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No.33236の一覧
[0] 魔法使いの夜のSS (8/27SS追加、8/30項目微修正)[32-265](2012/08/30 00:40)
[1] 魔法使いの長い夜(短編)[32-265](2012/05/25 03:34)
[2] とある結末とそこに至る経緯、二週間前[32-265](2012/06/09 01:14)
[3] とある結末とそこに至る経緯、三ヶ月前[32-265](2012/06/09 01:13)
[4] とある結末とそこに至る経緯、二ヶ月前[32-265](2012/06/16 04:59)
[5] とある結末とそこに至る経緯、一ヶ月前[32-265](2012/06/23 19:23)
[6] とある結末とそこに至る経緯、前夜[32-265](2012/06/29 19:49)
[7] とある結末とそこに至る経緯、三日前[32-265](2012/07/06 03:38)
[8] とある結末とそこに至る経緯、その日の朝[32-265](2012/07/13 03:17)
[9] とある結末とそこに至る経緯、七ヶ月ほど前[32-265](2012/07/13 03:18)
[10] とある結末に至る(完結)[32-265](2012/08/27 21:23)
[11] とある結末の、三ヵ月後(後日談)[32-265](2012/08/27 21:12)
[12] とある結末の、十年後(後日談)[32-265](2012/08/27 21:14)
[13]  ┗とある結末の、十年と少し先(IF)[32-265](2012/08/30 05:44)
[14]   ┗とある魔女の独白(IF)[32-265](2012/08/27 21:26)
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[33236] とある結末とそこに至る経緯、その日の朝
Name: 32-265◆29996d79 ID:d411aa3f 前を表示する / 次を表示する
Date: 2012/07/13 03:17
翌朝サンルームで独り、草十郎は朝食を食べていた。
三人揃って食べていた頃を少し懐かしむ。
こうして独りで食べるご飯は味気ないものだと改めて気づかされる。
しっかりとした味はある、でも何かが物足りないのだろう、今ひとつ美味しいと感じられない。
一晩ぐっすり寝て体調はすこぶるいいはずなのに気分はいまひとつすぐれない。
「有珠は?」
挨拶もなく入室と同時に質問が投げかけられた。
「おはよう蒼崎」
草十郎は現れた青子にまずは挨拶を返す。
「まだ寝てるんじゃないか? 昨日はかなり疲れてたみたいだった」
そして質問に答える。
「そう」
居るのは最初から期待してなかった。
入った時点で一目瞭然、彼女にとってそれはただの確認に過ぎない。
「食べるならついでに用意するけど?」
そう言われてテーブルに並べられた少年の食事を見る。
エッグトーストにミルク、インスタントのコーンスープにあとは添え物程度のサラダといったところ。
本当は自分の番だったはず。
ほとんど意識に入れなくなったホワイトボードの存在を彼女はふと思い出す。
二週間前の事件を境に当番制はあって無いようなものだ。
少年は自分のペースを崩さなかったが、二人の少女の生活ペースは故意にずらされているようだった。
同じ屋敷に住んでいながら会わない。
キッチンや居間、ロビーそしてこのサンルーム、浴場も含め共通で常日頃から利用する区画は少なくない。
それでも会わないのなら――――それは、お互いがお互いの存在を感知して避けているだけの話。
両者に、特に青子にはらしくない逃避と呼んで差し支えない行為だった。
当人が問われたとしても、あんたのためなんてこれまたらしくないことを言いかねないほどにある状況を忌避している。
切実な迷いや悩みがあるなんて自分でもらしくないと、しかもそれを思い浮かべることも声として形にすることさえ恐れていると言っても過言ではなかった。
常に前へ前へと、足踏みなんて性分に合わないのにそれを続けているのは、未練や名残というものだろうか。
そう思う時点で答えは出ているのだがそこにも彼女は気づけない。
「そうね、お願いするわ」
と自分の席に着く。
入れ替わりに草十郎が食事を中断し、席を立った。








