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No.33236の一覧
[0] 魔法使いの夜のSS (8/27SS追加、8/30項目微修正)[32-265](2012/08/30 00:40)
[1] 魔法使いの長い夜(短編)[32-265](2012/05/25 03:34)
[2] とある結末とそこに至る経緯、二週間前[32-265](2012/06/09 01:14)
[3] とある結末とそこに至る経緯、三ヶ月前[32-265](2012/06/09 01:13)
[4] とある結末とそこに至る経緯、二ヶ月前[32-265](2012/06/16 04:59)
[5] とある結末とそこに至る経緯、一ヶ月前[32-265](2012/06/23 19:23)
[6] とある結末とそこに至る経緯、前夜[32-265](2012/06/29 19:49)
[7] とある結末とそこに至る経緯、三日前[32-265](2012/07/06 03:38)
[8] とある結末とそこに至る経緯、その日の朝[32-265](2012/07/13 03:17)
[9] とある結末とそこに至る経緯、七ヶ月ほど前[32-265](2012/07/13 03:18)
[10] とある結末に至る(完結)[32-265](2012/08/27 21:23)
[11] とある結末の、三ヵ月後(後日談)[32-265](2012/08/27 21:12)
[12] とある結末の、十年後(後日談)[32-265](2012/08/27 21:14)
[13]  ┗とある結末の、十年と少し先(IF)[32-265](2012/08/30 05:44)
[14]   ┗とある魔女の独白(IF)[32-265](2012/08/27 21:26)
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[33236] とある結末の、三ヵ月後(後日談)
Name: 32-265◆29996d79 ID:d411aa3f 前を表示する / 次を表示する
Date: 2012/08/27 21:12
「新しいのを淹れてきたよ」
「ありがとう」
彼女にしては柔らかく礼を言った。
少年の差し出したカップをテーブルから持ち上げて揺れる琥珀色を眺め、香りを味わう。
そしてゆっくりと口をつけてから、カップを戻す。
やはりまだ物足りない。
不味くはないと思えるところまで来ただけでもよしとすべきか。
「今夜も?」
思いとは別に聞きたかったことを少女は問うてみた。
「ちょっと緊急でヘルプ頼まれてね」
昨日も彼はそう言っていた、ついこの前も同じやり取りをした記憶がある。
本当は嘘を吐いているんじゃないかと思うこともあるが、彼の嘘はばれやすいのだ。
だから今回も本当にそうなのだろう。
「朝練もあるのに?」
少年は渠裸大のスポーツ特待生枠を滑り込みで“強引に”ゲットしていた。
それはスポーツ界で全国・世界を狙える逸材のみが手に出来る特権のようなもの。
彼としては特典のひとつである授業料免除だけが魅力だった。
奨学金という考えもあったがあれはあくまで借金、未来の前借りである。
今後の人生設計もままならない彼には選べない選択だった。
すでに通常通りの受験して合格している時点でスポーツ特待生にはなれないのだが、“お眼鏡に叶わなければ合格取り消し”という条件付の適正試験を異例で行い乗り切った。
ちなみに少年は過去の公式記録ゼロで陸上種目全てを受験するという、特待生制度始まって以来の偉業に挑み、その気概と体力も買われて補欠枠で陸上ランナーに落ち着いている。
合田教会のボランティアに毎月欠かさず参加していたこともあって、副教頭のコネが働いたことが大きかった。
他にもいろいろ裏で動いていたという噂もあるらしいが、少年がその全てを知ることは永遠にないだろう。
とにかく、継続は力とはよく言ったものである。
「だからそのまま大学で仮眠を取る予定」
「そう」
少女はそのまま授業をサボる気ではないかと疑ったものの、口にはしなかった。
二人の会話はそこで終わる。
元より一緒に長く居ることはあっても長々と語り合う間柄ではない。
主な話題の提供者は彼の方だったが、今日はこれといっためぼしい出来事もないようだ。
バイトまでの待ち時間にと勉強を始めた彼に倣い、彼女も再び手元の本に目を落とす。
しかし一文字も読み進められなかった。
ふいに、先日の出来事が蘇ったのだ。








