ギレンの野望 IF ある男のガンダム戦記宇宙世紀0052。一人の英雄がサイド3ムンゾに入った。名前をジオン・ズム・ダイクン。地球連邦が危険視する反地球連邦、親スペースノイド、サイド独立主義者である。彼のサイド入りは多くの人々に共感と希望を与えた。前年に凍結されたコロニー開発計画は、スペースノイドにとって棄民政策と捕えられた。実際は予算の増大を懸念した緊縮財政の結果であったのだが、一般市民にそこまで深読みする事を求める事自体が困難であるのは古来よりの伝統である。加えて、ジオンと共にサイド3へ入ったザビ家などの有力スペースノイドの存在がジオンを強気にさせた。そんな傍らで。一介の官僚が、小さな、それでいて大きな生き方を見せる。 これは、激動の時代を駆け抜けたある一人の男を中心とした群雄伝説である。Side ウィリアム・ケンブリッジ 宇宙世紀0052.04.09地球連邦 首都ニューヤーク 旧国連ビル「ウィリアム・ケンブリッジ宇宙開発補佐官」若手。この年26歳になるケンブリッジは従兄弟にして秘書のミール・ケンブリッジに呼び止められた。ニューヤークと名前を変えたかつてのニューヨーク、その摩天楼の一角を形成する国連ビルの60階で。「何か?」「相変らず無愛想ですね・・・・・これ、今回の報告書です。読んでおいて下さい」「日本、アメリカ、旧EU圏の内イギリスからの強制宇宙移民が制限されだした。移民はアフリカ地域、アラブ・中央アジア地域、インド南部地域、東南アジア地域、イギリスを除くEU地域、ロシア地域、オセアニア・太平洋地域に集中した、か。うーん・・・・・地球連邦未加盟の中華人民共和国、朝鮮民主主義人民共和国、インド北部地域、イランなどは人口爆発を利用し、コロニーと貿易する事で息を吹き返しつつあるな」インド経済の南北対立。ムンバイを中心としたインドとニューデリーを中心としたインド。経済と政治の対立に宗教・歴史の対立が加わり、インドは宇宙世紀0012年の春、連邦に残った南部と分離・独立の北部へと分裂した。また、西暦1990年の天安門事件の対立を引き摺ったため、西暦1999年地球連邦非加盟国となった総人口15億を数える中華人民共和国、更に主導権を握るアメリカ合衆国への対立から参加しなかったボリビア、キューバ、シリア、イラン、朝鮮民主主義人民共和国がある。地球連邦は地球圏の国家の大半を掌握したが、全てでは無かった。当然ながら、地球連邦は北部インド連合の独立を認めておらず、セイロン島コロンボ基地、南インドマドラス基地に大軍を展開。ディエゴ・ガルシアのインド洋艦隊と共同でこの40年間経済封鎖を続けてきた。5年前には主要都市に対して反乱鎮圧の下、衛星軌道とデブロッグ隊を中心とした高高度からの絨毯爆撃を行っている。もっとも、その広大な領土(中国と接している長大な陸路)と潜水艦やダミー資本を使った隠密貿易が功をそうしたのか、封鎖は形骸化しつつある。「やれやれ・・・・・・宇宙移民の制限・・・・・・移民終了の宣言。それも連邦構成国家の中でもNo1からNo3のステーツ、日本、イギリスか。続いて欧州と韓国の人間が対象で、他の地域は・・・・・・特にジャブロー建設地域の強制移民は増加。火種にならないと良いが・・・・・」「補佐官?」「いや、何でもないんだ。なんでも」(なんで俺みたいな一介の官僚がこれ程詳しい情報を知らされたんだ?まさかな、俺に何かしろっていうんじゃないだろうな!?)嫌な予感を抱えながら彼は職務に戻った。若き宇宙開発補佐官の懸念はこの約25年後に、予感は6年後に当たる。