ある男のガンダム戦記20<旅路と決断を背負う時>ジオン公国ダークコロニー02からノリス・パッカード准将を指揮官とするムサイ改級巡洋艦24隻と、ザンジバル改級機動巡洋艦三隻、グワジン級戦艦一隻、グワジンを旗艦とする艦隊がジオン本国を出港した。新型機であり、ジオン親衛隊所属のガルバルディβを中心に、地球連邦との共同開発機体であるAGX-04A1『ガーベラテトラ改』とその前身である『ガーベラテトラ』が配備されている。この新型機にしてジオン屈指の切り札である機体を操るのはソロモンの悪夢と前大戦で異名をとどろかせたエースパイロットの一人、アナベル・ガトー大佐。更に二番機であるガーベラテトラには宇宙の迅雷の異名を持つヴィッシュ・ドナヒュー中佐が愛機とする。このガーベラテトラは本来ガンダム試作四号機となる筈だった。しかしながらジオン=地球間の軍事力バランスと政治力学からジオン側に譲歩する事を求めた時のマーセナス政権宇宙開拓大臣。結果、地球連邦軍はガンダム試作一号機の存在もあり、開発コンセプトが大きくかぶっていたガンダム試作四号機を製作チームごと譲渡。結果、純正とは言えないが非常に濃いジオン製のMSとして開発される事になる。また360度モニター採用、リニア・シートー採用、ゲルググM部隊用ビームマシンガンを共用するなど従来のジオンMS部隊を凌駕する事を目的としており、教導大隊と親衛隊指揮官機に集中配備されている。実際、ノリス・パッカード准将にも専用のガーベラテトラ改の2号機がある。また、あの地獄の撤退戦を生き残ったケン・ビーダッシュタット少佐やエリザ・ヘブン大尉、ニッキ・ロベルト中尉、シャルロッテ・ヘープナー中尉にもガーベラテトラ簡易生産型扱いのゲルググイェーガーが与えられていた。(こちら、ゲルググイェーガーは正史とは異なり、ガルバルディβの改良型に位置し、シールドはゲルググM指揮官機の、兵器はガーベラテトラ改やガーベラテトラの使う特注のビームマシンガンを使う)「アナベル・ガトー大佐、入ります」旗艦グワジンでのCICにて。出席者はノリス・パッカード准将、第二艦隊司令官。ジオン親衛隊所属、アナベル・ガトー大佐(MS総指揮官)。同じくジオン親衛隊所属の、ヴィッシュ・ドナヒュー中佐(MS隊副指揮官・艦隊勤務)。艦隊参謀長のゲラート・シュマイザー大佐。右翼艦隊MS隊指揮官のケン・ビーダッシュタット少佐。左翼艦隊MS隊指揮官のシュタイナー・ハーディ少佐。そして副官扱いのニッキ、シャルロッテ、エリザ、ユウキ、更にはメカニック担当のメイがいる。さてこの部隊は今のジオンの内情を象徴していると言って良い。ギレン・ザビ新公王陛下を頂点とするジオン公国は地球連邦政府に対して対等の同盟国として存続している。終戦から8年も過ぎれば実際に民間人の戦死者を出さず、直接的な被害も無かった地球最大の人口を抱える太平洋経済圏の人々にとって、それはもうあたりまえの事だった。何処かの馬鹿が血気にはやって要らぬ事態を引き起こさなければ、という但し書きが付くが。さて、その最大の象徴が宇宙世紀0086年の2月10日に行われたジオン本国サイド3に置ける『地球連邦王室・皇室評議会』の『最高評議会会議』である。この場には各王家、更には現存する唯一の帝自らが参列し、ギレン・ザビ新公王の即位5周年を祝った。これは地球圏全土に最大級のニュースとなる。この時ばかりはかのギレン・ザビ新公王も王室・皇室序列をしっかりと守った。(自分事ザビ家にはまだ伝統も深みも無い。ここでむやみやたらと敵を作るのは得策ではないからな)内心そう思いながら。それだけでは無い。この日を持ってギレン・ザビとセシリア・アイリーンの私生児扱いだったグレミー・トトとマリーダ・クルス(偽名はエルピー・プル)が母親のセシリアと共にザビ家の一員となる。この事態を好機と判断した連邦外交部門の一部は、普段は仲が悪い地球連邦諜報局と結託してザビ家分家であるドズル・ザビの長女ミネバ・ラオ・ザビ枢軸とグレミー・マリーダ連合に分断するべく策動するが失敗。その理由はドズル・ザビが実は非常に庶民的であった事、妻のゼナ・ザビが権力志向では無かった事、そしてバスク・オムら反ウィリアム・ケンブリッジ派閥にとっては忌々しい事に、ミネバ・ラオ・ザビにも友人と呼べる存在がいた事が彼女の攻略に手こずる要因となってしまった。更に地球連邦情報局が一年戦争序盤でMSの真価を全く見抜けなかった事、北米州中心のCIAや統一ヨーロッパ州の一員とはいえ、事、王族に関する扱いに関しては一線を画していたイギリスのMI5やMI6も協力。結果、身内の裏切りにも合い工作は挫折した。尤も、最初から彼らは踊らされていた。マーセナス首相はこの時期の宇宙=地球情勢悪化を最大の懸念材料としており、一方では融和政策によるオセアニア州出身のレイニー・ゴールドマンへの権力委譲による太平洋経済圏を中心とした、否、北米州を中核とする地球連邦の維持を目論んでいたので大事には至って無い。ところで、かつてのダイクン・キシリア派は『私情の逃亡』と『最悪の敵前逃亡』と国内で罵倒されている。最早復権は絶望的だろう。この件に関しては、キシリア・ザビの最大級の擁護者であるデギン・ソド・ザビ公王が地球に幽閉(実質は戦犯として拘禁)されている事から復活する事は無い。それにア・バオア・クー戦直前に逃げ出したのは紛れもない事実であり、しかも首都であるズム・シティで市街地戦をやってくれたのがアンリ・シュレッサー准将、首都防衛大隊指揮官にして最後のダイクン派と言われていればこうもなろう。結果、一例をあげるなら旧ダイクン派だったメイ・カーウェイの実家は完全に没落。一方、ドズル・ザビ指揮下でア・バオア・クーを戦った者や地球に残り、マ・クベ首相に気に入られた者は大抜擢された。カスペン大佐、カーウェイ大佐は劣勢をものともせず戦ったジオンの武士として昇進し、ウォルター・カーティス少将は第一艦隊司令官に、ヘルマン・フォン・カスペン少将は士官学校校長に、月面方面軍、ルウム方面軍、旧ソロモン艦隊、ア・バオア・クー駐留艦隊引き揚げ組と第三艦隊はコンスコン中将が指揮を取る事になる。また、本国では上級大将の役職を創設、ミネバ・ラオ・ザビ、ウィリアム・ケンブリッジ襲撃事件がなければその日にドズル・ザビを元帥に、エギーユ・デラーズを上級大将に昇進させる予定だった。これは地球連邦にザビ家独裁体制が認められた事、一方で民主共和制と言う超大国が存在する事から極度の弾圧が国内から人材流出を招く危険性をマ・クベ首相とダルシア・バハロ公国議会議長が指摘している事からギレン・ザビはその独裁体制を緩めつつあった。皮肉な事に、コロニー各地のエゥーゴの活性化によって国内体制の締め付け強化を行う必要がある地球連邦とは対極の存在であると言える。全くもって歴史に皮肉と言えた。独裁国がその制度を緩め、逆に共和国が強圧的な政治を行おうとしているのだから。「来たか、君で最後だ」ノリスは地球からの禁輸措置解禁と共に輸入が再開されたグアマラテ産コーヒーを飲む。無重力空間であるが故に全ての書籍は電子媒体、全てにマグネットコーティングされたジオン製品。これらは地球連邦製品を遥かに上回るもので、仮にジオンと連邦の女性兵士が同時にノーマルスーツを着用する場合、最悪1分ほど、連邦の女兵士が遅れると言う結果が出ている。「申し分かりません」頭を下げる。こういう素直さをデラーズは高く評価しており、逆に直属の上司であるシーマは危惧している。『いつか義憤だのなんだのにかられて部下を殺すだろう』と。一方でデラーズが評価した様なカリスマ性を持つが故に彼を慕ってジオン親衛隊所属第一戦隊への入隊を希望する者が後を絶たないのも事実だ。「かまわんよ、さて、これを見てくれ」メインパネルに地球圏の星図が映し出される。各コロニー駐留艦隊や核攻撃を受けた地球連邦軍の現在位置、更にはジオン本国を守る部隊。連邦に支配されてはいるが、ジオンの国民感情に配慮してコンペイトウとは呼ばれないソロモン要塞に共同運営中のア・バオア・クー。そして・・・・本来なら存在する筈の、星図には記載されてないペズン要塞とパラオ要塞の二つ。更に火星圏へと移動すると見える核パルスエンジンの噴射光。「・・・・・アクシズが動いている?」シュマイザー大佐が呻いた。そうだ、自分達はアクシズが動いているなど聞いてない。アクシズはジオン総帥府直轄の拠点。総督であるマハラジャ・カーンは何をしているのだ?そんな囁き声が参謀らから聞こえる。「アクシズ要塞か、確かア・バオア・クー戦直前にアンリ・シュレッサー准将が部下たちを逃がした場所ですね」ヴィッシュ中佐の意見に頷く。「まあ。距離の問題から見てアクシズはこの戦いに参加できん。アクシズ要塞自体は、な」ノリス司令が含みを持たせる。アクシズ要塞はその巨体故にそれ程早く動ける訳では無いし、この映像の日付から確認しても地球圏到達にはまだ3か月はかかるだろう。(アクシズ要塞に皆が目を奪われているが・・・・そうか、本当の意味でノリス司令官が言いたい事は其処では無い。問題はアクシズが既にジオン本国やデラーズ閣下らの制御下を離れて独自行動をしているという事が課題なのだ!)ガトーは考える。