ある男のガンダム戦記29 (今回は短めです・・・・それといよいよ明日から仕事開始、社会人デビューなので執筆は遅くなります。また今回は苦手な戦闘シーンと理由があり主人公が登場しないので短めですがご了承ください)<冷酷なる神の無慈悲なる一撃>宇宙世紀0096.02.23、午前10時前、サイド3に本国を置くジオン公国は凡そ15隻の戦闘艦艇の侵入を許し、国内で戦闘状態へと陥る事になる。ジオン本国艦隊であるノリス・パッカード中将の第二艦隊がムンゾ戦役への後詰として派遣された為、ジオン本土残存戦力はギレン直轄の『グレート・デギン』一隻とその護衛艦であるザンジバル改級機動巡洋艦が8隻で、あとは全て旧式簡易生産型ムサイ級軽巡洋艦やパプア級補給艦である。しかも地球連邦軍とは異なり国防費にそれだけの予算をかける事が許されないジオン公国は依然としてゲルググやザクⅡF2型、リック・ドムⅡなどを実戦配備していた。結果、ギラ・ズールで武装したタウ・リン指揮下の艦隊に各個撃破される。そのマゼラン級戦艦四隻の圧倒的な火砲を受けるガーディアン・バンチのジオン公国国防総省では。「総員、ノーマルスーツを着用だ。ええい、負傷者から順にランチなり船なりに乗せろ!!本土防衛隊の現状はどうなっているか!?」先の砲撃で自分を庇い戦死したラコック中将に代わって別の副官が報告する。「現時点では各個撃破されておりとてもではありませんが再出撃は不可能です!!ズム・シティも砲撃を受けております!! 現状での指揮命令系統は不明!! サスロ総帥、レオポルド首相、マ・クベ議長、ギレン陛下の安否確認は出来ません!!」最悪だ。ドズル・ザビは思いっきり壁に拳をめり込ませた。「先ほども命じたように護衛の各艦は軍港から出撃後、退避行動に入れ。遺憾ながらガーディアン・バンチ防衛を放棄する。ガーディアン・バンチ勤務員、総員はノーマルスーツ着用の上で退避。無駄死にはするな」最悪の中でも的確な判断を下すドズル・ザビ上級大将。現在のジオン公国はタウ・リンと言うたった一人の天才テロリストの誰も望まない活躍で軍事と政治の中心地を戦艦五隻の艦砲射撃を浴びて壊滅状態に陥った。既に指揮系統が壊乱した為、ただでさえ質で劣る部隊が各個にタウ・リン指揮下の艦隊に攻撃、返り討ちに陥ると言う事態が多発している。そうであるからこそ、この混乱を招集しなければならない、「よーし、そこの貴様!! そうだ、お前だ。他のバンチへの砲撃はあったのか!?」再確認をするドズル。仮に住民らが住んでいる他のバンチに砲撃があればそれはそれで大問題である。だが、ノーマルスーツ越しのバイザー越しに映し出された表情を見るにどうやらそれは無いらしい。「は、はい。報告します、現時点で砲撃被害があったのはズム・シティとこのガーディアン・バンチのみ。その他の場所は無傷です。各コロニーバンチの市長らが率先して住民をシェルターに避難させているようで現在のところコロニー外への難民発生は無いとの事」宇宙世紀0080、ジオン公国は自らの戦争、つまりジオン独立戦争末期、レビル将軍指揮下の地球連邦宇宙軍とその正規艦隊七個がルナツーに入港した時、彼らは一つの決断を下していた。それは単純明快であるが、ジオン公国国民の全国民へのノーマルスーツの無償支給と無償定期メンテナンスの提供である。ジオン上層部はコロニー本体を盾にした本土決戦さえも行うという覚悟を国民に知らしめて戦意の向上を図った。が、ギレン・ザビが指揮した『ゲルドルバ作戦』でレビル将軍は自身の主力部隊と共にソロモン要塞で戦死。その後はジオン軍の計略通りに『ア・バオア・クー攻防戦』で連邦軍の猛攻は停止して、サイド6における『リーアの和約』で地球連邦政府とジオン公国と間には終戦協定が結ばれた。それでもジオン公国は第二次一年戦争の危険性を考慮して定期的に国民への疎開運動、防空壕への避難運動、ノーマルスーツの着用訓練を課しており、その結果が今実ったとも言えるだろう。まあ、彼らに取っては最悪の形で。「状況報告、撤退急げ・・・・・それとドズル上級大将」別の参謀が発言する。何だと思って振りむく。「何事か!?」思わず怒声が出る。「地球連邦軍第三連合艦隊と月面に展開している第四連合艦隊が救援活動の援助を申し出ております・・・・もしも受けるならば艦隊の支援物資にMS隊による集塵作業も行うと。如何なさいますか?」それはギレン兄かサスロ兄の管轄で俺の管轄じゃない。(政治的な面倒はご免だ)この発言を何とか飲み込むドズル・ザビ上級大将。『リーアの和約』がある限り地球連邦軍はこのサイド3宙域(ジオン絶対国防圏)には侵入できない。それを踏まえた上で地球連邦の政府は援助を申し出てきた。或いは軍の独断だろうか?どちらにせよ、現時点では連邦艦艇の侵入は危険すぎる。接触事故や昂っている将兵らが発砲しないとも限らない。遺憾ながら全軍の統率に自信が持てないのだ。特に主力部隊をデラーズが率いてネオ・ジオンの迎撃に回った以上は。それに集塵作業と言っても幸いな事に撃沈された艦艇以外、つまりコロニーの被害はビーム攻撃で溶解しただけでなんとかなる。「いや、それには及ばんと伝えろ・・・・・・・他の部隊に連絡、絶対に追撃せずに国内の治安回復、デブリ除去に全力を尽くせ、とな!!」宇宙世紀0096.02.23日、標準時午前11時00分。地球連邦首相官邸ヘキサゴン。あの戦争で地球にコロニーが落ちる事も無く、環境改善が成功裏に進んでいる地球では例年通りの雪がこのニューヤーク市にも舞う。水天の涙も過去の事件となり、かくて巡航ミサイル攻撃を受けた傷跡は殆どが掻き消え、その繁栄ぶりを、地球連邦という超大国の首都の威信を見せつけている。ニューヤーク市、旧ニューヨーク市内(旧市街地)から極東州の高速鉄道である新幹線で2時間。津波と地震対策故に海抜25mの丘の上にある首相官邸を中心とした官邸群、ヘキサゴン・シティ。首相官邸を初め、各官庁、官僚らの宿舎、専門の学校、軍とティターンズの防衛施設などがあるこの地で。定例の地球連邦内閣府閣僚会議が開かれていた。メンバーはいつも通りだった。ただし、今回はオクサナー国防大臣とケンブリッジ長官が遅れてくると言われている。件の二人はネオ・ジオンの行った例のジオン本土強襲作戦の影響を受けて地球連邦政府の閣僚らの一人として対応を協議する事になったのだ。「ゴップ官房長官、それで地球経済に与える状況はどうなのか?」レイニー・ゴールドマン首相が聞く。何を? 決まっている。 ジオン本土が襲撃された事に対する地球連邦経済への状況だ。この点は連邦だけでなくジオン財界とも影響力を持っているゴップ官房長官に聞くのが一番良いだろう。「そうですな・・・・・・・・向こう三か月ほどは軌道修正を免れられないと言う所でしょうが・・・・・ジオンも工業力を持った国家です。単体であればグリプスに匹敵する。或いは現在、自然環境保護を名目にほとんど使われなくなった南米州にあるジャブロー工業地域の様に。となれば、です、精々三か月我慢すればジオンと宇宙経済は持ち直すでしょう。それにこれはオフレコですがギレン・ザビは生き残ったようです」その発言に多くの閣僚が反応する「何と?」「ほう?」「悪運だけは強い」「或いは予め知っていのではないか?」「まさか・・・・いや、だがあの男ならばありそうな気もするな」「それで今後の対応は?」「ギレン・ザビの他には誰が生き残ったか、それで変わるでしょう」などなど。取り敢えず雑談が一段落するまで彼らの反応を見る。雑談は思ったよりも時間がかかりおよそ15分は消費された。「さて、諸君」そこでレイニー・ゴールドマン首相が発言する。「現在の地球連邦情報局(FIA)の報告では近年まれにみる正鵠さで情報が来た。これは驚嘆する事象だと思っている方が多いがそれは割愛しよう。ジオン公国のレオポルド首相は健在。サスロ・ザビ総帥、マ・クベジオン公国議長、ダルシア・バハロ副首相ら閣僚の半数は死亡。残りはグワジン級戦艦に移乗して目下、宇宙に退避中だ。現在のジオン公国は放棄される予定のガーディアン・バンチの機能を騙し騙し使っているドズル・ザビが指揮している」つまりジオン本土は政治的に壊滅した、という訳になる。何か質問はあるかね?そう言って報告を締めくくる。「そうですね、首相の言う通りでしょうか。他にもいろいろあると思いますが、ジオン本土の問題解決には彼らジオン公国に任せた方が賢明かと思います。それに第三連合艦隊と第四連合艦隊を派遣すると言うパフォーマンスを見せたがジオン側が拒絶しましたので・・・・・あとは月面方面軍から一個艦隊程を援助に向かわせればよろしいかと」それはジオン本土の現状を認識したうえで、『あ一号作戦』を継続するという意思表示。