宇宙世紀0058年02.09Side ウィリアム・ケンブリッジ地球連邦 首都ニューヤーク 旧国連ビル65階余談だが地球連邦発足以降、国連ビル勤務者は高い所に行けば行くほど高給取りであり、権限も高まる。そんな中で、彼は6年前の嫌な予感が現実のモノになった事を知った。『サイド3共和国建国!』新聞はセンセーショナルに報道している。PCを起動させて国営放送、地球NETを起動する。『サイド3は連邦の統治を離れた。反連邦諸国と共同で我ら人類の正統なる統一政権である地球連邦による全人類の平和と秩序に反するつもりだ!!連邦警察、地球連邦、各サイド自治政府はこの運動、スペースノイド独立と言う無責任な運動を抑えなければならない。早急に小惑星ユノー、月面都市フォン・ブラウンの駐留宇宙艦隊の強化を行い、サイド3に圧力を加え独立宣言を撤回させるべきなのだ!!』白人と黒人の混血であり、カトリックでもあるケンブリッジにはたちの悪い冗談にしか思えなかった。(これじゃあ戦争を煽っているのと何が違う?)カナダの故郷を幼いころに出た。ニューヤークにでてからは学問で駆け上がり、ハーバード大学を何とか卒業したが、その連邦でもう終わった部門である宇宙開発局に0050年に入局した。それでも大過なく仕事を務めたし、宇宙移民者と地球移住者との軋轢回避に全力を尽くしたつもりだった。そんな苦労人(自称)から見ればこの新聞の論調は過激だ、過激すぎだ。だが、ワシントン・ポストやニューヤーク・タイムズも似た様な論調らしいと聞かされて頭を抱えた。今までの融和政策。それを担当してきた自分としてはデスクの上にあるモノ全てを滅茶苦茶にして叩き落としてやりたい気分だ。だが、何とかそれを落ち着ける。深呼吸して平静さを取り戻した。(宇宙に住む者と地球に住む者は皆同類。だが・・・・・それも傲慢な考えなのだろうか?いや、地球に住むものだって北インド7億、中国15億が公式には反連邦の敵となる。そしてサイド3の独立宣言。これじゃあ、もう地球連邦と言えないじゃないか)過去に連邦軍の軍政家で有名なゴップ先輩は言った。忠告と言っても良い。『君は遠からず政府と軍との橋になるだろう。命を粗末にするなよ』そう言われて身辺警護にSPを3名、銃の携帯許可書を1枚用意してもらった。が、それも杞憂に終わっていた。(あの頃は連邦内部で対宇宙融和政策の事実上の責任者だったからなぁ。実質は肌の色の差別から来るただの左遷で命の危険もそれなりだったけど、これでもう危険からは遠ざかりそうだ。ありがたいことだ)そう安堵した。次の辞令が来るまでは。固定電話をとり、メモの順をする。発進と着信は見知らぬ相手だった。「ああ、ケンブリッジ補佐官ですな。元気かね?」「あの、失礼ですがどなたでしょうか?」「うん? ああ、答えてなかったな。はははは。私は地球連邦政府CIA課長。そうだな、ホワイトマンでもアベンジャーでも好きに呼んでくれ」「了解しました、ホワイトマンCIA課長。先程は失礼しました。知らぬ事ととはいえ申し訳ありません。」「堅苦しくなくてよい。今日は君にとって良いニュースを持ってきたのだから」「は? 良いニュースですか?」「うむ。君は明日の12時に昇進する。その後はちょっと遠くまで行って貰いたい。ああ、あくまで出張と言う形であり、赴任では無いよ」「・・・・・・その、どこでしょうか?」「ジオン・ズム・ダイクンのいるサイド3。今流行の反地球連邦主義者たちの巣窟。そこで彼らを監視・調査してくれたまえ」思わず受話器を落としそうになったがそれ位ご愛嬌だろう。私は宇宙にいった事は無かったのだから。それがエリートと呼ばれる地球連邦の若手上級公務員・軍人・財界・政界の常識的なキャリアでもあった。