ある男のガンダム戦記19<主演俳優の裏事情>宇宙世紀0087.03.31 ジオン本国ズム・シティにて。「ふむ・・・・そろそろ切り崩しをかけるか?」そう呟いたのはジオンのトップ、ギレン・ザビ公王。傍らにはドズル・ザビとサスロ・ザビがいた。他には誰もいない。地球各国、つまり地球連邦構成州への弁解に走っているマ・クベ首相がおらず、宇宙艦隊を統括するデラーズは執務でいない。この日、事実上の独裁国ジオン公国上層部は新たなる手をうたんとしていた。が、そこに思わなかった方向から横やりが入る。「だがギレン兄貴。そう簡単にいかんのではないか?アクシズ・・・・兵たちの中には我らを恨んでいる者もいるだろう・・・・・なぜこんな扱いを受けたのか、とな。そしてそれを逆恨みしている可能性は極めて高いと思うのだが・・・・兄貴はその点をどう考える?」実の娘を目の前で暗殺されかけたドズル・ザビは彼らしくなく猜疑心に固まっている。そのドズルが聞く。長兄ギレンに。まあ誰だって娘を暗殺されかけたらそうもなろう。それにインビジブル・ナイツとグラナダ特戦隊の行方が分からないのだ。反乱行為に核弾頭を強奪したと言う最悪の部隊が、だ。現在、空母機動艦隊を中心とした地球連邦海軍が太平洋全域で活動中であるが、この短時間で僅か数隻の潜水艦をあの広大な海洋から見つけ出すなど不可能。止めに陽動なのか、旧マッド・アングラー隊を中心としたジオン反乱軍の海中艦隊は未だに通商破壊作戦を繰り広げており、更には海賊行為で物資を略奪していると聞く。ジオン反乱軍としてはれっきとした正規の作戦のつもりなのだろうが、南極条約やリーアの和約から見れば単なる海賊行為でしかない。第三者から見てもその通りである。そしてギレンは弟の問いに答える。彼独特の冷徹な思考で。「アクシズに向かったのは主にマハラジャ・カーンらダイクン派の将官や佐官だ。それに旧キシリア派が加わる。が、逆に言えば士官以上が反ザビ家であって兵士らはそうではあるまい。そう考えれば兵士の反感を恐れる必要はあるまい? 寧ろ問題は地球圏に舞い戻ったと言うシャア・アズナブルの方だ。赤い彗星だ。ドズル、お前はあの男の正体を知っているか?」ギレンの問いに唸るドズル。一体誰の事だ? 赤い彗星に別の顔があるのか?「どうやら知らないらしいな。あの男はシャア・アズナブルであってシャア・アズナブルでは無い。奴はキャスバル・レム・ダイクンだ。我々ザビ家が謀殺したと思っているジオン建国の父、ジオン・ズム・ダイクンの息子だよ」馬鹿な!? 思わずドズルが玩具のHLVを砕く。「ふ、お前の言う通り性質の悪い冗談ならよかったのだが・・・・残念ながら事実だ。そしてそう考えれば例の連邦軍兵舎襲撃事件でガルマを煽ったり、第九次地球周回軌道会戦やそれ以前のV作戦哨戒作戦での赤い彗星と呼ばれた男にしては不可解な行動の説明もつこうと言うモノだ」ギレン公王は珍しく忌々しそうな表情でティーカップを机の上に置く。ガチャリと音がした。この場には三人しかいないにも関わらず、ドズルの声は途端に小さくなった。「では第九次地球周回軌道会戦での不可解な行動はガルマを謀殺する為に?」「そうだ。それにアンリ・シュレッサーの『暁の蜂起』やマハラジャ・カーンの『アクシズ逃亡』もそう考えれば辻褄が合う。嫌になるくらいに、な。我らザビ家はまんまと出し抜かれていた訳だ。尤も致命傷になる前に対処できたから良かったが」ガルマを利用したザビ家独裁体制の瓦解がキャスバル・レム・ダイクンの真の狙いでありその為の偽装入隊。間違いない。その可能性は十分あり得る。それがギレンとサスロの結論。と言う事はだ、自分ことドズル・ザビはあの若造の掌の上で踊らされていたのだ。(では・・・・では何も知らない馬鹿とは自分の事か!?)それを思うと一気に頭に血がのぼった。ドズル・ザビは怒りに身を任せる。「あ、あの若造が!!」思わず怒鳴り声を上げる。それを制するギレン。本題は其処では無い。本題はミネバ暗殺未遂事件の犯人が喋った方だ。あの日、ミスYは恐怖した。狂気にかられて自分を殺そうとした人間の存在、つまりリム・ケンブリッジの行為に対して正気に戻されたと言って良かった。そして驚愕の真実を述べた。彼女を極秘裏に支援したのはメラニー・ヒューカーヴァインAE社会長だという。これが事実なら地球連邦とジオン公国に対する、いわば新秩序への重大な反逆行為であり、AE社は地球連邦やジオン公国による取り潰しも覚悟すべきである。今、地球連邦中央警察、地球連邦中央検察局、ジオン警察の三者がAE社の取り調べの為に動き出そうとしている。が、やはり一代で地球圏最大級の企業を築き上げた男の実力は大したものであり、物的証拠が既に無く動くに動けない状態だ。テロリストとはいえ、人権を擁護する連邦憲章がある以上、彼女の自白だけでは証拠にならない。物的証拠が必要なのだ。それは司法捜査の大前提。そしてそんな事は簡単にいかないのが当然の事である。これは刑法の大前提なのだから。状況証拠だけでは起訴に持って行けないし、何より相手がデカすぎる。いくら復興需要に乗り遅れたとはいえAE社程になれば大抵の事はもみ消せるはずだ。さて幾分か脱線したが、話を例のシャア・アズナブルとアナハイムの関係に戻す。「で、だ。シャア・アズナブルはAEに匿われていると考えて良い。それにタウ・リンとかいうテロリストのヌーベル・エゥーゴもかなりの戦力をAEから貰っている筈だ。未だゲルググやザクが主力の我が軍だけでは対応は困難であろう。違うか、ドズル?」ここでドズルにバトンを渡す。地球連邦との協定、つまりリーアの和約により退役したとはいえドズル・ザビの威光は絶大。伊達にルウム戦役、ア・バオア・クー攻防戦の立役者、ジオン最大の勝者では無い。この二点から、現時点でもジオン公国軍軍部にも支持者は多く、ジオン軍の現状や情勢に関しては頼まなくても勝手に入ってくる。「・・・・・兄貴、悪いが無理だ。期待していた新型機のマラサイは全機が奪われた。あと残っているのは試作型しかない。それにアクシズが投入してきたと言うG3、キュベレイ初号機か、これ程の機体に対抗するだけの機体はジオン本国にはない。作れと言うなら作れる。だが、作るとなればリーアの和約を放棄する事になる。かといって連邦との共同開発となると我が軍の技術が外に漏れる技術的な優位性を放棄する事は現時点では最悪だ。連邦軍に付け入られる隙を自ら作る事になるからな」八方塞だ。そう言ってドズルはソファーに座りこんだ。まあ、この展開は予想していた。ジオンの国力は地球連邦に比べて30分の1以下であり、圧倒的に劣勢だ。それが彼ら連邦軍にもう一度付き合って軍拡をしていれば破産だ。それが分かるからマ・クベ首相は強引にでも軍備縮小を行ったのだ。軍部の反発を覚悟の上で。この点はティターンズと言う受け皿を作れた地球連邦とは違った。マーセナス首相を中心とした地球連邦政府はティターンズにも軍への指揮権を与える事で軍事予算の分散を計画、これを成功させる。まあ一種の派閥争いをさせたと言う事だろう。それが曲がりなりにも上手くいったのは奇跡だ。戦後最大級の功績である。結果論だが、地球連邦軍の軍事予算は当初の見積もりの3分の1になり、ティターンズの権限は巨大化した。ジャミトフ・ハイマンの掲げる地球再建計画遂行の為に。そう言う意味でもティターンズは成功したと言える。経済的な面で。「軍縮の件はまあ仕方あるまい。そういえば・・・・資料によるとノリス・パッカードだったな、ガンダムMk2強奪現場にいた我が軍の将官は?」途端に話が変わる。良く分からないが取り敢えず頷くドズル。「ふむ・・・・ならば彼に反乱軍討伐の総指揮を取らせよう。アナベル・ガトーの第一戦隊も彼の指揮下に入れよう。第二艦隊とジオン親衛隊第一戦隊の主力を合流させて特別任務部隊を編成する。これは公王としての勅命である。ギレン・ザビが命ずるのだ。Noとは言うまい」「それでミスター・リンはどうお考えか?」グワダン控室。接触したヌーベル・エゥーゴの指導者であるタウ・リンとシャア・アズナブルは対談する。その内容は過激であった。もしも地球連邦政府の関係者がいれば即刻この二人を逮捕し処刑する程の苛烈さであった。「ジャブロー核攻撃は中止した方が良い。それをやっても連邦の体制は変わらねぇ。寧ろ一致団結させて報復戦を行わせるだろう。例のジャミトフ・ハイマン長官はガチガチの地球至上主義者だ。それが核兵器で大気汚染されるなど許さんだろうからな。それに、だ。僅か10機前後でジャブロー基地の強固な防衛線を突破出来るとは思えない。何より核兵器の運搬手段が無い。それならば連中を宇宙に上げるべきだ」コーヒーを口に含む。所見でクワトロ・バジーナ大尉と名乗った人物の正体を、件の赤い彗星だと看破して、『嘘を言うなら取引は無しだな』と言い切っただけの男である。常識的な、それでいてどこか狂気を感じさせる様な雰囲気を持っている。「それではジオン地上軍の同時決起は失敗に終わるのではないかな?」懸念されるのはヨーロッパ、ロシア、中央アジア、中近東、インド洋に展開するジオン地上軍、ジオン公国や地球連邦軍の言葉を借りればジオン反乱軍である。