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No.32760の一覧
[0] 美食屋アンコ!(魔法少女まどか☆マギカ×トリコ)[天海月斗](2012/04/15 18:47)
[1] グルメ1 美食屋トリコとの出会い[天海月斗](2012/04/15 19:01)
[2] グルメ2 美食屋アンコ誕生![天海月斗](2012/04/16 18:50)
[3] グルメ3 美を求める美食屋サニー[天海月斗](2012/04/23 18:41)
[4] グルメ4 対決! トリコ対鰐鮫![天海月斗](2012/04/30 19:18)
[5] グルメ5 生きていた絶滅種[天海月斗](2012/05/07 18:17)
[6] グルメ6 家族が生まれた日[天海月斗](2012/05/22 19:16)
[7] グルメ7 グルメクレジットパニック!?[天海月斗](2012/06/04 19:05)
[8] グルメ8 アンコの誕生日[天海月斗](2012/11/02 23:01)
[9] グルメ9 ジョーカーマンドラゴラ![天海月斗](2012/08/16 18:59)
[10] グルメ10 自食作用発動![天海月斗](2012/09/03 18:55)
[11] グルメ11 毒か? 薬か?[天海月斗](2012/09/24 18:08)
[12] グルメ12 治療のための食事[天海月斗](2012/10/11 18:52)
[13] グルメ13 死を賭した再生[天海月斗](2012/11/19 19:09)
[14] グルメ14 美食屋としての初めての発見[天海月斗](2012/12/03 18:33)
[15] グルメ15 旅の終わり[天海月斗](2013/01/06 18:02)
[16] グルメ16 次のステージへ[天海月斗](2013/03/05 22:10)
[17] グルメ17 杏子の中での激突[天海月斗](2013/03/11 19:01)
[18] グルメ18 そんなのアタシが許さない[天海月斗](2013/05/05 01:23)
[19] グルメ19 美食屋としての入口[天海月斗](2013/05/11 23:46)
[20] グルメ20 螺旋の力[天海月斗](2013/05/26 00:11)
[21] グルメ21 炸裂! ドリルクラッシュ![天海月斗](2013/06/10 18:46)
[22] グルメ22 生きて食すると言うこと[天海月斗](2013/06/10 18:52)
[23] グルメ23 かつて諦めた夢[天海月斗](2013/06/16 01:33)
[24] グルメ24 美食屋と料理人[天海月斗](2013/06/23 01:36)
[25] グルメ25 恐怖を覚えた瞬間[天海月斗](2013/06/30 01:26)
[26] グルメ26 美国織莉子からの転身[天海月斗](2013/07/14 18:25)
[27] グルメ27 その魂を狂者へ[天海月斗](2013/08/03 16:23)
[28] グルメ28 ゴールデンアップル![天海月斗](2013/09/15 00:44)
[29] グルメ29 リンゴが紡いだ絆[天海月斗](2013/09/22 01:24)
[30] グルメ30 絹鳥とグルメ騎士[天海月斗](2013/09/29 00:43)
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[32760] グルメ21 炸裂! ドリルクラッシュ!
Name: 天海月斗◆93cbb5bf ID:862977af 前を表示する / 次を表示する
Date: 2013/06/10 18:46




 ダイナから逃げ切り、ココと杏子は自宅にて荒い呼吸を整えて体と心の平穏を取り戻そうとする。
 まだまだ情報量が少なく向こうのフィールドである以上、ココでさえも杏子を守りながらダイナと戦うのは危険だと判断して、彼女を引き連れて逃げたのだが思っていた以上に救助が遅れたことを情けなく思いココは杏子に向かって頭を下げる。

「済まない。電磁波を追ってはみたが、クレイリザードの体内は内臓が入り組んだ迷路のようになっていて最短ルートを突き進んでもこれだけの時間がかかってしまった」
「いや謝るのはアタシの方だ。あれだけ慎重を期していたのに、美食會その物を見た時怒りが治まらなかった。結果としてパンチの一発も当てられなかったよ……」

 杏子は自分の不甲斐なさが情けなく明らかに落ち込んだ顔を浮かべていたが、情報を得た部分もある。
 ココはそこを見逃さず、杏子が話が出来る状態なのを見ると情報を引き出そうとする。

「その時の状況を詳しく教えてもらってもいいか? 何かの突破口になるかもしれない」
「突破口? 心を読める相手ぶっ倒す方法なんざ、たった一つしかないだろ対処法を実践する前に圧倒的なパワーでぶっ潰す! それだけだ……」

