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No.32760の一覧
[0] 美食屋アンコ!(魔法少女まどか☆マギカ×トリコ)[天海月斗](2012/04/15 18:47)
[1] グルメ1 美食屋トリコとの出会い[天海月斗](2012/04/15 19:01)
[2] グルメ2 美食屋アンコ誕生![天海月斗](2012/04/16 18:50)
[3] グルメ3 美を求める美食屋サニー[天海月斗](2012/04/23 18:41)
[4] グルメ4 対決! トリコ対鰐鮫![天海月斗](2012/04/30 19:18)
[5] グルメ5 生きていた絶滅種[天海月斗](2012/05/07 18:17)
[6] グルメ6 家族が生まれた日[天海月斗](2012/05/22 19:16)
[7] グルメ7 グルメクレジットパニック!?[天海月斗](2012/06/04 19:05)
[8] グルメ8 アンコの誕生日[天海月斗](2012/11/02 23:01)
[9] グルメ9 ジョーカーマンドラゴラ![天海月斗](2012/08/16 18:59)
[10] グルメ10 自食作用発動![天海月斗](2012/09/03 18:55)
[11] グルメ11 毒か? 薬か?[天海月斗](2012/09/24 18:08)
[12] グルメ12 治療のための食事[天海月斗](2012/10/11 18:52)
[13] グルメ13 死を賭した再生[天海月斗](2012/11/19 19:09)
[14] グルメ14 美食屋としての初めての発見[天海月斗](2012/12/03 18:33)
[15] グルメ15 旅の終わり[天海月斗](2013/01/06 18:02)
[16] グルメ16 次のステージへ[天海月斗](2013/03/05 22:10)
[17] グルメ17 杏子の中での激突[天海月斗](2013/03/11 19:01)
[18] グルメ18 そんなのアタシが許さない[天海月斗](2013/05/05 01:23)
[19] グルメ19 美食屋としての入口[天海月斗](2013/05/11 23:46)
[20] グルメ20 螺旋の力[天海月斗](2013/05/26 00:11)
[21] グルメ21 炸裂! ドリルクラッシュ![天海月斗](2013/06/10 18:46)
[22] グルメ22 生きて食すると言うこと[天海月斗](2013/06/10 18:52)
[23] グルメ23 かつて諦めた夢[天海月斗](2013/06/16 01:33)
[24] グルメ24 美食屋と料理人[天海月斗](2013/06/23 01:36)
[25] グルメ25 恐怖を覚えた瞬間[天海月斗](2013/06/30 01:26)
[26] グルメ26 美国織莉子からの転身[天海月斗](2013/07/14 18:25)
[27] グルメ27 その魂を狂者へ[天海月斗](2013/08/03 16:23)
[28] グルメ28 ゴールデンアップル![天海月斗](2013/09/15 00:44)
[29] グルメ29 リンゴが紡いだ絆[天海月斗](2013/09/22 01:24)
[30] グルメ30 絹鳥とグルメ騎士[天海月斗](2013/09/29 00:43)
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[32760] グルメ5 生きていた絶滅種
Name: 天海月斗◆93cbb5bf ID:14f6250d 前を表示する / 次を表示する
Date: 2012/05/07 18:17




 そこは昼間でも太陽の光が届かない薄暗い闇に包まれた空間。

 険しい山の上に聳え立つ古城、美食會第2支部はそこにあった。

 第2支部の仕事は主に未確認グルメ食材の情報収集や探索であり、メインコンピュータールームは黒一色のコック服に身を包んだ作業員たちのキーボードが叩かれる音だけが響き渡り、銀髪に中世の貴族が着るような服装の老人はステッキを片手に作業員たちの仕事の様子をチェックしていた。

「見つけろ! 皆様の壁を破る最高のグルメ食材をだ!」

 美食會第2支部支部長ピカタの檄が飛ぶと、作業員たちのキーボードを叩く音にも熱が入る。

 ピカタは作業員たちの様子を見ていき、サボっていないのを確認すると自身は自室に戻ろうとメインコンピュータールームから出ようとする。

 自動ドアを開くと同時に出くわした男性を見た瞬間、ピカタの時間が止まった。

 水玉模様のシャツに両腕、両足、腰にはリング状の拘束具、背中には昆虫のような巨大な羽根を二枚生やしたおかっぱ頭の青年はピカタを気にすることなく、メインコンピュータールーム内で作業をしていると思われる人物を探していた。

