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No.33132の一覧
[0] 【無印完結・チラ裏から】もしも海鳴市にキュゥべえもやってきたら?【リリカルなのは×まどか☆マギカ】[mimizu](2014/10/15 23:22)
[1] 【無印編】第1話 それは不思議な出会いなの? その1[mimizu](2014/08/15 03:40)
[2] 第1話 それは不思議な出会いなの? その2[mimizu](2012/05/19 14:49)
[3] 第2話 魔法の呪文はリリカルなの? マギカなの? その1[mimizu](2012/06/24 03:48)
[4] 第2話 魔法の呪文はリリカルなの? マギカなの? その2[mimizu](2012/05/15 19:24)
[5] 第2話 魔法の呪文はリリカルなの? マギカなの? その3[mimizu](2012/05/19 14:52)
[6] 第2.5話 見滝原は危険がいっぱいなの? その1[mimizu](2012/05/23 19:04)
[7] 第2.5話 見滝原は危険がいっぱいなの? その2[mimizu](2012/06/02 12:21)
[8] 第2.5話 見滝原は危険がいっぱいなの? その3[mimizu](2012/12/25 18:08)
[9] 第3話 ライバル!? 新たな魔法少女なの! その1[mimizu](2012/06/02 12:52)
[10] 第3話 ライバル!? 新たな魔法少女なの! その2[mimizu](2012/12/25 18:39)
[11] 第3話 ライバル!? 新たな魔法少女なの! その3[mimizu](2012/06/12 23:06)
[12] 第3話 ライバル!? 新たな魔法少女なの! その4 [mimizu](2012/06/12 23:23)
[13] 第4話 激突! 魔導師vs魔法少女なの! その1[mimizu](2012/06/17 10:41)
[14] 第4話 激突! 魔導師vs魔法少女なの! その2[mimizu](2012/12/25 18:59)
[15] 第4話 激突! 魔導師vs魔法少女なの! その3[mimizu](2012/06/24 03:38)
[16] 第5話 海鳴温泉で大遭遇なの! その1[mimizu](2012/06/26 21:41)
[17] 第5話 海鳴温泉で大遭遇なの! その2[mimizu](2012/06/30 23:40)
[18] 第5話 海鳴温泉で大遭遇なの! その3[mimizu](2012/07/04 20:11)
[19] 第5話 海鳴温泉で大遭遇なの! その4[mimizu](2012/07/07 16:14)
[20] 第5話 海鳴温泉で大遭遇なの! その5[mimizu](2012/07/10 21:56)
[21] 第5話 海鳴温泉で大遭遇なの! その6[mimizu](2012/07/15 00:37)
[22] 第5話 海鳴温泉で大遭遇なの! その7[mimizu](2012/08/02 20:10)
[23] 第5話 海鳴温泉で大遭遇なの! その8[mimizu](2012/08/02 20:51)
[24] 第6話 錯綜し合う気持ちなの その1[mimizu](2012/08/05 00:30)
[25] 第6話 錯綜し合う気持ちなの その2[mimizu](2012/08/15 02:24)
[26] 第6話 錯綜し合う気持ちなの その3[mimizu](2012/08/15 19:17)
[27] 第6話 錯綜し合う気持ちなの その4[mimizu](2012/08/28 18:17)
[28] 第6話 錯綜し合う気持ちなの その5[mimizu](2012/09/18 21:51)
[29] 第6.5話 見滝原に現れた新たな魔法少女なの その1[mimizu](2012/09/05 01:46)
[30] 第6.5話 見滝原に現れた新たな魔法少女なの その2[mimizu](2012/09/09 03:02)
[31] 第6.5話 見滝原に現れた新たな魔法少女なの その3[mimizu](2012/09/15 05:08)
[32] 第6.5話 見滝原に現れた新たな魔法少女なの その4[mimizu](2012/09/22 22:53)
[33] 第7話 少しずつ変わりゆく時の中なの その1[mimizu](2012/10/17 19:15)
[34] 第7話 少しずつ変わりゆく時の中なの その2[mimizu](2012/10/31 20:01)
[35] 第7話 少しずつ変わりゆく時の中なの その3[mimizu](2012/10/31 20:13)
[36] 第7話 少しずつ変わりゆく時の中なの その4[mimizu](2012/11/23 00:10)
[37] 第7話 少しずつ変わりゆく時の中なの その5[mimizu](2012/11/23 01:47)
[38] 第8話 なまえをよんで…… その1[mimizu](2013/01/07 00:25)
[39] 第8話 なまえをよんで…… その2[mimizu](2013/01/07 00:33)
