私は、ここにいる。
かつてあった昨日にいる。
今ここにある今日にいる。
遥か遠き明日にいる。
英霊たる私の魂は、過去に現在に未来に存在する。
だからこそ、求めた。
あの日駆け抜けた戦場を。
あの日笑い合った日常を。
あの日――守れなかった、あの日を――
あらゆる今に、全ての過去に、移ろう未来に、可能性を求めた。
それが那由他の彼方にあるとしても。
あらゆる時で貴方を求める。
願わくば、もう一度。
あの日、守れなかった貴方を、今度こそ。
今度こそ、お守りしたい。
幾万、幾億、遥か彼方で。
貴方を求め、探し続ける。
そして――見つけた。
可能性の向こう側。
探し、求め続けた貴方の存在を、貴方の魂を。
傍へ、貴方のお傍へ参ります。
ただ、貴方の笑顔をもう一度見たいから――
あぁ、だけど、私にその資格は無い。
狂おしいほどに欲した貴方の傍は、薄汚い化け猫に奪われてしまった。
口惜しや、口惜しや。
貴方の傍は、私のモノなのに。
口惜しや、口惜しや。
貴方の傍に私でないモノがいる事実が許せない。
私の求めたモノではない。
これじゃない。
私の求めた聖杯戦争は――これじゃない。
けれど、だけれども――
諦めることなどできない。
できるはずがない。
用意された座が無いのならば、自らを持って座を為す。
例え己を捧げることになろうとも。
例えこの身を削ろうとも。
――貴方の傍へ。
故に――存在を喰らう。
世界に察知されぬほどの小さな存在を。
成り代わる。
私が貴方の傍にいるために。
聖杯戦争のために用意された小さな器の中身を喰らい、その中へと入り込む。
削れて逝く。
私という存在が。
消えて逝く。
私を構成する情報が。
器に入り、私という存在が書き換わる。
そうすることで、聖杯を騙し、世界を騙す。
そうすることで、貴方の元へ、辿り着く。
私が私でなくなってゆく。
一片の欠片も残さず消えて逝く。
私が消えて、器が残る。
もはや私は、私ではない。
聖杯の用意した、器そのものに成り果てる。
けれど、あぁ、だけれども。
この思いは消させない。
神であろうと、世界であろうと。
我が思いに触れることすらさせぬ。
私がなくなろうとも。
我が心は貴方の元へ。
すぐに――すぐに参ります。
そして、貴方へ、かつて渡せなかった私の想いを――
―おかえりなさい、ナカオさん―