――――とある結末の、三ヵ月後――――







「二人だけにして。ちょっとだけでいいから」
「…………解りました、上で待ってます」
青子の願いを聞き入れて、詠梨は階段を上っていく。
足音が遠ざかり消えたところで彼女は空なんて見えない牢獄で天を仰いだ。
「ッ~~~~~~~~~~~~~!!!」
声無き絶叫。
断末魔だったのかもしれない。
全身を震わせてあらゆる感情を全力で噛み殺す。
握り締めた両の拳からは血が滴り落ち、降り始めの雨滴染みた音を鳴らした。
涙の一つも零さず開ききった目は何を見つめていたのだろう。
最後まで、一言も漏らさず、総てを飲み下す。
それもものの十数秒、青子はふっと体を弛緩させると膝を曲げ、自らが滅多打ちにした彼に向き直る。
本気で殴っていれば塵になってもおかしくないのに、血を流し骨が折れ傷ついていてもほぼ原形を保っていた。
血の付いた手で紅い髪を掻き揚げて、そっと、そのまま足元に横たわる亡骸に唇を重ねる。
その横顔は胸中穏やかでない有珠が我を忘れて魅入ってしまうほど、彼女らしくない美しさを放っていた。
「――――」
そのまま静かに、青子の儀式は終わった。
唇を離し目を開けたその一瞬、彼女が泣きそうになっていたのを有珠は見逃さなかった。
しかし表現を変えればたった一瞬で青子は自分を切り替えたとも言えた。
「ごめん、これだけは譲れなかった」
青子は半開きになったままの少年の瞼を伏せ、立ち上がると有珠に向き直る。
「次は有珠、あんたの番よ。
 選択しなさい」
少女は本当は独り占めにしたかったそれを彼が望んだようにもう一人に分け与える、否、今は亡き彼に代わって突きつける。
「…………っ」
以前に増して強い意志を放つ双眸が有珠には眩しすぎて、逆に目が逸らせない。
どうしてと問うこともできない。
ずるいと文句も言えない。
拒否もできない。

――――だって、こんな結末にしたのは他でもない、自分なのだから。

「ただしこいつの持つ私の過去は根こそぎ奪っていく」
記憶も、気持ちも、自分が死ぬまで返すつもりは無いと青子は目で告げる。
「“今の私”ならそこを貴女に入れ替「やめてっ」
有珠の口から吐き出されたのは掠れた悲鳴だったが、絶対的な拒絶を含んでいた。
そんなことは決して望んだりしない、彼と過ごした大切な想い出がいびつに歪んでしまう。
願えば青子は自分の記憶を私に移してその違和感すらなくしてしまえるに違いない。
二人だけで完結する世界なら――――残酷な誘惑に発狂しそうになる。
違う、私は既に狂わされている。
知らず知らずのうちに自ら、狂ったのだ。
朱に交われば赤くなるように、どんなに別の色を加えても元の色には戻れないのだ。
選ばなければならない。