[40] 第8話 なまえをよんで…… その3[mimizu](2013/03/23 19:15)
[41] 第8話 なまえをよんで…… その4[mimizu](2013/03/29 19:56)
[42] 第8話 なまえをよんで…… その5[mimizu](2013/03/29 19:57)
[43] 第8話 なまえをよんで…… その6[mimizu](2013/04/06 18:46)
[44] 第8話 なまえをよんで…… その7[mimizu](2013/04/06 19:30)
[45] 第8話 なまえをよんで…… その8[mimizu](2013/04/06 19:31)
[46] 第9話 キミが望めばどんな願いだって その1[mimizu](2013/05/12 00:16)
[47] 第9話 キミが望めばどんな願いだって その2[mimizu](2013/05/12 01:08)
[48] 第9話 キミが望めばどんな願いだって その3[mimizu](2013/05/28 20:13)
[49] 第10話 ごめんね。……そして、さようなら その1[mimizu](2013/09/22 23:21)
[50] 第10話 ごめんね。……そして、さようなら その2[mimizu](2013/09/22 23:22)
[51] 第10話 ごめんね。……そして、さようなら その3[mimizu](2013/09/22 23:24)
[52] 第10話 ごめんね。……そして、さようなら その4[mimizu](2013/09/22 23:25)
[53] 第10話 ごめんね。……そして、さようなら その5[mimizu](2013/09/22 23:26)
[54] 第10話 ごめんね。……そして、さようなら その6[mimizu](2013/09/22 23:28)
[55] 第10話 ごめんね。……そして、さようなら その7[mimizu](2013/09/22 23:28)
[56] 第10話 ごめんね。……そして、さようなら その8[mimizu](2013/09/22 23:29)
[57] 第11話 わたしはアリシア その1[mimizu](2013/10/06 18:04)
[58] 第11話 わたしはアリシア その2[mimizu](2013/10/06 18:21)
[59] 第11話 わたしはアリシア その3[mimizu](2013/10/20 23:56)
[60] 第11話 わたしはアリシア その4[mimizu](2013/11/24 18:21)
[61] 第11話 わたしはアリシア その5[mimizu](2013/12/07 17:17)
[62] 第11話 わたしはアリシア その6[mimizu](2013/12/13 22:52)
[63] 第12話 これが私の望んだ結末だから その1[mimizu](2014/04/01 17:34)
[64] 第12話 これが私の望んだ結末だから その2[mimizu](2014/04/01 17:34)
[65] 第12話 これが私の望んだ結末だから その3[mimizu](2014/04/01 17:35)
[66] 第12話 これが私の望んだ結末だから その4[mimizu](2014/04/01 17:36)
[67] 第12話 これが私の望んだ結末だから その5[mimizu](2014/04/01 17:41)
[68] 第12話 これが私の望んだ結末だから その6[mimizu](2014/04/12 02:18)
[69] 第12話 これが私の望んだ結末だから その7[mimizu](2014/04/24 19:20)
[70] 第13話 それぞれの旅立ち、そして世界の終わり その1[mimizu](2014/05/04 02:13)
[71] 第13話 それぞれの旅立ち、そして世界の終わり その2[mimizu](2014/05/19 00:31)
[72] 第13話 それぞれの旅立ち、そして世界の終わり その3[mimizu](2014/07/31 22:10)
[73] 第一部 あとがき[mimizu](2014/07/31 17:05)
[74] 第二部 次回予告[mimizu](2014/07/31 17:07)
[82] 番外編1 魔法少女さやかちゃんの日常 前編[mimizu](2014/09/16 20:40)
[83] 番外編1 魔法少女さやかちゃんの日常 中編[mimizu](2014/09/16 20:40)
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[33132] 第8話 なまえをよんで…… その4
Name: mimizu◆6de110c4 ID:ab282c86 前を表示する / 次を表示する
Date: 2013/03/29 19:56
 それから五日、管理局は順調に魔女を駆逐し、それと同時にジュエルシードの回収を進めていた。管理局がこの五日で手に入れたジュエルシードの数は三個。幸いなことにそのいずれもが魔女に吸収されることなく、単体で暴走したものだった。ジュエルシードの暴走体は魔女と戦い続けた管理局にとって、その回収は拍子抜けするほどに楽に行えるようになっていた。

