巴マミが見ず知らずのフェイト・テスタロッサとアルフを家に誘ったのは、その身体から溢れる魔力に気付いたからだ。アルフはともかく、フェイトから感じられる魔力量は自分のものを遥かに上回っている。暁美ほむらだけでも手一杯なこの状況で、さらに新たな魔法少女が現れたとしたらマミ一人では対処しきれない。ならば先に彼女たちの正体を掴み、あわよくば話し合いだけで事を解決すればいいと考えていた。「それじゃあ、アルフさんたちは海鳴市に向かったはずが、気付いたら見滝原に来ていたというわけね?」「そうなんだよー。しかもさ、電車の中に財布を忘れてきたみたいでさ、本当に参ったよ」 しかしそんなマミの考えは杞憂に終わった。遅い夕食を三人で囲みながら話を聞くと、彼女たちが見滝原にやってきたのは偶然だという。肝心の魔法少女であるかどうかということはわからなかったが、この町を目的としてやってきたわけではないと知り、一安心するマミ。それだけでも自分の家に誘った甲斐があったというものだ。「本当に、ありがとうございます」 フェイトが何度目になるかわからないお礼の言葉を告げる。「いいのよ。気にしないで」「でも、こんなおいしいお料理も御馳走してもらったし……」 テーブルの上には綺麗に食事を終えた皿が置いてある。家に招き入れた後、二人がまだ何も食べてないことを知ったマミは、あり合わせの食材で料理を振る舞ったのだ。家族を交通事故で亡くしてから、マミはずっと一人暮らしだった。そのためか、家事全般はすっかり得意なことになっていた。「あら、ありがとう。でもそれなら、そんな申し訳なさそうな顔じゃなくて、もっと美味しそうな顔をしてくれると嬉しいわ」「美味しそうな、顔?」「ええ、料理を作る側としては、自分の料理を食べて誰かが笑顔を見せてくれるのが、一番嬉しいことだから」 普段、一人暮らしであるマミは最低限、栄養が摂取できればいいと考えて料理を作っている。味については二の次で、健康バランスを考え材料を選んでいる。 しかしそれはあくまで自分だけが食べる時の場合であって、誰かに振る舞う時は違う。食べてくれる人が笑顔を見せてくれるように、心を込めて料理を作る。それはかつて、幼い頃にマミの母親が自分に対して言った言葉だった。家族と触れ合っていられた時間が短かったマミだからこそ、そういった家族との思い出を人一倍大事に生きてきた。 今日は突然ということもあり、あり合わせで作ることになってしまったが、できれば明日は自分の創作料理である「ティロ・フィナーレ・スパゲッティ」を振る舞いたいと考えていた。「ところで明日からどうするの? せっかく見滝原に来たんだから、よかったら案内でもしましょうか? ……といっても、明日は学校があるから、夕方からになってしまうのだけれど。明後日なら学校は休みだから朝から案内することもできるけど」「い、いえ、そこまでしていただくわけには……。それに先を急いでますし」 フェイトは遠慮がちに口を開く。マミが善意でそう口にしていることはわかっていたが、二人には大事な目的がある。「そう? でもせめて見送りぐらいはさせてほしいわ」【……どうする? フェイト?】 マミの言葉にアルフは念話でフェイトに尋ねる。フェイトとしては早く海鳴市に向かいたいというのが本音だ。本当なら明日の朝には海鳴市の場所を調べ、出発したいくらいだ。しかし一宿一飯の恩義がある以上、マミに黙って去るというのも気が引ける。「えっと、その、それじゃあ、明日、よろしくお願いします」 結局、フェイトは出発を明日の夜にすることに決めた。そのフェイトの言葉にマミは満足そうに頷いた。 ☆ 翌日、マミが学校に行っている間、フェイトとアルフは海鳴市の場所を調べると共に、この世界の情報を調べなおした。どうやら海鳴市と見滝原市は日本という極東の島国にあるらしく、そこまで近しい距離ではないが、地続きで辿りつける距離なので、一時間も飛べば海鳴市に着くことができることがわかった。さらにもう一度、この世界に魔法が存在するかどうかを調べたところ、意外な結果がわかった。時の庭園で調べた時には発見できなかった魔力を行使した痕跡。それが複数見つかったのだ。【これはいったいどういうことなんだい?】【……わからない】 そもそもなぜ、時の庭園で調べた時はその痕跡が見つからなかったのだろうか? この世界について調べたのはプレシアだ。フェイトやアルフから見ても、プレシアの魔力量やその技術は凄まじいということを二人は知っている。