翌日、高町家五人、月村家四人、そしてアリサの合計十人で海鳴温泉に向かった。人数の関係上、二台の車に別れて乗車して向かう。組み方は恭也を除いた高町家四人とアリサ、すずかの二人が一号車、忍と恭也、ノエルとファリンが二号車となる。仲の良い三人娘と恋人関係の忍と恭也を同一の車両にするのは当然なので、自然とそういう組み分け方になった。 その一号車の中、すずかは眠っていた。元来、夜の一族はその名前の通り、夜の方が活動しやすい。さらに昨夜の使い魔との戦闘の興奮もあり、ベッドに入ってもなかなか寝付けなかった。若干、明るくなってから帰ってきたこともあり、一睡もできなかったのだ。そんな状態で身支度をした彼女は、車に乗ったところでついに限界が訪れ、そのまま眠ってしまう。「すずかちゃん、昨日の夜、興奮して眠れなかったのかな?」「まさかー!? 子供じゃあるまいし」「にゃはは……、わたしたち、まだ子供だと思うんだけど……」 横に座っているなのはとアリサが、そんなすずかの寝顔を見ながらしゃべっている。彼女たちとしては、親友の一人がこんなに早い時間から寝てしまうなんて考えてもいなかった。「まぁ寝てるなら、それはそれで都合がいいわ。美由希さん、この車の中に油性ペンってあります?」「ア、アリサちゃん!? いくらなんでもそれは……」「こんな無防備に寝ちゃうのが悪いのよ! なのはも見てみなさいよ。すずかの寝顔」 すずかはとても気持ちよさそうに眠っていた。規則的に呼吸を繰り返し、良い夢でも見ているのか、口元がだらしなく緩んでいる。「こんな気持ちよさそうに寝ちゃってさ。悪戯してくれと言わんばかりじゃない」「そ、そうだね。……じゃなかった。駄目だよ、寝ている顔に落書きなんかしちゃ!?」 一瞬、説得されかけたなのはだったが、すぐにその過ちを反省し、アリサを止めようとする。「アリサちゃん、これでいい?」 美由希は自分のペンケースから油性ペンを取り出し、アリサに渡す。「お、お姉ちゃん!?」「さっすが、美由希さん。話がわかる~。とりあえず基本は額よね。なんて書こうかしら?」「やっぱり定番の『肉』がいいんじゃないかしら?」「お母さんまで何言ってるの!?」「桃子さん、なんで『肉』が定番なんですか?」「……ジェネレーションギャップって嫌だわ」 アリサの疑問の言葉に、桃子は少なからずショックを受けているようだった。その雰囲気を察した三人はなんとか話を逸らす。そうして運転中の士郎も含めた五人で、旅館に着くまで和やかに会話し続けるのであった。 ☆「すずかちゃんが夜中に外出してる?」「えぇ、どうやらそうみたいなの。しかも昨日は帰ってきたの、明け方みたいだったし」 一方、二号車の方では恭也が忍の口から相談事を聞かされていた。一週間ほどくらい前から、すずかが夜中に外出するようになったというのだ。一日だけなら心配ないが、それが一週間も続くとなると話は別だ。「どおりで眠そうな表情をしていたはずだ」 恭也は今朝、車に乗る前のすずかの様子を思い出す。何度も欠伸をし、瞼を擦っていた。その時はただ単純に早起きに慣れてないからと思ったが、朝帰りならほとんど寝ていないはずだ。きっと今頃、車の中で熟睡しているに違いない。「恭也、どう思う?」「……そうだな。これは確認なんだが、夜の一族が夜間の外出すること自体に、なにか特別な風習でもあったりするのか?」 忍から一通り、夜の一族について聞かされていた恭也だが、細かい点については知らないことも多い。夜の一族という名前から、「夜」というキーワードに何か意味があると考えてもおかしくない。「いいえ、そんなことはないわ。恭也には話したと思うけど、私たちは昼の間でも何の制限もなく活動できるのよ。そういった風習がまったくなかったわけじゃあないけど、それはあくまで昔の話。今は普通の人間と変わらない生活を送っているわ」「そうか。……ノエルやファリンは何か心当たりないか?」 後部座席に座っている二人の方を向きながら恭也は尋ねる。「私には特にございません。ファリン、あなたなら何か知っているのではない?」 すずか付きのメイドであるファリンなら自分の知らないことも知っているんじゃないかと、ノエルが尋ねる。「いいえ、お姉さま。