 だが裏を返せば、それほどまでに魔女との戦いが苛烈を極めていたということだ。一日に管理局が相対する魔女の数は十数体。いくら退治しても次の日には同じ場所に別の魔女がいるという混沌とした状況。武装局員はもちろん執務官のクロノや魔女退治には慣れているはずの杏子でさえ、幾分かの苦労を伴うものだった。

 クロノ班と杏子班という二つのグループに分けて行われた魔女退治。それぞれをリーダーとして、それに付き従うように数人の武装局員と合同で行われた魔女狩りは、その性格の違いが色濃く出るほど、戦術の取り方に違いがあった。

 クロノの方は局員と協力して魔女との戦いを行っていた。といっても、極力はサポートでクロノが前に出て戦おうとすることはほとんどなかった。それはリンディの指示があったからだ。いずれ遭遇する可能性のあるジュエルシードと取り込んだ魔女。その戦いに備えてできるだけクロノの力を温存しておきたかったのだ。

 彼についた局員の多くは、その助けを借りてやっと魔女を倒していた。初めのうちは魔女に圧倒されっぱなしの武装局員たちであったが、次第に魔女の風貌にも免疫がついてきたのか、その戦い方が洗練されていった。今ではクロノがほとんど手を出さなくても魔女を倒せるほどに成長している者たちもいた。

 そんなクロノとは逆に、杏子は自分を戦いの中心に置いた。武装局員のサポートを受けつつも、矢面に立つのは自分だけで実質ほとんど一人で戦っているようなものだった。そのためクロノに比べてその決着のほとんどは早くつき、相手によっては武装局員がまったく手を出すことなく片付けることもあった。

 最初はそのような戦い方をしていた杏子たちだったが、ある時からそれは劇的に変化するようになる。それは何戦目かの魔女との戦いの時に杏子が隙を突かれ、攻撃を受けてしまいそうになった時のことだ。しまったと思った時にはもう遅い。その回避不可能な攻撃を杏子はダイレクトに受けてしまうことを覚悟した。だが杏子の身体に痛みが襲ってくることはなかった。それは同行した管理局員がその攻撃を魔力弾で撃ち落としたからであった。

 そうして戦いの中で助けられた杏子は、少しずつではあるが管理局員のサポートを頼るようになった。自分は攻撃に専念し、周りのサポートで相手の攻撃を防ぐ。自分を中心に置いた戦いには変わりないが、そのスタンスはまるで違う。周りの助けを信じているからこその戦い方。その信頼に応えるために全力を尽くそうとする管理局員。そうした信頼関係が生まれ、いつしか杏子はアースラ内で誰かとすれ違うたびに声を掛けられるようになっていた。

「杏子殿、お疲れ様です。この後、もしよろしければ一緒に食事でもいかがですか?」

「わりぃな。もう食事は済ませたんだ。また今度な」

 今もこうして廊下ですれ違った局員に食事に誘われた杏子だったが、それを丁重に断り、真っ直ぐ自室に戻ると、そのままシャワールームに直行する。そうして熱湯を頭から浴びながら、思考を巡らした。

 この五日で杏子は数え切れないほどの魔女を倒してきた。いくら数人のチームで戦ってきたとはいえ、この短時間でこれほどの魔女と相対した経験は杏子にはない。おかげで一年ぐらいなら魔女と戦わずに済んでしまうほどのグリーフシードを手に入れることはできた。

 だがその疲労は確実に彼女の中に蓄積されていた。いくら倒しても海鳴の魔女は一向に減らない。むしろ日を追うごとにその気配は増えてきているとさえ思える。

 その理由は実に明白だ。グリーフシードはソウルジェムの穢れを浄化するだけではなく、放っておけばそこから魔女が生まれてしまう。今の海鳴市には管理局を総動員しても倒しきれないほどの魔女が集まっている。それらの魔女がグリーフシードを生み、そこから魔女が孵る。外から来る魔女と中から生まれる魔女。そのどちらもが通常では考えられない数なのだ。いくら倒してもその数が減ったと感じられないのは当然だろう。

(ゆまは無事だよな)

 だからこそ杏子はゆまの身を案じずにはいられなかった。フェイトの元にいればある程度の安全は保障されるだろうが、海鳴市の状況を鑑みるにそう楽観できるものではない。できることなら早いところフェイトと密会し、ゆまを安全な場所まで避難させる必要があった。

 しかし今の状況では杏子が単独でゆまたちの行方を探ることができず、またフェイトも管理局を警戒して自分の前に出てくる可能性は極めて低い。一応、魔女と戦う前と結界が解けた後にゆまとすずか、そしてキュゥべえにはテレパシーで声を掛けるようにしている、しかし未だに誰からも返答が来ない。近い場所にいないのか、それとも意図して返事をしていないのかはわからないが、これでは完全な八方塞がり。こうなるともう、管理局の捜査網にフェイトが引っかかってくれるのを待つしかない。

 シャワーを浴び終えた杏子は、部屋着に着替えてベッドに横たわる。そしてそのままうとうとと、意識を沈めていく。せめて夢の中だけでも久しぶりにゆまと会いたい。そんなことを思いながら、眠気に全てを委ねていった。



