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No.34794の一覧
[0] 【壱捌話投稿】戯言なるままに生きるが候 (一夏改変IS・戯言&人間シリーズクロス)[不落八十八](2013/03/10 14:47)
[1] 壱話 出会いと別れ。[不落八十八](2012/09/04 16:46)
[2] 弐話 玩具な兵器。[不落八十八](2012/09/04 17:00)
[5] 参話 再びの再会。[不落八十八](2012/09/17 02:28)
[6] 肆話 出会うは最悪。[不落八十八](2012/09/17 02:28)
[7] 伍話 根源回帰。[不落八十八](2012/10/27 16:56)
[8] 陸話 誰がために道を歩む。 [不落八十八](2012/09/22 19:21)
[9] 外伝短編“柒飛ばし” 織斑千冬の人間関係[不落八十八](2012/12/18 23:24)
[10] 捌話 生まれ出でし混沌。[不落八十八](2012/09/17 11:19)
[11] 玖話 代替なる君へ。[不落八十八](2012/10/16 00:42)
[12] 壱零話 似た者同士。[不落八十八](2012/11/24 16:39)
[13] 壱壱話 嵐の渦中。[不落八十八](2012/10/06 01:16)
[14] 壱弐話 空が泣く日。[不落八十八](2012/10/13 23:00)
[15] 壱参話 壊れ始める世界の上で。[不落八十八](2012/10/27 11:27)
[16] 壱肆話 山猫さんの憂鬱日。[不落八十八](2012/10/27 14:16)
[17] 壱伍話 迷宮(冥求)[不落八十八](2012/11/24 13:34)
[18] 壱陸話 喪失(葬執)[不落八十八](2012/12/21 00:16)
[19] 外伝短編“壱柒飛ばし” 織斑千冬の人間関係② [不落八十八](2012/12/26 22:26)
[20] 壱捌話 戦争(線沿) NEW[不落八十八](2012/12/26 22:45)
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[34794] 捌話 生まれ出でし混沌。
Name: 不落八十八◆2f350079 ID:6f3b522c 前を表示する / 次を表示する
Date: 2012/09/17 11:19


 感情に流されるな、感情を流す側になれ。














 人にとって掛け替えの無いものとはなんだろうか。ぼくはお互いにつけた絆であると思う。
 絆とはお互いに付け合う傷の名前だろう、ならば、その傷が多ければ多いほどに傷跡は深まっていく。
 傷を付け合って確かめていく友情ってのは切っても切れない傷名になっていく。
 だからこそ人はそれを大切にして、友人という形を持って関わっていくのだ。
 その絆を持った一人が今、教壇の前に立っていた。"ぼく"ではなく彼との絆を持つ人物――中国代表候補生凰鈴音。
 栗色のツインテールに小柄でつるぺたんすとーんなボディバランスを持つ何処かガキ大将めいたポジティブシンキングの持ち主だ。
 何処か猫チックで元気な少女だとぼくは覚えていた。家の事情で半年しか一緒に居られなかったが、"ぼく"の友人であると言っていいはずだ。
 ランダムに振り分けられた席順でぼくはまん前。だから、必然的に目が合う距離に居る。

