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No.33132の一覧
[0] 【無印完結・チラ裏から】もしも海鳴市にキュゥべえもやってきたら?【リリカルなのは×まどか☆マギカ】[mimizu](2014/10/15 23:22)
[1] 【無印編】第1話 それは不思議な出会いなの? その1[mimizu](2014/08/15 03:40)
[2] 第1話 それは不思議な出会いなの? その2[mimizu](2012/05/19 14:49)
[3] 第2話 魔法の呪文はリリカルなの? マギカなの? その1[mimizu](2012/06/24 03:48)
[4] 第2話 魔法の呪文はリリカルなの? マギカなの? その2[mimizu](2012/05/15 19:24)
[5] 第2話 魔法の呪文はリリカルなの? マギカなの? その3[mimizu](2012/05/19 14:52)
[6] 第2.5話 見滝原は危険がいっぱいなの? その1[mimizu](2012/05/23 19:04)
[7] 第2.5話 見滝原は危険がいっぱいなの? その2[mimizu](2012/06/02 12:21)
[8] 第2.5話 見滝原は危険がいっぱいなの? その3[mimizu](2012/12/25 18:08)
[9] 第3話 ライバル!? 新たな魔法少女なの! その1[mimizu](2012/06/02 12:52)
[10] 第3話 ライバル!? 新たな魔法少女なの! その2[mimizu](2012/12/25 18:39)
[11] 第3話 ライバル!? 新たな魔法少女なの! その3[mimizu](2012/06/12 23:06)
[12] 第3話 ライバル!? 新たな魔法少女なの! その4 [mimizu](2012/06/12 23:23)
[13] 第4話 激突! 魔導師vs魔法少女なの! その1[mimizu](2012/06/17 10:41)
[14] 第4話 激突! 魔導師vs魔法少女なの! その2[mimizu](2012/12/25 18:59)
[15] 第4話 激突! 魔導師vs魔法少女なの! その3[mimizu](2012/06/24 03:38)
[16] 第5話 海鳴温泉で大遭遇なの! その1[mimizu](2012/06/26 21:41)
[17] 第5話 海鳴温泉で大遭遇なの! その2[mimizu](2012/06/30 23:40)
[18] 第5話 海鳴温泉で大遭遇なの! その3[mimizu](2012/07/04 20:11)
[19] 第5話 海鳴温泉で大遭遇なの! その4[mimizu](2012/07/07 16:14)
[20] 第5話 海鳴温泉で大遭遇なの! その5[mimizu](2012/07/10 21:56)
[21] 第5話 海鳴温泉で大遭遇なの! その6[mimizu](2012/07/15 00:37)
[22] 第5話 海鳴温泉で大遭遇なの! その7[mimizu](2012/08/02 20:10)
[23] 第5話 海鳴温泉で大遭遇なの! その8[mimizu](2012/08/02 20:51)
[24] 第6話 錯綜し合う気持ちなの その1[mimizu](2012/08/05 00:30)
[25] 第6話 錯綜し合う気持ちなの その2[mimizu](2012/08/15 02:24)
[26] 第6話 錯綜し合う気持ちなの その3[mimizu](2012/08/15 19:17)
[27] 第6話 錯綜し合う気持ちなの その4[mimizu](2012/08/28 18:17)
[28] 第6話 錯綜し合う気持ちなの その5[mimizu](2012/09/18 21:51)
[29] 第6.5話 見滝原に現れた新たな魔法少女なの その1[mimizu](2012/09/05 01:46)
[30] 第6.5話 見滝原に現れた新たな魔法少女なの その2[mimizu](2012/09/09 03:02)
[31] 第6.5話 見滝原に現れた新たな魔法少女なの その3[mimizu](2012/09/15 05:08)
[32] 第6.5話 見滝原に現れた新たな魔法少女なの その4[mimizu](2012/09/22 22:53)
[33] 第7話 少しずつ変わりゆく時の中なの その1[mimizu](2012/10/17 19:15)
[34] 第7話 少しずつ変わりゆく時の中なの その2[mimizu](2012/10/31 20:01)
[35] 第7話 少しずつ変わりゆく時の中なの その3[mimizu](2012/10/31 20:13)
[36] 第7話 少しずつ変わりゆく時の中なの その4[mimizu](2012/11/23 00:10)
[37] 第7話 少しずつ変わりゆく時の中なの その5[mimizu](2012/11/23 01:47)
[38] 第8話 なまえをよんで…… その1[mimizu](2013/01/07 00:25)
[39] 第8話 なまえをよんで…… その2[mimizu](2013/01/07 00:33)
[40] 第8話 なまえをよんで…… その3[mimizu](2013/03/23 19:15)
[41] 第8話 なまえをよんで…… その4[mimizu](2013/03/29 19:56)
[42] 第8話 なまえをよんで…… その5[mimizu](2013/03/29 19:57)
[43] 第8話 なまえをよんで…… その6[mimizu](2013/04/06 18:46)
[44] 第8話 なまえをよんで…… その7[mimizu](2013/04/06 19:30)
[45] 第8話 なまえをよんで…… その8[mimizu](2013/04/06 19:31)
[46] 第9話 キミが望めばどんな願いだって その1[mimizu](2013/05/12 00:16)
[47] 第9話 キミが望めばどんな願いだって その2[mimizu](2013/05/12 01:08)
[48] 第9話 キミが望めばどんな願いだって その3[mimizu](2013/05/28 20:13)
[49] 第10話 ごめんね。……そして、さようなら その1[mimizu](2013/09/22 23:21)
[50] 第10話 ごめんね。……そして、さようなら その2[mimizu](2013/09/22 23:22)
[51] 第10話 ごめんね。……そして、さようなら その3[mimizu](2013/09/22 23:24)
[52] 第10話 ごめんね。……そして、さようなら その4[mimizu](2013/09/22 23:25)
[53] 第10話 ごめんね。……そして、さようなら その5[mimizu](2013/09/22 23:26)
[54] 第10話 ごめんね。……そして、さようなら その6[mimizu](2013/09/22 23:28)
[55] 第10話 ごめんね。……そして、さようなら その7[mimizu](2013/09/22 23:28)
[56] 第10話 ごめんね。……そして、さようなら その8[mimizu](2013/09/22 23:29)
[57] 第11話 わたしはアリシア その1[mimizu](2013/10/06 18:04)
[58] 第11話 わたしはアリシア その2[mimizu](2013/10/06 18:21)
[59] 第11話 わたしはアリシア その3[mimizu](2013/10/20 23:56)
[60] 第11話 わたしはアリシア その4[mimizu](2013/11/24 18:21)
[61] 第11話 わたしはアリシア その5[mimizu](2013/12/07 17:17)
[62] 第11話 わたしはアリシア その6[mimizu](2013/12/13 22:52)
[63] 第12話 これが私の望んだ結末だから その1[mimizu](2014/04/01 17:34)
[64] 第12話 これが私の望んだ結末だから その2[mimizu](2014/04/01 17:34)
[65] 第12話 これが私の望んだ結末だから その3[mimizu](2014/04/01 17:35)
[66] 第12話 これが私の望んだ結末だから その4[mimizu](2014/04/01 17:36)
[67] 第12話 これが私の望んだ結末だから その5[mimizu](2014/04/01 17:41)
[68] 第12話 これが私の望んだ結末だから その6[mimizu](2014/04/12 02:18)
[69] 第12話 これが私の望んだ結末だから その7[mimizu](2014/04/24 19:20)
[70] 第13話 それぞれの旅立ち、そして世界の終わり その1[mimizu](2014/05/04 02:13)
[71] 第13話 それぞれの旅立ち、そして世界の終わり その2[mimizu](2014/05/19 00:31)
[72] 第13話 それぞれの旅立ち、そして世界の終わり その3[mimizu](2014/07/31 22:10)
[73] 第一部 あとがき[mimizu](2014/07/31 17:05)
[74] 第二部 次回予告[mimizu](2014/07/31 17:07)
[82] 番外編1 魔法少女さやかちゃんの日常 前編[mimizu](2014/09/16 20:40)
[83] 番外編1 魔法少女さやかちゃんの日常 中編[mimizu](2014/09/16 20:40)
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[33132] 第10話 ごめんね。……そして、さようなら その4
Name: mimizu◆0b53faff ID:ab282c86 前を表示する / 次を表示する
Date: 2013/09/22 23:25
 杏子とフェイト、戦う上でどちらをより警戒するかと問われれば、クロノは杏子だと即答する。純粋な魔力だけを見れば、フェイトの方が遙かに上だ。それでも杏子の方が驚異と思えるのは、彼女の魔力の運用法が素晴らしいからに他ならない。杏子は一の魔力で十を為す。アースラの廊下内に張り巡らされたバリケードも、規模とは裏腹に消費魔力はそこまで多くはなかっただろう。彼女はほとんど無限に槍を生み出すことができ、さらにその魔法の性質は幻惑。自分の得意な魔法の組み合わせであるが故に、彼女の消費した魔力は微々たるものだったはずだ。