     ☆ ☆ ☆



 この五日でフェイトが手に入れたジュエルシードの数は二個。実際に反応を見つけられた数は五個だったが、その内の三個はフェイトが回収に向かった時にはすでに回収されてしまっていた。管理局の手によるものということはわかってはいるが、それでも歯がゆく感じずにはいられない。

 現在、フェイトが手に入れたジュエルシードは全部で七個。プレシアから事前に聞かされているジュエルシードの個数と比べてその数は三分の一。プレシアの望む願いを叶えるためにいくつ必要なのかはわからないが、それでも多いに越したことはないだろう。だからフェイトはさらに捜索範囲を広げるために、探査魔法を発動しようとする。

「フェイト、一端帰って休もう」

 だがそれをアルフが止めた。すでにフェイトは一晩中、ジュエルシードの捜索に時間を当てていた。こんな状態で管理局に見つかれば一溜まりもないだろう。

「だけどアルフ、わたしは母さんに……」

「ゆまも心配して待っているはずだよ」

 フェイトの言葉を遮るようにしてアルフが告げる。その台詞にフェイトは言葉を詰まらせる。すでにフェイトとアルフは丸一日、隠れ家に戻っていない。そこで一人待たせているゆまに申し訳ない気持ちがないと言えば嘘になる。杏子と離れ離れになりすでに五日。最初に取り乱して以降、ゆまからは一度もその話題に触れてこない。

 一応、ジュエルシードを探すと同時に杏子のことも探すフェイトだったが、その姿を捕えることは未だできていない。こうなると杏子は管理局に囚われている可能性も考えなければならない。そうなった時、ゆまになんと説明すれば良いのか。

「ごめんアルフ、やっぱりまだ帰れないよ。杏子も探さないといけないし」

 だがまだそうと決まったわけではない。あの杏子がそう安々と捕まってしまうなど、フェイトには想像できない。だからフェイトは疲れた身体に鞭を打ち、次なる捜索場所へと向かって飛んでいった。そんなフェイトを支えるように、アルフもまた彼女に付き従うのだった。



     ☆ ☆ ☆



 小学校に向かうバスの中、多くの生徒が楽しげに日々に起きた他愛のないことで話に花を咲かせていた。しかしその一方で、なのはとアリサは暗い面持ちで考えごとに耽っていた。二人の間にほとんど会話はない。それでも彼女たちは互いに何を考えているのか手に取るように分かり合っていた。

 それは五日前に織莉子に言われたことだ。魔法少女はいずれ魔女になる。その衝撃的な事実を突きつけられ、その場にいたものは一様に動揺し、絶望に悲観した。唯一、すずかを救う方法も、代わりになのはを犠牲にするという手段しか提示されなかった。

 魔導師としてすでになのはは戦いの中にその身を置いている。そんな自分が魔法少女になったところで戦う相手が変わるだけである。魔女になるのは怖いがすずかを救うことができるのなら、それでも構わないとなのはは思っていた。

 だがそれをその場にいた全員から止められた。口々に理由を告げ、別の方法を考えようとなのはを諭す一同。表面的にはその言葉に納得したなのはだったが、その内心ではその言葉は一切、彼女の心に響かなかった。

 それはなのはが実際に変わっていくすずかを見たからである。今でも脳裏に焼き付いて離れない狂気の笑みを浮かべるすずかの姿。あの時はなのはの言葉ですぐに持ち直すことはできたが、その後乱入してきたクロノに対して向けられたすずかの瞳は酷く冷たい印象を受けた。

 すでにすずかは変わってしまった。なのははそう思わずにはいられない。根柢には心優しい穏やかなすずかの心が残っているかもしれない。だけどあの時見たすずかの狂気。あれを消し去るにはもう言葉だけでは足りないだろう。だからこそなのははあの場でレイジングハートを向け、すずかと戦う道を選んだのだ。それが言葉よりもすずかの凍りきってしまった心を溶かせると信じたから。

 だけどその機会はもう失われてしまった。この五日、すずかは一向に忍たちの元に帰って来ない。なのはたちも必死に探し続けるが、それでも手がかりさえ見つからない。クロノや杏子に頼んで、管理局の方にもすずかの捜索は手伝ってもらっているが、未だに見つかったという連絡はない。

 果たしてこのまますずかが見つかるまで手をこまねいているだけでいいのだろうか。今のうちに自分にできることを全てやるべきなのではないか。

「……馬鹿なことを考えるのは止めなさいよ」

 そんななのはの思考に待ったを掛けるようにアリサが告げる。

「そりゃ織莉子が言ったことはたぶん本当だと思う。あんたがそのキュゥべえとかいう奴と契約すれば、すずかは魔女にならずに済むかもしれない。だけどね、その代わりにあんたが魔女になったらそれこそ本末転倒でしょうが」