「久しぶりね、一夏」
「久しぶりだね、鈴ちゃん」

 さすがに皆の前で世間話はできないために軽い挨拶を済ませる。そのまま彼女は自身の自己紹介を終え、不敵に笑みを浮かべて割り振られた席へ歩いていった。
 千冬さん情報だと本来なら隣の二組に転入する予定だったらしいが、一組のクラスから人識くんの件以外で三人の行方不明者が出ているために急遽こちらに数合わせとしてねじ込められたらしい。
 行方不明者の居場所は知らないが、恐らく冷たい地面の下か熱いコンクリの上のどちらかだろう。
 最近近くで外国人を狙った連続殺人が行われているらしいから、きっと人識くんに違いない。
 取り敢えずぼくの知り合いは殺らないようにお願いしとかないといけないから、再び縁が"合う"ことを希望したいものだ。
 山田先生の号令を聞き、いつものようにつまらない授業が始まる。正直言って素人でも分かるような淡々とした簡単な授業。
 すでに独学でIS検定二級くらいは取れる域に達しているぼくにとっては児戯に等しい。担任が、いやここの教師に千冬さんが居なければボイコット確定くらいのつまらなさだ。
 そんなことを思っていたら携帯に着信のバイブ。開いてみれば鈴ちゃんからのメールだった。
 "久しぶりに見たけど変わりないわね。ちょっとは怪我でも病気でもしときなさいよ"
 それは強がりめいた冗句……だよね?
 取り合えず銃弾摘出と拉致の拷問の内容を書き連ねて使用された道具の写真も添付して送っておいた。
 後ろから凄まじい音が聞こえたが気にしない。冗句だ、と冷静に涼しい顔で狂言メールを送っておく。
 "ふざけないでよね!? 心配したじゃないの!"
 うむ、良いツンデレである。本来ならばいつも照れ隠しにグーパンか暴言が入るのだが、さすがにメールでは不可能のようだ。
 というか、普通に失態してるしかなりテンパッてるかもしれないな。この手の真実な冗句は金輪際やめておくとしよう。
 "勘違いするんじゃないわよ、アンタじゃなくて本当の一夏になんだからね!"
 地味に傷付く言葉が来てしまった。まぁ、確かにそうなんだけども……。今更本当のことだとは言えず、最近どうよ、と送っておく。
 鈴ちゃんもまた織斑一夏他人理論に落ち着いた人物の一人だ。少なくとも前の彼を知る人物で束さん以外は全てそうだ。
 束さんはぼくもまた一夏の一部であると考えてくれる数少ない理解者の一人だ。
 ……まぁ、前のぼくにはできなかったことをぼくでやっているようにも思えるが。主人とメイドごっこなるものは結構楽しかったけども。
 
「――であるからして、上昇時の機体の推進力で――」

 "別にどうもしないわよ。アンタのニュースを聞いてすぐさまここに転入手続きをしたくらいね。久しぶりに馬鹿やりましょ"
 そうだね、と返信し溜息をつく。馬鹿をやる、ね。それはぼくじゃなく前のぼくとだろう? 寂しいもんだね全く。
 右腕を見やればバングルのような状態のガントレットがあった。零式の待機状態だ。防具にもなるということだったので、耐久力は期待できるだろう。
 結局のところ第一次移行はした。というか、させられた。
 セシリアちゃんは本気のぼくと戦うことを切望しているらしく、若干色と装甲が増えただけの零式は皆にばれることがないような変化だったために無問題と処理されたのは良かった。セシリアちゃんとぼくが黙っておけばきっと問題に上がることすらないだろう。
 "そういえばあんたがクラス代表なのよね"
 結果的になってしまったのだから仕方が無いだろう。勝っちゃったんだし。今日の放課後にそれのパーティがあると返信。
 "何時からよ"
 食堂の利用時間後だから八時半以降だね、と返信。アレか、代表候補生レヴェルなら授業を聞かないでも大丈夫ってか。
 一応提出用のノートを書きながら事を行っているぼくだけど、少し心配だ。鈴ちゃんは感情をエネルギーに行動するタイプだから尚更だ。
 "よし、なら放課後に模擬戦をするわよ。勝った方が代表ってことでいいわよね"
 正直、無償で代わっても良いのだけれども。如何せんセシリアちゃんの地位が危ぶまれる。仕方なく了解と返信。
 さーて、どうしようか。正直代表候補生に勝っているわけで、別に出し惜しみなく潰してあげても構わないのだけれども。
 しかし、今回は前回と違い予備知識が無いのが痛い。少し検索をかけてみるか。中国の最新鋭ISは……っと。
 うん、やっぱり出ないなー。機密だよねそりゃ。ということで端末に持ち替えて今回も積雪さんに情報提供を頼むとしよう。
 ……いや、久しぶりに束さんにでも頼ってみるか。どんな返信が来るか楽しみだし。そう思って端末に隠しコードを打ち込み、束さんのアドレスへ中国IS機体情報提供求むと簡潔なメールを送る。
 まぁ、あの人のことだからお昼までには……、端末を見やれば新着メールが二件。一件目も二件目も同じ差出人で、尚且つ一件目が軽くて二件目が重い。……仕事速すぎませんかね束さん。取り合えず情報から見るか。
 "やっほー! いーくんからの(以下略"
 長いッ。まさか一件目の方が機体情報で二件目が雑談だとは思わなかった。……返信は後にしておこうかな。
 この場で見る気分もなくなったので若干机に突っ伏す。ふわぁ……、暢気な太陽の温もりが良い感じにぼくを暖めてくれるもんだから眠いね。
 うっつらうっつらと視界が揺れる。数分程呆けていた記憶だけが残ってすでに一時間目を終えた休憩時間だった。
 
