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No.33650の一覧
[0] ある男のガンダム戦記 八月下旬にこちらの作品を全部削除します[ヘイケバンザイ](2016/07/27 21:00)
[1] ある男のガンダム戦記 第二話「暗殺の余波」[ヘイケバンザイ](2012/07/10 11:59)
[2] ある男のガンダム戦記 第三話『地球の内情』[ヘイケバンザイ](2012/07/15 19:52)
[3] ある男のガンダム戦記 第四話『ジオンの決断』[ヘイケバンザイ](2012/07/14 10:24)
[5] ある男のガンダム戦記 第五話『開戦への序曲』[ヘイケバンザイ](2013/05/11 22:06)
[6] ある男のガンダム戦記 第六話「狼狽する虚像」[ヘイケバンザイ](2013/04/24 13:34)
[8] ある男のガンダム戦記 第七話「諸君、歴史を作れ」[ヘイケバンザイ](2012/08/02 01:59)
[9] ある男のガンダム戦記 第八話『謀多きこと、かくの如し』[ヘイケバンザイ](2012/08/02 09:55)
[10] ある男のガンダム戦記 第九話『舞台裏の喜劇』[ヘイケバンザイ](2012/08/04 12:21)
[11] ある男のガンダム戦記 第十話『伝説との邂逅』[ヘイケバンザイ](2012/08/06 09:58)
[12] ある男のガンダム戦記 第十一話『しばしの休息と準備』[ヘイケバンザイ](2012/08/07 15:41)
[13] ある男のガンダム戦機 第十二話『眠れる獅子の咆哮』[ヘイケバンザイ](2012/08/09 20:31)
[14] ある男のガンダム戦記 第十三話『暗い情熱の篝火』[ヘイケバンザイ](2012/08/14 13:28)
[15] ある男のガンダム戦記 第十四話『終戦へと続く航路』[ヘイケバンザイ](2012/08/18 10:41)
[17] ある男のガンダム戦記 第十五話『それぞれの決戦の地へ』[ヘイケバンザイ](2012/08/25 16:04)
[18] ある男のガンダム戦記 第十六話『一つの舞曲の終わり』 第一章最終話[ヘイケバンザイ](2013/04/24 22:22)
[19] ある男のガンダム戦記 第十七話『星屑の狭間で』 第二章開始[ヘイケバンザイ](2013/04/24 16:55)
[21] ある男のガンダム戦記 第十八話『狂った愛情、親と子と』[ヘイケバンザイ](2012/11/17 22:22)
[22] ある男のガンダム戦記 第十九話『主演俳優の裏事情』[ヘイケバンザイ](2013/01/02 22:40)
[23] ある男のガンダム戦記 第二十話『旅路と決断を背負う時』[ヘイケバンザイ](2013/04/06 18:29)
[24] ある男のガンダム戦記 第二十一話『水の一滴はやがて大河にならん』 第二章最終話[ヘイケバンザイ](2013/04/24 16:55)
[25] ある男のガンダム戦記 第二十二話『平穏と言われた日々』 第三章開始[ヘイケバンザイ](2013/04/25 16:39)
[26] ある男のガンダム戦記 第二十三話『終焉と言う名を持つ王手への一手』[ヘイケバンザイ](2013/04/30 22:39)
[27] ある男のガンダム戦記 第二十四話『過去を見る者、未来を目指す者、現在を生きる者』[ヘイケバンザイ](2013/05/06 16:20)
[28] ある男のガンダム戦記 第二十五話『手札は配られ、配役は揃う』[ヘイケバンザイ](2013/05/12 16:29)
[29] ある男のガンダム戦記 第二十六話『流血を伴う一手』[ヘイケバンザイ](2013/05/22 10:42)
[30] ある男のガンダム戦記 第二十七話『戦争と言う階段の踊り場にて』[ヘイケバンザイ](2013/05/22 20:23)
[31] ある男のガンダム戦記 第二十八話『姫君らの成長、ジオンの国章を懸けて』[ヘイケバンザイ](2013/05/26 13:31)
[32] ある男のガンダム戦記 第二十九話『冷酷なる神の無慈悲なる一撃』[ヘイケバンザイ](2013/06/02 15:59)
[33] ある男のガンダム戦記 第三十話『叛逆者達の宴、裏切りか忠誠か』[ヘイケバンザイ](2013/06/09 23:53)
[35] ある男のガンダム戦記 第三十一話『明けぬ夜は無くも、闇夜は全てを覆う』[ヘイケバンザイ](2015/07/10 19:15)
[36] ある男のガンダム戦記 最終話 『ある男のガンダム戦記』[ヘイケバンザイ](2013/12/23 18:19)
[37] ある男のガンダム戦記 外伝 『 英雄と共に生きた群雄たちの肖像01 』[ヘイケバンザイ](2014/02/12 19:18)
[38] ある男のガンダム戦記 外伝 『 英雄と共に生きた群雄たちの肖像02 』[ヘイケバンザイ](2014/02/12 19:16)
[39] ある男のガンダム戦記 外伝 『 英雄と共に生きた群雄たちの肖像03 』[ヘイケバンザイ](2015/06/29 13:54)
[40] ある男のガンダム戦記 外伝 『 英雄と共に生きた群雄たちの肖像04 』[ヘイケバンザイ](2015/07/11 10:54)
[41] ある男のガンダム戦記 外伝 『 英雄と共に生きた群雄たちの肖像05 』[ヘイケバンザイ](2015/07/13 13:52)
[42] ある女のガンダム奮闘記、ならび、この作品ついてご報告いたします[ヘイケバンザイ](2016/07/27 21:00)
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[33650] ある男のガンダム戦記 第三十一話『明けぬ夜は無くも、闇夜は全てを覆う』
Name: ヘイケバンザイ◆7f1086f7 ID:d6fec904 前を表示する / 次を表示する
Date: 2015/07/10 19:15
ある男のガンダム戦記31

<明けぬ夜は無くも、闇夜は全てを覆う>





宇宙世紀0096.03.02の18時になろうとする頃、最後の攻撃に出たネオ・ジオン軍、いや、タウ・リン指揮下のヌーベル・エゥーゴ派閥。
が、それは勇戦虚しく敵中心部にて玉砕と言う『名誉ある敗退』として幕を閉じる。

(タウ・リン派の艦隊は殲滅。これで戦況は完全に決した。後は第四連合艦隊の陸戦部隊を可能な限り無傷で揚陸させる事か)

宇宙艦隊司令長官のエイパー・シナプスとブライト・ノアら各艦隊司令官、参謀らの思惑も合致する。
全てを失ったと言って良いネオ・ジオン軍は各戦線で素人が見ても分かる様な配送を続けており、戦線は完全に崩壊。
大河の氾濫によって生じる濁流に飲み込まれるが如く、地球連邦軍の4個連合艦隊に掃討されていった。
今もまたジャムル・フィンとネオ・ジオン内部で呼ばれていたビグロ系統の発展型試作機3機がラー・カイラム級の二隻、ラー・カイラムとアマテラスの防空隊による撃破され、アクシズ内部でも異端であった旧エゥーゴ派とその最右翼集団である「ヌーベル・エゥーゴ」のお目付け役もジェスタ15機とZプラス9機に囲まれて成すすべも無く撃破される。
趨勢は決する。
それは総旗艦ベクトラの艦橋で全軍の総指揮を取っていたエイパー・シナプス大将がしみじみと感じた事である。
そしていよいよ最後の仕上げに取り掛かるべく動き出した。

「アンダースン少尉、ワッケイン中将を呼び出してくれ」

その言葉に、ブライト・ノア中将の副官であるタクナ・S・アンダースンが受け答えした。
直ぐにワッケイン中将の乗艦に当たる大型戦艦ドゴス・ギア級の一番艦、ドゴス・ギアに回線がつながる。

『これは司令長官。少々立て込んでおりますので今しばらくお待ちを・・・・そうだ、砲撃を強化しろ。逃したマゼラン改を沈めろ・・・・ん?
よろしい、参謀長、しばらく席を外すので指揮を任せる・・・・・申し訳ありません、お待たせしました』