彼とてバカでは無い。彼は国内最強の、ガルバルディβのみで編成された新型機部隊を司る司令官だ。しかもあの一年戦争を緒戦から終戦まで戦い抜いた猛者である。バカでは務まらない。そして不運な男でもない。もしも運が無ければ途中で戦死していた。残念だが努力だけでは戦争は生き残れない。ちなみに、彼、アナベル・ガトーは義憤に駆られて決起した若手将校に賛同する傾向があるが故に、この度の討伐作戦から一度排除された。『下手に接触すると土壇場で寝返る可能性がある。それは排除した方が良い』サスロ・ザビ総帥の考えである。だが、シーマ・ガラハウ准将は別の事を考えた。(アナベル・ガトーはあたしと違いロマンチストの実力主義者だ。いつまた変な病気を起こすか分からない。ロマンチストな実力者?厄介極まりないよ!それにガトーに憧れて入隊を希望する馬鹿な小僧どもも問題だ。将来、あの戦争馬鹿が本当に馬鹿をやらかしたらどうする?あたしの老後が全てご破算になる可能性だってある。そうならない為にもここはガトーに反乱鎮圧の実行者と言う重しを付けておこう。そうすればそう易々と反乱とか決起とかに走らないだろうし、今ならあたしの制御が、まだまだ可能だ。それにノリス・パッカードのモヒカン准将は地球戦線で活躍した現実主義者。馬鹿を馬鹿のまま放置しないだろう。よし、ガトーの奴を討伐軍に入れる考えに賛同するとするか。となると・・・・さっさと手を打つのはあの禿げ親父だねぇ)そんな裏の舞台劇を知らず、ガトーは反乱部隊の説得役として抜擢された。勿論、釘はしっかりと刺されたが。「今回の戦いの主役はティターンズであり、エゥーゴだ。反乱部隊への攻撃は地球連邦軍の要請があって初めて行われる。その為には各部隊は臨戦状態のまま待機を命じる。そしてガトー大佐、貴官の説得のチャンスは180秒。この間に彼らが降伏しない場合は容赦なく殲滅する、いいな」ノリス司令官直々の命令。武人である以上その命令には背けない。「しかし・・・・それでは・・・・」ここでヴィッシュ・ドナヒュー中佐が発言を求めた。「ガトー大佐はインビジブル・ナイツやグラナダ特戦隊の心意気を買っているようですがその心意気でニューヤーク市では30000名の犠牲者が出た。そして各地の連邦軍は10万名近い戦死者を出している。これは先の独立戦争での一週間戦争の数分の一に達した犠牲です。しかも本来であれば平和な筈の戦後に、です。これ以上反乱行為を許せば月とア・バオア・クーにいる連邦軍がジオン本国を強襲する可能性もある。その際にソロモン核攻撃、水天の涙作戦の報復としてNBC兵器の使用を行われたらどうされるおつもりか!?責任をとれるのですか!? 昔のサムライの様に単純に腹を切ってしまえば良いと言うものではないのです!!」そう、ヴィッシュの懸念は現在のジオン本国に住む者過半数以上の懸念。地球連邦軍がア・バオア・クーと月面に核攻撃部隊を配備している事は明白な事実である。その砲口がいつ何時ジオン本国を向くか分からない。そうであるし、既にジオン国内の軍官民政の過激派の大半が拘束されるかそのまま行方不明になるかのいずれかを選んだ以上、国内は平穏重視。特に地球連邦が故意に繰り返し流しているニューヤーク市の惨状がジオン公国自体の参戦意欲を消し飛ばしている。何せギレン・ザビが戦後に自ら公王就任式で国民に語ったように、あの一年戦争、ジオン独立戦争はギリギリの勝利であったのだから。以下演説の一部を抜粋する。『国民諸君、良く耐えた。が、この勝利こそ我々の栄光の第一歩である。しかし! 私は敢えて諸君に言わなければならない。この戦いでジオン公国は多額の債務を背負った。これを返済しなければならない。第二の独立戦争など不可能である。地球連邦に対する勝利もまた、ギリギリの勝利であった!! 無論、それは諸君ら一人一人が一致団結し勝利向かって前進してくれたお蔭であると私ギレン・ザビは信じている。が、その団結をまだ解いてはならない。多くの賢者は語る。戦争は始めるのは簡単で終えるのは難しいと。そして、私は賢明なる諸君に更に問う。終わった後、このジオン公国を、宇宙で唯一、否、人類世界で唯一、あの地球連邦と対等な国家を如何にして存続させるのか、と!!諸君、諸君らの親も子も、この平穏の時代に安穏としてはならない。平和な時代を次世代に託すために諸君ら一人一人の国家への献身が必要なのだ。それを諸君らは我が身を持って知って欲しい。連邦が抱える戦災復興問題は決して対岸の火事では無いのだ!!故に共に歩もう。共に進もう。そして共に築こう。輝かしい未来を!! ジーク・ジオン!!!』ヴィッシュの言葉に詰まる。分かってはいるのだ。頭では。だが、それでも彼らがニューヤーク市に無差別攻撃をしなければという思いが拭えない。(何故・・・・何故彼らは早まった真似をしたのだ!? ニューヤークで一般市民を殺戮さえせず、水天の涙の純軍事的な作戦目的だけ成功させれば恩赦もあった筈だろうに)思わず握りしめるが、それは甘い予想だ。ガンダム試作二号機強奪、マラサイの私的運用、ガンダムMk2の奪取に政府の統治から離れたアクシズとの共闘。パラオ要塞とペズン要塞の制圧と移動。どれをとっても銃殺刑確定の犯罪である。これはアナベル・ガトー大佐というソロモンの悪夢を敵に回さない為の苦し紛れの策でしかない。それは実はノリス・パッカード准将が誰よりも分かっていた。(手綱を握れとは・・・・シーマ・ガラハウ親衛隊司令官も無茶を言う。まあ、なんとかはなろう。それに彼らが今さら恭順するとは思えんが、ガトー大佐にもチャンスは与えた。後は大佐の力量次第、だな)そして宇宙世紀0087.10.01。艦隊は地球周回軌道にまで達し、三隻の改良型ザンジバル級機動巡洋艦をダカールに降下させる。そこにはあの男が乗っていると噂されていた。そう、あの独裁者、ギレン・ザビが。某月・某日・某所『これでよろしいのですね?』女が女に問う。ジャーナリストを志して、ティターンズの本当の目的を探ろうとするその正義感と今のサイド2は不当に扱われているという怒りが二人の原動力。『ええ、間違いないわ』そう言って密会先のホテルの一室でコーラを片手に飲む。余談だが宇宙世紀になっても飲料界における王者、黒い液体の双璧(片方はコーヒー、片方はコーラ)は健在であった。『でも、この内容は本当に?』タッチ式電子パネルでページをめくる。因みに電子戦闘を警戒してインターネットなどの高速回線には繋げていなかった。当然だ。これが連邦警察やティターンズにばれたら全てお終いなのだ。『私も目を疑ったわよ。罠ではないのかと、美味そうなものこそ本当は偽物かもしれない。でも最後のサインは間違いなくウィリアム・ケンブリッジ副長官のモノ。それに噂だけど、ジャミトフ・ハイマン長官が移籍して連邦議会議長になり、その後任が彼、ウィリアム・ケンブリッジという話も出ているわ』そう言われて別のデータを出す。すーと小指でページを捲らせる。そして音声というボタンをダブルクリックした。そこには褥を共にした同性愛の女議員たちの喘ぎ声と共にでていた。『え、ええ!! そ、そうよ!!! ジャミトフはあの有色人種を選んだ!!!』『私達に内緒でティターンズを私物化している!! ああ、これはほんと・・・・だから止めないで!!! 私!!!』『ジャミ・・・・トフ・・・・あの・・・・男色・・・・あいつ・・・・よりにもよって・・・有色人種なんかを・・・・後継者に、んん!!』それ以上は聞きたくない。なので、音声の入ったメモリーディスクを消す。『つまりティターンズと北米州の癒着は融合と言うレベルに達すると?』ティターンズの全権を握っていた男が今度は地球連邦の連邦議会を掌握し、その腹心がティターンズを支配する。認めたくないが自分達エゥーゴにとっては終わりの始まりのように思える。『あなたの想像通りなら、ね。それに・・・・』『それに?』更に発言する。コーラを一口口に含む。摘みのポテトを腹に入れながら相手の女の顔を、金髪を見る。『考えても見て、今の連邦軍本部はキャルフォルニア基地に存在しており、連邦軍の次期統合幕僚本部長はグリーン・ワイアット大将が有力視されている』ワイアット大将? 彼は例のテロ攻撃の責任を取らされて降格されたはず。そう思って口に出す。『でも彼はこの間、ジャミトフ・ハイマンとの抗争で失脚した筈では?』そこで椅子に思いっきり腰かけていた女が立ち上がり、隣のベッドにダイブした。ベッドが揺れる。1Gだから当然だ。『それが擬態だったとしたら?』擬態!?それは考えてなかった。だがあるかもしれない。『ティターンズをウィリアム・ケンブリッジが、地球連邦政府をレイニー・ゴールドマンが、地球連邦議会をジャミトフ・ハイマンが。そして地球連邦軍を北米州寄りに転向したグリーン・ワイアット中将と極東州出身のニシナ・タチバナ大将が抑える。しかもハワイを中心に北米州出身のジャック・グレート大将が第1海上艦隊から第9海上艦隊までの9個正規空母機動艦隊を掌握している。それは治安維持を名目に、東西インド洋、大西洋北部、地中海、西太平洋、中部太平洋、大洋州へと派遣された』『そう言えば他の艦隊は再建途上であったのを強引にマーセナス首相が再建を打ち切った。