ある男のガンダム戦記06 <狼狽する虚像>宇宙世紀0079.08.03.地球から最も遠いスペースコロニー、サイド3はジオン公国を名乗り地球連邦政府に対して宣戦を布告、独立戦争を仕掛けてきた。宣戦布告開始時刻と同時にジオンは行動する。サイド1ザーン、サイド2ハッテ、サイド4ムーア、サイド5ルウムの四つのサイドにサスロ・ザビが最後通牒を突き付けた。宣戦布告から僅か30分後の事である。直通回線で突き付けられたのは以下の通り。・各コロニー駐留連邦軍の退去。・連邦駐留艦隊の武装解除並び艦艇の引き渡し。・局外中立の宣言。・制限時間は12時間。これらを守らない、施行しない場合は四サイドを地球連邦と見なし攻撃する。また、その際に民間施設への攻撃、コロニー本体への攻撃も辞さない。更に、だ。これらの責任は四つのコロニー自治政府と連邦軍に責任がある。もっとも、12時間では世論を誘導するどころか政治家らが決断を下す事さえ出来なかっただろう。よって殆どこの攻撃は決定されているものと各サイドは判断した。ジオン側に交渉する気はない。このままでは先制攻撃を受けるだろう。『やられる前に、やれ!』ドズル指揮下の主力艦隊がソロモンを出発し、行方が分からなくなって既に24時間以上。不安の身が各サイドの上層部に蔓延した。そもそも連邦軍が優勢なのは総数であり防衛拠点ごとに見たらジオンと同等かそれ以下しかない。コロニー自体もソロモン要塞や資源開発衛星だったルナツーの様な頑強さは持ってないのだ。まさかコロニーで決戦など考えるだけでおぞましい。『このままだと攻められる、戦火が市民に及ぶ。そうなる前に、ジオン軍が攻めて来る前に攻めろ。幸い時間的余裕はあるのだ。ジオンの出鼻をくじけ。ジオン艦隊の帰る所を占領して根無し草にし、逆にジオン艦隊を武装解除させろ!』恐怖と期待感と楽観がない交ぜになった地球連邦政府の各コロニー連絡府と各コロニー自治政府、加えてエアーズ市、グランダ市にある月面方面艦隊は数隻の護衛艦を残してソロモンとジオン本国を突く事とする。戦前に検討された戦略の一つの様に。と言う理由から、つまり市民感情からか、ソロモン要塞と隣接したザーン、ムーアの二つの駐留艦隊は先手を取る事を決定。それぞれ周囲の偵察艦隊や独立艦隊を合流させて凡そ30隻ずつ、合同艦隊を編成しソロモンを二正面から強襲・・・・・しようとした。だが、その目論見は外される。漆黒の闇の中で一際目立つ赤いゲルググがビームライフルを構えた。目標は至近距離。いくらミノフスキー粒子散布下とはいえ外す訳もない。士官学校を次席で卒業したパイロットは躊躇なく引き金を引く。粒子が加速し、ビームが銃口から三度発射された。その高熱は、エンジンを守る巡洋艦の装甲を簡単に貫通したようだ。光が突き刺さり、暫くして爆発する。直ぐにMSのメインブースターを使い距離を稼ぐ。撃沈した巡洋艦の発生させるデブリにぶつかって墜落してしまうなど彼の矜持が許さない。「これで二隻め、か・・・・・MS-14ゲルググ。前に乗っていたカスタムザクとは大違いだ。ビーム兵器標準搭載機・・・・・・使えるな」サイド1方面から来た連邦軍を迎え撃っているジオン軍。ザンジバル級機動巡洋艦と新型機ゲルググのみで編成されたジオンの切り札の一つ。通称、特別教導艦隊である。ジオン軍は思い切った手をうつ。ドズルの第一艦隊はその全力をサイド2、サイド4に向けたのだ。そしてサイド1方面の連邦軍には4分の1程度の戦力で抑えるようにした。その為の切り札が、7隻だけで編成されたザンジバル級であり、ジオン初のビーム兵器搭載艦載機のゲルググであった。しかも「黒い三連星」や「青い巨星」、「荒野の迅雷」と呼ばれる事無になるエースパイロット部隊が多い。また、三連星や巨星、迅雷などはチーム戦を重視する指揮官らであり、個人の武功に走る傾向のあるジオン軍の中で異質の存在。よって連邦軍にとっては組織面でも性質が悪い。ジオン軍が個人で攻撃してくるなら数で圧倒できたかもしれないがミノフスキー粒子下の戦闘を想定した組織戦を仕掛けられては正直なところ手も足も出ないと言って良かった。実際、艦載機が100機前後だったサイド1駐留艦隊はミノフスキー粒子散布後の戦いでは完全に後手後手に回っている。と、赤いゲルググのパイロットが次の獲物に狙いを定めようとした時、レーザー通信が入る。『四番艦フェンリルのゲラート・シュマイザー少佐だ。戦場にいる全機に通達する。これより我が艦のフェンリル隊は敵旗艦右舷後方下部より総攻撃を仕掛ける。他の部隊は混乱に乗じ、残存艦隊を各個撃破せよ』そう言って一隻のザンジバル、『フェンリル』にて編成された闇夜のフェンリル隊が攻勢に転じる。傍らにはケルゲレン所属のノリス・パッカード中佐の紺系統のゲルググが部隊を指揮し、北欧神話の狼の進撃ルートを切り開くべく、90mmマシンガンで連邦軍の艦載機を次々と落とす。一撃で火を噴き誘爆するセイバーフィッシュ。彼の指揮下にある機体は全てビーフライフルでは無く、MMP-90マシンガンに換装していた。これは最初から決まっていた事で、半分のゲルググは制宙権を確保するべくセイバーフィッシュを弾幕を張れるマシンガンで狩り出している。・・・・・そう、既に戦闘は狩りとなっていた。依然として連邦軍が秩序だった行動を取り、虐殺に突入して無いのはマゼラン級戦艦が2隻おり、艦隊戦力として10隻歩健在だからに過ぎない。「ふむ・・・・・この戦線の均衡もこれで崩れるな」とビームナギナタで目の前に来たセイバーフィッシュを落とす。中にはソロモン要塞攻撃用だったと思うパブリク攻撃艇もいた。攻撃機を迎撃に投入している時点で勝敗は決していたのかもしれない。どちらかと言うと機関砲よりも撃墜すると対艦用ミサイルごと爆散するので逆に注意している。『各機、下手に近寄るな。敵機の爆発に巻き込まれるぞ。落ち着いて正確にかつ慎重に行動しろ。360度上下前後左右の警戒を厳に』レーザー回線越しにノリス中佐の命令が聞こえる。ノリス指揮下のケルゲレン中隊もまた圧倒している様だ。「ふーむ、流石は教導大隊出身者。ザビ家の私兵であるジオン親衛隊に匹敵する艦隊と言われるだけはあるな。ほぼ無傷で4倍の敵を殲滅する、か」パイロットのシャア・アズナブル中尉は更に一隻のサラミスを轟沈させつつ呟く。ビーム兵器とミノフスキー粒子、MSの機動性は連邦軍を完全に圧倒していた。セイバーフィッシュの機関砲ではMSの装甲は貫通できず、搭載している対艦ミサイルは無線誘導なのでミノフスキー粒子散布下では当たらない。さらにまぐれ当たりでも装甲が強化されたゲルググのシールドに弾かれてしまう。そして機動性、加速性、旋回性、火力で圧倒するMSの前にただなすすべもなく撃破されていく。