 つい先程パワー云々に関しては創意工夫でどうとでもなると、ココから諭されたばかりの杏子ではあるが、実戦に置いて無様な結果を迎えた不甲斐なさと悔しさ、怒りと言った様々な負の感情が杏子の口調を乱暴な物に変えた。
 言い終えると完全にふてくされている杏子だったが、ココは『心を読める』と言うワードが気になり、その辺りを深く追求する。

「心を読める? そんな超能力みたいな能力、そう頻繁には出ないよ。ゼブラだって相手が嘘をついているかどうかぐらいが分かるだけで、その人が何を考えているかまでは分からないんだから。ふてくされていないで起こったこと全てを話すんだ」

 ココに促されると杏子は顔を上げる。
 厳しい目でまっすぐと自分を見つめるココに対して、杏子はため息を一つ吐くと、渋々と起こったことを話し出す。
 自分の攻撃が発動する前に宣言されて、その攻撃が全てかわされたこと。
 自分が考えていることまで的確に当てられてしまい、何も出来なかったこと。
 杏子から顛末を全て聞き終えると、ココは少し考えた素振りを見せると一つの仮説を立てて杏子に報告する。

「アンコちゃん。恐らくだけど、そのスカウトマンの言っている心を読めるって能力はハッタリだよ」
「じゃあアタシの体験したそれはどう説明する気なんだよ!?」

 ダイナのそれがトリックだと言われ、杏子はムッとした表情を浮かべて反論する。
 この世界は何もかもがデタラメで一流の美食屋と呼ばれる人間の生態は、ある意味では魔法少女と同じぐらいの特殊能力の塊みたいな物。
 なので心を読めるぐらいの能力ならあっても当然だろうと杏子は思っていたが、ココは何も言わずに一旦外へ出ると、亀と犬を連れて再び家へと入る。

「何だよそれは?」
「外を歩いているのを少し借りたのさ。これからボクも読心術を見せるから、良く見ているように」

 ココに心を読める能力はないと杏子は思ったのだが、ココは甲羅の中に閉じこもっている亀に手を当てて一言。

「怯えています」

 続いて尻尾を振ってココの頬に向かって頬ずりして懐く犬の背中を撫でながら一言。

「喜んでいます」
「バカにしとんのかい!?」

 完全に生態を見ての予測の範囲であることに杏子は怒るが、ココはそんな彼女を宥めながらダイナが行ったからくりに付いて話し出す。

「これを徹底すれば人間にも応用出来るって話さ。何気ない行動の一つ一つでもその人の心理ってのは大体予測が出来るもんさ」

 具体例に関してココは話し出す。
 腕を組むしぐさは相手に威圧感を与えると同時に自分を大きく見せる行動のため、裏を返せば不安の表れとも言える。
 こう言った何気ない行動を徹底して注意深く見続ければ、心を読めると言ったハッタリを言うことも出来る。
 もっともな意見にその事に関しての納得はするが、それでも一つだけ納得できないことがあり、その事を杏子はココに聞く。

「じゃあ攻撃に関して先読みしていたのはどう説明してくれんだ? 明らかに動く前から分かっていたぞ」
「百戦錬磨の達人となれば、僅かな筋肉、関節の動きから、相手の攻撃を予測できるが、パッと見た感じ彼にそこまでのオーラは感じられなかった。となると考えられることは一つだ」

 そう言うとココは紙に攻撃パターンの羅列を書き、ある程度のパターンを書くと杏子に手渡す。
 物を見ると杏子の表情は固まってしまう。パターンは4、5パターンぐらいしか存在せず、それが全て自分の攻撃パターンに当てはまる物だと分かると、途端にレパートリーの少なさに杏子は絶望して足が砕けそうになってしまうが、それをココの手によって止められてしまう。

「落ち着け、別に技の種類が少ないのを咎めているつもりはない。洗練されればされるほど、技の種類なんて自然と少なくなっていくもんだ。だが新人の内をこれを逆に利用されることもある」

 この発言で杏子はココの真意を汲み取った。
 ダイナはどこかで自分を観察し続け、発展途上中の自分の攻撃パターンを徹底して覚え、相手の心を読めるように見せ、自分に隙が出来るのを待って一気に捕獲しようとしていた。
 手品の種が分かると、杏子の中でメラメラと怒りの感情が湧き上がってくる。
 いいように扱われたこともそうだが、ストーカー行為の卑劣さに気付かなかったことや、そんな行為をいいようにされてしまったこととグチャグチャとしたマイナスの感情は一気に爆発し、憎しみの目線をココにぶつける。

