その日、いつものように魔法少女になり得る素質を持つ少女を探していたキュゥべえは21個の流れ星を見た。それはジュエルシードと呼ばれるロストロギアの一種で、それ一つで強力なエネルギーを秘めている結晶体だった。「このエネルギーは?」 その魔力エネルギーに気付いたキュゥべえは思わず足を止め、空を見上げる。遠目から見ても確かにわかる強大なエネルギー。それは自分たちが集めている魔法少女が魔女になる時に発生するエントロピーをも凌駕するものだった。 自分たちの知らない強大なエネルギーを発生する結晶体。それはエネルギーを集める目的のために動いている彼にとっては、大変興味深いものだった。幸い、流れ星が落ちたのは自分がいる場所からそれほど遠い場所ではない。そう考えたキュゥべえはすぐ様その方角へ向かった。 普段から魔法少女の素質を持つ少女を探しているキュゥべえにとって、同じようなエネルギーを発しているジュエルシードを見つけることなど造作もなかった。表面は青く、まるで宝石のように均等な形で加工されたそれは、一見するとただの小奇麗な石にしか見えない。しかしその内に秘められたエネルギーは膨大なもので、これ一つで並の魔法少女数十人分のエネルギー回収ノルマを達成できそうな代物だった。「どういうものかはわけがわからないけど、これほどのエネルギーを回収するチャンスを逃す手はないね」 キュゥべえはジュエルシードを口にするとそれを頭上へと放り投げる。そして背中の模様の中心に落とし、そのままジュエルシードを体内へと吸収した。 普段からキュゥべえはそうやって、ソウルジェムを浄化して汚れたグリーフシードをその器官でエネルギーへと変換していた。魔法少女から魔女になる時のエネルギーと比べると微々たるものだが、わずかなエネルギーも無駄にしない、そんな配慮が伺える行動だ。 しかしその行動が、彼の間違いだった。「えっ?」 キュゥべえはいつものエネルギーを吸収する感覚でジュエルシードを飲み込んだ。エネルギーの扱いについては何万年もの間、魔女にしてきた少女たち相手に行っている。その間にそのシステムは徐々に洗練され、無駄なく効率よくエネルギーを採取できるように変化していっていた。だからこそ、ジュエルシードも同じような感覚で吸収できると思っていた。 しかしキュゥべえはエネルギーの採取方法については知っていても、ジュエルシードの特性を知らなかった。 その結果、キュゥべえの身体は光に包まれた。 ☆ ユーノ・スクライアは焦っていた。自分が発見したロストロギア、ジュエルシード。それが次元航行船の事故で管理外世界に散らばってしまったのだ。発掘した自分だからわかる。ジュエルシードはとても危険なものだ。何も知らない人がむやみに扱えばどんな現象が起こるかわからない。 だから彼は単身、ジュエルシードがばら撒かれた第97管理外世界、現地名『地球』へとやってきた。運が良かったのか、すぐに発動前のジュエルシードを一個手に入れたユーノは、その日のうちにもう一個手に入れようと広域サーチをかけた。すると自分のいるすぐ近くの場所にジュエルシードが一つ落ちていることを発見した。幸いなことにまだ発動前のものだったこともあり、すぐに封印処置をしようとその場に向かうユーノ。しかし彼がその場にたどり着く前にそのジュエルシードは暴走した。「なっ!? こんなに早く暴走するなんて!!」 おそらく現地生物を取り込んでしまったのだろう。白い異形の怪物となったジュエルシードが、ユーノに向かって襲いかかる。しばらくその怪物から逃げ回るユーノ。なんとか隙を見つけて封印しようとするが、怪物の動きが予想以上に早く、まったく隙が見つからない。「こうなったら……」 そこでユーノは覚悟を決めた。怪物の正面に立ち、レイジングハートを構える。