それ以外の何物でもなかった。用意された南インド州産の紅茶を飲む首相。それに釣られて何人かがそれを飲む。最高級の紅茶の香りが会議室に漂う。全員の仕立服のスーツ(色は黒と紺が主流だが灰色もある)姿の文民にオブザーバーの地球連邦軍統合幕僚本部本部長のニシナ・タチバナ大将と彼らの副官らの姿もある。「なるほど。ならば財務大臣としてはこのまま作戦継続を願います。もう一度4兆5000億テラも軍事費を用意しろなどとは財政的に悪夢以外の何物でもありませんから」ロベルタ女史が財務面で、「内務大臣としても地球連邦の威信を見せると言う意味では必要でしょう。ジオン本土が強襲されたのなら各コロニーへの安心感を与える必要性がある。それに・・・・コロニーや地球連邦加盟国や各州政府への影響力拡大と確保は国務大臣のジャミトフ殿も同意見では?」バウアー内務大臣が内政面で言う。そして『禿鷹』の異名を持つ政界のトップ政治家もまた言う「私、国務大臣としても先の財務、内務の両大臣の意見に賛成ですな。ジオン本土の打撃はあくまで政治と軍事の中心でありしかも閣僚は半分死にましたが、これは逆にいえば半分生き残りました。また最重要人物のギレン・ザビも生き残り、ジオン本土の統制も取れてきている。月面から第七艦隊を派遣する事でこちらもジオン公国国民を見捨てないとアピールできる。ならばそれを利用して我らが将来は経済的にも政治的にも軍事的にも優位に立つ事を視野に入れるべきでしょう。特にジオンは自分たちでやると言ってきている。ならば・・・・・それを叶えてやるのも良いかと」言外に放置しておけばよい、そう言っている。それに経済界はジオンのコロニーの再開発それ自体には直接関与できなくても、ジオン公国への資材・資源輸出ルートで儲ける事が出来る。そう考えている。「この度、被害を受けたコロニーの再開発と補修作業はジオン公国自身がやるでしょう。それを鑑みて、我が軍と我が政府は動くべきかと。あとは哀悼の意でも送れば良いかと」ジャミトフ・ハイマンの発言をもってこの会議の方針は決定づけられたといえる。宇宙世紀0096.02.23、厄介者扱いされていた『エゥーゴ派』が大戦果、サイド3のジオン本土強襲作戦成功と包囲殲滅される一歩手前だったネオ・ジオン艦隊主力部隊の撤退援護に成功させた事でアクシズ要塞は湧きかえっていた。無論、彼らを不要な存在、要らぬ存在として排除しようとしたネオ・ジオン幹部のハマーン派は歯ぎしりしているが「さて、あとは運かな?」誰にも聞かれない様に青いシナンジュのコクピットでタウ・リンは呟いた。ジオン本土強襲作戦とそれ以前のムンゾ戦役によってジオン公国は能動的な作戦を行う能力を失った。確かにジオン艦隊は無傷の艦隊(第二艦隊、第三艦隊、第四艦隊)があるが、内二つはジオンの姫君ミネバ・ラオ・ザビ護衛が任務として月面都市グラナダ市に撤退。第二艦隊は本土防衛に下がり、デラーズ・フリート、ジオン親衛隊艦隊、第一艦隊、第五艦隊は戦力再編と補修の為に本土のドッグ入り。しかもその本土は自分がやったジオン本土強襲作戦の影響で未だに混乱から回復しておらず、戦力の大半は守備に回している。(ギレン・ザビは生き残ったようだ・・・・・ち、面倒だ。せっかく暗殺する好機だったのにな。惜しい事をしたぜ。それに為政者として当然だな。足元も固めないうちから戦争など馬鹿のする事だよ)それを知ったうえで、アルコール飲料を口に含む。傍らにはビーフジャッキーの袋が宙を舞っている。この場には誰もいない。「ジオン軍を中心とした敵艦隊は撃破した。そう捉えていいのかは不明だが・・・・それでもジオン公国はこれで当分は動けない。だが、後の問題は地球連邦軍だな。ジオンが予想に反して救難艦隊の受け入れを渋ったため、第三連合艦隊と第四連合艦隊がフリーハンドを得た」そう、タウ・リンの予想ではジオン本土強襲作戦の結果、彼らの救難活動の為にジオン公国国内に地球連邦艦隊が展開する、その結果、地球連邦軍は足止めを食らうと言うのが当初の目的であった。地球連邦政府は民主主義によって生まれる政権であり、如何に他国とはいえ民間コロニーへの被害を出した国が援助要請をすればそれに答えるだろうと考えていた。そして、それは最も近場にいる第三連合艦隊と最も人員を持つ第四連合艦隊の二つを動かす筈で、そうなれば艦隊の絶対数が100隻単位で減る地球連邦宇宙軍は一旦、矛を収める・・・・予定であった。だが、それを阻害したのが政治的に疎かったドズル・ザビであり、軍人が政治に加入した為に自らの策が水泡となったと言うのが皮肉である。彼、ドズル・ザビ上級大将は純軍事的に他国の艦隊が本国内部を跋扈する危険を見抜いた。確かに救援部隊としては有力だがそれでも独立戦争以来一隻たりとも侵入させた事の無い地球連邦軍の艦隊を本国に侵入させるには自分の判断では出来なかった。よって、彼は第三連合艦隊と第四連合艦隊の要請を蹴ったのだ。それはジオン公国の宇宙艦隊再編以上にネオ・ジオン軍の戦力再編に時間がかかる事を知っているタウ・リンにとり意外な失敗である。彼にはここで、サイド3強襲作戦の結果、ジオンと連邦が揉める事で時間を稼ぐ意図があった。だが、それは出来なくなった。「なるほどな、ジオン屈指の英雄であらせられるドズル・ザビは思ったよりも軍人馬鹿だったか。それで連邦軍はまたぞろ動き出した。第一連合艦隊と第二連合艦隊の補給と第三連合艦隊と第四連合艦隊実戦部隊の合流が完了すれば必ず攻めて来るな。それにこっちの、ネオ・ジオン艦隊の外洋迎撃能力は完全になくなったと言って良い。ならば第四連合艦隊の大量の陸戦部隊も用意するだろう」事実、『ムンゾ戦役』を経験したネオ・ジオン軍の損害は大きかった。第一任務部隊、第二任務部隊は半数が、第三任務部隊は2隻を除いて全滅し、ハマーン・カーン直属部隊も5隻のエンドラ級巡洋艦を撃沈されていた。ムサカ級重巡洋艦も6隻を損失していた。ニュータイプ部隊と呼ぶ強化人間部隊こそ無傷だったがそれ以外の損害は甚大。(考えたくない犠牲の大きさだ。それを上層部は分かって無いのが救いが無いぜ・・・・あの死にたがりどもが)既にネオ・ジオンは艦隊決戦に出るだけの余力は無く、アクシズ要塞の各種艦艇ドッグやMSハンガーデッキでは24時間体制で必死に補修作業を行っている。だが、それも地球連邦軍の主力が出現するまでだろう。仮に連中の主力艦隊が出現したらそこでこの戦いは決まる。ネオ・ジオン軍の敗北と言う事象で。最早1000機近いMS隊と400隻以上の艦隊を動かしている地球連邦軍とティターンズ、ロンド・ベルに対抗するだけの戦力など残っておらず、備蓄していた武器弾薬も底を見えてきたのだから。シャア・アズナブルらも予想していたが、この時点で既に地球連邦はある情報筋からネオ・ジオンの内情を知る。そして地球連邦軍は万が一の奇襲作戦に備えて後方の月面に待機していた揚陸部隊にも出撃を命令した。更に偵察部隊15個の内、8つとヘンケン少将指揮下の第10艦隊を護衛に回す。一方で第三連合艦隊もP-000に向け進軍を開始。総力を挙げてネオ・ジオンを踏みつぶさんとしている。「勝てる筈が無いな・・・・・仕方ない・・・・・俺は死んでも良いがあいつらの分のあれは手に入れてやる必要がある。ここまで俺についてきた奴らだ。見殺しにも出来ん・・・・・あとは・・・・・俺故人の目的の為にもまだ死ねないしな」地球連邦政府はまさかのジオン本土強襲作戦という事態に揺れていた、という訳では全く持って無かった。ギレン・ザビの生存が確認された宇宙世紀0096.02.24の時点でジオン公国の早期政権再建は可能と判断されたのである。一方で人道に基づいた支援物資と救助艦隊の派遣と言う事で月面方面軍所属の第7艦隊と第8艦隊がサイド3に派遣される事になる。これはジオンと連邦の双方が渋ったがあまり経済的な停滞を長引かせると他の分野(他のスペースコロニーサイドと月、地球間の貿易ルートの支障など)にまで影響を及ぼす事が確実であり、それは避けるべきだと言う判断が地球連邦のゴールドマン内閣府によって決断された為、トップダウン形式で決定する。またこれをある種の威嚇でギレン・ザビに呑ませたと言うのが本音でもあった。「ジオン公国本土のスペースコロニー、まさかこれほどにまでもろいとはな」誰ともなく言う。今までコロニーで戦闘した事があるのは地球連邦政府最大機密の一つであるインダストリアル7への第13艦隊の攻撃のみ。実は一年戦争の赤い彗星のサイド7襲撃以外の民間スペースコロニーそれ自身へ、しかも艦隊規模の攻撃はこれ自体が初めてであった。そう言う意味でもタウ・リンと言う男の異常性が明らかである。