「その様子だとリベンジマッチはアンコちゃん自身で行うみたいだね。止めても無駄なようだな」
「当たり前だ! 倒す方法はたった一つ。それはお前だって分かっていることだろ!?」

 喧嘩腰の調子ではあるが、頭の中で冷静な案はあり、勝つための策と言うのは杏子の中には存在していた。
 そのためにやるべきことは杏子もココも分かっていて、来るべき時のために自分たちのやるべきことと言うのも分かっている。
 ダイナを倒すため、そして美食屋として更なる高みを目指すため、二人は外へと出ていくと修業を行おうと飛び出す。

「短気な君のことだ。物が出来上がって、すぐにスカウトマンのところへ向かう気なのだろう? ならタイムリミットは三日だ。ボクも厳しく行くよ」
「上等だ!」

 完全に気合の乗っている杏子を見て、ココは一気にスピードを上げて道場へと向かい、杏子もその後を追う。
 自分の後を付いていく杏子の姿を見て、ココは感じていた。
 彼女の成長と言う物を。




 ***




 道場に到着すると二人は向かい合って一礼をしたのちに構えを取る。
 杏子は来るべき時のために自分の物になりかかっているコークスクリューブローの構えを取り、ココは右手に力を込めると毒で円状のクッションを作り上げ的としてダイナの頭部と思われる位置に右手を出す。

「まずは思いっきり打ってみるんだ」

 ココに促されると杏子は一気に距離を詰めて右腕を回転させ、ドリルで貫くイメージを作り上げるとココが作り上げた毒のミットに向かって打ちこむ。
 その攻撃をココは眉一つ動かさずに受け止めると同時に右手を押し出して、杏子の体を押しのけた。
 四天王の中で一番パワーの無いココだが、この程度のことは予想が出来ていた。続けざまに攻撃を行おうと杏子が立ち上がると同時に、ココは手で彼女を制して、毒のクッションを見せると細かい指導に入る。

「ダメだ。ダメだ。見てごらん、この模様の数を」

 そう言ってココが数え出したのはコークスクリューブローの打撃によって出来上がった同心円状の模様。
 まるで木の年輪のように刻まれたその数は五重の円が出来上がっていたが、これが少ないと言うことは素人の杏子でも分かった。

「これだけかよ……大体どんぐらい刻めば及第点って言えんだ?」
「そうだな……最低でもこの3倍はやってもらわなければ、あのギミックを軌道させることはできない」

 わずか三日の間に今の3倍の実力を付けろと言うのが難題だと言うことが、相当に厳しい要求だと言うことは言っているココ自身も分かっていること。
 だがそれぐらいのことをやらなければ、杏子が用意したあのギミックを使いこなすだけの体力及び技術は手に入らない。
 ココは何も言わずに同じように毒のクッションを作り上げると、長丁場になるだろうと水筒に入った水を一飲みした後に、再び同じ位置にクッションを突き出す。

「やってやるよ!」

 闘争心に火が点いたのか杏子は思い切り毒のクッションにパンチを叩きこむが、思いだけが空回りしている状態となってしまい、先程と大して変わらない年輪が刻み込まれるだけであった。
 回数をこなさなければ前進はないと分かっているので、何度も何度も毒のクッションが作られるのを待つ時間さえもったいないと言った調子で、杏子はパンチを叩きこんでいくが、そのパンチの威力が少しずつではあるが上がっていることをココは感じ取っていて、次のプランに行っても問題ないことが分かると、パンチを放つ杏子の手を止めさせ、一旦道場から出ると、再び中に現れた時には以前トレーニングで使われた体感ゲーム機を台車に乗せて現れた。

「またそのゲームかよ!?」

 緊張感に欠けると言う理由から、杏子はこの体感ゲームでのトレーニングを一番嫌っていたが、このゲームにもちゃんとした理由がある以上従わざるを得ない。
 杏子は渋々鉄球を付けてもらうために足を突き出すが、ココは首を横に振ってそれを拒否する。

「今回は鉄球なしで最高難易度に挑戦してもらう」
「足かせ無しでか!? あれが無いとスピードが付きすぎて思うように動けないんだよ……」
「それが今回の特訓の意味さ」

 何となくではあるがココの真意と言う物を杏子は理解できた気がする。
 狭いフィールドで常に踏ん張りが効くようになれば、どんな状況でもベストショットの一撃を相手に与えることが出来る。
 これを極めさえすれば空中でも強烈な一撃を与えることが出来、魔法少女時代自分の何倍もの大きさの魔女を相手に戦い続けた杏子からすれば、魔法少女時代と同じ戦い方が出来るのはベスト。
 それにそれぐらいのことが出来なければトリコに追いつくのも夢のまた夢と判断し、杏子はゲーム機の上に乗ると早速最高難易度でスタートさせるが、ここでこのトレーニングの難しさと言う物を実感させられてしまう。