「これはこれはトミー様……この不肖ピカタ、皆様のグルメ細胞を進化させるため不眠不休で情報収集に勤しんで……」

 揉み手をしながら露骨にゴマをするピカタを無視して、美食會副料理長トミーロッドはお目当ての人物を見つけると、一直線に向かっていきその小さな肩を叩くと親指を外に向かって突き出し、自分と一緒に外へ出るように指示を出す。

「借りてくよ……」

 ピカタに向かってトミーロッドは小さく言うと、ピカタは揉み手をしながら張り付けられたような愛想笑いを浮かべて頷く。

 銀髪におかっぱ頭のセミロングの作業員はトミーロッドと並んで歩くと、無機質なコンピュータールームを後にした。

 残された作業員は突然のトミーロッドの乱入に驚かされはしたが、すぐにピカタの不機嫌そうな視線を感じると改めて検索に戻った。

(全くトミー様にも困った物だ……)

 元々身勝手な性格のトミーロッドだったが、一年前自分たちの元に身元不明の相手を作業員として強引にねじ込んでから、トミーロッドはたびたびその作業員に会うため、連絡も無しにやって来る。

 唐突におべっかを使うため、気苦労が絶えないピカタはそのストレスを作業員たちにぶつけることでイライラを解消しようとしていた。

 そして今日も作業員たちはピカタが持っていたステッキの連打を受ける羽目になってしまい、現実の理不尽さを背中と頭で感じ取っていた。




 ***




 誰も居ない薄暗い廊下の前に立つと、トミーロッドは作業員の背中を壁に押し付けて、その顔をジックリと眺める。

 髪、鼻、口元、耳と顔の各パーツをジックリと眺めた後、最後に目を見て、指で軽く触れると指に付着した涙を自身の舌で舐めとる。

「健康状態は問題ないみたいだな。もし何かあったらボクがピカタを殺している所だけどな」

「それよりトミー様今日は……」

 目が軽く痛むのを我慢しながらも作業員はトミーロッドがなぜ自分を職場から連れ出したのかを聞く。

 どこかそっけないその態度にトミーロッドは軽くため息をつきながら、その肩に手を置く。

「連れないねユー。こうしてわざわざボクが会いに来たんだからさ、もう少し会話のキャッチボールをやってもいいじゃないか……」

 作業員のユーの態度に対してトミーロッドはからかうように言うが、ユーは気にすることなく恐らくトミーロッドが来た目的を果たすため、目を閉じ脳内に浮かび上がるイメージを伝えていく。

「『占いの街』『巨大なカラス』『グルメ界』……」

 自分にしか出来ない検索をしていくと次々に広がっていくイメージをユーはトミーロッドに伝える。

 『巨大なカラス』と言われると大体のイメージがトミーロッドの中で固まっていき、自身の携帯電話を取り出すとアドレス帳から『セドル』と書かれた番号に連絡し、第6支部の支部長セドルと連絡を取る。