彼らの援助はエゥーゴと非連邦加盟国を経由しているとはいえ、既に先が見えている。このまま地上でゲリラ戦を続けても彼らの結末は唯一つ。それは『死』だ。そう考えれば決起を思いとどまらせるのも一つの手だし、逆に最後の死に花を咲かせてやるのも慈悲と言うモノ。が、シャアの予想に反してタウ・リンは嫌な事を言ってきた。地図のある一点を指す。「連中の、そう、マッド・アングラー隊だったか、これにここを襲撃させろ。そしてインビジブル・ナイツとグラナダ特戦隊にはここを狙わせる。目標は地球連邦宇宙軍の高官共が一堂に集まるこの式典。ジオン公国との共同儀典」それを見てシャアも納得した。確かに狙うならこちらの方が良い。そして全ての責任は反乱軍とエゥーゴの負わせてしまえば良い。そう外道な考えが頭をよぎる。彼にとっての最優先目標はザビ家の抹殺と現在のジオン公国の解体。その為にはエゥーゴの理想もジオン反乱軍の情熱も単なる道具だ。もっとも建前はキャスバル・レム・ダイクンとしてジオン本国解放、ニュータイプによる新秩序確立を望んでいると言っているが。が、そのお題目も目の前の男には通じなかった。「なあ赤い彗星・・・・・お前さん、世直しなんて考えてないだろう?」それがタウ・リンの最初の言葉だった。確かにそうだ。今の自分は世直しなど考えてない。あるのは自分から母親を奪い、父親を殺し、更には正統な地位の座から自分を引き摺り下ろしたザビ家への憎悪。「・・・・・よかろう。まずはジオン地上軍の行動に合わせよう。そして。これだな」一枚の映像を見せる。それは月面フォン・ブラウン市高性能天体観測望遠鏡が撮影した核パルスエンジンのノズル噴射光である。それはアクシズの移動。ジオン本国の命令を無視して帰還を開始したアクシズ。これはジオン本国にとって明白な反乱行為であった。ハマーン・カーンはシャア・アズナブルとの密約に従い、アクシズにいる数万の将兵に対して強制的にルビコン川を渡らせた。また、ギレンの予想とは異なりとっくの昔に洗脳が終了したアクシズの兵員たちの大半はアクシズに残る。後世に残る、ギレン・ザビの数少ない失政と言われる事件、アクシズの乱であった。宇宙世紀0087.03.29、地球連邦首都、ニューヤーク市炎上。この攻撃成功と同時にアフリカの宇宙港から二機のHLVが打ち上げられた。一方で地球連邦軍は極東方面に精力を傾けた。これはジオン公国が独立戦争前にばら撒いた核兵器を脅しに、北朝鮮は独自路線を貫いた事が要因である。『地球連邦とその属国には屈しない』北朝鮮の事実上の挑発宣言。これを受けてジオン、連邦両国と両軍は手を出す事が出来なかった。また、ジオン反乱軍は以前にゴップ大将が言った様に、彼ら反乱軍の主だった面々はアフリカ大陸、ヨーロッパ各地に点在していた。そして成功する一大奇襲作戦。『ニューヤーク攻撃成功』当然の如く連邦現政権であるマーセナス政権の権威の失墜は巨大であり、方や今まで煮え湯を飲まされてきたと信じていた反地球連邦勢力であるエゥーゴやジオン反乱軍の士気を向上させた。またこの攻撃の最大の支援国は北部インド連合であり、『中華』ではなかった。虚を突かれたと言っても良い。その為、地球連邦の迎撃網を掻い潜り、2機のHLVは衛星軌道まで脱出した。それが宇宙世紀0087の4月2日の事である。「反乱軍を掃討せよ!」「ジオニストに死を!!」「エゥーゴ支持者を絞首刑に!!!」地球各地で発生したデモ。戦後8年。ウィリアム・ケンブリッジが唱えた融和政策は崩壊の瀬戸際に立たされていた。地球連邦最大の都ニューヤーク市が巡航ミサイルによって攻撃され、死傷者が3万人を超えたのだ。しかも民間人である。これは統一ヨーロッパ州へのジオン侵攻以来の大損害であり、しかも武装勢力が行った事で史上最悪のテロ行為であると連邦政府は断定した。だが、地球連邦軍にとっても連邦政府にとっても憂鬱だった存在がまだある。それは奪取された核兵器だ。この核兵器は未だ使われてない。北部アフリカ州のジオン反乱軍HLV保有基地からそのまま宇宙に持ち出されたのだ。これを脅威と感じたのは意外な事にエゥーゴ派のコロニーサイドである。逆にジオン本国は根拠の無い楽観論と同胞愛に傾いていた。歴史上の事実となるのだが、エゥーゴとジオン反乱軍は共同歩調を歩んでいるだけで公的な共同戦線や公の同盟関係にある訳では無いし、各コロニー市民は一年戦争(ジオン独立戦争)で自領土を戦場にされたり、ジオン軍に物資や資金を徴発されたり、占領されたりした事を忘れた訳では無い。何せあの大戦からまだ戦後10年も経過してないのだから。少数故に機動力に富んだジオン反乱軍とエゥーゴ、大軍故に官僚的であるために後手に回る地球連邦と反ティターンズ感情と北米州への警戒感から手足を縛られたティターンズ。未だ有効な手をうてない地球連邦軍に対して不信感を持つサイドの自治政府達とエゥーゴに参加する月市民やスペースノイド。不安は高まるのだが、公式には独自の軍備など存在しないコロニーサイド。実際配備されている部隊は地球連邦軍のサラミス改級巡洋艦2隻で構成された哨戒部隊4グループとMS隊60機2個連隊だけであった。MSも旧式のRGM-79ジムであり、ティターンズ向けの新型MSハイザックやサイド3に本拠地を置くジオン軍が配備しているガルバルディβ(ジオン親衛隊使用)やゲルググM(ジオン公国正規軍使用)などに遥かに劣る。地球連邦軍 配備MS 5,000機以上 戦闘艦艇 約500隻(リーアの和約の凡そ70%)ジオン公国 配備MS 820機 戦闘艦艇 約200隻(リーアの和約、限界)各サイド自治守備隊 配備MS12機 戦闘艦艇0隻 戦闘作業用ポッドボール36機ジオン反乱軍 推定配備MS300機前後(通信・連絡が途絶えたアクシズ方面軍も含む)、戦闘艦艇不明。地球連邦エゥーゴ派 不明これだけ見れば各コロニーの不安や不信感の大きさが分かると言うモノだ。だからこそそこに付け込む勢力があった。それは月面都市の本社を置くアナハイム・エレクトロニクス社である。AE社は旧型のジムやジム改などを各コロニーサイドに修理重機扱いで販売。巨額の富を得る。一方で、多くの火種を売りつけて行った。宇宙世紀0087.04.15。宇宙要塞ソロモン地球連邦宇宙軍に厳命が下された。宇宙に逃げ出したテロリスト集団であるジオン反乱軍の掃討、それである。これを聞いたティアンム宇宙艦隊司令長官はあまり乗り気では無かった。実戦部隊はあくまでジオン公国軍と相対する為の存在。テロリストの様な小集団に対抗する様には訓練されてない。まして相手は核兵器を4発も所持している。下手に大軍で動けば格好の標的では無いのか? そう言う懸念があった。ましてや命令を下したのはア・バオア・クー戦で自分達を利用した北米州の政治家共。ティアンム宇宙艦隊司令長官はその心の奥底で、かつて自分達を嵌めた人間、その尻拭いの為に動きたくない、という思いもあったのかも知れない。が、それでもティアンム提督は命令に従った。しぶしぶではあったがウィリアム・ケンブリッジが引いて、その後に走らせた和平と言う名前の列車。北米州主導の戦後復興。この8年間の成果は彼をしても認めざるをえない成果だったのだから。よって呼び鈴を使って副官を呼び出す。「ワッケイン中将をここに呼んでくれ。ブライアン・エイノー中将も一緒にな」それから10分後、二人の中将がそれぞれの参謀らを引き連れて入る。X任務部隊司令官のワッケイン中将と宇宙艦隊副司令長官のエイノー中将だ。エイノー中将はティターンズ派閥だがあえて地球連邦軍の残ったアースノイドであり、ティアンムにとっては目の上のコブ扱いである。『しかし私はスペースノイドの軍備は放棄されるべきであると考える』そう彼が言う公言する。事ある毎に。これは共和制ローマのある政治家の故事にならっている。本人もそう公言するのだから性質が悪い。実際、彼の艦隊はジオン本土に最も近いア・バオア・クー要塞で何度も実弾演習を繰り返したため、エギーユ・デラーズ中将、つまりジオン軍最高司令官直々に遺憾の意を表明されている。ジオンが遺憾の意で済んだのは両国の官僚が胃痛と戦いながら双方の軍を宥めた結果であり、どちらからが譲歩した結果では無かった。が、ブライアン・エイノー提督は有能であり、軍縮の影響や各地のエゥーゴ派討伐の為の哨戒部隊の増強で総数の減っているZ任務部隊、遠隔地にいるΩ任務部隊をソロモン要塞から指揮運営している有能な将校であったから任務から外す訳にもいかない。よって無碍には扱っては無い。なによりティアンム自身にももう後は無いのだ。あの日、一年戦争末期にジオンに勝る戦力を指揮しながらもア・バオア・クーを落とせなかった時点で彼の退路は立たれている。このあたりの事情故に、一年戦争(地球連邦軍ではこちらの公称を良く使う。まあ好き好んで勝てなかった戦争名を使う国の方が珍しいだろう)末期に派閥争いでエイパー・シナプス少将を昇進させなかったレビル将軍とは違った。或いは違うと言う姿勢を見せる必要があった。特にティターンズが組織され有能な将校や下士官がティターンズに移籍した今となっては。