私は――――










「また考え事?」

かけられた声に有珠は現実へと引き戻される。
内面を表に出したつもりはなかった、ただ時計の針を見れば三十分はそうしていたようだ。
ページすら変えず目も動かさないのだから不審がられて当然といえば当然か。
本を閉じて横に置く。
「静希君」
「なんだい有珠」
いつもと変わらぬ表情のまま、少年は少女の視線を受け止める。
「何も訊かないのね」
あれからかなり経ったのに、草十郎は未だに事の詳細を誰にも問いかけたりしていない。
むしろ最初からそう決まっていたという態度で、事が起こる前となんら変わらない日常を過ごしていた。
有珠も当初は彼女らしからぬヒステリックな態度で問い詰めたりしたが、それでも彼は飄々とそれら全てを受け流してきた。
“何も知らないのだから”と。
それこそ詰問がすぐさま尋問へと変わり、やがて拷問になって死に目に遭おうとも、その一点張りで。
「訊いて欲しいとは聞こえないけど」
普段から察しの悪い草十郎も流石に有珠の態度がいつもと違うのに気づく。
強いて言えば、あの日のロビーで見た彼女と同じ。
答えを求めていながらも同時に聞きたくないというような理不尽さ。
少なくともひと月前のように、自らの感情をぶつけて鬱憤を晴らしたいだけではなさそうに見えた。
「…………」
「………………」
無言での詰問、話を変えるのも無視するのも認めない。
有珠は草十郎から目を逸らさず、静かに口を開くのを待っている。
「…………そうだね、気にならないといえば嘘になる」
少女のあまりの頑なさに今回ばかりは無理だと理解して、少年は吐露した。
「自分だけがその人のことを忘れてるんだから気にしない方が無理だ。
 この間、久方梨から電話を受けた時も困ったよ。
 橙子さんやベオだけじゃなく鳶丸や木乃美まで話題にあげるんだから、共通の知人だったんだろうね」
あの日以降、何度も聞いて覚えているはずなのに彼は決してその名では呼ばなかった。
その上、彼女の写真も録音された声さえも頑なに拒絶し続けていた。
記憶喪失だと、助力を惜しまなかった友人達に申し訳なく思わなかったわけでもない。
「でも訊こうとは思わない、誰にもね」
「どうして」
「その人は俺のことを考えて消したんだと思うから」
全ての記憶を奪われたわけではない。
自分が何をやろうとしたかを草十郎ははっきりと覚えていた。
だからこれは与えられるべき結果であり、その人はきちんと自分の思いに応えてくれたのだと理解できていた。
「人の過去を無闇に詮索するのも、人の思いを無碍にするのも良くないことなんだろう?」
何より文句をつけるどころか感謝したい、と。
「………………」
有珠は唇を噛み締める。
そう言って何でもかんでも解ったように自然に受け入れる彼の懐の広さが憎かった。
盛られているのは毒薬なのに、特効薬だと言われてそのまま飲む様は人を信じる美しさであり、同時に人を疑わない汚点でもある。
だいたいその物言いは自分が記憶を奪われたことを理解している。
そうすると一番最初に聞かされた時すでに、彼はそれを受け入れていたのだろう。
キチガイ染みた達観で、精神を磨耗する事無く、淡々と処刑台に立つ日を待ち望む囚人のように。
自分がここで真実を告白したとしても、彼は何事もなかったかのように受け入れてしまう。
すでに旅立った彼女も気づいていたに違いない、それでも自分を露ほども責めなかった。
それは魔術師が為して当然のことで、彼自身もそれを求めていたから。
それを知っていたから、本当はその場で殺したいくらいに思っていたくせに見逃した。
彼のために。
あれが不可抗力だったなんて事までは知らないだろう、でも穏便に済ませられず結果的に目の前の彼を殺したのは私。
そして生き返らせてと願ったのも私。
――――嗚呼、本当に。
魔女と呼ぶに相応しい気まぐれで身勝手な振る舞い。


「それにね、もう有珠を一人には出来ない」


草十郎の言葉は誓いそのものだった。
「死ぬつもりはなかったけど、今生きてここに居るのならそう言う事になる。
 俺は有珠と同じではないし頭も良い方だとは思わない、お金もない、自慢できるのは体力だけだけど。
 それでも、わずかでも頼りにされているのなら、それに応えるのもひとつの――――
それ以上、喋らせたくなかった。
有珠にとって彼が自己否定をする姿を見るのは、自らの罪を責められることよりも辛かった。
「あり「絶対に、もう勝手に死ぬなんて赦さない」
草十郎の頭を胸に抱き、有珠は命じる。
自らの罪を胸の奥に秘めたまま。
贖罪を請うてはならない、この痛みを消してはならない。
決して明かしてはいけない深い想い(きず)。
「貴方の未来は全部、私のもの」
過去は全てもう一人に持っていかれた。
ならばこの先は、全て、自分がもらっていく。

「ああ、そうだね」










―――― 坂の上のお屋敷には、二人の魔女が住んでいた ――――


―― 少年は生きてゆく為の答えを求め。
     彼女は振り返る事無く先へと進み。
       少女は仮初の安寧に身を焦がして ――――




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