「ボクだ。グルメフォーチュンに『エンペラークロウ』の生き残りが居る可能性がある。適当なのを向かわせろ」

 自分の言いたいことだけ言うとトミーロッドはセドルの返答も聞かずに電話を切る。

 未だにユーは目を閉じて脳内に広がっていくイメージを小声でぶつぶつとつぶやいていた。

 その姿は常人から見れば異常な物でしかなかった。

 自分の世界に閉じこもってぶつぶつとつぶやく姿もそうだが、この検索方法を行っている時、ユーの体は青白く発光して軽く宙にも浮いているからだ。

 まるで魔法か手品のようなその姿からトミーロッドの勧めもあり、ユーがこの検索方法を行うのはトミーロッドの前だけと二人で約束していた。

 トミーロッドに肩を軽く叩かれ耳元で小さく「ストップだ」と言われると、ここでユーの検索は終わり、トミーロッドに向かってひざまずき忠誠の誓いを見せる。

「本日はここまでです。トミー様、ユーは貴方様のお役に立てたでしょうか?」

 ユーの頭にトミーロッドは軽く手を添えると、立ち上がるように無言の命令を下す。

 意図を察してユーが立ち上がったのを見ると、トミーロッドは口元に軽やかな笑みを浮かべながら去っていく。

「それは追々決めることだ」

 それだけ言うとトミーロッドは背中を向けて、誰も居ない廊下を足音を大きく立てながら去っていく。

 ユーはトミーロッドの背中が見えなくなるまで見送ったが、後ろから殺気を感じると静かに振り返る。

 自分に対して明らかに敵意を持っている作業員たちに肩を掴まれ、人気のないところに移動させられるとユーはこれから起こる惨劇が簡単に予想できてしまい、ため息をつく。

 今日も第2支部には多くの悲鳴が木霊していた。




 ***




 広い草原の上でノッキングガンを片手に杏子は一匹の猛獣と睨みあっていた。

 全身がもふもふとした綿のような白い綿菓子に包まれた熊、『わた熊』は威嚇するようにおたけびを上げるばかりであり、一向に杏子に対して襲いかかろうとはしなかった。

 それは逃走経路を断たれているからだ。

 後ろにはトリコが腕を組んで仁王立ちして立っていて、自分が生き残るための選択肢は目の前に居る杏子を倒して逃げ出すしか方法が無かったからだ。

 一方の杏子は怯えているわた熊とは対称的に、その姿をジックリと観察して弱点を探そうとしていた。

 ノッキングする場所は既にトリコから教えてもらっている。後は戦闘力を見定めするだけであり、杏子が真っ先に見たのは熊の最大の武器である爪。

 わた熊の爪は血ぬられた獰猛な物ではなく、カラフルなジェリービーンズであり、周囲に甘い匂いを漂わせていて、歯も尖った鋭い牙ではなく、全てが四角いキャラメルで形成されていて、杏子は呆れた顔を浮かべていたが、戦闘力の計算が終わると攻撃に移る。

 突然近付かれてわた熊は半ば自棄気味に杏子に爪を振り下ろすが、恐怖心と言うのが全くない杏子は爪の攻撃をかいくぐるとトリコから教えられた通り、右腕の付け根にノッキングガンを打ち込み、針を打ちつけるとその動きを止めた。

 ノッキングが成功したわた熊は苦しそうにうめき声を上げながら、前方に向かって倒れていき、杏子は軽々と横に逃げてかわす。

 地面に倒れた時轟音が響き渡るかとも思ったが、まるで鳥の羽が地面に落ちたかのように周囲は無音だった。

 今回初めてノッキング箇所以外の情報無しで戦った杏子だが、決して実力の高くない相手だったため、緊張感から解放されたと言うよりは拍子抜けした部分が大きく、杏子は力なくため息をつく。

 トリコはノッキングが解ける前にわた熊から戦利品をいただこうと右手を手刀の形に変えて、ナイフの状態にするとわた熊の体を傷つけないように体全体に覆われた綿菓子、ジェリービーンズの爪、歯のキャラメルを全て抜き取ると今度は左手の指を一本突き立てて、ノッキングの解除を行う。

 わた熊が起き上がったのを見るとトリコは逃げるように親指を森の奥へと突き立て、無言のアピールをする。

 自分の無事が分かるとわた熊は逃げるように森の奥へと去っていき、トリコは軽やかな笑みを浮かべながら戦利品のお菓子たちを麻袋に詰めて、二人は並んで家へと帰ろうとする。

 杏子が自分の元で美食屋の修行をしてから3カ月の時が流れようとしていた。

 初めは見る物聞く物全てに驚愕していた杏子だが、今では猛獣の戦闘力の見定めが出来る程度には猛獣に慣れ、罠を張るぐらいのことなら一人でもできるようになった。

 その成長スピードにトリコは驚かされていたが、これは元々杏子が持っていた勝負度胸や要領の良さと言うのが一気に開花した物だろうと思い、そろそろ次のステップに向かわせるべきかどうかを悩んでいた。

「アンコ次だが捕獲レベル1の猛獣に挑戦する気はないか?」

 捕獲レベル1の猛獣と言われると杏子の表情が曇る。

 前にトリコから聞いたのは、捕獲レベル1が猟銃を持ったプロの狩人が10人がかりでやっと仕留められるレベル。

 魔法少女として幻惑の魔法と高い身体能力、そして愛用の槍があったころならともかくとして、何の力も無い今の杏子に取って、高い壁に感じられた。

「となるとやっぱりグルメ細胞の移植が必要ってことか?」

 以前にキュゥべえとの契約で多くの大切な物を失った杏子に取って、グルメ細胞の移植はとても勇気が要る行為であり、その辺りをハッキリさせたいと杏子はトリコに恐る恐る尋ねる。

 その思い詰めた顔を見て、トリコは慌てて手を横に振って否定の意を示す。

「違う、違う! 捕獲レベルは何も獰猛さだけで決まるもんじゃねーよ!」

 前に自分が話したのは分かりやすい簡潔な説明であり、本格的な説明に入るため、トリコは改めて捕獲レベルに関しての説明をする。

 一番に基準とされるのは戦闘力だが、他にも発見の難しさや食材としての調理の難しさから、捕獲レベルが高くなる猛獣や食材も多く、今回杏子が挑戦するのは戦闘力の高さではなく、食材にするための調理が難しいそれであることをトリコは伝えた。

