「はーい、みなさんこんにちは!!
パソコンは一日1時間!ここまで読んでくださった皆さんの疑問に答えるQ&Aコーナー『グリーングラス道場』!
師範は私、アステリア・グリーングラス。弟子はもちろん――ってあれ?」
目の前で竹刀を振るうアステリアに、私はため息をついた。
しっかりとホグワーツの制服に身を包んだ私は、いまさらながらに自己紹介をする。
「ダフネに代わって来た。セレネ・ゴーントだ」
「せ、セレネ先輩っ!!」
「で、このコーナーの趣旨は?」
なんか泣き出しそうなくらい驚いているアステリアをスルーし、さっさと本題に入ることにする。アステリアは何か言いたそうな顔をしていたが、気を取り直してあっけらかんとした笑顔になった。
「はい!ここまで読んでくださって、本当にありがとうございました!!という意味を込めて、このコーナーはスリザリンの継承者作成秘話や、本編に出せなかった伏線を回収するコーナーであります!!」
「まぁ――秘話は分かるけど、出せなかった伏線なんかあるのか?」
「ありますよ!たんまーりと」
アステリアは、ぷくんっと顔を膨らませる。
そして、『設定資料集』と書かれた紙束をドサリっと道場にばらまいた。
「例えばこれです!
『アステリアが回ってきた平行世界のセレネ末路集』!」
「…わざわざ作成してたんだな」
「当然です!本編で断片だけを書こうとしたのですが、展開の都合上お蔵入りになってしまったんですよ」
私はその資料を受け取り、ざっと目を通した。
読めば読むほど、気持ち悪くなる。なにせ、自分の死が書かれているのだから。
「54話の提案を断っていたら、ヴォルデモートにレイプされていたのか。精神的に壊されて廃人になるENDも多すぎないか?
というか、国外逃亡しても、アラヤって魔術師に私は殺される運命にあるんだな」
「正確には、『身体を乗っ取られる』です」
どっちにしろ、『セレネ・ゴーントが死ぬ』事実には変わりない。
セレネが死んでいない回も沢山あったが、肉体的に死んでいないだけで、吸魂鬼に心を壊される回数があまりにも多かった。主に、吸魂鬼がうようよと徘徊するアズカバンに投獄されて。
私は顔をしかめながら、最後まで読み通す。
「それで、最後――18度目のループ、これは本編でもアステリアが説明していたな」
83話で説明されたループを思い返してみる。
最終決戦の時になって、ようやくポッターの中に宿るヴォルデモートに気がついた回だ。この回の私はハリーの味方であり、慌ててハリーの中の分霊箱を破壊した――のはいいのだが、周りに説明せずに破壊してしまったせいで『裏切り者』と誤解され、激高したウィーズリー兄妹に殺されたのだとか。
「ん?ここ――補足って書いてあるけど、なんだこれ?」
「あっ、実は18回目のループが今作本編に大きくかかわってきているんです!」
「なんでだ?」
私が首をかしげると、アステリアは竹刀をトンっとついた。
「実は、ハリーは先輩が殺された後――すぐに意識を取り戻すんです」
「まぁ、そうだろうな」
私が壊したのは、ハリー・ポッターの中に巣くうヴォルデモートの魂のみ、だが――壊した直後はショックでハリーが仮死状態に陥ってしまう。だが、仮死状態であって本人に戻ってくる意志があれば、ちゃんと此方側へ戻ってこられるのだ。
「目覚めたハリーは、今まで自分が仮死状態であったことや、セレネは自分の中のヴォルデモートを殺してくれたことを皆に説明するんですよ。つまり死後、誤解が解けた先輩は信仰の対象になるんです!」
「は、はぁ?私が信仰の対象!?」
思わず唖然としてしまった。
今までの話の流れのどこに、信仰云々っぽい言葉が出てきたのだろう?驚きのあまり開いた口がふさがらないとは、まさにこのこと。しかしアステリアは驚く私に構わず、大真面目な顔で言葉を続ける。
「はい。『世界を救うために命を賭した聖少女』として」
「物は言いようだな――で、それがどうしたの?」
「はい。それで『英霊(守護者)』になり、衛宮切嗣のもとに召喚されるようになるのでした!」
「待て待て待て!!」
つい、バンバンっと卓袱台を叩いてしまった。
話がついていけない。
「つまり、なんだ?いきなりFateの第四次聖杯戦争の話になるのか!?」
「はい。触媒は、イリヤの玩具のナイフ――つまり、物語後半で先輩が使っていたナイフですね。衛宮切嗣のサーヴァント:キャスターとして現界した先輩は、見事、聖杯戦争を終結に導くのです!
