「伝令、伝令――!」
エトルリア王国はアクレイア、その中の王居である巨大な城の中に、慌しい声が響く。
「何事だ!?」
息を切らしながら走ってきたソルジャーは、上官の、それも貴族に対してだというのに礼もとらずに続ける。
「やってきました!奴が……」
「リキア同盟軍か!」
早すぎる、とここの守護を任せられたナーシェンが毒づいた。
それも無理はない。今頃奴らは王都に入ってすらいないと踏んでいたのだ。目の前の兵士は戦闘準備が出来ている様子。けっして斥候となれるような様相ではない事から、目視が出来るレベルまで近づいているのだろう。
「まて、近くとも問題はないか……」
なんせこちらには、かなりの数のアーマーナイトたちがいる。彼らが壁になれば、かなりの時間稼ぎが出来るはず。その、筈だ。
今回の任務は、成功しか生きるすべはない。負けておめおめ逃げ帰りなどした日には、間違いなく自分の命はないだろう。そもそも負けて逃げられるかさえも疑わしい。
ナーシェンは人知れず、胸からぶら下げたデルフィの守りを握り締めていた。手袋の中は、じっとりと汗をかいている。
「それで、数は?」
横に佇んでいたダグラスが、冷静に尋ねる。
「はっ!やぐらから見えた限りでは、単騎であります!」
「単騎だって?」
普段冷静なダグラスが、目を丸くして驚いた。この王都に、単騎で突撃するだなんて一体どこのバカだ。お前の目が間違っていたんじゃないか、そう言おうとしたダグラスより先にソルジャーが続ける。
「申し訳ありません!単騎、というにはいささか語弊がありました。後続騎より圧倒的に速い速度でこちらに進軍してくる者が一騎。およそ通常の三倍です!」
「通常の……三倍?」
それはかなり腕の良い騎兵なのだろう。しかし、とダグラスは心中で首をひねった。騎兵が単騎で突撃してかく乱、という手法は広大な戦場で行われるものであって、この王城ではそれは出来ない。そもそもアーマーナイトたちに推しとどめられるだろう。
「その騎兵は、どのような容姿だった?」
ダグラスの脳裏に、パーシバルの姿が浮かんだ。奴がリキア同盟軍に加わったという話は聞いたし、そんなことが出来るのはおおよそ彼だろうと踏んだからだ。
「いえ、騎兵ではなく……アーマーナイト、いえ、ジェネラルです!」
「ジェネラル!?」
瞬間。ダグラスの背中につめたいものが降りた。まさか、あの子か。あの子なら……。
「鎧の、色は」
「はっ?赤色、でしたが……」
決まりだ。そのジェネラルは。こちらの陣に後続を置いてきてまで突撃してくるのは、彼女以外にいない。
「赤い、彗星……」
私の生涯を語ると、はいはいテンプレで終わってしまうレベルのものだ。
普通に過ごしてきたが、ある日不慮の事故で死亡。その後、前世の記憶を持ったまま転生。どこにでもあるような小説の中の話が私にも降りかかってきたときは、それはそれは驚いた。
どうやら私が転生したのは貴族、それもなかなか裕福な家で、私がこの世界についての情報を集めるのはかなり簡単だった。
エレブ。人竜戦役。エトルリア。リキア……。それらの名前にどこかで聞いたような既視感を覚えたが、その時の私は些細な既視感なんてどうでもよく、ただ本を読むのに忙しかった。
魔法、というものがある。空気中の魔素を集めて、放出するというものだ。魔導書という補助用のものがあり、それを解して炎や風を生み出すものであると物の本には書いてあった。。
この記述を見たとき、私の中に電流が走った。これは私の夢を実現させてくれると。
早速私はお父様に魔導書をねだった。前世の影響からか、あまり物を欲しがらなかった娘の頼み。無碍には出来なかった。
その結果家には大量の魔導書が入ることになった。元々母が魔道士でもあったためか、そこそこ家にはあったのだが。