「……………………キングクリムゾンっ」

 ただの時間経過であるが呟かざる得なかった。
 昨日の夜から今朝まで酔いが回って最悪なことになっている千冬さんと潤さんにジョジョの一気読みをさせられたもんだから眠くて仕方が無い。途中で千冬さんは勝手に逃げてベッドで寝てるし、潤さんはけらけら笑いながらジョジョの解説をしながら支離滅裂に熱く語るのだから迷惑極まりない。
 最終的にほぼ徹夜状態で教室に居るのだ。マジで眠い。

「ねぇ一夏。ねぇったら」
「……ごめん、鈴ちゃん。今無理、というかマジで……眠い」
「はぁ? もしかしてあんた……目の隈からして徹夜してたのね。何やってたのよ」
「オールナイトジョジョフィーバー」
「は?」
「……………………」

 ごめん、マジで眠い。はぁ、仕方ないわねぇ。と鈴ちゃんは席へ戻ってくれたが、一難去ってまた二難。両サイドから挟まれてしまった。

「一夏、あの転校生と仲が良さそうだが」
「一夏さん、あの方とはどういう関係ですの」
「…………オッケイ、説明はする。昼休みにするから、今は寝かしてくれ……」
「むぅ、分かった。昼休みに絶対だからな!」
「ええ、分かりましたわ。お昼に聞かせていただきますの」

 それから昼休みまでの記憶が無い。ガチ寝してしまったようだ。何故起こされなかったか、というと千冬さんが出張で居ないためだ。
 何やら警察の方から要請があり、IS学園周辺のパトロールメンバーに抜擢されているらしいのだ。確かに人類最強と互角に渡り合える千冬さんなら心配あるまい。むしろ、危険が危ないといった様子で犯人が気の毒に感じる。
 三時間とは言え睡眠が取れたので些か頭の回転率が戻ったようだ。先ほどのように瞼が開かない状態から脱出できただけ好ましい。
 とはいえ、美少女三人を侍らして……ではなく、美少女三人に食堂に連行される図っていうのもどうかと思うけどね。

「はいよ。次の……おう、なんだ。いーくんじゃねぇか。サービスしてやんよ。あん? から揚げ丼だと? これまた珍しいのを選んだな」
「鶏肉が好きなんですよ。どうせならチキンステーキセットでもメニューにぶち込んでください」
「まぁ、頼んでみるか。ほらよ、から揚げ大盛りマシマシ丼」
「伸びすぎでしょう名前。どちらかと言えばピラミッド丼じゃないですか」
「お、それいいな。これからその盛り方のことを食物連鎖丼と呼ぼう」
「よりにもよってのバッドチョイスじゃないですか……。まぁ、礼は言っておきます。それでは、頑張ってください」
「おうよ。そちらのお嬢ちゃんたちとゆっくりしてきな」