もっとも、全てが終わってからは切嗣との契約を断って、アイリスフィールと契約していましたらしいですが」
「いや、だからちょっと待て!!『プリズマ☆イリヤ』時空の流れだと公言してなかったか?」
「『プリヤっぽい平行世界』と言いましたよ。
セイバーが召喚されずに、アイリスフィールとイリヤの中の聖杯も直死の魔眼で壊されたけど、なんやかんやで大火災が起こって士郎が孤児になってしまった世界です」
「……」
話がついていけない。
私は少し頭を抱えると、なんとか理解できるように話を整理した。
「つまり――なんだ?
衛宮切嗣さんが、10年前――平行軸の『セレネ・ゴーント』を召喚した?」
「はい!92話に登場した先輩は、サーヴァントになった先輩です!
ハッフルパフのカップを破壊したのも、サーヴァントになった先輩ですよ。本当は本編で明らかにしたかったんですけど――」
「ですけど?」
「『あまりにもハリポタとかけ離れて説明が大変』とのことで、お蔵入りになりました」
「……」
いや、説明をお蔵入りにするな。
あの私を『両儀式』みたいな存在だと思った人が大半だったんだぞ?説明を投げ出すな。
伏線がちりばめられてなくもないが、これを拾い集めて正解した人が何人いることやら――。
「ちなみに、先輩がキャスターとして召喚されたことによって、雁夜おじさんがバーサーカーをセイバーの位で、龍之介がキャスターの代わりにCCCランサーをバーサーカーの位で召喚しています!」
「いや、もう型月設定はいい。
そもそもこれは『ちょっとだけ型月』じゃなかったのか?」
それを指摘すると、アステリアはバツの悪そうな顔になった。
「最初は『ハリポタ世界に魔眼持ちがいたら面白くない?』と思っていた寺町でしたが、途中で『いや、魔眼殺しがないとセレネが正気失う』と言うことに思い至り、『少しだけ型月世界と合わせよう』と暴走した結果、こんなことになってしまったんです。
つまり寺町朱穂が初心を貫いていれば、こんなことには――」
「はいはい、寺町のせい寺町のせい!」
ポンポンッと手を叩いた。
「だいたい型月の皆さんのキャラが濃いんですよ!」
「しつこい、型月ネタ!
ってことはアレか?シルバー・ウィルクスも型月関係者なのか?」
「違います」
断言され、少し驚いてしまった。
シルバー・ウィルクスと言うオリキャラは、明らかに魔術協会とか型月用語をたくさん知っていた。だから、もっと深くかかわってくるのかと思ったのだが――
「あれは、序盤――型月世界と重なっていますよーって言うだけのキャラです」
「キャラ濃かっただろ、アイツ?」
「いや、本当にそれだけのキャラなんです。
物語の進行上、両方の世界を知っている人を増やそうと思って作り出したキャラです。
ヴォルデモートに仕えた理由も、ただ『面白そうだから』という快楽主義者。たぶん、本編終了後に遊び半分で世界をひっくり返します」
「とんでもなく迷惑な奴だな」
言われてみれば、つかみどころのない奴のような気がしていたが……
「死喰い人つながりで思い出したんだが、セドリックはどうなったんだ?
なんだか、裁判長になったとか語られていたが?」
「セドリックさんは、死喰い人でしたが人殺しなどしたことがないので、あっさりと釈放されたみたいですよ。そして、魔法界の司法の立て直しをしたみたいです」
「司法の立て直し?」
言われてみれば、魔法界の三権分立されていない。
魔法省がトップで、罪人を捌く権利を得て、法律も作成する。全て魔法省に権力が集まっている。セドリックはそんな状況を打破したかったのだろう。
『公平に物事を考える』をモットーとしていた奴だから、魔法界の裁判が納得いかなかったのかもしれない。ぼんやりと、そんなことを考えた。
「それで、他にお蔵入りした設定や秘話は何かあるのか?」
「うん、そうですね――
それなら、『カルカロフが腕を自ら切り落とす設定は、寺町朱穂のオリジナル設定です』でしょう」
……。
それは『設定』というのだろうか?