彼は表立ってはいない(当事者ら以外は知らない)が『水天の涙紛争』時にシャア・アズナブルにニューヤーク市攻撃を進言しており、その一方でAE社やビスト財団から多額の資金援助を受け取っていた。そして純粋な軍事的勝利の為には自ら泥を被る事も全く厭わないという姿勢を見せる事でこの度の奇襲作戦を成功に導いた。「タウ・リンか・・・・・・生い立ちも何もかも不明。一体この男は何者なのだ?」ジャミトフのボヤキは全員共通の意見だったろう。そしてコロニーと言う人口の大地の脆弱さ。「コロニーはどこまで言っても人口の大地です。我々の住む地球とは異なる。ならば・・・・ビーム攻撃に脆いという点はある意味で合理的でもありましょう」今回の非公式会談では数名の閣僚らが話し合っている。ゴールドマン首相はギレン・ザビらとの直通会話による会談の為にいない。そう言う意味で現在の状況はタウ・リンの望んだとおりの状況だった。「数日間だけだが、敵に時間を与えることになるな」一人の男の閣僚が言う。理由はこうだ。タウ・リンの行動、ジオン本土の強襲と、ネオ・ジオン軍による宣戦布告前のサイド1襲撃で各サイドには不安感がある。特に防衛能力と言う意味では地球連邦宇宙艦隊とも戦える筈のジオン軍が虚を突かれた。その結果、度重なり戦力の損耗とジオン本土襲撃と言う思いがけない事態に陥る事になる。これは各サイドにとって看過しえない事態となる。先の大会戦である『ムンゾ戦役』でジオン軍がネオ・ジオン軍の機動戦力を削いだとしてもそれを民衆が理解するのと納得するのはまた話が別であるからだ。またジオン公国が混乱収拾を名目に依然として情報統制が敷かれている以上、ムンゾ宙域での会戦結果は政府と軍部上層部しかしらされていない。「各サイドの不安鎮静化の為に全偵察艦隊の出撃と一旦、各連合艦隊をソロモン要塞らへの艦隊集結をやる必要になるとは」第一連合艦隊は月面のフォン・ブラウン市に、第二連合艦隊はソロモン要塞に、第三連合艦隊はサイド5に、第四連合艦隊はサイド6にそれぞれ分散配備される事になる。想定していた『あ一号作戦』の第9段階という速攻を旨とした電撃作戦は中断され、『あ一号作戦』第12段階と呼ばれる四方からの包囲攻撃によるアクシズ要塞攻撃へと作戦が移行される事になった。それは地球連邦軍もまた政治的な理由で0096.03.01まで軍事行動を控えると言うことであり、ネオ・ジオン軍へ時間を与えると言う事でもある。「宇宙艦隊司令部は作戦を早めたいようだが・・・・・今の政治状況ではいたずらに各コロニーや月面都市群を裸に出来ないだろう。下手をすれば暴動になる」またもや閣僚の一人が言う。仮に地球連邦がコロニー防衛よりもアクシズ討伐を優先して、その結果サイド1襲撃の様な事件を起こせばこのネオ・ジオンとの戦いの後、つまりは戦後の統治に大きな影響を及ぼす。現に、サイド1襲撃が問題視されてない、あるいはされ難いのは単にそれが宣戦布告前の奇襲攻撃だったからである。仮に宣戦布告後の攻撃で敗退していればこれ程能動的に大艦隊を行動させられなかっただろう。「仕方ないですな・・・・宇宙艦隊は来月1日を持ってアクシズ攻撃に転じましょう。あまり時間をかけるとムンゾ宙域で受けたダメージをネオ・ジオンが回復してしまう可能性が高い。まあ、そこまでの予備部品らがアクシズに、ネオ・ジオンにあるとも思えませんが・・・・念には念を入れましょう」オクサナー国防大臣はそう言い、地球連邦政府は一週間の艦隊の再停泊を決定。加えて、第一次先遣偵察艦隊を派遣。ティターンズ子飼いの傭兵会社『クロスボーン・バンガード』の9隻のアレキサンドリア級を使い、その他の部隊と共に強行偵察を仕掛けた。結果、アクシズ要塞は超長距離ミサイルによる一方的な攻撃とメガ粒子砲の射程圏ギリギリの超長距離砲撃の攻撃を受ける。MS隊を派遣したくとも、随伴する艦艇が不足したネオ・ジオン軍は迎撃にのみ専念し、9隻のアレキサンドリア級重巡洋艦と20隻のサラミス改級軽巡洋艦の猛砲撃をただ耐えるだけであった。この時点でネオ・ジオンは既に、彼らに取っての戦争の主導権を奪われていたと言っても良かった。地球連邦軍の想定通りに。その一方でジオン本土では先の大損害を埋めるべく必死の集塵作業、回収作業が行われていた。各地のMS隊を総動員した集塵作業であり、疲労による犠牲者も出ている。大型デブリが少なかったのはタウ・リン指揮下の艦隊があくまでビーム砲撃に徹した為であり、ミサイルを使わなかった為であり幸運以外の何物でもない。つまりは溶解した施設こそ多かったものの、破損した施設は少なかったと言える。とはいえ、ズム・シティは放棄される事になり、臨時措置として住民ごとダーク・コロニー01に首都機能を移転、ガーディアン・バンチも同様である。「ラコッ・・・・ち、ニッキ少佐、シャルロッテ少佐、現状を報告せよ」癖で死んだ参謀総長のラコックと呼びかけて言い直すドズル・ザビ。副官の副官、生き残った二人の少佐に報告を聞くドズル・ザビ。彼の想像以上に被害は酷かった。ジオン公国国防の要であるガーディアン・バンチだけでなく首都ズム・シティも半壊、放棄。そして。「ギレン陛下は無事ですが・・・・・マ・クベ議長、サスロ総帥、先代首相であるダルシア・バハロ一家全員の死亡が確認されました」思わず壁に拳を叩きつける。ノーマルスーツ越しだから痛みは殆ど無いのだがそれでも、である。(サスロ兄!!)タウ・リンの攻撃はサスロ・ザビを初めとしたジオン公国首脳部、政府閣僚部、官僚組織に大打撃を与えた。ジオン公国の屋台骨を支えていた人間の何割かをこの世から強制的に退場させたのだからその被害は仮に兄であるサスロ・ザビが生きていたら絶句しただろう。それ程までの損害を受けたと言える。「他には何かあるか?」努めて冷静な声を出すドズル・ザビ。彼が怒鳴ると大抵の将校は委縮してしまうのだ。だからこの二人の夫婦にもある程度は心配りをしなければならない。「シャルロッテ少佐」夫のニッキが言う。とにかく目の前の御仁が聞きたくても聞けない事を伝えなければならない。少なくとも公人であるドズル・ザビ上級大将が聞けない事を、だ。「ミネバ様は現在月面都市グラナダ市のジオン大使館で保護されております。月面周回軌道上にコンスコン中将の第四艦隊が、後衛部隊にケラーネ中将の第三艦隊が、月面都市グラナダ市事態には非常脱出用のザンジバル改三隻と護衛役のゼク・アイン部隊をシーマ・ガラハウ中将が指揮しております。また、指揮系統はシーマ中将に一本化されているので問題は無いかと」父親として最も聞きたくて、ザビ家の軍人として最も聞けなかった事をこの二人の副官らは報告してきた。更に男の、旦那のニッキが言う。「ミネバ殿下にもドズル閣下が健在な事をお伝えしました。また、グワジン級のグレート・デギンには政府閣僚とギレン陛下が避難されております。現状におきましてはガーディアン・バンチとズム・シティ以外のバンチはほぼ無傷と言って良い状況ですから最悪の事態、コロニーが軌道を外れて月面に落下する様な事象は発生しないと推定します」そうか、ならばそれで良い。「なお、デラーズ大将指揮下の第二次ブリティッシュ作戦参加艦隊は5時間後に帰国し各地の軍港に入港、補修作業に入る予定です」そう言って報告は終わる。ジオン公国軍は最後の最後で大勝利に終わる筈だった戦いを、王手をかけていた局面を、盤上を絡めてでひっくり返された。結果、彼らはネオ・ジオンを名乗った叛逆者の軍隊と無駄に戦場でぶつかり合い、武器、弾薬、人命、艦艇、MS、物資を消費しただけである。しかも戦略目標である本国防衛にも失敗した。仮にタウ・リンが存在しなければ勝敗はもっと明確であり、より当然の結果に繋がっただろう。だが、タウ・リンと言う『ヌーベル・エゥーゴ』の存在は彼らの、ジオン公国とネオ・ジオン軍双方の計画を大きく覆した。この結果が今次会戦で大打撃を受けたジオン本国であり、決定的勝利の瞬間を逃さざるを得なかったデラーズ指揮下の艦隊であった。「わしを宇宙の晒し者にしたか・・・・・・・無念だ」エギーユ・デラーズは肩を震わせながら自室で涙をこぼしたと言う。宇宙世紀0096.02.25、この日、アクシズ要塞に迂回してWフィールドから入港したタウ・リン達は二つの視線に迎えられる。好意と感謝、そして敵意と嫉妬である。前者は敗北を感じ取っていた前線部隊、特にネオ・ジオン軍の一般兵の駆るMS部隊隊員に多く、後者はニュータイプ部隊として比較的後方でゼク・ツヴァイなどの敵機を一方的に撃破していたハマーン・カーン摂政派閥に多かった。そんな中、青いシナンジュでワザと観客たちの前で着陸して見せる。歓声が上がる。『俺たちはまだまだ戦える!!』『私たちは負けないのよ!!』