古さを刻むひび割れた石で囲われた街並み。
そこに住まう者などおらず、その役割は街ではなくコロッセオ。
敷き詰められた石畳は硬く、走る足に多大な負荷を与えてくる。
だが、今の俺には冷たい街並みを眺める余裕も、足への負担に立ち止まる暇も無い。
「少年、右にゃ!」
叫ばれた指示に足に力を込め全力で右に飛ぶ。
ズドン、そんな重い音と共に先ほどまでいた場所に矢が突き刺さった。
「次、左!」
全力で飛ぶ。
矢が刺さる。
「前に飛び込め!」
全力で飛ぶ。
矢が刺さる。
「右右左右左!」
飛ぶ飛ぶ飛ぶ。
回避回避回避。
「上上下下左右左右!」
――どうしろと。
「明日へ向ってジャーンプ!」
――明日ってどこさ。
「そこの建物が安全地帯!のようにゃ気がしないでもない!」
――どっちだよ。
隠れるか走り続けるか一瞬迷う。
だが、今俺が生き延びられているのはネコの勘による回避指示のおかげだ。
なら迷う必要など無い。
指し示された建物へと飛び込むように侵入する。
そして、外からは見え無い位置へと移動した――瞬間に、入り口から数歩入った場所に矢が突き立った。
「にゃふー、にゃんとか凌いだぜ!」
外からここが見えないように、ここから外は見えない。
故に、耳を澄ませ外の音を伺う。
……矢の雨は収まったようだ。
しかしアーチャーの射程から逃げれたとは思わない。
先ほどまでは頭上から矢が降ってきていた。
今ここが狙われていないのは角度の問題だろう。
もしアーチャーが同じ高さに降りてきたならば、この部屋の中すら射程内に入るに違いない。
先ほどまでの狙撃はネコの指示がなければ全て当たっていた。
その精確さから考えれば、この建物の窓や入り口は俺を狙うのに十分な広さのはずだ。
今攻撃が無いのは狙撃の場所を探しているのか、こちらの様子見なのか。
相手の意図はわからないが、時間ができたことには違いない。
走り続けて乱れた息を整えるよう深呼吸。
そして、これからの指針を決めるため先ほどまでの自分を振り返る。
戦いが始まって俺達ができたことは全力の逃走とギリギリで行われる回避、その繰り返しだった。
この無人の街並みで行われる決闘は、もはや決闘ではなく狩りと呼ぶほうが相応しいだろう。
逃げ惑う獲物は俺達。
狙い定める狩人は敵。
アーチャーの圧倒的射程から繰り出される矢は、それぞれが一撃必殺の威力を持って俺達を狙ってきた。
飛んでくる矢の方角から相手の位置を探ろうとはしたが、いくつかの矢を回避した後、先ほどとはまったく異なる方角から矢が飛んできた。
相手は狙撃と移動を併用してじりじりとこちらを追い詰めてくる。
こちらに対して油断も驕りも無い。
確実で淡々とした攻勢は、こちらから相手に付け入る隙はないということを嫌でも感じさせてくる。
さて、これからどうすべきか……
「にゃっふっふ。あの程度の攻撃、あたしには楽勝だったにゃ」
そう息巻くサーヴァントと向かい合う。
――頭に6本矢が刺さってた。
それを笑うことなんかできない。
ネコに刺さった矢は全て俺が回避し損ねたものだ。
こいつが俺を庇った負傷なのだ。
その傷を笑うことなんかできるはずがない。
……大丈夫なのか。
「ん~、にゃっ!」
ネコが思いっきり矢を引っ張る。
きゅぽん、と軽快な音を立てて矢が抜けていく。
「にゃふー。にゃんかツボ押された気分にゃ。実に爽快!」
そう言っていつものように不適に笑う俺のサーヴァント。
だが、俺はいつものように軽口で答えることができない。
こいつの負傷は何時だって俺の不甲斐無さが原因なのだ。
俺の覚悟の無さが原因なのだ。
いつだって庇われて、いつだって守られて。
これじゃ胸を張って相棒なんて呼べるはずが無い。
だから、俺は――
「むむ、嫌な雰囲気がビンビンするスメルが漂ってきたにゃ!」
くっ――な、んだ、これ。
苦しい。
痛い。
熱い。
気持ち悪い。
異物が体の中を這い回っている――!