「そう心配しなくても、オレたちがお前よりもガキの頃によく親父が用意してくれた練習用の猛獣だ。そこまで気張る必要は無いから気楽に行こうぜ」

 『オレたち』と言われて、杏子の中である情報が思い起こされる。

 前にリンがコロシアムで発した『四天王』と言う発言に付いてだ。

 トリコの異常な戦闘力を見れば、彼がそう呼ばれるのは納得できるが、そんな奴が残り3人も居るのかと思い、ハッキリさせたいと思った杏子は四天王とは何なのかをトリコに聞こうとする。

「その内の二人とはお前も出会っているぜ、ココとサニーだ」

 二人のことを思い出すと杏子はハッとした顔を浮かべる。

 ココに関してはなぜか腹を空かせた猛獣が避けて、サニーは自分が飛び蹴りをかまそうとしたが返ってきたのは自分が空中で蹴りを放ったまま止まってしまうという不可思議な現象。

 共に人間離れした能力の持ち主であることが分かり、そのような呼ばれ方をするのにも納得ができたが、それでもやはりどんな能力を持っているのかが気になり、杏子は掘り下げようとする。

「そう焦らなくても明日ココが居るグルメフォーチュンに行くから、そこでココに聞けばいいだろ?」

 もっともな言い分を言われると杏子は何も言わずに黙りこくってしまう。

 あれだこれだと聞かれるのはトリコに取っても気分がいい物ではないだろうと判断したからだ。

 携帯を片手にココへまた行くことを伝えると、そこからココのイメージが杏子にも伝わる。

 相変わらず猪突猛進なトリコに対して携帯電話を片手にげんなりとした顔を浮かべたココだ。

 と言っても自身もまた長いこと電車に揺られなければいけないのかと思うと、億劫そうな顔を浮かべるが、その意図を察したのかトリコは杏子の眼前に立つと満面の笑みで答える。

「心配しなくても明日は特急で行くぜ! 早いぜ~!」

 それだけ言うとトリコは目の前を横切る『蟹ブタ』を見つけると、目をハート型に輝かせながら今日の夕食の捕獲のために蟹ブタを追いかける。

 消える直前トリコが杏子に投げ飛ばしたのは中身が入った麻袋。

 家まで持って帰ってほしいと言う無言のアピールだった。

 自分が信用されていることが嬉しく、杏子は何も言わずに季節外れのサンタクロースになって麻袋を抱えたまま家路へと向かう。

 この日の夕食の蟹ブタを楽しみにしながら。




 ***




 駅に到着すると二人は通常の入り口では無く別に用意された地下への入口へと入る。

 黒いクレジットカードを券売機に通して二枚分の切手をトリコが受け取ると、杏子に手渡して既にホームで待っている特急列車に乗り込もうとする。

「さぁこれが『グルメ特急』だ!」

 トリコが指さした先にあったのは黒光りするSL。

 元々杏子が居た世界にもそれはあったが博物館でしか見かけない骨董品が特急と言われても納得が行かず、杏子は渋い顔を浮かべていたがトリコに促されると渋々乗り込んでレトロなデザインのソファーに座る。

 二人が乗り込んだと同時にドアが閉まり黒煙を発しながらグルメ特急はスタートした。

 その瞬間座っているにも関わらず杏子の体に感じたのは風が全身を駆け抜ける感覚。

 あまりの速さで室内に居てもスピードのフィールを感じ取ってしまい、杏子は驚愕の表情を浮かべていたが、トリコは席に備え付けられた車内販売のメニューを見て、その少なさに露骨に不満の色を露わにしていた。

「だから特急は嫌なんだよ! 飯の数は少ないし、持ち込みは禁止されてるしで……」

「それよかさ、何でSLがこんなに速いんだ?」

 杏子はトリコの不満も聞かずに自分の疑問をぶつけた。

 窓に設置された電光掲示板には今現在の速度が掲示されていて、500キロと表示されていた。

 自分の世界で言うところのリニアモーターカーレベルのスピードをSLが出せることに驚き、詳しい説明を杏子はトリコに求めた。

 少ないメニューの中から何とか自分の好物を規定数限界までトリコが買い、物が目の前に届くとトリコは食事を取りながら仕組みを説明する。

「まぁ線路と列車自体に強力な磁石が敷き詰めてあって、その上を反発するように進んでるから、これだけのスピードが出せるってわけだ。近々ジェット噴射の『超グルメ特急』なんてものも運行されるみたいだけどな」