これを外部モニターと外部マイクから聞いた自分は失笑した。戦闘データを見せてもらったが明らか宇宙のカンネーの戦いになっていたムンゾ宙域の会戦に参加して生き乗った癖にこれだ。(全く・・・・本気を出したジオン公国の艦隊相手にさえ勝てない連中がこの期に及んで一体何を言っているのか。ほんとに理解に苦しむ。それともこれはあれか? 麻薬でもやってる連中ばかばかりなのか? 今の現有戦力で300隻はいる地球連邦軍の大艦隊相手に勝てる訳ねェだろうに)まあ、それを顔に出すへまはしない。そして自分が用意した保険の方も。「そこの貴様、総帥らはどちらに?」努めて冷静に言う。こいつがハマーン派閥である保障が無いとは言えないからだ。が、杞憂だった様だな。こいつが俺を見る目は英雄を崇拝する若者と同じだ。年齢からしてアクシズ要塞で生まれ育った学徒動員兵だろう。「は、准将閣下にお会いできて光栄であります。総帥らは皆さま方第一会議室に御集まりです!!」分かった、ありがとう。そう言って水の入ったドリンクチューブを吸いながら進む。第一会議室は重力ブロックに存在しており、そうであるが故に若干気を付けなければならない。「タウ・リン特別査察官殿、入室します」入ってうんざりした。あの金と赤い色の髪をした好みじゃない女やバラを付けた騎士道が何たらとかいう男が睨んでくるし、双子の馬鹿に至ってはあからさまに警戒している。唯一、好意的な視線を向けているのはラカン・ダカランくらいだが、あとはハマーン・カーンと個人的に対立しているナナイ・ミゲル中佐か。(はぁ。全く、女を抱くなとは言わないが少しは後先考えて抱いて欲しいモノだ。赤い彗星殿。それにあんまり女を泣かせると息子と妻を解放する前に後ろから刺されるだろうよ。ああ、なんか赤い彗星を崇拝している大尉さんやティターンズに潰されたムラサメ研究所の亡命者もいるな)取り敢えずいつもの傲岸不遜な表情で笑う。「で、雁首揃えて俺のお出迎えなら・・・・・嬉しいが?」敢えて聞いてみるがあり得ないだろう。天地がひっくり返ってもあり得ない事だ。もしもそれだけ俺たち旧地球連邦軍出身者を厚遇してくれるならあの時の索敵命令に俺の艦隊を使う事は無かった筈だ。そう、ギラ・ズールだけで構成された有力部隊。それを全て失う危険性があったにも関わらず、自分達の面子を優先させた連中が、命を助けられた程度で靡くとも思えない。実際にこの雰囲気は歓迎と言うモノでは無かった。「超長距離からのミサイル攻撃とビーム攻撃を受けている。どうだろう?」マシュマー・セロとかいった中佐が言う。それにしてもハマーン・カーンの部下共は馬鹿なの集団なのか? まともな軍服を着ろよな。俺たちエゥーゴ派がジオン系統の人間ばかりのここで地球連邦型の軍服を着る訳にはいかないのは分かるが、仮にも軍隊を名乗るならジオン系統の軍服の1000や2000くらいあるだろうに。「どう、とは?」白を切る。どうせ碌でもない事を考え付いたのだろうから。「艦隊を出して追い払うべきだと私は思う。ハマーン様の為にも、な」(最後の一言が余計だ・・・・・こいつはムラサメ研究所型の強化人間だったが・・・・強化しすぎだぜ。馬鹿と鋏は使いようだが、狂人に凶器を持たせて人ごみに放置したらそれは単なる馬鹿だろうが!!)ハマーン・カーンを崇拝していたが故に、彼女の為に強化人間手術(自分の肉体強化系統とは違うサイコミュ・脳波コントロール系)を受けたハマーン・カーン派閥強硬派らしくここで要らぬ戦果を挙げた自分達と地球連邦軍をぶつけたいらしい。それがどういう事になるのかこいつは分かっていて言うのだから性質が悪い。もうこいつらには一手先しか読めないのだろう。「艦隊を出したらそれこそ格好の餌だろうに・・・・・敵艦隊の大半は所在不明。しかも攻撃している相手はあくまで傭兵部隊と偵察艦隊、ちがうか?」黙る面々。どうやら事実らしい。「ならば艦隊なぞ出さずにだ、アクシズ要塞の岩盤の強固さを信用してここで戦力の再編を行うべきだな。地球連邦軍の狙いは各個撃破だろう。こっちがムンゾ宙域で会戦をやらかした事は連中も知っているし、それで疲弊しているのも知っている。それが動かないのは単にジオン公国の政治的な混乱に対処します、各コロニーは保護します、守りますよ、って、アピールしているだけだ。となると、連中はそう遠くない未来に大攻勢に転じて来るだろう。それはお前さんらも分かっている。だったら余計なこと考えずにここの守備をどうするかを考えろ」そう言って水を飲みきる。最早、水さえも資源は貴重品だ。有益に利用しないと。それに冷凍睡眠から起こした兵士達にも幾つかの記憶障害や記憶混乱が見受けられている。それを考慮すれば兵士としては役に立たないだろう。だいたい強制冷凍睡眠とその解除などどう考えても脳に悪影響を及ぼすのは目に見えている。「あとな、敵艦隊はすぐそこまで来ていると言ったが、若しかしたらそうでは無いかも知れない。偵察部隊がもう存在しない俺たちには確認する術がないんだ。マシュマ―中佐、出たければ自分の艦隊で出撃すれば良いが死ぬ間際の最後まで油断するなよ、連中は動く時は一気呵成に動く。それが今の地球連邦軍だ」その後はアクシズ防衛計画の為の策定に入るも、たった一つの事象で彼らの考えを大きく打ち砕く。それは単純明快にして絶対の真理。『戦力の絶対数が足りない』この考え、というか悩みなのだが、ネオ・ジオン軍にとってみれば当然と言えば当然である。ジオン公国への電撃作戦だけならともかく、いまや人口増産とコロニー開発、地球緑化政策で120億人の人口を抱える超大国相手に精々15万人程度の宇宙要塞が勝てるわけがない。それなのに武装決起した彼らの行動は最早常軌を逸していると言って良かった。事実、先の敗戦で何故ジオン本国が最後に送ってきた恭順命令を黙殺してしまったのかと悔やむ者は多かったが、そのジオン公国の首都と防衛用コロニー本体にタウ・リン(ジオン本国や地球連邦から見ればネオ・ジオン軍)が攻撃した以上、投降しても重犯罪人扱いは確定している。加えて言えば、彼らジオン公国に取ってネオ・ジオン軍とは叛逆者であり、地球連邦政府にとっては今後100年の未来の大計画を邪魔するテロリストである。「ま、俺だったらこいつを叩くがね」そう言ってタウ・リンは一枚のCG写真を見せる。そこには超弩級空母ベクトラの竣工式の写真が載っていた。「狙いは敵宇宙艦隊司令長官とロンド・ベル艦隊司令官。やるなら最高の獲物だな。こいつを沈められたら話は変わるだろう」地球連邦軍は予想外の時間を潰されたがそれでも全軍の再配置を完了した。宇宙世紀0096.02.26日、地球連邦軍の第一連合艦隊から第四連合艦隊が順次各地の軍港から出港。再度の大攻勢作戦『あ一号作戦』の第15段階に移行した。アクシズ要塞を視認したのは0096.03.02の午前11時25分であるそれはつまり、地球連邦軍がその総力を挙げてネオ・ジオン軍を廃滅させるべく動き出したと言う事を意味している。「通信士、こちらは宇宙艦隊司令長官のエイパー・シナプス大将だ。各艦隊に通達したい事がある。通信回線を開いてくれ」ベクトラ戦闘用CICの総司令官専用席でシナプスが命令する。「各艦隊司令官らとのレーザー回線をつながります」そう言って、トーレス曹長が全ての艦隊と回線をつなげる。「どうぞ」電話式のマイクを渡す。「各艦に告ぐ。私は宇宙艦隊司令長官のエイパー・シナプスである。各艦隊は当初の予定通り作戦を決行する。本作戦の成否によって次の宇宙世紀100年が決まるだろう。それを肝に銘じ、皆の生還を期待するや切である。何か質問はあるか・・・・・・よろしい、これより我が軍は地球連邦宇宙艦隊の威信をかけてネオ・ジオン軍を掃討する!!全艦隊砲撃雷撃戦用意、MS隊発艦準備、敵機雷原に向けて対機雷除用核弾頭ミサイル発射せよ!!」シナプスの命令が下る。それはネオ・ジオン軍の必死で用意した対艦隊用機雷群を戦術核弾頭で掃討するという事実であった。一斉に各バーミンガム級、マゼラン改級、クラップ級、ラー・カイラム級から放たれる核兵器の群。それは大した妨害も無く、一斉に着弾。近接信管が作動し人工の太陽生み出していく。数千の閃光を宇宙に創造した。「続いて第二波、通常多段式弾頭ミサイル。各艦はメガ粒子砲斉射三連を30分かける。その後はMS隊発進の為にアクシズ要塞に向けて砲火を集中させつつ前進する。第一連合艦隊は主要港のあるNフィールドへ、第二連合艦隊はSフィールド、第三連合艦隊はWフィールドへ進入せよ。偵察艦隊も各ハイザック部隊発艦。被弾し後退する友軍部隊を掩護せよ。なお、クロスボーン・バンガード所属各艦はブライト・ノア中将の指揮下に入るように。これは命令である。