「少年あれ!」
ネコが示す先、窓の外を見上げると、遠方に巨大な木があった。
つい先ほどまでにはなかったそれは、毒々しい何かを放出している。
雄雄しいほどの存在感。
生い茂った葉の生命力。
その形状は――
「あの木にゃんの木」
気になる木。
本当に木にすべきだろう。
いや、気にすべきだ。
この体が蝕まれているのはあれが原因のはずだ。
「むぅ、突如発生した巨木……少年!敵の正体がわかったにゃ!」
突如発生した巨木。
このキーワードから敵の正体に感づいたのか。
さすがだネコよ。
お前の推理を聞かせてくれ――!
「うむ。あの木の成長速度。そしてこの木なんの木によく似た風貌。あのサーヴァントの正体は……」
あのサーヴァントの正体は――!?
「ト○ロにゃ!」
ジブ○に謝れ。
さすがだバカネコ。
何一つ状況が好転しない。
……お前は何時だって変わらないな。
「にゃっふっふ」
その怪しい笑みが頼もしいとかいよいよ俺に毒が回ってきたか。
……あぁ、本当に頼もしいよ。だからこそ、俺も――戦える。
よし、ここでもたついていたら相手の思う壺だ。
行動するぞ。
「いよいよカチコミにゃー!」
あぁ――ゴフッ――やばいな、呼吸すらも辛い。
あと数分で意識も飛ぶだろう。
まずはこの毒の空気をどうにかしなければ。
というか――お前平気なの?
「にゃんか緑の匂いがして実にリフレッシュ」
欠片も効いてねぇ。
もしあれが敵の宝具だとしたら同情を禁じえないな。
とはいえ、恐ろしい宝具だ。
広範囲に渡り致死性の毒を撒き散らすなんて、ここでじっとしているだけで死が近づく。
だが――これはチャンスだ。
相手の場所を探ることができる。
先ほどまでの狙撃は、攻撃後すぐに魔力を隠し移動していたのだろう。
そのせいで相手の位置がまったくわからなかった。
だが、宝具を展開したことにより魔力を隠すことはもうできない。
あの巨木を維持するには魔力を常時消費するはずだ。
故に――コードキャスト・地図生成!
礼装『遠見の水晶玉』。
それは手に納まる程度の大きさである球形の水晶で、魔力を通すことにより周辺の地図と相手の魔力を探ることが出来る。
――北北西、距離400mってところか。建物の屋上に陣取ってるな。
「ワープでいっきに仕掛けるにゃ?」
いや、それはまずい。
あの木を無視しての接近は無理だ。俺が持たない。
まずはあの木をどうにかすべきだ。
――ゴフッゴフ!
「少年!?」
大丈夫だ、まだ耐えれる。
だが、時間はかけられないな。
あの木を攻略するぞ。
いいか、まず俺が囮になる。
お前はその隙にあの木を壊せ。
「……少年が囮ってところに異議あり。あたしのワープにゃら少年も一緒に行動できるにゃ」
却下だ。
お前のワープの消費魔力は結構でかい。
俺の魔力総量を考えれば、俺を連れて飛んだ場合1回が限界だろう。
お前単独なら4回はいける。
ワープは俺達にとっての切り札、宝具みたいなものだ。
1回で使い切ってしまうと後の攻撃の手段が限られてしまうからな。
アーチャーと直接対峙した時に、できれば1回はワープを使えるようにしておきたい。
なに、勝算はある。
それに……直接的な戦いはお前任せになるが――覚悟のぶつかり合いぐらい、俺にも闘わせろ。
――そうすることで、俺はお前の隣に立っていられるんだ。
「……オーケーマスター。やってやるにゃ!」
あぁ、やろう。
いいか、簡単に言うぞ。
俺が単独で表に出る。
相手もお前の耐久力に気づいているだろうから俺を狙ってくるだろう。
お前はその隙に1回目のワープであの木に接近。
俺を倒すほうが圧倒的に簡単だからな、木には防衛力を裂いていないはずだ。
というか、宝具の展開と俺に対する攻撃で相手のリソースも限界だろう。
あの宝具の効能と範囲を考えれば消費魔力は絶大だからな。
俺が相手の攻撃を凌いでいる間に木を破壊しろ。
破壊後、2回目のワープで合流。
残り2回は奇襲に使うから温存。
「その後は?」
臨機応変で。
「便利にゃ言葉にゃ」
まったくだ。
俺がアーチャーの攻撃を単独で凌げるのは精々2回が限界だ。
これは時間との勝負、頼むぞ。
「あん?小僧が一人で出てきやがった……ついに毒が頭に回ったか」
「……」
「どうする、旦那。罠の可能性は高いが、それを気にしてこっちが迷うほどの強敵じゃあねぇぜ?」
「……」
「旦那、マスター一人だから攻撃するな、なんて言うなよ。これは戦争だ」
「…………当然だアーチャー。単独で行動する敵の大将首など狙撃手の的でしかないと教えてやれ」
「あいよ――さよならだ、小僧」
(戦争を理由に毒を使った挙句、無防備な相手を殺すなど……自分を偽り、勝つための手段を選ばない。皮肉な話だ。軍属だった頃と何も変わらない。わしは、私はなんのために――)
建物から出て、道の中央で構える。
次にくるであろう攻撃に備え、魔力を体全体へ流し身体能力を底上げする。
重要なのはタイミングと――度胸。
これはチキンレースだ。
怯えて慌てればそれが死に繋がる。
今は心を落ち着かせ、いつでも行動できるようにする。
――来る。
空気を切り裂いて死が迫る。
ネコがいない分、さきほどよりも圧倒的に濃い死の気配。
体に回る毒も加味した絶望感。
さきほどと同じようにただ飛び退くだけでは一瞬で打ち抜かれるだろう。
そんな未来を――打破する!