 さらに杏子がこの一週間、アースラで共に暮らしていたことも彼女を警戒する大きな要因だ。共に魔女を倒しにいくことはそこまで多くはなかったが、それでも全くなかったわけではない。また何度か模擬戦も行う中で、互いの手の内をいくつか見せてしまっている。もちろん全てを見せたというわけではないが、それは杏子も同じだろう。だからこそ、クロノは杏子の動きに細心の注意を払っていた。

 しかしそれでも杏子はあくまで魔法少女。魔法少女は基本的に空を飛べない。彼女たちの戦いの舞台は閉ざされた魔女の結界の中である。結界内という四方八方が壁に囲まれた空間では、飛ぶ必要がそもそもないのだ。

 そして結界内とはいえ、ここは屋外。空を飛べぬ魔法少女が、空を駆ける空戦魔導師に勝てる道理などない。模擬戦の時は飛翔魔法を使うのを遠慮していたクロノだったが、実戦でそんな遠慮は無用の産物である。故にクロノは魔法少女には手の届かない上空で戦い、遠距離魔法で杏子を追い詰めていくつもりだった。そうなれば目下の相手はフェイトのみ。彼女の魔力量も恐るべきものではあるが、同じ魔導師である以上、純粋な技量で自分が劣っているとはクロノは露ほどにも考えていなかった。

「接近戦はあたしがやるから、フェイトは中距離から援護を頼む」

 しかしそんな安易なクロノの考えは、いとも簡単に崩れ去る。――杏子は今、その身を空に浮かべていた。それもただ身体を浮かべるだけに留まらず、まるで風になったかの如くクロノに迫り槍を振るう。それをクロノはS2Uやシールドを使って守ってはいるが、それでも驚きを隠すことができなかった。

「杏子、いったいいつの間にそんなに速く飛べるようになったんだ!?」

「そんなの一々覚えてねぇよ。ただ一つ言えるのは、これも努力の産物って奴だ」

 杏子が今、使用しているのは魔法少女としての魔法ではなく、魔導師としての飛翔魔法である。何故、彼女が魔導師の魔法を使えるのかというと、その理由は至極単純でクロノたち管理局に教わっていたからである。

 管理局に協力する上で杏子が提示した条件は三つ。一つは管理局の指示に従うかどうかの判断は杏子自身に任せること。管理局が恒久的に味方でいるのかわからない以上、この条件は杏子としては当然の主張だった。

 もう一つがなのはを戦いに巻き込まないこと。なのははゆまの道しるべになってくれた恩人だ。また彼女にはきちんとした家族がおり、戦う必要性など皆無なほどに幸せな日常を満喫している。魔法少女ならば別だが、そうでない以上、彼女がこれ以上、戦いの場に出てくることに抵抗を感じていた。

 そして最後の一つが魔導師の魔法を伝授してもらうことだった。自分の知っている魔法とは違う魔法体系。それを身につけることができれば、戦いの幅は確実に広がる。だからこそ、杏子はそんな管理局の魔法を盗めるだけ盗んでやろうと考えていた。

 もちろんミッドの魔法を全て使えるようになりたかったわけではない。すでに杏子の戦闘スタイルは完成している。そこに下手な魔法を混ぜ込んで、自分の持ち味を殺してしまうのは杏子としても望むところではない。

 だから彼女が望んだのは飛翔魔法とバリアジャケット生成、そしてミッドの幻影魔法の三種類であった。特に飛翔魔法に関しては、それだけで大幅に戦いの幅が広がり、それ以外にも有用性があると考えて、優先的に教わっていった。