ワッケインが敬礼する。本来なら戦場での敬礼は省かれやすいのだが、それを見事にするあたり、戦況に余裕がある証拠であろう。

『作戦は順調です。被害は想定の最も少ない数値を維持しており、索敵部隊から発見したパラオ要塞を出港した6隻の軍艦以外に機動戦力は見当たらないとの事です』

タウ・リン指揮下の私兵集団である「ヌーベル・エゥーゴ」は壊滅、否、消滅。
タウ・リンの乗っていたであろう青いシナンジュも敵艦隊の旗艦らしきバーミンガム級の爆発に飲み込まれてレーダーからロスト。
そして増援部隊は最初からない。ネオ・ジオンには予備兵力など初めから存在せずサイド3攻略前哨戦やムンゾ宙域での会戦で消耗も考慮すれば未発見では無く、本当に敵は存在しないのだろう。

(敵の首魁の一人、タウ・リン。あの恐るべき男も恐らく戦死だ。惜しいと言う気持ちと安堵する気持ちがあるとは・・・・・人生とはままならぬものだな)

そんなシナプスの回想を余所にワッケイン中将がスクリーン越しに報告を続ける。
勿論合間に艦隊の指揮を取るのを忘れない。
それが今の地球連邦軍宇宙艦隊正規艦隊の司令官たちの技量であり矜持だった。

「ああ、そう畏まらなくて良い。これより敵残存兵力を掃討しつつ、作戦を進める。
ワッケイン中将、貴官の第13艦隊は所定の位置に向かってくれ。その後は臨機応変と言う但し書きが付くが、揚陸部隊とアクシズ攻略の指揮権を中将に任せる。
貴官の判断で第四連合艦隊の揚陸作戦を支援したまえ・・・・・良いかな?」

この命令、シナプスが発したものは、『あ号作戦』最終攻略目標であるアクシズ要塞揚陸作戦の全指揮権の譲渡。
本来であれば総旗艦と宇宙艦隊総司令官のベクトラが行うべき事だった。
だが、テロリストの執念とでも言うべき一撃が地球連邦軍の計画を若干余儀なくされた。
彼の、タウ・リンの部隊が放った一撃はラー・カイラム級の3番艦である『リヴァイアサン』を中破に追い込む。
更に4隻のロンド・ベル所属のクラップ級も損害を受け、サラミス改とマゼラン改をそれぞれ2隻撃沈された。
特にだ、クラップ級では初の戦没艦になる『ラー・チャター』も現時点では大破、半漂流状態と化しており、弾薬庫誘爆防止のための核融合炉機関停止、空気抜きと総員退艦命令が艦長から出されている。
要約するにだ、タウ・リンの攻撃は艦隊規模、地球連邦軍作戦参加艦艇とネオ・ジオン祖全軍の戦力比率から考えた場合に、あの鬼才は異常な戦果を挙げたと言う事だ。
結果としてロンド・ベル艦隊に少なくない混乱に見舞われてしまい、それは今も続いている。
その余波でベクトラはロンド・ベル艦隊再編成にメイン・コンピューターを使い、その処理に追われてしまった。
ロンド・ベル艦隊旗艦と地球連邦軍「あ号作戦」の参加艦隊総旗艦を一緒にした弊害が出たと言える。
尚、総旗艦と一個艦隊の旗艦を同一にした、その点は地球連邦宇宙軍と作戦を認可した地球連邦軍統合幕僚本部作戦部の慢心であると後世に批判される。

「構わんよ、本艦は現在友軍艦隊の再編に力を注ぐ事とする。ドゴス・ギアの能力を活用して上陸作戦を成功に導いてくれ」




RX-93とRX-0二機に、PMX-3を中心としたアクシズ第1宇宙港攻撃部隊は遂にネオ・ジオン軍最終防衛線を陥落させる。
その動きは凄まじく、アムロ・レイの駆るニューガンダムは僅か1分で重巡洋艦であるチベ級1隻を轟沈、二機のRX-0は最後のネオ・ジオン精鋭主力部隊、レズン特別連合大隊と呼称されたギラ・ズールとギラ・ドーガの複合部隊17機を随伴機に一機の犠牲を出す事も無く5分で全て殲滅する。

「これで終わりか・・・・・・・・!?」

それはユウとゼロ、ヤザンも気が付く。

「!!! 上だと!!!」

「ちょこざいなぁ!」

アムロがそう言った時、強力なメガ粒子砲が二発、四機の間を潜り抜ける。
間髪入れず、ゼロとユウはそれぞれの機体のIフィールドで防御し、ヤザンはその野性的な感覚で瞬時に後退、アムロは即座にビームライフルで反撃する。

「舐めた真似をしてくれる! どいつだ!?」

そう言うのはゼロ。バンシィのビーム・マグナムのカートリッジを確認。残弾は9発。問題は無いと判断する。
それはユウもヤザンも同様だった。
それを知ってか知らずか、数刻の後、隕石の一部となったネオ・ジオンのムサイ級軽巡洋艦、ザンジバル級機動巡洋艦の残骸から二機の大型MAが出現する。

『見つけた~』

ガンダムが三機。ようやく見つけたと女は思う。間違いない。
その状況を確認したのか、国際救難チャンネルで腕の無い方の卵色に近い機体が呼びかけた。

「それに乗っているのはアムロ、アムロ・レイよね? いるんでしょ? 答えて!!」

その言葉は酷く幼く聞こえた。泣いている様にも縋っている様にも聞こえる。

「あの時と同じね。あのサイド7と」

その声は聞き覚えがある。
あの時に別れた女の子の声だ。

「この声・・・・・そうか・・・・・なんて因果何だ・・・・フラウ・ボウ・・・・君だな?」

返事をするアムロ。それと同時に別回線でヤザン中佐がアムロのニューガンダムに連絡する。
ある懸念を抱いたからだ。

『おいアムロ中佐』

瞬時の間。通信はヤザンにも聞こえていた。
敢えて「白い悪魔」であるアムロ・レイ中佐に同格のヤザン・ゲーブル、「連邦の野獣」が尋ねる。愚かな事を言うなよ、そう言外ににじませながら。

『色男・・・・まさかこいつを生かすとかいう気じゃあないだろうな?』

殺気。
そして返答するべく通信回線を開いておくアムロ・レイ。
淡々とするアムロの口調。そこにはかつての少年兵として前線に立たされた民間人の男の子の姿は欠片も無い。

『いいえ、恐らく彼女は強化手術を限界まで受けてます。この口調でだいたいわかりますから。
白い方の手の無いMAの相手は自分が、赤紫のサイコガンダムの改良型らしき機体はゼロとユウ大佐で叩いて下さい』

それは男の、アストライアという少女の父親、家庭に責任を、新世代を守る立場にいる地球連邦軍特別治安維持艦隊・通称『ロンド・ベル』所属の男の、責任を果たさんとする声。
もうあの頃の少年の声では無い。それは敵となったフラウ・ボウには最期まで分からない誤算となる。

『つまり残りのジェガン部隊48機とジムⅢ部隊72機は俺が引き連れていけ、そう言う事か?一般兵のヒヨコ共では荷が重い、と?』

その間にもリフレクター・ビットを破壊していく二人のトップエース。
特にヤザンの駆るジ・オのサポート独立AI『ハロ』、彼の名付けた愛称は『コバンザメ』、がそれを可能にした。

『お願いします。中佐の考え通り、恐らく強化された彼女らの乗る二機のMAの相手。これは後輩達にはきついでしょう』

確かに。
そしていつの間にか的確な判断を下せるようになった後背。

『は、言うね・・・・・・分かった・・・・死ぬなよ』

そして思い出す。あの一年戦争地上戦最大の激戦であった戦い。
あの時からの付き合いだった。情けない事に、或いは不思議な事にそれを忘れていた。

『・・・・・・アウステルリッツ作戦のハンブルグやベルファストの時と同じですね・・・・・・大丈夫です、伊達に白い悪魔と呼ばれてません』

そう言って通信を切り替える。武器も持ち代える。敵は恐らくIフィールドがある筈だから。
ユウとゼロは相手がムラサメ研究所の機体の改良型であると分かった事から実弾兵装であるニュー・ハイパー・バズーカに切り替えている。アムロと同じ判断だ。
その間にも支離滅裂な通信が敵の、MAを駆る女パイロットの口からアムロに向けて発せられた。