「諸君らの意見を聞きたい。ジオン反乱軍の連中は宇宙に逃げ出し暗礁宙域に潜りこんだ。あそこは宇宙世紀前半以来の開発のデブリや先の大戦の破片が散らばる危険地帯だ。よって大規模な艦隊での追跡は困難であろう。それを踏まえた上で聞く。我がX任務部隊はどう動かすべきだ?」その発言に参謀たちが口論しだす「そうですね。ジオン反乱軍の連中はゲリラ戦を得意としている模様・・・・・纏まって行動するべきでは?」「いや、纏まれば核攻撃の対象になる。それは避けるべきだ。ここは任務部隊を解散させて様子見をするべきではないか?」「地球連邦政府の命令は敵の殲滅。少数部隊では逃げられる可能性もある。それでは命令違反になります・・・・ならば全軍を上げて攻勢に転ずるべきです」「例のΩ任務部隊が遭遇した赤い新型戦艦の存在を考慮すると、我が軍の最小単位である2隻1戦隊では逆に壊滅させられる可能性が高いと思うな。特に最後の映像にあった緑と赤の巨大MA。ビームを弾いたという報告。どういう理屈かは分からないが用心しなければ敗北を喫する」「ならば戦隊の数を増やせばよい。それに実弾兵装を主体にした我が艦隊のジム改なら何とでもなる。最悪、ジム・クゥエルやハイザックを配備しているティターンズ艦隊に救援を求めよう。あの新型機らも実弾を主体にした機体。例えジオニスト共がビームを無効にしようとも・・・・・」「大佐、それは少し過信が過ぎるのではありませんか? ジオン軍は一年戦争で我が軍と相打ちに持ち込んだ相手です。仮にですが彼らが嘗ての技術的な優位性を持っているとしたら我が軍の方が不利なのは自明の理。ジム改やジム・コマンドは先の大戦の機体です。同数ならマラサイに勝てません。ティアンム閣下、事は慎重に運ぶべきかと思います。何よりも我が地球連邦宇宙軍は軍縮の影響で例のテロリストが強奪したジオンの新型機マラサイやティターン艦隊に配備されているハイザックなどは無いのですから」「いや話の主題がそれている。兵器の優劣の前にまずは敵軍の意図を探るべきだ。そうではないか?」「軍? 中佐・・・・連中はテロリストではないのかな? 連邦政府、ジオン公国の命令を聞かない以上、エゥーゴやジオン反乱軍の連中はテロリズムに走る狂信者です。情けは無用かと」「まあまあ落ち着いて下さい。敵の定義は一旦置いておきましょう、中佐。それで先に言われた通り敵の狙いが分からない。中佐の言い方を借りれば連中はテロリストだ。正規軍じゃない。ジオンと我が連邦が南極で交わしたようなある種の戦時ルールが無い。それに連中の狙いは他の任務部隊襲撃かも知れないし、それ以外の、事もありうる」「まさかとは思うが・・・・・月、か?」「月には重力がある。大都市圏も存在し、エゥーゴの本拠地もある筈だ。そこを襲撃するとは思えないが・・・・・どう思う?」「しかしニューヤーク市に巡航ミサイルを撃ち込んでセントラルビルやエンパイア・ステートビル、教会を吹き飛ばした連中だ。月面都市を攻撃しない保証はないだろう」「狙いさえ分かれば対処の使用があるのだがな。ルナツーやサイド7のグリプスの方はどうだ?」「それこそナンセンスじゃないか? もしもグリプスで核を使えば、月面の大都市圏と同様に1000万人単位で死者が出る。それは最大の暴挙だ」「分かるものか。既に連中はニューヤーク市を攻撃すると言うパンドラの箱を開けているのだぞ?」その後も一向に結論の出ない小田原評定が続く。だが、一つだけ言えるのはトリントン基地から強奪されたガンダム試作二号機サイサリスの持つ戦略核弾頭がネックになっているは間違いない。これある限り、ジオン反乱軍に対して密集して攻撃するのは危険である。が、かといって連邦軍の戦力は一年戦争前に比べて半分である。しかも大半が対ジオン公国との正規戦を想定した軍備であり、この様なゲリラ戦術には対応できてない。これは初期のベトナム戦争に苦戦したアメリカ軍と同様である。奇しくも歴史は繰り返していた。「そこまで」ティアンム提督は参謀たちの議論を一旦打ち切らせた。そして黙っている二人の中将に発言する様に命令する。「エイノー中将、ワッケイン中将、貴官らならどうする?」先に反応したのは副司令長官のエイノーだった。連邦軍の軍帽を円卓の上に置いていた彼は、水を飲んだ後、徐に発言する。「艦隊を分散するべきです。一個艦隊50隻で編成され、それを三つ合わせて一つの任務部隊としている現状ではテロリストの機動戦に対応できません。それならば艦隊を分派して漁師が網を使って漁をやるように、包囲していくべきではないでしょうか?」艦隊の分派、それはX任務部隊の解体につながり、政治的に見れば事実上のティアンム提督の影響力の削減につながる。(ふむ・・・・このエイノーはあのジャミトフと繋がりが深い。アースノイド至上主義者でもある。連邦軍内部に派遣されたティターンズの監視役だとも言える。グリプスのタチバナ中将ともロンド・ベルのシナプス少将ともだ。私を引き摺り下ろす好機と見たか?)そう深読みしてしまうのは、ブライアン大統領やマーセナス首相、ジャミトフ長官にア・バオア・クー戦で攻撃を中止させられた恨みがあるからだろうか?尤も言っている事は正論なのだが、それを言っている人物がティターンズ寄りの将官であると言う事実が正直言って気に入らないというのはある。これは人間である以上仕方のない事だろう。誰だって色眼鏡で判断する。もしも色眼鏡を持たない人間がいたらそれは人間では無い。それは機械だ。(裏があるのではないかと気が気でないな・・・・・我ながら度し難いとは分かっているのだが・・・・それでもあの時、あのア・バオア・クーで勝っていればと思ってしまう。そしてその幻想を、或は幻惑を目の前の男に、或は北米州のヘキサゴンにいる連中にぶつけてしまう・・・・・嫌な男になってしまったな)一度、一瞬だが沈黙の帷が下りる。そしてそれを破るように用意されていたスポーツドリンクを飲むとティアンム提督は改めて口を開いた。「それで・・・・・他の任務部隊も解体するのか?」その問いにエイノーは若干視線を逸らす。が、エイノー中将もしっかりと答えた。彼もまた義務を果たさんとする軍人であるし、地球連邦軍の宇宙軍正規艦隊の艦隊司令官を務めるほど有能なのだ。言うべきことは言う。やるべきことはやる。それが上級将校の義務である。「はい。各任務部隊の内、最もジオン本国に近いY任務部隊以外は一度解散して警戒態勢を厳にすべきです。また2隻1戦隊ではなく、10隻1個分艦隊制度を設けます。そして相互の連絡と救援を可能にします。こうして網を張り、暗礁宙域全体を捜索します。また民間軍事会社、いえ、この際ハッキリ言いますが傭兵部隊も投入しましょう。正直に申し上げて傭兵会社の存在は目障りです。彼らを正規軍に組み込みここで消耗させます。言うまでもないですがニューヤーク市の惨劇を繰り返す訳にはいきません。今は政府の救難活動と世論誘導で卑劣なるテロリストに屈服しないと宣言しているためか、反政府運動は起きていませんが地球でその運動が起きるのは時間の問題では無いでしょうか?」そう言って彼は発言を終える。書記官がその旨を携帯PCに筆記する。書記官が記録し終えた事を見計らってワッケイン中将が発言した。こちらの、つまりワッケイン中将の考えは真逆だった。「私はエイノー提督の意見に反対です。我が軍の艦隊は分派するべきではありません。勿論即応体制を確保する事は大前提ですが、例の大型MAや新型機があります。ティターンズの膝元であるグリプスでの戦闘やバスク大佐の派遣した追撃部隊が一方的に叩かれた事を考慮すると連中の個々の戦力は明らかに我が軍を凌駕していると考えられます。下手に同数で戦えば戦力の質で劣る我が軍が壊滅する可能性が高いと思われます。先に参謀らが述べたように現在のX、Y、Zの主力MSはジム改かジム・コマンド宇宙戦使用であり、これらの機体は既に8年前の機体です。これでは同数の敵機と接触した時に部下を無駄死にさせる可能性が高いと言えるでしょう。その点を考慮すれば独立戦隊を警戒に、艦隊本隊は本命に取って置く事が優先されるのではないでしょうか?」どちらの考えも一長一短である。ワッケインは各個撃破の危険性を指摘しており、エイノーは時間との勝負、アースノイドの現政権への信頼崩壊の危険性を考慮しての艦隊分派を主張した。それぞれの参謀たちもお互いの上官の案に賛成するのでこれではどうしようもない。(指揮官と言うのは孤独だな。だがそれを選んだのも自分だ。仕方ない。宇宙艦隊司令官として決断すべきか・・・・)宇宙艦隊司令長官たる自分が決裁しなければならない案件となってしまったようだ。エイノー、ワッケイン両派の意見が出尽くしたところで机を叩く。結論は出した。全員の視線がティアンムに集中する中で、彼はしっかりと自分の意見を述べた。「正規艦隊は保全する。ただし、エイノー提督は第3艦隊を指揮して暗礁宙域の捜索を行え。残りの部隊はソロモンに待機。彼奴らがソロモンなりルナツーなりに来るならば基地守備隊と共に迎撃する」宇宙世紀0087.05.04、エコーズ基地軍病院。集中治療室。そこで寝かされていた男が目を覚ます。「・・・・ここ・・・・・は?」