全軍前進!!」数えるのも馬鹿馬鹿しい程のミサイルがネオ・ジオン軍を襲う。数えるのも馬鹿馬鹿しい程のビームの嵐がアクシズ要塞に被弾する。今まさに、地球連邦という無慈悲な神の鉄槌が下されたのだった。それをベクトラの巨大CICで冷静に見るエイパー・シナプス大将既にロンド・ベル艦隊の指揮の為に動き出したブライト・ノア中将を尻目にだ。「反撃は微弱だな・・・・・情報部の報告通りだが・・・・・他の艦隊はどうか?」極めて冷静な反応。これは既に戦争では無かった。一方的な虐殺である。そのネオ・ジオンと地球連邦軍『あ一号作戦参加部隊』の戦力比は計測不能である。だがそうだからこそ、彼は冷徹に振る舞う。指揮官が相手に情けを見せては誰かを殺す可能性が出てくるのだ。(敵兵1000名の命よりも部下1人の命の方が遥かに重い。それが指揮官となって部下を率いる者の務めだ)指揮官の動揺が部下を殺す事を彼は、エイパー・シナプスは経験則で知っているのだから。だからこそ、あのやんちゃな坊や、マーセナス家の事しか頭にない様な坊やをグリプスにおいてきたのだから。彼の身勝手さで彼の部下らを殺させないために。「ブライト提督、シナプス総司令官、順次砲撃を強化中。敵の抵抗微弱」トーレス曹長が言う。(ふむ、この戦力差ならばグリプス要塞での会議通り・・・・・戦前の予想通りか)艦隊と要塞が撃ち合えば結果的に要塞が勝つと言われているがそれは三次元行動を取れない海上での事。こと、宇宙要塞攻防戦に関しては三次元戦闘を取れる艦隊の方が若干ではあるが優位に立てるのだ。しかもビームと違って慣性の法則や抵抗が無い宇宙ではミサイルは撃墜するか回避するかしない限り迎撃は困難である。「砲撃の手を緩めるな。砲撃は当初の予定に加えて更に1時間続ける。その後は敵の反撃を見ながら臨機応変に艦隊ごとに対応せよ。また、偵察艦隊は敵艦隊の動向を随時各艦に伝達。敵MS隊や敵艦隊が無効化された時点でこちらもMS隊によるアクシズ要塞への強襲揚陸戦闘をしかける。第四連合艦隊はそのつもりで後方に待機。補給船団は弾薬とエネルギー、推進剤、冷却剤の補給作業を確実かつ急がせる事。MS隊はいつでも発艦できるように。対ミサイルデコイ並びピケット用無人偵察艇を前面に展開。各艦隊にも同様の命令を通達。あとは各艦隊司令官の判断に任せる、そう伝えろ」そう言い着るシナプス大将。その命令は各方面から猛攻を仕掛ける各艦隊司令官に通達された。圧倒的な大火力で敵軍を崩壊に導く地球連邦宇宙艦隊の大砲撃。これに加えてミサイルも最新式の多弾頭ミサイルである。ミノフスキー粒子の登場でミサイルがロケット弾とさして変わらない現状を憂いた一部の開発陣が発想を転換。ミサイルが一発では命中しないならそのミサイルの本数自体を増やせばよいと言う結論に達した。が、結局は一年戦争でMSが決定的な存在となってしまった為にそれは無くなったのだが。それでも対要塞攻撃用ミサイルとしての有効であると判断した地球連邦軍はこれを採用。宇宙軍にも配備される。ただ最大の誤算はこれを使う機会が無くなってしまった事だろう。ジオン公国との同盟国化がその最大の要因である。そう、このアクシズ要塞攻略作戦という例外中の例外以外では。「各艦、残弾は気にするな、補給部隊が後方にいる限り問題は無い!! 砲撃を強化しろ!!」ブライト・ノア中将が指揮下のロンド・ベル艦隊を激励する。その言葉に奮起するがごとく攻撃を強める各艦隊。「ふーむ、これではなぶり殺しになるな。一方的だ・・・・・ネオ・ジオン軍め、何を考えている?」反撃は微々たるもの。とても強固な岩盤要塞に立て籠もっているとは思えない程に微々たる反撃である。そうであるからこそ、シナプス大将は懸念する。わざわざ外洋決戦まで行ったネオ・ジオン軍の動きが妙であった。まるで自分達を誘っているかのように。それでもシナプス大将指揮下の四つの連合艦隊は攻撃の手を休める事は無かった。その攻撃は当初の60分を更に延長して180分に及ぶことになる。「時間だな・・・・・いくら交代制とはいえ気分が弛緩する者も出てきましょう。シナプス閣下、MS隊はどうします?」ブライト中将が聞いてくる。各艦隊の直援機は確かに各艦隊司令官の指揮権が優先されるが、攻撃部隊は別だ。これだけ一方的な展開になるとネオ・ジオン艦隊の主力は宇宙港の奥深くか岩盤を利用した防空壕とでもいうべき場所に逃げ込んでいると考えるのが妥当。「そうだな、今しばらくはMS隊は待機命令を。第一警戒令で三交代制をとり攻撃終了までは士官室などで待機。アルコールは許さんがチョコや喫煙程度なら許可する」宇宙世紀0096.03.02の12時15分きっかりに開始された地球連邦軍の総攻撃。ネオ・ジオン軍は本拠地であるアクシズ要塞に立て籠もるしかなかったのか?結論から言えばそうである。後世に『ムンゾ戦役』と呼ばれる戦いでネオ・ジオンは正直に言えば再起不可能なほどの大打撃を受けている。参加したエンドラ級6隻で編成された三個任務部隊は全て壊滅し、ハマーン・カーン親衛隊も半数の艦艇を損失した。唯一、戦力として数えられるのは比較的後方宙域に展開していたシャア総帥親衛隊の艦隊のみであった。結果的にタウ・リンのエゥーゴ派の間接支援攻撃(もちろん、この攻撃がジオン本国の世論を反ネオ・ジオンとして完全に硬化させたのは否めない)が無ければ壊滅していた。そうであるが故に、違うか、そうであるからこそか、ネオ・ジオンは時間を欲していた。「敵は時間を欲している、間違いないな」これはパプテマス・シロッコ少将の独白として記録に残っている。だが、戦争で敵が舞ってくれる事など無い。ネオ・ジオンは戦力再編の為に最低でも一か月は時間を欲しており、それが叶う環境では無かったと言うのが現実だった。「そろそろだな・・・・偵察艦隊からも敵の迂回部隊は現れてない。ならば敵軍の抵抗微弱は本物。よろしい、これより全艦隊に敵防空圏への侵入命令をかける」そう命令するシナプス大将。宇宙世紀0096.02.25の午後3時17分。地球連邦軍第一連合艦隊を中心とした第一次攻撃隊が三方向からアクシズ要塞に迫る。圧倒的MSの大軍を発艦させる地球連邦軍の艦隊。タウ・リンはそれを見て思った。この戦は負けだ、と。最早勝ち目はない、ならば成すべき事は少ないだろう。そう感じる。「司令官、敵MS隊の展開を確認・・・・・・・主力攻撃部隊と思われるNフィールドに300機、Sフィールドに250機、陽動と思えますが・・・・・それでもWフィールドに200機を確認。更に敵艦隊は後方の空母部隊からMS隊を回しているようで護衛に最低でも各連合艦隊に150機はいます」全く信じられん物量差だ。これで抵抗運動するのだから頭がいかれているのだ。あのネオ・ジオンの連中は。「・・・・・・各ギラ・ズール部隊発艦だ。とりあえず戦って見せないと生きても帰れん」そう言って全部隊に発艦命令が下る。MS隊を発艦させる各艦、各任務部隊、更にはガザDやガザEなどの機体も隠されていたMS発進口から発進する。数はおよそ80機、あるだけのガザEとガザD、ガザCを出したが・・・・それでも圧倒的な艦砲射撃の前に直ぐに20機から30機前後が撃ち落とされる。「素人の冷凍睡眠状態から何もわからないパイロットを戦線に投入して何になるのかってあんだけいっただろうに!!」タウ・リンの参謀の一人は思わず毒を吐く。それでも彼らの部隊も、横にいるネオ・ジオン主力艦隊も反撃し、ビームを、ミサイルを撃つ。自らが一分でも一秒でも長く生き残るために。「敵艦隊と交戦状態に入りました・・・・・・・総帥、こちらの方が劣勢の様です」ハマーンからそう言われる。そうだろうな、先の戦役では何とか互角に近い戦闘が出来たが今回は別だろう。例えこのアクシズ要塞という地の利があっても勝てまい。ならばパラオ要塞まで退避すると言う方法もあるが、そうなれば単に敵と戦う場所が変わるだけの上、内部崩壊の可能性も出てくる。故にシャア・アズナブルにもハマーン・カーンにも危険を承知で、劣勢を覚悟の上でこのアクシズ要塞にて敵を迎え撃つと言う選択肢以外は無かった。「そうか・・・・・MS隊は?」接触まであと3分。「よーし、サザビーも出すぞ、各機ファンネルを使え!! 敵にはサイコミュ兵器への有力な防御手段は無い!!!敵は我々とも違いオールドタイプの寄せ集めだけだ。ニュータイプである我らならば勝てるぞ!!」「我々にはジオン・ズム・ダイクンの加護とニュータイプの力がある!! 皆私達に続け!!」シャア・アズナブルもハマーン・カーンも最早信じても無い事を言う。第一、彼らが切り札にしているサイコミュが実戦に投入されたのはもう16年も前だ。