対統一ヨーロッパ州対策なのは間違いないわね』マーセナス首相以下の地球連邦政府は金のかかる海軍艦艇を一番初めに削った。特にアフリカ州三州の連合艦隊や、ジャブロー直轄の意味合いの強かった南米州の部隊、黒海警備と言う統一ヨーロッパ州でもロシアへの体面維持に使われた艦隊に、赤い彗星のベルファスト強襲で失われた艦艇などはさっさと軍専用のリサイクル業者に放り投げているか廃艦するか自沈させている。その資金で統一ヨーロッパ州の不満を不平程度までに抑えた戦災復興を行えたのだから時のティターンズとそれを支援した連邦政府の対応の凄さが証明されていると言える。が、その反動が宇宙のサイド1、サイド2、サイド4、サイド5の反発であり、見捨てられたのがシーレン、つまり海洋航路から外れた上、戦災復興に寄与しないと判断された中央アフリカ州や中央アジア州の非資源地帯である。この地域はこの政策の反動からか、非常に反連邦運動が強く、連邦軍は城塞都市を築き、大量の地雷原、機関銃陣地、対戦車、対MS陣地と防空に地下都市を建設。ジャブローの小型版を幾つか作り、その周辺に難民キャンプを張るだけで良しとした。まあ全てを救う事が神でも不可能である以上仕方のない事だが、これが地球におけるジオン反乱軍とシリア地域、北部インド、北朝鮮とエゥーゴが合流、反連邦運動を地球上で支援する団体、カラバとなった。そう思っているとベッドに大の字に横になっていた女がまた口を開く。『そして北米州を中心とした太平洋経済圏は首相であったローナン・マーセナスが、更に宇宙利権はギレン・ザビとティターンズのウィリアム・ケンブリッジが仲良く分かち合う。30億近い各サイドの利権に欧州とアフリカ北部の復興。その際に出るのは莫大な富。名声、そして権力への道。この道を辿れば地球連邦首相にも、いえ、地球連邦以上の文字通りジオンも非加盟国も含めた人類統一国家の大統領や独裁者にだってなれる。これを描いたのは誰? 誰にせよ一番得をするのはウィリアム・ケンブリッジじゃない?』いつのまにか下着姿の女。私もガウンを脱ぐ。コーラのお代わりを冷蔵庫から出す。『・・・・・・暴論では?』『そうかしら? 宇宙経済を独裁者ギレン・ザビと共にティターンズ副長官、いえ、長官として抑えれば30億の中産階級、加えて、人口爆発や旧非加盟国も考えれば50億近い人々の経済圏ができる。それを支配するのは太平洋経済圏構築諸国。その中で州政府の許可なく越境可能であり、独自の軍事力を持ち、地球連邦軍でさえ保有できてない宇宙からの直接降下作戦が可能な軍事力、「ロンド・ベル」を指揮下に置く。しかもその精鋭部隊の指揮官や構成員は彼の戦友だとか・・・・・どう?それならこれもありえそうでしょ? ウィリアム・ケンブリッジによるティターンズを介した地球経済圏の掌握とその後の地球連邦首相への道。協力者はいる。ジャミトフ・ハイマン派閥の議員。北米州、極東州、オセアニア州、アジア州、戦後復興で借りがある統一ヨーロッパ州に北アフリカ州の各州議員。王室や皇室の無言の感謝の念と言う圧力にジオン公国。それにニシナ・タチバナ大将指揮下の宇宙艦隊に、ゴップ大将。マーセナスやゴールドマン、バウアーやパラヤも怪しい。いざとなればお零れ目当てに尻尾を振るでしょう・・・・違う?』それは軍の中でも最上級の極秘情報の筈。一介の個人が知るとはどういう事だ!?詰め寄る。『!? あなた、どこでその情報を!?』『ふん、あの狂信者のタウ・リンからよ』女の武器を使って?『・・・・・・』使うはずないわよ。私だって時と場所位は考える。『分かってる。あの狂信者をそのまま信じるのは危険。でもこの情報が正しければやはり価値はある。あの作戦を決行するしかない』あの作戦。ゲリラ作戦しか展開できないエゥーゴやアクシズ、ジオン反乱軍にとって最後の攻勢作戦。インビジブル・ナイツが掲げた『水天の涙』、その最後の一滴の事だ。『・・・・・コロニー自治法案に対する大規模な修正提案』それを頭に乗せながら思う。ウィリアム・ケンブリッジが何をしてくるか。あの暗殺未遂の報復として何を行おうとしているのか。『恐らく税率だけ上昇させて、いまある各コロニーの自由と自治権は剥奪。数か月以内に裏切り者のジオン軍と仲良くティターンズのコロニー駐留艦隊とMS隊が手を組んで私たちを恫喝するのよ。みなさん、貴方たちは犯罪者です。だから今日から監視付きですよ、って。そうに違いない。そうなる前に、レコア、あなたは宇宙から、私たちは地球から動いてこの欲望の塊みたいな男たちの野望をとめないと!!』欲望の塊?本当にそうだろうか?だが、私は私の男に賭けるしかない。もう賽は投げられた。後は進むしかない。ルビコン川などとっくの昔に渡っているのだ。『確かに・・・・・仮にこれが公表され、私達エゥーゴが何もしなかったとあれば今までの苦労は全て無駄になる。エゥーゴ派の連中は各コロニーの不平分子を散々焚き付けて置いて、本当に大切な時は何もしなかったのか、と言われてサイド2やサイド4の支持を失うわ。今でさえサイド7の住人から敵視され、サイド6から危険視されている。月面でこそ協力を得られているけどそれはあれがあるから。だけど・・・・・わかった・・・・私もシャア大佐にかけあう・・・・だから』ぶつん。映像が切れた。見るとスマート・フォンのバッテリーが切れたようだ。メモリーディスクを抜きつつ思った。(あの女・・・・ベルトーチカ・イルマとか言ったか。こうも上手く乗せられるとこっちが騙された気がするぜ)そう思いつつ、南極にあるAE社の経営するホテルの一室で日本産のビールを飲む。日本の銀色のアルミ缶とクジラの肉と合成サラダを食べる。(この時代、シー・シェパードの過激派は連邦警察に取り締まられた。)新聞を読む。(ヨーロッパ中央の食事制限が解除される、か。統一ヨーロッパ州でも西欧、南欧、北欧とロシア地域は復興が早かったからな。これで中欧と東欧、オデッサ工業地帯の再建が実質終了した事をアピールする狙いか。しかもその食料の最初の輸入先がジオン公国とは。援助物資とはよく言ったな。確かに人間は喰えれば大抵の文句が無くなるもんだ)そう、あのジオン独立運動とて食べる事が出来たからこそ。それが出来なくなれば結果は単純だ。ジオンは独立云々言えなかった。それ以前に瓦解するか地球連邦に隷属するかなかった。あの氷塊衝突事件がジオン・ズム・ダイクン死去以上の熱狂を引き起こし、シャア・アズナブルの、あのキャスバル・レム・ダイクンとガルマ・ザビ双方の連邦軍兵舎襲撃事件を引き起こすまではなかっただろう。(ま、欲っていう食い意地は誰もが持っている。俺だってな。あのイルマとかいう嬢ちゃんも最初は半信半疑だった。それがいつのまにか自分は英雄になる、ジャーナリストの鑑になる、なんて下らん考えを俺に知られたから都合の良い事実だけを掴まされる)彼が渡したのは確かに事実だ。だが、それは一部だけが事実で半分以上は憶測であって予定では無い。そもそも連邦議員はスキャンダル対策には万全を期す傾向が強い。当然だろう。先の首相であるアヴァロン・キングダムはそれをジャミトフ・ハイマンらに突かれた為にレビル将軍と心中したのだから。「で、あんたはどうすんだ? 木星帰りの優男さん?」部屋の一角に座っている真新しいティターンズの制服を着ようとしていた男に問う。そのティターンズの階級章は中佐。これはティターンズを指揮する際は中佐だが、実際の権限は地球連邦軍准将に匹敵すると言う事になる。実はティターンズの佐官、尉官、曹長、軍曹、伍長、上等兵は連邦軍に対して二階級上の指揮権を与えられる事がある。あくまで与えられる事がある、と言うだけだ。これはティターンズ独走を危惧したウィリアム・ケンブリッジが自ら積極的に下した数少ない決定である。特に現場を混乱させるだけだと現場からの批難は大きいが、それ以上に連邦軍の心象が良くなった。奇しくもバスク・オム准将がブライト・ノア中佐に行った様に、連邦軍の方が軍隊としては洗練されており、規模もデカい。水天の涙で150隻、3個艦隊を失いながらもまだ連邦と言う組織が立ち続けられるのはこの連邦軍と言う存在があるからだ。仮にジオン公国で150隻以上の艦艇が1分で失われ、しかも敵に対した打撃を与える事も出来なければ降伏する可能性さえある。「そうだな、まずは貴公の活躍に感謝する。タウ・リン殿、貴公がここまで動いてくれなければこうも上手くは行かなかった。あの赤い彗星でさえ表舞台に出ざる得なくなった貴公の政治的詐術は尊敬に値する」そいつはどうも。無言で礼を言う。そして上着のファスナーを上げた後で木星帰りの優男、パプテマス・シロッコは拳銃をホルスターから無言で引き抜く。消音機を装着する。ガチャンと、初弾をスライドしてマガジンから装填する。窓からオーロラを眺めている見た目は茶髪で青い目をしたネイビースーツにダークシャツと濃い紫のネクタイに茶色の革靴を履いた男に、レーザーポインターを当てる。「ですが、若い男の野心をさらせきれませなんだなぁ」その刹那!タウ・リンが瞬時に横に飛んだ。そしてベッドを駆けあがり、シロッコめがけて蹴りを入れる。ニュータイプなのか、それとも彼の天性の才能ゆえか、シロッコもそれを即座に回避して、次の攻撃、踵落としを拳銃のグリップで防ぐ。