記憶が混乱しているのか、辺りを見回す。ふと思ったベッドが大きい。キングサイズのベッドだ。いや違う、ダブル・サイズだ。しかも隣に見知った顔がいる。なぜこの女性が点滴を受けながら寝ているんだ?それがいっそう彼を混乱させる。「・・・・・誰か・・・・いない・・・・のか?」擦れた声。失われた体力。それでも彼は、ウィリアム・ケンブリッジは意識を回復した。奇跡だった。誰もが絶望視する中で諦めなかったケンブリッジ家の人々。その結果がもたらしたのがこの奇跡。「・・・・リ・・・・・リム?」そうだ、横のベッドに寝ているのはリムだ。何故だか知らないが彼女も点滴の管を腕に差している。自分と同じく負傷したのか?そしてうなされている。何かの悪夢と戦っている様だ。それが何なのか分からない。とりあえず、彼女の左手を握る。(大丈夫・・・・俺は・・・・ここに・・・・い・・・・るぞ)そう伝えるように。そして上半身を起こそうとして、点滴が倒れた。その音で部屋の外にいたメンバーが入ってくる。カムナ大尉、ダグザ少佐、ブッホ君の三人だ。全員が安堵の表情を浮かべているのが分かる。「・・・・・閣下、申し訳ありません。御側にいると言いながら肝心な時に居られませんでした・・・・お許しください」ブッホ君が頭を下げる。最初は何の事か分からなかった。そして思い出した。自分は撃たれたのだ。(あ、ああ、そうだ、あの日、ミネバ・ラオ・ザビを庇って撃たれた。それからずっとここにいたのか? ならば自分は、世界はどうなった?ミネバ・ラオ・ザビは死んだのか? 父親のドズル・ザビは生きているのか?)そんな疑問が頭の中を占領する。何とか息を整えると粗い呼吸をしながら彼らに聞く。「ミネバさんは? ドズル退役中将はどうされた? あのテロリストは? 過激派はエゥーゴなのか? 世界はどうなっている? みんな無事なのか?」それに答えたのはダグザ少佐だった。「ドズル・ザビ、ミネバ・ラオ・ザビは無事です。無論、副長官のご子息らも我々エコーズが万全の体制で保護しております。とりあえず閣下は静養に全力を注いでください。何かあればこの三人の誰かに連絡を。こちらがスマート・フォンになります。お使いください。特注ですので病院内部でも使用可能ですから」ダグザが安心させるように言う。その傍らでブッホ君がナースを呼び出し、自分の点滴を入れ替えていた。(ああ、そうか。あの子らは無事なのか。良かった)そう思うとまた急に眠くなった。疲れが残っている。とてもとても疲れた。眠い。だけど大丈夫な気がする。次起きたらリムが隣で笑っていてくれる気がする。だから今は眠ろう。部屋を出た三人は途端に深刻そうな顔をする。「言わなくてよかったのですか?」ティターンズの制服を着たカムナ大尉が聞く。エコーズはティターンズでは無く地球連邦軍の特殊部隊である為、ダグザ少佐は地球連邦軍の制服を着ている。蛇足だが彼は連邦軍こそ自分の生きる道だと信じてティターンズ入隊を辞退した。ところでカムナ・タチバナは何を聞きたいのか?決まっている。ニューヤーク市がジオン反乱軍の猛攻を受けて大損害を受けた事だろう。負傷者は30000名、死者も5000人をこした。旧世紀の同時多発テロの比ではない。また、ヌーベル・エゥーゴの扇動によってサイド2で大規模な反地球連邦デモ、反ジオン公国デモが行われているとの事だ。地球連邦軍は今のところ静観しているが、事態が悪化すれば一年戦争前夜の二の舞になるだろうと各地の新聞社やシンクタンクは予想している。嘗ての連邦市民の感情は反ジオン感情だったが、今度は反スペースノイド感情が地球を覆うのだ。それが最悪のパターンだ。というより、既に北米州の世論はジオン『反乱軍』の早期殲滅から『ジオン本国侵攻』へと動き出しつつあった。地球対宇宙という対立構図。だがそれは避けなければならない。尤も効果が無い、若しくは極めて薄いのが現状である。これを抑えるべくブレックス少将やジャミトフ長官らは精力的に動いているが如何ともしがたい。何せ最も権威と権力のある実力派のジャミトフ・ハイマン長官は、遺憾ながらスペースノイドの主流派から見て地球至上主義派閥と考えられており、それだけでマイナスイメージがある。スペースノイドの誰しもがティターンズというアースノイド主体(実態はともかく)の部隊に介入されたくないのだ。それが地球連邦きってのエリート部隊であれば尚更。ブレックス少将もY任務部隊が、彼がいない間に月市民を敵に回してしまったと言う汚点があり積極的に動けない。これはバスク・オムの遺産でもある。よって宇宙も地球もこう着状態が続いている。「タチバナ大尉の言いたい事は分かるが・・・・今、副長官にその事実を言ってどうするのだ?」ダグザ少佐は逆に問いかける。意識が回復したとはいえ、副長官がまだ怪我人であり重症であることに変わりは無い。そんな彼にこれ以上の負担を強いろと言うのか?「しかし・・・・・知らない方が知った時の衝撃がデカい気もします。そちらの方が閣下にとっては辛いのでは?」(なるほど・・・・そう言う考えもあるか。確かに政務次官、いや副長官ならそう言いかねないな。どうしたものか? ここは彼の言う通りにするべきか?)ブッホ書記官の言う通り、地球圏最大級の人口を持つ大都市が戦火に晒された、ジオンの海中艦隊の襲撃を受けたなどと聞けば彼の事だ、自分の責任だなどと言い出しかねない。だが、それは彼の責任では無い。あの暗殺事件の際、ウィリアム・ケンブリッジ副長官は死んでもおかしくなかった。その間に起きた事件など闇に葬り去るのが一番なのだが・・・・・次に目を覚めたら伝えなければならないだろうな。(特にニューヤーク市の件は話さなければならないが・・・・・どうしたものか)そう思うダグザ少佐は憂鬱だった。同日、グリーン・ノアⅡペガサス級強襲揚陸艦から正式にアルビオン級強襲揚陸艦と艦識別コードを変えたアルビオンの二番艦ホワイトベースⅡではマオ・リャン中佐が恋人兼MS隊隊長のユーグ少佐に尋ねた。艦長室で。二人でありココアがある。ガンダムMk2強奪事件によりグリプス全体は混乱の極みであったのが嘘のように静かだった。「それでアーガマらは帰還したのか?」情事の後を洗い流したユーグが恋人のマオに聞く。台湾出身の彼女だが混血なのか髪の色などは東洋人らしくない。まあそれが彼女の良い所なのだが。「恋人ムードに浸りたいと言うのに・・・・これだから男って。やることやったらもう仕事?」そう言いつつも胸元に自分の胸を押し付ける。思わずどきりとするがそれを理性で抑える。「まあ、その、役得?」普段の彼からは見られない程のおちゃらけた具合に呆れ顔をするマオ。そんな時間を過ごし双方が着替えるとしっかりと上司と部下の関係に戻って報告する。「ブライト・ノア中佐のアーガマ、ロウ・シン中佐のブランリヴァル、イーサン・ヒースロウ中佐のペガサスⅢ、このアーガマ級巡洋艦三隻が暗礁宙域を2週間哨戒したが、成果は無しとなっているな。いや待て。先ほどの報告書だと一度だけブライト中佐指揮下のガンダムMk2の3号機とアレックスが交戦したらしい。敵は3機の、記録によるとリック・ディアスという重MS、こちらはガンダムが2機。それで信じられないのだが相手は赤い彗星だったらしい。白い悪魔と赤い彗星。よくよく縁があるらしいな」そう言って彼女は意見を止めた。それ以上は軍機に障ると言う事だろう。ならば聞くまい。今の自分らはティターンズの一員だが準軍事組織の一員でもあるのだから。しかし、これで地球に残ったティターンズ精鋭部隊であるロンド・ベルは建造途中のネェル・アーガマのみ。(ちなみにこのネェル・アーガマ建造。大鑑巨砲主義のグリーン・ワイアット大将がごり押しした。彼にとってハイパー・メガ粒子砲搭載の戦艦は件のバーミンガム級やその後継艦であるドゴス・ギア級に匹敵する程の輝きを持っていたようだ)そしてこの地球連邦ではホワイトベース、ペガサス、アルビオンの技術を活かして、従来にはなかったアーガマ級に、大気圏突入能力と離脱能力が付けられる事になる。これは従来の建艦理念には無かった事だが元々ペガサス級の後継艦として建造されていた為か、それ自体は設計上可能であった。ただし大改装が必要である。その大改装の為に、アーガマ、ブランリヴァル、ペガサスⅢの三隻はグリーン・ノアⅡにてドッグ入りする。特に大気圏内戦闘を考慮する事が優先されている。「それよりもだ、少佐。貴様はこれからブランリヴァルMS隊司令官とペガサスⅢMS隊司令官のストール・マニングス中佐、トッシュ・クレイ中佐と打ち合わせがある筈だな?」命令口調の彼女。こういう時は大抵厄介ごとを押し付けるのだ。「あります。それが何か?」それを見てマオはにやりと笑う。一瞬だがベッドの中で聞いておけば良かったと後悔するユーグ。「例のガンダムMk2の交戦記録に最悪な情報があった。民間人がMk2を操縦し、あまつさえ2対1の劣勢の中、敵を2機とも撃破したと言うのだ。少佐、これは驚くべき戦果だと思わないか? 民間人がプロの軍人の乗る同性能の機体を撃破したのだ。最悪スパイの可能性もあるな・・・・・アリスン中尉の様に」確かに。