 パワーが付きすぎて自分でも思うように足を指定の場所に持って行くことが出来ず、魔法少女時代は余裕でクリアできたそれが、とても難しく感じ何度もタイミングがずれて強制的にゲームオーバー扱いになってしまう。
 それだけならばまだ問題はないのだが、時折踏み外しては盛大に転んでしまうこともあり、そのたびに杏子は自己嫌悪に陥ってしまい、またしても魔法少女時代の嫌な思い出が蘇ってしまう。

(さやかのことどうこう言えた身分じゃねぇなアタシは……)

 さやかの暴走の一旦となった原因の一つに影の魔女戦での軽率な行動があった。
 もし今自分が同じ立場であんなことをやられてみたらと思うと、杏子の脳内で想像したくもない光景が広がってしまい、ゾッと背中に冷たい物が走る。
 そんな邪念を抱いた状態でのトレーニングが成功するはずもなく、また盛大に転んでしまいゲーム機から転落してしまう。

 そんな杏子に対してココは何もせずに腕を組んで様子をジッと見ているだけ。
 一見すれば冷たい行為にも思えるが、杏子は汲み取っていたココの静かな愛情と言う物を。
 ただでさえ自分を情けなく感じていると言うのに、こんなところで手なんて差し伸べ出されれば余計に自分の惨めさに拍車がかかってエネルギーが悪い方向に暴走するばかり。
 自分を救うことが出来るのは結局自分だけなんだと思い知らされ、杏子も手を差し伸べると言う意味を考えつつもパワーの制御と言う難題に立ち向かっていた。

(さやかの奴どうしてるかな? トリコと喧嘩とかしてなきゃいいんだけどな……)

 思うのは結局トリコに任せてしまったさやかのこと。
 自分と違って大人のトリコならば、さやかのことを任せても大丈夫だとは思っていたが、それでも不安は拭えなかった。
 単純な自分と違って、色々と繊細で乙女な部分も強いさやかだからこそ、豪放磊落を絵に描いたようなトリコとは衝突する部分も多いとシュミレーションしてしまうからだ。
 だが今は死んだ人間より、自分が生き延びるために修業を繰り返して、与えられた課題をこなし理想を自分の物にするしかない。
 それが生きている自分が二人のために出来る最善だと信じ、杏子は体感ゲームを繰り返しやり続けていた。
 静寂が包む道場の中で無機質な電子音だけが木霊していた。




 ***




 そして三日の時が流れていた。
 道場内では三日前と同じようにココが作り上げた毒のクッションにコークスクリューブローを決める杏子の姿があった。
 だが明らかに三日前とは違う光景がそこには広がっていた。
 ココは両手でクッションを持って衝撃を全身で受け止めていた。これは杏子のパワーに対しての敬意であり、自分自身不幸な事故が起こらないための防護策でもある。

 クッションで保護していても回転の力は腕から胴体に響き渡り、そのエネルギーを大地に受け流すのにココは苦戦していた。
 エネルギーを受け流すとココはクッションを手から取って、円状の模様の数を確かめる。
 最初に言った課題通り、15の円が描かれているのを見ると、ココは軽やかな笑みを浮かべて合格のサインを知らせるが、杏子はどこか小馬鹿した笑みを浮かべながら呼吸を整えていた。

「これで武器を使って釘パンチ一発と同レベルってところだな」
「君は君だよ。何もトリコの全てを真似する必要なんてどこにもない」

 そんな杏子を誡めるにようにココが言うと続いて体感ゲーム機を用意し、杏子にプレイするよう手で促す。
 これもまた初めの頃とは違い力の入れる部分、抜く部分をハッキリと見極められているため慣れた調子でプレイしていき、ハイスコアを更新すると最後はポーズを決めてアピールする余裕まで見せたが、やり終えた後に虚無感と言う物を感じてしまう。

「所詮はやり慣れたそれをこなしている程度に過ぎないからな。経験に勝る武器は無い、約束してくれココ、腐れ美食會との決着が付いたら実戦の場をもっと与えてくれ」

 杏子の訴えにココの表情も真剣な物に変わる。
 一番初めバロン諸島での火だるま熊戦以降、杏子には更なる修業を課すだけであって、実戦の経験と言う物をココは積ませていなかった。
 それは慎重派のココの性格と言うのも出ていたが、杏子自身実力よりも心構えの方を付けた方がこれから先長く美食屋とやっていくために必要だと判断して、基礎をとにかく向上させる特訓を積ませていた。
 だがそれも彼女の性格を考えればこれが限界だろうと判断し、ココは何も言わずに小さく頷くと同時に出入り口からノック音が響く。