それなのにも関わらず、魔法の痕跡を見逃した。実際にフェイトたちが調べたところ、魔法を使用した痕跡は隠された形跡もなく、その辺に転がっている石のように堂々と残されていた。それをプレシアが見つけられないとは到底、思えなかった。【どちらにしても、この世界に他に魔導師がいるとわかった以上、あまりのんびりしている暇はない】 もし他の魔導師もジュエルシードを狙っているのだとしたら、争いになることは避けられない。そうなったら面倒だ。【マミには悪いけど、急いで海鳴市に向かった方がいいかもしんないね】【……そうだね】 アルフの言葉に心苦しそうに返事をするフェイト。マミはとても優しかった。見ず知らずの自分にとても親切にしてくれた。そんなマミに別れを告げずに去るのは抵抗がある。 ……だがそれ以上にフェイトにとってはプレシアが大事だ。そもそも今まで、プレシアが自分に研究の手伝いをさせるというようなことはなかった。怒られることはあっても頼られることはなかったのだ。だからこそ今回、プレシアにジュエルシード集めを頼まれたのは嬉しかった。そんなプレシアの期待を裏切るわけにはいかない。【それじゃあアルフ。一端マミの家で合流して、海鳴市を目指そう】 フェイトはせめて、書置きぐらいは残しておこうと思い、合流場所をマミの家にした。【……いいのかい?】【……うん】 そう言うフェイトだったが、その足取りはどこか重たいものだった。 ☆ マミは鹿目まどかに案内されて、見滝原病院に駐輪場まで来ていた。フェイトとアルフ見送る約束をしていたマミだったが、その約束を違えてもやらなければいけないことができたからだ。「ここね」 それはまどかとさやかが偶然、孵化する寸前のグリーフシードを見つけたことだった。こんな場所でもしグリーフシードが孵化してしまえば、多大な犠牲が出る。マミの使命はこの町の平和を守ること。その願いは命を繋ぎ止めること。フェイトたちには悪いが、その使命を優先しなければならない。 まどかの話ではまだ結界は発生していないということだったが、二人が駐輪場にたどり着いた時にはその場に結界ができていた。幸いなことにまだ魔女は孵化していないが、それも時間の問題だろう。【キュゥべえ、状況は?】 マミはさやかと共にグリーフシードを見張っているキュゥべえに状況を確認する。【まだ大丈夫。すぐに孵化する様子はないよ。むしろ迂闊に大きな魔力を使って、卵を刺激する方がまずい。急がなくていいから、なるべく静かに来てくれるかい?】【わかったわ】 そう言うと、マミはまどかを引き連れてその結界の中に入っていった。 ☆「結界!?」 フェイトたちがその結界を発見したのは本当に偶然の出来事だった。すでにマミに対しての書置きを終え、見滝原市から海鳴市に向かって飛んでいる途中、足もとから強烈な魔力反応を検知したのだ。無視して行くことも考えた二人だったが、少しでもこの世界の魔導師についての情報が欲しかったので、その結界に近づくことにした。 結界は明らかに自分たちの知るものとは違う術式で展開されていた。自分たちが使う結界は、魔法効果の生じている空間と通常空間の時間の流れをずらすといったものだ。しかしこれは次元のはざまに別の空間を作り出すという手法が使われている。そういった方法が自分たちの魔法でできないこともないが、酷く非効率なやり方だった。「どうする? フェイト」 アルフのその問いは、この結界の中に入ってみるかどうするかというものだ。明らかに未知の魔法を使う魔導師がこの中にはいる。今のところ、こちらに争う理由がない以上、下手に魔力の消費をするのはあまり得策ではない。「行こう。何か情報が掴めるかもしれない」 だがそれと同時にこの世界の魔導師の情報を集めるチャンスでもある。虎穴に入らずんば、虎児を得ず。フェイトたちは結界の中に侵入していった。 ☆ フェイトより先に結界内に入っていたマミとまどかは、グリーフシードを刺激しないため、歩いてキュゥべえたちのところまで向かっていた。「間に合って良かった」「無茶しすぎ……って怒りたいところだけど、今回に限っては冴えた手だったわ。これなら魔女を取り逃がす心配は……」 まどかに声を掛けようと後ろを振り向いた時、マミにはこの町にいるもう一人の魔法少女、暁美ほむらの姿が目に入った。まさか昨日の今日で出会うことになるとは思っていなかったマミは一瞬、虚を突かれるも、すぐにきつい目つきでほむらを威嚇する。