 元々魔法を使い慣れていたこともあり、杏子はすぐに飛べるようになった。しかし空を飛ぶのと空戦をするのとでは、まるで違う。武具を使った攻撃に重さを持たせるには、地上で同様な動作をするだけでは足りず、平面的な視覚ではなく空間的な視覚を得ることができなければ、敵の攻撃を避けるのも難しい。管理局の空戦魔導師が陸戦魔導師に比べて少ないのも、そういった技術面での難しさが主な理由だ。

 しかしクロノに立ち塞がる杏子は、すでに飛翔魔法を完全に自分のものとしているようで、その攻撃にも確かな鋭さがあった。実際に杏子に飛翔魔法を教えていたクロノが知る限り、杏子は飛べるといってもこれほどの速度で飛ぶことはできなかったはずだ。今にして思えばそれが杏子の演技だったというのは明白だが、何とも恐れ入る話である。

 それでも彼女が飛翔魔法を覚え始めてからまだ一週間しか経っていない。そのため動きの端々に精彩さを欠き、ほとんど直線的な動きしか取れていない。だが今までの杏子の態度やチ戦い方を考えれば、そんな単純な動きはクロノを誘う罠であるという可能性も否めない。だからこそクロノは迂闊に杏子の隙を突くことができなかった。

 それに隙を突こうとしても、後方で控えたフェイトからの援護射撃にクロノの動きは阻害されていた。もしこれが杏子ひとりだったとしたなら、簡単に組み伏せることは可能だったが、空戦に慣れている魔導師が後ろに控えているということが、クロノを前に踏み込ませるのを躊躇わせていた。

 そんなクロノを杏子は攻め続ける。彼女お得意の幻影魔法、ロッソ・ファンタズマ。それは空を飛んでいようとも性能は変わらない。四人に増えた杏子は空を縦横無尽で駆け廻り、クロノを囲い込み、一気に畳みかけていく。分身はあくまで分身でしかないが、それでも視覚的に同時に攻められるというのは、それだけでプレッシャーになる。クロノはその場で旋回しながら杏子の追撃を回避し、一体ずつ確実にスティンガーを打ち込んでいった。

 スティンガーに当たった杏子の分身は、それだけで露となって消え去る。一体、二体、三体、四体。スティンガーに打ち抜かれた四人の杏子はそのいずれもが例外なく消滅した。だがはじめからそれが予想通りだったかのように、クロノは誰もいないはずの虚空を見つめて言い放つ。

「分身だけでは僕は倒せないぞ、杏子」

「……チッ、バレていたか」

「君のことだから、素直に正面から攻めるなんてこと、あり得ないと思っただけさ」

 クロノにとって予想以上の実力を見せつけた杏子だったが、それでも攻めきることはできなかった。杏子が管理局でクロノの戦い方を学んでいたように、クロノもまた杏子の戦い方を見知っている。彼女は常に最善の立ち回りをしようとする。二手三手を読み、相手に隙を作らせ攻め立てる。大雑把なように見えてとても繊細な性格だということを、この一週間でクロノは理解していた。

 今回の場合もその例を外れない。杏子は自身のリスクは最低限に最大限の効果を生み出す。それが杏子の戦術の組み立て方だ。それをきちんと理解してしまえば、その策を読むのは実に容易かった。

「…………」

 クロノの一言でそんな自分の癖のようなものを見抜かれていることを悟った杏子は内心で焦る。フェイトの支援があるからこそ良い勝負になってはいるが、もしこれが一対一の戦いだとしたら、すでに決着がついていただろうことは杏子も理解していた。飛翔魔法を使えるようになったとはいえ、杏子にとってのまともな空戦はこれが初めて。それに対してクロノは百戦錬磨の空戦魔導師だ。その経験の差を埋めるのはほぼ不可能に違いない。

 もし何のリスクも考えずに勝利することだけを考えるのなら、空戦に慣れているフェイトを前面に出し、杏子が支援するという戦い方が理想的だろう。しかしクロノの一番の目的はあくまでフェイトを捕えることである。管理局にとっては杏子とアリサを逃がすことになったとしても、フェイトだけは捕まえたいと考えているはずだ。フェイトが前に出ることで確実に勝てる保証があるのならまだしも、そうでない現状では取れるべき戦い方ではない。

 しかしこのままではジリ貧であることも間違いない。今はまだ、フェイトのアシストもあってか杏子の付け焼刃の空中戦が通用しているが、いつ打ち破られるともわからない。一気に攻め立てるべきか、このまま今の戦術で戦い続けるべきか。そんな答えの見えない問いに杏子はクロノを攻め立てつつも頭を悩ます。

 そんな思考に没頭している杏子の隙をクロノは見逃さない。クロノは杏子の死角を突くように多角的にスティンガーを生成し、追い詰めていく。慣れない空中戦ということもあってか、杏子はクロノの攻撃を受けきることができず、槍を弾かれてしまう。無防備なった杏子にクロノは止めと言わんばかりにブレイズキャノンを放つ。

 完全に杏子を捕えた一撃。しかしそれが杏子に命中することはなかった。直前で、フェイトが二人の間に割って入り、シールドで防いだからである。

「すまねぇ、フェイト。助かった。……だけどあんま前に出てくるんじゃねぇ。あいつはフェイトのことを狙ってるんだから」

 杏子は礼を言いながらフェイトに下がるように促す。だがフェイトは首を横に振ってそれを拒絶した。

「杏子、捕まることを恐れて今の戦い方を続けても、あの執務官には絶対に勝てない。だからわたしも援護だけじゃなくて前に出て戦う」

 戦いが始まってから杏子の援護に徹していたフェイトは、すぐに杏子の飛翔魔法が単調で粗いものであるということに気付くことができた。杏子が空を飛べたという事実に驚きこそしたが、今の杏子の空戦技術は、魔導師になり立てのなのはにすら劣るものだ。時間が経てば経つほど、クロノにその動きを見切られ、いずれは撃墜されてしまうだろう。

 それに今、この場にいるのはクロノだけだが、アースラ内にはまだ多くの武装隊員が待機している。もちろんその実力はこの場にいる者よりも遥かに劣っているだろうが、この戦いは決して二対一の戦いではないのだ。むしろ少数派なのはフェイトたちの方で、数の上でも圧倒的に管理局が勝っていた。