 デザインこそ古風な物だが、その仕組みは自分が居た世界のリニアモーターカーと同じであった。

 だがそれを軽々と実現する辺り、この世界は食に対してだけではなく、他の分野でも自分が居た世界に比べて高い技術の進歩があると杏子は実感させられてしまう。

 目まぐるしく変化する窓の外の景色を見ながら杏子は実感させられる。スピードを人々が求めるのはこの世界では当たり前のことなのだと。

 何しろこの世界の人間が生息する人間界だけでも、自分が居た地球の7倍の広さがあり、その人間界ですら、この世界の地球では3割でしかないというのだから。

 この世界の残りの7割を占めるのが通称『グルメ界』そこには未知の食材が腐るほどあり、美味しい物を求めて多くの美食屋たちが挑戦するが生きて帰った物は100名にも満たないと言われ、トリコですら挑戦を先送りにするほどだ。

 何もかもが規格外に巨大なこの世界で生きるためには移動手段も自然と速くなる。

 全ては必然なんだということを杏子は理解し、手に持っていた自分のノッキングガンを握りしめると改めて気合を入れなおす。

 これから先どんな猛獣が待っていようと、必ず乗り越えて見せると心に誓って。




 ***




 グルメ特急から降りてグルメフォーチュンに到着すると、杏子は凝り固まった体を伸ばして準備運動を行い、トリコは中途半端に食事をしたため余計に空腹状態になってしまい、げんなりとした顔で特急から降りる。

 時計を見ると初めに来た時は5時間かかっていたグルメフォーチュンまでの道のりも特急を使えば、1時間半で済むことから特急のありがたさと言うのが身に染みて分かった。

 杏子は早く試練を乗り越えたいと気合が入っているため、トリコは街での美味しい食事を求めて地下の特急乗り場から地上へと飛び出す。

 地上の入り口で二人を待っていたのは3か月前と同じようにターバンに黒タイツ姿のココだった。

 出迎えて初めにココが行ったのは杏子のチェックだった。

 目の前にココの顔が近付き杏子は多少困惑したが、何をやろうとしているのか何となく理解をすると彼に息を吹きかけて、自分がシラフであると言うのをアピールした。

 それでようやく強張っていたココの表情が和らぎ、改めてトリコと杏子を出迎え、ココはトリコに対して手を差し出し再会の握手をする。

「まったく3カ月しか経っていないのに、もうあれに挑戦させる気なのかい?」

「思い立ったが吉日、その日以降はすべて凶日だ。あれが一番多く繁殖しているのはお前のとこだろ?」

 二人が懐かしそうに話す『あれ』の存在が何なのか杏子はよく分からないが、穏やかな二人の会話を見る限りそこまで危険な物ではないと踏んで、気持ちを落ち着かせると二人の後に続く。

 足を用意してあるとだけ聞いた二人はココが用意したジープに乗って目的地へと向かう。

 30分ほどジープを走らせると目的にに到着し、三人は一斉に下りる。

 目の前に広がるのは何一つないまっさらな草原。

 初めてこの世界に降り立った時もその美しさに心を奪われた杏子だが、今回は観光できたわけではないし、あの時と今では意識のあり方がと言う物が全く違う。

 ノッキングガンを片手にどんな屈強な猛獣を相手にするのかと杏子は構えていたが、ココに肩を叩かれて彼が指さす方を見ると今回の自分の対戦相手が目に飛び込む。

 そこに居たのは50センチ大の子豚の集まりだった。

 これが昨日戦ったわた熊よりも手ごわい相手なのかと思い、杏子は間抜けな顔を浮かべてしまうが、トリコから親指で早く狩りに勤しむよう促されると杏子はノッキングガンに針を装填して、トリコから教えてもらった額の中心部分目がけてノッキングを施そうとする。

「ノッキン……」

「ぶ――!」

 だが針を刺した瞬間、子豚に信じられない変化が起こる。

 赤子程度の大きさしかなかった子豚が風船のように膨らんで杏子を押しつぶしたからだ。

 体重その物は全く増えていなので、押しつぶされた杏子も少し苦しいだけであり、うっとおしそうにそのまま巴投げで子豚を前方に投げ飛ばすが、2、3回バウンドしただけで再び地面に体が落ちると、元の姿に戻った。