「で、でも、アリサちゃん」

「でもも待ったもなしよ。その話はあの日、決着がついたでしょうが! 一番すずかのことを心配しているはずの忍さんでさえ、あんたのことを止めたのよ。その意味を考えなさい」

 言いながらアリサは視線を窓の外に向ける。自分の苛立っている表情をなのはに見せないように。

 アリサは悔しかった。なのはとすずかが抱えていた秘密。それを知ることはできたが、何の力にもなれていない。今のアリサにできることと言えば、なのはが無茶をしないように見張ることぐらいだ。

(……どうしてなのはだけなのよ! ――なんであたしじゃダメなのよ!!)

 もしなのはの代わりに自分がすずかを救えるのなら、アリサは惜しげもなくその身を差し出そうとするだろう。なのはと同じように。

 だからこそ、今のなのはの苦しみが手に取るようにわかる。すずかを救いたくてたまらないのに、救うことで周りの人を悲しませるという状況。あちらを立てればこちらが立たず。そのような天秤に掛けられているなのはの姿を見るのは辛い。代わってあげられるのなら、すぐにでも変わってあげたかった。

「うん、ごめんね、アリサちゃん。心配掛けて」

 その言葉にアリサはなのはに目を向ける。必死に浮かべた作り笑い。違和感しかない笑みを浮かべるなのはの姿は、とても痛々しいものだった。

「……わかればいいのよ、わかれば。ところで話は変わるけど――」

 だからアリサはそれ以上、突っ込んだことは言わずに話を逸らす。アリサを心配させまいとしたなのはの配慮。それに気付かないフリをして、逆になのはを気遣うように話題を変えていく。そうしてぎこちないながらも徐々に二人の間に笑顔が戻っていった。



     ☆ ☆ ☆



 小学校に入っていく送迎バスの姿を、すずかは物陰から眺めていた。十日ほど前まで、自分もあのバスに乗って小学校に通っていたことを今ではとても懐かしく思う。

 この五日間はすずかにとってとても長い日々だった。やっていることは魔女を狩るというただそれだけの単調な行動。だが魔女を斬り捨てる度に自分が自分じゃなくなっていくのを実感する。まるで強さに取り憑かれた鬼。そんな自分の変化に戸惑い、何度も絶望した。

 それでもすずかが魔女になりきらなかったのは、奇しくも織莉子の記憶を奪ったからだろう。

 織莉子が視た未来。それにより判明した滅ぶ世界。それを回避するためにすずかはまだ、魔女になるわけにはいかなかった。

 回避するだけなら織莉子の考えている方法でも可能だろう。だが彼女はすずかにとって大切なものを犠牲にそれを成そうとしている。それだけではなく、場合によっては世界以外の全てを犠牲にしてでも、彼女は救おうとするだろう。

 世界を守るためなら何でも犠牲にするという織莉子の考えは、今のすずかの行動理念と反する。仮に織莉子の策が成され、世界が救われたとしても、そこに生きる人がいなくなっていれば、それは滅びと何ら相違ない。

 だから少なくとも、Xデーとも言うべき破滅の魔女が生まれるその日までは、すずかは生き残らなければならなかった。

「あっ……」

 そんなことを考えていると、バスの中からなのはとアリサが降りてくる。数日ぶりに見る二人の親友の顔は、すずかの記憶と比べて少しだけやつれているように見えた。特になのははその具合が顕著で、見るからに寝不足といった隈が目の下にできていた。

 二人はそれを周りに同級生や教員には悟らせないように、務めて明るく挨拶をしながら校舎の中に入っていく。その光景を見て、自然と涙が溢れてくる。

 少し前まであの中にすずかもいた。ごく当たり前に、ずっと続いていくと信じて疑わなかった日常として。だがもうすずかは二人の間に入ることはできない。魔女でなくてもすでにすずかはもう人間ではないのだ。それを確かめるかのようにすずかはゆっくりと目の前の日向に手を伸ばす。日陰の中から突き出たすずかの手は、鉄板の上で焼かれる肉のような音を立てながら煙を上げていく。その痛みに耐えることもせず、彼女はその手を元の日陰に引っ込める。

 すずかは確かに強くなった。人間離れした身体能力と魔力、さらには戦況を把握する頭脳も自身の願いと戦いの経験によって強まった。だがその代償として彼女は夜の一族の本質的な遺伝子を目覚めさせた。



 ――そう、伝承の中にしか存在しない、本物の吸血鬼という存在になったのだ。



 それ故に今のすずかはもう、日の元を歩くことすら叶わない。夜の一族という名の通り、日の元ではその力に大きな制限を掛けられてしまう。日の届かない場所でならその能力を存分に発揮できるが、それでも不自由なことにはこの上ない。