わたしも特に心当たりはないよ」「ほんの少しでもいい。いつもと違う様子はなかったか?」 恭也にもなのはという歳の離れた妹がいる。美由希ぐらい近しい年齢なら異性とはいえ、まだ理解できる面もあるが、一回りも年齢が離れているとなると、なかなかそうもいかない。それは同性の忍でも同じだろう。だからこそ些細な手がかりが欲しかった。「そういえば……」「何かあるの? ファリン」「直接、関係あるかはわからないんですけど……すずかちゃん、この頃、独り言が多くなったような気がするんだよね」「独り言?」「うん。わたしが近づくとすぐに止めちゃうから何を話しているかわからないけど……」 独り言と聞いて、忍は思い出す。少し前、すずかが学校から帰ってきた時にぬいぐるみに話しかけていたことを。今、思えばそのすぐあとからすずかは外出を始めたような気がする。「独り言……か。確かにあまり関係なさそうだな」「いえ、もしかしたら関係あるかもしれないわ」 忍が何かを思いついたように呟く。「どういうことですか? 忍お譲様」「恭也も知っていると思うけど、裏の世界には人間以外にも様々な生物がいるわよね」「あ、ああ、俗に言う妖怪や物の怪と呼ばれる存在だろ?」 夜の一族と同様に、この世界には様々な生物が住んでいる。鬼や人狼、河童など恭也は一度も見たことないが、そういう存在が世界のそこらかしこに隠れ住んでいると忍に聞いていた。「それでね恭也、たぶんなんだけど、すずかが夜中に外出するのは幽霊の仕業なんじゃないかなと思うの」「幽霊だって!?」 忍の意外な言葉に恭也は驚きを隠せなかった。これが大学の友人の言う軽口ならただの笑い話だ。しかし夜の一族である忍が言えば無視できない。「正確にいえば霊魂っていうのかしら? この世に強い感情を残し死んでしまった魂や使いこまれた物に宿る精神体。普通の人間には見ることも話すこともできないけど、波長が合えば話すこともできるって、前に海鳴神社の巫女さんに聞いたことがあるわ」 迂闊だったと言わざるを得ない。夜の一族である忍たちのことを狙う人物は多い。そのため、彼女は屋敷内に常に警戒網を敷いていた。だがそれは目に見える存在に対してのみだった。鬼や物の怪ならそれに引っかかるが、幽霊ならそれに引っかからなくてもおかしくない。「でもまだそうだと決まったわけじゃないんだろ?」 あくまで忍が告げたのは彼女の推測だ。実際はもっと性質の悪い知的生命体に引っかかっているのだが、それを推理する情報はこの場にいる誰も持ち合わせていなかった。「……ところですずかちゃんにそのことを尋ねてみたのか?」「ま、まだよ。どう切り出せばいいのかわからなくて……」「それならまずは話を聞いてから結論を出せばいい。今夜にでも尋ねてみて、本当に取り憑かれているようならすぐに神社に連れていけばいいだろう。そうじゃなかったら、また相談に乗ってやるから」「そ、そうね。わかったわ。ありがとう、恭也」「ありがとうございます、恭也様」「ありがとうございます、恭也さん」 三人からお礼を受ける恭也。しかし彼女たちの表情はまだどこか硬い。「せっかくの旅行なんだ。忘れろとは言わないけど、楽しまなくちゃ損だろ? そんな顔をすずかちゃんに見せたら、それこそ不安がらせてしまうよ。ほら、笑顔笑顔」 恭也は何とか場を和ますために笑顔を浮かべる。それを見て次第に自然な笑顔を浮かべていく三人。それを見て一安心する恭也。(しかし幽霊か。本当にそうだったら俺には相談に乗るくらいしか手伝えることはないな) 恭也は思う。相手が実態を持っているのなら、御神の剣が通用するかもしれないが、幽霊ならばどう足掻いても通用しないだろう。(だが何もしないのは性にあわない。せめて旅行中ぐらいは、すずかちゃんが夜中に抜け出さないよう、気を配っておこう) あえて忍たちにそのことを伝えることはないが、恭也は心の中でそう思うのであった。 ☆ 杏子が起きて最初に目にしたのは、至近距離にいるキュゥべえの顔だった。風が吹いたら触れてしまいそうな至近距離に、杏子の頭は一気に覚醒する。「て、てめぇ、何してやがる!!?」「杏子が起きるのを待ってたんだよ」「だ、だからってそんな至近距離で待ってんじゃねぇよ! 恐いだろ!!」