「やっと来たか」

 この状況下で自分たちの元へ届く物と言えば一つしかない、杏子が出迎えるとそこには予想通りの代物が届いていた。
 初めに二つの槍を見る。注文通りの精巧な出来は芸術品とも言える妖しい美しさを発していて、槍と言うよりはどちらかと言えば大剣に近い感じの刃が大半を占めた槍に、こちらも刃の部分が大半を占めた三又槍、槍を右手に三又槍を左手に持つ杏子を見て、ココの中で今は亡き友人の姿がダブる。

「トリコ……」

 試運転として二つの槍を動かしてイメージを作る杏子を見て、ナイフとフォークを使い分けるトリコの姿がココには見えた。
 そんなココに構わず大体のイメージが出来上がると、続いて衣装が入っていると思われる服に手を伸ばす。

「オイ、もうちょっとやってからでも……」

 あまりに雑すぎる武器の扱いにココは苦言を呈そうとするが、杏子に手を差し出されて止められると同時に一枚のメモを受け取る。

『美食會の腐れストーカーがどこで見ているか分からない。全てはぶっつけ本番で行く』

 原理だけならば理解しているのでこの作戦はベストではないにしろ、間違ってもいない。
 言っても聞かないだろうと判断したココは深紅の衣装を持って感慨深い表情を見せている杏子を見ると、着替えるだろうと察し、その場から出ていく。去り際一枚のメモを出入り口に置いて。

『恐らくは通信手段として美食會は隠密行動が得意な猛獣を手懐けている可能性が高い。ボクはそれを探しておくから、アンコちゃんはしっかりとケジメを付けるんだ』

 手際のいいココに対して、軽く頷くことで感謝の意を示すと、服を脱ぎだして深紅の衣装を改めて見つめる。

(またこの服に身を包むとはな……)

 向こうでの世界にいい思い出など何一つない杏子だが、それでも衣装や武器に対して愛着を持っていたのは事実。
 着慣れた衣装が一番だと判断して、この防護服で美食屋としての戦いに挑むと決意した杏子は袖を通していく。
 ライトニングフェニックスの羽を使っているだけあって、着た瞬間に肌寒さと言うのは全く消えて無くなり、太陽の光で包まれているような安堵感が杏子を包み込む。
 上下全ての衣装を着終えると最後に胸元にソウルジェムを模した宝石を付け、全ての準備が完了すると二つの槍を背中にしまう。

 背中には亜空間モグラの胃袋を加工した袋が装着されているので、小さい物ではあるが槍程度ならば難なく収納することが出来た。
 全ての準備を終えると杏子は足に力を込めて、今でもダイナが潜伏していると思われる場所へと再び向かう。
 脚力が特性の杏子は瞬く間に道場を抜け出して目的地へとまっすぐ突き進む。
 その様子を見ていたココはあっという間に見えなくなった杏子に向かってエールを送った。

「まずは一つ課題をクリア出来るかだぞ……」




 ***




 あっという間にダイナが潜伏していると思われる場所へ到着すると、杏子は記憶を頼りに今度は自分からクレイリザードの落とし穴へと入っていく。
 準備が出来ていなかった三日前とは違い、一気に下りていくと再び最下層に到着すると同時に行燈の灯だけが照らす空間へと入る。
 ダイナは相変わらず黒いローブを身に纏って余裕めいた笑みを浮かべながら、立ち上がると今度こそはと言った感じで杏子に交渉をしようとする。