「ハハハ『バルーンピッグ』は正しい個所にノッキングを施さないと、危険を察して自分を膨らませるブタだ。まずはこれで美食屋としての繊細さを勉強するんだな!」

 トリコの檄が飛ぶと杏子は声の方を見る。

 既に出来上がっていて酒瓶を片手に寝っ転がりながら指示を出すトリコを見て、杏子の中で怒りの感情が芽生えだす。

 それを力に変えようとのん気に草を食べているバルーンピッグの体を捕まえてノッキングを施そうとするが、再び風船のように膨らんで杏子を押しつぶした。

 これに完全に怒り狂った杏子は今度こそ成功させようとするが、何度やっても押しつぶされるばかりであり、ノッキングが成功する感覚が掴めないでいた。

「懐かしい光景だね……」

「ああまるでオレたちがガキの頃を見ているみたいだ」

 ココはトリコの隣に座って杏子の修行を見守っていた。

 トリコが言うように思い返されるのは遠い遠い昔の記憶。

 まだ自分たちがずっと幼かった頃、遊びの延長感覚でバルーンピッグにノッキングを解こうとして何度も押しつぶされた記憶だった。

 あの頃はいつも4人一緒に過ごしていて、毎日が楽しい日々だったことをトリコはココと共に語っていた。

「そういやゼブラはどうなったんだ?」

 トリコは4人の中で唯一連絡が取れないゼブラの所在に付いてココに聞く。

 ニュースなどではそのトラブルメーカーぶりは知っているが、詳しい所在となると分からずココに占ってもらおうとしたが、ココは真剣な顔を浮かべながらゆっくりと話し出す。

「生態系を狂わせる危険な生物ばかりとは言え、絶滅させるのはやりすぎだからな……個人での正義と言うのは必ずどこかで歪みが生まれる物だよ」

「その辺りの語りに関してはやめておこうぜ。例え一生時間を費やしても答えが出そうにない禅問答だ」

 ゼブラが犯した罪、それは生態系を狂わせる危険な生物26種を絶滅させてしまったこと。

 IGOでの指令も無しにそんなことを行ってしまえば、それは醜い独善となってしまう。

 その辺りの事情はニュースでトリコも知っていることなので、今どうしているかだけをココに聞こうとする。

「恐らくは『グルメ刑務所』行きだろう。それでなくても喧嘩っ早い彼の性格は個人のそれでどうにかできるレベルでは……」

 語っている途中でココにしか見えない物が見えた。

 それは隣で喋っていたトリコも同じだったが、トリコには何か黒い影が落ちたようにしか見えなかった。

 異常事態だと察したトリコは未だに膨らんだバルーンピッグに押し倒されている杏子を助けると、ココと一緒に移動することを親指で示す。

「死相が見えた。急ぐよ二人とも!」

 いつも冷静沈着で落ちついているココが慌てているのを見て、二人は異常事態だと察してジープに乗りこんで、先程までの安全運転とは違い荒々しくアクセルをふかすココの運転で運転手にしか分からない目的地へと目指した。

(頼む! 間に合ってくれ!)




 ***




 目の前には翼を傷つけられ、真っ赤な血だまりの中で苦しそうに嗚咽を繰り返すカラスのひな鳥が一羽。

 ウェーブのかかったセミロングのヘアースタイルの男性は、その様子を恍惚の表情で見つめていて、血塗られたローブを見ると、また一つ勲章が出来たことに満足そうにしていた。

「ククク、セドル様の指示では殺しても構わないとのことだからな。面倒だしトドメをさすとするか」

 懐から自分の武器を青年が取り出そうとした瞬間、違和感に気付く。

 聴覚が人よりも優れている彼は自分に向かってやってくるエンジン音に気付くと、懐から煙玉のような物を取り出して、地面に打ち付けると煙が硫黄のような悪臭と共に現れ、青年は煙と共にその姿を晦ました。

 青年が消えてから数分後、ココたちは目の前に倒れている巨大なカラスのひな鳥を見つけた。

 何度も苦しそうに嗚咽を繰り返すカラスの姿にココは心を痛めて強いショックを受けていたが、杏子はその大きさに、トリコはそこに居たカラスの種類に驚愕の表情を浮かべていた。

「コイツはエンペラークロウじゃねーか! 何で絶滅種がこんなところにいやがんだよ!?」

 トリコの驚きようを見ると、杏子は自分の中で仮説を立てる。

 今目の前に居る巨大なカラスは自分の世界で言うところの『三葉虫』や『アンモナイト』みたいな存在だと言うこと。

 自分だって自分の世界でそんな物が見つかれば、生命の心配よりも先になぜそんな物が居るのかと疑問に思うのが普通。

 だが目の前に居るのは命の灯が消えかけている絶滅種のひな鳥。

 何とかして救いたいと言う思いはあったが、訳の分からないこの世界の動物に対してどう対処をしていいか分からず、杏子は立ち呆けているだけだったが、ココが緊急用の医療キットをジープから持ち出すと、慌てて彼は治療に当たるが、道具のあまりの少なさに嘆くばかりであった。

(せめて輸血用の万能血液ぐらい用意するんだった……)