そして当時の自分は思ったのだ。(数か月。長くて数か月で祖国アメリカの土をまた踏める)と。これがとんでもない思い違いであった事はその後の私を見れば分かる。宇宙世紀0060.01.05 サイド3 地球連邦軍駐留軍司令部 副司令官室Side ウィリアム・ケンブリッジ私はダイクン家、ザビ家、そのの方々の側近らと会食する機会が多くなった。先年秋に赴任したが、この時点で指導者ジオンは私の目から見ても明らかにおかしかった。まるでサーカスのピエロ。そして、この壮年の宇宙軍きっての名将と呼ばれる人物にもそう見えたらしい。その時の一部始終だ。「・・・・・君の想像通りジオン首相は体調不良なのだよ。最近は支離滅裂な理想論を繰り返すばかりで、具体的な要求を地球連邦政府に送る事は少ない。寧ろ、非連邦加盟国との貿易強化、コロニー間の貿易強化に乗り出している。それを隠すために道化を演じているのか、道化になったのかは分からないがね」そう言って、サイド3駐留艦隊副司令官イブラヒム・レビル少将は私とお茶をかわす。地球のセイロン島のお茶は宇宙で貴重品だと知らされた。何と言ってもコロニーで合成栽培されたモノの10倍の値段なのだ。しかも連邦軍軍人、連邦政府役人は毎月1個、キリマンジャロ産コーヒー豆かアールグレイ茶か、出身国の地球産アルコール飲料が支給される。コロニーでは月給の数分の1は確実にするものを、公務の名目で税金を使い支給されるのだ。(これが不満の原因なのは間違いないな・・・・・もっとも目の前の御仁もまったく気が付いていないようだが。・・・・・・これで不満をどうにかしろなんて・・・・・無茶を通り越して無理無謀だよ)「ああ、ユノーの軍事化、聞いているかね?」「聞いております、レビル副司令官。ルノーは今後ルナツーとして要塞化し、対ジオン、対コロニー独立派への橋頭保とするとか」「文官にしては話が早くて助かる。言い難いが最近ここも物騒でな。これは規定事項だが・・・・・君も知っての通りジオン国防隊が発足する。これがかつてのジエータイの様にやがて保安隊になり国防軍になるだろう。それは歴史の必然かもしれないと私は思うのだ。が、それだけで終わる筈も無い。宇宙と違い地上は親ジオン国家が存在している。例え、空爆と経済封鎖で痛めつけていようとも25億に迫る人口は脅威である。それに新設されるサイド3の軍隊が呼応しない筈がない。必ず戦争になるだろう。そうなる前に、圧倒的な軍事力を備えなければならぬ。ジオンを暴走させても問題がない程度の、な」「・・・・・閣下は戦争を望まれると?」「・・・・・・痛いところを聞いてくるな・・・・・・戦争を望む、そうは言わぬ。が、相手が戦争を望めば受けるのが軍人だ。それが私の職務だしね。それに、地球連邦市民はこのサイド3にも他のサイドや月都市にもいる。彼らを守らなくて何が地球連邦宇宙軍か。何のための宇宙艦隊なのか?地球で非連邦構成国に経済封鎖や数年単位で忘れたように空爆を続ける陸海空軍、海兵隊とは違うのだ。少なくとも、この宇宙空間ではね」「?ああ、これが資料ですか。レビル副司令の独自案・・・・・拝見します。1個艦隊、新造のマゼラン級戦艦5隻、同じく新造のサラミス級軽巡洋艦40隻、改コロンブス級改造空母5隻の50隻1個艦隊制度。しかも各サイドに一つずつ、グラナダ、フォン・ブラウンには2つずつ、ルナツーに7・・・・7つ!?戦略予備として3個艦隊!! 更にそれを支える補給艦隊に17の独立任務部隊ですか!?」「うむ。それだけあれば何とかなる。君に見せたのは君の伝手で親スペースノイド派中堅クラスの官僚とスペースノイドらにこれを認めてもらいたいのだ。