「アムロ、あなたのせいよ!! あなたのせいでハヤトは死んだ!!! お父さんもお母さんもみんなアムロのせいで死んだ!!!」

この通信は残りの二機にも聞こえたが、感想はさまざま。

言いがかかりだ、とユウは思う。
それがどうした、お前の親がどうなろうと知った事か、とゼロは思う。

彼女とは第13独立戦隊時代に何度か会ったが、戦場で味方に憎悪するなど筋違いも良い所だ。ましてあのア・バオア・クー攻防戦ではアムロ・レイ中佐は良く戦った。
エルメスと呼ばれる機体を拘束し、ジオン十字勲章のトップエースである『白狼』を戦死に追い込み、攻略艦隊を守り抜いた。
そう言う意味では彼は正しい事をした、そのはずだ。この強化人間には悪いがそれは被害妄想が激しすぎると言うモノだ。
が、これは正規の軍事教練を受けた職業軍人であるユウ・カジマだから考え付く思考なのかもしれない。
仮に民間人で、赤い彗星のサイド7襲撃で家族を亡くしてなし崩しに軍属にさせられたらどうだったろうか?
それは分からない。理解できない。
ただ一つだけ分かるのは、アムロ・レイという人間とフラウ・ボウという人間が理解する事は恐らくもうないと言う事だ。
それもまた一つの悲劇である。




同時刻・月面都市・グラナダ市郊外 第5宇宙港・グラナダ鎮守府

ここは地球連邦軍月面方面軍、いや、本当の名前は対ジオン方面軍の拠点として一年戦争から15年をかけて拡張、整備された月面最大の軍事拠点である。
その連邦軍が設置した隕石爆撃にも耐えられる地下シェルターの中にザビ家専用のロイヤル・クルーザーとなったザンジバル改級機動巡洋艦『リリー・マルレーン』がシーマ・ガラハウ中将の指揮下の下、二隻の僚艦と共に即時出港準備可能な状態のまま待機していた。

『それで、ミネバ様はそちらに乗船されたのだな?』

通信室越しに見える禿げ頭のエギーユ・デラーズは心なしか5年は、いや、10年は老けたようだ。
やはりムンゾ宙域外洋での会戦に気を取られ、本国艦隊である第二艦隊を敢えて動員していた事、その結果がタウ・リンのサイド3=ジオン本国奇襲成功とそれに伴う閣僚・官僚であり、部下の大量戦死が堪えているのだろう。
自分だってこの責任の重さと追及された時の恐怖は計り知れない。ましてエギーユ・デラーズは軍の責任者であり、作戦線の立案者でもあった。
と言う事は、美味しい所は全てあのテロリスト様に横取りされた挙句、蹴落とされたと言って良かったのだから。

「は、既にミネバ様と親衛隊、並びにゼク・アイン親衛隊部隊は全て収容。いつでも出港できます。
これは現在月に間借りしている私の指揮下のコンスコン中将、ケラーネ中将の二個艦隊60隻にも言えます」

そう言って黙る。

(ああ、たく、本当はこの禿げの憂鬱なんて無視したいのに!!
私はまた厄介ごとを知った。独立戦争時のアリス・ミラーと接触した時の様に、今度もまたザビ家の坊や、いやお嬢ちゃんの、とんでもない秘密を。
なんで王族、公族のロイヤル・ファミリーの一員が一般庶民とやってるんだい!? こっちの心臓を止まらせる気か!?)

無論、そんな内心は外には出さない。
上司のデラーズにも、通信を送ったドズル・ザビ総司令官にも知らぬ存ぜぬを押し通すだけだ。が、一応政治的に生き残るためにギレン・ザビ公王には極秘回線と暗号で知らせた。

『M少女がB少年と情事を交わし、Mは純潔を散らした。対応されたし』

とにかく、それ以外は言えなかったし久方振りに生きた心地がしなかった。まあ、弟戦死の報告や妹爆殺現場でも冷静だった男だ。
たかが、姪の個人的な夜の営みなど、妊娠でもしない限りどうでも良いのだろう。
事実あの冷徹な独裁者はこの通信を表面上は無視している。第一、報告に上がった娘の怪我と醜態に関しても無表情であったとも聞く。

「それでどうされますか? 下手に動くとミネバ様や陛下、ドズル総司令官らの御身を危険に晒す事にもなりかねませんが?」

この問いにデラーズは答えた。
幾分かの苦い成分を含みながら。

『・・・・・・・シーマ中将、ギレン陛下の方針を伝える。現状ではジオン本土は公王陛下のご親政が行われており、目下の最大の政治的課題と軍事的条件は本国の安定である。
が、貴公の懸念する様に、我がジオン公国の誇る高貴なるザビ家の血筋を絶えさせてもならん。
故に第四艦隊は月面に待機。ミネバ様を護衛せよ。わしは自らネオ・ジオン残存軍掃討作戦に出る為、無傷の第二艦隊と月面にいる第三艦隊を指揮する。
貴公はケラーネに伝えよ。3日後にペズン宙域の45=86にて合流すべし、と』

敬礼するシーマ。それを見てデラーズは通信を切った。

「ふう・・・・・とりあえずはバレてないか。まあバレても問題はあの小僧の問題だ・・・・・が・・・・私の精神的な面の為にも・・・・・お仕置きしないとねぇ」




地球連邦政府・某所

『それではあの男は処分するのだな?』

一人のスーツ姿の男が聞く。

『ああ、奴は我々の秘密を知り過ぎた。それにズム・シティ砲撃はやり過ぎであろうよ。禍根を残した。要らぬ禍根を必要以上に』

もう一人の老人が答える。
この部屋には二人だけ。電気は何もついてない。漆黒の闇が辺りを包む。

『ふ、タウ・リンか。憐れな男だったな』

その言葉に同情のかけらもない。
それを聞いた男は答えた。声の質から両者とも既に老人と呼んでよい年齢だろう。

『そうだな、あの男の為に我々は水天の涙で3個艦隊、更にネオ・ジオンのサイド1襲撃作戦で駐留艦隊一つを失っている。
ああ、そうだな、他にもニューヤーク市などの犠牲もあるか』 

男は葉巻を付けてそれを吸った。もう一人も同じ中南米州産の高級葉巻に火をつける。

『ふーむ、問題は潔癖症な連中だが・・・・次の首相選挙で私が勝利すれば問題は無い。それで良いかね?』

一旦言葉を切って、男は、内閣官房長官ゴップは言った。
そう、嘗て地球連邦内部の主導権と全人類世界の覇権を北米州に奪った(彼の価値観では取り戻した)男、ブライアン元北米州大統領、現、地球連邦議会議長に。

『構わんよ。ケンブリッジ君は良く役目を果たした。これ以上の報酬は必要ない。そう、不要だ・・・・あまり餌を与えすぎると飼い犬も付けあがるからな』

無造作に道具を二つ切り捨てる二人の大物政治家。
これが政治の現実だと言うのなら血も涙も無い。
これが腐敗だと言うのならば、キャスバル・レム・ダイクンらの言葉も強ち間違えとは言い切れない。

『まあ、ネオ・ジオン派は既に戦力が無い。アクシズが落ちれば流石のパラオも降伏するだろう』

そして夜は更ける。漆黒の帳が世界を覆うのは夜明けが近いからだろうか?