魔法というのは、使っていればコツがおのずとつかめてくるもので、それが魔素を取り込む範囲を広くしたり、少ない魔素で大きな魔法を放つことにもつながる。この、魔素の変換効率などを魔力と呼ぶ、らしい。初心者用の教本にそう書いてあったから、おおよそ間違いではないのだろう。というかそれが間違いだったら来る日も来る日も魔法を打ちまくっていた幼少の頃の私が全否定されてしまう。
大気中のものを使うので、一応どの魔法も元は同じということになる。つまりは、光魔法を鍛えても闇魔法の威力は下がることは無く、むしろ上がっていくということに他ならない。……まぁ、其々の魔法で書式が違うので読めるように勉強する必要があるが。
来る日も来る日もウインドを、サンダーを、ファイアーを、ミィルを、ライトニングを打った。打って打って打ちまくった。その結果、かなり魔力は上がったほうだと思っている。ファイアー一発で山を消し飛ばしたときは流石に凍りついた。まさかイメージ一つでそんなことが出来るとは……。
そこまでやって、ようやく私の夢への下準備が出来たといえる。そこから私は体を鍛え、お父様に重騎士になりたいと懇願した。突然のことだったし、そもそも私は女だった。反対されたが、泣き落としで何とか許しをもらった。そして私は重騎士の騎士団に入隊し、晴れて重騎士の一人となったわけである。
そのときの周囲からの奇異の視線、それと訓練のきつさは本当に半端なものではなかった。突然魔道士から重騎士という正反対の職業に転職した変人女だと言われ、割と当然のことだが、やはり辛いものは辛かった。
元々魔道士であった私にとっては、鎧を着たままのランニングなんて終わった後必ずぶっ倒れていたし、戦闘訓練で山賊を相手にし、山賊をはじめて殺した日の夜は何度も吐いた。いっそ死んでしまおうかとも思ったが、夢の為には諦めるのはまだ早かった。
私の夢。それは、モビルスーツを操縦したいというものだった。
「そして今に至る、か」
戦場へと移動しながら考える。私の夢であったモビルスーツを動かすことは出来たのかできていないのか良くわからない。等身大の、鎧の様なものを着て中で動かす、というのが現状だからだ。十八メートルだとかの巨体ではなく、せいぜい三メートルほど。最近は正直これでも良いかなと思っているが、やはり巨大ロボットには乗ってみたかったなと思う。ロマンだし。
三メートルの鋼鉄の塊を動かす上で、私の鍛えに鍛えた魔力がここで発揮された。
魔法を使うのに一番変換効率が良いのは魔道書だが、使うと劣化していくのが難点だった。
しかし、世の中には便利なものがある。竜石、というらしいそれをいつだったか、砂漠で迷ったときにもらったのである。そこで会った巫女のソフィーヤが私の話を興味津々な顔で見ていたので、いつか会いに行ってあげたいなと思う。
話が逸れた。竜石、という物の何が良いかといえば、やはり使っても劣化しないところだろう。初めて使ってみたときは、感涙にむせび泣いた。たいそう貴重なものだろうと思うのにもう使わないから、あんたなら悪用はしないし、わしらの力が役に立つのなら、という理由でくれたおじいさん達マジイケメン。
風の魔法で体をホバーさせ、雷の魔法でモニターなどの動力を。火の魔法、光の魔法でビームサーベルなどの武器を。闇の魔法は格納庫に。様々な魔法を駆使し、作り上げた機体である『シナンジュ』を駆って戦闘を行い、システムの不具合を修正、改善していく。それを繰り返していただけなのにリキア同盟軍の主力になっているとは思わなかった。いやーびっくりだ。
「ウェンディさん、そろそろ出撃ですよ!」
「ああ、待っていてくれたまえ」
さて、今日も一暴れといこうか。
~~~~~~~~~~
ご都合主義全開だぜ。
アーマーナイトの癖にすばやさ上がりやすいし、ジェネラルの配色。あれピンクって言うか赤だよね。
ウェンディさん可愛い。