ああ、軍内部の方と政府上層部は私たちが責任を持ってやる」(あの・・・・・・これだけでも大増税です。しかもリターンの見込めない軍備。軍備増強の財源を賄う相手は各地のサイドに住むスペースノイドですよね?これでは連邦が彼らを挑発していると言っても過言ではありません。相手に銃口突き付け、金を巻き上げながら仲良くしましょう、恨まないで下さいなんていう理屈は通じませんよ?それが分かっているのですか?いやまてよ・・・・今なんて言った!? たち? 私達っていったか、この軍人馬鹿は!?畜生目! これは個人案じゃないのか!?)レビル将軍は連邦を第一に考える軍人だった。それは間違いない。だが、軍人以上の思考は無かったのではないかと思う。この点はレビルの三期先輩のゴップ中将が軍政家・政治家として巧みに行動した。まずコロニー駐留艦隊を原則半個艦隊25席に減らし、フォン・ブラウンは警備艦艇10隻のみに、ルナツー駐留艦隊も7から5に減らし、独立艦隊も12まで削減した点は後世の歴史家からも非常に評価されている。無論、ジオン独立の抑止力を自ら減らしたとして批判する声も大きいが。仮に、この決定をしなければジオン独立戦争は無かったかもしれない。が、その前に連邦政府が内部から瓦解していた可能性が高かったと思う。大増税によって高まる地球市民の反連邦政府運動によって。宇宙世紀0069年08.07 ジオン共和国 首相官邸Side ウィリアム・ケンブリッジ(どうしてこうなった!?)妻、地球連邦軍少佐であったショートヘアーで黒、日タイ混血のリム・キムラと結婚して半年。漸く地球へ、祖国アメリカへと帰れると思った。私が作った各サイドのパイプ、ジオン首脳部とのパイプは政府上層部に高く評価された。ジャブロー建設責任者であるゴップ大将や地球連邦宇宙艦隊司令長官ビラー大将からの受けも良い。政府上層部の親スペースノイド派であるアルビリオ副首相やマーセナル財団、ビスト財団、ルオ商会からも無形の援助を受けた。言わば、出世頭であり、あとは地球に戻るだけだった。実際、辞令も内定していたらしい。が、ここにきて急激に事態は悪化。ジオン・ズム・ダイクンは議会の演説中に死去。その報道はまるで我が連邦政府が暗殺を行ったかのようで、激昂したムンゾ(ジオンと言い換えても良いか)市民が、自宅前まで押し寄せてきた。何とか妻と2歳になる息子と共に大使館へ駆け込んだが、そこも変わらなかった。群衆に包囲され、門の前では連邦軍ががっちりと正規装備で武装している以外に違いは無かった。「さっさと地球に帰るぞ!!」漸く一人に慣れて地球息のシャトルの乗船許可をもらった時に思わず叫んだのはご愛嬌だ。だが、その目論見は直ぐに崩れる。この国のNo2、ギレン・ザビが私に面会を求めてきたのだ。面食らう。確かにザビ家とも面識はあるがそれはあくまで連邦官僚の一員であり、個人的な交友関係は無い。確かに連邦中堅官僚随一の宇宙通になってしまったが、それでも私はただの官僚だ。曲がりなりにも国家の上層部の方とお付き合いするほど偉い訳でも肝が大きい訳でも好奇心が旺盛なわけでもない。寧ろ、丁寧にお断りしたいくらいだ。「・・・・・・本当にあのギレン・ザビですか?」「そうだ、あのギレン・ザビだ」「デギン・ソド・ザビ史からの詰問では無く?本当にギレン・ザビ史からの面会要請ですか? しかもこの反連邦暴動真っ只中の最中に?」「言いたい事は分かっている。気の毒だとも思う。だがこれも給料分の仕事の内だ。ジオン国防隊、いや、ジオン軍から警備部隊と輸送車がくるから心配するな」(余計心配です!)