宇宙世紀0096.03.02の午後6時、軍事標準時刻では0096.03.0218.07に死に体のネオ・ジオン軍を無視する形でアクシズに肉薄する三隻のペガサス級強襲揚陸艦がいた。
その揚陸作戦、『あ号作戦・第20段階』の現場責任者は胸が躍るような気持ちだと、後に述べている。
数機のズサと辛うじて残っていたザクⅡとリック・ドム、合わせて11機がヒート・ホーク片手に接近戦を仕掛けて来るが、護衛のジェガン部隊とジムⅢ部隊に瞬時に駆逐された。
ビームライフルの発した高熱が、ズサを貫く。ヒート・ホークを投げつけてきたザクをジムⅢがミサイルで包囲網を敷いて撃破する。
リック・ドムに至っては味方が壊滅するのを見ると即座に逃げ出す始末だった。
ネオ・ジオン、その士気も崩壊。強化人間主体の彼らの言う『ニュータイプ部隊』という唯一の拠り所にして最大の戦力を失ったアクシズ要塞に対して、鋼鉄の濁流と化した地球連邦軍の数百隻の大艦隊を押し止める事など出来はしない。
これはドゴス・ギアのワッケイン中将とシロッコ少将にも伝えられた。

「オペレーター、戦況しらせい!」

ウォルフガング・ワッケイン中将の命令に呼応するCIC内の人員。
彼らの表情は皆明るい。
予想されていたとはいえ、圧倒的な大勝利をもぎ取れるのだ。そう考えればそうだろう。

(各言う私も内心胸が躍るな。これだけの大艦隊の指揮権を預かるとは・・・・・軍人冥利に尽きると言うモノだろう。
ティアンム提督やレビル将軍の失敗でもう宇宙艦隊での出世は無いとは思ったが、これが露骨な派閥争いとケンブリッジ長官らの対抗派閥からのやっかみ回避だとしても私は良い。
ウィリアム・ケンブリッジの、ティターンズの傘下に入った事で幼い頃からの夢である宇宙艦隊を思う存分に指揮しているのだから)

と、ドゴス・ギアの通信参謀の機転で第二艦橋に上陸専用のオペレータールームが作られた。
そこでは喧騒と勝利の美酒に喜ぶ部下たちの宴が始まっていた。

「先遣隊、敵ネオ・ジオン軍を完全に駆逐しました!」

「ジムⅢ隊による連続ミサイル攻撃開始!! ジェガン部隊の対MS戦闘を強化しました!!」

「ペガサス、ホワイトベース、アルビオン強行接舷開始!! ただいまアクシズ要塞目標地点に上陸、レーザー砲とミサイルで要塞軍港内部を制圧・・・・・制圧完了!!!」

「第四連合艦隊より揚陸船部隊上陸開始。三隻の先発隊の抜けた穴に従って上陸を開始中。既に50隻中、12隻が上陸、途中で揚陸母船の改装コロンブス級とサラミス改級が1ずつ、武運なく沈みましたが、兵員らは小型揚陸艇に乗り移りそのまま上陸作戦を続行中です」

「敵抵抗微弱」

「敵Nフィールド、Sフィールド、Wフィールド抵抗、なし、外洋に敵影なし。繰り返す、外洋に敵影なし!!」

その言葉を聞いたシロッコはワッケインに言う。

「中将、自分のタイタニアの整備はどうです?」

あの厄介な趣味のMS、武骨な兵器と言うより繊細な芸術品と言い換えても良い機体の事だな。
余裕があるから現在は整備班が整備を完了しているが。

「出撃する気か?」

無論。
そう視線で訴えるシロッコ。確かに個人的には彼と性格が合わないが、自らMSを駆り、戦場に出てMS戦、つまり白兵戦の陣頭指揮を取るのは地球連邦軍の将官の中ではおそらくこの男だけだろう。

(後は若干人を馬鹿にする態度さえなければ幸いだのだが・・・・・まあ、全てを求めて許されるのは神のみだから仕方ないな)

そのまま受話器を取り、ドゴス・ギアのCICから格納庫へ艦内電話を繋ぐワッケイン。
一言二言現状を確認。

「少将、発進可能だ。敵には最早戦力と呼べる存在は無いが窮鼠猫を嚙むとも慢心が人を殺すとも言う。死ぬなよ」

予想外の激励に戸惑ったシロッコだがそれも一瞬だけ。
直ぐに敬礼すると自らの愛機に向う為に、CICを離れた。

「やれやれ。あれでは宇宙艦隊司令長官はまだまだ無理だな。行動が若すぎる」

そう言うワッケインはあの0079、0080のルナツー、ルウム、ソロモン、ア・バオア・クーが脳裏に過ぎる。

「いや・・・・ふ、人の事は言えんな。そうでしょう? カニンガム提督?」

それに反応した参謀の一人。

「は? 何か仰いましたか?」

無言で首を振り、意識を切り替える。

「何でもない。気にするな。それより援護射撃を緩めよ。観測機を増やせ!! 
これ以降は同士討ちの可能性が出てくる。敵味方識別による射撃精度の低下防止を急がせろ!!!」




既にリフレクター・ビットやファンネルは無く、α・アジールも度重なるビームやハイパー・バズーカの直撃でズタズタだった。
混乱する瞳が映し出されるのはビームライフルを構えた、嘗ての幼馴染の駆る連邦軍の鬼札。

『白い悪魔』 
それを相手取るには彼女では無理だった。
何もかも失った無い無い尽くしのアクシズで生きた女性。
満足に訓練も出来なかった冷静さを欠くほど強化された強化人間の成れの果て、それがフラウ・ボウ、いや、フラウ・コバヤシだ。

「なんで? なんで? どうしてみんな私をいじめるの? 私だって戦争の被害者よ!! お父さんもお母さんもお婆ちゃんもサイド7で殺されて、私だけ生き残って!!!
その上に何もないアクシズに来ちゃって、体まで提供したのに!! 理不尽だわ!! 不公平よ!!! 何なのよ!!!」

そう言って口部にあるメガ粒子砲を放つも回避するニューガンダム。
また一撃が彼女の乗った機体を揺らす。

「またアムロが虐める!! 何が理想のカップル、大戦の英雄同士の祝福すべき結婚よ!? 
私たちはその時火星圏で!! 死に物狂いで!! キャスバルさんの理想の為に戦っていたのに!!
許さない!! 許さない!! 許さない!! 絶対に許さない!!! 殺してやる!! 必ず殺してやる!!! 絶対に殺してやるんだから!!」

だが。

『そこまで強化されたか・・・・・哀れとは思う。だが、俺ももう10代の少年じゃない。フラウに殺されてやってセイラや娘を悲しませる真似は出来ない』

え?

気が付いたらほぼ0距離にビームライフルを構えるアムロが存在している。

「!?」

「お母さん!?」

辛うじて繋がっているサイコガンダムMkⅡの通信回線から最後の心の拠り所の声が聞こえ、フラウが何か言おうとして途端にノイズに切り替わった。
宇宙世紀0096.03.02の17時58分、地球連邦軍の第四連合艦隊とアルビオンを中心とした強襲揚陸艦隊がアクシズ要塞に肉薄した今、正にその時。
ユウ・カジマとゼロ・ムラサメの放ったビーム・マグナムの閃光はサイコガンダムMkⅡを貫き、フラウの前で爆散させた。
パイロットは無論即死。これを強化人間の強化手術で感情の濁流で理解したフラウは・・・・遂に狂った。

「あは、あはははは、あははははははあははははははあははっはあははははあはあは」

操縦レバーから手を離し、泣き笑いながら虚空を見つめる瞳には目の間でビームライフルを構えたニューガンダムも援護に回って来るユニコーンとバンシィの姿も目に入って無い。




『ごめん』

それは誰の為に?