 この強さを求めたのはすずか自身である。人間でもなく魔法少女でもなく魔女でもない。吸血鬼という存在になることで力を得て、平和を守ろうとした。そこに後悔がないと言えば嘘になるが、それでも今はこの力が必要だ。世界を、そしてなのはたちを守るために。

 すずかは涙を拭い、気を引き締める。織莉子は「なのはたちは授業中に魔女の結界に取り込まれる」と言っていた。しかしそうなる保証はどこにもない。「未来はほんの些細なことで変化する」。これも織莉子の言である。もしかしたらこの瞬間にでも魔女の結界が発生する可能性もあるし、すでにこの五日間の間でこの場に現れるはずだった魔女を倒してしまっているかもしれない。後者なら何の問題もないが、もし前者なら今のように取り乱した状態ではまともに戦うことはできないだろう。

 だからすずかはいつ魔女が現れてもいいように、深呼吸をしながら精神を落ちつけていった。



     ☆ ☆ ☆



「それじゃあ織莉子、行ってくるね」

 ベッドで眠っている織莉子に声を掛けるキリカ。そこに返答はない。この五日間、キリカの献身的な介護虚しく、織莉子が目を覚ますことはなかった。

 初めは医者に診せることも考えた。だが織莉子が目を覚まさないのは心的要因であることは明白である。しかもその原因を作りだしたのは魔法少女だ。魔法少女の問題は魔法少女で解決した方がいい。それに織莉子のことをキリカは隅々まで知り尽くしている。だからこそ、手厚く看護すればすぐに目を覚ましてくれると思っていた。

 だが織莉子は目覚めることなく、今日を迎えてしまった。すずかが現れる場所を特定することができるようになってしまった。織莉子を一人残して行くのは心苦しくもあるが、今日というチャンスを逃せばすずかに復讐する機会は永遠に失われてしまうかもしれない。

「……ごめん織莉子。きっと織莉子はこんな私を許してくれないよね。でもさ、やっぱり許せないんだよね。私のとても大切でたった一人しかいない織莉子を傷つけたあいつをさ」

 キリカの目に黒い光が宿る。今でも蘇るすずかによって殺されかけた織莉子の姿。身体の自由を奪われ、高所から付き落とされ、刀を持って殺そうとした蝙蝠女。

 おそらく織莉子はすずかに手を出すことを許さないだろう。単純にキリカの身を案じてという意味合いもあるのだろうが、それ以上に世界の救済を成すために、彼女に下手なちょっかいを出すことを織莉子は躊躇うはずだ。

 だがキリカにとって世界の救済など織莉子が望んでいるから手伝っているに過ぎない。キリカにとって織莉子が全てであり、世界そのものなのだ。織莉子がいない世界などに存在価値はなく、それを奪うものがいれば例え織莉子が止めたとしてもキリカは許さないだろう。

 もちろん織莉子の気持ちを踏み躙るような真似を進んでするつもりはない。だから世界の救済に必要な人物の命は見逃すつもりである。だがすずかの力は世界の救済に必要なファクターではないことを、キリカはすでに織莉子から聞かされている。だから遠慮なく殺せる。

「安心してよ。私はあんな奴にもう負けない。だってあいつにないものを、私は持っているから」

 そう言ってキリカは眼帯で塞がれている右目を軽くなぞる。この五日の間にすずかはさらに強くなっているだろう。それが彼女の願いの性質。それでもキリカは本心から、もうすずかに負けることはないと信じていた。

「だから織莉子は私が帰ってくるのを待ってて。それで起きたらまたいつものように名前を呼んでくれたらそれだけで嬉しいな。それでまた二人だけのお茶会を開こう。ね、織莉子、約束だよ?」

 そう言ってキリカは立ち上がる。そして名残惜しそうにもう一度、織莉子の顔を目に焼き付けて、部屋を後にしていった。



     ☆ ☆ ☆



 すずかが気を引き締め直してから約四時間。時刻はもうすぐ正午を迎えようとしたところでそれは起きた。

「――みぃつけた」

 背後から感じる強烈な殺気と風を切る音。反射的に火血刀で防御した先には、鉤爪で斬りかかるキリカの姿があった。

「……キリカ、さん!?」

 突然のことを思わず戸惑いの声を上げるすずか。キリカに斬りかかられたことについてではない。攻撃を受ける寸前まで彼女の気配に気付けなかった。そのことに対してだ。

 すずかは力を振り絞り、キリカの身体を押し返す。しばらく鍔迫り合いにでもなるかと思ったが、キリカはそのすずかの力を利用する形で距離を取った。

「……キリカさん。一体何のつもりですか?」

「そんなの、殺すつもりに決まってるじゃん」

 すずかの問いにキリカは表情を変えずに答える。彼女がすずかを襲った理由はわかる。おそらくは五日前の意趣返し。ほぼ一方的に織莉子を痛みつけたことに対する復讐。それは容易に想像できた。