 潤さんから手渡されたそれはまるで富士山にも見える。カロリーが高そうだが、比較的動くぼくなら問題無いだろう。
 ぼくは食物連鎖から揚げ丼を選択し、鈴ちゃんは中華そば、箒ちゃんは焼き鮭定食、セシリアちゃんはサンドイッチのチョイスだ。
 正直ぼく以外お国柄が全開で、何だか異端のようにも感じられる。まぁ、間違いなく異端であることは正しいのだけれども。
 多人数席の窓側を選び一番奥にぼくが腰を下ろし、左に箒ちゃん隣にセシリアちゃん右に鈴ちゃんという対立とも呼べる席順でぼくだけ困惑。
 まるで異端審問会でも開かれるような重苦しさが三人から漂っている。もしかしてぼくが裁かれるのかこれ。挟まれて逃げれないし。
 
「あーっと、そうだね。まず、いただきます」
「そっちじゃないだろう!」
「そうよ!」
「先に説明をお願いしたいですわ!」
「……はぁ」

 ぼくのお昼はゆっくりとできないらしい。怨むぜ"俺"、めんどくさい関係を持ちやがってからに……。
 と、言っても正直ぼくもあんまり覚えていなかったりするんだよね、特に箒ちゃん。
 一番新しいセシリアちゃんならともかく、半年しか会って居ない鈴ちゃんもだし、そもそもぼくと会ってすらいない箒ちゃんだ。
 
「えーっと……、小学三年までが箒ちゃんで入れ替わるように鈴ちゃんが中二まで高校一年からセシリアちゃん。以上」
「簡潔過ぎる!」
「でも、反論する余地がないわ……っ」
「くっ、新参者には辛いですわね」

 説明と言ってもどうにもこうにも無いのだけれども。

「もしかしてぼくが二重人格みたいな存在だっていうこと感情に任せて忘れてないよね」

 沈黙。当たりだったらしい。……なんだかなぁ。この子たち美少女揃いにして頭が残念だな。
 アホの子トライアングルか。頭を叩けば良い音しそうだなまったく。
 ぼくは食物連鎖丼に手を出すために割り箸を口で割った。こうやると綺麗に割れるんだよね。それと格好が良いから。
 黙々と食べ始めたぼくに続いて何処か気まずそうに食べ始める三人。食べ終えるまで終始無言だった。ご馳走様でした。
 食器を重ねてお盆に載せてぼくが持っていこうとしたのだが、何故か三人が動かない。てこでも動かんといった様子だった。

「ええと……まだ、何かあるのかな」
「正直のところ一夏さんが鉄壁過ぎますわ」
「そうだな……硬すぎる」
「変わり過ぎよねぇ」
「そうなのだ。見る影も無いくらいに清々しい程にな」

 ガールズトークとでも言うんだろうか。姦しいお喋りがひそひそと始まり、ぼくだけ取り残される。……だるい。
 ……はぁ。やりたくないんだけどなぁ……、でも仕方が無いよね。さっさと教室に戻りたいんだよぼくは。
 ぼくは一度お盆をテーブルに置き、椅子から滑り落ちるようにテーブルの下をくぐった。そのまま振り返ってお盆を確保し、踵を返して前進。
 この速度が大切なのだ。テーブル下で何かをする暇も無いくらいの速度で行うことが身のためなのだ。
 恐らく二秒もかかっていない早業だったはずだ。弾くんの店で厳さんの中華鍋投擲を避けるために身についた技であり、その速度はピカイチだと自分でも思っている。

