神様、貴方は僕のことが嫌いですか?
僕は、そんなにあなたのことを嫌いじゃなかったんですが、これどーゆーことよ。
「皇帝勅使、ルキウス・コルネリウス・レントゥルス・カウディヌス卿!ご入室されます。」
「フラウィウス・クラウディウス・コンスタンティウス・ガッルス殿下!ご入室されます。」
ねえ、誰かさ、教えてよ。
なんで、そこに、イリニが居るん?
なんで、ここに、僕は居るん?
申し遅れました。
フラウィウス・クラウディウス・コンスタンティウス・ガッルスです。
ニート生活を満喫していると思えば、いつの間にか従兄弟の家業でこき使われていたっぽい中途半端な高等遊民でもあります。
取りあえず、ニコメディア離宮で面倒かつ煩雑な社交をお断りしてニコメディアの街へ脱出しました。
あれだね、離宮に居なければ『地方から勉学にやってきた』単なる学生です。
訂正、帝政のご命令に従い過去形になりました。
親愛を込めてプリーズ、コールミー、ガルス。
いやほんとに。
ガルスは、式典と言うものが大嫌いだ。
堅苦しい秩序だった行事に、思いっきり煩わしいことこの上ない宮中づきあい。
父親が、顔を青くするのも容易に理解できるというものだ。
数日、公邸で歓待の宴に捕まっただけでガルスはもう魂が亡命しかけたほどなのである。
当然の次第ながら、公式の行事に参加するなど面倒くさくてさぼれるものならばさぼっていた。
その逃げっぷりと言えば徹底していてニコメディアの離宮から逃げ出して以来、彼は一度もニコメディアの公的行事には足を運んでいない。
そしてだいたいの場合、ガルスは言い訳の材料に困らなかった。
なにしろガルスは皇族という身分さえ除けば勉強中のそれこそ若者だ。
『若輩者にはふさわしくない』『勉学に励むべきだと考える』『より適任の方々がおられる』の三パターンで逃げられた。
変に権力者たちとアルコール飲んでぽろっと何か言われたり口にしたりで巻き込まれたくなかったという配慮も小さくはない。
お酒の席でうっかりやらかせば、明日には皆が知っているなど飲み会の基本だ。
えらい連中の飲み会で、ヘマしたくないし、疲れるし、面倒じゃね?と。
それが、自分の生活習慣を監視している連中にどう取られるかも知らずにひたすら参加を渋っていたガルス。
一応、ガルスとしては僕無害な皇族で、街でふらふら遊んでいるノー天気な人間ですぞアピールで保険は掛けたつもりだったのだ。
皇族だけど、ほおっておくかぐらいの扱いを希望して。
その結果として確かに、彼は、猜疑深い皇帝の警戒をある程度解きほぐすことには成功していると言えるだろう。
だからニコメディアで学習が許されたともいう。
しかし、ニコメディアでも離宮から速攻逃げ出し街で毎日愉快に暮らしている彼は、皇族の基準としてはありえない程清貧だった。
不幸なことに、それは『身の程をわきまえた皇族』であり、同時に『清貧な学徒』という妙なレッテルをガルスに張り付ける。
少しくらい、『皇帝基準で遊んでいる』方がコンスタンティウス2世も警戒したのだが。
故に、人手が足りていないコンスタンティウス2世はついに決断してしまうのだ。
「…カウディヌス卿、皇帝勅使のあなたが上座にお座りになられるべきだ。というか、並んではいること其の物が不遜ではないのか。」
礼節を保ったまま、有無を言わさず人間を連行できるだろうか?
