※わーにんぐ!
よくあるエミヤシロウが他の作品に転生するというクロス物です。
書いた人的にはヘイトのつもりは無いのですが、ヘイトになってるような気もします。
ヘイト嫌い、ヘイトっぽいのも嫌いという方は読まない自由を行使して下さい。
また、ヘイト大好きという方の期待にも多分添えませんので自重して下さい。
めつじんめっそー!
暁美ほむらにとって、その存在は悪夢でしかなかった。
廻る螺旋の時の中で、たった一度だけ誕生した魔法少女。
全てを救いたいと願った彼女は、自分以外の全てを滅ぼした。
それは、彼女の願いが余りにも荒唐無稽で、その素養では叶えられなかったが故の喜劇であり悲劇である恐怖劇。
暁美ほむらが体験した、たった一度の悪夢。
その忌まわしい記憶の物語。
『災厄の箱』~魔まマ×Fate~
「僕と契約して魔法少女になってよ」
その奇妙な生き物はそう言って、機械のような笑顔を浮かべた。
前世の記憶があるのだと、その少女は言った。
名を早苗冴華。
彼女がキュウべぇに願った願いは、前世の能力を取り戻す事。
本当は、「この世全ての人救う」事を願ったらしいが、彼女の素養ではそれを叶える事は出来なかったのだ。
故に、彼女は魔女達と戦う事こそを望んだ。魔女達から人々を守る事を。
彼女がキュウべぇに望んだ彼女の言う前世での能力はその為に。
その話を聞いた時、ほむらは早苗冴華を狂人と断じた。
魔法少女が魔女と戦うのは、それが願いを叶えて貰う代償だからだ。
そして、魔法少女が生きていくには魔女のグリーフシードが不可欠だからだ。
魔女と戦う為に力を願う。
名も知らぬ誰かを救う為に。
これを狂人と呼ばず何と呼ぶ。
早苗冴華を最も疎い、警戒したのは佐倉杏子だった。
叶えたかった願いを叶える為に願った戦う為の力。
それは自分自身の為の願いでありながら、どこまでも他者の為の願い。
故に、その願いは容易く歪むという事を、杏子はよく識っていた。
ほむらの不審と杏子の警戒をよそに、魔法少女の身体能力とかつての異能を取り戻した早苗冴華は、巴マミと共に次々に魔女を討ち取っていった。
それは余りに順調で、鹿目まどかと美樹さやかが魔法少女になる事も無く、或いは遂にまどかを守れるかもしれないとほむらに希望を抱かせる程だった。
無論、それは全くの間違いで。
早苗冴華は次第にその異常性を現すようになっていく。
前世の記憶に引き摺られた行動原理。
正義の味方に成る為に。
自身を省みず、どこまでも他人の為に。
救う為の戦いに躊躇いは無く。
グリーフシードは仲間を優先。
故に、彼女のソウルジェムは常に何処か濁っていた。
そして、舞台装置の魔女は訪れる。
あと、一歩。
あと一歩のところで、届かなかった。
舞台装置の魔女は未だ健在で、早苗冴華のソウルジェムは既に濁りきっていた。
だがそれでも。
冴華の行動に迷いは無かった。
あの魔女を倒せねば、大勢の人たちが死ぬ。
彼であった彼女に、正義の味方であろうとする彼女に、自身の限界など慮外の事であった。
故に、冴華は剣の丘の聖剣を抜き放ち、その真名を解放した。
聖剣の光が舞台装置の魔女を焼き、宙を射く剣軍が追い討ちを掛ける。
届かなかった一歩を埋めていく。
早苗冴華という魔法少女の”死”と引き換えに。
舞台装置の魔女は消滅した。
もし、彼女が魔法少女の本当の末路を知っていたのなら。
或いは、この後の展開は無かったのかもしれない。
しかし、キュウべぇが自ら明かす筈も無く、彼女の活躍故にほむらがその秘密を暴露する事も無かった。
故に、これは必然。
早苗冴華が魔法少女となった時点で確定していた、当然の未来だった。
かくして、魂の宝石は魔女の種となり。