「どうだい? 気が変わったかな?」
「余裕ぶっても無駄だぜ、このストーカー野郎が」

 その紳士ぶった態度が明らかに猫を被った物であるのは分かっているので、まずはそこから潰していこうと杏子は食ってかかる。

「心が読めるなんて適当なこと抜かしやがって、もう種はばれてんだよ」
「だからどうしたというのだ。君に勝てる要素は一つもないだろ」

 例え種がばれていても自分が負ける要素など何一つないと踏んでいたダイナは余裕めいた笑みを崩さないでいた。
 その態度が気に入らず、杏子は一気に突っ込んで勝負を決めようと拳を振り上げてダイナに向かって突っ込んでいく。
 その攻撃の軌道が右ストレートだと分かりきっているダイナは、最小限の動作で左に顔だけを動かしてかわすが、その瞬間に違和感が訪れる。
 不自然な動きで杏子が空中で止まり、見たことも無い攻撃手段に対処が間に合わず、ダイナは杏子が放つ全力のヘッドバッドを食らってしまい、後方によろめいてしまう。
 続いて左のフックを放つがこれは分かりきった攻撃のためにダイナはかわす。
 だがかわした瞬間に杏子の表情が邪悪に歪む。
 空中で止まった状態で後ろを向きながら、ダイナに向かって背を向けた状態で一回転すると、勢いに任せた胴回し回転蹴りをダイナの顔面に放つ。
 無防備になった顔面に全体重が乗った攻撃を食らわされてしまい、ダイナは初めて尻もちを付いて驚いた表情で杏子を見つめてしまう。
 ローブが取れて顔が現れるとその顔を見て、空中に浮いた状態のまま杏子は小馬鹿にした笑みを浮かべて悪態をつく。

「は! 面見りゃ醜悪さって奴がにじみ出てやがるな。それに小者臭って奴も半端じゃねぇ、人の嫌なところネチネチ付くしか能が無さそうなボンクラ面だ!」

 言いように馬鹿にされてダイナは冷静さを欠いた状態で腕を振り回すと何かが引っかかる感覚を覚える。
 辺りを見回すと杏子の袖の部分からワイヤー状のロープが伸びていて、右と左に装着されたワイヤーは各々行燈を貫いていて、杏子の体を宙に浮かせていた。

「何だそのワイヤーは!? そんな物は映像にないぞ!?」
「映像の送り主と言うのはこちらでいいのかな?」

 そこにこの場に居る自分とも杏子とも違う青年の声が響く。
 落とし穴からではなく、出入り口から入ってきたココの手には小さなカメレオンが持たれていて、その額にはカメラが装着されていた。
 無理矢理にねじ込まれたカメラの部分を見て人為的に改造された物だと言うことが分かり、杏子は怒りの視線をダイナにぶつけるが、それを制そうとココが手を差し出して止めるとまずはカメレオンの説明に入る。

 隠密行動に優れ、極端に臆病で絶対に自分から狩りを起こさず、強い猛獣に寄生することで生き延びるカメレオン『スティンガーレオン』は、攻撃力が皆無ながらもその発見の難しさから捕獲レベル37を誇るカメレオン。
 もちろん実際にはカメラは装着されておらず、これはダイナによる改造だとココが告げるとノッキングを終えたスティンガーレオンをそっと安全な場所へと下ろし、その後の対処に付いて語る。

「スティンガーレオンに関してはまだまだ未知の部分も多いからね。ボクの方からIGOに頼んで保護してもらうようにするよ。もちろん体に装着されたカメラを取り除いてね」
「頼むぜ……」

 ココからスティンガーレオンに付いての処遇を聞かされると、杏子は両方に備え付けられたワイヤーを引っ張って行燈を倒す。
 辺り一面に炎が広がってそこに居た全員を照らしあげると、杏子は明らかに見下した表情を浮かべてダイナを見下ろしていた。

「覚悟してもらうぞ。テメェは許さねぇからな」
「ほざくな! もう引っかけられる出っ張りも物体も無い状態だぞ! それならワイヤーの二本ぐらい怖くも何ともないわ!」

 再び自分にチャンスが巡ってきたのを見ると、ダイナは懐からノッキングガンと愛用のナイフを取り出して勝負を決そうとする。
 最早杏子は眼中にない状態だった。
 問題はココからどうやって逃げのびるかだけしか頭になく、杏子を見やりながらも同じように自分に向かって敵意の視線を向けているココから逃れる術を考え続けていた。
 その態度が気に入らないのは杏子もココも同じことだった。
 額に血管を浮かべている杏子を宥めようとココは手のひらを叩いて合図を送ると同時に、杏子の心に静寂を取り戻させようとする。

「やるべきことをやって決着を付けるんだ」

 その言葉に杏子が静かに頷くと背中から槍と三又槍を取り出す。
 物自体は初めて見る物だが、槍と言うのは本来一本で相手の間合いに入らず、一方的に自分だけが攻撃を行うための武器。
 明らかに使い方を間違えている杏子にダイナは勝利を確信し、ナイフの柄に付けられたスイッチを押して刃の部分を杏子に吹き飛ばすが、その瞬間に炸裂音が響き渡る。
 何事かと思いダイナが杏子の方を見ると、持っていた二つの槍に変化が表れていた。
 二つの槍は合わさって一つの槍へと変化し、巨大な刃の槍は細く引き締まった状態に変わり、その刃に三又槍の刃が絡まってまるでドリルのような形状の槍が仕上がっていて、離れた刃はそのドリルによって払われていた。