『・・・・・・・・・自分の為さ。アムロ・レイの為であってフラウ、君の為の言葉じゃない。でも言おう・・・・・すまなかった』

嘘つき。

『それでも俺はこんな結末をハヤトに伝えたくは無かった』

ハヤトはそれを恨まないと思う。だって、彼は・・・・・・




彼女の思念はここで途切れた。彼女が何を言おうとしていたのかは永遠に謎となり、それで良いとアムロは思った。思う事にした。思いたかった。
目の前でゼロの乗るガンダムバンシィの放ったビーム・マグナムの弾丸三発が敵大型MAのコクピットブロックを貫通。
ここにアクシズに至る為のネオ・ジオン最後の防衛線は消滅。ネオ・ジオン軍は全戦線で雪崩を打って敗走、殲滅され、この世から消滅していく。

「アムロ中佐?」

寡黙だが情に厚いユウ・カジマ大佐が声をかけてくる。
大丈夫か? と。

「・・・・・・問題ないです、大佐。これよりアクシズ要塞に肉薄する為一時帰投しますが・・・・・第4派の攻撃部隊の指揮をお願いします」

頷くユニコーンガンダムを尻目にベクトラへと戻るアムロ。ただ、やはり疲れた。それだけが彼の感情を覆う。
一方でアクシズ要塞に上陸した先遣艦隊のエコーズ部隊6000名は既に軍港主要地域と敵要塞司令部へと向かうルートに、要塞の核融合動力炉とモウサへの連絡橋を制圧していた。
激しくも短い銃撃戦の末、老人主体の兵士や明らかに後方任務としか思えない素人兵士たちを掃討する。
情け容赦のない戦い。徹底した掃討作戦。正に阿鼻叫喚の地獄であろう。
だが、それでも抵抗するネオ・ジオン軍を一気に押し潰し、止めを刺すべく、携帯式バズーカ砲やロケット弾、無重力空間で使用できる様にした改造型携行ガトリングガンなどをアクシズ要塞内部の戦いに投入。
宇宙要塞内部戦闘のエキスパートとして訓練された地球連邦軍の増援部隊3万5000名と共に一気に攻める。
以降は戦後に公開された通信文から抜粋する。

宇宙世紀0096.03.02の19時41分、アクシズ要塞、要塞司令部制圧。

宇宙世紀0096.03.02の19時47分、アクシズ要塞、主力動力炉管制室制圧。

宇宙世紀0096.03.02の20時25分、アクシズ要塞、Nフィールド軍港、Sフィールド軍港、Wフィールド軍港を完全に連邦軍が掌握。

宇宙世紀0096.03.02の20時30分、地球連邦軍、橋頭堡にそれぞれ1万名を増員。ネオ・ジオン軍陸戦隊残存戦力1127名は要塞各所に寸断される。

宇宙世紀0096.03.02の20時51分、アクシズ要塞、航路情報・冷凍睡眠装置司令部制圧。

宇宙世紀0096.03.02の21時00分、アクシズ要塞、モウサ地区へ第8大隊、第9大隊、第10大隊の3000名を派遣。

こうしてアクシズ要塞の戦いは外洋から内部へと移行する。その最中。




ザビ家専用に作られ、キャスバル・レム・ダイクンとしてシャア・アズナブルが利用していたアクシズの『謁見の間』で一組の男女が対立していた。

「シャア・・・・・どこに行く?」

赤いノーマルスーツからジオン一般兵士用のノーマルスーツに着替えたシャアを何とか帰還したハマーンが問い詰める。
自分のシュナンジュはもう敵軍に鹵獲されて使えないがEフィールドに点在する艦隊とキュベレイ、それにパラオの戦力がある。
まだ戦える、そう言って、そう縋ってきた女をシャアは無視しようとした。自分が抱いた愛人のレコア・ロンドはとっくの昔に戦死していたがこちらにも何の感慨も思い浮かばなかった。
現にだ、こちらの端末から確認したところアクシズは要塞航法システムを乗っ取られ、電力供給システムも半分が敵の手に落ち、4つの宇宙港の内、3つは物理的に占領。取引に仕えたであろう各種データ室、研究室も物理的に奪われた。
この時点で地球連邦軍と地球連邦政府は国益を達したと言える。

(もう駄目だな。ここは一刻も早くナナイと合流するか。ララァを逃す為にもそれが最善の策だろう)

そう思っていた矢先の出来事だったのだ。
拳銃を突き付けたハマーンが現れたのは。

「・・・・・何故着替えた? まさか逃げる気なのか!? アクシズから自分だけ逃げだす気なのか!?
私を・・・・・私と共に死ぬと言う約束を反故にする気か? そうだな? そうなのだな!? 答えろ!!! 私を捨てるのか!!! 地球圏に向かったあの日の様に!?」

肉体関係を結びながら一方的に捨てられる。情が厚い女性ほど許せるものではないだろう。
それが許される人間と許されない人間がいる。
或いは許されると思うのは男の方の身勝手で傲慢で愚かな思惑なのかもしれない。当然だろう。裏切られた方にとってみれば『裏切り』『使い捨て』という事実に何も変わらないのだから。

「ハマーン、ここは捲土重来を期すべきだ。既にアクシズは陥落した。
だが、私のサザビーもハマーンのキュベレイも、パラオの残留艦隊も、残存戦力もある。ならば一時の恥を忍んでも・・・・・」

それ以上言えなかった。ハマーンが血走った目で銃弾をシャアの肩に撃ち込んだ。

「ふざけるな!! ここで死ぬ以外に私達の愛が成就すると言えるのか!? 一体何人殺したと思う? 私たちの行いでこの半年で100万人は死んだんだ!!
ズム・シティだって無くなった!! 一緒に戦ったエンドラのマシュマーたちも死んだ!! あのコバヤシ家の友人達だってさっき死んだと部下が言ってきた!!
その部下だって私の手の中で冷たくなって死んだ!!! だから・・・・だから!!!」

更にもう一撃撃つ。が、これは外れた。

(外れ・・・・いや、外したか? く、こうも豹変するとは!! ハマーンめ!!)

と、その時、血だらけになった一人のノーマルスーツを着た兵士が乱入してきた。
名前をアンジェロ、階級は大尉だった筈。

「大佐!!」

そう言ってハマーンに体当たりをかけようとして来る。

「この小僧が!! 邪魔をするな!!!」

ヘルメットのバイザーに向けてハマーンは12発の弾倉に残っていた10発の弾丸を全て叩き込んだ。
アンジェロは自分を男娼の地位から救ってくれたと信じていた男、シャア・アズナブルの為にその弾丸を全て我が身を持って受け止めた。

「た、大佐、大佐は、こん、な、とこ、ろで、死んでは、いけない、ひ、と、なんで、す・・・・だ、か、ら、に、げ、て、く」

そう息も絶え絶えに言うアンジェロ大尉にハマーンは容赦なく予備の弾倉に切り替えた拳銃を向けさらに発砲する。

「大、佐」

息絶え、宙に浮かぶアンジェロ。
誠に皮肉な事に、この拳銃はシャア・アズナブルが情事の後にプレゼントした銃であり、ハマーン・カーンが肌身離さず持っていたものであり、彼とのデートの際は必ず練習に付き合わせた拳銃だった。
それが赤い彗星を最も崇拝していた一人に向けられ、その男の命を無慈悲に絶った。
全く持って度し難い。
そして。

「手間をかけさせる。これは私とシャアの問題だ。誰にも邪魔はさせない!! 誰にもだ!!
さあ!! もう邪魔者はいない!!! シャア!! 大人しく私と一緒に死になさい!!! 安心して・・・・私もすぐに逝くから。お願い」

鬼気迫る表情のハマーンだが、それでもシャアは言った。
彼もまた鬼気迫る表情で。

「断る!」

そして咄嗟に、アンジェロが稼いだ時間の間に手に入れて持っていた自動小銃をハマーンに向ける。
卑劣漢と罵られようともシャアにはやるべき事がある。それは妻と息子を逃がす事でそれ以外は些細などうでも良い事。そう信じている。この際他人の考えなどどうと言う事は無い。
無視すればどうと言う事は無いのだから。

「!」

だが、肌を重ね、純潔を捧げ、一緒に死んでくれると言った男のこの豹変ぶりに絶句するのがハマーン・カーン。
自分が抱いた女性の動揺、それを見てシャアは言った。

「申し訳ないが、ハマーン。ララァとアフランシの安全が確保できるまでは私は自由を失う訳にはいかん。
身勝手な言い方だが・・・・・・それが責任を果たすべきあるべき姿の父親では無いかな?」