そんなユーノに向かって、怪物はまっすぐ突っ込んでくる。「許されざるものを封印の輪に! ジュエルシード、封印!」 展開した魔法陣と異形の怪物が衝突する。双方の魔力がぶつかり合う。しばらくの間、拮抗していたが、怪物はユーノの魔力に吹き飛ばされ、あたりに肉片を撒き散らしながら重い足取りでその場から逃げ出していく。 走ればすぐに追いつけそうな速度ではあったが、ユーノは怪物を追うことができなかった。先ほどの衝突でユーノ自身もダメージを受け、立っていることすら不可能だったからだ。なんとか追いかけようとするも、身体の方がついていかず、そのままそこで気絶するようにその意識を失った。【誰か、僕の声を聞いて。力を貸して。魔法の……力を】 力を振り絞る思いで、ユーノは最後にそう呟く。そして次の瞬間、ユーノの身体が光に包まれると、その姿は小さなフェレットの姿になっていた。 ☆「ふぁ~あ。なんか、変な夢、見ちゃった」 高町なのはは寝ぼけ眼を擦りながら、さっきまで見ていた夢を思い出していた。今まで見たこともない男の子と変な怪物が戦う夢。夢を見ることは多々あっても、こんな夢は初めてだった。ただの夢のはずなのに、妙に気になってしまう。「うーん」 なのはは身体を伸ばして一気に眠気を飛ばす。夢の内容は気になるけど、所詮は夢でしかない。もしかしたら今日の夜、夢の続きを見ることがあるかもしれないけど、それまでは気にしなくても良いかもしれない。そう頭を切り替えたなのはは、身支度を始めた。 ☆ 私立聖祥大附属小学校の三年生であるなのはは、いつものように学校の授業を受けた。今はそのお昼休み。なのはは親友のアリサ・バニングスや月村すずかと一緒に屋上でお弁当を食べていた。その時、今日の授業中に先生に言われたセリフを思い出していた。「このように色々な場所で色々なお仕事があるわけですが、みんなは将来、どんなお仕事に就きたいですか?」 将来の夢についての授業。今日はなのはにとって『夢』というものによっぽど縁のある日らしい。もっとも、すでになのはは朝見た夢のことなどほとんど覚えていなかったのだが……。「将来かぁ~? アリサちゃんとすずかちゃんはもう結構決まってるんだよね?」 たこさんウインナーを食べながら、なのはは二人に尋ねる。「うちはお父さんもお母さんも会社経営だし、いっぱい勉強してちゃんと後を継がなきゃ……ってぐらいだけど」「私は機械系が好きだから、工学系で専門職がいいなぁと思ってるけど」「そっかぁ、二人ともすごいよねぇ」 それはなのはの心からの言葉だった。自分と違い、二人の親友はきっちりと将来のビジョンが見えている。それがなのはにはどこか羨ましく、そしてとても凄いことのように感じられた。「でもなのはは喫茶『翠屋』の二代目じゃないの?」 なのはの両親である高町士郎と高町桃子は二人で翠屋という喫茶店を経営している。学校帰りの女の子や近所の奥様方でいつも大いに賑わっている海鳴市では評判の喫茶店だ。 そんな翠屋を継ぐのは確かに将来のビジョンの一つではある。しかしどこかはっきりとそう断言することができなかった。「やりたいことは何かあるような気がするんだけど、それがなんなのか、まだはっきりしないんだ。わたし、特技も取り柄も特にないし」「ばかちん!」 そう言うとアリサはレモンの切り身をなのはに向かって投げつける。そのアリサのいきなりの行動に驚くなのは。「自分からそういうこと言うんじゃないの!」「そうだよ。なのはちゃんにしかできないこと、きっとあるよ」「だいたいあんた、理数の成績はこのアタシよりいいじゃないの! それで取り柄がないとはどの口が言うわけ!」 アリサはなのはの口の中に手を入れると、それを両方から引っ張る。その突然の行動になのはは反応できず、その痛みから涙目を浮かべる。