 翼を鋭利な刃物のような物で切り付けられていて、中の筋肉はもちろん骨にまで達した深い傷は応急治療用のキットでは追いつかない致命傷レベルの怪我。

 それでもココは針と糸で筋肉を縫い合わせ、せめて血だけでも止めようと必死になって応急治療を施そうとしていた。

 その姿を見て初めはエンペラークロウの存在に圧倒されていたトリコだったが、だんだん無意味に命を傷つけた輩に対して怒りを覚え、恐らくはまだ匂いが残っているであろうと踏んで地面に這いつくばって匂いから追跡しようとするが、トリコの鼻に飛び込んできたのは硫黄のキツイ匂いだった。

「臭ぇ! こんなもん用意するなんて……」

 追跡防止のためによく使われる匂い付きの煙玉を使う辺り、相当な使い手であると同時に初めから目的がエンペラークロウであると理解したトリコ。

 これからのことに関して何をすべきかをトリコはいち早く察知し、応急治療が終わったエンペラークロウを担ぎあげるとジープに乗せてエンペラークロウはココが見て、トリコが運転を担当する。

「早く医者に見せるんだ!」

「医者なんか頼りになるか!」

 興奮しきっている杏子に対してトリコも怒りからか乱暴に応対してしまう。

 普通ならばここで委縮して止まってしまうところだが、杏子は売られた喧嘩は買うタイプ、更に白熱してトリコに食ってかかる。

「医者以外でこの状況誰がどうにか出来るとでも思ってのかよ!」

「この状況を打破できるのはココだけだ! 信じろココを!」

 その発言からトリコがココに対して強い信頼を持っていることが分かる。

 そこから杏子は何も言えずに黙って助手席に座っていたが、未だに苦しそうに嗚咽を繰り返すひな鳥を見ると、杏子の中で一つの考えが生まれてしまう。

(こんな時さやかが居れば……)

 一瞬でも思ってしまったのがさやかの癒しの力に頼ろうとした想い。

 だがそんな考えを持ってしまったことがすぐにとんでもないことだと気付き、杏子は慌てて頭を横に振って自分の中に生まれた考えをかき消そうとする。

 呪いでしかないと思っていた魔法に頼ろうとする。そんなところをキュゥべえに付けこまれてしまい、あんな悲劇が生まれてしまったのだ。

 ここはトリコが言う通りココに全てを託そうと決め、杏子はそれ以上何も考えようとせずまっすぐに前を見つめた。

 信じることがひな鳥を救う力だと信じていたから。




 ***




 人が立ち入らない森の上に一つ存在する小高い突起、人工的に作られた頂点の上にココの家はあった。

 石造りの屋敷は人一人分住めるぐらい程度の最低限の大きさしかなく、その中にエンペラークロウを入れられるかどうか杏子は疑問に思ったが、トリコがひな鳥を担いで備え付けられた梯子を登っていくと、ココも続き、杏子もそれに続いた。

 家へと入るとトリコはテーブルをどかしてエンペラークロウを横に寝かせる。

 応急処置を施され、包帯を巻かれた状態でもジープに揺られて再び出血しているその様子を見て、一刻を争う事態だと踏んだココは棚の上に並べられている漢方から、この場で必要な物を自分の知識をフル動員させて選んでいき、引き出しから医療用の器具を取り出すと、シーツをひな鳥に被せて手術の準備を始める。

「二人とも出ていくんだ!」

 手術の邪魔をされたくないココは命令するように二人に言い放つ。

 トリコは杏子の肩を抱いて並んで出ていき、家屋の隣にある薬物庫へと入っていく。

 後のことはココに任せるしかないと踏んだ杏子はこれ以上何も言わないようにとも思ったが、どうしても気になることがあり落ち着きを取り戻しつつあるトリコに詳しいことを聞こうとする。

「何で全てをココに任せたんだ? 答えろ!」

 場合によっては素人治療にもなりかねない選択をしてしまったのではと杏子は思ってしまい、ついつい声を荒げてしまう。

 だがトリコは息を荒げながらもココに治療を任せた理由を話し出す。

 ココの目には普通の人間が大きく見える可視光線の波長を大きく超える電磁波まで捕える。

 錐体細胞の種類と視細胞の数が多いため赤外線から弱い紫外線まで見える。

 そしてココは占いのさい、この能力を応用して人の体から発せられる微弱な電磁波を視覚で捕え、その強さや量・形などの様々な情報から、その人の近い将来を予測し占っていると言う。