暴発。銃弾が花瓶に命中し、水が飛び散る。「強化人間、ってやつさ。差別的なものの言い方だろ?」ニヤリと笑う。咄嗟にタウ・リンの右足の脛に渾身の蹴りをくらわすが、サポーターが膝の部分にはあり致命傷には程遠い。そして柔道の大外狩りでシロッコを倒す、ふりをして、そのまま壁に叩きつけようとした。が、シロッコもそこでは終わらない。制服のベルトをいつの間にか外して思いっきりタウ・リンの額に叩きつける。そのまま顎にアッパーの一撃を加えた。がタウ・リンは右足でシロッコの左足の表面を思いっきり踏込み彼を拘束。そのままスーツの袖の中に隠し持っていた自分用の指紋認識のワルサーPPKをシロッコの額に押し当てる。が。シロッコもこの時0距離射程で連邦軍正式拳銃を3連射モードにしてタウ・リンの胸に押し当てていた。(こいつと良い・・・・ケンブリッジと良い・・・・何故ニュータイプたる私が、オールドタイプに・・・・いや、この思想こそが私の敗因か!?)(ち、さっさと始末しとかねぇと思ったが・・・・思った以上にやりやがった。伊達に天才ニュータイプとか子供じみた事を言っている訳じゃねぇってか?どうする? 考えろ? こいつより先に引き金を引けるか? いや駄目だ。もしも死後硬直か何かで向こうから弾丸が来たら流石に避けきれねェな・・・・面白いぜ、これだからやめられねぇよ!!)汗が流れる。そして次の瞬間、シロッコが相打ち覚悟で引き金を引こうとした瞬間、足の重みが無くなった。更にワルサーPPKからマガジンを片手で器用に抜き、床に落とす。そしてゆっくりと銃をスライドさせ、銃自体に残っていた弾丸も排出。「何の真似だ?」それはタウ・リンの賭け。「俺もお前も死に場所はこんな僻地じゃねぇだろ?」違うか?無言で問うタウ・リンの視線。「だったら、やる事は宇宙で、或はもっと大舞台でやろうぜ。ああ、安心しな。こう見えても俺は義理堅い。アンタが今ここで俺を見逃してくれるっていうなら・・・・・俺もアンタが裏取引しようしていた連中が誰なのか黙っていてやる。仮面の赤い男とか、な。それに・・・・・担保はそこにあるメモリーディスクでどうだ? あれがあればスパイだったていう言い訳も上層部相手にできる・・・・違うかい?」その言葉にシロッコは面白そうに笑う。「私は最初から連邦軍の密命を受けて行動していた。そしてテロリストを見つけ射殺した。これで良いのではないかな?それだけの優位が今の私にはある。何故君に譲歩しなければならないのかね? 寧ろ後腐れなく貴公を殺した方が良い気がするぞ?」銃口を外さない。だが男も笑みを崩さない。まるでお前に俺は殺せないと言わんばかりに。(そいつはどうかねぇ?)そうタウ・リンは無言で伝えた。(なんだ、このふてぶてしさは?)シロッコは汗を隠せずにいた。もう片方のタウ・リンもそうだったが。「俺たちはまだ舞台俳優だ。脚本家でも監督でもない。インビジブル・ナイツやあのイルマとかいう女、グラナダ特戦隊のお坊ちゃん部隊らは舞台俳優でいたのだろう。でもな、俺たちは違う。俺は脚本家になりたいのさ。歴史を動かした英雄っていう脚本家に、あんたもそうだろう?」そう言ってタウ・リンは茶髪をオールバックにして更にアイコンタクトを外す。止めにネクタイも外した。(さて、この木星帰りの優男と交渉が失敗したら、次に殴り掛かった時はこいつで縛り首だな)(あのネクタイ・・・・なるほど。あれで私を殺す気か。確かにこの密室と奴の強化された体を考えたら9割の確率で絞殺されるな)数刻の睨み合い。水音もしない、ただエアコンの音だけが響く室内。と、シロッコも銃を収めた。「良かろう。貴公命拾いしたな」「あんたこそな。自称天才殿?」知っていたいか。が、これではニュータイプによる統治など所詮は夢物語かもしれん。シロッコはこの一連で思い知った。確かにタウ・リンは強化薬や手術で強化されていた。だがそれは逆に言えばだれでもできる事である。先天的なニュータイプ能力とは違うと言う事だ。それに今の世界の脚本を書いているのはギレン・ザビやジャミトフ・ハイマンを中心としたオールドタイプ達だ。あの一年戦争を終戦に持ち込んだのも、ウィリアム・ケンブリッジやローナン・マーセナス、更にはザビ家の面々で自分が考える女性やニュータイプなどいなかった。逆に戦犯だと言われているレビル将軍やキングダム首相もオールドタイプ。言い方は悪いが彼らもまた脚本家だった。そしてその脚本家全員がオールドタイプ。(認めたくないモノだが・・・・・認めない限り私に先は無い)そう思う。思い出されるのはアメリカで出会った有色人種のオールドタイプの一家。(ニュータイプの時代・・・・・それはケンブリッジが言った様に夢想家の夢に過ぎないと言うのか?)そう思って私物を持って立ち去ろうする。これでタウ・リンに後ろから撃たれるなら所詮はそこまでの男だと自嘲しながら。「待て」ここまでか。そう思ってゆっくりと振り向くと先程のメモリーディスクといつの間にか用意したのか血液サンプルを投げた。床に落ちる。「これは何かな?」は、そこまで教授する必要があるとはねェ。そうタウ・リンは前置きしながら言った。「赤い彗星の血液だ。間違いない。本物だよ、アクシズにいる連中の伝手で手に入れた。それをティターンズのお偉方に持って行けばこの数日間の不審行動は大目に見てくれるだろう。それにあんたの本当の飼い主も喜ぶはずさ。で、メモリーディスクの方は表向きの飼い主様に尻尾を振るにはちょうど良い、そうだな?」私はそれを真空パックに入れると今度こそボストンバッグに入れて部屋を立ち去った。「貴様は知る必要はない。そして安心しろ、半日だけ待ってやる」シロッコがシャトルに乗り南極大陸を離れてからきっかり12時間後、ダグザ少佐自ら指揮したエコーズが衛星軌道から南極ショウワホテルを制圧した。が、この時、そこにはタウ・リンは無論、客室職員一人おらず、ダグザ少佐ら全員が一善後策協議の為、ホワイトベースに戻る。その次の瞬間、ホテル自体が爆砕された。大量の爆炎と、サリンをばら撒いて。ホワイトベース艦橋で悔しがるエコーズの面々を余所に、潜水艦で喜望峰を目指すタウ・リン。「パプテマス・シロッコか、赤い彗星よりは楽しめそうだな」一方で、辞令を受け取るべくキャルフォルニア基地行きのシャトルに乗ったパプテマス・シロッコ。「ニュータイプの世界・・・・それは幻想だろうか・・・・もう一度会ってみるか・・・・あの男に、ウィリアム・ケンブリッジに」宇宙世紀0087.10.15。ダカール市には副首都として非常用対核戦争用シェルターがある。それも市街地の各所に。それだけこの都市は重要なのだ。旧世紀とは異なり、極東州の鉄道技術導入でダカールは北アフリカと中央アフリカを結ぶ拠点となった。更にスエズ運河まで10時間という高速鉄道網に、コロニー開発技術を応用した片道8車線の完全密閉型高速道路。全てがヤシマ重工、ウェリントン社、ビスト財団を中心とした大規模な先進諸国の技術とはいえこれがあるからこそ、アフリカ北部に限っても大規模な内乱がなくなったのだ。枯渇した石油資源に代わる希少資源の運搬ルートや工場地帯の誘致なども上手くいった。宇宙世紀0050年代の地球連邦の成果の一つである。「ダカールにようこそ、副長官」そう言って市長が挨拶する。何度やってもなれないなぁ。そう思った。「これはこれは戦の女神、リム・ケンブリッジ准将閣下。お会いできて光栄です。例の演説、私も聞きました。いや、良い伴侶をお持ちだと、妻に叱られましてね」笑顔の裏に何があるのか、そればかり考えるようになってしまったな。このムスリムの彼も善意で言っているのは分かっている。分かってはいるのだが。「ええ、市長こそ。ところでこの度の件ですが・・・・・ご存知ですかな?」自然と小声になる。「例の方ですか?」無言で頷く。「心配はご無用。既に到着済みです。まあ皇族・王族の評議会は既に開催されておりますから・・・・心配は無用です」「そう願いますよ」その日の夕方。立食パーティ。黒のタキシードに白いオーダーシャツ、黒い蝶ネクタイとワインレッドのスーツを着た妻、正装している息子のジンと娘のマナ。4人で地中海に沈む夕焼けを見ながら感歎しているとざわめきと共に人の波が出来た。ステージがある。U字型で、そこだけは完全に密封された空間だ。そこに10代前後の若者らが入場してくる。多くの参加者が目を見張る。そこには各王室、皇室の皇太子、王太子、皇女、王女がいた。その殆どが伝統衣装に身を包んでいた。そしてマナは一瞬だけ困惑の視線を向け、次に辛そうに目をそむけた。そう、最後に入ってきたのは友人であり、自分が罵倒してしまった年下の女の子。この7歳で政治ショーをやらされる女の子。赤色の父親と同じデザインの軍服を着たミネバ・ラオ・ザビだった。(あれがドズル中将の、いや、いまは上級大将の娘・・・・・夫が命を賭けて守ろうとした人間。さあ、本当にそれだけの価値があるのか見せてくれる?)それぞれのスピーチが終わっていく。一人頭平均5分のスピーチだ。聞きながら妻のリムは思った。みんな同じだなと。(育ちのよい良い子なのね・・・・まあそれが悪いとは言わないけどもう少し何かあっても良いと思うわ。