「言ったはずよね。二度と会いたくないって」「今回の獲物は私が狩る。あなたたちは手を引いて」「そうもいかないわ。美樹さんとキュゥべえを迎えにいかないと」「その二人の安全は保障するわ」「信用すると思って」 マミは隙だらけのほむらに拘束の魔法を掛ける。もしここでほむらを行かせたとしたら、さやかはともかく、キュゥべえの安全は保障できない。ほむらは以前、キュゥべえを殺そうとしていたのだ。今までの態度からみても、その言葉を信用できるはずがない。「馬鹿っ! こんなこと、やってる場合じゃ……」「もちろん怪我させるつもりはないけど、あんまり暴れたら保障しかねるわ」 マミにとってほむらは嫌いではあるものの、決して敵ではない。あくまでマミの敵は魔女であり、町の平和に害をなすものなのだ。町の平和を守るという点では、ほむらと共闘するのが一番なのだろうが、信用できない相手に背中を任せるわけにはいかない。ならば自分の邪魔ができないように拘束しておくのが一番だ。「今度の魔女は、これまでの奴らとはわけが違う」 それならば、なおのこと自分が行かなければならない。マミがほむらに掛けた拘束魔法はその気になれば簡単に解くことができるようなものだった。しかしそのためにはある一定以上の魔力を拘束具に注ぎ込まなければならない。だが魔力量の少ないほむらには不可能なことだった。そんなほむらが相手にしても返り討ちに遭うだけだ。「おとなしくしていれば、帰りにちゃんと解放してあげる。行きましょう、鹿目さん」 そう告げてマミはまどかを引き連れて結界の奥に進んでいった。 ☆「ホント、悪趣味な結界だよ」 アルフは辺りを見回しながらフェイトに零す。それはフェイトも同じ思いだった。結界の中に入って、最初にフェイトが感じたのは気味が悪いという印象だった。視界に入ってくるのはすべてが抽象的。絵具だかクレヨンだかで書かれた歪な光景。普通の人間なら入っただけでおかしくなりそうな不思議な世界。 しかし彼女たちは魔導師だ。幼い頃から優秀な家庭教師に鍛えられたおかげか、どんな状況でも的確に対処をする術がある。流石にこのような光景は想定外ではあったものの、的確に道を選び、奥へと進んでいく。「それにしても、いったいどこまで続いてくんだろうね」 結界の中に入ってみたのはいいが、二人は何の情報も掴めていなかった。強いていえば、この結界は未知の魔力術式で編まれたものであることがわかったぐらいだが、それだけでは何もわかっていないのと同じだった。せっかく危険を承知で結界に侵入したのだから、せめてこの世界の住人が作ったのか、それとも別の世界からやってきた人物が作ったのか、その点だけははっきりさせておきたかった。「……あれは?」 そんな二人の前に現れたのは、まるで絵本に描かれた怪物だった。丸い身体に二本の細い足。身体は全体的に黒く、赤い斑点のような模様で描かれている。動かなければ周囲の景色にとけ込んでしまう見た目をしている。そんな子供の背丈ほどある怪物が数匹、二人に襲いかかってきた。「敵っ!?」 それに気付いたアルフは、慌ててフェイトの前に庇うように立ち、襲いかかる怪物に拳を食らわす。すると実にあっけなく怪物は吹き飛んでいく。そのあまりの脆弱さに拍子抜けするアルフ。フェイトもバルディッシュをデバイスフォームに展開し、魔力弾で怪物を吹き飛ばしていく。「こいつらはいったいなんなんだい!?」「たぶん、この怪物たちは結界を張った副産物として発生しているのかもしれない」 魔力弾で怪物を粉砕しながら、フェイトは告げる。フェイトは襲ってくる怪物から自我というものがまったく感じられなかった。これは怪物というより人造生物に近い。プレシアが作り、時の庭園の警備に使っている人造兵器も思えば簡単な命令……例えば侵入者の排除などといったものしか受け付けない。ただ命令に従って動く人形。襲ってくる怪物からはそれらと同じ印象を受けていた。「それじゃあ何かい? こいつらと争っても時間の無駄ってわけかい?」「……たぶん」 数こそは多いものの、怪物は一発で仕留められるほど脆弱だ。おそらくこちらの魔力を消費させることが目的なのだろう。そう判断したフェイトは攻撃を止め、回避に専念しながら奥へ進んでいく。アルフはどこか釈然としないものがあるものの、そんなフェイトの後に従った。 よく見渡すと怪物はそこらかしこにいたが、隠れながら進む分には一向に襲いかかってくる気配がなかった。