そうは思ったが、私は心を入れ替え妻と子に別れを告げると用意された車に乗る。護衛隊長はランバ・ラル大尉だと言っていた。(たしか、ジオン派の重鎮の息子の筈だが。が、彼からはそんな重い政治的意思は見られなかった。どうやら生粋の武人らしい)「ご安心を。このランバ・ラル、例え素手でも任務をやり遂げましょう。ケンブリッジ補佐官殿は大船に乗ったつもりでいてください」(一介の武人ね。結構な事だ・・・・・はぁ・・・・・・おれだって唯の官僚だぞ!!!!なんだってこうなるんだよ!?)そうこうしている内に車は行政府につく。相変らず仰々しい悪趣味な建物だな、と思いつつ。「よく来てくれた、ギレン・ザビだ」「この度はお招き頂きありがとうございます、ウィリアム・ケンブリッジです」「私はサスロ・ザビ。貴方の噂はかねがね聞いている。この間の食糧輸入税撤廃法やサイド間交流法など立案に関与した非常にスペースノイド寄りの御仁だとも」「恐縮です」「そこでだ、ギレン兄上は貴方の狙いがどこにあるか知りたがっていてな。会いたいと思っていたが漸く会えたわけだ」(なんという事だ!?この独裁者としか思えない人間に目を付けられただと!?SPだけじゃ殺されてしまう!!)「うむ、君の噂はかねがね聞いている。評判以上の男の様で私もうれしい」「光栄です。しかし現在は暴動もデモも起きています。こんな危険な時期に会わなくと・・・・・・」「いや、こんな時期だからこそ、だよ、補佐官」「ギレン閣下にそういわれると嬉しいですね」(冗談じゃない! こんな危険な時期にザビ家の相手をしてられるか!)「ん、緊張しないのは中々の者だな」「それで要件は何でしょうか?」「うむ、サスロはあくまで証人として居てもらう。気にするな。これ以上は何も語らぬから、実質気味と私の二人だけになるが・・・・・・さて、聞くが、連邦は我々の独立を認める気があるか?」単刀直入。だが、それだけに嘘偽りのない言葉。そして、直観。(この男、下手な回答をすれば何億人も殺すのではないか?)「どうかね? どう思う?あくまで宇宙開発局副局長にして、次期地球連邦内閣府対スペースノイド政策補佐官の立場として聞かせてくれ。ケンブリッジ補佐官」「冷や汗がでますな、お茶を一杯飲ませてもらいます」(冗談じゃない! 俺は大統領でも軍総司令官でも議長でもないんだぞ!?確約なんかできるか!!) 「うむ、その豪胆さもまた敬意にあたる。サスロ、私にも一杯くれ」「・・・・・・ふう。あくまで補佐官として、尚且つ私の立場として言わせもらいます。よろしいですね?」「構わんよ。その方がありがたい」「結論から言いましょう。連邦は絶対に認めないでしょう」「ほう?」「連邦はあくまで多国間条約によって成立した単一政権国家と言う複雑な裏事情を持ちます。その条約から離脱した北インドの惨状をご覧下さい。南と西と海から包囲し、難民さえ国境、いえ、境界線を越えさせません。ニュースになっていないだけで、鉄条網と地雷原で旧国境線を封鎖し、難民を見捨てると言う事実上の大虐殺が連邦軍の手で行われているのは一定以上の地位にいる人間には常識です。その理由は単純明快。北インドが中国、北朝鮮らと違い、最初は連邦構成国家の一員だったからです。地球連邦と言うのは旧世紀のソヴィエト連邦の民主主義版であるとも言えます」「続けてくれ」「仮に連邦政府がサイド3の独立を正式に認めるには連邦宇宙軍の壊滅か連邦宇宙軍と対等以上の軍備を維持する事が最低条件になります。地球連邦の権威と力の象徴を屈服ないし沈黙させない限りサイド3の独立は認められないでしょうし、私も認めません。