しかも地球連邦はジオン独立戦争と水天の涙戦争でサイコミュ兵器『ビット』と『ファンネル』の効力を実感している。それが何の対策も無しに突っ込んでくるはずはない。必ずや対応策を考えて来るだろう。ニュータイプ以前の話だ。「サザビー出る!!」赤い彗星が宇宙に舞う。「シナンジュ、発艦する!!」ハマーン・カーンの白い優雅さを持った機体が虚空を切り裂く。数日前から送り込んでいた偵察艦隊(先遣艦隊)のハイザックの偵察によると敵艦隊の位置はアクシズ要塞の後方奥深くとの事でありMA形態のZ部隊を攻撃させるのは孤立の危険性が高いと判断。先に露払いをするべくジェガン部隊を送りこんで掃除する事を決定する地球連邦軍。三方向から接近する700機を超すMS隊に対して有効的な打撃戦力として数えられるのは『ムンゾ戦役』生き残り部隊の150機前後のギラ・シリーズだけ。それも殆どの機体を艦隊防空に回さないという条件付き。ならば艦隊は最初から後方(そんな場所がネオ・ジオンにあればの話だが)に置く。そして攻撃に転じて来る地球連邦軍のMS隊を撃破する事だけを考慮する事が大切であると判断し、そうした計画を立てた。だが、それは消耗戦でもある。ネオ・ジオンは既に勝機と正気を完全に逸していたと言えた。「なるほど、あれが敵艦隊か・・・・うん、ギラ・ドーガが7機に、ギラ・ズールが3機か。こいつは叩き甲斐がありそうだ」そう言うのは『ガンダムバンシィ』のパイロットに選ばれたゼロ・ムラサメ中尉。ターゲットをロックオンする。バンシィの光学センサーとサイコ・フレームの共振現象によって敵機を完全に補足した。「まず一機目だ!!」そう言ってビーム・マグナムの異名を取る強化ビームライフルを放つ。回避できなかったギラ・ズールが爆散した。「続いて二機目!!」即座に散開するギラ・ズールに照準を合わせる。散開するもバンシィのコンピュータの照準補足処理速度の方が早かった。ロックオン完了の音がコクピットになる。「は、こいつで終わりだ!!」ビーム・マグナムを放つ。その二機目は何とか回避しようとしたがビームが掠り、そのまま爆散した。漸く射程圏内に入ろうとしたギラ・ズールがビームマシンガンを撃つも、それもIフィールド内蔵シールドで受け止めてビーム・マグナムを放つ。「三機目!!」言うが早いか、爆発が早いか、そのまま三機目のギラ・ズールもまた爆散。恐らく一個小隊を形成していただろうギラ・ズールはこの時点で消滅した。「次の獲物に行くとするか!」そこにあるのは絶対的な力を持った狩人の、捕食者の目だった。と、数機のギラ・ドーガが散開する。一部は盾を捨ててビームトマホークを構えて接近戦を仕掛ける。「へぇ・・・・この俺と一対一で殺し合いたいとは・・・・・良い覚悟だ!!」バンシィのビーム・マグナムを一度シールドに固定して、右肩のビームサーベルを引き抜く。「落ちな!!」そう言って、相手のギラ・ドーガにビームを横なぎにぶつけた。何とか回避する敵。だがそれが面白いと感じるゼロ。更に今度は縦一文字切りでギラ・ドーガを切りつける。何とかこれもビームトマホークの刃の部分で受け止めるがパイロットの思考が分かった。焦っている。「この感じは女?・・・・・しまった!?」この時包囲網は完成していた。隊長機である自分を囮に使ったオレンジのギラ・ドーガは周囲に11機の同僚たちを、或は部下を展開させて電磁兵器でバンシィを鹵獲せんとする。「ふ、やってくれた!!」その意図を察したゼロは一旦距離をとり、バルカンで敵のモノアイを潰す。急加速で敵コクピットにビームサーベルを突き刺す。それを見た周囲の機体の気配が冷静から激昂に代わった事がニュータイプの紛い物の自分にもわかった。だが、それも計算の内。「悪いが・・・・・・俺が単独だって一体誰がいつ言ったかな?」その言葉を発すると同時に、周囲にいた南側の4機のギラ・ドーガが相次いで撃破される。出現したのはRX-0の一号機、ガンダムユニコーン。完全にガンダムモードで展開している。「青い死神、ユウ・カジマ大佐か、やれやれ少し前に出すぎですか?」10回も戦って10回とも大敗した(付き合っている女の子レイラの前で)すれば大人しくもなるゼロ。その意見を無視するかの如く、一年戦争以来の地球連邦軍トップガンは冷徹にギラ・ドーガを狩っていく。更に4機のギラ・ドーガが撃破されるのを確認する。正確な射撃だ、そして一気に敵機と距離を詰めてビームサーベルで貫通し、両断する。彼が一年戦争時代に『青い死神』と呼ばれたのも納得できる。あれは機体性能のお蔭では無い。純粋にパイロットの技量のお蔭であった。「さてと、見学していても作戦通りに行っても囮だけで終わるのもつまらないからな・・・・もらった!!」ビーム・マグナムを発射する二号機のバンシィ。そしてそれを盾で受け止め、盾諸共に機体を貫通させられるギラ・ドーガ。残り、三機、いや、いつの間にかユウが仕留めたのか残りは一機。「あんたで最後だ!!」ゼロの言葉と共に放たれたビーム・マグナムの直撃によってこの宙域に侵入したギラ・ドーガとギラ・ズールの部隊は壊滅した。それは攻撃部隊の25%が何も出来ずにたった二機のMS相手に5分弱で壊滅してしまった事を意味する。「ゼロ、聞こえるか?」ミノフスキー粒子があるから接触回線を使って回線を開く。「はいはい、聞こえますよ大佐。で、後続を待ちますか?」目の前に明らかに突出しているエンドラ級が二隻居る。欲を言えばこれも沈めてしまいたいがきっと目の前の大佐は慎重派だから駄目だろう、そう思っていたら違った。「いや、このまま勢いに乗る。お前は左舷の、俺は右舷のエンドラ級を沈める。一度沈めたらアムロ中佐らにこの宙域を任せて帰還しよう。何、味方はたくさんいるのだ。それ位は任せても大丈夫だ」そう言って機体を加速させる。エンドラ級は悪らかに狼狽しており迎撃機には不向きのズサがミサイルで攻撃するも全て回避。或いはバルカンで破壊。空薬莢が宇宙空間に排出されるが構わずにユウ・カジマ大佐のユニコーンはビーム・マグナムを10発も撃ち込んだ。こっちも12発のビーム充電用マガジン一セットを使い切ったから人の事は言えないが。護衛のズサ数機と共にエンドラ級が轟沈。ネオ・ジオンの防空圏に大穴があく。「さてと、後はZ部隊と白い悪魔に任せるか」そう言いながら付近にいたガザDを両断するユニコーン。更に数機のガザCがビームを放つがこちらのIフィールド搭載式シールドに阻まれて有効打とはならない。一機一機確認して撃墜した。どうやら素人らしく、更に数機が追ってきたが後続のジェガン隊に30対6で包囲されて撃破されてしまう。「こちらUC-01、任務完了、敵攻撃部隊の掃討並びに護衛艦の撃沈に成功。GP-03部隊の投入可能と判断する。なお、一度UC-02共に帰還する。後続部隊は敵機の掃討を行え。何、焦るな。味方は一杯いるからな」そして、それはロンド・ベル艦隊から更なる災厄をネオ・ジオンにプレゼントする切っ掛けとなる。旗艦ベクトラでは各戦線の情報処理が余裕を持って行われていた。光学センサーだけであるにもかかわらず、その処理速度は速い。従来の大型戦艦の情報処理速度とは大違いであった。流石は地球連邦軍の宇宙艦隊総旗艦である。『GP-03投入可能』その報告が部下からあげられる。各地の戦線でもジェガン隊は敵機を駆逐している。特にムンゾ宙域でジオン軍とやり合った後遺症が残っているようでギラ・ドーガやギラ・ズールと言う彼らの主力機体だが数は多いが性能通りの活躍が出来てない。もっとも、最低でも12対3という状況で嬲り殺しに近い以上、これを覆すのは困難だと言えた。今もまた、接近してきたドライセン12機がニューガンダムを中心とした部隊に捕捉された。「アムロ・・・・失礼、ニューガンダムのレイ中佐が向かい、護衛のジェガン部隊も48機いる以上、勝利は確実です。後は敵の掃討が早いか遅いかだけ」ブライト中将も余裕の態度を崩さない。この戦力差を挽回するだけの方法などあるだろうか?「そうだな、ウラキ大尉のGP-03を尖兵としてZ部隊を発艦させよ。これよりロンド・ベル艦隊全艦は高速機動戦闘に移行する。メガ粒子砲を中心とした砲塔は仰角20度で砲撃、各機は仰角10度で侵入アクシズ要塞近郊に確認できた敵艦隊を撃滅せよ!!」後方のコロンブル改から地球連邦軍唯一のMAが発艦する。そして直後に多数のラー・カイラム級惑星間航行大型戦艦とクラップ級惑星間航行巡洋艦、超弩級空母ベクトラから多数のZ部隊が発進した。「これで終わりかな?」タクナ少尉はぼそりと呟いた。それを聞き咎めたのはラナフ・ギャリオット査察官。ティターンズ長官直轄の文官であり、何かとタクナにアプローチをかけてくる女性。