「酷いなあ。これでもボクは数多の魔法少女に『可愛い』って可愛がられる存在なのに……」「てめぇの顔のどアップが起き抜けに飛び込んできたら、誰だって驚くわ!」 杏子はキュゥべえの頭を掴み、壁に向かって全力投球する。顔面から壁に向かって飛んでいったキュゥべえだが、器用に身体を捻り衝突を免れた。「……杏子、いくらなんでもやって良いことと悪いことがあるよ」「はいはい。悪うございました。……んで、こんな朝っぱらから何の用だよ?」 そう尋ねつつも、杏子にはキュゥべえが何を目的でやってきたのか薄々わかっていた。「ジュエルシードを受け取りに来たのさ」「……持ってないもんは渡せないな」「嘘はよくないよ、杏子。ボクは知ってるんだ。キミがフェイトを騙してジュエルシードを手に入れたことをね」「…………」「なんで知っているんだって顔をしているね。簡単な話だよ。あの時、ボクも結界の中にいた。それだけさ」「……まだこいつは渡せねぇ」 誤魔化しきれないと判断した杏子は、素直に自分の持つジュエルシードをキュゥべえに見せた。「何故だい? キミはゆまを魔法少女にしたくないんだろう? ジュエルシードを渡せば、ボクは二度とゆまに契約を迫らないと約束したはずだ」「おまえはこいつを何に使うつもりなんだ?」 ジュエルシードは願いを叶える結晶体だ。その中には莫大な魔力を有している。そんなものをキュゥべえに簡単に渡してよいのだろうか? 渡したら大変なことになるのではないか? そんな嫌な予感をしていた。「……それはキミが知る必要のないことだよ」 あからさまに自分の目的を隠したこと。それが杏子の予感を確信へと変える。そもそも会うたびにゆまに対して契約を進めてきたキュゥべえが、ジュエルシードを渡すだけで契約をしないということ自体おかしい。契約を渋る少女に対しては諦めることもあるが、ゆまはむしろその逆。自分から魔法少女になろうとしている。それを諦めてまでジュエルシードを求めるキュゥべえに、杏子は不信感を募らせていたのだ。「ならなおさら、こいつを渡すわけにはいかないな」「……一応、理由を教えてくれないかい?」「簡単な話だ。これを渡したところで、てめぇがゆまに契約を迫らないという保証はない」 所詮は口約束である。破る気になれば簡単に破ることができる。もちろんそうなったら、キュゥべえを槍で貫くことにはなる。しかし抜け目のないキュゥべえのことだ。杏子の目を盗んでゆまに近づくことなど、簡単にできるだろう。現についさっき、あれほど至近距離に近付かれたことに気付けなかったぐらいだ。「……それを言われると、ボクにはどうしようもないよ。ゆまに二度と近づかないことはできても、杏子には使い終わったグリーフシードを回収するために会わなくちゃならないわけだし」 杏子に会いに来るということは、高確率でゆまにも会うということだ。その目の前で勧誘をしようとは思わないが、ゆまと定期的に会うことになる以上、杏子が不安になるのも仕方がないとキュゥべえは考えた。「でも、ボクにはどうしてもそれが必要なんだ。なんとかならないかい?」 ジュエルシードが一個手に入れば、キュゥべえのエネルギー回収ノルマはかなり進む。またライバル心からユーノには渡したくないという思いもある。魔導師であるフェイトを抱き込んで奪うよりは、魔法少女である杏子から貰うというのが自然な流れでもある。なにより一個でも手元にあれば、色々と調べることができるかもしれない。だからこそ、杏子が持つジュエルシードがどうしても欲しかった。「……強いて言うなら、あたしがもう一個か二個、ジュエルシードを手に入れるまで待てばやらないこともない」「それは本当かい?」「疑り深い奴だな。こんなもの、そう何個も持ってたら危ないったらありゃしないからな。自分の分とおまけにゆまの分があれば、あとはお前にやるよ」 もちろんこれは杏子の詭弁である。だがこうでも言わなければキュゥべえは引き下がらないだろう。 それにまったくの嘘というわけではない。杏子はキュゥべえがジュエルシードを求める理由次第では、別に渡しても良いと考えていた。そこに何か嫌な予感を感じたからこそ、渡さないのであって、理由が自分たちに害を成さないものなら、杏子は気前よく渡していただろう。 