答えは、今尚、諦め悪く足掻いているガルスが全てだ。
「ガッルス殿下、それは違いますぞ。」
「いや、やはり臣下としての節度というものがある。誰か、式部官をここに!式次第の変更を命じなければ…」
「殿下!彼らをお責め下さいますな。私が、そう命じたのです。」
ニコメディアの自宅。
今日の昼飯はなんだろうかと呑気に私塾から帰ったガルスを待ち受けていたのは立派な使節だった。
有無を言わさず馬車に押し込まれた彼が事態を把握するのは離宮に馬車が到着したその時である。
ガルスの頭が悪かろうと、ずらりと離宮の外まで貴顕を迎える人の群れがあればちょっとした予想位はできるものだ。
それから、離宮の奥で彼を待ち受けていた老人は皇帝勅使と丁重な物腰でガルスに名乗った。
そう、申し付けるのではなく、自分から名乗ったのだ。
カウディヌスと名乗った老人は、名門の出らしく丁重な物腰の中にも良い年の重ね方をした品がどこかみえる人物。
どちらかといえば、陽光の当たる道を歩いてきた後ろめたいことの少ない人生なのだろう。
だからこそ、ガルスは厄介ごとを感じるのだ。
午後のこの時間帯に、朗らかな品の良い使者が無理やりガルスを町から呼び出すとは、と。
そして、不審がるガルスに皇帝勅使が伝えるのは…公式行事へ『主賓』としての参加要望だ。
それはガルスにとってちっとも嬉しくない皇族としての扱いを意味する。
しかも、わざわざコンスタンティノープルからいらした。
それで、せめて皇帝勅使が皇帝の名代なのだからと逃げようと足掻くガルスに止めを刺すのがカウディヌス卿の何気ない一言である。
「カウディヌス卿、貴方が、ですと?」
本来、皇帝勅使とは皇帝の名代だ。
つまり、皇帝その人を除いて誰もが敬意を払わねばならない存在である。
当然ながら、その権威を汚すような行為はあまりほめられたものではないのだ。
…皇帝その人の言葉でもなければ。
「お言葉ですが。殿下、皇帝陛下より、ガッルス殿下を我が身の名代と思え、とのお言葉を賜っております。」
「だが御身は、官職にある老練な使者で私は無為の若輩者だ。やはり、貴方が上席に座られるのが道理だろう。」
暗黙裡に、せめて主賓として入るのはカウディヌス卿が先ではないのかという含み。
差し向けた水だが、しかし、老人の顔に浮かぶのは頑固な若者に対する説き伏せるような老人の顔だ。
「ありがたいお言葉ではありますが、私が陛下のお怒りを被ってしまいます。なにとぞ、この翁の顔を立てると思ってくださいませぬか。」
穏やかながらも、断固とした言葉に込められた意味。
それは、皇帝の意を汲んだ臣下のそれだ。
間違っても、この老人の独断ではありえない。
言い換えれば、この公式の宴は『ガルスの従兄弟であり生殺与奪の権利を握る』皇帝陛下の御意志となる。
「そこまでカウディヌス卿がおっしゃって下さっているのだ。遠慮するのが無礼でなければお受けせざるを得ないのでしょうな。」
ここまで言わせて、断るというのは実際、限られた宮中作法の知識からしても間違いなく失礼だし不自然なのだろう。
だから渋々上席に座らせていただくという姿勢を示しつつもガルスは頗る不安だった。
一体、何を皇帝が言ってくるのだろうか?
やはりATMとして最近、引き出しすぎたからだろうか?
しかし…最近の支出は必要な本を買っただけだし、老神父の健康を祈ってちょびっと教会に寄進しただけだ。
悪いことはしていないはず。たぶん。きっと…。
などなど考えた彼は、何か事情を知っているであろう自分の侍従を眼で探し求めたがどうにも見当たらない。
大方、万事心得た顔で自分が狼狽えるのを見守っているのだろうが…意外なことに自分が狼狽しているのにも関わらずからかう声一つないのだ。
そうして、気が付けば拒みようがない立場に追い込まれたガルスが渋々皇帝勅使さまさまに連行されて歩んだ先。
大勢の宮中の人間がずらりと並んだある種、視線に物理的な圧迫感を覚えるような空間が待ち構えていた。
まあ、その空気にまったく馴染みがないわけではない。
だから、彼は自分の名前が高らかに読み上げられた中で自分の侍従がビクリと視界の隅で固まったのを目ざとく見つけられた。
或いは、気付いてしまったともいうが。
こうして、事態は冒頭に戻るのだ。
…あのさ、神様、どうしてイリニがそこに居るん?