例えばギレンさんとか・・・・まああそこまで極端でなくてもアドルフ・ヒトラーとかナポレオン・ボナパルトとか始皇帝とか)この時点で妻の脳裏に過ぎるメンバー全員が普通とはかけ離れている事に妻は気がつかない。ついでに言葉にそれが出ている事も。「以上を持ってジオン公国代表グレミー・T・ザビ公太子の・・・・・なんだ、ミネバ?」その時ミネバ・ラオ・ザビが思いもかけない行動にでた。従兄妹のグレミーからマイクを取り上げたのだ。何をする!そう言いかけたグレミーを無言で抑えた。まるでグレミーの叔父であるドズル・ザビが動揺する部下を戦場で抑えるかの如く。「私はここに来る際に、ギレン公王陛下にひとつだけお願いをしました。それは私が公王継承権を放棄する代わりに数分だけ語らせてほしいと言う事でした。無論、伯父であるギレン陛下は疑問に思いました。また叔父のサスロ総帥は私が子供ながらに妙な事を言ってジオンに付け入る隙を与えるのではないかと危惧しました。父のドズル上級大将は危ない事は止めろ、二度と地球に行く事は無いと大反対しました。しかし、私はそれらすべての条件を飲み、二度とこの土地に来れなくとも、二度と屋敷から出れなくともすべきことがあると信じて此処にいます」会場からざわめきが消えた。グレミーもマリーダも、他の面々も皆黙って聞いている。それはリムも、俺も、ジンも、マナもだ。いや、マナの方が真剣に聞いている。そしてその視線の先にはミネバの視線の先があった。「ごめんなさい」え?一体何を謝罪した?会場内部にざわざわとしたざわめきが巻き起こる。だが、それも数瞬。「マナ姉さん、ジン兄さん、リム小母様、ウィリアム小父様。本当にごめんなさい。私達ザビ家の我が儘で命を落としかけた。本当に申し訳ありませんでした。許してください・・・・・いえ、許さなくてもいい。ただ・・・・・・謝りたくて・・・・・・・・だからどうしても今回地球に降りたかった。そしてもう私は、ミネバは・・・・・・マナお姉ちゃんに・・・・・ジンお兄ちゃんに」涙で何を言えば良いのか分からない。大粒の涙がミネバの頬を濡らす。「・・・・・お姉ちゃんに・・・・・あいま・・・・・」誰もが何も言えない会場でガタンと言う音が響いた。見ると娘のマナが思いっきりケーキの皿を別の皿に叩きつけていた。フォークやナイフが調味料を飛びチラシながら床に落ちる。良く見ると目がすわっている。慌ててマナを止めようとして、リムが右肩を掴んだ。「何をする!?」「いいから黙って見ているの・・・・何かあったら・・・・・私たちが責任を取れば良い事でしょ?それにね・・・・ウィリアム、滅多に見れるものじゃないわよ? 子供が成長する瞬間なんて」「?」そのまま演台に上り、泣いているミネバの前に仁王立ちする。「マ、マナお姉ちゃん・・・・? わ、私は・・・・」「・・・・・・ミネバ」そしてミネバをひっぱたたいた。バチン。その小気味よい音だけが会場に響いた。後は誰もが動けない。「・・・・・さいよ」え?ミネバが無言で何?と問う。「叩きなさいよ! 早く」困惑するミネバにマナは告げた。「私はアンタを叩いた。アンタは私の友達で、私とアンタは対等。だから、例えジオン公国が許さなくても、地球連邦に投獄されても構わない。アンタも私を叩きなさい。あ、遠慮なんてしてみなさいよ!? 二度と口きかないわ!!」その言葉に、そして、マナの視線に意を決したのか7歳とは思えない程の力強さでミネバはマナを叩いた。そして急にへたり込む。そんなミネバにマナはしゃがみ込んで言った。ミネバだけに聞こえるように言ったつもりが、転がったマイクに集音されて全員に聞こえたのはまあ、血筋だろう。ウィリアムの不運と言う。「ミネバ・・・・・ありがとう・・・・お父さんを撃たれて・・・・あの血だまりを見て・・・・・私の方こそどうかしてた・・・・・許して・・・・・ミネバは悪くは無かったのに・・・・本当はミネバが殺されてたかもしれないのに・・・・・それなのに私は・・・・・ミネバを責めるばかりで・・・・・ミネバの気持ちを考えもしなかった」「・・・・・マナお姉ちゃん・・・・・・許してくれる?」「うん、許す。だからミネバも私を許して」「ご・・・・ごめん・・・・・ごめんなさい・・・・ごめんなさい・・・・・本当に・・・・・ごめんなさい・・・・・お姉ちゃん・・・・・ごめんなさい」「ありがとう、ミネバ。私の友達」妻の言う通りだ。滅多に見れるものでは無い。娘が成長する瞬間など。そしてその後は大人達の主に男性陣からの拍手、女性陣からは涙のハンカチだった。王族の方々の中には羨ましそうな表情で見ている者もいる。だが、自分が気になったのは一瞬、そう、ほんの一瞬だがグレミー・T・ザビが笑ったのを見てしまった事だ。或いはあのギレン・ザビだ。これを見越したうえで名代を実子にして長男のグレミー・T・ザビでは無く、姪のミネバ・ラオ・ザビにしたのだろうか?(我ながら考え過ぎ・・・・・いや、ありそうで怖いな)宇宙世紀0088.10.20ネェル・アーガマ艦橋にはカムナ小隊のメンバーとリム・ケンブリッジを除く嘗てのペガサス艦橋要員が集まっていた。「タキザワ中尉、敵艦隊との距離は?」マオ・リャン中佐が問う。直ぐに対艦用三次元レーダーにて目測する。「艦隊距離12000.双方の射程圏外です。尚、敵艦隊は三隻単位で凸陣形を各個に展開しています」「MS隊は?」更にマオが聞く。反応したのはノエル・アンダーソン少尉だった。「反応なし。現時点では未だ格納されている模様。こちらの部隊はいつでも展開可能です」ロンド・ベルの初陣とは。バスク・オム准将が色々と文句をつけてきたが宇宙艦隊司令長官に就任したニシナ・タチバナ大将に、第1艦隊と第2艦隊、第12艦隊の三人の中将(しかも彼と同じ地球連邦正規軍所属)が強い要請を、というか命令を出したためネェル・アーガマ、アーガマ、ブランヴァル、ペガサスⅢの4隻は独自行動を許可された。その総司令官にはエイパー・シナプス少将を任に当てている。彼はこの戦いが終了すれば中将に昇進は間違いないと言われていた。「シナプス提督」(・・・・提督か、まさか士官学校を中の中で卒業した自分が今や連邦屈指のトップエリートとはな。人生とは分からぬものだ。カニンガムは死に、ティアンム先輩は更迭され、レビル将軍は戦犯扱い。戦時中の英雄が戦後一転して没落したのはある種の恐怖を感じたものだが。それでも私は私の出来る事をするしかない。部下たちを生かして故郷に返すと言う最大にして最低限の義務を果たす)敵、こちらの正体に気が付いてない模様です。リャン中佐が進言してくる。同感だった。彼らがこの新造戦艦ネェル・アーガマの真価に気が付いていれば悠々自適にゆったりと遠足気分で距離を詰めはしない。(ならば成すべき事は一つ! 悪いがやらせてもらうぞ!!)「アンダーソン少尉、ジュリアン少尉、第03のデルタ小隊と第02小隊、ホワイト・ディンゴ部隊の用意を。タキザワ中尉は第01小隊と第04小隊、第05小隊に通達。『MA』形態のまま待機。特にウラキ少尉のガンダム試作一号機宇宙戦使用は他の機体に比べて遅い。第05小隊の戦闘は直援以外避けさせろ」と、敵にも動きがあった。両翼を伸ばすのではなく、三隻単位でマシンガンを連射する様に正面の第12艦隊を食い破るつもりだ。だが、ここは地上では無い。宇宙空間だ。二次元の海上戦闘を強いられる海軍や、あくまで航空機でしかない空軍同士の戦いとは違い、陸軍の要素を取り入れた空軍の技能を海軍がやる宇宙での戦い。ならばやりようはいくらでもある。ルウム戦役の大勝利に目が奪われがちだが、本来の宇宙戦闘の経験は地球連邦軍にもジオン軍にもない。未だ手さぐりな状況なのだ。「敵艦隊に照準、ハイパー・メガ粒子砲を使う。敵を斜めに撃ち抜け!」シナプスの激。「了解しました、マオ・リャン中佐だ、砲術、聞こえたな?」マオの反応。「任せてください!! 良い一撃を撃ち込んでやりますよ」砲術長の判断。「索敵班のアンダーソンです。敵は依然として射程上に斜めに展開。気が付いていません!」ノエルのサポート。撃てるな。一発限りの使い難い対要塞用兵器だが、ここぞと言うときは星図や地図をMAPとして見た場合、そのマスを抉る、いわばMAP兵器としての役目を持っている。この真価にはロンド・ベル以外の誰も気が付いてない。そう、この艦隊の司令官代理を務めるバスク・オムでさえ。「エネルギー充填終了、冷却システムオールグリーン」「目標補足。敵艦隊に目立った動きなし。観測班より連絡。全艦首搭載モノアイ照準用に固定せり」バロールと呼ばれたジオンの最新型モノアイ搭載光学センサーを利用したネェル・アーガマ。これを発射する為にジオン本国からルウム戦役のヨルムンガンドの照射データとソーラ・レイの照準技術を学んだのだ。その代償が多額の地球産鉱山資源だったが・・・・中華地域から軍縮で搾り取った各種兵器の残骸を引き渡したので良しとしよう。尤も、今はそんな裏事情は関係ない。(政治の事はケンブリッジ副長官らに任せれば良い。私は私の事をやるだけだ)機関室から、砲術室から報告が上がる。いつでも撃てる、と。「砲術長、照準良いか?」「いつでも!」「よーし、ハイパー・メガ粒子砲・・・・撃てぇ!!」