英雄の一撃を視認することなどできるはずがない。
だが先ほどまでの攻撃と、いつかの学園での経験が直感に繋がる――!
……
…………
………………
………………今だ!
――コードキャスト・空気撃ち!
礼装『一の太刀』に魔力を流す。
具現化するのは空気の打撃。
圧縮した空気の塊を叩きつける。
だが、真正面から打ち合ったところで、矢に空気を貫かれるなどわかっている。
狙うべきは――その横腹!
矢の左から右へ横から叩きつけるように空気のハンマーをぶつける。
その影響はわずかなもの。
多少弾道がずれた程度の誤差範囲内。
だが、その刹那の誤差が俺を生かす。
空気撃ちを放つと同時に飛びのいた俺のすぐ脇を、掠めるように矢が通り過ぎた。
一撃目、凌いだか。
第二射はすぐに来るはずだ。
体勢を立て直し、先ほど矢が飛んできた方角を見上げる――!
――わぁ、5本飛んできた。
ちょ、無理。
無理無理無理。
空気読めよアーチャー!
ここはギリギリのところを俺が華麗に回避する見せ場だろうが!
5本、こっちが回避した後に着地しそうな場所にばらまいてやがる!
迫る矢。
持てる手立てなどなく。
襲いくる死の恐怖にただ――
抗うようにそれを呼んだ。
――ネコーーー!
「呼ばれて飛び出てジャジャジャ――ちょ!?文字通り矢面じゃにゃいかー!あふん!?」
ドスドスと生々しい音を立てて矢がネコに突き刺さる。
ふぅ、なんとか凌いだか。
「少年!にゃにが2回は防げるにゃ!ダメダメじゃにゃいか!」
まぁまぁ、生きてるんだから褒めてくれよ。
刺さった矢を引っこ抜くと、きゅぽんと軽快な音を立てて抜けた。
抜けた後に傷はない。
先ほどまでは庇われた行為に後ろめたさを感じていたが、今は感じない。
なぜならば、これが、俺達のスタイルだからだ。
ネコの圧倒的耐久力を前面に押し出した突貫戦法。
理解する。
これこそが俺達のすべき戦い方だったんだ――!
「それただの超ドMスタイルじゃにゃいか!――望むところにゃ」
最高の笑顔をありがとうドM。
まぁ、冗談はさておき。
お前に苦痛を強いることになるが、あえて頼む。
「そりゃ気にしすぎだぜ少年。あたし達の戦い方はこうだった。それが有効にゃらやるべきにゃ、マスター」
あぁ……信じてるさマイサーヴァント。
ところで、あの木、まだ健在だけど壊せなかったのか?
「ちょっとでかすぎてにゃー。でもチョメチョメして毒じゃにゃくて別のもの吐き出すようにしたから大丈夫にゃ!」
別のものとは?
「ファ○リーズ」
道理で爽やかなミントの香りがすると思った。
ただひたすらにファ○リーズを撒き散らす宝具か、アーチャーに同情を禁じえないな。
さて、ここまできたら、正面突破だ。
「くそっ!なんだあのサーヴァント!全弾当たってるのに欠片も効いてねぇだと!?」
「落ち着けアーチャー」
「……旦那、こりゃマスターを殺らねぇと終わらねぇ。『祈りの弓』で生成したイチイの樹もわけわからんモノに改竄されちまった。……つか、ありゃどういう芸当だ。他人の宝具、幻想を書き換えやがった……違うな、書き換えじゃねぇが……だーっ!俺は魔術とかまったくわかんねぇんだよ!」
「ここで悩んでも仕方あるまい。必勝を期した行動を打ち破られたのだ。ならば次善を行えばよい」
――ダン・ブラックモア!話がある!