マオのいう事を聞いていれば恐らくそのパイロットは初陣。しかも民間人というのが本当なら本来は、いや、絶対にありえない事の筈だ。それが起きた。ならばこれは恐らくはアムロ・レイの再来。もしくは・・・・考えたくないがシェリーと同じ。「そのパイロットの・・・・・いえ、失礼しました。民間人の名前は?」溜め息を一つ。「我々ティターンズに志願した。というより、どうやら上層部の意向でティターンズに入れざるえないらしい。名前はビダン、カミーユ・ビダン。今はアーガマのアムロ・レイ少佐とセイラ・マス弁護士が身元引受人だ。それとだ・・・・ユーグ」ここで声を落とす。何故、軍事機密に携わった、接触した民間人を拘禁しないのかその一端を明かす為に彼女の顔をしたマオが静かに声を落として言った。「そのカミーユという少年だが・・・・おい、女だと思っていたのか?全く・・・・それでビダンと言う姓名から分かる者は分かると言う噂だが、両親がガンダムMk2開発に携わった・・・・つまりティターンズの身内だそうだ。これはあくまで『善意』で伝えた独り言なので、無論だが口外してはならないぞ、少佐」「は」そしてユーグは敬礼して立ち去る。ストールとトッシュと言う第一次ルウム戦役から戦い抜いたベテランにして先輩らとミーティングをするために。「どうおもう、トッシュ?」士官用クラブでウィスキー片手にストール・マニングス中佐がトッシュ・クレイ中佐に問いかける。彼らはあの最悪の戦闘と呼ばれている第一次ルウム戦役を生き延びた数少ない生き残り。そう言う意味で彼らから見ればアムロ・レイですらヒヨコである。「何がだ?」ウィスキーとコーヒーをかき混ぜる。アイリッシュ・コーヒーだ。寒い時はこれが一番良いとされている。かつて1920年代から1930年代にかけて大西洋空路が開拓された。しかし、当時の技術では十分な冷暖房設備を航空機に乗せる事が出来ずその代りをコーヒーとアルコールに求めたのが起源だという。「例の赤い戦艦だ。結局アーガマの追撃を逃れた。それ以降は消息を絶っている。厄介だとは思わないか?」そうだな。一度顎に手を当てる。(敵艦はバーミンガム級に匹敵する巨体とアルビオンやアーガマと同程度のMS搭載能力を持っていると考えて良いか。それに件の新型MAもある。アーガマのブライト大佐・・・・責任を追及されて一階級降りて中佐か、あのヨーロッパ戦線からア・バオア・クー攻防戦まで生き残ったのだ。彼の指揮は巧みだろう。更にMSも現役のアレックスとMk2だ。それが接敵している。にもかかわらず逃がしたとは・・・・・余程強力なのだろう。それにジオン公国との技術協定で漸く手に入れたビグザムと言う名前のMA。本来はソロモン要塞に配備される筈だったらしいが、ペズン計画の成功によってジオンの生産ラインが完全に飽和した為開発を見送られた機体。この後継機だろうか?)そう考えつつも、目の前でトッシュがウェイターに新たにワインを頼む。相変らず酒に関しては節操のない戦友だな。そう思いながらも自分もお代わりを頼んだ。「それでだ、今度はユーグ少佐、アムロ少佐、お前、俺で部隊運用を考える必要があるかもしれん」此方の思惑を知らずにか、トッシュがグラスを傾ける。白ワインの透き通った色が引き立たせる。「・・・・・例の地球降下演習、か?」地球降下演習。地球各地に潜伏するジオン反乱軍を地上と宇宙から三次元的に攻撃するという野心的な作戦であり、地球連邦軍作戦本部が立案していた。その基本案は海軍所属の空母機動艦隊の空襲と海上艦隊の対地攻撃、海兵隊上陸に特殊部隊の浸透戦術、その後の陸路と宇宙からのHLV並びペガサス級強襲揚陸艦による制圧。これは間違いなくジオンの地球侵攻作戦のアレンジである。その尖兵となるのがロンド・ベルであるのはティターンズ設立時からの決定事項でもあった。(まあその点についてはとやかく言える立場では無いし言う気もないか)だが幸か不幸かそのような事態はガンダム強奪事件までは無く、その事件もグリプス襲撃、バスク大佐の出撃させた追撃艦隊壊滅、アーガマによる尾行失敗によって意味をなさなくなる。「俺たちでさえやった事の無い三次元作戦を新米連中に出来るか?」こいつから見ればあの白い悪魔やホワイト・ディンゴ、不死身の第四小隊などでさえ新米なのだな。思わず面白くなる。と、予約を入れて置きながら一番遅れた奴が入ってきた。「ヤザンか、遅かったな」特務少佐の階級章を付けた、黄色と黒と言う独特のティターンズ制服を着た男は黙って敬礼し、そして言った。「遅れました、中佐殿」殿を強調して。「なれない事をするな。俺もストールも貴様もルウムを戦い抜いた男だ。まあ、飲め」そう言っていつの間にか用意したワイングラスに白ワインを注ぐ。「それじゃあ有り難く頂くか。美味いな・・・・・ところでトッシュ。今度の敵は仕留め甲斐があるのか?噂じゃあ例の赤い彗星がいたとかなんとか。もし本当ならヨーロッパの借りを数年ぶりに返せるんだがな」ヤザン・ゲーブルは教導大隊指揮官としてグリプスに着任していた。かつて自分以外の戦友を全て失った経験から生き延びる事を重視する集団戦法を教えているが本人は赤い彗星に対して並々ならぬ敵意を持っていた。それ故に裏のネットワークを通じて手に入れた情報、今回のガンダム強奪事件に赤い彗星が関与しているという事を知り、是が非でもそれに参加したいと思っていた。「さてな、ヤザン、確かに例の赤い彗星がいると言うのがもっぱらの噂だが・・・・・噂は当てに出来ない。まして戦場の噂だ」「ふん、それでも俺は奴を仕留めてみたいのさ。ヨーロッパでの借りを倍にして返してやりたいラムサスとダンケル、あの二人の為にも。そして俺自身の気持ちの為にも、な」宇宙世紀0087.05.01のこの日、ソロモン駐留艦隊である第4艦隊、第5艦隊は核の炎に焼かれる。第3艦隊からの急報を受けた連邦艦隊は傭兵各会社の部隊と共に暗礁宙域へ向け艦隊を出撃させようとした。だが、それを逆手に取ってソロモンの防衛ラインを強行突破したインビジブル・ナイツとグラナダ特戦隊は今まさに出港せんとしていた地球連邦正規艦隊に対してガンダム試作二号機を使った戦略核弾頭による核攻撃を敢行。僅か3分で150隻以上の艦艇を撃沈破する未曽有の大戦果を挙げた。『水天の涙成就セリ!』その報告はエゥーゴによって地球圏全土へと配信される。そして、地球連邦政府はこの日を持って、ある種の余裕を捨て去った。「宇宙艦隊司令長官であるティアンム提督は更迭する」マーセナス首相は静かに、だがしっかりと怒気を含んだ声で連邦軍統合幕僚砲ん部長のゴップ大将に告げた。そしてティターンズの長であるジャミトフ・ハイマン長官はこれを機会に自派閥の拡大に動く。千載一遇のチャンスと見たのだ。その速さは政界の電撃戦とまで呼ばれるもので、地球連邦政府(というより嘗てのレビル派閥)は追認するしかなかった。まずはじめに宇宙艦隊司令長官の交代。今回の失態で身体的にも政治的にも被爆したティアンム提督からタチバナ提督に挿げ替える。これに反発は少なかった。実際、ガンダム強奪事件からマーセナス首相は地球連邦軍全軍に対して第一級の警戒態勢に移行する様にと命令が下しており、襲撃直前には第3艦隊からの報告もあった。しかも難攻不落と言われたソロモン要塞の防衛線という地の利。それにも拘らずソロモン防空網を突破して戦略核兵器の直撃を受けた以上、宇宙艦隊司令長官としてティアンム大将は責任を取る必要がある。加えてジャミトフ・ハイマンは更に追撃を行う。ニューヤーク市の件もこれにリンクさせたのだ。この為か、北半球方面軍司令官でありながらドゴス・ギア級大型戦艦とネェル・アーガマ級戦艦の建造を認めさせるほどの影響力を持っていたグリーン・ワイアット大将の影響力もまた大きく削られる事となる。尚、この裏にはゴップ大将の影があったと言われるが定かでは無い。そして漸く目覚める主人公は・・・・・抱き疲れて泣き疲れた子供らの相手をさせられていた。宇宙世紀0087.06某日アンマン市に入港していたグワダンに『水天の涙作戦』にて確保した新型ガンダムやマラサイの情報が入ってきた。これを受けてシャア・アズナブルはメラニー会長と接触した。一方で地球圏に戻る大型宇宙船があった。それはパプテマス・シロッコ大佐指揮下の木星船団。そこで引き渡される多数のヘリウム3。核分裂反応炉による発電と自然発電を中心とした発電をメインにする地球。核融合炉を中心とした宇宙の発電事情。それら両者からみても木星船団は重要なファクターとなっている。ましてや地球連邦の戦後復興政策の一環である火星植民計画の主要な柱であるならば尚更。どの陣営も無碍に扱えないが、それ故に有限な物資の切り札の切り方には細心の注意を払う必要がある。「さて・・・・どうしたものかな?」極秘通信の相手は見えない。音声のみでその音声も嫌がらせなのかギレン・ザビの演説を利用したギレン・ザビの合成音声になっている。それを聞きながらグワダンの一室でシャアは思った。今後の戦略をどうするかを。『こちらの準備は出来ている・・・・・あとは君ら次第だな』通話記録も残さない様、直接回線を極秘裏に走らせていた。それでも不安と言う事で戦艦に使われている防諜システムを使っている。