注意力があるわけでも、そこまで素早いわけでもない。慎重に進めば発見されることもなく、仮に発見されたとしてもすぐに撒けてしまう。そんな怪物を二人は脅威に思わなかった。それでも警戒を怠ることはできないが、ほっと一息をつく二人。「そんじゃま、ちゃっちゃとこの先に誰がいるか、調べに行きますかね」「そうだね、アルフ」 そうして二人はさらに奥へと足を進めるのであった。 ☆ 暁美ほむらはこれから起こることを想像し、歯がゆい思いをしていた。これからマミが戦うであろう魔女……シャルロッテは彼女一人では倒すことはできない。そのことをほむらは今までの経験から痛感していた。だからこそ、ここはマミではなく自分が戦うとそう告げたはずなのに、マミに拘束されてしまった。そんな自分の迂闊さに嫌気がさす。 ほむらの目的は鹿目まどかを救うことだ。それが絶対であり、唯一の目的だ。そのためにはワルプルギスの夜を倒さなければならない。倒せなければまどかはキュゥべえと契約し、魔法少女になってしまう。何度繰り返してもその結末は変わらなかった。 だからこそここでマミに死なれてはならない。彼女の力はワルプルギスの夜との戦いには必要だ。心は弱いが力はある。それがマミに対するほむらの評価だった。「……くっ」 現にマミの拘束を解こうとするほむらだが、まったくびくともしない。ほむらとマミの魔力量には絶対の差があった。今までほむらは繰り返しの中で数多の魔法少女と出会ってきた。基本的に出会う魔法少女は自分やまどかを含めて五人だが、稀に例外もある。まどかの魔法少女としての素養を知り、キュゥべえと契約する前に殺そうとしてきた二人組の魔法少女。ジェム摘みという名目でソウルジェムを集める魔法少女の集団が訪れたこともあった。そういった例外の発生条件はわからないが、そのすべての魔法少女に共通することは、自分より魔力が強いということだ。 今までほむらは自分より弱い魔力の魔法少女に出会ったことはない。弱い魔法少女に会ったことはあっても、そのいずれも自分以上の魔力量の持ち主だった。油断しなければ負けることはないが、今みたいに束縛されたらそれを自力で解くことはできない。 迂闊だったが過ぎたことを悔やんでも仕方がない。マミがいなくなれば、この町には杏子がやってくる。杏子は実に魔法少女らしい魔法少女だ。彼女にメリットを用意すれば、協力体制を取るのは簡単なことだ。本当なら三人でワルプルギスの夜に挑みたかったが、こうなってしまっては諦めざるを得ないだろう。 そんなことを考えていたほむらの背後から足音が聞こえてくる。首を捻って後ろを見るとそこにはフェイトとアルフの姿があった。(新しい魔法少女!?) ほむらは今まで見たこともない二人の魔法少女の姿に焦った。「あんたは?」「その質問に答える前にこのリボンを切ってくれない?」 だがそれと同時にチャンスだとほむらは考えた。自分一人で解けない拘束でも、外部からの干渉を受ければ話は別だ。拘束さえ解ければ、あとは自分の魔法を使ってどうとでもなる。「……バルディッシュ」≪Scythe Form≫ フェイトが言うと、手にした杖の形が変わり鎌状に魔力を放出する。その鎌でほむらに巻きついていたリボンを切り裂いた。「それであんたは何者なんだい?」 フェイトとアルフは目の前の人物が一般人でないと見抜いていた。一般人ならこのような場所で拘束されてあのように落ち着き払っているようなことはないからだ。しかし捕らわれていたことから結界を張った人物でないことも明らかだった。「感謝するわ。でも今は時間がないの」 そう言うと、ほむらは魔法少女の姿になり、自分の魔法を使用する。時間操作。それがほむらの使える唯一無二の魔法だった。自分を助けた二人のことも気になるが、今はそれよりもまどかのことが気になる。ほむらはこまめに時間を止めながら、まどかの元に向かって走り出した。 ☆「……いない?」「いったいどこへ?」 フェイトとアルフにとって、ほむらの姿が消えたのはほんの一瞬の出来事だった。彼女の衣装が変わったかと思うと、次の瞬間には消えていた。身構えている暇もなかった。「移動したって雰囲気じゃなかったし、転送でもしたのかね?」「でもアルフ、魔法陣は発生しなかったよ」 フェイトたちの使うミッドチルダ式魔法は、使用する際に魔法陣が足元に現れる。それが現れなかったということは、やはり彼女は自分たちとは違う、現地の魔法を使用したということになる。