思わず、何も考えることが出来ずにフリーズしたガルスだが、彼の傍を歩く老人は完全に勘違いしていた。
慣れない場に出て、緊張してしまったのだろう、と。
実際、ガルスが殆ど命じられでもしない限りこういった場に出ていないのだから蓋然性の高い推測ではある。
皇帝を始めとした宮中の人間も、僅かながらガルスがそういった『失敗』をすることは案じていたのだ。
だからこそ、老練でなおかつ気配りのできるカウディヌス卿が使者の任に充てられたともいうのだが。
「殿下、どうか、お言葉を。」
老人はぶしつけな下々どもの視線を遮るようにガルスの前へさりげなく歩み寄り、言葉をかける。
緊張のあまり忘れているであろうと、気遣っての一言だ。
「ああ、失礼。カウディヌス卿、やはりあなたが…」
年長者なのだし、と言いかけたガルスも、ようやく先ほどのやり取りを思い出したのだろう。
この場で言い争うことが礼儀にかなわないとでも思ったのかそれと無く深い呼吸を一つすると頷いて見せる。
「すまなんだ、諸君。どうか、楽にしてくれたまえ。」
そうして一歩前へ歩み出した彼は、列席者にどこか怯えたような眼ながら顔を向けると鷹揚に頷いて見せる。
主賓の一言、たったそれだけだが、慣れない若者にはちょっとした経験なのだろう、と老人は考えた。
ガルスのちょっとした戸惑いと緊張を看取ったものがいたにせよ、それぐらいが考え付く推量というものだ。
「では、カウディヌス卿。」
「はい。では、お許しいただければ、殿下、乾杯の音頭を取らせていただきたいのですが。」
後は、慣れた補佐役らの仕事だ。
ガルスにこそ伝えていないものの、カウディヌスらにしてみれば折り込み積みの範疇。
若い世慣れぬ貴族の後見とは、年長者のちょっとした礼儀という程度なのだ。
「もちろんだとも。」
「では、僭越ながら。」
杯を掲げ、ガルスと皇帝の健康を願う乾杯の声。
同時に、杯のぶどう酒が空けられることでそれぞれの喉を潤し、舌の周りを潤滑にならしめる。
場はそれぞれの席において、ぶどう酒の品評や、ちょっとした挨拶へと転じていく。
そういった儀礼的な儀式の後に続くやり取り。
ちょっとした歓迎の言葉を交わし、程よく場を温まった頃合い。
座った人々が、それとなく会話を温め始められる程度に落ち着いた瞬間。
「さて、列席した諸君。」
その雰囲気を見極めたカウディヌスは、洗練された宮廷人らしく品の良いそれでいて良く通る声を張り上げていた。
それだけで、なにごとやあらんと姿勢を正す列席者ら。
元より主賓の一人という認識の大物貴族が口を開くのだ。
年長者でもあり、有力者でもある彼の言葉は、そのままでもそれなりに敬意が払われる。
「お集まりの諸君。私、ルキウス・コルネリウス・レントゥルス・カウディヌスは皇帝勅使として陛下よりのお言葉をお伝えする。」
が、それは別格だ。
皇帝勅使として、という一言。
場は、それだけで完全に静まり返る。
良くも悪くも、誰もが傾聴せざるを得ない存在。
それが、ローマにおける皇帝なのだ。
この場に居合わせた誰もが、当然のこととして拝聴する対象。
帝国を統べるその人の言葉。
ただ、それを伝えるだけの勅使でさえも。
ニコメディアの離宮で宴を楽しんでいる人々の背筋をぴんと伸ばさせうるのだ。
その傾聴の姿勢を取る面々をまんざらでもない表情で確認したカウディヌスはガルスへ向き合う。
そのまま重々しく頷くと一つの手紙を取り出し読み上げる。
「告げる。余、フラビウス・ユリウス・コンスタンティウス・アウグストゥスは我が使者の口を持って以下のことを語らせる。」
読み上げられる皇帝の言葉。
それは、皇帝と言う存在の名において発せられる法律も同然の言葉だ。
「フラウィウス・クラウディウス・コンスタンティウス・ガッルス、我が従兄弟よ。汝の献身をローマは欲す。」