「さて、次は連邦軍のMSを叩かせてもらおうか」そう言うとシャアは僚機を尻目に一気に旗艦と思われるマゼラン級に突撃した。1機のガンキャノン初期型が肩のキャノン砲を放つがそれを余裕を持って回避する。「甘いな!」思わず叫ぶ。ビームライフルを腰につけ、ビームナギナタを使いガンキャノンを正面から一刀両断にした。数瞬の後、自分と同じ赤い連邦のMSは爆散。新たな宇宙ゴミとなる。続いてそれらの僚機と思われるガンキャノンのマシンガンの火線が向けられるも、左足でデブリを蹴ると言う荒業で一気に距離を取り回避。そのまま仰け反る様な視線と姿勢でビームライフルを2斉射。左側のガンキャノン初期型を撃墜。もう一機は逃走しようとして、青いゲルググに後ろから撃たれた。そのまま残存艦隊へと襲撃をかける青いゲルググとのその指揮下の部隊達。それを見て独語するシャア。「しかし・・・・・ソロモン要塞から艦隊を発進させ、その後に各サイドを脅す。敢えて大量破壊兵器を保持しつつも戦略的な奇襲をせずにソロモンを攻めさせる。ソロモンを攻めなければ各サイドの自治政府が倒れる、虐殺される、戦場にされると錯覚する様に仕向けるとは・・・・サスロ・ザビの情報印象操作、あなどれん。そしてそれを見越したギレン・ザビ。そのギレンの思惑を戦術面、戦略面で昇華させているドズル・ザビ」団結したザビ家は自分の予想をはるかに超えていた。その結果がこの戦いだ。30対7という劣勢は関係ない。MS隊は敵を圧倒しており、まもなく戦力比は4対7になる。(まさかこれ程とは・・・・・・やはりガルマを利用するしか無い様だ)戦場で謀略を巡らせるその姿は正に余裕。それを象徴するかのように黒いバックパックを改良したゲルググ三機が後方に陣取っていたマゼラン級を斜め上空から攻撃。見事な編隊運動で11発ものビームを叩き込み、そのままマゼランは沈黙、爆発させた。今回投入される予定の63機のゲルググは開き直った軍部と財務官僚によって決戦兵器に位置付けられた。その為、全てのゲルググが別物として特別改修されている。整備兵曰く、『くたばれ』というから余程の事なのだろう。(確かミゲル・ガイア中尉だったな。彼らは私に反発しているからな・・・・・駒にはならんか・・・・・あれはランバ・ラルか?ランバ・ラル隊18機はこの部隊でも最大級で更に白兵戦の玄人たち。私のファルメルと合流すれば27機。約半数・・・・手札は多い方が良い。しかし、あくまで信じられなければ意味がない。戦闘のプロとしては良いがギレンやドズルに尻尾を振る現状、ザビ家の犬と言う現実・・・・・あまり認めたくないものだ。地球への脱出まで支援してくれたラル家が私たちを見限ってザビ家につくなどとは、な)そう言いつつも残敵掃討段階になった戦場でシャアは予備兵装の90mmマシンガンで敵航宙機を撃墜する。ソロモンを挟撃する事で攻略せんと欲した連邦軍60隻の内サイド1駐留艦隊は予想外の抵抗に遭遇し、壊滅する事になった。『バカな!! 諜報部の報告ではジオン艦隊はルナツーを狙うのではなかったのか!?』『味方は如何した!! MSがこんなに強いなんて聞いてないぞ!!』『こちらガダルカナル、航行不能。艦を放棄する。繰りか・・・・』『来た! 青いやつだ!! 青い奴らの一つ目の群だ!!』『情報部のくそったれぇ!!!』『いやぁぁぁぁぁ』ミノフスキー粒子散布下でかすかに聞き取れる連邦軍の通信は完全なパニックだった。爆散する連邦軍の艦載機。一刀両断にされるガンキャノン。逃げ出す巡洋艦に、伝説の魔獣のエンブレムを持った新たなる兵器の群によって沈められていく戦闘艦。もう軍隊として機能してない。こうして連邦軍サイド1駐留艦隊は、0079.08.04の正午を迎える前に、サイド1のほんの少しを出た場所で、4分の1の敵に捕捉され壊滅した。この緒戦、サイド1攻防戦の損害比は凡そ5対1.ゲルググ2機の完全喪失だけで200機を超すセイバーフィッシュ、パブリク攻撃艇、ガンキャノン初期型の混合部隊と2隻のマゼラン、25隻のサラミスが永久に失われた。一方、ドズル・ザビ指揮下の第1艦隊も似た様な結末を敵に与えていた。8月1日にソロモンを出港して敢えて熱源を絶つ。慣性航行に入りそのまま24時間待つ。連邦軍はミノフスキー粒子の高濃度散布下の宇宙を進まざるをえず、その為かサイド1側の戦闘の救難通信を見逃した。見逃したと言うと語弊がある。正確には聞いたが内容が分からなかったと言える。決断を下せなかったというベキかもしれない。『全艦隊、主砲用意。目標、ソロモン要塞!』僅か30隻でジオン最大の要塞を攻略する事に不安しかわかない将兵。それでもソロモン要塞に攻撃をかける。時間さえ立てばサイド1の艦隊が援軍に来る。そうすれば駐留する艦艇が15隻に満たないジオン軍など一掃できる。このままソロモンを落とせ! 俺たちは開戦劈頭で英雄になれるぞ、と鼓舞する指揮官。(もっとも陸兵も居ない状況では占領なぞ出来ない。だったら艦隊だけさっさと壊滅させてその時に発生する損害を理由にルナツーへの撤退許可をもらわなければ。部下共はともかく、俺は地球出身のエリートなんだ。こんな所で無駄死にはご免だ!)が、口調とは裏腹にその指揮官にも不満と不安は残る。ますます強くなる。ノーマルスーツを着ているのに汗がびっしょりだ。しかも艦橋の司令官席の手すりから手が離れない。(ドズル・ザビの艦隊はどこに行った?例のMSは何故一機も出てこない? 要塞の固定砲台以外は何故撃って来ないのだ!?)そしてその不安は突如として舞い降りた一機のリック・ドムの手によって現実のものとなる。緑と青のカラーリングをした、試作型ビームバズーカを装備するアナベル・ガトー大尉のリック・ドムが彼の旗艦の艦橋を撃ちぬいた。何が起きたのか分からぬもまま絶命する司令官。そして指揮系統は混乱し、ガトーのリック・ドムは続けざまに直援のガンキャノンをヒートサーベルで真っ二つにする。奇襲方法は原始的。先ずはMSに反射材を使った横断幕を傘の様に持たせ、それを展開。その後、ワルキューレのカタパルトを使って宇宙開発初期から使われている非熱源の無音潜航、慣性航行。続いて、上空から急降下爆撃機の様な角度で先兵として敵マゼラン級を急襲。「遅い!!」引き金を更に引く。今度は撃沈したマゼランの横にいたサラミスが目標となった。此方も右舷に4発のビームを受けて炎上、大破、ミサイルに引火して即座に轟沈した。怒りに狂ったガンキャノンの2個小隊6機がガトーを狙うが、それこそがドズルらの狙い。続けざまに前方の艦隊に爆発が続出する。同じよう要領で発進したリック・ドムⅡが奇襲をしかけたのだ。