「なっ」
「へ?」
「ちょ」

 後ろから何か聞こえるが聞こえないことにしよう。無心でお盆を返却口へと返す。
 正直あんまり馴れ馴れしくすると別れが辛いと思うんだけどねぇ、まぁ、それを知ってるのはぼくだけだから気をつけるのはぼく側だってことだ。
 だから、勝手に姦しまっててくれ。ぼくを真ん中に入れないでくれ。正直、独りでガールズトーク聞くなら教室で寝ていたいから。
 帰り際の出入り口で何処かニンマリとしている潤さんが居た。手にモップを持っているからカウンターから清掃に移っているらしい。

「青春してんじゃねぇか」
「よく言えますねんな戯言。ぼくは軽い関係で構わないんですよ。求められても返せませんし」
「おいおい、何か毒舌チックだな。機嫌悪いのか?」
「張本人が言いますか? 正直眠くて苛々してるんですから悩みの種を増やさないでくださいよ」
「あー……そういやそうだっけか。そりゃすまなかったな。精々良い夢見てくれ」
「言われなくても悪夢しか見れませんよ」

 ぼくはひらひらと手を振って背中越しに潤さんに別れを告げた。マジで眠い。さっき三時間寝てた分じゃ足りないみたいだ。
 でも、午後からは確か千冬さんも帰ってくるし……、はぁ、頭が痛い、な。
 古傷のように痛む頭に悩みつつ、ぼくは教室の自席に着席し突っ伏した。ふわぁ……、眠い……。
 シャットダウンしていく思考の中、右腕を枕にして顔を窓側へと向けて――ぞくりと背筋が跳ねた。
 すぐさま起き上がり辺りを見回すが不思議な違和感はない。だが、なんだったんだ今のは。誰かに見られていた気がした。
 ……これは、午後の授業はサボるべきだろうか。自主休学にしちゃおうかな。……事の発端は千冬さんにもあるし、大丈夫か。
 鞄を持って自室へと戻る。別に昼休みだから鞄を持って行っても奇異な目では見られないはずだ。
 そそくさとぼくは自室への道を歩み、ドアに鍵を閉めて鞄を椅子にかけてベッドへ寝転んだ。本当に今度こそ落ちていく。意識を、手放した。














 誰かのために動ける奴はきっと寂しがり屋に違いない。












 そこは紅い世界だった。目が覚めたわけではなく、白昼夢のような夢の世界であることが場所の異質さから見て取れた。
 立っている場所は山の頂点のように足の踏み場の無い四方八方が断崖絶壁である自殺の名所とも呼ばれそうな場所だった。
 下を覗けば白い小屋があり、窓越しに誰かの足が見える。下りるか? いや、この高さでは確実に死ぬ。
 数十メートルである高さが数百メートルくらいに感じられる程に遠いような気分だ。
 雲を掴むような難解な気分で、飛び降りるにはまだ早いと何処か考えてしまう。
 そうか、ここは――

「…………夢、か」

 唐突に突き放された夢の世界から生還したぼくは、自室のベッドの上で目が覚めた。
 あれから何時間経ったのか知りたくなった。トップに時間が出る端末を見やれば七時。
 あれ、鈴ちゃんとの約束ってこのくらいの時間だっけ?
 そんなことを考えながら目をこすって再び見やれば暗号通信が数件あったのに気付く。ええと、この番号は……ッ!?
 勢いよく起き上がり、一気に覚醒した頭で慌てつつも冷静になれと叫びながら端末に番号を打つ。
 数コールで目的の人物は出てくれた。

「何があったんですか束さん!」
『あ、いっくん! 良かった……、やっと連絡がついた。大丈夫!? 怪我とかしてない!?』
「ぼくは大丈夫です。何があったのか簡潔に話してください」
『えっと……、数百の方向から私のメインコンピューターにハッキングがあって、それを対処してたら……ごめん、してやられちゃった。学園の周りに飛んでた監視特化型スパイボットが壊されて、その……誰だっけ。あのー……今日来た転校生の……』
「鈴ちゃんですか?」
『そうそう、その鈴ちゃんが誘拐されちゃったみたいなんだ。ごめんね。やっとさっきハックの報復が終わってサーチを開始し始めたんだところなんだ』
「それはいつの話で?」
『数十分前だよ。手口からしてもう私の存在はバレちゃってるみたいだし、もうこの護衛方法駄目かもね。要検討だよ。……お、さっそく発見。束さんのカ学力は地球一ぃいいっと……』