後はそれ以上の政治的な戦果、例えば近年の経済復活が目障りな、失礼、経済成長が著しい北インド、中国の二つをどこかの誰かが抑えてくれる必要があります。つまり、連邦の国益である非連邦加盟国への武力行使或いは経済封鎖による対象国家郡の経済破壊、連邦宇宙軍の壊滅による地球軌道を含んだ制宙権の完全な掌握が無い限りサイド3が独立を達成するのは不可能です。そして前者と後者は完全に矛盾しております」「ふむ?」「連邦、連邦政府にに反抗しない限り、連邦宇宙軍の壊滅はあり得ず、いえまあ、現実問題からも戦力差から考えるに宇宙軍との会戦さえ不可能でしょう。また、連邦敵対国家である非連邦加盟国との戦争は下手をしなくともジオン経済を崩壊させます。地球に兵員・物資を送るのです。それも長期にわたって。さらには20億もの人口を養う義務。サイド3の人口4億5千万では到底不可能です。国家も経済も民間企業も仲良く破綻です。そして経済が崩壊した武力だけの国家に、連邦打倒に独立達成、非連邦加盟国への圧力も絵に描いた餅です。結論として連邦からの独立は武力では不可能だと、敢えて二度申し上げます」「なるほど、補佐官は連邦宇宙軍の存在が我々への抑止力になると思っているのだね?そして我らジオンには連邦も非連邦加盟国も倒せる戦力は持ち得ない、故に隷属状態は続く、そう言う事かな?」「はい。まさにそのとおりです。通常兵器を使った消耗戦で先に根を上げるのは正面戦力で劣り、国力でも30分の1以下であるサイド3です。また、仮に何らかの方法で連邦宇宙郡軍を撃破しても、地球に侵攻し統治する力の無いサイド3に地球連邦を打破する力はありません。以上を持って、私はジオン軍は連邦軍に勝てず、それ故に独立戦争も敗北で終わると申し上げさせてもらいます」「・・・・・・・兄上」「ふふふ、私相手にここまで言える連邦の方がいるとは思いもしませんでしたな。分かりました。今日はありがとうございます」「あ、ああ、その、失礼しまし・・・・わ、忘れてくれると、その、うれし・・・・・」「どうも、ありがとう、ございます」「あ、あ、ああ、あ、ありがとうございます」「それでは補佐官殿。こちらへ。兄上、俺はかの御仁を玄関まで送っていく。良いな?」「ん、そうしてくれ」大使館に帰った私は冷や汗でびっしょりだったシャツを選択し、そのままシャワーを浴びて寝た。が、腹ただしい事に、上層部からはスパイ容疑で尋問され、それを証明する為にこの1週間は大使館と監視付きでジオン行政府を往ったり来たり。ギレン・ザビやサスロ・ザビとは個人的な交友関係まで作らされるし、昇進したレビル司令官の参謀の様な役や、両陣営の駆け引きの場には必ず引きずり出された。「私は平穏無事に過ごしたいだけなんだ!放って置いてくれ!!」一度そう言ったが、どうやらザビ家にとって私は連邦随一の宇宙通にされてしまったらしく最早後の祭り。同僚もだれも本気にしてくれない。ジョークと受け取ったのだろう。或いはもう地球に帰ってくるな、という事か。1週間で睡眠時間が8時間と言う人生史上最短記録を樹立した。が、生真面目な私は自分で言うのもなんだがこの時点からジオンが連邦に独立戦争を仕掛けるのでは無いかと警戒し、訓戒を行うよう進言した。そして宇宙世紀0069.08.15。私は妻に叩き起こされた。「貴方!! 先ほどキシリア・ザビが死にました!!! ダイクン派の自爆テロの様です!!!ええと、他にはガルマ・ザビも重体ですね。ご友人のサスロ、ギレン両氏はご無事です」いい加減にしろ!!誰が友人だ、誰が!!私は心底そう思いたかった。ついでに神に祈った。これ以上厄介ごとを増やすな、と。