タクナを酔い潰して肉体関係まで結んだ以上、タクナ少尉が交際関係に陥るのは時間の問題と言うのが艦橋乗組員と同じくティターンズ査察官らの暗黙の了解。「まだ分かりません。敵軍にはニュータイプ部隊が存在します。こちらのZ部隊がどれほどまでこれに対抗できるかで効果が決まります」コウ・ウラキ大尉のGP-03は目標を視認する。Z部隊でさえついて行けない高加速で一撃離脱をかけようとする大型MA形式のガンダムにネオ・ジオン総帥親衛隊艦隊からレーザー砲の歓迎が行われた。またあの大砲撃の中で奇跡的に残存しているアクシズ要塞のビーム砲も攻撃する。が、地球連邦軍がノイエ・ジールのデータを元に開発した新型MAのIフィールドは強固であった。ほとんどのビームは拡散され有効弾とはならない。ほとんどのレーザーは正面装甲の対ビームコーティング耐熱使用の装甲に弾かれて意味をなさない。そして今まさに、ロックオンする。「まず一隻目!!」コウ・ウラキの言葉と同時にGP-03の砲口が、いや、咆哮が宇宙に響き渡る。この一撃を受けたムサカ級9番艦は8番艦を道連れに轟沈。更に破片がアクシズ要塞に降り注いだ。「次はこれだぁぁぁ!!!」続いてミサイルポッドを射出。護衛のギラ・ドーガやギラ・ズールの群に七つの大型ミサイルコンテナが突入し、そこから1000発近い有線誘導式ミサイルが発射。それを回避するべくギラ・ドーガらが散開するも一気に8機の機体を損失した。ズサとガルスJも合計で7機喪失。だが、ネオ・ジオンの軍の悪夢はそこで終わらない。後世、『ムンゾ戦役』と呼ばれるジオン公国軍との会戦で予備兵力のほぼすべてを喪失しており、残存兵力も大半が整備不良であるネオ・ジオンにとって完全な状態で攻撃に転じてきた地球連邦軍程厄介な存在は無かった。「こちらコウ・ウラキ、続いて敵11番艦と12番艦を攻撃する!!」彼の突貫!! という言葉と共に大型ビームサーベルがムサカ級を横に切断する。さらにもう片手で大型メガ粒子砲を操作して左手前の艦を撃沈する。ネオ・ジオン親衛隊艦隊は総旗艦であるレウルーラの護衛艦4隻を僅か4分弱で損失。さらに接近してきたZプラス部隊が対艦ミサイルを一斉射撃する事で4隻のムサカ級重巡洋艦を失った。「止めだ!!」爆道索を使って最後のムサカ一隻に爆弾を絡めるGP-03。これを迎え撃たんとするがそれを妨害するZプラス部隊。彼らは可変機構を利用してMS形態に変形、周囲のギラ・ズールやギラ・ドーガを駆逐しだしていた。その勢いは既にZプラスが10でギラ・ドーガやギラ・ズールが1と言う劣勢下にあり、ネオ・ジオンの挽回は不可能と思われている。ネオ・ジオン軍が一方的ながらも防衛線をしいていたNフィールドだが、他の方はどうなっていたのか?答えは冷酷で簡単。単なる虐殺が繰り広げられていた。これは戦争の常識なのだが、当然ながら旧式兵器の攻撃に耐えられるように新型兵器は製作される。それを第二連合艦隊のジェガン部隊相手にザクⅡF2型やガルバルディα、ゲルググのザクマシンガン装備機体ではジェガンを撃破する事は愚か傷をつける事も難しい。そもそも89年に地球連邦軍は向こう30年は使用できる機体を求めた。それがRGM-89ジェガンだった。それを一年戦争時代の旧式機体で撃破しようと言う事自体がおこがましい。「ははは、ザクⅠだって!? こいつはいい鴨がいったぞ!!」「見ろよ、リック・ドム撃墜!! これでエースだ!!」「そんな雑魚相手に誇るなよ!!」「あんたたち、仕事しなさいよ!!」「これであたしも!!」「ゲルググなんて骨董品・・・・・いただきます!!」既に物量差が60機対220機から始まり性能差も加わって既に敵の防空圏は瓦解。これが初陣のパイロットにとってはこれ程までに戦いやすい戦闘は無かったとトッシュ・クレイ大佐は後に赴任するエコール士官学校の戦術論で述べている。同様にストール・マニングスが担当する方面も敵機は残りわずかで撃墜されたジェガン部隊など両手の指で数えられる程だ。勝利が見えて来たのか各部隊が余裕の行動を取る。それは事実であり、そして、ネオ・ジオンの断末魔の象徴となる瞬間が訪れた。Nフィールド上空から敵部隊を回避した3機のZガンダムがネオ・ジオンの防空圏を急降下爆撃の要領で降下。一斉に気が付いたギラ・ドーガ三機をビームライフルで頭部から胸部にかけて貫通し撃墜。そのまま一気にネオ・ジオンのハマーン・カーン摂政指揮下のサダラーンに攻撃を加える。「あれだ!! カミーユ!!」「大尉!!! 敵旗艦の一隻です!!」「フォウ、アスナ、やるぞ!! アローフォーメーション!!!」フォウとアスナが変形するのとほぼ同時に自分もメガバズーカランチャーを構えた。「アンタに恨みは無い・・・・だけどあたしとカミーユの為だ。悪いけど・・・・・沈んでもらう!!」「ごめんなさい!!!」「争いを生んだ源め!! お前たちだけは!!」三者三様の一方的な言い方で三機からメガバズーカランチャーが放たれる。その閃光は総計で14本にもおよび、艦橋を、MSデッキを、主砲を、副砲を、エンジンを、居住ブロックを、その他のありとあらゆる場所を貫通された。ハマーン・カーンの旗艦として貴重なアクシズの資源を浪費して建造されたサダラーンは断末魔の名を上げて1000名近い乗員諸共宇宙のゴミになる。更に一撃離脱モード、つまりMA形態になった三機はそのまま護衛のエンドラ級巡洋艦二隻を沈めると一度ベクトラに帰投するべく帰投コースに乗った。代わりに対艦攻撃装備の第二次攻撃部隊が侵入する。それは旧式ムサイ級軽巡洋艦やチベ級重巡洋艦で構成された第四任務部隊に引導を渡す最後の部隊となるだろう。「!? アスナ、カミーユ、後ろから何か来る!!」フォウの言葉に360度モニターで後方を確認する。「何!? Zにロックオンだって!?」その言葉と同時にカミーユは機体を急減速させた上で変形すると言う一番整備兵がやるなと言っていた事をやった。だがそのお蔭でファンネルの攻撃を回避した。「あれはヤクト・ドーガか?」機体照合をかける。カミーユらエースらに与えられた一年戦争と水天の涙紛争時の戦闘データを収録した戦闘サポート用OS『ハロ』が判別する。傍らにはギラ・ドーガの重装備タイプと名付けられた機体が居た。こちらに砲口を向けている。『アスナ!!』国際救難チャンネルでこちらに呼びかける機体。まさか知り合いか?「アスナ少尉、知っているのか?」カミーユの問いに答えず、アスナは機体を変形させた。そのままウェーブライダーモードでヤクト・ドーガに接近する。シールド内臓の四門のメガ粒子砲がZ三号機に放たれるがそれを紙一重で回避する地球連邦所属のアスナ機。ファンネルを使おうとした機体をフォウとカミーユがファンネルを落とす。この点はサイコ・フレームとニュータイプ能力を持った兵士ならではの実力だった。「エリシア!!」宇宙世紀0088、水天の涙紛争時に母親を人質に取られた為、アクシズ経由でシャア・アズナブル率いるエゥーゴの一士官として第13次地球軌道会戦に参加したアスナ・エルマリートはそこで地獄を見た。圧倒的多数で迫りくる敵、敵、敵。更には新型機ネモなどを惜しげも無く投入してくる地球連邦軍の圧力。結果、彼女の乗ったリック・ディアスは捕獲され、彼女自身もロンド・ベル部隊の捕虜となる。その後、情緒酌量の余地ありと判断された彼女はティターンズの地上用MSのアグレッサー部隊のテストパイロットとして配属される予定、だった。ギニアス・サハリンによる『ムラサメ研究所告発事件』が発生するまでは。ムラサメ研究所が非人道的な強化人間開発プログラムを行っていた事、それを兵士らの同意なく実施していた事、更には副所長ギニアス・サハリン技術少将と所長との間に完全な確執が存在した事が契機となり、ギニアス・サハリンはマス・メディアを利用した政敵排除に乗り出した。この結果、ムラサメ研究所の研究対象だった強化人間生産計画は凍結、廃止された。特にリベラル派を自認していたゴールドマン政権にとってムラサメ研究所事件は格好の的であった。政権の支持率向上という方法にも合致した。そしてアスナは地球連邦に残った貴重なニュータイプ兵士としてロンド・ベルに配属された。一方で当時ムラサメ研究所にいた強化人間らはどうなったか? それは悲劇であった。彼ら研究所に取ってゴールドマン首相らの政治的意図から出た一方的な強制逮捕命令は寝耳に水であり、混乱した彼らはありったけの資料と『被検体』を持ち出した。加えて何故か、たまたま入港していたティターンズのフォルマ・ガードナーがアクシズ陣営と手を結び、彼女ら、エリシア・ノクトンやロザミア・バダムを引き連れて宇宙に逃げ出した。当時0089は第二次朝鮮戦争と極東州再併合計画や難民問題、ケンブリッジ暗殺未遂事件などで地球各地の情報網が地球に集中していた事、まさか身内のティターンズから裏切り者が出るとは思って無かった事から彼らの脱走は上手くいく。