尤もこちらも同じ事をしているのでそれくらいは当たり前だろう。『用意は出来た。宇宙世紀0088の首相選挙の為に議員はダカール市に集まる。そこで我々の正義を語るべきではないか? 何を戸惑っている? 連邦軍が本気を出し、正規艦隊を相手にすれば君らは干上がる。いつまでもゲリラ戦を続けられるほどの余裕はないのは君ら自身が良く分かっているだろう?』画面は二つ。一つはタウ・リン。もう一つは連邦軍の大物。未だに連邦の大物の正体は分からないのだが、どうも口調からスペースノイドというよりアースノイドという気がする。『そうだな。スペースノイドにせよアースノイドにせよジオンの同志たちのやり方をやり過ぎたと思っている者は多い。特にニューヤーク市にミサイル攻撃を行ったのは最悪だ。あれで世論は一気に硬化した。テロリズムに妥協などあり得ないというのが北米州の世論である。これに統一ヨーロッパ州の世論が加われば地球連邦はスペースノイドの弾圧を行うだろう。その様な事態は其方にとっても不愉快では無いかな?』試す様な声に反応したのはもう一人の方。こちらも侮蔑の声音を含んでいるのを隠しもしない。『スペースノイド弾圧ね? あんたとしては其方の方が望みなんじゃないかなと思うのは下衆の考え方か?』『・・・・・・・』沈黙するモニター。それに構わず続けるタウ・リン。『ま、こちらも準備は整いつつある。必要な艦隊も揃えれそうだ。旧型が駄目だっていうからあの会社の裏金を使って新型機を配備した』ほう?感歎の声が漏れる。タウ・リン。予想以上の買い物だった。この短期間で曲がりなりにも新型機を配備するなど並大抵では無い。これはこれで役に立ちそうだ。『こちらからも義勇兵なり、傭兵なりの形で派兵している。やるなら早めにやって貰いたいモノだ。何もジオン残党軍、失礼、ジオンだけが反地球連邦政府を掲げている訳では無い。地球連邦の準加盟国の右翼主義者や宇宙海賊などいろいろある。それに・・・・・・忠義の烈士とやらが決起すればジオン本国や各スペースコロニーの世論も変化しよう?』考え所だ。この目の前の男の甘言に乗るか?それともまだ時期を待つか?しかし男の言う通りいつまでも黙っている訳にはいかない。(じり貧か。その可能性が高いな。ならば賭けるか? それにまだアクシズが残っている。いざとなればアクシズ全軍を使ってコロニーに潜伏すると言う手もある。連邦相手にゲリラ戦か。悪くは無いな。そして政情を不安定化せてサイド3に舞い戻る。ザビ家独裁打倒を掲げて。)そしてシャアは決断する。「水天の涙作戦、第二段階を発動する。約束しよう」さらに2か月後。地球連邦軍が北部インド連合に対してジオン反乱軍の引き渡しを求めた頃、一機の政府専用機から壮年の閣僚がエコーズに下りた。名前をジャミトフ・ハイマンという。まさに現在最も注目される閣僚、ティターンズの長官である。病室までエコーズを伴った彼は、完全に一軒家として機能している住宅型病院に入る。中にはケンブリッジ家のメンバー4人とジャミトフ・ハイマン長官の合計5名のみが残された。「先輩・・・・・改まってどうしましたか・・・・・それで・・・・一体全体・・・・私に何をしろと?」「・・・・・・死んでくれ」蒼白な顔で妻がベッドに倒れ込み、息子と娘が唖然とした顔で先輩を、ジャミトフ・ハイマン長官を見る中で、しっかりと先輩はこちらを見返してきた。「もう一度言う。ウィリアム・・・・・お前の未来を捨ててくれ。そして死んでくれ。頼む」その意味深な言葉に私は漸く完全に回復した体を起こしながらしっかりと刻み付けた。(なぜ俺なのだ? 何故ほかの人間では無い? 必死に奉職した。死にそうになった事もある。決して望んだ地位では無い。なのにだ、今度は死ねと言う。明確に。どういう事だ? 先輩、俺は一体何か悪い事をしましたか?)頭の中ではその事だけが木霊する。気が付いたら汗が出て来た。寝間着を滴る汗だ。だがここで自分が不安になって子供らの前で取り乱す訳にはいかない。だから必死にそれを抑える。子供らは嘗ての優しいオジサンを仇の様に睨み付けている。「理由を聞かせてもらえませんか?」漸くにも言えたのはありきたりな言葉。だがその言葉を言うのに言うに5分はかかったと思う。実際は良くわからない。頷くジャミトフ長官。そして彼愛用の黒い携帯タブレットにメモリーディスクを差し込み、パスワードを打ち込んで画面を開く。更にもう一度、最初とは違うパスワードと指紋認識を使って目的のページを見せる。「拝見してもよろしいのですか、先輩?」黙って頷く。そして言った。「その為に来た。お前だけに泥をかぶせる訳では無い。それも理解して欲しい」内容は外交暗号と軍用暗号の二つを混ぜて書かれた高度なものであり、妻と自分でさえ解読に時間がかかった。その間、ダグザ少佐がレモン水を人数分とフランスパンとバターを持って来てくれた。ついでにミルクチョコレートも。甘党の息子と娘、そして先輩がそれで時間を潰している間に自分達二人、リムとウィリアムの顔色が変わっていく。幸いな事にそれは子供らにはあまり見せる事は無かったがそれでもマナは敏感に察した。何かあるな、と。(・・・・・本当に察しが良い娘だ。我が娘ながら末恐ろしいモノだ)とウィリアムは思う。その一方で。「・・・・・囮作戦」リムの擦れた声だけが妙に病室に響いた。「そうだ。今度の総選挙。我が北米州はオセアニア州のゴールドマン氏を次期地球連邦首相に推薦する。だがその前にジオン反乱軍とエゥーゴと言う反政府組織、テロリスト集団は叩かないといかん。これは分かるな?が、連中もテロとは一般人に紛れて行う事に意味があると言う事を理解している。なまじ地球連邦軍自身が巨大であるが故に我々もそうは簡単に動けん」ジャミトフ先輩の言いたい事が何となく読めてきた。要するにだ、テロの標的を用意して一網打尽にするつもりなのだ。その為の人身御供がいる。「選挙は戦災復興とニューヤーク市攻撃から市民の目を逸らす為に北部アフリカ州の州都にして副首都ダカールで1か月後に行う。その際にはブライアン大統領、マーセナス首相、ゴップ大将、ワイアット大将、オオバ首相など各州代表やオブザーバーとして軍幹部、財界幹部・・・・それにジオン公国からはギレン・ザビとその実子グレミー・トト、マリーダ・クルスが来る予定だ。これは最重要機密だ。だから私が直接お前に頼みに来た。無理難題だとは分かっている。銃撃されたお前には酷な仕事だとは十分に承知している。だが敢えて頼む。お前しかいない。お前を最も信用しているし、お前以外に適任はいないとも信じている。そしてこの案を通した瞬間からお前に平穏な人生は失われる事も分かってはいるのだ。だが・・・・・すまない。だから頼む。お前の残りの人生を私に預けてくれ。決して信頼しろとは言わん。利用してくれても構わん。だがあの日に言った地球の汚染の事だけは忘れないで欲しい。あの日言った事だけを信じてくれて構わない。ウィリアム、貴様だけが頼みだ」そう言ってジャミトフ先輩は床に跪き、そのまま東洋でいう所の土下座をした。あの誇り高き孤高の鷲とまで言われたジャミトフ先輩が、だ。だがそれでも即答は出来なかった。この計画に乗れば自分は、いや自分たち家族はずっとスペースノイドやアースノイドの過激派のテロの標的になる。それを考えれば・・・・安易に返答できない。(先輩の言い分は分かる。だけど俺は怖い。死にたくない。死にたくない。まだ娘の結婚式も見てない。息子の卒業式も知らない。それを分ってほしい。漸く安全な後方で家族と過ごしているんだ。それを台無しにするような作戦に巻き込まれたくない・・・・でも・・・・・それでもここまで先輩にやらせておいて知らないふりはできないだろうな・・・・・常識的に考えて)とりあえずリムが先輩を立たせる。そして近場のオフィス用の椅子に座ってもらう。この時漸くジャミトフ・ハイマンは来ていたコートをハンガーにかけた。そしてびっくりした。彼の顔は予想以上にやつれていた。少なくとも自分が銃撃された日から比べて彼の憔悴ぶりは半端なかった事が窺える。「ジャミトフ閣下・・・・具体的に夫にどうしろと?」この時点でリムは二人の子供たちを退室させた。部屋の外で待機していたダグザ少佐とカムナ大尉、シャーリー大尉、パミル中尉、エレン中尉に預けて部屋に戻る。そして開口一番に聞いた。この作戦の本当の狙いを。そもそも総選挙だけではエゥーゴやジオン反乱軍が動く保証が無い。彼らとて自分達が少数であり、その少数精鋭ぶりを発揮する事で敵を、つまり地球連邦軍やティターンズを翻弄している事は理解しているだろう。ならば地球連邦軍にとって尤も良い方法は敵を敢えて集結させて3倍以上の兵力を揃えた上で、尚且つ一撃で押し潰すナポレオン戦争型の戦争行為だ。第二次世界大戦の様な拠点争奪戦やベトナム戦争、アフガニスタンでのゲリラ戦では勝てない。何故ならエゥーゴやジオン反乱軍は勝たなくても勝利である=負けない事=勝利だが、連邦軍はテロリストをすべて壊滅させなければ勝利ではなく、1割でも逃がせば敗北なのだ。