「杏子がわたしのことを心配してくれるのは嬉しいけど、でもそれで勝つことができなかったら何の意味がない。だからここは多少の危険は覚悟で一気に攻めよう。それぐらいしないと、きっとわたしたちの目的は果たすことはできないと思うから」

 数の上でも個々の実力でも、フェイトたちは管理局に負けている。そんな状況をひっくり返すには、リスク覚悟で短期決戦を挑むしかない。杏子もフェイトも、そしてこの戦いをただ見守ってるしかないアリサも、ここで負けるわけにはいかないのだ。

 だからこそ、フェイトは真っ直ぐ杏子の目を見て自分の意見を主張する。戦いの最中で敵から目を離すというのは愚の骨頂。だがそんな当たり前のことをフェイトが理解していないわけがない。それでもなお、杏子に強く主張したい想いがあったからこそ、フェイトは敢えてクロノから視線を外したのだ。フェイトが杏子の目を見つめたのは僅か一秒にも満たない時間だったが、それでも彼女の覚悟は十分杏子に伝わった。

「……そうだな。フェイトの言うとおりだ。あいつの実力はフェイトよりもあたしの方が解ってるはずなのに、どうかしてたぜ」

 フェイトの言葉に心動かされた杏子は、自分の頬を強く叩き気を引き締め直す。リスクを恐れていては何も手に入れることはできない。そんなことは言われずともわかっていたはずだ。それでも杏子は自分のこと以外のリスクを勘定に入れていなかった。

 杏子自身が危険な役回りをするのは構わない。しかしそれをフェイトやアリサ、いや二人だけではなくゆまやなのはに対しても無理を強いるような真似はしたくない。それ故に彼女は今までも無意識から矢面に立っていたのだ。

 もちろん、それで事が解決すれば問題ない。しかしクロノ相手ではそれは不可能だ。杏子自身、自分の空戦技術は未熟であると自覚しているし、何よりクロノは強敵だ。それなのに杏子は今まで、相棒であるフェイトを戦いの外側に配置していた。二対一という優位性を活かそうとしなかった。

「悪かったな、フェイト。ここからはきちんと力を合わせて、あの野郎をぶっ飛ばそうぜ」

 そのことに反省した杏子はフェイトに謝り、そして改めて共闘を求める。それを断る理由はフェイトにはない。杏子の言葉に満面の表情で頷いたフェイトは、バルディッシュをサイズフォームで構える。杏子も新しい槍を生み出す。そして二人は示し合わせたかのようにクロノに各々の武器を向け、突っ込んでいった。そんな二人の強い視線に晒されたクロノは、この後の激戦の予感を感じずにはいられなかった。



     ☆ ☆ ☆



 魔女の口の中に引き込まれたなのはだったが、全く絶望していなかった。先ほどまで感じられなかった力強い魔力の息吹。炎のように熱い魔力が、血のように全身を巡っていく。そんな今まで感じたことのない感覚に戸惑いつつも、これが自分の手に入れた真の力なのだと、なのはは如実に実感していた。

 そしてそれを爆発させるかのように、溢れんばかりの魔力が炎の柱となってなのはの身体から迸る。炎は魔女の体内を突き破り、天高く伸びていく。そんななのはの内から溢れ出る炎は、その身に纏ったバリアジャケットの色を塗り潰していく。純白だった白い生地は炎で焦げたような黒紫に、青空を彷彿とさせるブルーのアクセントは紫がかった牡丹色に、胸に象られたリボンは純紫色に、それぞれ変色していく。

 さらにその手の中に生み出される一振りの杖。レイジングハートに酷似してはいるが、カラーリングはバリアジャケットと同様に紫を主として作られた異彩の杖。初めて握ったはずなのにレイジングハート以上になのはの手に馴染み、凄まじい魔力を感じることができる。

「これが……わたしの新しい力」

 なのはは自分の内から生まれた杖を握りしめ、感慨深く呟く。通常、魔法少女の持つ武器には名前がない。それは彼女たちが魔力の続く限り武器を無限に生み出せるからだ。だが杖を握りしめた瞬間、なのはの脳裏に杖の名前が思い浮かぶ。煉獄の炎を操るほどの力を持つ最上級の悪魔。そこから放たれる敵を殲滅することが星の輝き。

「――ルシフェリオン」

 自然と口から漏れる杖の名前。初めて口にする言葉なのになのはの耳に馴染み、それでいて先ほどまで感じられなかったルシフェリオンの躍動を感じる。まるでなのはの呼びかけに呼応するかのように脈打つルシフェリオン。そこから感じられる力強い息吹が、なのはの願いがきちんと叶っていることを証明していた。

「ありがとう、すずかちゃん。……そして、ごめんね」

 なのははルシフェリオンの先端を魔女の大群に構えながら今は亡きすずかに感謝し、謝罪する。そしてその言葉が引き金となって、ルシフェリオンから砲撃が放たれる。今までのような桜色の光線ではなく、血のように紅い炎線。射線上にいた魔女を一瞬で蒸発させ、掠っただけのものもその全身を業火に染め上げていった。

 そんななのはの魔力に、今まで見向きもしていなかった多くの魔女たちが、なのはに向かって襲いかかる。だがなのははそれに一切慌てることなく、確実に一体ずつ撃ち抜いていく。ルシフェリオンの先端から放たれる炎の弾幕。最初に撃ったのがディバインバスターに酷似した砲撃だとするのなら、今回のはディバインシューターに似た灼熱の炎弾。速度はディバインシューターよりも若干遅いが、その威力には天と地ほどの差があり、触れた箇所から例外なく魔女の身体を燃やし尽くしていった。

 さらにそんな弾幕の合間を縫って、なのはは直接魔女の懐に潜り込み、ルシフェリオンで殴りかかる。そうやって殴られた箇所から炎が燃え広がり、魔女を絶命させていく。

 大半の魔女がそんななのはの直接攻撃と炎弾で滅することができたが、それを受けてもなお、まだ生存している魔女の姿もあった。それはいずれもすでに大量の魔女を喰らい、力をつけた魔女たちだった。もちろんダメージを与えられていないということはないが、それは決して致命傷ではなく、さらに一部の魔女に至っては、ダメージを負った部分を切り離し、そうして失った部位を手近な魔女を喰らい補充するようなものまでいた。ダメージを与えられていないわけではないので、こうして戦い続けていれば確実に魔女の数を減らしていくことができるだろう。しかしそれが結果として一体一体の魔女を強くしている。その果てに残る最後の一体がどれほどの強さになるのかわからない以上、早急に決着をつける必要があった。