その後は一体どうやって伝手を作っていたのか、タウ・リンらと合流してアクシズに逃げ込んだ。そして、かつての同僚は、友人はまがまがしい殺気を出している。「あれは私がやります!! やらせてください!!!」仮にひとつ歯車が違えば、今のエリシアの立場は自分だったと言う事をアスナは誰よりも理解している。そしてティターンズの部隊が母親を助けてくれなければ自分はここに存在しなかった事も。「アスナ!?」「少尉!!」ここは遊び場じゃないんだぞ!!!カミーユ・ビダンの声に反応したがアスナは無視してヤクト・ドーガに接近する。「エリシア!!」それをみて嬉しそうにビームサーベルを引き抜く。ライフルを捨てた。ならばこちらも。ビームライフルを片付けてビームサーベルを抜刀する。双方が接近する。上下になって互いにビームサーベルがぶつかり合う。何度も何度も。「あははは。やる!! さっき落とした雑魚とは桁が違う!!! それでこそ私のライバルですわ!! アスナ!!!」そういって両機のビームサーベルが鍔迫り合いを起こす。これに割って入ろうとする二機のZガンダムをヤハギの駆るギラ・ドーガが捨て身覚悟で、否、自らの命と引き換えに足止めする。「アスナとエリシアの邪魔はさせん!!」あの日、フォルマの甘言と脅迫で多くの生徒たちがアクシズに連れ去られた。自分だけなら逃げ出す事も出来たがエリシアやシンなどの生徒を見捨てる事だけは出来なかった。それが仇となった時が付いたのはネオ・ジオンを名乗ってアクシズがエゥーゴ残党軍と共に動き出した時だ。エゥーゴ残党軍もアクシズも地球連邦は当然の事としてジオン公国や各地の駐留艦隊にさえ勝利できるか怪しかった。なのにシャア・アズナブルは無謀にも両国に、つまりは地球圏全域に対して宣戦を布告。しかも宣戦布告前にサイド1を襲撃する事で地球連邦やジオン公国、各サイドの危機感を徒に煽ったと言って良かった。「俺は間違っている!! 分かってはいる!! だがそれでも!!!」散弾を撃つ。相手が高速で移動するZガンダムなら散弾は馬鹿にならない威力を持つのだ。デブリの中に突っ込むのと同様である。故にこう言った砲撃が役立つ。「く!! 右か!」伊達にジオン初期のニュータイプ部隊の指導教官をしてない。まだ何とか回避だけは出来る。赤紫と白のZガンダムの放ったビームがシールド表面を溶かす。更に青と白と赤のZガンダムの放つビームが来る。「そう長くはもたないぞ、二人とも!!」どっちに勝ってほしいのか、それとも両方とも死んでほしいのかもう彼にも分からなかった。シンたちはエリシアの前で彼女の盾になってムンゾ宙域で死んでいる。それが彼女に、エリシアにアスナ憎しの感情を強めている。まして最後に思ったのがエリシア・ノクトンではなく、アスナ・エルマリートだったのだから。そうした中で、ファンネルを失ったヤクト・ドーガだが、技量は互角だった。咄嗟に、操縦桿を引き、距離を取るエリシアのヤクト・ドーガ。一瞬の、ほんの数メートルの差でかわされるビームサーベルの刃。と、ビームサーベルを持ち替えたヤクト・ドーガがアスナのZガンダムに向けて光の切っ先を向けて突きを繰り出す。だが、それを左足の足の裏を犠牲にする事で防御するアスナ。と、勢いをつけてそのまま両でのビームサーベルをヤクト・ドーガに振り下ろす。ヤクト・ドーガは回避しようとしたが足に突き刺さったビームサーベルが数秒の間邪魔をする。その数秒が明暗を分けた。咄嗟にシールドのメガ粒子砲を構えたが遅い。早かったのはアスナの駆るZガンダムであり、遅かったのはエリシアの使うヤクト・ドーガであった。「エリシア・・・・・・・・・ごめん!!!」ビームサーベルがヤクト・ドーガの両腕の肘から下の部分と両足の膝から下の部分を切り裂く。バラバラにされた四肢が宇宙を舞う。それは勝敗が決した事意味した。「私が・・・・・アスナさんに・・・・・・・・ま、負けた? そんな・・・・そんな筈が・・・・・こんな馬鹿な事が・・・・・あって」放心する彼女とその機体。「彼女をベクトラに連れて行きます。良いでしょう?」そう言うアスナ。断る理由も無い。問題は目の前の散弾ばかり使って高速機動をさせてくれないいやらしいギラ・ドーガ重装備型だが、二機のMSの決闘の決着がついた途端に全ての武器をパージした。『降伏する。俺はともかく、強化人間にされたヤクト・ドーガに乗っている彼女の保護を頼みたい』接触回線でそう伝える。と、第二次攻撃隊が撤収してきた様だ。この間は凡そ10分前後。だが、この時点でネオ・ジオンの受けた損害は甚大という言葉をとっくの昔に越しており既に戦力と言えるものは殆ど無くなっていた。第四任務部隊のムサイ級は18隻が、チベ級も6隻が沈み、ザンジバル級も2隻やられている。「カミーユ・ビダン大尉の裁量で降伏を認める。だがまだ信用した訳じゃない。両手を上げてこのまま先に行け」そういって後ろからビームライフルで脅しながらギラ・ドーガとヤクト・ドーガをベクトラに着艦させる。流石にネオ・ジオンの最新鋭機の一つであるヤクト・ドーガには整備の面々も興味津々なのか、整備班長であるアストナージ少佐自らがきた。そして、ハンガーに自分のZを固定したアスナはエリシアの乗る機体に駆け寄る。「大丈夫?」そういって機体のコクピットハッチを解放する。そこには緑色の女性のラインを出した独特のノーマルスーツを着た女性、かつてのエコールで共に学んだエリシアの姿があった。そして彼女の目が開かれる。「・・・・・・良かった」ああは言っても同僚と、友人と殺し会う程に彼女の、『アスナ・エルマリート』の精神は頑強では無いし盲目的でもない。だが、残念ながら相手もそうだとは限らない。まして相手は条件付けされた強化人間だった。数名の艦内警備のエコーズ(ベクトラ内部のクーデター発生防止の為)が自動小銃を突き付けていた。中にはオブザーバーとして同じく連れて来られたネオ・ジオンのノーマルスーツを着たヤハギ少佐の姿もあった。そしてエリシア・ノクトンは見た。自分が恋い焦がれ、自分から全てを奪った、愛しくも憎たらしい存在の姿を。「エリシア!?」何をしているのか、良く分からなかった。エリシア・ノクトンが私に向けて拳銃を向けている。慌てて自動小銃を構える兵士達。だが、遅い。「死ね!! アスナ!!!」彼女は足に装備していた拳銃でアスナを撃つ。腹部に直撃を受けてそのまま反動で反対側に吹き飛ばされるアスナ・エルマリート。「や、やめろ!!!」ヤハギ教官の声がした。それと同時に複数の銃声がMSハンガーデッキ内部に木霊する。鮮血が飛び散るのを薄れゆく意識の中で、腹部に三発の銃弾を受けた女性は見た。笑いながら胸を撃ち抜かれて絶命していく友人だった存在を。宇宙世紀0096.03.0の午後2時4分、一人の強化人間『エリシア・ノクトン』がこの世を去った。それから10分もしないうちに、同じく『アスナ・エルマリート』も治療の甲斐なくこの世を去る。最後の最後で彼女らの軌跡は最悪の形で交わる事になり、捕虜となった一人のギラ・ドーガのパイロットも戦闘終了後に自決死体で見つかる事になる。「これで終わりか」アムロ・レイ中佐のニューガンダムは攻撃に転じていた15機のドライセン部隊を総べて壊滅させた。こちらも4機のジェガンを失ったがそれだけ。オーギュスト・ギダンと言う中佐が投降したがそれだけだ。「!? 全機退避!!」そう言って機体を動かす。フィン・ファンネルがIフィールドを発生する。だが、傍らにいたケーラ・スーのスターク・ジェガンら4機の僚機は回避できなかった。撃墜されるケーラ達。「ようやく見つけたぞ、アムロ!!」赤いMS。「その声、このプレッシャー・・・・・シャアか!?」赤い彗星の駆るサザビーは遂に、自らの目的である白い悪魔の乗るニューガンダムを捕捉した。一方で圧倒的な防空大隊を前に進めなくなったハマーン・カーンの親衛隊は数を減らす。更にだ、彼の前に新たなる敵が現れた。「ほう、白いシナンジュか。これはこれはハマーン・カーン殿。戦場でお会いするのは初めてですかな?」そう言って余裕の表情を崩さない男、パプテマス・シロッコがタイタニアを駆って現れる。既にハマーン・カーンの親衛隊使用のギラ・ズール部隊36機は全て壊滅。残りは自分しかいなかった。「貴様!?」誰だと問う。それに答えるシロッコ。「パプテマス・シロッコ。階級は少将です。そして・・・・・・・貴方の知る最後の人間になる!!」タイタニアが一気に加速した。「賢しいぞ、貴様!!」シナンジュがビームライフルを向ける。今まさに、ネオ・ジオンの指導者とティターンズの有力者の決闘が始まる。