拳銃と自動小銃。威力の違いは明白。
黒いノーマルスーツを着たハマーンは、だが、その言葉に更に思った。

「何を・・・・何を今さら!! あれだけ私を好きにしたくせに、抱いた癖に!! 妻が居たのに私を抱いた!! それで、そんな中で、それで父親面するのか!?
どの面さげて私にその言葉を吐くか!?
あの女は這い蹲ってまで、拳銃で脅されても尚子供の為にNoとは言わなかったのに、貴方は私を脅してまで、そうやってまで自分の未来が大事なのか!? そうなのか!?」

無言のシャアにハマーンは更に取り乱す。

「そこに転がっている死体を見てもなんとも思わないのか? 
それとも、貴方が言ったザビ家への復讐やニュータイプの理想とやらを初めとした何かよりも家族は、貴方が、シャアが踏みにじってきたものは他の何よりも、何よりも優先するのか!?
あの時の、一緒に死んでくれると言う言葉は全て嘘だったのか? そうなんだな? そうなんだな!? 赤い彗星!!!」

激情に駆られつつも引き金を引かずにいるハマーン。
肩や激痛に耐えつつも小銃の砲口を突き付けるシャア。
永遠とも一瞬と言える沈黙に睨み合い。この均衡を破ったのはシャアだった。

「ハマーン、君の好意は嬉しいが・・・・黙っている様だが・・・・私の声は聞こえているだろう?」

言葉に詰まるハマーンを穏やかに、だが見るべき人が言えばかつてガルマを謀殺し様とした時と同じ口調に表情だと言える状況で言う。

「? い、一体何を言う気だ?」

そしてシャアは言う。

「君は良い友人だったが・・・・・君の生まれの不幸がいけないのだよ」

今度こそ完全に唖然とした。
そして何とも言えない感覚をハマーンは感じた。

(良い・・・・友人? 友人・・・・・友人!?)

その瞬間、言葉を理解した途端にハマーンはシャアに対して引き金を引いた。

「ああああああああああああああ」

絶叫と共に。
だが、目元が完全に涙で滲み、激情の奔流故に一発も当たらない。

「私は父親だ。アフランシとララァを守る。すまないな」

そしてシャアが正に発砲する刹那。
舞台に新しい俳優が来る。

「そうですね、シャア。貴方の言う通りでしょう。ならばこそ、最後の役に立ってもらいます。
・・・・・・ハマーン・カーンさん、貴方を地球連邦ならびジオン公国への反逆・反乱・テロ行為の首謀者として逮捕します」

女の声と共に複数の銃声が響いた。

「「!?」」

慌てて振り返ったハマーンに、愕然とするシャア。
そこにはエコーズに護衛されたララァ・スンの姿がある。
そしてララァは地球連邦軍の特殊部隊用の装甲ノーマルスーツを着て命令を下した。

「拘束しなさい」

ノーマルスーツ越しにワイヤーガンで拘束するエコーズの兵士。古典的だが効果的でそのままノーマルスーツの酸素濃度を調整し、ハマーンの意識をもうろうとさせる。
これを見てシャアは内心安堵した。これで何とかなるな、と。
だが、その目論見は次の一言で覆される。

「ララァか、助かっ・・・・」

エコーズ所属と分かる連邦軍小銃の群にララァの拳銃の銃口が向けられた。
そしてララァはすまなさそうに述べる。

「シャア・アズナブル、貴方もです」

と。




一方で唯一の攻撃が少なかった外洋から脱出しようとする艦隊がある。レウルーラ級を中心とした7隻の艦だ。だが、無傷なのはレウルーラのみ。
後は損害著しく、パラオまでたどり着けるか不明である。
これに合流する艦隊が6隻。パラオ方面から来た艦隊の生き残りだ。地球連邦軍の偵察艦隊の集団に捕捉されて10隻の内4隻を失っていた。

「大佐を助けないと!!」

戦況は絶望的。それ知るパラオから来た部隊。
そう言うナナイ・ミゲルを宥めていたラカン・ダカランだったが正直ウザくなった。

「そうか、なら仕方ない。お前だけ先に助けに行け」

そう言って、パラオから5隻のムサイ級と1隻のザンジバル改で援軍を連れて来たナナイを格納庫に連れ出したラカン。

「な、何をする気?」

怯える女。既に敗戦の報告は知っており、スペース・ウルフ隊とは異なり戦場を逃げ出した臆病者の赤い彗星の事も知っている。
故に彼は思った。もうネオ・ジオンという組織は駄目だと、そして彼にはAE社No2で地球の大企業として存続しているルオ商会に伝手がある。

(ウォン・リーの伝手とコネ、それにタウ・リンの遺物を使えば何とかなるな。その為には邪魔な女には消えてもらうか)

既にレウルーラと艦載機である8機のギラ・ズールに3機のギラ・ドーガ、1機のドーベン・ウルフと艦内の主要幹部は飴と鞭で掌握済み。脱出艦隊の連中もだ。
小うるさい女一人いなくても構いはしない。

「ああ、赤い彗星は恐らく戦死だ・・・・・だから、お前さんもあの世とやらで索敵にでも行けばいい」

「!!」

掴みかかろうとして、ナナイは衝撃を感じた。
胸元に穴が開いているのが分かった。

(う、撃たれた?)

そう、撃ったのだ。既にネオ・ジオンは規律も秩序も階級も無い。あるのは強いモノに従い弱い者は捨てられる弱肉強食の世界観のみ。
無情にも時は流れる。
ネオ・ジオン最後の拠点であるパラオ要塞からなけなしの機動戦力全てを掻き集めてきたナナイは自分を抱いた愛しい人に会う事無く、この世を去る。
だがそれも幸いなのかもしれない。同じ立場のハマーン・カーンが絶望の淵に、あろう事かその男張本人に、落とされた事を思えば。

「おい、この女の死体を捨てろ。目障りだ」

そう言ってラカン・ダカランは自室に戻る。
尚、このアクシズを離脱した艦隊の行方は分かってはいない。
ただ一つ言える事はこの後のどの公式、非公式記録にもラカン・ダカランの名前とレウルーラ級大型戦艦の名前が出てこない事であろうか?

宇宙世紀0096.03.03になった時、ネオ・ジオン軍は主要幹部全員が捕縛か死亡か逃亡するかしてアクシズ要塞を地球連邦軍の支配下に譲る。
0096.03.09、地球連邦軍はパラオ要塞をジオン公国軍特別任務部隊のデラーズ・フリートと共に無血占領し、地球連邦政府ならびジオン公国政府は『あ号作戦』と『第二次ブリティッシュ作戦』の正式な終了を宣言。
これをもって歴史上からはネオ・ジオン軍の戦力は完全に潰えた。

宇宙世紀0096.03.12

サイド3に送られる旧ジオン公国兵士、現ネオ・ジオンを名乗った叛徒ども。即決軍事裁判で生き残った上級将校に当たる者は次々と銃殺されていく。
彼らの罪は独裁者への謀反でもあり、恭順命令無視もあって無慈悲かつ迅速に執行されていく。
そんな中、地球に護送される人物らがいた。
『シャア・アズナブル』『ハマーン・カーン』に『ララァ・スン』である。前者は反逆行為の首謀者として、後者は内通者としての功績をたたえた。
これはゴップ長官が持ち込んだ司法取引の結果である。ララァ・スンは決して表ざたに出来ないタウ・リンの功績を、我が子の為に夫を泣く泣く切り捨てざるを得なかった悲劇の女性と言う立場と状況にして押し付けた。
無用な詮索をマスコミにさせないための情報操作の一環である。勿論他にもいろいろ理由づけや情報操作もされるが、これはこれであろう。
それでも反逆者である『赤い彗星』の子供を極秘裏に地球連邦領域内部で育てる為の支援と戸籍確保、諸々の社会制度の保障という裏取引に母親としてのララァ・スンは乗る。
妻としてのララァ・スンを捨てて。その時にどの様な葛藤があったのかは多くの歴史家の諧謔心をくすぐるが、歴史は黙して記してない。
残りの二人の内、『ハマーン・カーン』は情緒酌量の余地があるのではないかと議論されてはいる。
だが、『シャア・アズナブル』に関してはほぼ確実に絞首刑か電気椅子が待っているだろう。
これは地球連邦の市民感情からも仕方がない。
新聞の、地球連邦最大級の情報誌にして数少ない紙媒体の高級新聞の連邦タイムズは結論としてこう述べた。