「む?」
「なんだ、今更こっちとお話でもしたいのか。……旦那、チャンスだ」
「待て」
――貴方はこちらと正面から向き合うと言った!
「旦那!」
「動くな、アーチャー」
――俺は……!
――後悔だけは、したくない!
「……迷いを捨てたか、少年。良い、瞳だ。……行くぞアーチャー、打って出る」
「はぁ!?正気か旦那。弓兵が前線にでるなんて――!」
「冷静になれ、アーチャー。お前の技量はわしが良く知っている。わしのサーヴァントである以上、ひとりの騎士として振舞ってもらいたい。……信頼しているよアーチャー」
「……騎士、か………………憧れてたな、そういや……わかったよ、旦那。令呪は必要ない」
「ふむ、行こうか我が騎士」
「了解だ、我が主」
正面から敵がゆっくりと近づいてくる。
その歩く姿は堂々として、凛とした空気はまさに騎士であるといえるだろう。
「待たせたな、少年」
いえ、俺も今――覚悟を決めたところです。
「ふ、ようやく向き合えたな。君も、わしも」
はい、俺は――貴方を倒します。
「それはわしの台詞だな、少年。……アーチャー!」
「あいよ、任せてくれ旦那」
――ネコ!
「にゃっふっふ!ぼっこぼこにしてやるにゃー!」
「……やっぱこれが相手だとなぁ……」
「にゃんだとこの野郎ー!」
よくわかるよ、お兄さん。
けどお兄さんの敵はそのネコだ。
その謎のバカネコだ!
「おぉい!容赦なくこっちの戦意を削るんじゃねぇよ坊主!認識するたびにやるせない気持ちになるわ!」
どんなに嘆いてもお兄さんの敵はそのUMAだよ。
はっはっは。
決闘でネコと戯れるなんてファンシー。
「惚れるにゃよ?」
「誰が惚れるか!……行くぜ!」
「にゃふー!」
サーヴァント達が動く。
ネコは敵に近づこうと走り、アーチャーはそれを阻止しようと矢を放つ。
そして、マスターである俺とダン・ブラックモアは動かない。
この戦い、すでにサーヴァントに全てを託している。
己のサーヴァントこそが最強であるという自負、必ず勝利するという信頼。
サーヴァントに送る意思のぶつかり合いが、俺とダン・ブラックモアの戦いだ。
だからこそ俺達は何もしない。
ただ自身のサーヴァントが勝利と共に傍へ戻ってくることだけを待っている。
「真祖ビーーム!」
「目からビームとかもうちょっと英雄的に振舞えよ!」
激しく同意する。
あ、ごめんネコ。
ちょっとアーチャーを応援してしまった。
「ちぃっ!効いてんのか、効いてねぇのか!」
「にゃっふっふ。矢が刺されば刺さるほど――あたしは喜ぶぜ?」
「どうしようもねぇなおい!?」
頑張れ、アーチャー超頑張れ。
「にゃ!?そこはかとなく裏切られた気がする!」
ネコー、ガンンバレー、マケンナー。
「マスター同士はサーヴァントへの信頼のぶつかり合いが戦いじゃにゃいのかー!負けまくりじゃにゃいか少年――!」
ソンナコトナイヨー。チョウシンライシテルヨー。
「今だアーチャー!お前の矢で勝利を射抜け!」
「了解!隙だらけだ、もらうぜ!」
ダン・ブラックモアの指示にアーチャーは一瞬で答えた。
彼等は俺とネコのやり取りに隙を見出したのか、アーチャーは魔力を練り上げ弓矢での渾身の一撃を放とうとする。
それこそが――俺達の狙いだと気づかずに。
あらかじめネコへ伝えていた策をここで使う――!
今だ、ネコ!
切り札を使え!
「真祖ワーーープ!」
ネコの姿が掻き消える。
溜めも前兆も無い刹那の発動。
英霊であるアーチャーであっても見失うはずだ!
「はっ――甘ぇよ!」
ネコが消えたその瞬間、アーチャーは背後へ振り向き矢を構える。
その矢が狙う先には――ネコの姿。
「そのスキルはさっき見てんだよ!そういう技能があるってわかってんなら後はどこに出てくるかだけだろうが!」
英霊の戦闘経験とはこれほどのものなのか――!