そして、その文面は列席者の誰にも誤解の余地なきものである。
ローマの名において、皇族に、皇帝が、公務への参加を呼び掛けるソレ。
「我が従兄弟ガルスよ、お前の勉学を妨げるは心苦しい。が、ローマは汝の献身を必要とするのだ。軍務に汝を招くことを、許せ。とのことであります。」
告げる言葉は短く、明瞭。
誤解の余地のない言葉。
それは、ガルス、そう、皇帝の従兄弟というガルスに対する親しげな手紙。
詫びつつも、断固たる『皇帝』の要望なのだ。
「…陛下のお言葉、確かに。この身は、ローマのものなれば否応などなく。」
君主の臣下が、それも絶対的な強権を持つ君主の臣下が、ほかに何を言いえようか。
「では、殿下の勉学を妨げる無礼をお許しいただけますな。私は殿下をニコメディアより帝都へお招きせよと命じられております。」
「結構です。…無論、可能ならば今暫し、神学をと願わずにはおれませんが。」
「無論、お気持ちは僭越ながら、察するに余りあります。だからこそ、殿下の高貴な自己犠牲の精神には頭を垂れざるを得ません。」
この光景を見れば、誰が理解しそこなうことがあるだろうか。
そこ存在する男性が、良く知るはずの呑気な顔をぶら下げた男が。
困ったようにいつも浮かべている笑顔を浮かべているガルスが。
あの、ガルスが。
皇族、フラウィウス・クラウディウス・コンスタンティウス・ガッルス殿下なのだ、と。
明日の朝にも馬車を用意いたします。
急なことで、殿下の身の回りの品々も十全にはと詫びるカウディヌスの言葉もガルスの耳を通り抜けるだけだ。
彼の頭を占めるのは殆ど混乱と理解しがたい悔悟の念。
一体、何故、こんなことになってしまったのだろうか?
なんで、学問でもしてろと宮中から遠ざけられたはずの自分が呼び戻されるのだろうか?
そもそも、どうして、イリニに自分の身分がばれることを恐れていたのか?
いや、第一に、何故、自分はこうも落ち着かないのか。
良くも悪くも、ガルスという人間は普通なのだ。
地位の壁を越えた付き合いのできる人間を欠いては、些か精神の均衡が揺らぐ。
誰もが、自分を『皇族』として傅くなど…数日は調子に乗れてもやがてはすぐに孤独にさいなまれる。
弟は良い。
彼は、皇族であるということよりも先に家族なのだから。
そして、祖母もまあ、厳しくて苦手とは言え家族だ。
だが、彼にとって気が付けばかなり窮屈な思いをしていたのである。
そんな訳で、ニコメディアの離宮でアルコールを突っ込まれたおかげで凡人なりにふっきれたガルスは家出する。
まあ、ちょびっとだけだけど冤罪を振ってしまったという罪悪感もトッピングされてはいたりするのだ。
ガルスには、いや、普通の人間には、自分の言動が人を処罰させかねないという一事をとっても神経を使いすぎた。
そんな中で、気の置けない私塾の付き合いがあり、自分を連れ回すイリニが居る生活があったのだ。
「ルシウス!」
だからこそ、何か、言葉で上手く形容できない自分の大切な何かが壊れたことにガルスは悟る。
気が付けば、彼は蒼然とした表情で自分の侍従に叫んでいた。
何故、何故、と。
言葉にされぬ部分は、ほとんど感情のままの発露。
「殿下、私も知らぬことでした。」
「だとしても、せめて、気を使ってくれてもいいだろう!」
前もって、公式の場にイリニを出さない程度、ルシウスならば容易にできる。
仕事を命じ、使いにでも出せばそれこそ宴会にのこのこ顔を出すガルスなど気が付きもしないだろう。
知らなかったにせよ、式部の連中が何かごそごそしている時点でルシウスならば察しえたはずだ。
だろう、筈だ。
そんな言葉を脳裏に浮かべて声を荒げるガルスは、ある意味駄々っ子に近い。