戦闘機も攻撃艇もソロモン攻略に振り向けた為、直援機をガンキャノンのみに頼ったサイド4駐留艦隊も後手に回る。奇しくもサイド1駐留艦隊と同じ様なパターンである。それでも上方へ回頭してドズル艦隊迎撃の為に戦おうとしたのだが・・・・・それは叶う事無かった。一撃離脱型のドムタイプが再び360mmの巨砲ジャイアント・バズという凶器を持って艦の底やエンジン部に牙をむく。ビーム兵器を唯一搭載していたガトー大尉専用リック・ドムも即座に一隻沈める。「これで三つ!」ガトーの叫びに各部隊が呼応。一斉に攻撃を強化。残っていたセイバーフィッシュ隊はザク部隊の壁に阻まれてドズル指揮下の本体にも艦隊の救援にもたどり着けず壊滅。最早、戦力としては通告外になった連邦軍だったが泣きっ面に蜂と言うものかドズル艦隊からも艦砲射撃が後方部隊に集中する。断末魔の悲鳴を上げる艦隊に止めを刺したのはやはりビーム兵器だった。リック・ドムが迎撃のガンキャノンを瞬殺し、そのまま防衛線を突破。『悪夢だ、これは悪夢だ! ソロモンの悪夢だ!!』あるサラミス級の艦長は後世にさえ残る名言を吐き、それが戦場域に伝わったのジオン側が確認したかのように撃沈された。完全に消滅した指揮系統。あとはソロモンの鴨撃ちと評される程の醜態をさらす連邦軍と実弾演習と嘲笑するジオン軍だけが残る。「撃ち方やめ!」ドズルが態々命令を下すほどの呆気なさで所詮は終わった。このころジオン親衛隊は月面方面艦隊を駆逐。小規模な偵察艦隊の脱出こそ許したものの、ドロス、ドロワの艦砲とザクⅡ改の高性能さで月軌道にまで上がってきた連邦軍を撃破する。特に大鑑巨砲主義であったマゼラン級が一方的に撃ち減らされた姿はグラナダ市、エアーズ市、アンマン市などの月の裏側のルナリアン(月市民)らの戦意を砕く。これにギレンの政略が効果を奏して、次々と月面都市を無血開城。エギーユ・デラーズ准将もまた圧倒的な戦果を持って、月軌道会戦を勝利に導く。残存した5隻程の連邦艦隊は一斉にサイド5ルウムへと転進。救援部隊であった2つの独立艦隊サラミス級軽巡洋艦8隻とコロンブス改級改装空母2隻のサイド5へと進路を取り、月面の支配者は連邦からジオンへと変わった。「白い狼?」偵察に出た機体から入った最後の報告。司令官がノーマルスーツ越しに参謀に問い直したその直後、130機近いザク高機動型の襲撃を受ける。司令官の反応が遅れた為、艦隊全体も反応が遅れた。こうしてア・バオア・クー会戦で初弾を発射したのはジオン軍の方だった。敵は最初からMSを出していた。いたが、目立った動きがなかった。だから判断したのだ。『敵艦隊は自軍に自信がない。ここ、ア・バオア・クーと呼ばれる宙域で敵を拘束する事はサイド2を守る我が軍にとって必要不可欠である。合戦用意。敵艦隊に連邦の力を思い知らせろ』そう訓示したのだが・・・・・見誤ったらしい。一方的に沈むのはこちらの方だ。ガンポッドという連邦宇宙開発局と軍が共同開発した無人誘導兵器はミノフスキー粒子らしきもののせいで使用不能。この言葉には語弊があるか。使用できるが当たらないのだ。100発撃って1発でもかすれば良い方だ。(これでは戦えない。一度体勢を立て直すべくサイド2まで戻るべきか?)マゼラン級戦艦トータチスの艦長イライザ・オロマはここにきて意見具申すべきだと判断する。(これ以上の戦闘は明らかに失策。兵士を無駄死にさせることになる!!既に艦艇の3分の1を失っている以上、我々はここに留まるべきでは無い。ルナツーとルウムの戦力を合わせれば目の前のジオン第三艦隊の10倍は揃えられる。それならば今は戦力の温存を図るべきではないのか?)そこまで思った時。ユニコーンのエンブレムを付けた機体が紅い高機動型ザクが、同じ系統の白い高機動型ザクの支援の下、稲妻のようなスピードで崩壊しつつも対空砲にて弾幕を張る艦隊を一直線に駆け抜けた。「不味い!!」ナダが何か叫んだが、私は冷静に決断した。もう旗艦は助からないのだ、と。そして白いザクに食い破られた艦載機の群は必死に逃げながら・・・・・機動性も運動性も加速性も武装も装甲もパイロットの技量も全てに優越するMSの前に撃ち落とされていく。「これはもう駄目だな」副長のフェゼが絶望に浸った声で発言する。それはレーザー通信を経由したのか他艦にも伝わったらしく辛うじて保たれていた均衡が一気に崩れだした。『エリザ機、私の攻撃後に小隊を率いて目前のサラミス級を沈める! 行くぞ!!』『了解しました、マツナガ中尉殿!』拾った通信が後の白狼とよばれたドズルの最も信頼する将校の一人であるとは会戦後に知る。ただこの時私たちの言える事は私達の前で旗艦が轟沈したと言う事実だけ。MSなぞただの人形だ、そう言ってこちらのMS隊をサイド2に置いてきた艦隊司令官は戦死。『月面方面艦隊並び各地の独立艦隊と合流し100隻の大軍となって迎撃に出るジオン軍を撃破する。その後はそのままサイド3へ直行。よろこべ貴様ら、2週間以内に公王府で無礼講だ』といった司令官はア・バオア・クーと呼ばれるジオン軍の要塞の直前で戦死した事になる。直ぐに艦橋から発光信号弾と発光信号、レーザー回線、シャトルを出して味方を、数少ない生き残りを纏めようとする。この間、自分の艦が生き残ったのが不思議なくらいだ。ノーマルスーツ内で思わず吐きそうになった。ストレスだ。『これより艦隊の指揮はトータチスのイライザ・オロマ中佐が取る。全制宙戦闘機隊は一撃離脱を行いつつ後退せよ。サラミス級を!」『二隻沈没。真紅と白いザクがそれぞれ単機でやった模様!!』『被弾したサラミス級を放棄。乗員は白旗を掲げ降伏せよ。戦闘可能艦はこのまま後退しつつ戦闘を続行。後退先はサイド5のルウムだ』この発光信号を解読したジオン軍は攻勢に転じた。特にティベ級とムサイ後期生産型という火力よりも防御力、MS搭載力、速度を重視している艦隊なので追撃戦にはもってこいの艦隊だ。(しかも司令官はドズルが最も信頼する機動艦隊の指揮官コンスコン少将。恐らくは直ぐに戦線を再構築してくるだろう)イライザの予想通り、ジオン軍の艦隊が前進を開始する。損傷艦らしい損傷艦を持たないジオン軍はまさに烈火のごとく攻撃を強めてきた。何より、補給の為に帰還した高機動型ザクの大半が損傷らしい損傷をしておらず、直ぐに戦線へと再投入できたのが良い。そんな旗艦ティベの控室。「あんた、シン・マツナガ中尉だろう?」コンスコン少将の旗艦ティベのパイロット控室でソフトドリンクを飲んでいたシン・マツナガ中尉は紅いノーマルスーツの大尉から話しかけられる。「そうであります、大尉殿。何かご用でしょうか?」敬礼して背筋を伸ばす。それを見て大尉は手をひらひらさせた。「堅苦しいのは無し。それにあんたも俺も同じ少佐だ」と言う。