それがエゥーゴ、ジオン反乱軍、アクシズの共通認識であり、グリプスとルナツーに勢力を置くティターンズ、ソロモン、グラナダ、ア・バオア・クーに軍を配備する地球連邦宇宙軍の想定でもあった。そしてこの考えはおおむね現実と教訓に沿った考えであると言える。だからこそ囮作戦などという危険極まりない任務をウィリアムに頼みに来たのだ。無論、リムの怒りの琴に触れる事は承知の上で。事実彼女は最大限の怒りを持って元上官を睨み付けていた。「・・・・・・」だがジャミトフはリムの視線、人を殺せるような殺意のこもった視線を受けても何も言わない。ただ頭を下げているだけだ。それだけが自分にできる最大の行為だと信じているかの様に。「閣下?」やはり黙ったまま。「ジャミトフ・ハイマン長官。いくら温厚な私でも限度があります。上官侮辱罪は覚悟の上。敢えて申し上げます。何故夫なのですか?何故私たちなのですか? 何故放って置いてくれないんですか? お答え願います!」しかし返答は無い。ジャミトフはただ黙って頭を下げるだけだった。二人に対して。「ジャミトフ閣下!! お答えください!!! ハッキリと仰ってください!!!これだけでは・・・・・単に頭を下げるだけでは不十分です!!! 具体的にどうしろと仰るのですか!!!単純に頭を下げるだけなら動物園のサルにだってできます。何故ウィリアムやマナやジンをまた危険な目に晒すのですか!?」リムの怒鳴り声にもジャミトフは口を開かない。ずっと黙ったまま何かを耐えるように頭を下げている。「この卑劣漢!!」思わず立ち上がり詰め寄ろうとしたリムを右手で制止するウィリアム。「・・・・・コロニー自治制限法案・・・・・その提唱ですか?」答えを述べたのは夫だった。銃撃されてからこの方、ずっと寝込んでいた夫は思う所があったのだろう。ダグザ少佐やブッホ書記官、カムナ大尉を経由して社会情勢を分析していた。更には自分の権限、ティターンズ副長官の権限でエゥーゴとジオン反乱軍の詳細な情報も手に入れていた。伊達にティターンズ副長官では無いと言う事だ。それにしてもウィリアムはいつの間にこの人はここまで来たのだろうか? そう思う程に彼は優れた政治手腕を発揮している。実際、彼の提言、ニューヤーク市復興にティターンズ北米展開部隊の全軍を投入するという決断でティターンズ批判は回避された、或は沈静化している。その上でジャミトフはウィリアム・ケンブリッジに一つの法案を提出する動きを見せるように頼み込んできた。「・・・・・わかったか?」それを見てレモン水を口に含むウィリアム。呼吸が整って見えるがそれでも荒々しい。「分かります。エゥーゴ派の面々はスペースノイドの、正確にはサイド1、サイド2、サイド4、サイド5、そして月面諸都市の権利拡大。いうなれば各サイドが己のサイド3、ジオン公国化を望んでいる。そうですね?それを行うための武力による抗議行動が一連のエゥーゴのゲリラ戦の流れであると連邦政府は判断した。ならば彼らを暴発させる。その為に法律を通す。悪法も法。そう言う意味を持たすのでしょう?こういう筋書きで彼らを暴発させて包囲殲滅する。特に二発の核弾頭を持つジオン反乱軍だけは必ず壊滅させなければならない。その為には彼らを激昂させる餌が必要。その餌となるのが今回のコロニー自治権廃絶法案・・・・一度可決されれば彼らの大儀が失われると思わせる嫌な手ですね。引かせないし逃がさない。ジオン反乱軍はともかくエゥーゴに対しては逃げれば更にコロニーの弾圧を強めるぞと脅す。本当に嫌な方法ですね」尤も、コロニー自治制限などは出来ない。現実問題として、そんな事をすればジオン公国とも関係を悪化させるのでこれは単なるブラフに過ぎないのでしょうが。そうウィリアムは締め括る。これを見てジャミトフは思った。自分の予想以上に後輩が成長している事を。そして予想以上に現在の情勢に詳しい事を。嬉しくもあり寂しくもあり、そしてすまないとも思う。「理解してもらえるとありがたい。例えお前に嫌われようともこの法案はお前が出す事、いや、出そうとする事を示唆する事に意味があると私は信じている。エゥーゴに暗殺されかけた故のティターンズ側の反撃、恣意的な法律案とそれに賛同する連邦のアースノイド保守派という形だ。無論、こんな法案は実際には出さない。この点は情報部がそれとなくアングラ出版やジオニックライン、BBCなどの民放や連邦国営放送(FB)などに流すだけだ。だがそれだけに彼らは動かざるえなくなる。貴様の言うように古代ギリシアの哲学者は悪法も法だと言って死んだ。古代中国では講和会議の場で脅迫されたが故に外交交渉を白紙に戻されたが、覇権国家の側はそれを律儀に守り通した。いや、守る義務があった。それが法律だ。その故事をそれとなく地球圏全土に流す。そうする事で連中を、エゥーゴとジオン反乱軍を巣穴から誘き出し激発させる。それが今回の作戦の狙いだ。そしてそれを違和感なくできるのは実際に銃撃されたお前だけなのだ」言いたい事を言い終えたジャミトフ先輩に対してリムが手を挙げて反論する。「ならばそんな迂遠な真似をせずにジャミトフ閣下が直接提出すれば良いのでは? わざわざ私の夫の手を汚す必要はないと思いますが? それとも何でしょうか? 長官ご自身がテロの標的になるのは怖いから代わりに盾になれとでも言うのですか?ウィリアム・ケンブリッジは体の良い道具ですか? RPGゲームに出てくる一山いくらの安い防具ですか?それが先輩としての友愛ですか? 冗談じゃない!!」と。最大限の皮肉だがジャミトフ先輩はそれを受け止めた上で答えた。「そうしたいのは山々だがな・・・・・下賤な話、ゴップ大将の影響で私の法案提出権は停止されている。ガンダム強奪と一連の奪還作戦失敗についてな。それに私はアースノイドで地球至上主義者と考えられているのも一因だ。それを思うと私が言っても不信感しか残らないのではないかという懸念がある・・・・言い訳であるというのは十分承知だが。それでだ・・・・尤もらしい言い訳をする為にこそウィリアムの、退役准将、君の夫の立場が、第三者から見ても違和感のない復讐者と言う外見が必要なのだ・・・・言い訳だな。許せとは言わんよ。いや、違う。言えんな」わなわなとふるえるリムの拳を前に私は思う。これ以上は不味いな、と。一旦話を切り上げさせる必要があるな、とも。「分かりました・・・・・家族だけにしてもらえませんか? 回答はいつまでに?」その問いに更に辛そうな声と表情で先輩は告げた。「悪いが三時間以内だ。それ以上は待てない。そして断った場合は・・・・・いや、それ以上はその時に話そう・・・・では三時間後にまた会おう」同日、グリーン・ノア宙域。ガンダムMk2三号機とそのデータを元にしたガンダムMk4の実動演習が繰り返されている。周囲にはサラミス改級巡洋艦8隻と搭載機のハイザックにアーガマ級の搭載機、AE社の新型機であるMSA-003ネモが合計40機ほど周囲を警戒していた。AE社はあくまで自己の利潤追求が目的であり、マラサイがジオン資本の単独開発であった以上(共同開発とは名ばかりだった。実際に共同開発されたのはハイザックの方である)、新型機開発に遅れを取る訳にはいかなかった。その結果がアクシズに譲渡したリック・ディアスだが、これは最高機密とされている。一方でウェリントン社との共同開発で完成させた、ジム・スナイパーⅡの後継機『ネモ』であった。この点(エゥーゴとティターンズ双方にMSを販売)をAE社反乱行為の疑惑で捜査・司法担当中の者が知ったら激怒するのは間違いない。だがまだ物的証拠が挙がって来ない以上動くに動けないのが現実だ。まあ、現在演習中の機体のパイロットには関係ないが。「カミーユ、シャープになるな!! 戦場では機体性能だけが取り柄じゃない!!!360度周りを見ろ!! ビーム兵器を持つ機体を真っ先に落とせ!! そうだそのまま!!!」教官役のアムロの乗る黒いティターンズカラー、ではなく、伝統的な白いカラーリングのORX-012ガンダムMk4が漆黒の闇を切り裂く。それに必死でついていくカミーユの乗るガンダムMk2。その両者の動きは既にベテラン兵の域に達しておりカミーユ・ビダンという少年がつい数か月前まで単なる民間人であることを忘れさせる動きだった。「甘いな・・・・そこだ、いけ! インコム!!」新装備を試すアムロ。連邦の白い悪魔は伊達では無く、逃げ回るしかないカミーユ。だが既に5分以上あのアムロ・レイ少佐の猛攻を回避し続けているという時点で彼の才能の非凡さが分かる。それを見ているブライト・ノア中佐。改装工事(大気圏突入、離脱、大気圏内戦闘の為の改装)が終わったアーガマで忸怩たる思いをする。無表情で演習を見るブライトは別の事に思いをはせる。(自分のつたない指揮で部下を死なせた。それにあの時、職を賭してでもバスク・オム大佐の行動を止めるべきだった。そうすれば追撃艦隊の犠牲も無かったかもしれない。いや無かった。そして今やバスク・オムは准将だ。ドゴス・ギア級戦艦を中心に再編成される第5艦隊の司令官。しかもソロモン方面軍を兼務する。あの男にサイド1、サイド4周辺の制宙権を渡して良いのか?)その様な心配をよそに演習は佳境に入った。