 それ故になのはは一端、魔女たちから距離を取り、砲撃の態勢に入る。足元に赤い魔法陣が展開し行われる長距離砲撃の構え。以前のなのはなら、そこから放たれるのは間違いなくディバインバスターだろう。もちろん魔法少女になったことで、ディバインバスターの威力も上がり、その性質も炎熱属性に変わっている。――だがそれでもまだ足りない。ディバインバスターは主砲になりえても切り札とは言い難い。それは魔法少女となった今でも同じである。だからなのははずっとレイジングハートと考えていた未完成の収束魔法を使おうとする。戦いの中で霧散し、空気中に漂っている魔力の残滓。それをかき集めるだけかき集め、一発の砲撃に乗せることができれば果たしてどれほどの威力になるのだろうか。そんな発想から生まれたなのはとレイジングハートの二人で考えたオリジナルの魔法。

 元々、この魔法はすずかを説得するときに使うための切り札にするつもりだった。屋上での戦いで自分とすずかの実力差を痛いほど思い知ったなのはは、いずれ訪れるであろうすずかとの再戦に備え、何かしらの切り札を用意しておこうと合間を縫って魔法の練習を行い続けていたのだ。結局、その機会は二度と訪れることはなくなり、この魔法も未完成のまま放置することになったが、それでも今、この場で魔女を一気に一掃するにはこの魔法しかないと考えていた。

「……ぐぁ、あああアアーーッ!!」

 だが、ここでなのはにとって予想外のことが起こる。今、この場に霧散している魔力のほとんどは魔女が残したものだ。魔女は千差万別な性質を持つとはいえ、その根底にあるのは等しく絶望。そんな絶望的な魔力がなのはの身に集まり、その精神を汚していく。

 ただでさえ未完成の魔法の上に、彼女の手に握られているのはレイジングハートではなくルシフェリオン。魔力の制御が大変なのに、それを自分ひとりの力で為さねばならないために、負担がなのはの全身に襲いかかる。

 それでもなのはは魔法の発動を止めようとはしない。魔女の与える絶望に負けないために、歯を食いしばり魔力を集中させていく。ルシフェリオンの先端に、徐々に黒い魔力が集まっていく。そんな魔力の収束に、魔女たちは引き寄せられるように近づいてくる。

 なのはは何とか、すべての魔女を射線上にいれようと、魔女たちがギリギリの距離に近づいてくるまで必死に耐える。耐えながらなのはは、やはりすずかのことを思い出していた。

 なのはが最後に見たすずかのソウルジェムは、とても澄んだ色をしていた。それは彼女が全く、絶望していなかったことを意味する。自分の死を前にしてすずかはその胸に一片も絶望を抱いていなかった。何故、すずかがそこまで澄んだ気持ちでいられたのか、その答えは未だになのはにはわからない。

 それでもなのはは、すずかの意思を継ぐと決めたのだ。だからこれしきの絶望でソウルジェムを汚されるようなことはあってはならない。なのはが絶望するとしたら、それはすずかの意思を果てせなかった時だけだ。

「――スターライトブレイカー!!」

 だからなのはは放つ。絶望を乗せた滅びの魔法。平和を守るために、この場にいる魔女を全て屠るために。殲滅の星光と呼ぶべき魔法を――。



     ☆ ☆ ☆



 結界の中に入り込んだ織莉子は、そこで魔女の大群と戦うなのはの姿を目撃していた。炎の柱から現れたなのはは以前とは異なる出で立ちで、魔力光どころか魔力の質そのものが違う。それを見て織莉子はすぐになのはがキュゥべえと契約し、魔法少女になったことを察する。

 だがそれでもわからないことがある。それは彼女から発せられる魔力がすずかとほぼ同質のものという点だ。いくら魔法少女として契約したからといっても、魔力の資質が変わるわけではない。キュゥべえの行う契約によって、魔力が解放されることはあっても、その本質は生まれ持ったもののはずだ。

 しかし今のなのはから感じられるのは、紛れもなくすずかの魔力である。もちろんなのは本来の魔力が全く感じられないわけではない。結界の外にいた時にはわからなかったが、微弱ながらもなのは自身の魔力も感じられる。しかし今のなのはが纏っている魔力の大部分はすずかのものだ。それが織莉子には不思議でしょうがなかった。

「やぁ織莉子、さっきぶりだね」

 そんな織莉子にキュゥべえが声を掛ける。気付いた時には織莉子の足元にいたキュゥべえだったが、織莉子はそのことに動じず言葉を返す。

「そうは言っても、貴方はさっきまで一緒にいた貴方ではないのでしょう?」

「まぁね。でも気持ちの問題さ。ボクの主観ではほんの一時間前までは一緒にしゃべっていたのだからね。織莉子から見ても、ボクたちには個体差はないのだから似たようなものだろう?」

「確かにそうね。……しかし同じ町の中で違うキュゥべえを目撃することになるなんてね」

 いくらキュゥべえが個体間で意識を共有しているといっても、その肉体の数には限りがある。生半可な数ではないのだろうが、それでも地球全土で活動するとなると、一つの町に複数の個体を置くというのはあまり効率的ではないだろう。

「本来なら予備の肉体はあまり動かさないんだけど、この町にはジュエルシードと魔導師っていうイレギュラーがあったからね。魔女の数も格段に多いし、とても身一つじゃ状況を把握しきることは不可能なんだよ。それにこの町ではやらなければならないことも多いしね」

 キュゥべえの話を聞いて織莉子は納得する。今の海鳴市の状況を考えれば、キュゥべえの行動も理にかなっているのは間違いない。織莉子とて、もし身体が複数あるのなら、同じようにしていたらだろう。