そう言ってポケットから情報端末とメモリーディスクを渡す。メモリーディスクには二つの昇進に関する辞令があった。『先の戦闘に対して貴官の奮闘に敬意を表し、二階級特進とする シン・マツナガ中尉』『先の戦闘に対して貴官の奮闘に敬意を表し、一階級昇進とする ジョニー・ライデン大尉』と。どうやら高機動型ザクの火力不足を考え、MS隊の指揮官としてサラミス級を集中的に沈め艦隊としての戦力を削ると言う案をコンスコン少将は高く評価して下さった様だ。(これからも恩義あるドズル中将の期待に応えなければな)「そうそう、それをさっき廊下で伝令から受けとったんでな。せっかくだしマツナガ家の跡取りのあんたとも話したくて・・・・・どうだ、この戦いが終わったら一杯付き合わないか?」自分とは正反対の性格。軽い人間だと悪く捉えられる事もあるだろうに、それを感じさせない底抜けの明るさ。「良かろう。お互い生き延びて祝杯を上げよう」その言葉を待っていたとばかりにライデン大尉、いや、少佐は右手を差し出してきた。ノーマルスーツ越しだがしっかりと握る。「ああ、とびっきりの美味い日本酒とやらを期待してるぜ、マツナガ少佐」「ああ、任せてくれ。ライデン少佐」それから5分間ほど他愛ないお喋りをしていたが、再出撃の準備が整ったという整備班の報告を受けてブリーフィングを行う。既に連邦艦隊は半数を消失し宇宙のゴミと化していた。戦闘よりもそのゴミを回避する方が大変だと言う雑談が聞こえる。残りの半数も無傷な艦は片手で足りる。更に敵はサイド2を見限り全速でサイド5にいる味方と合流するつもりだ。つまり、無防備な後方を晒しながら逃げ出している。士気の面で圧倒的優位に立ったのは間違いない。そう白狼は思った。ブリーフィングルームでは司令官自らが訓示を行っている。「司令官のコンスコンだ。貴官らにはまだ苦労を掛けるが・・・・・申し訳ないが・・・・もう一働きしてもらう。さて、この敵艦隊だが連邦軍の友軍と合流されると厄介極まりない。何故ならこの艦隊はMSの戦術に関するノウハウを持っている。我々に敗れた事それ自体が貴重な情報源となり、我が軍のMS戦術解明に利用されるだろう。よって、出来うる限り叩く。情報を遮断する事が目的であるので撃沈よりも撃破に集中してほしい。また、義勇外人部隊が後続部隊としてサイド3を出発した。我々はその露払いという役目もある。サイド2占領は総帥府の厳命である以上、この艦隊を徹底的に叩くことは戦略上の要請であるが・・・・・・なに質問は?」そこでライデン少佐が手を挙げた。「その義勇外人部隊とは?」コンスコン少将も詳細は知らされてないらしい。が、地球連邦軍に比べて考えるのも馬鹿馬鹿しい位人的資源に劣るジオン軍では珍しく、多くの陸戦兵員を乗せた補給艦と強襲揚陸艦を持つ部隊である。MSはリック・ドムが基本となっている事、海兵隊が所属している事などを挙げた。「要するにサイド2の占領軍ですか?」「おい」ライデンの余りにも愚直な意見に思わず注意した。「貴官の言う通りだ。仮に宇宙で補足された場合、サイド2占領は延期か失敗に終わり、このア・バオア・クー会戦はピュロスの勝利に終わるだろう。各員の健闘に期待する。他に質問は?」そうしている内に会議は終わる。といっても5分も無かったが。誰も手を上げない。ここで一々聞いているようでは軍事大国ジオンの屋台骨を支える事など出来はしないだろう。それは戦友たちも分かっている。「何もないか。では各機、再発進だ。連邦軍サイド2駐留艦隊を徹底的に叩け!」この後直ぐにコンスコン指揮下の第三艦隊は猛攻に転じた。結果、マゼラン級であり臨時旗艦のトーチタスは轟沈。乗員も6割が戦死した。臨時の旗艦で損傷著しいとはいえ最強の一角と信じていたマゼラン級がこうも簡単かつあっさりとMSに沈められた事実は衝撃以上の何かをサイド2駐留艦隊にもたらす。そしてサイド2駐留艦隊は少なくなった戦力を二手に分ける。サイド5へ撤退する艦隊と、近場のサイド2に逃げ込んだ艦隊である。特に酷かったのは逃げ込んだ艦隊の方だ。負け戦で気が立っていた連邦兵は首都バンチの駐留部隊共同歩調を取るかのように、サイド2市民に対してあらん限りの乱暴狼藉を、首都アイランド・イフィッシュで行う。この為、反連邦感情が一気に噴出。勝ち馬に乗る、或いは恐怖、若しくは抑圧からの解放や後ろめたさからなのか、教条主義的なコロニー解放運動がサイド2にて発生。この運動が暴動になり、暴動が反乱になるのは時間の問題であった。ギレンの戦略の下、サスロが各地のサイドで編成した親ジオン派閥の武装決起は戦力の空白が発生した各サイドで発生するがそれはこれより若干あとである。兎にも角にもジオンの占領軍である義勇外人艦隊とシーマ海兵隊が治安を回復するまで続いた。宇宙世紀0079.08.10詳細がルナツーに入る。一週間で3つのサイドは事実上陥落し、月は完全に敵の支配下に落ちた。月の表側フォン・ブラウン市らとサイド6は中立化しているので地球連邦に残された拠点はサイド5ルウムとルナツー、そして研究所兼軍需工廠しているグリーン・ノア(サイド7)しか無い事になる。拡大ISSの艦隊はルナツーに撤退、拡大ISS自体は大気圏に突入させて放棄する事がゴップ大将以下、統合幕僚本部にて決定している。無論。文官の私は知らないし知りたくもない。一週間で失われた連邦宇宙軍の兵士は40万名に達する見通しで、これは連邦宇宙軍全軍の約4分の1に匹敵する。大敗北と言っても良いが、まだ逆転の目はある。奇襲も無くなり、ルナツー所属の正規艦隊が健在な今こそ反撃のチャンスだとレビル将軍は先の会議で皆に言っていた。(・・・・・少し楽観過ぎないだろうか?)そう思うが文官が口出しする事じゃないと思っていたので黙っている。仕方ないだろう。自分は経済と法律、政治学は学んだが軍事の専門教育なんて受けてない。精々昔強制的にやらされた新兵向けの体力作りと拳銃、アサルトライフルの撃ち方の実弾講習程度なのだ。そんな素人の目線でもこの連邦軍随一の要所ルナツーが嘗て無い程の緊迫状態であるのだけは分かった。「一週間戦争ですね」私こと、ウィリアム・ケンブリッジにダグザ大尉が言ってきた。(言い得て妙だな)因みに私が先ほどの会議でこの言葉を引用してティアンム提督らにMSの脅威を訴えた為、『一週間戦争』というお題目は地球圏全域に知られる事になる。(・・・・・・・・またやってしまった、と思うのは自分だけだろうか?このままだと共和制ローマを終わらせた事実上のローマ帝国初代皇帝ユリウス・カエサルになってしまう)文官の癖に軍事に口出しできると言う連邦始まって以来のあやふやな立場が拍車をかけてくれる。