『白バラは枯れ果てて、赤い彗星も地に落ちた。狂信者は死に、船は平和の海へ』、と。

白バラがハマーン・カーン、赤い彗星は当然にシャア・アズナブル、狂信者はタウ・リン。だが複雑だ。タウ・リンの本当の姿を知る者としては。
ただ投入された四個連合艦隊は分散し、各地で補修作業・補給作業・休暇に入っている。

「終わった、な」

「そして、新たなる時代の始まり」

ティターンズ長官執務室の休憩室でチーズケーキとアイスコーヒーを食していたウィリアム・ケンブリッジの言葉に妻のリム・ケンブリッジが言う。

「嫌な事でも、楽しい事でも終わりは来る。朝を迎えない夜は無く、晴れない雨も無く、春が来ない年も無い。終わりが存在しない物語が存在しないのと同様に。
それは森羅万象が全て諸行無常の響きと共に絶えず変貌する事を意味している、私は幼い頃のタイの寺院でそう修業したわ。あなたは?」

苦笑いするだけで何も言わない夫。
妻もそっと、自分の持っていたコーヒーカップを木造の高級テーブルに置く。

「新たなる始まり、か。地球連邦首相になればまた何かが変わるのかな?」

さあ? とにかくやってみたら? ティターンズだって10年以上纏め上げたんだから案外簡単かもしれないわよ?

簡単に述べる妻。
この年のネオ・ジオンの戦いを利用した息子のジン。息子の会計事務所は年々大きくなり、遂に、ジオニック社、MIP社、ブッホ・コンツッェルの法人株主として株主総会にて3割近い株券を確保する。
それはMS産業と宇宙デブリ回収産業の過半数を制する企業への影響力を絶対的なモノとした事であった。
この結果、ケンブリッジ家は名実ともに政財界軍の4つの勢力の中でも新興勢力の筆頭となる。ウィリアムの望まなかった様に。

「何はともかくこれからが大変だ。アクシズ内部の修復に、地上軍、宇宙軍全軍の縮小。ティターンズの権限移譲。どれもあと4年以内だからなぁ。
宇宙世紀100年の大セレモニー、地球連邦全土とジオン公国、木星圏を含めた新暦記念祭に間に合わせないと」

そう、地球連邦はこの討伐作戦の成功と人類社会の引き締めを狙って大規模なイベント、オリンピックの様なモノを行う予定だった。
これは始皇帝が泰山で行った儀式の様に霧の中を歩むが如き難題だったが、内務省、国務省、国土交通省、文部科学省らの役人や各企業は活き活きとしている。
あと4年で総人口150億に達せんとする人類社会全体が共同で祝う祝賀会を行うとあり、準備は万端にしなければならない。

「まあ、頑張りましょう、あなた」

そう言って、リムはウィリアムの肩に手を置いた。




宇宙世紀0096.05

サイド3復興と戦没者慰霊の為の鎮魂歌が流れる中でグレミーはマリーダ、ミネバと共に出頭を命じられた。
マリーダだけは妙に表情が硬く、暗く、そして青い顔をしている。

(マリーダ・・・・・まだあの戦いを気にしているのか? ジンネマンめ、一体何を吹き込んだのだ? 余計な事を言ったのか? ならば、だ。あ奴はザビ家の親衛隊に相応しくないな。後で直訴するか?)

そして親衛隊によってドアが開け放たれると自分達は妙な男を見る。
自分より若い、恐らくミネバと同い年くらいの学生がスーツを着て紺のネクタイをしめてドズル・ザビの前に立っていた。

「グレミー・T・ザビ、マリーダ・クルス・ザビ、ミネバ・ラオ・ザビ入ります」

そう言って仕切りを跨ぐ。ジオンの国旗をあしらった紅の絨毯に沿って歩く。
そして執務室の机、ダークコロニー01の臨時ザビ家公舎の主、父(伯父)のギレン・ザビが居る所まできた。

「ん、三人ともよく来た。とにかくそこに掛けろ。セシリアが紅茶とスコーンを用意してある」

珍しい優しい声に戸惑う三人。
もしかしたらサスロ叔父の死にショックを受けているのかも知れないとグレミーは思った。

「それで、だ。親衛隊のジンネマンとカーティス中将から報告は聞いた。まずはムンゾ外洋の艦隊決戦ご苦労だった。
二人とも無事、とは言い難いが、生きて帰ってきて何よりだった・・・・・どうした、マリーダ?」

気が付くと妹のマリーダが手に持った紅茶の入った陶磁器を震えながら持っている。カタカタと五月蝿い。
寒いのだろうか? だがここはコロニーであり冷暖房は26度で設定されている筈だが? とグレミーは思う。
ミネバは何故この場に地球とサイド3に向かう為月で一旦別れた筈のバナージがここに居て、しかも父親に睨み付けられているのか気が気でなかった。
要するに、この場で最も気が利くのは今現在はグレミーのみとなっていた。

「もう一度言う、どうしたのだ? 具合でも悪いのか?」

その父親の、ギレンの思いもかけない優しい言葉にマリーダは泣きだした。

「わ、私は・・・・・私は愚か者です。さ、先の、た、戦いでは、お、御父様のご期待に応えられないばかりか部下を無駄死にさせた・・・・・こ、この場では、絶縁も覚悟の上で参った・・・・次第で・・・・・」

それ以上は言葉にならない。
涙を拭こうともせず、白と黒に黄色のエンブレムが入ったシャツに涙が円を作る。

「私・・・・・マスターに言われて・・・・・ライデン大佐に殴られて気が付いた。
あの時、あの場所で、人が死んで逝くのに、人が殺されているのに、それも私の部下たちが対象なのに、別の男しか見て無くて、国の事も、敵の事も、御父様の事も何も・・・・・・」

沈黙ののち、

「何も考えてない・・・・・御父様が一体どれだけ有能で孤独な統治者なのか何も知らない・・・・・私は・・・・・・・バカだ」

そして言った。ずっと避けてきた。怖かったんだ。良く分からないお父さんが。だからごめんなさい。許してください。でも許さなくても良いから、と。
独白を聞いていたギレンは少し考え、無言で笑った後で二人に言った。

「・・・・・・そうか、マリーダも成長したか、今はそれで良い」

と。
その後の記録は残念な事に残ってはいない。ただ妙な報告がある。
三人の内、ミネバ・ラオ・ザビのみが居残りをさせられ、ドズル・ザビの怒声が1時間にわたってずっと響き渡ったと言う事だった。




宇宙世紀0096.10.01

ニューヤーク市の地球連邦議会では遂に、ウィリアム・ケンブリッジ最後のセレモニーが始まらんとしていた。
それは『地球連邦首相選抜選挙』である。地球連邦の首相を決める、いや、今後の1世紀以上の未来を決める宇宙世紀1世紀に相応しい選挙となる筈だ。

だが。

「不用心だね。誰もおらんのか?」

寒さが厳しくなりつつあるニューヤーク市の郊外の高級住宅に帰宅したゴップ退役大将。彼は己の最後の野望、地球連邦首相という人臣位の最高位を目指すと言う欲が出て幾つかの有力派閥と会食してきた。
この点は完全にジャミトフ・ハイマンを中心とした親ウィリアム・ケンブリッジ派閥を出し抜いており、『政界の怪物』が『政界の死神』を凌駕している。