狙い済まされた矢が、無防備なネコの命を刈り取る一撃が放たれる。
奇襲は失敗か――なんてすぐに諦めるほどに達観しちゃいない!
ネコ――!
「にゃふー!」
「ちっ!?また消えやがった!なんつー発動速度だ――けどな、テメェ等みたいな素人が狙う場所なんぞ背後か頭上の2択だろうが!上だ――!」
そんな、そこまで見切っているなんて――
――残念、はずれだ。
「アーチャー!下だ!」
「なっ!?股の間だと――!?」
「その股座にジェット噴射アタックにゃー!喰らえ必殺!男子滅殺拳!」
「ちょっ、待てそれは!?これで決着とかふざけんな――ぎゃぁぁぁぁ!?」
「ぬぅ!?アーチャー!」
さようならアーチャー。
君の敗因は――
――金的への防備不足だ。
半透明の絶対不可侵の壁が勝者と敗者を隔てる。
勝者たる俺達は、敗者たる彼等を壁越しに見ることしか出来ない。
「すまんな、アーチャー。わしのわがままに付き合ってもらって」
「まったくだ。こんなふざけた戦い、初めてっすよ」
全力全開でごめんなさい。
「謝るのかよ!くくっ、あぁ本当にふざけた戦いだったぜ。だけど、だけどな――」
――初めてだよ、敵と向かい合って戦ったのは。
そう静かに語るアーチャーの顔はとても安らかで、なんの後悔もない顔だった。
「生涯、縁はなかったが……俺も憧れたことがあったのさ。真正面からの戦いに、騎士としての立会いに。それにバケモノ退治は騎士の仕事だろ?」
「誰がバケモノにゃー!」
お前だよ。
「お前だよ。――ククッ、最後までふざけた奴等だな……旦那、すまねぇ。最後まで付き合えなかった」
「いや……最後までお前はわしの――騎士だった」
「あぁ――そうか。なら俺は、後悔は無い。最後に、欲しかったモノを掴ませて貰った――」
その言葉を最後に、騎士に憧れた弓兵は消える。
満足気に頬を緩ませて。
「――少年」
呼ばれた声に真正面から向き合う。
体の各部が消え去っても、老兵の眼差しはその強さを失っていない。
「これから先……誰を敵に迎えようとも……誰を敵として討つことになろうとも……必ずその結果を受け入れて欲しい」
真っ直ぐな眼差しと言葉が俺を貫く。
そして、その言葉の一言一句を逃さないよう俺もまた、ダン・ブラックモアと真っ直ぐに向き合う。
「迷いも悔いも消えないのならば消さずとも良い。ただ、結果を拒むことだけはしてはならない。それを見失ったまま進めば、君は必ず未練を残す――全てを糧に、進め。覚悟とはそういうことだ」
渡されたその言葉に、全身が射抜かれたような感覚が走る。
この言葉を忘れることは許されない。
これは、俺の在り方を決める重要な要因になると、本能が叫ぶ。
「何のために戦うのか、何のために負けられないのか、自分なりの答えを模索し――最後まで、勝ち続けた責任を果たすのだ――」
今はまだ、彼の言葉に返す答えは無い。
俺は歩き始めたばかりなのだから。
だが、だからこそ渡された言葉に力強く頷きを返す。
俺は――後悔だけはしたくないから。
「ふっ――良い……強い瞳だ。最後に君のような若者と立ち会えたことは幸運だったか――さて…………ようやく、あえそうだ…………ながかったな…………アン……ヌ…………――――」
老兵が光に消える。
消え去った後、漂う輝きから目を逸らさない。
ダン・ブラックモア――いや、ブラックモア卿。
貴方の言葉を刻みます。
俺の――在り方と共に。
【 二回戦終了 64人⇒32人 】
【おまけ ラニさんの占い講座】
「……くる、こない、くる、こない……」
「……くる……」
「……」
「……残り、一枚ですね」
「……」
「……」
「……やはり花占いはだめですね」
「まるで役に立たないし、このような稚拙なものが未来を詠むはずがありません」
「運命とは暗闇を照らす灯火。闇を払うは星の輝き」
「問うべきは星であり、聞くべきは星の声」
「不確かな未来を導くは北斗の煌き」
「星よ、遥か瞬く北斗七星よ、導きたまえ」
「……」
「……」
「……」
「あ…………北斗七星に寄り添う小星が輝いてる」
<あとがき>
(´・ω・`)←ラニさんの表情