そして、それを眺める自分の侍従がどれだけ頭を内心で抱えているか彼は知らない。
「申し訳ありませんでした。ですが…その、事情が変わってしまっております。」
「うん?」
その、罪の言葉を口にするルシウス。
彼にしてみれば…自覚の欠落を改めて認識させられる思いだった。
実際、機会を捉えては『貴方は御自覚が薄いとはいえ『皇族』なのですぞ』と彼としては促していたつもりなのだ。
もちろん、皇帝陛下にとって脅威たらぬことがまずもって重要なのは言うまでもない。
だからこそ、ガルスが学問に専念することそのものには特に異論をはさむ必要はなかった。
イリニに街を引きずられるガルスを放置しておいたのも、本質的には無害だと判じたからに過ぎない。
だが、今、彼は大いに後悔している。
この人は、この殿下は、何というか、普通すぎるのだ、と。
「殿下、恐れながら殿下は公職に興味をお持ちではありませんでした。だからこそ…と思ったのですが。」
「未だ、微塵も、公職になど着きたくないわ!許されるならば、今すぐにでも家に帰り本でも読んで忘れたい!」
この皇族は、眼前の皇族は少なくとも地位を笠に着ない善良な若者かもしれない。
ルシウスにしても、確かに、ガルスという若者がもつその性根が普通だという事はまあ、悪くは思っていないのだ。
が、悲しいかな、彼は皇族なのだ。
本人が、それをどう理解していようと、どうしようもない程に明瞭な事実。
彼は、ガルスは、このローマにおいて皇帝という存在に最も近しい血族なのだ。
「ですが、陛下がそうお望みです。」
「だから、受けるしかないじゃないか!」
「その通りです。殿下、そして殿下の御立場に相応の地位を。」
分かっているようで、やはり本質では理解できていない言葉。
彼は、皇帝の命令に対して従うことを是とする。
本質において、彼は、皇帝に対して叛意はないのだ。
ただ、どうしようもないことに、彼は、そもそも…叛意を抱けるという発想すらないらしいのである。
自分が皇族であるという事を知らぬわけでもないのだが。
立場を彼は、理解できていない。
「だからと言って、だからと言って…友人とあんな形でだな!」
「ああ、その、ご友人ですね、ええ、そうですね・・」
…あと、酷く鈍感でもあるらしい。
「ルシウス、ともかく、あれでは自分が誤解されてしまう!」
「ええ、ああ、しかし、殿下。誤解と申されましても…。」
「ええい、どうすればよい。何か、考えを出せ!」
やれやれだ。
「殿下、そうまでも仰られるのでしたらばやはり陛下にお願いするしかありません。」
彼は、理解していないのだ。
皇族であるという事を。
その皇族を、皇帝が招聘するという事の重さを。
彼は、ガルスは、皇帝陛下が『必要』とする皇族なのだ。
「ああ、わかった。確かに、そうだ。私はちっとも軍務になんて向いていないからな。」
「ええ、ですので殿下、陛下にご相談為さることです。殿下が申し上げれば、陛下もお考えを翻されるやもしれません。」
翻意など望みえないのだ。
…皇帝陛下が、ガルスを呼び戻すなどたった一つしか理由はないのだから。
陛下には、忠実な臣下ではなく、忠実でかつ無害な皇族が必要な事情が生じたのだろう。
だから、もっとも皇族の中では権に興味を示さないガルスが選ばれたのだ。
学究生活に戻してくれとガルスが泣き言を漏らすことを考慮してなお、選ばれたのだろう。
だが、それ以上はやはり口にするには分が過ぎるのだ。
それ故に、ルシウスは丁重に一礼しつつ内心で嘆息する。
これは、どうしたものだろうか、と。
後書き
最近、ちょっと忙しかったりテンションが変だったりしましたが私は元気です。あとそういえば、ガルスでは書いてませんでしたが、呟き始めました。(@sonzaixです)
ガルスよ、強く生きるのだ…。