この時、大蛇以上の閃光が久方振りに漆黒の闇を照らした。光の渦に巻き込まれる敵のムサイ級の発展型と思われる艦とどこから調達したのか緑色のサラミス改級巡洋艦に一年戦争以前の旧式マゼラン級戦艦。「せ、戦果の確認をします」アニタが一瞬だけ詰まる。CICの中で戦果確認に追われる人々。「でました! やりました提督!! 完全に奇襲は成功です!!敵エゥーゴらのサラミス改級巡洋艦4隻、所属不明の改良型ムサイ級と思しき艦2隻、マゼラン級戦艦1隻、コロンブス級1隻撃沈、旧式サラミス級3隻中破、ムサイ級2隻小破した模様!!」大戦果だな。奇襲とはいえ、これは大きい。シナプスは手ごたえを感じた。「・・・・・シャア大佐」艦長のファーレン中佐が聞いてくる。流石に私もまさかこれ程の損害を一方的に受けるとは思ってなかった。だが、この戦いはダカールとキャルフォルニア基地に核弾頭を撃ち込まない限り、失敗になる。例えどれ程善戦しようとも、MS隊を落とそうとも最終的に数に潰されて終わりとなる。ならば当初の予定通り降下させるか。「全軍に通達、エゥーゴ艦隊は前進。弾丸突撃陣形で各個に中央突破を。アクシズ艦隊とジオン同盟軍は敵第1艦隊を牽制しつつ中央を切り抜け」エゥーゴ艦隊を先頭に、強行突破をかける。更に緑の大型MAが第12艦隊の前衛ピケット巡洋艦を撃沈した。「こちらシグ・ウェドナー、一隻撃沈。我に続け! セラの仇だ!!!」そう言って、更にもう一隻の、ハイザックを発艦させようとしていたサラミス改を撃沈した。これで二隻。艦隊の一斉射撃を、強化された反射神経で回避する。(セラ!!)あの時、ア・バオア・クーで彼が守るべきはずだった少女は殺された。連邦軍の白い悪魔に。だから今度は連邦軍から奪ってやる。その為に赤い彗星についていったのだ。そして火星圏でまだ山のモノとも海のモノとも知れない強化人間への強化手術を受けた。その力がこれだ。インコムと数門のメガ粒子砲、大型ビームサーベルにミサイル。対艦隊突破戦力として期待された自分は期待以上の事を成し遂げている。それで良い。俺にはもう何もないだから。またもや第12艦隊から脱落艦がでる。被害甚大と報告した白いマゼラン改級戦艦がエンジン部分をカットして脱落した。シグの操縦するノイエ・ジールのミサイルが上部にいた三隻のサラミス級を脱落させる。こうして呆気ない程のもろさで地球連邦軍の第12艦隊は戦線を突破させた。その勢いで一気にバスク・オム指揮下の第5艦隊に迫るエゥーゴ、アクシズ、ジオン反乱軍。エゥーゴのMSはジムⅡとジム改が中心、アクシズはリック・ディアスとガザCにガザD、ジオン反乱軍はインビジブル・ナイツとグラナダ特戦隊のマラサイを除いて後はザクやドムなどの旧式のカスタマイズ機体。一方で地球連邦軍の第1艦隊と第2艦隊、第12艦隊は青色で着色されたティターンズ共用のハイザック。ロンド・ベルは黒を基準にしたネモ。第5艦隊はジムⅡのみ。だが総数でも質でも圧倒的に地球連邦軍側が上。そして地球連邦の宇宙艦隊司令長官とある任務部隊司令官は今回の作戦で一つの謀略を立てた。『バスク・オム失脚』というシナリオである。左翼に第1艦隊、右翼に第2艦隊、中央に第12艦隊、その後方に第5艦隊を配置する。しかも司令官はバスク・オムにするがあくまで総司令官はジーン・コリニー大将として責任問題を彼に擦り付けられるようにした。止めに艦隊司令官代理と言うあやふやな地位。責任だけは押し付けるが権限は薄いと言う最悪のポジションである。実際、三人の正規艦隊中将は命令を渋々聞いているという感じが強く、使い潰すつもりだったロンド・ベル艦隊は独自行動の自由を盾に自由気ままに動いている。全くもって面白くないだろう、バスク・オムにとっては。「ええい、第12艦隊は何をしている!? 何故こうも易々と突破を許したのだ!?」バスクが怒鳴るのも無理はない。勝てば確かに少将は確実、上手くすれば中将にもなれる。だが負ければジャミトフ・ハイマンらの謀略によって全責任を背負うだろう。下手をしなくてもエリートコースからの転落。最悪の場合、かつてのウィリアム・ケンブリッジの様に査問会に直行だ。しかも当時と異なり自分を守る派閥は皆無。コリニー大将はジャミトフ・ハイマンとブライアン前北米州大統領の逆転劇の影響で、往年の覇気を失い既に隠居したつもりでいるし、ブレックス・フォーラーら最後のレビル派閥は自らの政治基盤確立の為に生贄に使う。そしてあの小賢しいウィリアム・ケンブリッジが自分を許す筈も無い。自分を必ず断罪してしまう。「第5艦隊、意地を見せろ。一機たりとも地球に降ろすな!!」バスクの号令の元、訓練不足ながらも第5艦隊は砲火を集中。カニンガム提督とワッケイン提督の提案した一点集中射撃がアクシズ製のMS、ガザCやガザDを破壊する。が、こちらのジムⅡも破壊される。味方ごと巻き込んだ突如の砲撃はかえってこちらの陣形を歪めさせ、敵に突破口を作り出す契機を生んだ。「何をしている馬鹿者ども!!」「砲撃員!! 敵味方の区別もつかんのか!?」「敵MS、艦隊下部より地球軌道に侵入をはかりつつあり」「ぶつけるつもりで攻撃に転じよ」「駄目です!! 間に合いません!!!」「諦めるな!! まだ戦っている部隊はある筈だ、それを迎撃に・・・・」「サチワヌ轟沈。例のノイエ・ジールです!!」数機のMSが地球降下の為のバリュートを開いた。落下傘降下作戦の始まりだ。それはハワイの天文台観測所と幾つもの偵察衛星や偵察艦隊を経由して即座にダカールに送られる。その報道はアングラ出版やBBC、連邦放送、ジオニックラインなどの有名無名を問わない全ての報道陣に公開されていた。ジオン本国のズム・シティではギレン・ザビ公王がサスロ・ザビ総帥、ドズル・ザビ上級大将と共に楽しそうにその映像を見やる。「さて。ミネバは謝ったと聞いたぞ。ドズル、お互いに子供の教育には苦労するな」ギレンの言葉に無言で頷く。だがギレン・ザビの関心はもうそこにはない。あるのは宿敵への敬意。そして期待。「この放送は全世界規模で流されている。つまりだ、今を置いて貴様の主張を述べる絶好の機会は無いという訳だ。さあどうするのだ? キシリアを葬り、レビルを退場させ、キングダムを失脚させ、戦後復興を乗り切り、今や地球圏全土の注目の人物となった男よ。どうする、どうでる? あの日のグラナダでの会談の様に、初めて会った時以来感じている重圧をどう解放する?このまま何もしないのか? それとも噂通りにコロニー自治法案を廃絶させるか? 或いはもっと別の何かを送り出すか?」ギレン兄貴がここまで饒舌になるとは。そんな馬鹿な・・・・信じられん。ドズルとサスロの驚き。そんな二人の視線を余所に、ギレンはウィスキーを一口口に含むと言い切った。「さあ、コールだ、ウィリアム。私を楽しませろ!」「空襲警報発令! 空襲警報発令!! これより議会は地下15階まで降下します。議員の皆さんは落ち着いて対処してください」ダカールの議会は元々非加盟国によるテロリズム的な軌道爆撃を対処する為、議会設備そのものを地下に置き、更にそこから5フロア下まで議会を地下に降ろす事が出来る。と、発令と同時に地球連邦陸軍全軍が第一級臨戦態勢に移り、SP達全員がH&K社製品の歴史あるサブマシンガンを装備する。また、タチバナ小隊は新型機であるNRX-044アッシマーをマーフィー大尉指揮下の第三小隊と共にスタンバイに入る。『各機離陸!!』アッシマーが飛翔する。「こちらタチバナ大尉。いいか、敵はまだ数機だが一機たりとも市街地にいれるな!! 海上か砂漠で撃墜しろ!! いいな!!」「「「了解」」」報道陣がいる中で副首都のダカールに、地球に敵の侵入を許したと言う時点でバスク・オムの失脚は確定した。それを微笑む者がいた。月面都市のフォン・ブラウン市に、である。「これで常務の予想通りバスク・オムは失脚ですな。慧眼、恐れ入ります」そうかね?男はグラスに残っていたウィスキーを呷る。更に日本産の水で水割りを創作する。飲むかね、中佐?「任務中ですので。それにあまりお酒はお控えになった方がよろしいかと」その男は常務の肩書を持つ男だった。月面に本社を置く世界有数の企業の常務。しかしガンダムを強奪され、更にはジオニックの技術を吸収できなかった故にいつその地位から外されるか分からない。そこに降って湧いたのが、唯一の上司の失態。エゥーゴへの支援だ。ならば自分はティターンズに支援する。簡単な通りだ。自分がティターンズに支援する事であの男は失脚する。いつも紫の趣味の悪い男も、だ。そうなればこの会社は私のモノ、そう思っているのだ。「例のブツは届けよう。まさか指揮下の艦隊から合成麻薬製造プラントの所持者が組織ぐるみで出たとあっては流石に弁護しきれまい」頷くティターンズの中佐。「それで、君は何を得るのだ? 金か? 富か? 地位か? 名声か?」ふと思った。同じような質問をされた気がするな、と。だが答えは決まっていた。「脚本家の立場ですよ。それでは私はこれで・・・・・よりよいパーティを美女と共にお過ごしください。最高のショーと共に、オサリバン常務」戦闘は激化した。数機のガザDが地球に降下したが、それは蟷螂の斧だった。