――――とある結末とそこに至る経緯、その日の朝――――








「………………」
「…………」
何かしら会話があるかと思えばそうでもなかった。
青子とて期待していたわけではない。
それでも本当に朝食に誘っただけなんて、と思うのは仕方が無いだろう。
状況が状況なのだから、食事は本題ではなく何らかのきっかけを掴む契機として利用するべき。
それも解らないほどバカなんだろうかこいつ。
やるせないと彼女が見た彼の横顔は、非常に満足げに見えた。
「何よその顔」
それが何故か気に食わない少女は棘のある声で突っつく。
「いや、蒼崎とご飯食べるの久し振りだろ」
「………………」
だから?と促す視線に少年は笑顔で答える。
「嬉しくて、つい」
「あ、そ」
努めてそっけなく、青子は目を逸らす。
心臓を鷲掴みにされたかと思った。
なっ、何恥ずかしいことをいきなり言って――――なんて少し前なら言葉に出さずとも思っていたかもしれない。
もしかすると反射的に殴ったり問答無用で首輪を絞めた可能性もあったのだろう。
でも今感じているのは紛れもなく苦痛、甘さなど何処にも無い。
過去に何度も、彼女は彼の存在を毒として捉えていた。
「……あんな事あったのに、こんな状況なのにアンタは全然変わらないのね」
「なにが?」
草十郎に問われ、自分が相当参っているのを青子は自覚する。
「なんでもないわ」
追及を断ち、余計な事を喋らないようホットミルクを口に含む。
途端に彼女は顔をしかめた。
ホットミルクに砂糖でも入れてあったのか、確かな甘みが舌を撫でた。
子供じゃないっての。
だいたい他がプレーンな味付けばかりしているのにこの甘さは無いと断じる、明らかに異物だ。
自然、抗議の眼差しは外を眺める少年へと向けられる。
そこではたと思い出す。
そうだ、異物だったのは――――静希草十郎、こいつだった。
変わってしまったのは自分達、そして調子を狂わされるのを容認したのは自分。
自業自得だと理解も納得もしている。
人生にいくつかのターニングポイントがあるとすれば、人と人との出会いもその中の一つだろう。
青子は自問する。

この出会いに後悔はあるか?

あるわけがない。
そもそも自分の過去において後悔など一つも無い。
本当かと問われれば確かにああしておけばと思ったことが無いとは言わない。
でも結局それは一過性のもので、すぐにこれからの事へと思考は切り替えられている。
全ての過去を今の自分の踏み台にして未来へと突き進む。
つまり後悔として永続的に残っているものなんて過去の人生を何度振り返ってみてもひとつたりともなかった。
苦しかったり辛かったり怖かったり悲しかったり酷いことは色々あったがそれでもだ。
うん、私の人生に悔いなんて無い。
私は私のままだと納得して、青子は甘ったるいホットミルクも含め朝御飯を完食した。
「――――」
そんな青子の表情の移り変わりに草十郎は見入っていた。
「な、なによ」
視線に気づいて少女は反射的に睨み返す。
ずっと見られていたのかと思うと彼女も気が気でなくなってしまう。
ひょっとすると寝顔を見られたのより恥ずかしいかもしれないなどと思ったりした。
「べつに」
少年は満足げな表情は崩さずに言葉を濁す。
あえて言う必要も無い、と。
このささやかな満足感は自分の胸の内にだけあればいいと言うように。
「別にじゃなくてはっきり言いなさい」
しかし少女はそんな彼の独りよがりを許さない。
うやむやにされては困ると、微かに耳を赤くしたまま命令する。
「蒼崎らしいなって」
仕方ないと幸せそうなため息をついて草十郎は答えた。
「何がよ」
「相変わらず機嫌は悪そうだけど、悪そうでないところなんか特に」
「なんなのよそれ」
言葉の意味は解らないが、青子は草十郎に心の底まで見透かされたような気がした。
無性に腹が立ったのでいつものように指を鳴らそうとして、思い直す。
もう、彼を戒めている枷は無い。
何も無いのだ。
彼はあの時から自由で、ここに縛られている必要も無いのに今もここに居る。
「――――」
それを問うことに意味があるんだろうか。
突然寒気が身を包んで、少女はブルッと身震いした。
まだ窓辺伝いに残っていた冷気が首筋を撫でたのかもしれない。
両の手で二の腕を擦りながら、日差しがもう少し強くなるまで待とうと心に決める。
「ご馳走様。もう一眠りするわ、お昼ご飯になったら起こして」
彼女は両手をテーブルについてよいしょと立ち上がる。
変わる頭の高さに草十郎の目線が追従する。
「有珠と三人で食べましょ」、
青子なりのけじめ。
時間はかかったがもう足踏みなんてしていられない。
前を向いて歩いてこその蒼崎青子なのだ。
「ああ、準備はやっておくよ」
その背に少年は応えて、同様に立ち上がる。
少女は前向きな提案をしながら体の向きを変えたから、彼の表情の、一瞬の変化に気づけなかった。
「蒼崎、背中にゴミが付いてるぞ」
「え?」
足を止める。
背中なんて見ようとしても見えるものではない。
「じゃあお願い」
当然のように素直に。
青子はそのまま背中を草十郎に預けて――――


とん、


と。
首筋に強かな衝撃を感じた。
はっきりと認識できたのはそこまで。
衝撃は彼女の長い髪の上から肌を徹し延髄へ伝播、思考と運動の中枢を機能不全に陥らせる。
思考も許さぬ心の空隙、何をされたのか理解することも出来ず。
肉体の反射でそのまま倒れそうになるのを何とか踏みとどまろうとして、よろめきながら。
霞んで焦点の定まらぬ視界の中。



虫のような能面を、見た。

次の瞬間、青子を訳の解らない――――そこで意識は完全に絶たれた。






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