 しかし何故、このタイミングなのか? 織莉子の考えを読みとっていたすずかは、彼女がなのはたちの力を利用してこの世界を救おうとしていたことを知っている。だが放っておけば今日のうちに死んでしまう。だからすずかにそのことを知らせ、なのはの命を救おうとした。

 今日、この日になのはの命を救いたいということに関しては、すずかと織莉子の利害は一致しているはずだ。それなのにも関わらず、織莉子と一緒にいたキリカがその邪魔になる行動を取っている矛盾。それがわからなかった。

 そんな疑問を考える暇もなく、キリカは再びすずかに襲いかかる。その動きは五日前と同様に単調なものだが、その鋭さは格段に上がっていた。ここが自分の結界の中ではなく、真昼間だということを差し引いても、キリカの攻撃は早くそして重いものへと変貌していた。今のすずかにはその攻撃を受けることで精一杯だった。

(今はこんな奴と戦っている場合じゃないっていうのに――)

 心の中で毒づくすずか。こうしている間にも、魔女の魔の手がなのはたちの元に迫っているかもしれない。自分の結界を展開し、キリカごと取り込んでしまえばこの状況から打開することはできる。しかしそれがわかっていても、そうするわけにはいかなかった。

 魔女の結界はその性質上、内部の様子ならば例えどんなに離れた場所だろうとその様子を察知することはできる。だが外部、すなわち結界の外についてはまったく情報が入って来ないのだ。もしキリカと結界内で戦っている間に、別の結界になのはたちが取り込まれても、それを知ることができなくなる。今のすずかにとって、魔女の出現に備えることが一番重要なことなのだ。それを疎かにしてまで目の前の相手と戦うわけにはいかなかった。

「織莉子はいつも私に優しく微笑んでくれた。織莉子はいつも私の我儘に付き合ってくれた。織莉子はいつも私の想いに応えてくれた。織莉子はいつも私が寂しい時に抱きしめてくれた。織莉子はいつも私に甘えさせてくれた。織莉子はいつも私と遊んでくれた。織莉子はいつも私の気持ちを分かってくれた。織莉子はいつも私と一緒にいてくれた。織莉子はいつも私に――」

 一撃に込められるキリカの深い感情。その苛烈な攻撃にすずかは次第に耐えきれなくなり、一歩後ずさる。その瞬間、背中が焼けつくような痛みに襲われる。縮めていた翼の一部が日の光に晒されたのだ。日光を浴びた部分からは煙が昇り、溶けるように灰になる。

 その痛みでできた一瞬の隙、それをキリカは見逃さない。無防備になっていたすずかの首を斬り落そうと、容赦なく鉤爪を薙ぐ。

 だがそれがすずかの首に届くことはなかった。すずかはキリカの方を見ることなく火血刀を握っていない左腕を伸ばし、襲いくる鉤爪を素手で掴む。そしてそのままキリカごと力任せに遠くに投げ飛ばしたのだ。

 流石にそんなすずかの行動はキリカも予想していなかったのだろう。呆気に取られていたため受け身を取ることができず、そのまま地面に落下した。

「……………………はぁ~、キリカさん、いい加減にしてくないかな?」

 そしてすずかは一つ、大きなため息を吐く。そしてすずかは火血刀を右手から左手に持ち替えながら言葉を続ける。

「今の私はあなたと遊んでいる時間はないの。今の私にはなのはちゃんやアリサちゃん、それに学校の皆の守るっている大事な使命があるの。だからいつまでもあなたの復讐ごっこになんて付き合ってられない」

「なっ……、復讐『ごっこ』だって!?」

「えぇ、だってそうでしょう? あなたはまだ、魔女になってないじゃない。もしも織莉子さんが死んだのなら、あなたは絶対に魔法少女のままでなんかいられないもの」

 少し考えればわかることだ。織莉子から読みとった記憶の中にいるキリカは、完全に織莉子に依存していた。そんな彼女が織莉子の死に直面すれば、絶望せずにいられるはずがない。

「大方、記憶を奪われた時の反動で、意識を失ったままになっているんでしょ? 死人の復讐ならともかく、まだ生きてるなら私の相手なんかしてないで看病し続ければいいと思うけど?」