「何だそれは!? そんな情報はスティンガーレオンからは届いて……」
「グダグダうっせぇよ!」

 ダイナの声を聞くたびに血液が沸騰する感覚を覚えた杏子は感情に自分が消される前に行動に移す。
 大きく足を開いてダイナに向かって槍を突き出すと、足からイメージを作り出す。
 両足全体に響き渡るのは回転のイメージ。
 その回転の力は両足から胴体へと移っていき、更に強い物へと変わり、暴れ回る回転の力を全て両腕に持って行くと最後にドリルの槍へと回転の力を与えていく。
 回転の力を受け取るとドリルは勢いよく回転を始め、獲物を求めて無機質な機械音を発し続けていた。
 その轟音から恐怖しか感じられなかったダイナは背を向けて逃げようとしたが、杏子がそれを許すはずがなく、全部の回転を両足で受け止めると一気に駆け抜けて突っ込む。

「食らいやがれ――!」

 理論だけでは狙いが定まるわけもなく、勢いに任せて放ったドリルはダイナの脇腹を軽く掠めるだけで終わり、初めての攻撃は不発に終わった。
 杏子自身もまた思っていた以上に強力なドリルのパワーに自分をコントロールすることが出来ず、ドリルの切っ先が地面に突き刺さると回転の力に耐えることが出来ずに、その体はココの方に放り投げられてしまうがココは彼女を受け止めると地面へと下ろす。

「よくやった立派だったぞ」
「ああ運のいい野郎だぜ」

 杏子も勝負が決したことはもう理解していた。
 脇腹を掠めただけでも回転の力は十分すぎるダメージを与えていて、血液が勢いよく噴き出しているのを止めるのに必死であり、傷口を両手で押さえながら何度も何度も見苦しい叫び声を上げるダイナに嫌になったのか、ココは毒で作り上げたノッキングに使う針を傷口に差し込むと強引にノッキングを行う。

「ぎゃああああああああああああああ!」

 毒ノッキングが終了するとダイナは泡を吹きながら倒れ、美食會との初めての対戦はあっけなく決した。
 最後にココは未だに血が流れ続けている傷口に対して、毒でコーティングを行うと入ってきた入口が出ていこうと、スティンガーレオンとダイナを連れて外へ出ようとする。
 それに杏子も続くが、袖に仕込まれた二本のワイヤーを使いこなせ切れない自分に嫌悪感を軽く抱いていた。

「右には『ナイフワイヤー』左には『フォークワイヤー』か……手心を加えてくれたオリーブに感謝するけどさ、これ半人前のボンクラには使いこなすの難しそうだぜ……」

 こちらから要求はしていなかったが、オリーブが美食屋としてやっていくならと手心を加えて衣装と一緒にあったメモに書いてあったそれを早くも実戦で使えたのは今までの経験から。
 それを自分の思うがままに使いこなせなかったのは、自分の未熟さ。
 まだまだ課題は山ほどあると実感させられてしまい、ため息を軽く吐くと杏子もまたココの後を追った。
 まだまだ指示してもらうことは多いだろうと思いながら。




 ***




 外に出ていくと杏子は出入り口の部分でココに待たされていた。
 ダイナをグルメ警察に引き渡し、スティンガーレオンをIGOに引き渡すのは分かるが、それだったら何で自分が待たされるのかが分からない。
 ココのことだから何かしら考えがあるのは分かっているが、その意図が今一つ分からず杏子はどこか苛立った調子で待っていると、ココの手にはブティックで買ってきた袋が持たれていて、中から取り出したのは暖かくなったこの時期には不釣り合いな大きめのコートだった。

「何だよこれは着ろってのか?」

 杏子の質問に対してココは無言で頷く。
 この時期には合っていないと踏んだ杏子は、今一つデザインが気に入らないコートを着る気にはなれずにそっぽを向く。

「嫌だよ。そんなダサいコートなんて着たくもない」
「それは勝手だが本当にいいのかい? その格好は似合っているとは思うんだが、ボクらと違って一般社会には適合する服装じゃないと思うんだが……」

 最後の方で歯切れが悪くなるココを見て、杏子はココの真意を汲み取ると一気に羞恥で顔を真っ赤にさせてしまい、慌てて貰ったコートを着込む。
 確かにココが言う通り魔法少女の衣装で街中を歩くのは、あまりに厚顔無恥と言える。
 長い魔法少女での生活からか、いつでも気が向いた時に変身が解けられると思っていたが、今着ているのはただの防護服。
 着替えを用意しないで突っ込んで行ったために、こんな間抜けな目にあってしまい、杏子はコートを着るとすぐに脚力を駆使して一気に帰ろうとするが、それをココに制される。

