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No.33236の一覧
[0] 魔法使いの夜のSS (8/27SS追加、8/30項目微修正)[32-265](2012/08/30 00:40)
[1] 魔法使いの長い夜(短編)[32-265](2012/05/25 03:34)
[2] とある結末とそこに至る経緯、二週間前[32-265](2012/06/09 01:14)
[3] とある結末とそこに至る経緯、三ヶ月前[32-265](2012/06/09 01:13)
[4] とある結末とそこに至る経緯、二ヶ月前[32-265](2012/06/16 04:59)
[5] とある結末とそこに至る経緯、一ヶ月前[32-265](2012/06/23 19:23)
[6] とある結末とそこに至る経緯、前夜[32-265](2012/06/29 19:49)
[7] とある結末とそこに至る経緯、三日前[32-265](2012/07/06 03:38)
[8] とある結末とそこに至る経緯、その日の朝[32-265](2012/07/13 03:17)
[9] とある結末とそこに至る経緯、七ヶ月ほど前[32-265](2012/07/13 03:18)
[10] とある結末に至る(完結)[32-265](2012/08/27 21:23)
[11] とある結末の、三ヵ月後(後日談)[32-265](2012/08/27 21:12)
[12] とある結末の、十年後(後日談)[32-265](2012/08/27 21:14)
[13]  ┗とある結末の、十年と少し先(IF)[32-265](2012/08/30 05:44)
[14]   ┗とある魔女の独白(IF)[32-265](2012/08/27 21:26)
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[33236] とある結末とそこに至る経緯、前夜
Name: 32-265◆29996d79 ID:d411aa3f 前を表示する / 次を表示する
Date: 2012/06/29 19:49

一言に紅茶を淹れると言ってもそこに含まれている所作は千差万別である。
同じポット、同じカップ、同じ茶葉、同じ水。
使うものは同じでも扱いがわずかに違うだけでも精製される味は全く変わってしまう。
その差を全くと捉えるのか少しとするのかは当人の舌次第。
「………………」
向かいの席で黙々と勉強に励む草十郎を有珠は見やる。
彼の視線は教科書とノートを往復するばかりでこちらの視線に気づく様子はない。
相当集中しているのだろう、勉強を始める前に淹れた彼の紅茶からはもう湯気は昇っていなかった。
寝食を忘れてと言う喩えもあるがまさに今、彼はその心境にあるのだろう。
本をめくる手を止めて少年の淹れてくれた紅茶に少女は手を伸ばす。
そして一口…………やっぱり足りないわ。
予想するまでもない味だった。
一言で言えば不味い、それ以外の表現のしようが無い。
この微かな甘さは量販店で安く大量に投げ売られている上白糖ではなさそうだが、彼なりの工夫なのだろうか?
だとしても紅茶は茶葉そのものの味と香りをありのままに楽しみたい。
本当に解っていないのね。
成長の兆しも見えなくも無いが、自分の淹れるものとは天地ほどの開きがある。
どうしたらこれほど不味いものを淹れられるのかが理解できない。
そう思いつつももう一口。
物思いにふけつつ、もう一口と飲んでいるうちに器は空になってしまう。
「………………」
そのままじいっとお気に入りのティーカップを見つめる。
こんなに不味いのに、どうして私は全部飲んでしまったのだろう?
すぐに考えるまでも無い理由が浮かんできそうで、疲れを感じた有珠は軽く瞼を閉じた。








――――とある結末とそこに至る経緯、前夜――――







「淹れようか?」
声をかけられて目を開ける。
走るペン先を止めて、こちらの様子を窺う彼の顔が見えた。
空のティーカップを持ったままだったから、ひょっとすると催促しているように見えたのかもしれない。
「ええ、お願い」
別に欲しかったわけではないが彼女の口はそう答えていた。
草十郎が勉強していてその向かいで有珠が読書に耽る。
二人で過ごす静かな時間。
既視感を覚えた彼女はあれは初めて彼の手料理を食べた日だっただろうかと記憶の糸を辿る。
あの日から、ずいぶんと遠くまで来たような気がした。
「最近」
「ん?」
有珠の呟きのような呼びかけにも慣れてきた草十郎が反応を示す。
「最近、どう?」
「何が?」
具体的でない問いかけに少年は委細を求める。
「青子のことよ」
新しく淹れられた紅茶を一口飲んでから、仕方なく有珠は言葉を続ける。
この二週間の間に片手で足りる数、それがあの事件以降、彼女と青子が顔を合わせた回数だった。
会ったとしても会話らしい会話もなく、視線を交わすだけで終わった時もあるほど険悪。
当然、毎晩行っていた魔術の指導も今は出来なくなっていた。
有珠は責務を感じていても相手にその気がないなら強要すべきではないと考えている。
それに教えを乞われたとしても、この心境では何が原因で殺し合いになるか判ったものではなかった。
――――あの時。
お互いにギリギリのところで自制したからこそ、どちらかが死なずに済んでいる。
これなら共同生活を始めた直後の方がましだったかもしれない。
そう少女に思わせてしまうほど、彼女達の仲は不必要に荒んでしまっていた。
自分は根に持つ性分で怒りが継続する時間も比例して長いが、それでも今の状況は限度を越えている。
怒って謝って痛み分けにして済む話ではない。
きっとそれは青子も同じ、否、彼女の方が苦しんでいるのかもしれないと有珠は思う。
留まることを嫌うあの子らしくないと思う一方で自分もらしくないのだろう。
「私も卒業してから生活時間変わってるし、会わなくて」
貴方の方が近いでしょ、と冷戦の火種となった無自覚な少年に問うてみる。
「機嫌が悪い、の一言かな」
会おうと思うなら部屋に行けばいいのにとは草十郎も返さない。
「いつもよりもずっと。
 何か聞こうとすると凄く睨まれるというか。
 無視して口を開いた途端に殺されてもおかしくない感じだった」
それを理解しているにもかかわらず、彼は青子を見かければ声もかけたし挨拶もした。
表情は読みにくかったが有珠も同様に機嫌が悪かったのも知っている。
それでもいつもと同じ態度で彼女達に接するのが、彼の彼たる由縁でもあった。

――――丁度紅茶を淹れるところだったんだ、有珠も飲むかい?