「ところで織莉子、キミはフェイトを探していたんじゃなかったのかい?」

「そうだったのだけれど、気になる魔力を感じてついね」

 そう言って織莉子は戦うなのはに視線を戻す。炎を纏った砲撃を放つなのは。三十にもおよぶ炎弾はその数だけ魔女を燃やし、その大多数を絶命させていく。

「もしかしてそれは、なのはから発せられるすずかの魔力について言っているのかい?」

「……やはり貴方はその理由を知っているのね」

「もちろんだよ。だってなのはがすずかの力を得たのは、ボクと契約したおかげなんだから」

 そんな前置きと共に、キュゥべえはなのはの部屋を訪ねた時のことを思い出す。なのはの願い。それはキュゥべえにとっても予想外で理解できないものだった。



     ★ ★ ★



「――わたしの、わたしの願いは、すずかちゃんの意思を継ぐこと。すずかちゃんが繋いでくれた希望を絶やさず、未来へ繋いでいくための力。そのための力が欲しい」

 なのはの口から語られた願いに、キュゥべえは思わず首を傾げる。

「意外だね。ボクはてっきりすずかの蘇生を望むと思っていたのに」

 事実、先ほどまでキュゥべえはなのはにすずかの蘇生を促すような発言をしていた。なのはの魔力資質ならば完全にとはいかないまでも、魔法少女としての力を持った状態ですずかを蘇生させることも可能だろう。

「……うん。本当はわたしもすずかちゃんに会いたい。でもすずかちゃんはわたしたちを守るために命を懸けた。そんなすずかちゃんの想いを汚すわけにはいかないから」

 だがなのははそれを願わなかった。すずかの蘇生を願うことは容易い。今この場でキュゥべえに望めば、すぐに叶う。しかしそれだけはやってはいけない。そんなことをすればすずかが皆を守るために命を散らしたという事実を汚してしまう。

 それにすずかを蘇らせたとしても、きっと彼女はまた命賭けの戦いに身を投じる。そうなればいずれ、すずかは二度目の死を迎えてしまうだろう。もちろん魔法少女となったなのはがそれをさせまいとするだろうが、いざとなればすずかは自分の命を躊躇なく切り捨てるはずだ。

 そんな姿、もう二度と見たくない。だからなのはは少しでもすずかの想いを引き継ぐ。彼女が繋いでくれた希望を絶やさないために。そしてすずかが何を想い戦っていたのかを知るために――。

 そんな心の底からの願いが叶い、なのはの胸のうちからソウルジェムが生まれる。なのはの魔力光と同じ、桜色のソウルジェム。身体の中から無理やり魂を引き摺り出されたような感覚に、なのははその場で蹲りうめき声を上げる。

「なのは、キミの願いはエントロピーを凌駕した。喜ぶがいい。これでキミも晴れてすずかと同じ魔法少女になれたわ……」

「嗚呼アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア――――ッ!!」

 そんなキュゥべえの言葉を、なのはの叫びが掻き消していく。魔法少女が契約する時に生み出されるソウルジェム。その際に少なからず痛みを伴うのはキュゥべえも知っている。しかしそれにしては、なのはの苦しみ様は異常であった。そもそもすでになのはのソウルジェムは体外に放出されている。だがそれでもなのはの胸の苦しみは収まらない。

 そしてそれに呼応するかのように、なのはのソウルジェムにも変化が訪れる。桜色だった彼女のソウルジェムが血のような赤紫色に塗り潰され、さらにその形状も徐々に変化させていく。体外から出た当初は確かになのは特有の輝きを持つソウルジェムだった。しかし今のなのはのソウルジェムは、すずかのソウルジェムに酷似した色と形に変貌していた。それに伴い、そこから感じられる魔力もまたすずかのものとも錯覚できるものに変わっていった。

「……これは、いったい?」

 ソウルジェムの形が変わるのは、キュゥべえが知る限り、魔法少女が絶望し魔女になる瞬間のみである。それは一万年という長い時の中で、今まで一度も観測したことのない現象だった。それ故にキュゥべえは目を輝かせる。魔導師が魔法少女になることでこのような変化が起きたのか、それともなのはの願いのもたらした結果なのか、それはまだキュゥべえにもわからない。

 それでもただ一つ言えるのは、彼女が過去に類を見ない魔法少女になったのには間違いないということだ。それ故になのはがこれから、どのような戦いをしていくのか、キュゥべえは最後まで見届ける必要があった。

「はぁ……はぁ……、ふぅ……」

「……大丈夫かい、なのは?」

 キュゥべえは徐々に息を整えているなのはに向けて声を掛ける。その声に反応し、なのはは立ち上がりながらキュゥべえを見降ろす。その目はまるですずかのように、血のような赤色に変化していた。

「……うん、大丈夫だよ、キュゥべえくん。それとありがとう。おかげでいろいろなことがわかったよ」

 そう言うと、なのはは目を瞑りながら、深呼吸する。そうして目を開けると、その瞳は元の色へと戻っていた。そんななのははレイジングハートとソウルジェムを手に取ると、そのまま部屋の窓を大きく開けて、遠くを見つめる。

「ねぇ、キュゥべえくん。今、この町には魔女がたくさんいるんだよね?」

「うん」

「それってジュエルシードの魔力に惹かれてやってきたんだよね」

「そうだけど、もうそれだけじゃあなくなってるよ。魔女が魔女を呼び、絶望を加速させ、それを糧に新たな魔女が生まれていく。もうこの町からジュエルシードが全て取り除かれたとしても、魔女が増え続けるのを止めるのは非常に困難だろうね」

「でもだからって、何もしないわけにはいかないよ。だってわたしはそのために魔法少女になったんだから」

 そう言ってなのはは扉に手を掛ける。

「なのは、どこに行くんだい?」

「決まってる。魔女がたくさんいるところ」

「魔法少女になった途端に実践かい? 確かにキミは魔導師として今まで戦ってきたけど、新しい力をいきなり実践で試すのは無謀だよ。まずはどのような魔法を使えるようになったのか、確かめないと」

「ううん、そんな必要ない。そんなことをしている暇があったら、一秒でも速く魔女を倒しにいきたい。だからキュゥべえくん、このあたりで一番、魔女の気配が濃い結界の場所を教えてくれないかな?」



     ★ ★ ★



「そんな経緯でなのはをこの結界まで案内したわけなんだけど、正直なところ冷や汗ものだったよ。確かになのはから感じる魔力は以前よりも遙かに強力になったけど、戦いの中でそれを上手く使いこなしてなかったからね」