(もう・・・・・いや・・・・・頼むから地球の片隅に左遷してくれ。家族ともども窓際族で良いから・・・・・神様頼みます)もっとも、神は中々奇跡を起こしてくれないからこそ崇められるわけで・・・・・私の信じる神もそう簡単に願い事を叶えてくれない。さて、現実に戻ろう。私たちはこの非常事態、ジオンとの開戦、に対応する為、護衛隊隊長ダグザ大尉、各サラミス級の艦長、シナプス司令官、レイヤー、ヒーリィ、タチバナら三小隊のメンバーに妻のリムを含めて会議を招集する。携帯用の情報端末を操作してBBCニュースとジオニック・ラインの放送を見せる。『連邦宇宙艦隊は大打撃を受けました。ジオン側の公表によりますと地球連邦軍宇宙艦隊の喪失艦艇は150隻に達し、損傷艦艇も50隻を超えます。サイド1、サイド2、サイド4は無防備都市宣言を出そうとしている模様ですが詳細は分かりません。月全土はジオンの支配下にある事がフォン・ブラウン市とグラナダ市の共同宣言にて分かりました。なお、サイド2は首都が陥落したとの報告が宇宙部の記者から上がっております。これが事実ならば地球連邦宇宙軍のコロニー駐留艦隊、月面方面艦隊の壊滅を意味しており、我が地球連邦は宇宙の半分をジオンの手に渡したと言えるでしょう』『地球連邦軍は我らジオンの精鋭の前に脆くも崩れ去った。我がジオン軍は2倍以上の敵を相手に勇猛果敢に奮戦。これを撃破、大勝利をもぎ取った。が、これで我が軍の快進撃は終わらない。ジオン艦隊はソロモンにて補給を終了後、サイド2にて極秘作戦を展開している。ソロモン会戦、月軌道会戦、ア・バオア・クー会戦に続き、更なる勝利を国民に約束する!!必ずや地球連邦政府は打倒され、我がジオンの独立は達成されるだろう!!ジーク・ジオン!!!』BBCは比較的に中立放送だが、ジオン国営放送は完全にプロパガンダ。ああ、何か含み笑いするギレン氏やサスロ氏の顔が簡単に思い浮かべられる。あの二人ならそうするか。恐らくデギン公王の胃を痛めさせながら。戦争が後1か月前だったら妻ともどもジャブロー勤務だったのに!!ふざけるなよ!! あの独裁者が!!「それで政務次官、今はどういう状況なんですか?」アニタ・ジュリアン伍長が遠慮なく聞いてくる。少しは空気を読んでほしいが・・・・・そうだな。女性に言うセリフじゃないか。「うーん、この点はリム・・・・ではなくて、ケンブリッジ中佐に伝えてあるから話してもらおうか」これは最初から決めていた。これは個人的な理由が大きい。何せこの間離婚届にサインしろと半泣き状態で突っ込んできた妻を宥めた。理由はアンダーソン伍長らが企画した飲み会に招待された事だ。しかも自分だけ。それが大いなる誤解を招いた。若い女性とイチャイチャした事を察した鋭い妻の感は例のニュータイプかと思う。因みにこの艦隊は女性士官の割合が多い。作戦参謀のマオ・リャン大尉、艦隊管制官(MS管制官ではない)のミユ・タキザワ少尉に各MS小隊の女性オペレーターなど明らかに狙ったとしか思えない人事だ。整備兵さえ女性兵だ(流石にこれは唖然とした)。しかもレーチェル・ミルスティーンというジャブローからのお目付け役まで女性と来た。絶対に夫婦生活をぶち壊す気だろう。そう思って秘話回線を使って編成に携わったというジャミトフ・ハイマン准将を叩き起こしてやった(それで寝不足で不機嫌なジャミトフ先輩に尋ねたところ最悪な答えが帰って来た。先輩曰く、「お前は極度の女好きだからな。リム・ケンブリッジ中佐を追いかける為だけに第一等官僚選抜試験に合格したのは祖国アメリカでは有名だ。だから少しは配慮した。有望な男性兵以上に優秀な女性兵の人材を集めた。各地の陸海空軍に海兵隊、宇宙軍に士官候補生と選抜は大変だったんだぞ」というとても有り難いお言葉を頂いた。誰がいつ何時女好きだって言ったんだ!!俺が追いかけた女の背中は今も昔もそして将来もリムだけだよ!・・・・・・お蔭でその日は一睡もできなかったんだ。泣かれるは押し倒されるは飲むは引っ叩かれるは離婚届は突き付けられるはでもう最悪。死刑囚の気分だったよ・・・・・・無事に帰ったら・・・・・・いや絶対に生きて帰ってやる。そしてジャミトフ先輩をドゲザさせてやる!!)という事で、女性兵からの質問は基本的にリムが答える。要らぬ反発を招くからだ。主に夫婦生活で。それは子供の教育に良くない。まあ、リムとこういう事を話す事で政治と軍事面の折り合いがつくのだから良い面も多々あるのだが。「では、アニタ。これを見て」そう言ってリム・ケンブリッジ中佐はデジタル時計と宇宙の勢力図、艦隊の配置をメイン・モニターに映し出す。もちろん、ジオン艦隊は予想位置だ。ジオン公国が発令したブリティッシュ作戦。それは電撃戦による各サイドの占領と占領したサイドを利用した連邦への脅迫だった。宇宙世紀0079.8月3日。地球から最も遠いサイド3のジオン軍はサイド1、サイド2、サイド4の各駐留艦隊をおびき出す。開戦から僅か40時間で3つサイド駐留艦隊は壊滅し28万名の戦死者を出した。だが、その大敗も次の大敗の序曲でしかなかった。8月5日。月面方面艦隊、月軌道会戦にて敗北後、ジオン親衛隊に月面諸都市はジオン公国に全面降伏を決定。偵察艦隊と独立艦隊2個を含んだ極僅かな艦艇のみが地球軌道に退避する。8月7日。ジオン海兵隊を中心とした艦隊がサイド2を占領。その後、首都バンチ「アイランド・イフィッシュ」からの全人員の完全退去を開始。ルナツーと決死の覚悟で出した偵察艦隊、現地残留部隊や諜報員からの報告によると既に本日10日の時点で8割がたが退去された模様。なお、各コロニーからは自治政府首班と政財界の一部、富裕層がサイド5に亡命中。ふと、また女性オペレーターの一人が手を上げる。(確か・・・・タチバナ中尉の部隊のオペレーターだったな)「それって亡命政権が出来たって事ですよね?確か正式な報告は明日の筈ですけど」エレン・ロシュフィル伍長が遠慮なく聞く。この辺は女同士のネットワークの強さなのか強かである。この間シナプス大佐らと飲んだ時にも愚痴にあがったなぁ。「ええ、エレンの言う通りよ。サイド1、2、4は亡命政権、コロニー解放戦線の樹立を宣言しています。詳細はレイチェルから渡されたデータを見てね。それと・・・・・ここからが重要です」一旦コーヒーを口に含む。自分はあまり、と言うか、完全に軍事には疎いので妻に全部説明を任せる。妻は旗艦ペガサスの艦長であると同時に艦隊のNo2なのだ。実質というだけでは無く、階級的にも。それにしてもコーヒーが不味い。やはりコーヒーはキリマンジャロ産に限る・・・・・いかんな、地球至上主義に毒されてきたか?「ジオン軍はMSと同時に何らかの電波攪乱手段を導入しています。