一時間ほど前に聞いた少年の誘い文句。
それが自分に対するご機嫌伺いだったなら有珠も相手にしなかっただろう。
裏表の無い草十郎の言と知っているから彼女は応じたのだ。
それが不味いと判っていても。
「やっぱり首輪を壊したのが悪かったのかな……」
反省する草十郎の首には包帯が巻かれている。
そこだけが、三人が出会ったばかりの頃に戻ったようだった。
あれからもう二週間は経つのに彼に彼女達から新たな拘束具は与えられていない、毒すら飲まされていなかった。
彼女達が露骨に手を抜いたわけでもないし、彼への信頼の深さから不要になったというわけでもない。
安易に手出しが出来なくなった。
それが真実。
「ごめんなさい」
有珠の謝罪はここに居ない彼女に対してではない、それを大事にしていた彼へのものだ。
「違う、あれはこっちが悪いんだ。有珠には迷惑かけてすまなかったと思ってる」
草十郎は魔女の気まぐれでまた生かされたのだと思っている。
青子は有珠の取り乱しようを話さなかったし、その機会も与えなかった。
有珠は自らの行為を喧伝して回るものでは無いと思っている。
それこそ恥、恥ずかしいではないか、と。
そんな少女らしい理由が少年に解るはずもなかった。
「あの時助けてくれなければこうしてまた話すことも出来なかったし。
 ありがとう、有珠」
「――――」
唐突な感謝の言葉に有珠は胸を詰まらせる。
「まだお礼は言ってなかったよね」
少年の笑顔は少女の心に幾らかの救いをもたらした。
「…………」
何か言おうとしたが声にならない。
言葉が思いつかない、自分が何を言おうとしてるのかさえ解らない。
でも何かを伝えたいのは本当だった。
「……………よし」
そんな風に有珠が戸惑っているのにも気づかず、草十郎は会話が終わったと判断し、すっかり冷めた紅茶を一気に飲み干し勉強を再開する。
本来ならもうしなくてもいい時期にはきているのだが、自分の力量不足を補うために行っていた。
結局試験を凌ぐだけの勉強では身に付かない、継続しないと意味が無い。
この一年少々で少年が繰り返し経験し、学んだことだった。
「…………ぁふ」
やりたいようにやる、実は自分勝手でブレの無い彼の姿を見てほっとした所為だろう。
あくびが出てしまった有珠は咄嗟に口を手で隠す。
「疲れてるんじゃないか?」
余計な気遣いと以前なら怒りさえ覚えていたかもしれない言葉に、
「そうね」
と軽く肯定しカップに半分ほど残った紅茶を飲み切る。
今は、今この時だけは自身を飾り立てする必要性を少女は感じなかった。
「そうか」
それ以上は追及しない彼の変わらなさが何よりありがたく思えた。
胸のつかえは取れたが、この数日の青子とのやりとりは精神的な消耗が激しい。
そんなもの気にしなければいいとは思うが、最早手遅れだ。
出来れば気づきたくなかったのかもしれないほどに、やっぱり私は、彼を――――
「まだ早いけど部屋に戻るわ」
本を閉じて立ち上がる。
「おやすみ」
「おやすみなさい」
ごく自然に、微笑を返していた。
一瞬彼の目が丸くなって、それから穏やかなものに変わる。
それだけで全てが満たされたような錯覚を覚える。
ドアへと向き直り数歩、有珠はそのまま倒れそうになり――――
「本当に大丈夫か?」
気づけば彼に支えられていた。
軽く頷いて少女は応える。
彼に触れられるのはこれで何度目だろうなんて胡乱な頭で思い出そうとしてみる。
「ここで寝るわけにはいかないだろ、部屋まで送ろうか?」
「ううん…………ここで」
少し休むから、と頭を振る。
明滅する意識の中、ぼんやりと片づけをしていない部屋が思い出された。
余計な心配をかけてしまう。
恥ずかしさもあるが強烈な眠気にそこまで感情が働かない。
たまにあるうたた寝、彼女は眠気を感じた時は素直にそのまま眠っていることが多い。
それはこの屋敷のどこにいても同じだった。
それでも今は彼がいて、誰かが居る時にここまで眠さを感じるのは初めてだった。
元よりもう一人の住人とはそれなりに緊張感を保った生活をしていたから、そういうこともなかったし避けるようにしていた。
彼に初めて寝顔を見られたあの日。
あの日は本当に久しぶりで――――ふわっとした浮揚感に包まれたかと思ったら、もう下ろされていた。
「これなら――――
もう聞こえない。
重い瞼を持ち上げる、がすぐに落ちてしまう。
ぼやけて見えたのは彼の顔、久しぶりに安眠が出来そうだと、取り留めの無いことを、
ああ、また寝顔を見られてしまうのね…………
そんなどうでもいいことが思考の最後に浮かんで、消える。
草十郎に今までにない近さを感じたまま、有珠は眠りについた。




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