結果はカミーユの乗ったガンダムMk2の3戦3敗という結果で幕を閉じる。オーガスタ研究所が開発したガンダムMk4と白い悪魔の組み合わせは強固だと言う事だった。「アムロさん」ブリーフィングルームでカミーユは水の入ったペットボトルをアムロに渡す。それを受け取るアムロ。汗をシャワーで流した直後なのか髪がまだ濡れている。カミーユはチョコバーを頬張っている。この点はまだ15歳の子供だった。「ん? なんだ? まさか訓練がきついとか言う気か? 言っておくが俺はあまいほうだぞ?俺を鍛えてくれたバニング大尉、あ、いまは少佐かな? 彼の扱きはもっと凄い」そういうアムロの声は笑っていたが目が笑っていなかった。「あ、いえ、違います。その、ちゃんとお礼を言いたくて。この間の身元引受人の件とガンダムMk2の無断出撃の件です。あの時は無我夢中だったけど、今思い出すともしかしたら死ぬかもしれない、死んでいたかもしれないと思って・・・・本当にありがとうございました」キョトンとするアムロ。「あ、ああ。あれはセイラさんと決めた事だし・・・・・生き残った事は自分の実力と運だからな・・・・そんなに気にするな」「それでも俺を拾ってくれてありがとうございます。ブライト艦長にも・・・・本来ならスパイ容疑で銃殺もあったのに・・・・独房3日間だけですませてくれて・・・・・何と言って良いのか」そう言えばそんな事もあった、そう思う。「何度も言うけど気にするな。カミーユはカミーユの思うように生きろ。ただし、だ。それが社会のマナーに反しないように、だがな」そして舞台は地球のエコール市に戻る。「ウィリアム・・・・・・どうするの?」妻は問いかける。自分に対して。ジャミトフ先輩の持ってきた提案を受け入れるか。それとも拒絶するか。(だが拒絶する事が出来るだろうか?この入院費は誰が払った? カムナ大尉やエレン中尉が言っていた巨額の手術費用は誰が支払うのだ?決まっている。地球連邦政府だ。確かに支払えない額では無いだろう。だが支払えば子供たちの学費に支障が出る。それは子供の未来を殺す事だ。それは出来ない。ジンとマナの親として二人の子供の未来を奪う事、可能性を潰す事だけは出来ない。それは親として尤もやってはいけない事だと思うから。)そうリムに伝える。(ずっと俯いている、か・・・・・変わらない。機嫌が悪い時はいつもこの仕草だ)そういって黒髪のロングヘアーを掻き揚げる。それでも俯いたままのリムの額にそっと唇を乗せる。「安心しろ。上手くいくさ。本当だ・・・・・だからお願いがある」が、リムは嫌だと言った。まだ何も言ってないぞと苦笑いしたら久々に笑顔で怖い事を言ってくれた。「ウィリアム・・・・私はいやよ。一体全体何十年の付き合いだと思ってるのよ? お願いって子供たちを頼むって事でしょ? それって自分は死ぬかもしれないと言っている事だって分かってるのかしら?そんな事は認めない! 絶対に認めない!!! 絶対の絶対に認めないわ!!!」困ったものだ。こうなると手におえない。どうしたモノだろうか?妻が頑固になると本当に手におえないのは知ってはいるのだが・・・・ここまで意固地になるリムも珍しい。(それだけ心配をかけた、という事かな?)思わず笑みが出る。それが彼女の怒りに油を注いだ。いや、ガソリンをぶちまけたか?とにかく宥めるのに1時間はかかった。そして気が付いたらあと1時間しか無い。もうタイムリミット寸前だ。その時扉が開いた。「俺たちから条件があります」「お父さん、お母さん、お願いがあります」ジンとマナが入ってきた。どうやら怒鳴り散らしていた母親の声に心配になって聞き耳を立てていたらしい。保護者役のエレンお嬢さんとシャーリー大尉が必死で謝っている。無論ジェスチャーだったが。後で叱るか。そんな事を考えながら。「何だい?」自分でも思った以上に穏やかな声で聴いた。「「お父さんとお母さんが一緒に行くなら俺(私)も連れて行って下さい。一緒に生きてくれないなら・・・・・一緒に死んで!!!」」絶句した。そして・・・・・・いつの間にか大人の表情をする二人の熱意に自分たちは屈した。いや違う。悟ったのだ。何を言っても無駄だと。そして・・・・・自分達は地獄なり煉獄なりに落ちるだろうと。「・・・・・・・・・・・いざと言うときはシェルターにいる事、お母さんと絶対に一緒にいる事、これを守れる?」リムが諦めの顔をして子供たちに話しかける。ずっと昏睡状態を続けていた夫と違い、子供らが急成長した事を誰よりも実感していたのがリムだった。だからもう何を言っても無駄だと言うのが分かった。分かってしまった。この子らの気持ちを変えることは出来ない。血が繋がっているが故にこそその想いの強さも分かる。子供らに取ってももうあんな思いはご免なのだろう。或いは親のエゴなのかもしれないがそう思いたい。多少、いや、確実に危険でも両親の元に居たかった。一年戦争のヨーロッパ反攻作戦から終戦までの間や先の暗殺未遂事件の様な事件は嫌だった。それが、その二人の恐怖がありありと伝わる。「「約束は守ります!! だから一緒にいて!!!」」溜め息ひとつ。重苦しい溜め息ひとつ。そして。「・・・・・・・何を言っても聞かないつもりだな・・・・・分かった・・・・・お母さんの言う事を絶対に守るんだぞ「分かったわ・・・・一緒に行きましょう」ケンブリッジ夫妻はジャミトフ・ハイマンの持ち出した案件を承諾した。そして子供たちを寝かしつけるべく部屋を後にするときリムはベッドの上に上半身を預けている夫に言った。「私達は子供を持つ両親としては失格かも知れない。でも、家族としては合格なのかもしれないわね、ウィリアム」掠れそうな泣きそうな声の妻。だが本当にそうだろうか? もしも本当の親なら是が非でも子供を安全な場所に置こうとするだろう。それとも親に正解は無いのかもしれない。これこそが親子だという形が無い様に。「いや・・・・・・子供を戦場に連れて行く時点で失格だろう」一瞬の間。「そう・・・・そうよね・・・・あの子たちを殺すかもしれない・・・・・最低の親だわ」その時だ。痩せ細った彼の手が妻の頭の上に置かれた。そして結婚式のあの誓いを口にする。「だけどだ・・・・リム、思い出してほしい。どんな時も共に歩むと誓った。だから・・・・・あの子らを天国に連れて行く事になった時も一緒だ。そして子供殺しの結果、煉獄で永遠の裁きを受け続けようとも俺は覚悟している。それに・・・・嬉しかったよ。あの子らが大人の目をしていた事に。そしてあんな姿を、血だらけで倒れ伏した姿や戦地に赴く母親の背中を見せたのに、自分の死よりもリムや俺を選んでくれたのが・・・・・うれしかった。ありがとう・・・・・あそこまで育ててくれて。ありがとう二人とも。あそこまで育ってくれて」クス。変わらない人。この人も私も変わらない。本当に変わらない。だからかしら嬉しいのは。「こちらこそ・・・・ありがとう」「どういたしまして、我が姫」そしてウィリアムはジャミトフの提案を承諾した。「エリク・ブランケ少佐、準備は良いか?」ガンダム試作二号機に乗るマレット・サンギーヌ少佐はザンジバル改級機動巡洋艦マダガスカルで同僚のエリクに聞いた。エリクもまた緑色に塗装し直されたガンダムmk2のコクピットで最終調整を行っている。「可能だ。インビジブル・ナイツは全機用意が出来た」「よし、リリア。そちらはどうか?」リリアと呼ばれた女性兵士はノーマルスーツの通話ボタンを押しながら振り返ると彼の期待通りの応えを返す。「マレット隊長、用意できました。一番、二番に核弾頭装填完了。目標を捕捉次第発射可能です」彼らは旧ア・バオア・クー絶対防衛線の裏側を航行。およそ3か月の行程をかけて到着したアクシズ艦隊とパラオ要塞にて合流。そのままペズン基地を奪取する。(正確には反ジオン現政権の軍部が文官らを射殺、拘禁。武装蜂起後、インビジブル・ナイツ、グラナダ特戦隊に合流)。この時点でギレン・ザビ公王はジオン軍第二艦隊のノリス准将に反乱軍討伐を正式に派遣するもパラオは本来の航路データ上には存在せず、ペズン基地はもぬけの殻だった。そして、月に居たタウ・リンとシャア・アズナブルもまた行動を開始する。エゥーゴ派の地球連邦軍艦隊38隻、アクシズ艦隊11隻、ジオン反乱軍24隻の合計73隻が地球軌道に向け前進する。一方で完成したネェル・アーガマを中心としたロンド・ベル、第1艦隊、第2艦隊、第5艦隊、第12艦隊もまた演習の名目で各地を出港。バスク・オム准将を最高司令官に迎撃作戦を展開せんとしていた。宇宙世紀0087.10.19。ダカール議会にて地球連邦新首相選抜の為の中間選挙が開示される日、地球軌道にルウム戦役以来の大艦隊が集結する。それはガンダム強奪事件に端を発した『水天の涙』作戦、最後の一滴だった。作者より 新年明けましておめでとうございます。更新が二ヶ月ばかり遅れた事お詫び申し上げます。なんとか年始年末休暇で第19話書き上げれました。今年は就職などでまだまだごたごたすると思いますがよろしくお願いします。またの感想を頂ければ幸いです。それと初心に戻り次回からはウィリアム中心視点で物語を進めようと思っておりますが何卒よろしくお願いします。2013年1月2日。