その方法は不明ですが一番の可能性が高いのはミノフスキー粒子と思われるわ。そしてそれ故に各地の連邦軍は大敗したのだと言えます」更にコーヒーが不味くなった気分だ。と、その時。ノエル・アンダーソン伍長が何か聞きかけた時ルナツーの会議室に緊張が走った。放送だ。それも基地全体への。『第3艦隊、第5艦隊はティアンム提督指揮下の下、13日00.00を持って出撃する第3艦隊、第5艦隊乗組員は12日18.00まで自由行動、23.00までに乗船、配置を完了せよ』やはり。上層部曰く想定内の作戦とやらだ。連邦政府は亡命政権を見捨てないというスタンスを見せている。そして事実上陥落した三つのサイドはコロニー早期解放を掲げた。各コロニーを見捨てない。これは当然だろう。それは地球連邦の存在意義なのだ。市民を守るのが連邦軍であるが、その大元は、市民を守る最終的な責任は地球連邦政府が責任を担う。だからこそ税金を初め多くの巨大な権限を与えられている。「それが力と秩序の象徴である駐留艦隊の消滅に加え、サイド2首都の制圧。これで何もしなければ地球連邦は解体だな」現実問題としてジオンが抑えたのはサイド2のアイランド・イフィッシュだけ。そして他のサイドは恫喝で終わっている。としても、連邦政府の構成上、危機である事は関係ない。連邦にとって軍が大敗を喫して支配下にあるコロニーが離れる事が問題だ。サイドが独立すれば次は州政府が独立する。地球の各州が独立すればそれは地球連邦と言う組織の完全なる解体。「ハルマゲドン・・・・・聖書級大災厄・・・・・笑えないよ」それにだ、面子を守る為の逐次投入など世界史を紐解けばいくらでもある。政治の都合で軍事が振り回されるなど常識以前の話だろう。ええいくそ、あのクソじじい。そこまで深読みしたのかよ?もしかして・・・・・いや確実にあのクソじじいは自分の面子の為にサイド2早期解放作戦とか考えて軍に発令したな?でなきゃこんなに早く艦隊が出港するか!!(うん?なんでこっちを見る?リム、説明は如何した?シナプス大佐、何故感心したようにこっちを見ているのですか?タチバナ中尉らも一体なんだその納得した様な視線は?)「声、でてたわよ」ぼそと妻が言った。思わず顔が赤くなる。と言う事はあの妄想は全部知られたわけか?10は違う若い女性らに・・・・・しかも一人はジャブロー勤務の女性士官。これは・・・・・開戦早々早速死亡が確定したな。泣いて良いですか、神様。畜生!!「それで・・・・・次官殿はどうお考えです?」ダグザ大尉が聞いてくる。他のメンバーも注目している。これは逃れられない。しっかりと妄想・・・・・・もとい、意見を述べなければ。「予想と想像と願望があるからしっかりした事は言えないが・・・・・まず前提条件だ。第一に、ジオン公国の目的は連邦宇宙艦隊の早期壊滅とその戦果を元にした早期講和による独立の承認だ。それと勘違いしている人間が軍に、特に若手士官や中堅官僚が多いが、連邦宇宙軍の存在意義は各コロニー、月面都市防衛の為である。決して対ジオン撃滅の為では無い。である以上、ジオン撃滅は手段であり目的では無い。そしてそれはギレン・ザビ総帥らも知っている。その証拠に要所ソロモンと本国を空にすると言う大胆な戦略を取った。我が軍の内情から、専守防衛によるコロニー防衛よりもジオン本国を突くと考えたんだ。そして言い難いが軍は見事にその策略に乗った。ジオン本国と言う禁断甘い果実に手を伸ばして・・・・・・真っ二つに両断された。これが連邦軍駐留艦隊壊滅の政治的、戦略的な理由・・・・・と言うか要因だ」ちょっとちょっと。みんな。なにその凄い、と言う目は?その尊敬の眼差しは?ジオンの狙いがどこにあるかなんて常識でしょ?彼らは独立がしたい、連邦はジオン軍を撃滅したい。ならば、餌を用意すれば食いつくでしょ?ギレン氏と話せばそれくらい・・・・・あれ・・・・・もしかしなくても話した事あるのって俺くらいか!?ああもう・・・・・・またぞろ何か嫌な予感がする。「それで次官はこの次はどうなる、と?」ダグザ大尉が続きを促し、「コロニーに核パルスエンジンを装着中と言う報告がありますが・・・・この真偽は?」コーウェン少将の秘書官でもあり軍上層部と政府(自分ことウィリアム・ケンブリッジ政務次官)との連絡役であるレイチェル氏が聞いてきた。あの離婚騒動はアンダーソン伍長ことノエルお嬢さんが切っ掛けだが彼女に誘われてお酒を一緒にしたのも原因だった。それをリムに見られた。あれは不味かった。拳銃突き付けられて押し倒される。リムに、「私を捨てるのか!? 子供たちへの愛は嘘なの!? 愛してるって言ったじゃない!!」と言われたのは怖かった。「何言ってんだ、愛しているのはお前だけだ」と言っても聞かない。だから唇で唇を塞いでやって何とかなったんだよな。頼むから外交とか話し合いとかそう言う言葉をみんな知ろう?ニュータイプ議論の前にもっと重要な事あるでしょ!さて本題に戻ろう。またもや後には引けないのだろうから。「この光学センサーで確認された核パルス装着は事実だろうね。その為の強制疎開だ。内部からの工作を恐れている証拠。ところでシナプス司令官はこう考えているのではないかな?ジオン軍の次の作戦はコロニー自体を巨大な弾頭に見立て地球に落着させる事。目標は地球連邦軍本部並び地球連邦首都ジャブロー、と」不安げな表情や憤りの表情がそれぞれの顔にでる。男たちは感情を制御しているが、女性兵士たちの、しかもエレン、ノエル、アニタらお嬢さんらオペレーターたちはそれが引き起こす大惨事を想像したのか恐怖にひきつっている。そんな中、リムだけが面白そうにこちらを見ている。(やれやれ・・・・・お見通しですか。お姫様)私にとってのシンデレラ、或いは白雪姫は愉快そうな表情をその黒い瞳に映している。私もアルマーニのスーツのジャケットを着直して、ネクタイを締め直すと真面目に語った。「まず、コロニー落とし作戦は無いでしょう。ギレン氏らはコロニーの、正確にはサイド3事、ジオンの独立が目的です。ここで連邦全体の怒りや憎悪を買う事が確実なコロニー落とし作戦などは愚策も愚策です。そもそもコロニー落としをするならば近年の非加盟国との交渉やコロニーへの穏健的な対応などする必要はない。無差別核攻撃などでコロニーごと駐留艦隊を撃破してしまえば良い。その方が後方の安全も保障できる筈。よって、コロニー落としは現時点で最低の作戦です。政戦両面で。何故なら先程も言ったように地上には非連邦加盟国と言う存在がある。この潜在的な同盟国を敵に回す事はあの聡明な独裁者はしないでしょうな。ああ、これも現時点では、という条件が付きますけどね。では何故ここまで大々的にコロニーへの核パルスエンジン装着を行っているか?