「……それは、そうでしょうね」

 キュゥべえからなのはが魔法少女になった経緯を聞いたすずかは、その願いから生まれたなのはの力の源を悟り、表情を曇らせる。

「なのはの願いは月村すずかの意志を継ぐこと。だけどそれはあくまでなのはが口に出した願いに過ぎない。彼女が心の中で真に望んだのは、すずかのすべてを継ぐことだ。彼女の強さも、記憶も、その想いさえも。もちろんその全てを引き継ぐことができたとはボクにも思えないけど、それでも大部分のものを引き継ぐことができたのは間違いないと思うよ」

 もしなのはが普通に魔法少女の素養があるだけの少女だったのなら、すずかの意志だけしか引き継ぐことはできなかっただろう。しかしなのはの魔力資質は人一倍素晴らしいもので、さらに魔導師としての才能をユーノによって開花させられてしまった。魔法少女と魔導師という違いはあれど、なのはの身体はすでに自身の魔力に馴染んでいたのだ。

「本来、一人の人間には一人分の魔力しか存在しない。しかし今のなのはには自分の魔力とすずかの魔力の二人分の魔力が内包している。それはなのはが持つ器が大きかったからに他ならない。きっと彼女は、ボクと契約しなかったとしてもいずれはあれほどの力を手に入れたのだろうね。もちろん今すぐにというわけにはいかなかったのだろうけど」

「……そうね。彼女は非常に強い子だわ。でもまだ子供。だからこそ、貴方みたいなのに簡単につけ込まれてしまった」

「それは心外だね、織莉子。ボクはきちんとなのはの願いを叶えてあげたんだ。これは正当な取引だよ。もちろんその代償はきちんといただくつもりだけどね。それに織莉子、なのはを魔法少女にしたかったのはキミも同じだろう?」

 キュゥべえの言葉に織莉子は何も返さない。事実、織莉子はなのはの力を必要としていた。彼女の持っていた才能、それを使うことで滅びの未来を回避しようと考えていた。しかしそれでも、このような形で彼女に契約させることを望んではいなかった。

「ほら織莉子、いよいよクライマックスだよ。なのはの手に入れた力をその目を焼き付けるといい」

 そうして顔を曇らしている織莉子に、キュゥべえは告げる。その言葉を聞いてなのはの方に視線を戻すと、彼女は周囲に霧散している魔力を集め、最大級の攻撃を放とうとしていた。だがその砲撃は絶望で塗り固められた魔女の魔力を用いたものだ。威力だけを見れば破格なものには間違いないが、それで果たして救世を為すことが可能なのか。織莉子は甚だ不安で仕方なかった。

「――スターライトブレイカー!!」

 その言葉と共にルシフェリオンの先端から放たれる黒い閃光。すべてを飲み込む滅びの光。それは星の輝きというには邪悪で破滅的な光だった。彼女の小さな身体からは想像できないほど強大な魔力。それは大きなうねりとなって、魔女たちを飲み込んでいく。そしてそのまま結界の外壁部に激突し、結界内を大きく揺らす。

 轟音と共に崩壊し出す結界。砲撃の激突地点から徐々に罅が広がり、魔女の結界を突き破る。それは純粋な魔力のみで破れたのか、それとも結界内の魔女が全滅して自然と消滅したのかは定かではない。しかし結界を突き抜けたその砲撃は、思いも寄らない結果をもたらすことになる。



     ☆ ☆ ☆



 フェイトと杏子、二人のインファイターに攻め立てられ、意外にもクロノは防戦一方だった。フェイトの攻撃をかわしたと思えば、杏子の鋭い一撃が飛んできて、それを上手く防御してもフェイトからの追撃が振り下ろされる。二人ともパワータイプではなく、スピードタイプの戦い方を主としているが故に、その攻撃は苛烈を極め、クロノは攻勢に移ることができなかった。

 何よりクロノにとって予想外だったのは、二人の息が想像以上に合っていたことである。今まで二人が共闘したことは何度かあるが、共に前に出て戦うというような真似はしたことはない。至近距離の攻撃を繰り返すということは、よほど息のあった戦い方ができない限り、味方の攻撃にも注意しなければならない。

 だが二人はそんなそぶりを一切見せず、思い思いに攻撃を続けていた。それでも味方の攻撃があたるどころか、互いに動きを鈍らせるといったことすらない。

 何故、二人がこれほどまでに息の合った戦い方ができるのかというと、それは二人の戦いのルーツが他者と連携することに起因しているからに他ならない。

 魔法少女になったばかりの頃、杏子はマミに指示し、少なくない時間をマミと共に戦ってきた。マミは遠距離型ではあったものの、その時の経験は確かに今の杏子の中にも息づいている。今でこそ、一人で戦うことを好む杏子であったが、パートナーの動きを把握し、上手く協力して戦うことができたのは、その時の経験があったからである。

 さらにフェイトは元々、アルフとの連携を前提に戦い方を学んでいた。どちらかと言えば共にインファイターであることもあり、接近戦で連携する技術だけで言えば、フェイトの方が一日の長がある。そんな技術面で卓越した二人が目的を共にし、共闘すればこうなるのは当然の帰結であった。

 ……それでも二人はクロノを仕留めきることができなかったのは、執務官としてクロノが様々な危険な任務に従事してきたからだ。普段、クロノが戦う相手の多くは次元世界に蔓延る凶悪犯罪者。そんな犯罪者が非殺傷設定の魔法など使ってくるはずがなく、基本的には相手を殺すために放つ殺傷的な魔法を好んで使用してくる。それを上手く防ぎ、制圧する。それが執務官としての戦い方なのだ。そうした戦いを繰り返してきたためか、自然と守りに比重を置いた戦い方が自然と身に着いていた。

 攻めに特化した二人の少女と守りに特化した執務官。一進一退、終わりの見えない少女たちと少年の戦い。そんな戦いをアリサは固唾を飲んで眺めていた。アリサと杏子たちには距離があり、さらに素早い動きもあってか、アリサは目で追うことすらできなかった。

 それでもアリサは目を細めて、少しでも戦う姿を目に焼き付けようとする。杏子やフェイトが見せているのは、なのはやすずかが行ってきた戦いの一端だ。もちろん戦闘スタイルは違うが、魔導師と魔法少女という点では相違ない。だからこそ、アリサはビルの屋上から乗り出し、食いつくようにその戦いを眺めていた。

 ――しかしその戦いは、唐突に終わりを告げる。突如として響きわたる轟音。そしてどこからともなく飛び込んでくる黒い閃光。突然、現れた閃光が空中で戦闘中の三人を飲み込んでいく。