 本音を言えば、すずかもここでキリカを見逃したいとは思わない。あれだけの力を持つ魔法少女はこの場で始末しといた方がいいとは思う。だが今、優先すべきはなのはたちを守ること。目の前の魔法少女と戯れている事ではない。

「……ふざけるなよ。織莉子をあんな目に遭わした張本人のくせに!」

「ふぜけてないよ。キリカさんがどの程度、聞かされているかわからないけど、ここでなのはちゃんが死ぬことは織莉子さんも望んでない。そして私はそんななのはちゃんたちを助けるためにここにいる。そんな織莉子さんの計画をキリカさんの手で崩しちゃっていいの?」

「……そうだね。確かにお前の言う通り、なのはって子が死ぬのを織莉子は望んじゃいないし、私も望まない」

「なら……」

「でもね、裏を返せばそれってなのはって子が死ななければ何をしてもいいってことなんじゃないかな? 例えばこんな風にね」

 そう言ってキリカは指を鳴らす。すると周囲の景色がまるでガラスが割れるように崩れていく。そこから広がるのは市松模様の世界。地面も空も全てが黒と白のコントラストで描かれている無機質な空間。それと同時に先ほどまで感じられなかった負の魔力エネルギーを周囲から感じる。

 だが何より衝撃的だったのは、すずかの目に移る周囲の変化は、世界を彩る模様が変わっただということだ。その場にある建物や木々の形をそのままに、ペイントだけチェック柄に塗り替えられたような世界。もちろんその中には聖祥大付属小学校の校舎も含まれていた。

「これで織莉子の予言通り、あの小学校は魔女の結界に包まれた。でもここは私の結界の中だからなのはは殺さない。殺されない。尤もそれ以外の一般人がどうなろうと、私の知ったことではないけどね」

 その言葉を聞いて瞬時に駆け出すすずか。そして左手から滴り落ちる血を吸わせた火血刀を右手に持ち替え、そのまま赫血閃を放った。キリカの魔法は速度停滞。あくまで動きを遅くするだけで自分が早く動くことはできない。だからこそ、すずかは瞬殺の一撃を放った。だが……。

「遅いよ、吸血鬼」

 そう言いながらすずかの背に生えた一対の翼を串刺しにし、そのまま引き裂いた。

「――ッ!!」

 声にならない叫びをあげるすずか。だがそれと同時に疑問が湯水のように溢れ出す。結界を張ることができる理由はまだわかる。自分にだって同じことができるのだ。ならばキリカがそれをできたとしても、不思議に思う必要はない。

 だが先ほどの一撃は不可避のものだった。直接斬りかかったわけではないとはいえ、今のすずかが出せる全力の速度で放った赫血閃。それをキリカは難なくかわし、挙句の果てに自分の背に回り込み翼を切り裂いた。

「不思議そうな顔をしてるね、吸血鬼。冥途の土産に教えてあげるよ。どうしてこんなに私が強くなれたのかをさ」

 地に伏すすずかの顔を踏みつけながら、キリカは得意げに語る。

「ジュエルシードって名前、聞いたことない? どんな願いでも叶えてくれる異世界から現れた宝石」

 その名前を聞いて、すずかは目を見開く。なのはを戦いの中に巻き込んだ忌むべき宝石。すずかにとってそれは憎むべき対象とも言うべき存在だった。

「その顔は知っているって顔だね。ジュエルシードは全部で二十一個あるらしいんだけど、その全てに膨大な魔力が秘められてるんだ。でもその分、扱いが難しくて、通常の手段では望む願いを叶えることはできない」

 言いながらキリカは眼帯に手を掛け、強引に引っぺがす。本来ならば眼球があるべき場所、そこにギリシャ数字でⅩⅢと刻印された青白く輝く宝石が収められていた。

「だけどね、織莉子が未来視を何度も使って、その使い方が解明する未来を発見したのさ。言うならば未来の技術を逆輸入したってわけ。凄いよね、織莉子」

 まるで自分のことのように自慢げに語るキリカ。そんなキリカをすずかは忌々しいと思いながら眺めることしかできなかった。

「本当は時が来るまで、ジュエルシードの力は使わないようにって織莉子に言われていたんだけど、仕方ないよね。だって織莉子の愛の発見がなかったら、敵を殺すことができないんだから。……でも安心してよ、すずかが死んだらこの結界はすぐに解いてあげるから。お前は織莉子の敵だけど、なのはって子は織莉子が世界を救うための道具なんだからちゃんと壊さないで大事に仕舞っておかないとね」

 そうしてキリカはすずかを踏む力を強める。そしてそのまま踏み抜き、辺りにはすずかの脳漿がぶちまけられた。




2013/3/2 初投稿
2013/3/8 一部微修正
2013/3/29 一部描写&誤字脱字修正


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