理由は先ほどの放送ですか。ルナツー駐留の正規艦隊壊滅が狙いですよ。まず間違いありません」因みに、この後ほど迂闊という言葉を思い知った事は無かった。何故なら久しぶりに演説ぶったせいでとんでもない苦労に恐怖を味わう事になるのだから。宇宙世紀0079.08.16サイド2奪還作戦『赤壁』が発令された。なんで連邦非加盟国の戦史から作戦名を取ったのか謎であったが、まあ、関係ないかと無視する。ティアンム提督には出撃するな、キングダム首相には出撃命令撤回を要求したが所詮は文官で政務次官の一人。戦争中に軍隊の行動を止められる権限はないし、元々首相からは嫌われ役の便利屋扱いなので意思疎通も片側通行。つまり、無視。黙殺。キングダム首相も決して悪い人物でも無能でもないが、彼はもう76歳なのだ。老人特有の経験則に、自分の意見に固執する傾向が強いのも当然だろう。『黙っておれ!!』(一喝でした。残念な事に何を言っても聞いてもらえず最後は憲兵に部屋から引きずり出される始末)しかも失敗を糊塗したい中級官僚や同僚たち、対ジオン融和派として票を集めその票を全て失いつつある連邦議員さんらの保身が連邦を縛る。この点、挙国一致のジオンとは大きく違うな、と思える。(それに北米州が、祖国が何かおかしい。この重要な時期にアサルティア中将を初めとして第1艦隊の上級将校全員を解任した。いや、確かに戦力に余裕はまだあるし、アサルティア中将らよりもライアン中将の方が宇宙戦のエキスパートなのはわかるし、人員交代も制宙権を確保しているから間に合うだろうけど・・・・何か変じゃないか?)と、思っていると今度はダグザ大尉が一枚のメモリーディスクを持ってくる。黒に白いライン。宇宙軍の辞令だ。因みに白に黒は陸軍、青に白は海軍、青に黒は海兵、白のみは空軍の辞令である。地球連邦軍はいまだ完全に統合されてないので命令系統や辞令についても複雑である。無論、赤に白と言う統合軍用の辞令もあるが使われた事は無い。と、妻がベッドの上で教えてくれた。『地球連邦軍本部ジャブローより、宇宙艦隊司令部ルナツーへ伝令。第10艦隊を17日15時ちょうどに地球第二周回軌道へと打ち上げを完了する。ティアンム中将は第3艦隊、第5艦隊、第10艦隊との合流後、サイド2奪還を目指す事』この時、戦力分散の愚に遅まきながらかつ中途半端ながらも気が付いた連邦軍は三個艦隊150隻を持ってジオン軍撃滅に当たらんとしていた。が、それは甘すぎる考えであった。ジオン公国のドズル・ザビはミノフスキー粒子を使った索敵網の無力化を利用して大胆な地球軌道への侵入作戦を実行。コロニーと言うお荷物を持たないドズル・ザビ指揮下の第一、第三の二個艦隊で第10艦隊を強襲。打ち上げ直後で満足な航行も反撃も出来ない連邦軍に再び圧勝する。そしてサイド2に待ち構えていたジオン公国軍の義勇外人部隊、ジオン海兵隊(選抜された各地のMS混成大隊)、ジオン親衛隊、独立教導艦隊の4つの部隊と地球連邦軍正規艦隊の第3艦隊、第5艦隊は交戦。全てのMS隊、コア・ブースター隊を投入して、ビーム兵器搭載のゲルググ11機を撃墜破するも、被害は甚大。第3艦隊旗艦バーミンガムは無傷だったが、艦隊戦力の7割を喪失した。特にジオンの移動要塞ドロス、ドロワに完全に撃ち負けした事は連邦宇宙軍の士気をズタズタに切り裂いた。今まではMSに負けたと言えたのに、今回は艦隊の砲撃戦で敗れたと言えるのだから。宇宙世紀0079.08.20の事である。そしてジオンは戦力を再編し、ルウムに全軍を進軍させる。一方、連邦政府(特に北米州の議員らが中心)と連邦軍(こちらも北米州と極東州所属の上級将校中心)はコロニー落としの危険性とルナツー陥落の可能性から第1艦隊、第2艦隊を地球軌道とルナツー防衛に残す事を決定。そしてもたらされる驚愕の知らせ。『第14独立艦隊はルウム自治政府首班ならび亡命政権首班保護の為にルナツーを出港せよ。現地にて最善の行動を取られたし。なお、政府要人護送用に高速シャトル『スカイ・ワン』の随伴も命令する』あの時の嫌な予感が現実のものとなりつつある。私は思い切って聞いた。これを直接伝えてくれた親切な将官、エルラン氏に。「エルラン中将・・・・・で、我らに戦場へ行けと?」私は完全にひきつった顔で目の前のエルラン中将の顔を見ている。が、エルラン中将はどこ吹く風でこちらを見ており、私の哀願など無視した。「君に戦えとは言わん。当たり前だ、君は文官なのだからな。だが、ジャブローの連邦政府はそうは捉えてない。まずは聞きたまえ、ああもちろんオフレコだ」そう言ってイヤホンを付ける。聞こえるのはどうやら地球連邦安全保障会議の内容だ。知っている声がちらほら聞こえる。『この責任は融和政策を取った首相にある』『そうだ! 死んでいった40万名もの将兵とその遺族何と言って謝罪するつもりだ!!』『責任を取り辞任するべきだ』とまあ、野次のオンパレード。取り敢えず犠牲の子羊さがしに全力を挙げている方々、中にはパラヤなど知っているメンバーの声音もあった。それでたじたじになっている政府首班(地球連邦安全保障会議のジオン融和派メンバー)だが、それでも言い返す。『これは陰謀だ。君たちはジオンに担がれている。ここで首相を解任すればジオンに付け入る隙をさらに与える。そうしてはならない。まずは我々が結束しなければならない。そう、数十年前の北インド問題の様に』『ジオンだけが相手では無い。地球の非連邦各国にこそ目を向けるべきだ。この敗北は早期の大勝利によって覆さなければならい。そうでなければ調子づいた枢軸軍を止めることは出来ないではないか!事実、ジオンと連動して朝鮮半島は30万の連邦軍と50万の人民軍の大軍が睨み合っている』『シリアの聖戦宣言も問題だ。宗教が政治に口を出すのは許されない。それが連邦憲法の基本理念だ。だからこそ、我が連邦政府は今倒れる訳にはいかない、いや、倒れるかもしれないと言う幻想さえ見せてはならいのだよ!』『信愛なる諸君。安心せよ。我々にはまだ正規艦隊が存在する。確かに第10艦隊は事故で失ったが、それでもジオンの三倍の戦力を持ってあたるから問題は無い。そうだ、その増援の一例として第8艦隊と第9艦隊の打ち上げも行う。無論、先の失敗は繰り返さない様に地球軌道をそのまま脱出できるだけの推進力を与える。そうして艦隊決戦に勝利すれば良い。ジオンを占領するなど容易い。ジオンが地球を制圧する事などないのだ』『ではコロニーを地球に落とすと言うギレン・ザビの発言は無視すると?占領下にあるサイド2をみすみす敵の手に渡したままでいろと?各サイドとの物流の途絶がどの様な経済的な損失を連邦に与えるか首相や内閣府はお分かりなのか?』