種は芽吹き、魔女という花を咲かせる。
歪んだ願いと共に。
体は剣で出来ている―――
故に、剣は、剣としての役割を果たす。
有象無象区別無く、ただ只管に斬る。
それこそが、剣が為せるただひとつの正しき義。
名剣であろうと駄剣であろうとその意義に変わりはない。
剣は、斬る為に存在するのだ。
死による安らぎ。
生の苦しみからの解放。
誰も苦しまない世界。
誰も悲しまない世界。
生きるもの皆、居なくなれば、それは現界となる。
故に、この世界全ての人々を斬り殺す。
剣の正義。
剣の救済。
血塗れの救済者。
―――呪われた剣の魔女■■■・■■。
現実を侵す無限の剣の丘。
黒と赤の鎧を纏った魔女騎士は。
生者、死者、一切合財、区別無く。
死と破壊をばら撒いていく。
その手の剣が、
雨霰と降る、無限の剣軍が、
全てを斬り裂き、貫き、殺していく。
それは正に地獄の顕現だった。
巴マミと佐倉杏子は魔女の手に在る漆黒の聖剣の閃光に焼かれて消えた。
各地から集う魔法少女達も次々と滅んでいく。
魔女は魔法少女に倒される―――その不文律は剣の魔女には通用しない。
何故ならば彼女は、その例外である舞台装置の魔女を倒した魔法少女だからだ。
彼女は、外れてしまった。
故に、デウス・エクス・マキナのからくりは彼女を操れない。
ご都合主義では彼女は倒せない。
剣の魔女を倒すには、ただ単純に彼女よりも強い魔法少女が必要なのだ。
「…興味深いと言えば、興味深いけれど」
ふぅ、と、キュウべぇは溜息を吐く真似をした。
「碌な資質も無かったのに、何であんな無茶苦茶な魔女になるかな?」
しかも、自らの死にこれといった絶望も感じなかったらしく、殆どエネルギーの回収も出来ていない。
彼女が、魔女になる運命を識っていれば、あるいは違ったのかもしれないが。
絶望の種を植える間も無く魔女化するなど、流石に想定外。
さしものキュウべぇも彼女があんな自殺めいた事をするとは予想だにしていなかったのだ。
「まったく、わけがわからないよ」
キュウべぇの目的からすれば、アレは想定外で最悪の存在だった。
過去最高の資質を有していた鹿目まどかが魔法少女となれば剣の魔女を倒す事も難しくはなかっただろうが。
残念な事に、彼女は先の閃光で、別のキュウべぇ諸共既に死んでいた。
キュウべぇにも死者と契約を交わす事は出来ない。
現状において、あの剣の魔女を倒すほどの資質を持つ少女は存在しない。徒党を組もうが無駄だ。新たな誕生を待つしかない。
そして、剣の魔女はその前にこの星を滅ぼすだろう。
「…」
どうやらこの星のノルマは果たせそうにないけど、仕方が無いねと他人事の様にキュウべぇは首を振った。
何の感慨も無いまま、己の役目の失敗を受け入れた。
時よ止まれ時よ止まれ時よ止まれ時よ止まれ!!
暁美ほむらは呪いの様に盾を廻す。
彼女の大切なモノをあっさりと消し飛ばしたモノに一矢報いる為に。
だが、とどかない。
現実を侵食する無限の剣の丘は、ほむらの魔法を寄せ付けない。
圧倒的な力の差、ただそれだけの事でほむらは剣の魔女の時を止める事が出来ない。
「っ―――!?」
遂に盾の砂時計の砂が全て流れ落ちた。
もはや、暁美ほむらに出来る事は、時間遡行により未知の過去に逃げ出す事だけ。
ああ、そんな事はわかっている。
だが、この胸の激情は―――
ぎりりっと唇を噛み。
軋みを上げる心に蓋をし、踵を返す。
見知らぬ魔法少女が分断されるのを横目に、無限の剣の丘から離脱する。
もう二度とこの過ちは繰り返さぬと心に誓い。
ほむらは盾を廻した。
彼の者は常に独り 剣の丘で勝利に酔う。
故に、生涯に意味はなく。
その体は、きっと剣で出来ていた―――