「だってなのは、文系苦手だし~、体育も苦手だし~」「ふ、二人とも、駄目だよ、ねぇったら」 最初はオロオロしていたすずかだったが、なんとか二人を止めようと声をかける。その頃には同じように屋上でお弁当を食べていた他の生徒たちの注目の的となってしまっていた。 そんな中、なのはは二人の親友に言われたことを心の中で反芻していた。(自分にできること、自分にしかできないことかぁ) 本当にそんなことが自分にはあるのだろうか? なのはは心の中でどこか引っかかりを感じていた。 ☆ 学校も終わり、なのははアリサとすずかと塾に向かっていた。「あっ、こっちこっち。ここを通ると塾に行くのに近道なんだ~」「そ、そうなの?」「ちょっと道は悪いけどね」 そう言ってアリサはその脇道に入っていく。なのはとすずかもアリサが言うのだから間違いはないだろうと特に疑問に思わずその背中についていく。 なのはは初めて入る道だったので、興味深そうに辺りを観察する。周囲には木々が生い茂っており、足もともアスファルトではなく砂利道。しかし日の光が届かないということもなく、また道幅もそれなりに広かったこともあり特に不安にならずに歩いていくことができた。「あっ?」 その時、なのははここが昨日見た夢に出てきた場所にそっくりであることに気づいた。さっきまで夢のことなど忘れていたはずなのに、それを鮮明に思い出し、思わずその場で足を止めてしまう。「どうしたの?」「なのは?」 そんななのはの様子に二人の親友は心配そうに声をかける。「うん、なんでもない。ごめんごめん」 その声に正気を取り戻したなのはは二人にかけて近寄り、心配をかけないように笑顔を浮かべる。「それじゃあ行こ」 その笑顔を見て安心したのか、先に歩き出すアリサとすずか。しかしなのはの心はとても穏やかじゃなかった。もしここが夢で見た場所だとするのなら、昨日見たフェレットや怪物もどこかにいるはずだ。それが気になったなのはは周囲に注意を向けつつ、二人についていく。二人はそんななのはの様子に気づくことなく、楽しげに談笑していた。【助けて】 その時、なのはの元にどこからか助けを呼ぶ声が聞こえる。「ねぇ、アリサちゃん、すずかちゃん、今、何か聞こえなかった?」「何か?」「何か、声みたいな……」「別に……」「聞こえなかったかな?」 二人がそうは言うものの、なのはにはその声がはっきりと聞き取れていた。もしかしたらもう一度聞こえるかもしれないと思い、なのはは周囲に耳を澄ます。【助けて】 案の定、再び聞こえてきた声。なのははその声が聞こえた方向に向かって駆け出す。そうして走っていくと、道の真ん中に苦しげな表情を浮かべた一匹のフェレットを見つける。フェレットはなのはに弱々しい表情を向ける。その首には赤い宝石のようなものがついたペンダントがかけられていた。なのははそんなフェレットをゆっくりと抱きかかえる。「どうしたのよなのは。急に走り出して」 そんななのはに後ろからアリサとすずかが追いついてくる。最初はいきなり走り出したことに文句をでも言ってやろうかと思っていたアリサ。しかしそれより先にすずかがなのはに抱きかかえられたフェレットに気付き、声を上げた。「えっ、動物? 怪我してるみたい」「うん、どうしよう?」「どうしようって、とりあえず病院?」「獣医さんだよ!?」「このあたりに獣医さんってあったっけ?」 三人はあわてながらもなんとかフェレットを助けようとする。そのことに気づいたフェレット……ユーノはこの人たちなら信用できるとなのはの胸の中で眠りにつくのであった。2012/5/14 初投稿2012/5/15 タイトルおよび、本文中の誤字および一部表現を修正2012/5/19 誤字および一部表現を修正2012/5/26 一部表現を修正2012/6/9 誤字修正2014/8/15 タイトルに【無印編】の表記を追加