「その能力を応用すれば、異常な電磁波が発せられる部分を正常に戻して、治療も可能なはずだ。ココもそれを分かっていたんだろうよ」

 自分の能力をフルに使っているココの考えを聞くと杏子は驚愕の表情を浮かべていた。

 応用と言うことに関して自分は全くできていなかったのもあるが、魔法と言う物に救いや希望を心の中で求めていながらも、どう使えばそうなるかを全く考えていなかったのは自分の怠慢だと反省し、自分が何をすべきなのかを考えて立ち上がろうとするが、トリコの手で強引に座らされると、目の前にあった数冊の雑誌を手渡す。

「オレたちができることなんて一つぐらいだろ……信じて待つんだ」

 そう言うとトリコはページを一枚ずつ破っていき、数枚杏子に手渡す。

 トリコが何をやろうとしているのか理解すると、杏子は何も言わずに自分がすべきことをやろうとしていた。

 太陽が落ちて夜に包まれてからもココの治療は終わらなかった。だがそれでも二人は自分がすべきことをやめようとはしなかった。

 戦っているのはココだけでもひな鳥だけでもない。ここに居る全員が戦っているそれを証明したかったから。




 ***




 夜が明けて、再び朝日が上り出した時、ココは安堵のため息をつきながら家屋から出ていき、腕を回しながら凝り固まった筋肉を解していく。

 家屋の中に居るのは穏やかな寝息を立てるひな鳥が一匹。

 目の前の命を救うことができたことにココは心底喜び、目に溜まっていた涙を流すと気持ちのリセットを行った。

 治療が成功したのを二人に報告しようと、恐らくは居るであろう薬物庫のドアを開ける。

「二人ともありがとう。ひな鳥君の治療はせいこ……」

 薬物庫の様子を見るとココは再び言葉を失う。

 トリコは壁に背を預けて眠っていて、杏子はその腕の中に収まって眠っていたが、真に驚愕させられたのは二人を埋めていた物だった。

 置きっぱなしにされていた雑誌から折り鶴が作り上げられていて、それは千羽鶴と呼べる代物が何組も作り上げられていた。

 折り鶴の海の中で気持ちよさそうに寝息を立てる二人を見ると、ココの目には再び涙がが溜まり出し、ココはさめざめと泣きだす。

(二人ともありがとう……本当にありがとう……)

 エンペラークロウの治療が成功したのは皆が居たから成功した。

 そう思い感謝の気持ちをココは二人が目覚めるまでいつまでも送り続けていた。

 その様子をこの場には相応しくないカメラが付けられた一匹のコウモリが捕えていることにも気付かず。




 ***




 薄暗い洞窟の中を青年は本拠地にし、偵察のために向かわせたコウモリから送られた映像を見ると舌打ちをして露骨に不快そうな表情を見せた。

 それと同時に携帯電話の着信音が鳴り響く、画面を見ると自分の直属の上司に当たるセドルからの着信であり、青年は報告のため電話に出て、これまで起こったことを包み隠さずに話して、そして自分の提案を出す。

「そこで提案ですが、四天王トリコとココの首も一緒に差し出せば、トミーロッド様も喜ぶのではと……」

 自分に勝算があると踏んだ青年はセドルに提案を出す。

 話を聞いたセドルは青年のプランを聞くと口元を邪悪に歪ませながら一言言い放つ。

「お前の好きなようにやりな、ラビオリ」

 それだけ言うとセドルは電話を切る。

 支部長の許可を貰うとラビオリは自分の部下であるコウモリたちを従わせながら乾いた笑い声を洞窟内に響き渡らせる。

 自分が勝利するイメージが脳内を侵食していたから。





本日の食材

わた熊 捕獲レベル1以下

全身を綿菓子で覆われた熊、他にもジェリービーンズの爪や、キャラメルの歯も人気である。
熊ではあるが臆病な性格で、草しか食べない草食動物である。

バルーンピッグ 捕獲レベル1

危険を察知すると体を風船のように膨らませて威嚇する豚。
一回膨らむと風に乗って逃げられる可能性があるので、捕獲の難しさを考慮して1が付けられた。

エンペラークロウ 捕獲レベル測定不能

『空の番長』と称される巨大なカラス。絶滅種だがグルメ界のどこかにはまだ生存しているとの噂もある。
高い知能を持ち、飼いならせば人間の命令も理解することができる。





と言う訳で今回は美食會との初接触前編になりました。

ココの治療に関しては私の独自の見解も入っています。

それと雛の頃から飼っていると聞くキッスに付いてもここで出会わせました。まだ本編ではキッスとの出会いに関しては書かれていないので。

次回はラビオリとの決戦になります。

次も頑張りますのでよろしくお願いします。


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