しかしキュゥべえはその理由を隠した。ならば少しでも時間を稼ぎ、その間にジュエルシードについて調べられるだけ調べればいいと考えた。それである程度はキュゥべえがジュエルシードを求める目的もわかるだろう。(大体、願いを叶える宝石ってのが胡散臭いんだよな。……キュゥべえと同じで) 杏子はじっとキュゥべえの姿を見る。ジュエルシードが欲しいというのは本当だろうが、その姿からは焦りというものを全く感じない。あくまでここまで欲しがるのは口先だけで、実は独自でジュエルシードを手に入れる方法も別に考えているのかもしれない。「わかったよ、杏子。キミならあと二個ぐらい、簡単に手に入れられそうだしね。ボクはゆっくりその時を待つよ」 キュゥべえは杏子に背を向ける。そして部屋の外に向かってゆっくりと歩いていく。「……だけどそれまでは、ゆまを魔法少女にしようとし続けるからね」 最後にそんな捨て台詞を残し、キュゥべえは杏子の前から去っていった。その捨て台詞に思わず反応し、部屋の外に出たキュゥべえを追いかけてやろうと思ったが、すでに廊下にはキュゥべえの姿はなかった。 ☆ 旅館に着いたなのはたちが最初に向かったのは温泉だった。別の町に観光に来ていたのなら、先に市内観光をしていたかもしれない。しかし同じ海鳴市で、また毎年のように訪れている高町家にとっては、すでに見慣れたもの。元々、骨休めが目的なので、最初に温泉に入るのは当然のことなのかもしれない。 だがユーノにとって、ここで予想外のハプニングが発生した。(な、なんでなのはたちと一緒に女湯に入ることになってしまったんだ!?) そもそもユーノはフェレットではない。今はフェレットの見た目をしているが、彼はれっきとした人間である。雄ではない、男の子なのだ。だから彼は男湯に入る者だとばかり思っていた。しかしなのはは執拗にユーノを女湯に誘ったのだ。それだけならまだ回避できた可能性がある。だがアリサやすずか、それに美由希までユーノのことを掴んで離さなかった。そんな状態でユーノは逃げることはできなかった。 現在、脱衣所でユーノは壁を向いている。決して後ろを振り向いてはならない。ユーノは頑なに素数を数え、現状を誤魔化そうとしている。 しかし否が応にもユーノの耳には、背後の姦しい声と布の擦れる音が聞こえてくる。それが彼の頭に浮かんでいる数字を吹き飛ばす。 考え方を変えれば、九歳の男の子が女湯に入るのは許容できる範囲だろう。よほどの事がない限り、十歳以下なら女湯に男の子が入っても問題だと思わないはずだ。 しかしそれは地球、もっと言うのなら日本での話だ。ユーノの済むミッドチルダでは、就業年齢が早い。それはその分、精神も早熟で成長することを意味する。ユーノ自身も発掘の仕事を行っていることから、それは容易に想像できるだろう。 一言で言えば、ユーノは「見た目はフェレット、中身は大人」という存在なのだ。理由はどうあれ大人の男が女湯に入るのは犯罪である。つまりはそういうことだ。【ユーノくん、温泉入ったことある?】 ユーノが葛藤していることに全く気付いてないなのはが、無邪気に話しかけてくる。【あ、うん、その、公衆浴場になら入ったことあるけど……】【えへへへ~。温泉はいいよ~】【ホ、ホント?】 なのはの言葉に思わず振り返るユーノ。そこに広がっていたのは、良く言えば桃源郷、悪く言えば目のやり場に困る光景だった。 最初に目に入ったのは忍とすずかの姉妹である。忍は実に大人らしい黒いレースのブラジャーをつけていた。今、まさにそのブラジャーを外し、乳房が外気に晒そうとしている。流石にそれを見てはまずいとユーノは反射的にすずかに目をやる。だが彼女は九歳だ。まだ胸に下着をつけるには早い。そのため、すでにその乳房は露わになっていた。ユーノの視線は、そのサクランボに釘づけになる。すでに膨らみかけた胸が、将来的には姉の忍と同じように大きな胸になることは確定的に明らかだった。 幸いなことにすずかも忍と同様、下腹部には白いパンツを穿いていたので、ユーノが一番大事な部分を見ることはなかった。だがこれ以上、見てしまわないようにと、ユーノは再び壁に目を向ける。