「何だよ!? 帰って飯にしようぜ」
「まだ一つ重要な仕事がアンコちゃんには残っている。武器と防護服の代金の支払いに付いてだが、君にはこれらの仕事をこなして稼いでもらうよ」

 そう言うとココは手作りの一冊の資料を手渡した。
 事細かに猛獣に付いての情報と対策、部位によっての価値などが書かれた資料はそれだけで一冊の本が作れるであろう精巧な出来であり、後半のページになるにつれて捕獲レベルが上がっていき、最後のページを見ると自然と杏子の表情は引きしまる。
 それは初めて自分がこの世界に来た瞬間、死を覚悟した猛獣『怪鳥ゲロルド』が居たからだ。
 戦うべき相手を用意してくれたココに感謝しながらも真剣な目でココを見つめる。

「これでアンコちゃんも経験を積めるし、ゲロルドを倒せる頃にはもう一人前の美食屋だ。その時にはボクから最後の課題を用意しておくからね」
「分かっている。こいつにはちょっとした借りがあってな。リベンジマッチの機会を与えてくれたことに感謝するぜココ」

 依頼は全部で30種類ぐらいあり、どれも一筋縄ではいかず、捕獲の依頼も屈強な猛獣だけではなく、珍しい植物や逃げ足の速い臆病な猛獣などもあり、杏子のやる気は高まる一方であり、大体見終えると背中に物をしまうが、最後にココは何かを思い出すとそれを杏子に告げる。

「最後にもう一つ君には仕事があるぞ」
「何だよ一体?」
「あのドリルの必殺技に名前を付けているのを忘れている。全ての存在には名前がなければ意味がない物だよ」

 真顔でとんでもないことを要求してくるココに杏子の頭は真っ白になってしまった。
 マミの元で指導を受けていた時も『ロッソ・ファンタズマ』と言う必殺技の名前を言うのが恥ずかしくて、マミから一番怒られたのが必殺技を叫ぶ時の堂々とした態度だったと言う歯がゆい思い出を思い出してしまう。
 当然杏子は拒否しようとしたが、この世界ではそれが当り前なのは今までの経験を見れば分かること。

 それに必殺技の名前を叫んで利点と言う物も知っている。
 モチベーションの強化に放つ際の集中力の向上など、それらを上手く使いこなせば自分の技も威力が上がることは分かっていた。
 正直な話恥ずかしいと言う想いがかなり強かったが、郷に入っては郷に従えという言葉もある。
 杏子は少し考える素振りを見せた後にシンプルに思いついた技名をココに告げる。

「じゃあ『ドリルクラッシュ』」

 深く考えずにシンプルな技名の方が色々と言われないで済むだろうと思った杏子は頭の中で適当に思いついた技名を告げる。
 その名前を気に入ったのかココは軽やかな笑顔を浮かべながら、突然懐から半紙と硯を取り出して墨をすると毛筆で絵を描いていく。
 仕上がった水墨画には杏子がドリルの槍を突き出して攻撃を決める絵が描かれていて隣は先程言った『ドリルクラッシュ』と言う技名が大きく書かれていて、物が仕上がるとココは杏子にそれを手渡す。

「おめでとう。一つ技が正式に生まれた瞬間だよ」

 そう言って、とてもいい笑顔で物を渡す辺り、もうこれを拒否することは出来ないと杏子の中で諦めが付き、引きつった顔のまま杏子は水墨画を受け取るとこれからのことに頭を悩ませていた。
 猛獣との戦い云々では無い。どうやれば恥ずかしがらずに必殺技を叫ぶことが出来るかと言うことを。





本日の食材

スティンガーレオン 捕獲レベル37

とても臆病な性格で自分から狩りを行おうとはせず、強い猛獣に寄生して危険を知らせる代わりに餌を分けてもらう共生をモットーとしているカメレオン。
どんな場所でも瞬時に擬態して身を隠すことが出来るため、発見は困難を極める。





と言う訳で美食會との決着を付けました。
マミとの指示でも恐らくこれだけが出来の悪い、それだろうと思って言いましたが、この世界では必殺技の名前を叫ぶのはデフォルトですからね。と言う訳で杏子にもやってもらうことにしました。
次回はココの最後の特訓の話になります。次も頑張りますのでよろしくお願いします。


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