慣れない重力下戦闘を強いられた7機のガザDとガザCは機体構造の欠陥もあってタチバナとマーフィー両小隊によって海上にて撃墜される。一方宇宙空間では、新たにノイエ・ジールの2号機、いや、赤い彗星専用のノイエ・ジールⅡが戦線に投入。しかもグワダン近郊には緑色のキュベレイタイプが一機いる為か、近寄ったハイザックが6機二個小隊破壊された。二機のノイエ・ジールの活躍は凄まじく、第12艦隊は当初の予定以上の損害を出し一旦左翼右翼に戦力を分派、第1艦隊と第2艦隊に組み込んだ。そしてこの状態で最も損をしたのが第5艦隊である。第5艦隊内部で実弾兵器を搭載した機体はおらず、Iフィールドを発生させる機体を撃破するのは非常に困難。何機かは体当たりを敢行するも、ニュータイプと強化人間の先読みの技能の前に敢え無く撃破される事となる。「あれか、敵艦隊旗艦!!」ドゴス・ギアを射程に捕えたシグ。既に精神興奮剤と覚せい剤を使いすぎ幻覚さえ見える。だが構わない。(俺は守れなかった。だから・・・・だから!!)護衛のMS隊が、護衛の艦隊が一斉射撃を行う。無駄同然と分かりながらもミサイルによる誘導弾攻撃も行う連邦軍。だが、間に合わない。「勝ったぞ!!」既に血の涙がヘルメットを覆っていた。レバーを握る感覚も辛うじてしかない。だが、幾多の攻撃に耐えたノイエ・ジールは確かにドゴス・ギア級大型戦艦をロックオンした。ビームを放つだけ。この距離ならビーム攪乱幕も意味をなさないだろう。既に邪魔なサラミス改級は全て沈めた。近場のリック・ディアスもジムⅡを抑えてくれる。(見てるかセラ、アイン。俺はお前たちの仇を取るぞ!!)「死ね!! 連邦軍の豚!!!」シグがそう叫んだ時、運命は残酷に彼を振った。『ハイパー・メガ粒子砲、第二斉射! 目標、敵大型MA!! 撃て!!!』その通信が両軍に響いた。10分ほど前、二機の大型MAにより第5艦隊が予想以上の損害を受けている事に焦ったのは何もバスク准将だけでは無い。本来ならば敵対陣営のティターンズ所属のエイパー・シナプス少将も彼らしい義務感からタイミングを計っていた。如何にしてあの突破口を作る破城槌を粉砕するかを。如何にして気に食わないがそれでも味方を助けるかを。そして冷徹に判断した。周辺に味方がいない、尚且つ敵が止まる。そして確実に敵が狙うであろう目標。直ぐに決める。艦隊をこの位置に配置し、敵の突破スピードを見ればその瞬間は僅か5秒。だが0秒やマイナスでは無い。ならばやるしかない。必ず死ぬ命令は拒否できるが、決死の命令は拒否できないのが軍隊だ。「リャン中佐、タキザワ中尉、ドゴス・ギアに向け本艦を回頭、MS隊の内、アーガマを初めとしたネモ部隊は当初の予定通り敵艦隊を第1艦隊側から叩け。敵の直援機にもう余力は無い。40機近い新型MSで押し流せ!続けてハイパー・メガ粒子砲を用意。砲術長、機関長、砲撃は可能か!?」その言葉に数秒の間が出来る。やはり不可能か? そう諦めかけたところで砲術長が進言した。「リャン中佐、シナプス提督、30パーセントなら撃てます。ただし、三発目は絶対に不可能です。それだけは保証します」「こちら機関室。主砲を撃てば冷却システムが不足するのでこれ以上の砲撃戦は不可能になります。少なくとも使えるメガ粒子砲は無くなり、単走ビーム砲だけになります」つまり撃てばこちらは退却させる必要があるか。そろそろ例の護衛の艦隊が到着する事を考えると歩が良い賭けだ。「よし、砲術長、目標はあの緑の大型MAノイエ・ジール。タイミングはこちらで取る。操舵主、絶えず本艦の砲口をドゴス・ギアに向けよ。尚、冷却剤保全の為、メガ粒子砲の砲撃は中断する!」そしてシナプスの読みは当たった。ただひたすら前へ前へ前へ前へと進んだ狂信者の集団は、最良の獲物、連邦軍最新鋭大型戦艦、あのバーミンガム級の後継艦であるドゴス・ギア級大型戦艦の前で止まった。「!!!!」第5艦隊のみならず、第1艦隊と第2艦隊の兵士らが息を止め、エゥーゴが、アクシズ艦隊が、ジオン反乱軍が勝利を確信した刹那。『ハイパー・メガ粒子砲、第二斉射! 目標、敵大型MA!! 撃て!!!』エイパー・シナプスの激励が飛んだ。そして周辺のリック・ディアスやエゥーゴ使用のグリーンのジムⅡに、ドムやザク、ゲルググなどを巻き込みながらノイエ・ジールに直撃する。Iフィールドも度重なる攻撃により損耗し、更には対要塞用の強化メガ粒子砲の直撃など想定してなかった故に、シグ・ウェドナーの駆るノイエ・ジールは光の渦に呑まれた。「機関全速前進! 最大船速!! メガ粒子砲、ビーム砲、目標敵旗艦グワダン級戦艦。ペガサスⅢは本艦アーガマと共に前進、ブランヴァルはネェル・アーガマを援護」その直後にロンド・ベルが動いた。「ブライト大佐の、あ、失礼しました、ブライト中佐のアーガマ前進。ガンダムMk2とMk4の発艦を確認しました。ガンダムMk3、クリスチーナ・マッケンジー大尉の機体も発艦した模様」ノエル少尉が嬉しそうに言う。実際嬉しいのだろう。これで戦局は一気に流れる。敵の大型MAの残骸はネモ部隊が回収、今まさにペガサスⅢのイサーン・ヒースロー中佐の艦に収納されている。(恐らく内心ではバスク・オムは大激怒だろうな)と、シナプスは思ったがそれは外れた。内心どころでは無い。彼はその怒りを思いっきり表情に表わしていた。「あの卑怯者が!! 艦長、砲撃だ!! ロンド・ベルなどと言う輩に構うな。残党共を掃討せよ。全力射撃をかけるのだ!!」それを必死で止める副官。「提督、お待ちください、まずは艦の保全に努めるべきです!! 今逸って砲撃しては救える将兵を殺す事になります。既に大局は決しました。これ以降は第1艦隊と第2艦隊にまかせて・・・・・」だが無駄。「やかましい!! 奴らに一撃入れてくれぬば、この俺の気が収まらぬわ!!」そう言って最後の攻撃(あの瞬間、ノイエ・ジールのパイロットは引き金を引いていた)でズタズタになっていたドゴス・ギアは本来優先されるべきダメージコントロールを無視した砲撃を再開する。その一方で、シナプスは悪辣な一撃を送り出した。これこそ、ロンド・ベル最新鋭艦にして建艦が遅れた最大の理由。それは搭載機。搭載機の名前はORX-005ギャプラン。高高度迎撃専用機として開発される予定だったが、空軍から一言。『そんなものはコアブースターのビーム砲に任せれば良いのではないか?』という意見で没になった機体を、宇宙空間と地球双方で使える事からティターンズが開発を継承。更にジオンの技術を導入する事とRX-78-2ガンダムやアレックス開発時のノウハウ、白い悪魔の残した学習型OSの存在から一般兵士でも使いやすい機体になった。両肩内蔵のメガ粒子砲(威力を抑え、その分連射、装弾数を増やした)に加え、ガンダムMk2専用ビームライフル二挺、ビームサーベルという基本的な機体でありながらMAとMS両形態に変形できる事から緊急展開部隊であるロンド・ベルには無くてはならない機体と言える。そのギャプラン12機(ホワイト・ディンゴ小隊、デルタ小隊、ヤザン・ケーブル少佐、ユウ・カジマ大尉、ユーグ・ローク少佐の第1小隊、サウス・バニングを除く不死身の第四小隊ら)が戦線に投入。一機に穴が開こうとしていた。そして、この時、引き際と確信したシャア・アズナブルはグワダンに連絡。核弾頭を使用する様に命令。混戦状態を脱却する為にも、第5艦隊直前で核を撃つ様に指令を下す。が、そこは上手くいかなかった。「見つけたぞ、赤い彗星!!」アムロ・レイの乗ったガンダムMk4がノイエ・ジールⅡを捕捉した。しかも厄介な事に、ハイザックのザクマシンガン改を予備弾倉と共に用意して。「く、このプレッシャー、アムロ・レイか!? 私のアルティシアを奪った男だな?面白い。地球では機体性能で負けたが、このノイエ・ジールⅡと私を舐めるなよ、白い悪魔!!」ノイエ・ジールⅡからビームが発射される。そして残っていた二機のビットの改良型、ファンネルを分離させた。『赤い彗星』と『白い悪魔』。もはや死神に好かれているとしか言えない因縁の対決が始まる。また別の戦線ではマレット・サンギーヌの乗るガンダム試作二号機にガンダムMk2が対峙。「お前ら一体後何人殺せば気が済むんだよ!!」怒りに任せたカミーユは手じかなマラサイを連続で二機撃破した。「ほう、連邦にもやる男がいるようだ」だが、それがマレットの闘志を燃やす。持っていたゲルググ用のビームライフルを捨て、ビームサーベルを引き抜く。「俺はこいつをやる、リリア、ギュスターとユイマンの二人の仇だ。地球に行ってその核弾頭であの地球至上主義者どもを焼いてこい。どうした? さっさと行け!!!」そう言って核弾頭の入っていたバズーカと盾を渡した。尤もそれは死に行けと言うのと同じ事。MS単体による核弾頭の奇襲は成功しないだろう。ジオン反乱軍ら宇宙にいるメンバーは知らなかったが既に30機以上が降下し、ティターンズ並び空母リンカーンを中心とした地中海派遣艦隊の北米州所属、地球連邦海軍第2海上艦隊所属のアッシマーに撃墜されている。既にダカールの制空権は地中海各地の航空基地や空軍の援軍が到着しており万全な状況に入っていた。しかもだ、既に首相選挙は開始されており、それが中継されている。