いや、設定には変わりない。だけど、ここでぶっちゃけることなのか?
私は首をかしげてしまった。
「いや、今言わなくてもいいだろ。原作を読み返してみても、そんな描写はない」
カルカロフは4巻で逃走してから、以後――消息にまつわる話が登場したのは6巻の最初だ。掘立小屋かどこかで死体になって発見された、という奴。それまで、なにも現在のカルカロフに関する情報は出てこなかったはずだ。日刊預言者新聞も闇払いも騎士団もカルカロフの現在に関する情報を公開していなかった。
あのカルカロフ語りは、完全に寺町の想像にすぎないのだ。
「はい。だからこその確認です。
あれは、あくまで寺町朱穂の予想したカルカロフの結末。
ですが、にじふぁん時代の最後の頃――某ハリポタ二次創作に、それもハリー視点で『カルカロフが腕を切り落として逃走した』って一文があったのです!」
「……はい?」
「その一文が某作品に書かれたのは、にじふぁん閉鎖寸前でしたし、その作品も既に削除されているので、特に気に留めないようにしていました。
まぁ、『スリザリンの継承者』にも、よくあるハリポタ二次創作の約束的なシーンが組み込まれていますし、仕方ないですよね。カルカロフの腕の一件も、約束的なシーンになったということでしょう。
それでも、『カルカロフが腕を斬って逃走した』っていう文はおかしいですよ。カルカロフの痕跡が発見されたのは死んでからなんですから。いくら超人的なハリー・ポッターであっても、4巻だか5巻の時点で知るわけがないのですから!!」
「……それで、他に設定秘話は?」
無理やり話題を変えようとする。
こんなところで、過去の愚痴を語ったところで何もならないではないか。
アステリアは、設定資料集をバラバラっと捲った。
「そうですね――他にコレと言って話す価値のある話はないのですが」
いや、今までの話も微妙だっただろ。と、突っ込みたくなる気持ちを抑える。
「じゃあ、反省とかないのか?」
「もちろん、セレネ先輩を救えなかったことです!!」
「いや、それ以外で」
「そうですね――
更新速度が一気に遅くなってしまったことです。本当でしたら、去年――いや、一昨年の夏には終わっているはずだったんですけど、移転したりや改訂したり量を増やしたり書くのが辛くなったりで、こんな時期になってしまいましたってことですね」
それは、アステリアの反省じゃなくて、作者の反省だろ。
「それで?
反省はしているだけでは意味がない。しっかりと教訓を学び取ったのか?」
「もちろんですよ!」
アステリアは、ガッツポーズと共に不敵な笑みを浮かべた。
「1つ!
作品の根本的な部分を揺るがさない事!面白そうだって思っても、勝手に話を膨らませるべからず!慎重に作品展開を組み立てること!
2つ!
執筆中の作品が軌道にのって人気を得たら、2chを見るべからず!執筆意欲を失う危険性が大!……でも、中にはまっとうな指摘もあるので、しっかりと受け入れることも吉。
3つ!
長く書きすぎない!長引けば長引くほど、作者も寄り道したくなるし、読者も離れていくことを忘れること無かれ!
以上です!!」
それを生かせるかどうかは、また別だけど。
「それで、今後――寺町は二次創作を書いていく予定はあるのか?」
「そうですね。
理想郷で書くかは決めていませんが、ぼちぼち書いていくつもりみたいです。
ハリポタ含む二次創作の構想としては、そこまでチート&アンチ路線に奔らない作品を執筆したいです。また、二次創作を執筆する際には、小説家になろうの活動報告で発表させていただきますのでチェックしてください!
出来れば、他の作品も読んで下さるとうれしいです!」
「宣伝かよ!?」
なんか、突っ込みつかれてきた。
最後の最後でこの始末。色々と期待を裏切ってしまったような気がして、どことなく悪いように思わないのだろうか。
だが、これで終わりなのは事実なのだ。最後は笑顔で締めることにしよう。こほんっと、咳払いをすると、アステリアも察したのだろう。たたずまいを丁寧に直し、口を開いた。
「それでは、『スリザリンの継承者』は、これにて終了だ。
全7章、96話+αという長い話数にめげず、ここ読んでくださり、ありがとうございました!」
「これで、本当のお別れです!縁があれば、またお会いしましょう!!」
「「今までありがとうございました!!」」