 そのあまりの光景にアリサの頭は真っ白になる。魔力を持たないアリサでもわかるほどの絶望的な魔力。アリサに向かって飛んできているわけでもないのに身が竦み、その場で肩を抑えて震え出す。

「助けに、行かないと……」

 それでもアリサは自由の効かない身体で足を踏み出す。魔法の使うことのできないアリサにできることなど高が知れている。しかしこのまま見て見ぬ振りなどできるわけがない。先ほどの黒い光が何なのかはわからないが、少なくともここまで自分を連れて来てくれた杏子とフェイトの無事を確かめずにはいられなかった。

 だからアリサは必死にビルの下へ降りていき、杏子たちが戦っていた場所へと向かって歩き出す。

「えっ?」

 だがその途中、アリサは思いもよらない形で親友との再会を果たすことになる。



     ☆ ☆ ☆



 砲撃が通った道筋には惨状だけが残された。幸い、管理局の作った結界が作用したことで現実世界に影響を及ぼすことはなかったが、そのことをなのはは知らない。少し周囲を見回せばここが魔導師の結界内であるということはすぐにわかるが、今のなのはには目の前の惨状しか目に入らない。魔力を浴びて砕けたビル街。多くの建物は崩れ去り、砲撃が直撃した箇所に至っては大きく抉られている。それを現実世界の光景であると認識しているが故に、なのははその場で力なく膝をついて悲観していた。

「これを、わたしがやったの?」

 砲撃を放った時、なのはは目の前の魔女を倒すことしか考えていなかった。魔女を放っておけば、いずれ多くの人が不幸になる。だからこそ、なのはは今の自分が持てる全力全開を以って、魔女を滅した。しかしその結果、壊滅的な都市部を見せられ、なのははすずかが自分たちの前から姿を消した理由を悟る。



 ――彼女は怖かったのだ。自らの手で平和を壊してしまうことが……。



 人間であることを止め、魔法少女としていきることを決心したすずか。その溢れんばかりの力を抑えきることができず、それ故に恐怖した。この力で誰かを傷つけることを。大切な人たちを傷つけてしまうことを。

 だからすずかは姿を消した。もしも小学校が結界に囚われることがなければ、すずかがなのはたちの前に姿を現すことはなかっただろう。

「ごめんね、すずかちゃん。ごめんね」

 その事実を知り、なのははその場で蹲り号泣する。自分が得たすずかの力。そのあまりにも大きすぎる力故への葛藤。それになのはは気づいてあげることができなかった。その悲しみに、彼女は涙を止めることができなかった。

「見事だったよ、なのは。まさかあれほどの力を手に入れるとはね」

 そんななのはにキュゥべえは声を掛ける。しかしなのはにはそんなキュゥべえの言葉は耳に入らない。有り余る悲しみの中にいるなのはには、キュゥべえなど眼中にはなかった。

「……なのはさん、安心なさい。ここはどうやら現実世界ではなく、擬似的な空間のようだから」

 しかしそれに次いで聞こえてきた声に、なのはは思わず顔を上げる。現実世界ではないという言葉の意味もそうだが、それ以上にその声を発する人物になのはは用があった。

「織莉子、さん?」

 そんな織莉子の姿を見て、なのははフラフラと立ち上がる。なのはにはどうしても確かめねばならぬことがあった。

「織莉子さん、キリカって人のこと、知ってる?」

 それはキリカのこと。結界内の戦いでキリカは何度も織莉子の名前を口にしていた。キリカはすずかを死に追いやった張本人だ。そんな彼女が織莉子の名前を何度も親しげに口にした。だから次に織莉子にあったときは、それを問いただそうと決めていたのだ。

「……もちろん知ってるわ。だってキリカは私の大切なパートナーだったもの」

 そんななのはの問いに織莉子は素直に答える。織莉子の力ではなのはには勝つことは不可能だ。それでもなお、織莉子が素直に答えたのは、なのはに対して負い目を感じていたからだ。すずかの死の引き金を引いたのは織莉子だ。すずかの力を甘くみて、彼女に近づいた結果、織莉子はキリカを失った。しかし元を質せば、織莉子が油断しなければこのような結末を迎えることはなかったのだ。

「……もう一つだけ答えてください。すずかちゃんが視た、あの未来の光景は本当のことなんですか?」

 なのはの問いかけ。それはすずかが織莉子の記憶を読みとった時に見つけた情景。最悪の魔女によって滅ぶ地球の姿。辺りには阿鼻叫喚が響きわたり、世界を飲み込む負の力。そんな倒れ伏す人々の中に立つ一人の少女。残忍な笑みを浮かべ、倒れた人々の頭を踏み潰す。その度に愉悦の表情を見せ、破壊の限りを尽くしていく。

「私にはなのはさんがすずかさんを通じて視った光景がなんなのか、正確なところはわからない。でもそれに近いことが起きるのは間違いないわ。多少の細部が変わったとしても、根底の事実は変わらない」

 なのはが視たという光景が正確にはどの未来のものなのか、織莉子にはわからない。だがそれでも、滅びの未来であることは間違いない。だからこそ、織莉子はその事実をなのはに突きつけた。

「それで、それを知ってなのはさん、貴女はどうするつもりなのかしら? 確かに今の貴女の力を使えば、あの未来を回避することができるかもしれない。だけど一歩間違えれば貴女自身の手で目の前に広がっている光景のような未来を作り出してしまう可能性もある。今回は幸いにも疑似的な世界に迷い込めたおかげで被害を免れることはできたけれど、それでも次も同じような幸運に見舞われるとは限らない。だからなのはさん、貴女は自分の力がどの程度のものなのかを理解しなければならない。そうしなければ、貴女自身が世界を滅ぼすことになりかねないのだから」

「わ、わたしは……」

 織莉子の言葉になのはは躊躇いがちに自分の意思を伝えようとする。だが視線の端に予想外の人物の姿を捕えたことでなのはは言葉を詰まらせ、反射的にその名を告げる。

「アリサ、ちゃん?」

「……なのは?」

 そうして互いに名前を呼ぶ二人。魔法少女として変わり果てたなのはと、アースラで眠っているはずのアリサ。二人はこうして再会したのであった。



2013/7/28 初投稿
2013/9/22 サブタイトル変更。および誤字脱字修正


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