「こちらファング1、例のマラサイ部隊だ。突入コースに入ろうとしている。ファング3、ファング2は現役復帰してまだ日が浅い。無茶はさせるな」「こちらマイク、了解です、レオン先輩の面倒見れるなんて滅多にありませんからね。しっかりとフォローさせてもらいます!」「マイク、お前は後で覚えていろ。こちらファング2、ファング1の命令を受領。各機の援護に回ります」と、戦闘の光が近づく。それをデルタチームも確認した。それを伝える前にマット・ヒィーリー大尉から連絡が入る。「こちらデルタリーダー、確認した。WDは右から、デルタチームは左から仕掛ける。ヤザン少佐、中央の部隊は任せます」「うん、ロックオン・・・・こちらデルタ2、ターゲットロックオン。やってみるか!」「ラリー大尉!? 早いぜ、って、嘘だろう、あ、当てた!? あの距離を!?」アニッシュが驚くのも無理はない。射程ギリギリの敵機を撃墜したのだ。マラサイ隊も降下を止める。こちらに銃口を向けたのが分かった。敵も発砲する。いつの間にかお互いのビームの射程圏に入っていた。流石は可変MSだ。早い。「こちらヤザン機。敵機の発砲を確認した。ユーグ、ユウ、0402から0404、俺たちは中央突破だ。大物喰いたけれりゃ生き残れよ!!」「ベイト機了解、これより第4小隊は俺が指揮する」「け、バニング少佐からの命令だから仕方ねぇな。次は俺だぞ!」「はいはい、バカやってないでさっさと終わらせましょう」第4小隊が上昇し、まだ艦隊戦をしているアクシズ艦隊の艦(エンドラ級巡洋艦と後に判明)を攻撃、撃沈。「一隻撃沈! やるなあいつら・・・・うん? あれはガンダムMk2? しかもグリーンの塗装とは・・・・奪った機体まで動員しないといけないとは貧乏人は辛ぇな!!」ヤザンの声とともにギャプランが変形する。そのままビームサーベルで鍔迫り合いを行う。『く、アースノイドが!!』声が聞こえた。なるほど、エリック・ブランケがマレット・サンギーヌのどちらかか。「戦場でそんな感情持ち込んでると・・・・・死ぬぞ!!」ヤザンのギャプランが吠える。まるで餓えた闘犬の様に。一方でもう一機の機体にはタチアナ・デーアが乗っていた。そして相手は嘗ての上官であるユーグ・ローグ。「もう止めろ!! 投降するんだ!!!」自分は何を言っているのだ?あれだけの事をした人間が投降して生き残れるはずがない。良くて銃殺。下手をすれば縛り首だ。なのに。バルカンがシールドに当たる。流石はティターンズ精鋭のロンド・ベルの機体。何ともない。一方残ったユウ・カジマのギャプランは既に一機のマラサイを撃破、もう一機の腹部を右のメガ粒子砲で撃ち抜いたところだった。「・・・・・・」相変らず無口だ。それでも戦う。戦ってどうなるかは分からないけど、もう始まってしまったのだから。『テロリストには断固として屈しない!!』最初に避難ではなく従来の予定通り首相選抜選挙を行うよう提言したレイニー・ゴールドマンの言葉に心動かされた議員はここを死に場所と考え(無論保身もあっただろうが)、選挙を実地。そして投票の結果、圧倒的多数でオセアニア州出身のレイニー・ゴールドマンが首相に選出された。宇宙世紀0088.10月20日午前9時17分、選挙終了。そして、ティターンズ長官ジャミトフ・ハイマンから一つの提言が出る。引き続き議長役のエッシェンバッハが発言を促す。「私は今日を持ってティターンズ長官の職を引退する。後任はゴールドマン首相が決める事であるが、暫定的な後任としてウィリアム・ケンブリッジを推薦する」ざわめきが拍手に代わるのに時間はかからなかった。そして連邦議員の一人としてこの議会に参加したブレックスは思った。(ああ、こうして民主主義は終わるのだな。万雷の拍手に迎えられて終焉を迎える。何とも21世紀の映画ではないか。旧世紀のアドルフ・ヒトラーだ!ジャミトフ、貴様は自分が何をしているか、何をやったのか、何を言ったのか分かっているのだな?分かっていて、この様な暴挙を行っているのだな?そうか・・・・・やはり彼との会話は・・・・・・シロッコ君との会話は正しかった・・・・地球連邦はやがてある男の手の内になる・・・・・間違いない。ある男・・・・・ウィリアム・ケンブリッジ・・・・・この男が全ての変わりの始まりだったのだ)だが実は一番唖然としたのはこの男だろう。まさにブレックス・フォーラーが思い描いた人物。ウィリアム・ケンブリッジ。つまりはティターンズ副長官。彼は一瞬だけ何を言われたのか分からず、そして気が付いた。本当の出来レースはこっちだった。彼を、各議員を守る英雄部隊のトップにする。そうする事でウィリアムやケンブリッジ家の身の安全を保障すると同時に彼が逃げれないようにする。(最初からこれが狙いか!! くそ、先輩め、確かにこれは死んだ!! 俺の老後はSPと御巡りさんとの共同作業だ!!)今やティターンズ派は地球連邦政府内部で最大勢力であり、実績もある。例えるならばオセアニア州と北アフリカ州の緑化に統一ヨーロッパ州の戦災復興。最大の脅威であるジャブローの無力化、ジオン本国とのパイプライン強化の為の『地球連邦王室・皇室評議会』へのザビ家の編入。非加盟国の準加盟国への格上げとそれに伴う軍縮と貿易強化による太平洋経済地域の経済発展。どれも一年戦争開戦以前、つまり戦前には考えられなかった事だ。確かにエゥーゴやアクシズ、ジオン反乱軍、ニューヤーク襲撃、ソロモン核攻撃などの失点は重なったが、それ以上に加点の方が多い。これらに宇宙でのデブリ回収による宇宙経済復興も加わるので総計を見ると、明らかに+収支になる。そしてその最前線(戦災復興)にいたのがティターンズであり、ジャミトフ・ハイマンであり、その懐刀のウィリアム・ケンブリッジだ。まあ、本人にはこのティターンズ長官指名の瞬間まで一切の自覚が無かったようだが。「ケンブリッジ暫定長官、いや、私の権限でティターンズの長官としよう。無論半年は先輩の初代長官の下で働いて仕事を覚えてもらうが。連邦議員の諸君、この人事に異論のある方はいるかね?」この時期にティターンズと言う地球連邦の象徴のトップに有色人種が就任する。しかも誰よりも優秀で善意あると国民的な人気を持つ人間だ。敵に回すよりも味方につけておいた方が何かと役に立つ。一瞬でそう判断する地球連邦議会の魑魅魍魎たち。「どうやら反対は無い様だ・・・・それでは・・・・ケンブリッジ長官、ティターンズ長官就任演説を」当初の議題、コロニー自治廃絶法案はどこにいったのやら?それとも最初から夫をこの場に引きずり出すのが狙い?3階の貴賓席でマナとジンとグレミー殿とマリーダ殿、ミネバ殿と護衛の兵士15名に一応渡されたエアー内臓式ガスマスクを片手に見る。音声は全ての報道陣が一言たりとも逃すまいとしており、備え付けの極東州製品の薄型TVで夫の顔がズーム映し出された。夫はこんな事は想定してない。私も聞いてない。だが面白い。夫は芯が弱い人間だ。それでもギレン・ザビと数度の会談をしたし、妻を戦場に送ってもその恐怖に耐えた。戦場も知っている。人権侵害を受けても自白しなかった。咄嗟の事とはいえ、他人の為に命を賭けて盾になった。なれた。考えてみれば、自分の夫、ウィリアム・ケンブリッジはとんでもなく凄い才能を秘めた男だったのかも知れない。(あの情けないお兄ちゃんがよくここまできたわね・・・・頑張って、ウィルお兄ちゃん)そうしている内に、演台に立った。マイクを調整した瞬間、観客席から歓声が沸いた。スポットライトの様にデジタルカメラのストロボがたかれる。『『『『ウィリアム!!!!』』』』『『『『ティターンズ万歳!!!』』』』夫が顔をしかめる。彼はこの全体主義的流れは嫌いだった。だから歓声が沈静化するまで待った。そしてその間も宇宙と地球での戦闘は続く。この時、ゴールドマン新首相は連邦放送に地球規模全土に通信を流す様に命令する。息を吸っては吐く。心臓の鼓動がうるさい。なぜこんな事になったのか分からないがもう行くしかない。ウィリアムは決めた。決める事にした。あの時、終戦を目指したように、今日また、新しい終戦を目指す為に。マイクを確認する。両手を壇上につく。紺色ストライプのサイド3製品のオーダースーツに薄青のシャツに黒いネクタイ。そしてティターンズのバッジ。靴もハンドメイドの一級品であり、時計も極東州製品のモノだ。だが、どれも庶民が手の出ないものでは無い。むしろ、高級車一台の方が高い位だ。個人的な趣味が万民受けすると最初から仕組んだのか、それとも偶然か、或は故意か?「みなさん」そしてティターンズ第二代長官であるウィリアム・ケンブリッジは語りだした。ふと指もとがフラッシュの光で反射した。そこにあったのは最愛の存在と交換した絆の証明。証。(マナ、ジン、リム)一度だけBOX席の3人に視線を送る。それぞれの思いが返ってくる。お父さんがんばれ。お父さん、負けないで。ウィリアム、私たち4人はずっと、ずっと一緒よ。それを見て漸く私の中の何かが吹っ切れた気がする。深呼吸。そして息を吐く。「私は、第二代ティターンズ長官として、そして地球圏に住む一人の地球市民として今まさに騒乱を起こしているテロリズム集団を、エゥーゴと、アクシズ、そしてジオン反乱軍を断罪する」