「執事らに休みを取らせたつもりは無いのだがな・・・・・うん?」

明かりがともっている。流石に寒かったのか暖炉のある一番お気に入りの北欧風の部屋だ。

「ほう、気が利くな。だが不用心に変わりは無い。後でそれとなく注意しておかなければ」

そう言ってゴップはドアを開けた。




翌日

「ゴップ長官が来てない?」

議会は満員御礼。恐らくサッカーワールドカップ決勝戦で開催国が勝ち上がった時並みの人気だった。
ネオ・ジオン崩壊、ジオン公国復興、エゥーゴ派閥消滅、木星連盟よりドゥガチ総統来訪、救国の英雄の首相就任などの連邦市民なら関心ある噂などで持ちきりである。
そんな中、会場に到着したダグザ・マックール少将は同僚のロナ首席ティターンズ補佐官から聞いた。

「どういう事だ? 裏で何か工作をしているのか?」

嫌な予感が、長年の軍人としての予感が告げるが、だからと言って救国の英雄とまで呼ばれている人間を引き返させる訳にはいかない。
既にジャミトフ・ハイマンらは派閥工作を完遂させており、議会の中にいるのだ。

「どうする?」

ロナの傍らで書類を読んでいた、相変わらず銀のネクタイに銀のスーツを着たフェアントが問う。恥ずかしくないのかとも思うが。
まあ、良い。

「・・・・・其方は管轄外だからな。
管轄外の事を官僚がやっては何の為の官僚制なのか分からなくなる。とりあえず警察が様子を見に行った様だから報告を待つとしよう」

と、会場から拍手喝さいが聞こえた。そして晴れ渡ったこの青空の下を自分の上官が物憂げな表情をにじませながら出てきた。

「どうやら・・・・」

「ああ・・・・・決まったな」

普段は対立している二人の男も珍しく素直に頷く。この日この場で、宇宙世紀0096.10.02、新たなる、そして史上初めての有色人種の地球連邦政府首相が誕生したのだ。
歓声に沸く世界。これに答えるべく傍目には毅然と、実は内心嫌で嫌で仕方ない状況のウィリアム・ケンブリッジと彼の家族たちが演台に立った。

「!?」

「な!?」

「え?」

この時、演台に至る道が爆発した。
もうもうと上がる黒煙。更に聞こえる悲鳴の中で、自分は、エコーズ総司令官にして地球連邦軍少将のダグザ・マックールは見た。
一人の髭を生やしたスーツ姿のSPが銃口をウィリアム・ケンブリッジに突き付けているのを。そしてその傍らでレイニー・ゴールドマンが血を流して倒れ伏しているのを、だ。




「「「長官!!」」」

「「「政務官!!」」」

「ウィリアム!!!」

「ウ、ウィリアム?」

「お父さん!!」

「お祖父ちゃん!?」

「お、お父さま?」

「父さん!?」

戦友達が、先輩が、息子が、娘が、孫が、そして妻が叫ぶ。目の前には黒光りする銃口。
確かグロックシリーズとか言ったか?
男のイヤホンと直結したマイクに男の声が会場に、つまりは世界中に響き渡る。

「よう、はじめまして、だな? こういう形で会うのは・・・・・と言っても、それ程驚いてないな?」

そう言って男は更に隠し持っていた携帯のボタンを押す。
大きな地震が起きた。後に分かった事だが、旧世紀に建てられた現役の郊外大型ガソリンスタンドと地下鉄の貯水タンクが同時に爆破された振動だった。

「・・・・・・・・・タウ・リン、だな?」

その言葉に男はニヤリと笑った。

「そうだ、あんたが潰したヌーベル・エゥーゴの首謀者で、このくだらねぇ世界の、くだらねぇ生き物の作った、人類社会とかいう世界のくだらねぇ存在だ。
まあ、今から死ぬアンタには関係ないだろうけどな。で、説明はこの辺でいいかい?」

そう言って銃口の引き金を絞ろうとする。

「・・・・・・・・・・」

何も言わない地球連邦の首相。
そんな姿を見てウィリアムをずっとしているリムは思った。

(贖罪の時、か。あの人らしいわ)

固唾を飲んで見守る人々、駆け付けるSP達。

「ああ、そう言えばアンタらは知らないかも知れないがゴップは死んだ。俺が殺した」

衝撃の事実を突き付けるタウ・リン。

「「「「「!?」」」」」

あのゴップ内閣官房長官が死んだ?
何故この男が?
そもそもあの用心深くセキュリティーも万全な官房長官をどうやって暗殺した?

そんな憶測が辺りに広がるのが早い。まるで枯れ木を燃やす様な感覚だ。
そして次の爆弾発言。

「あんなんでも義理の父親だったんでな、精々苦しまない様に劇薬の毒薬を使わせてもらったよ。
先々月に中華のお偉方から購入した、苦しんで死ねるがそれでもただの自然死に見せかける薬だ。結構簡単に手に入ったぜ?
恐らくアンタらの中の誰かを殺す為に用意していたんだろう」

そう言ってウィリアムの額に銃口を突き付ける。
愉悦の表情で。だが、それも直ぐに苛立ちに代わる

「ち、なんだ、テメェは。もっと情けなく喚き散らすかと思ったのに・・・・達観してるな。こんな奴に何度も出し抜かれたのか?
全く嫌になる。
本当なら月を破壊して地球人類さんを皆殺しにする予定だったのに・・・・その泰然とした、如何にも自分は正義の味方、滅私奉公の国家の英雄様ですっていう表情が・・・・・むかつくぜ!!!」

そう言ってグリップでウィリアムの額を殴りつける。額から血が流れる。
直ぐにSPらが撃とうとしたがタウ・リンの常人離れの反射神経にはついて行けず、元の木阿弥になった。

(つまりは膠着状態・・・・・と言う事ね)

タウ・リンと対峙するウィリアム・ケンブリッジは何も言わない。言えない。彼はタウ・リンの正体を知っている。
だから言ってはならないと思った。これ程の業を押し付けた地球連邦という国家を背負って立つと覚悟した以上は。

(これがタウ・リン。悲しいな。実に悲しい。もしも道が違えば良き友に、あるいは自分以上の政治家にでもなんにでもなれただろう。
それは彼の覇気から分かる。だからこそ、ゴップ長官には共感できない。たとえ必要であってもこんな事が許されるのだろうか?
そして一体いつからだろう、臆病な窓際で良い思っていた自分が勤労精神に目覚め、自己犠牲に走るようになったのは?)

そして知らずに自嘲する。

(ああ、全く持って度し難いな)

それも気に入らないだろう。タウ・リンが闇なら、ウィリアム・ケンブリッジは光。
タウ・リンが混乱と破壊ならウィリアム・ケンブリッジは秩序と再生。
これほど水と油の関係も無いだろう。恐らくはタウ・リン自身も分かっている。これがどうしようもないと言う事を。
そしてどうしようもないと言う上で抑えきれない激情だった。

「そうか・・・・・・・・・全て知ったか・・・・・・・・だからって俺はお前を許さん。分かっているさ、これが身勝手な事だってことは。
だがな!! どいつもこいつもさも当然に正義を語るこの世界でどれだけの人間が犠牲になったのか、そして俺の様な屑のくそ野郎の悪党の所為で一体全体、心底死んで逝く奴には関係ねぇ主義主張の為に死んで逝ったのか、そいつを知るにはちょっとした儀式が必要だ!!
それが俺の最後の持論でな。どいつもこいつも、ジオン・ズム・ダイクンだの連邦だの枢軸だのジオンだのティターンズの何だのと貴様らはそうやって高みからさも存在しても信じる人間を助けるしか包容力の無い役に立たねェ神様の様に高みから見下ろし、俺たち弱者を見下す!!
一体全体何様のつもりだ!? あの男は世界を操っていた。自分は死なない不老不死の男で神であるとか・・・・そんな馬鹿な考えでも持ってたとでも言うのか!?」

流れた血が銃口を赤く濡らす。
銃身と血の匂いで辺りが嫌なにおいがする。
SP達がいつでも射殺できるように銃を構え、ダグザやリムらも身構えていた。

「儀式・・・・・それが私の血だと?」

お喋りが過ぎたな。

「ふん、俺はアンタが嫌いだ。そして世界はアンタが好きで、世界は俺が憎い。これ程までに立派な理由は無いと思うがね」


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