【2回戦・死亡一回目】
「赤!王!劇!場!」
「よくきたな奏者よ!余はすごく、すっごく、すごーーーく待っておったぞ!」
「……なに?ここはどこだ、だと?よくぞ聞いた!ここは余が奏者を迎え入れるために心を込めて紡いだ黄金の劇場だ!見よ、この豪華にして荘厳にして絢爛な造りを。まるで余、そのものではないか。特にそこの柱の一見可愛らしい造りなどは余の可憐な心を体現しておる、そうは思わぬか」
「む、なんだその、うさんくさそうなモノを見る目は。余を見つめるときは常に愛おしさを込めよ」
「な、に……君は、誰だ、だと………………覚悟はあった……だが、奏者に、まるで知らぬと言われることが、これほど……辛いとは…………よい、そなたのせいではない。これは感傷だ。故に余は……私は……」
「な、泣いてなどおらぬ!余は泣いてなんかいないからな!……だが、特別に余を慰めることを許す。頭を撫でるが良い。――もっと、もっとだ。もっと感情を込めて、愛でるように、そう……私だけを想って――」
「――ハッ!?か、勘違いするなよ奏者!余は泣いていないからな!だが気持ちよかった!もっと撫でるがよい!」
「――ふぅ、満足した。では改めて名乗ろう。いいか、よく聞くのだぞ。余は美麗にして聡明。優雅にして無欠。王の頂点に座す、皇帝・ネ■・■■■ディ■■・■■■ル・ア■グ■■ゥ■・ゲ■■■■スだ!その魂に刻むがよい!」
「……何、よく聞こえなかった?……そうか、余は名をそなたに渡すことすら許されないのか……よい、致し方あるまい。そうだな、しょうがなく、そう、しょうがなくだ!今は赤セイバーと呼ぶがよい」
「……赤以外にもいるのか、だと?そなたは赤だけを知っていればよいのだ!いいか、決して青だの白だの黒だのに気をやるな!赤こそが至高なのだ!そなたは余だけを想えばよい!」
「うむ、わかればよいのだ。……む?何故奏者がここにいるのか知りたいのか。ここは道半ばにして陥落した奏者の魂を導く場。余の寛大さによりその後悔をやり直す座。ぶっちゃけると選択肢ミスった奏者の救済場だ!……何故余がこのようなポジションなのだ。余の場所は奏者の隣こそが相応しいというのに……ぶつぶつ……」
「まぁ、よい。今はそなたを助けるが先。まずは、そうだな……奏者の第一の死因を教えよう。それは――」
「余をサーヴァントに選ばなかったからだ!」
「余はずっと待っておったのだぞ。奏者に会うときには、身を清め、服飾を飾り、万感の想いを持って逢瀬を果たすことを望んでいたというのに、よりにもよってあのような化生を選ぶなど!最初の選択からして失敗していると言えよう!」
「せめてあのような訳のわからぬ化生ではなく、アーチャー……は、赤が余と被っているからダメ。キャスター……は、あの女狐が余の奏者と二人きりなど考えられぬ、よってダメ。やはり、奏者のサーヴァントは余こそが相応しい!」
「なに?選択肢がバグってた?……むぅ。そこは余への想い、その……あ、アイ……でどうにかすべきだろう!べ、別に選ばれなかったのが奏者の意思でなくて嬉しいわけではないぞ!えぇい、微笑ましく眺めるな!でももっと頭を撫でるがよい!」
「しかし、そうか。奏者の意思ではなかったのだな。うむ。バグってなければ【剣を携えた、男装の少女】を選んでいたのだな。ならばよし」
「……奏者よ、何故目を逸らす。こちらを見よ」
「そ、そんなに真っ直ぐ見つめるな……そんなに情熱的に見られては、その……少しばかり恥ずかしいではないか……む、今、誤魔化せたぜチョロイ、みたいな顔をしなかったか」
「そうか、余の気のせいか。すまぬ、そなたに会えて些か浮き足立っておったようだ。許せ……む、今、まっすぐな思いに良心が痛むヤメテー、みたいな顔をしなかったか」
「……少しばかり気になるが、まぁよい。では、次に直接的な死因、致命的な失敗を教えよう。それは――」
「欲にまみれたからだ!」
「小娘の、その……ごにょごにょ――を見た程度で動揺するなど!よいか、あの小娘に気をやったから死んだのだ。あの小娘に気をやったから死んだのだー!大事なことだから2回いったぞ。そもそも何故、あやつは穿いておらぬのだ!あれはファッションなのか?粋なのか?奏者があれが好みだというのなら、余も検討してやらぬことはないぞ!」
「……こほん。つまりは、奏者の油断が死因の一つだな。未だ決戦の時ではないといえ、あそこは敵対者しかおらぬのだ、注意をしすぎるということはない。努々忘れるな」
「それから、もう一つ。サーヴァントの能力不足だな」
「いや、戦闘力としてはあの化生はかなりの上位……最上位クラスにあると言ってもよいだろう。しかし、戦闘者としての技量は最低だ。あの化生は自身の能力だけでごり押すタイプだな。正面からでは強いが、奇襲や罠には滅法弱い。と、いうよりも奇襲も罠も力で粉砕するタイプだな。故に搦め手に対して、あの化生自身が無事でもその周囲が無事とは限らぬ。そしてなによりも――守ることに適さぬ」
「アレは本質的に独りなのだ。その力も在り様も、元々はただ独りであるように、孤高であれと造られている。故に、誰かと共に戦う、それ事体が苦手なのだろう」
「マスターと共に闘う月の聖杯戦争との相性は最悪だな。戦場に守るべき者が必ずいる状況。あの化生が最も苦手とする状況だろう。あれ単独ならば勝利も容易いだろうが……」
「……奏者よ、今からでも遅くは無い。もう一度初めから、余と――」
『それはあたしのにゃー!』
「む!化生め、魂の座に叫びを木霊させるなど、どういう了見だ。そもそも余と奏者の語らいを邪魔するなど――む、なんだ奏者よ」
「……そうか……手を掴んでくれたあいつを置いていくことなんかできない、か……ふ、ふふ。そうか、そうだな。それでこそ奏者だ。すまぬ。先の問いはそなたへの侮辱だな。忘れてくれ」
「そろそろ時間だな……奏者よ、数多ある可能性の一つとはいえ、会えて嬉しかった」
「今はまだ、戦う理由も求める願いも見つからないだろう」
「だが、そなたの歩む道程に無価値は無い。そなたの刻む軌跡に無意味は無い」
「全ては糧になる。そして、そなたの紡ぐ時間は真に正しいものであろう」
「……何故わかるのか、か……なに、簡単なことだ」
「余がそなたを信じているからな!故にそなたが間違っていることなどありえない!」
「ふふ、ようやく笑ったな。それでいい。余は……私はそなたの笑みが好きだ」
「では、な……いずれまた、可能性の向こうで会おう」
「例え道化の仮面を被ろうとも、その本質に変わりは無い。行け、奏者よ。そなたの歩みを祝福しよう」
「ここは朽ち果てた最果て、魂の座。そなたがここに来るということはあまり喜ばしいものではないが……」
「――足しげく余に会いに来るがよい!」
<あとがき>
タイガー道場的ななにかを目指した。
登場人物一人の全部セリフのみとか初めてだったので、ちょっとドキドキ。
こんな感じで死亡したら赤王劇場行きです。今後死亡イベントが起きたらここをsage更新するのでお楽しみに。
ただし――次回死亡予定はまだ決まっていない。