『エッシェンバッハ北米州議員の言う通り。我が極東州議員連合派一刻も早く対応すべきと考える。正直、ジオンの独立も認めてよい』その発言に一気に会場が、連邦議会議場がざわめいた。『・・・・・・・本気ですかな?』『連邦の経済は30億と言うスペースノイドの消費と彼らが支払う税金で維持されていた。それが無くなるのです。下手をしなくともこの戦争中は。そして足元の非加盟国の挑発行為によって発生している地球戦線とでもいうべき大規模な対立。ジオンと連邦と言う小国と大国間とは違い、我が地球連邦と非加盟国群はどちらも互いに相手を完全に占領できる力がない分、鳩の喧嘩の様に凄惨たる有様になるのは確実。それならば早期講和を行っても良いのでは?』『N・・・・・Noだぁぁぁ!!!』『しゅ、首相!?』『聞きたまえ諸君。まずは宇宙にいるケンブリッジ政務次官を使って亡命政権のメンバーを保護するそして亡命政権を認め、ジオンを屈服させる。戦前の、いや反乱勃発前に戻す。それが政府の決定だ』あの男は信用できませんな。ギレン・ザビらと繋がっている。この大反攻作戦にも反対だと言っている。軍事を何も分かって無い。三倍の味方が敗れる筈はない』『そうだ。奴に責任を取らせるのだ。そもそもやつが悪い。奴がギレン・ザビを侮るように進言したのだ!!そしてサイド3へ武力侵攻し、この戦争を終わらせる!!それでよいではないか!!』『お、横暴だ』『待て、現場の言う事を無視して現場に丸投げするのか?しかも今はいない人物に責任があるだと・・・・恥を知れ!!』『だいたい緒戦の敗北の責任はどうした!! 誰が取るのだ!?なんだかんだ言って総辞職するのが嫌なだけだろう!!』『ここに政府は非常事態宣言を発令する。議会は終戦まで閉鎖する。議長、この案件の決を採れ!!』『首相、そんな勝手な事が許される筈がありませんぞ!!』『何を言うか売国奴!! ジオンに屈する方が連邦の威信をコケにしておるわ!!』『一時閉会、一時閉会します!! 全員退去しなさい。繰り返します、全員は退去しなさい!!』眩暈がした。何というか・・・・・此処まで酷いとは。完全に責任のなすりつけ合い。しかも首相の絶叫付きと来た。こりゃあ・・・・・・早期決戦を連邦政府も望むのも無理はない。ただ非加盟国問題があるから早期決戦を双方が望むのは分かるし、戦う以上大勝利を求めるのも理解できる。が、だからと言って最前線に立て、納得しろというのは無理だ。しかも軍事にド素人なのに何故か戦術家としても有能だと思われてないか?ええい、俺は臆病者で十分なのに!!(というか、俺の名前が思いっきり出てな。あのくそ首相、精神は大丈夫なのか?俺をスケープゴートに選んだ事と良い、連邦史上最大の敗北を喫した事と良い、完全に頭に血がのぼってるぞ。これは近い将来政変が起きそうだ)と、現実逃避してみる。だけど、現実逃避はあくまで逃避であって、実際に現実の問題から逃げることは出来ないんだよ。「という訳だ。首相の体調が優れないので将来的にはゴップ統合幕僚本部本部長か宇宙艦隊司令長官のレビル将軍が軍の総指揮を執るだろう。が、今は違う。連邦政府の命令により先の敗北にもかかわらず連邦軍はジオン軍に決戦を挑む。意味は分かるだろう? 君は優秀だからな。それにしても君は運も良いな」思わず画面に拳を叩きつけたい。極秘レーザー通信とはいえ、中々本題に入らないエルラン中将にいらっときた。「ルウムでの決戦は我が軍の勝利で終わるだろう。如何にMSが強力でも第4艦隊、第6艦隊、第7艦隊、第8艦隊、第9艦隊の5個正規艦隊にティアンム提督の残存第3艦隊と第14独立艦隊を除くすべての独立艦隊7つ、そしてコロニー駐留艦隊を再編成した第11艦隊だ。忌々しい事実だが大勝したし、我が軍は敗北した。とはいえジオン軍も度重なる戦闘で消耗しているからやはり三倍の戦力を揃えられる。世紀の大決戦を君は肉眼でみられるのだ。実に羨ましいな」くそ、そこまで言うなら代わってやろう!さっさと地球から、その安全なジャブローと言う巣穴から出てこい!!拳の震えが止まらない。「第14独立艦隊の出港は本体から遅れる事2日。まあ、ルウムで勝利すれば亡命政権がそれぞれのサイドに帰れるのは時間の問題だ。その時に我が連邦軍の強さを見せる為の第14独立艦隊だと思ってくれ。それでは、勝利を最前線で見れる君の幸運に乾杯」そう言って通信は切れた。後には真っ暗な画面だけが残っている。一瞬夢かなと思ったが、次の瞬間情報端末に接続されていたプリンターが命令書を印刷するのを見て現実なんだと思い知らされる。そう思った瞬間、涙がこぼれだした。怖いんだ。ああ、とてもとても怖い。キシリア・ザビ暗殺事件とは比べ物にならないくらい怖い。怖くて怖くて・・・・とても怖くて仕方がない。前とは違うのだ。今度は明確に自分を殺しに来る。殺意と武器を持って、数え切れないほどの人間が殺しに来る。そう思うと今すぐにでも逃げ出したい。前も思ったが俺は英雄なんかになりたくはないんだよ。ただ平和に、家族仲良く暮らせればそれで良かった。だから手紙を・・・・・遺書を書く。勿論妻には内緒だ。ジャブローにいる両親に。自分はどれだけ両親と子供たちを愛しているか、を。どれだけ感謝しているかを。そしてほんの少しだけ安堵した。どうやら妻が自分の知らないところでジオンに殺される事はなさそうだ、という事実。ずっと一緒にいた幼馴染と共に逝けるという事実。この二つの事実と現実に少しだけだが安堵した。神に感謝した。(二人ともごめんな・・・・・・お父さんもお母さんも帰れそうにない。父さん、母さん、子供たちを頼むな)宇宙世紀0079.08.23サイド5近郊に連邦軍が7個艦隊約336隻の大艦隊を集結させる。方やジオン公国軍もア・バオア・クー、ソロモンから守備隊のチベ級全てを引っ張り出した上に、本国からも10隻のムサイ級を増援に組み込む。ジオン艦隊も総数108隻に達した。更に士気高揚の為、グワジン級戦艦グレート・デギンにデギン公王とガルマ・ザビが自ら乗船、督戦する事となる。連邦とジオンの艦隊の戦力比は約3対1。士気は互角。航宙艦載機の数は連邦軍が、MSは質量ともにジオンが遥かに優位。補給線は双方問題なし。『人類史上に宇宙での戦争無し!まして艦隊決戦の試し無し!ジオン国民諸君、歴史をつくるべし!!』ギレン・ザビの号令と共に、示し合わせたかの如く双方の艦隊が行動を開始した。後にルウム戦役と呼ばれる戦いの始まりである。そして私はサイド5、ルウムの後方8000kmに陣取る事になる。観戦官僚という訳のわからない地位と権限を与えられて。命令は単純。ジオン軍を友軍が完全に撃破し、サイド3を占領するまで自由行動をせよ、であった。