しかし一度、掴んだ幸せを簡単に手放せないように、ユーノも背後で展開されている桃色の光景に魅了され、再びゆっくりと振り返る。故意か無意識かはわからないが、その方向は先ほどとは逆の方向だった。 振り向いた先にいたのは美由希とアリサである。しかもユーノが目撃したのは、ちょうどアリサが美由希の胸を揉みしだく光景だった。美由希の大きな胸が、アリサの手によってパン生地のように弄くりまわされる。それはユーノには刺激の強い光景だったが、目が離せずにいた。そうしていると、今度は美由希の反撃といわんばかりに、アリサのパンツを脱がしに掛かる。薄いピンク色のパンツが今、まさに目の前で脱がされそうになっている。しかしアリサはそこまで嫌そうな表情をしていない。(これはもしかして、見続けてもいいのかな? ……って、何を考えているんだ、僕は!) どんどん深みにハマっていくユーノは、悪魔のささやきに負けそうになったが、なんとか致命的な部分を見る前にその目を閉じた。 しかしこのままでは彼女たちの全てを目撃するのは時間の問題だろう。今ならまだ間に合う。この場から脱出するべきだ。ユーノは決意を新たに、なのはに声を掛けた。【な、なのは、僕はやっぱり――ギャアアアアァァァァ!!】 やっぱり男湯に入ると言い掛けたユーノだったが、その声に振り向いたなのはの生まれた時の姿を正面から至近距離で見てしまったことで最後までしゃべることができなかった。今日まで、なのはが自室で着替えも絶対に見ないようにしてきたのに、下着姿を通り越して全裸を見ることになるとは思いもよらなかった。【その、やっぱり、恭也さんと士郎さんと男湯の方に……】【えー、いいじゃない。一緒に入ろうよ~】 なのはは不満げな顔をして口にする。すでにユーノは身も心も限界だった。もはや彼は立つこともできず、その場にのたうちまわることしかできないでいた。「わぁ~、ファンタスティック」「すご~い、ひろ~い」 結局、ユーノにできる精一杯の抵抗は、ずっと目を瞑っていることだけだった。なのはの胸に抱かれながら、ユーノは女湯に突入した。背中に感じるなのはの肌の感触は気になるが、これ以上は見なければ問題ないと頑なに目を瞑り続けている。どうやら温泉の中にはなのはたち以外の人はいないのか、知らない声は聞こえてこない。それはユーノにとって、少しだけありがたい話であった。「お姉ちゃん、背中を流してあげるね」「ありがとう、すずか」「じゃあ、わたしも」「ありがとう」 すずかと忍、なのはと美由希が背中の流し合いをする話をしていると、ユーノはアリサに首筋を掴まれ、そのまま自分の胸へと抱き込んだ。「ふふふ~ん、じゃああんたはアタシが洗ってあげる」 その言葉を聞き、ユーノはぞっとする。いくらフェレット形態とはいえ、他人、それも同じ歳の女の子に身体を洗われるのは恥ずかしかった。女湯に入るだけならまだ許容できたかもしれないが、自分の大事な部分までアリサに触られることを想像したユーノはなんとかアリサの胸元から脱出しようとする。「心配ないわよ、アタシ洗うの上手いんだから」 それをただ単純に、動物特有の水で洗われるのを嫌っているだけだと勘違いしたアリサは、ユーノを安心させるためにそのような台詞を放つ。だがユーノにとっては上手い、下手は二の次なのだ。【な、なのは、助けて!】 思わずなのはに念話で助けを求めるユーノ。すでに美由希の背中を洗い始めていたなのはは、ユーノに向かって笑顔を向けた。【いいじゃない。せっかくだから洗ってもらいなよ。きっと気持ちいいよ~】 そしてその笑顔が、ユーノを絶望の淵へと追い込んだのだった。 ☆☆☆★★★☆☆☆★★★☆☆☆★★★追記 本記事を投稿する際、ネットの回線の調子が悪かったのか、同じタイトルで多重投稿される、中途半端に途中までの記事が上がるといった不具合がありました。 パソコンを再起動したら、4つも同じタイトルが投稿されてて驚いた。 再起動前はこちらで何度ブラウザを更新しても投稿された形跡はなかったのにorz おそらく初めに投稿してから10分もかからない内に直すことができたと思いますが、その10分の間に来た方に紛らわしい思いをさせてしまったことを、ここで謝罪申し上げますm(_ _)m2012/6/30 初投稿および追記追加