝てるのかと頭の中で常にシュミレーションは立てていたのだが、まさかそれが現実になるとは思わず、杏子は顔から冷たい汗が流れるのを感じる。

(そんなまさか……)
「フフフ、例えば今『そんなまさか』と考えているだろう」

 またしてもピンポイントで考えられていることを当てられると、杏子の顔にも驚愕の色が出て言葉を出すのもためらってしまう。

 ――な!? 本当に考えていることが分かるのかよ!?
「本当に考えていることが分かるのさ!」

 杏子の頭の中がパニック状態になっているのを見定め、ダイナは一気に動く。
 ノッキングガンを片手に一気に突っ込むダイナを前に杏子は何も出来なかった。
 何度も死ぬ一歩手前は感じていたが、本当に恐ろしいのは死ぬことじゃない。
 自分が自分でなくなることの方がずっと恐ろしい、それはさやかを見ていて分かったことだ。
 だが気持ちだけが焦るばかりであり、何も出来ないでいて、ノッキングガンの針が自分の眼前に近づくのを止められなかった。

「ポイズンライフル!」

 毒の出口を限界にまで収縮し、攻撃力よりもスピードを重視して放った毒の弾丸がノッキングガンの針をコーティングする。
 突然の事態にダイナは対応できずに何が起こったのかと辺りを見回すばかりであり、その隙にココは杏子の手を取って唯一の出口である入口へと向かう。
 二人の姿が見えなくなったが、ダイナは呼吸を整えてその場に座り込む。

「チッ! だがまぁいいチャンスはまだある……」

 舌打ちをしながら愚痴を言うダイナ。
 自分の思うような展開にならなかったことに苛立ちを覚え、歪で不快感を前面に出した表情を浮かべると、懐からデータを取り出して改めて確認する。
 そこにはこれまでの杏子の行動履歴が秒単位で事細かに書かれていて、それをダイナは改めて確認し、次こそは杏子を自分の元に跪かせ洗脳させようと意気込んでいた。





本日の食材

サンドバックウッド 捕獲レベル2

根さえ大地に埋まっていればいくらでも即座に再生できる樹木。
故に新人の美食屋はこれを相手に自分の技を磨くことが多く、杏子も重宝している。

クレイリザード 捕獲レベル6

地面に埋まって泥のように形状を変えられる自分の背中に獲物がかかるのを待つ待ち受け型の猛獣。
背中は加工が可能であり、落とし穴にも非常用のシェルターにもなる便利な一品。





今回は美食會との対決になりました。
ラビオリの時は杏子は見ているだけでしたが、今回初めて本格的に美食會と戦わせました。
次回はその決着です。
次も頑張りますのでよろしくお願いします。


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