結界の作りや魔法の使用痕跡を見ても確信できなかったが、これではっきりした。この世界には独自の魔法体系を使う魔導師がいる。「母さんの調査が間違っていたとは思えないけど……」「でも現にあたしたちとは違う魔法を使われたのは明らかだろ?」「……そうだけど」「それでどうする? フェイト。とりあえずこの世界にも独自の魔導師がいるということはわかった。今日のところはそれだけで十分じゃないのかい?」 アルフはそう告げるがフェイトはほむらの去り際に告げた台詞が気になった。――時間がない。それはつまり彼女はこの先で何が起こるのか知っているということだ。「もう少し先に進もう。情報を集めるだけ集められれば、今後のジュエルシード探しの役に立つかもしれないし」「はいよ。それじゃああの女に追いつけるように、急いで行こうかね」「うん」 二人はその場から飛び出すように走り出した。 ☆(身体が軽い。こんな幸せな気持ちで戦うなんて初めて。もう何も恐くない!) マミは辺りにいた魔女の使い魔を蹴散らして奥に進む。自分の後ろには、大切な後輩であるまどかの姿があった。彼女の言葉がマミを孤独感から解放した。 すでにキュゥべえからグリーフシードの孵化が始まったことを告げられたマミは、その前に何としても合流しなければならないと考えていた。キュゥべえと一緒にいるさやかはまだ魔法少女ではない。そんな彼女を危険から守れるのは自分しかいない。そしてこの戦いが終われば、まどかが魔法少女になってくれる。そうなればもう自分は一人ぼっちじゃなくなる。その思いがマミに力を与えていた。「お待たせ」「ああ、間にあった」 マミとまどかはグリーフシードの前で隠れていたキュゥべえやさやかと合流する。孵化する前に現れたマミの姿を見て安心するさやか。「気をつけて。孵化するよ」 だが一息する間もなく、魔女……シャルロッテが孵化し始める。そうして現れたのは、人型の小さなぬいぐるみのような魔女だった。とてもほむらが言うような、強力な魔女とは思えない。「せっかくのところ悪いけど、一気に決めさせてもらうわよ!」 マミはシャルロッテに近づくと、マスケット銃をバットの要領で振りかぶり遠くに吹き飛ばす。その動きに対応できてないシャルロッテに向かって、銃を連射する。本来、マスケット銃は単発式だ。それを無限とも呼べる数を自身の周りに展開し、使い捨てて攻撃する。それがマミの戦闘スタイルだった。 なす術もなく銃撃の雨に見舞われるシャルロッテ。しかし流石は魔女。使い魔と違い、銃弾を無数に食らわしても生きている。このままでは埒が明かないと判断したマミは大技で一気に蹴りをつけようと、魔女をリボンで拘束する。 そんな魔女に向かって一丁のマスケット銃を構える。さらにそれを魔法でコーティングし、巨大化させる。その大きさはすでに大砲と呼べるほどのものとなっていた。「ティロ・フィナーレ」 そこから発射される一撃。それがマミの必殺技だった。その流れ技にはまったく無駄がない。手ごたえもあった。威力もある。ティロ・フィナーレをまともに食らい、生き残った魔女は今までいない。だからこそマミはシャルロッテを倒せたと思い――油断した。 シャルロッテの口の中から現れる巨大な魔女。どこにその巨体が収納されていたのか、そんなことを考えても仕方がない。魔女に常識など通用しないことは魔法少女をやっている身としては承知しておかねばならない事実だからだ。 シャルロッテはまっすぐマミの正面に向かい、大きな口を開く。マミの視界にはシャルロッテの口の中しか見えない。だがその脳裏には魔法少女になってからのさまざまな出来事が流れ混んできた。キュゥべえに命を繋ぎ止めてもらい、一人戦いに明け暮れる毎日。時には同じ魔法少女と共闘し、また争うこともあった。挫けてしまいそうなことがあっても、自分の力で誰かを助けることができる。自分と同じように理不尽に家族と引き剥がされる子を救うことができる。その思いがマミをここまで突き動かしていた。 そんなマミに後輩ができた。まだ魔法少女じゃない。でもこの戦いが終われば、魔法少女になり、自分と共に戦ってくれるはずだった後輩。ここで自分が敗れれば、その後輩も危険に晒される。それは自分が死ぬこと以上に恐かった。(鹿目さん、美樹さん) そんな二人の身を案じ、マミの意識はそこで途切れた。2012/5/26 初投稿2012/5/27 一部修正2012/6/2 誤字脱字修正、および一部描写追加