 高速でキーボードが鳴らされる音が聞こえる。ぼくは出来る限りの暗器を携え、部屋にきっちりと鍵を閉めてから飛び出す。
 確か、パーティの下準備のために幾人の生徒は食堂に居るはずだ。彼女らにコンタクトが取れれば十分だろう。
 階段を五段跳びというややアクロバティックなショートカットをし、端末の設定をISに接続モードにして脳裏で聞けるように配備。
 迅速かつ早急に事態の把握を優先しなければならない。走るのに邪魔になった端末をポケットに押し込み、全速力で食堂へと駆ける。
 廊下の窓から一階分飛び降り、ISのPICを稼動させて衝撃を零に。忍の如く軽やかさでぼくは地面に着地し、食堂へ到着する。
 息切れを隠しつつも楽しそうに下準備をしているクラスメイトを一瞥して、ハズレだと答えを導く。
 踵を返し、学園の出入り口――大門前へと零式の脚部だけ展開して低空に飛ぶ。

『判明したよ! 学園から二kmの廃倉庫! 後、いっくんの携帯にメールが一件来てるよ!』

 一度止まり、携帯を確認すれば鈴ちゃんのメールアドレスから挑戦状が届いていた。
 “貴様の友人を預かった。返して欲しければ独りで港近くの廃倉庫へ来い。目印が入り口にある”
 中々テンプレートなお誘いだった。なるほど、ぼくを怒らせたかったんだな。どうにかなるとでも思っていたんだよな。
 たかが人質くらいでぼくを止めれるとでも思っているのか、愚考極まりない手段だぜ、これはッ!!
 急激に体の芯が冷えていく気分、ああ、マジキレって奴なんだろう。人は本気でキレると逆に冷静になるらしいから。
 夕方が漆黒へ染まっていく中、ぼくはISをフルに使ってビルの屋上をこれまた忍の如く駆けていた。
 最短距離は飛ぶことだが、アラスカ条約で管轄外の私用運転は罰せられるしくみになっている。
 だから、バレなきゃいいのだと開き直ったわけだ。
 闇夜に隠れながらぼくは着実とゴールへの道を縮めていく。そして、最後の屋上の柵を蹴って港の倉庫が並んだ場所へと移動する。
 着地した後脚部を収納してさも走ってきましたよとアピール。さぁて、何処に目印があるのかなっと。
 いくつかの倉庫の入り口を見たが全く持って見つからない。この倉庫群は海岸に沿ってできているため端にある可能性もある。
 ふと、背中に電撃が走った。本当に走ったわけではないが、強い視線を感じたのだ。振り返ってみれば、遠くに紅い何かが見える。
 ISのハイパーセンサーでズームすればシニカルに笑みを浮かべる赤スーツ姿の人類最強が居た。……もしかして、目印?
 一瞬だけ脚部を展開して幅跳び、豪快にスラスターでホバリングして潤さんの前に立つ。

「もしかして潤さんが目印ですか?」
「いんや、たぶんこれだろ。蛍光テープ張ってあるし」
「えーと、独りで来いって言われたんですけど」
「ここまでは独りで来たんだから要求通りじゃねぇか。さっさと行くぞ」

 入り口に手をかけた潤さんの手を横合いから掴む。邪魔されたからか不機嫌そうに潤さんは口を開く。

「おい、この手は何だよいーくん。開けられないだろうが」
「わざわざ真っ直ぐ行く意味はありませんよ。上から侵入しましょう」
『そうだね、赤外線仕様のレンズで覗いてるけど周りには誰も居ないよ』
「天災からGOサインがでました。堂々と不意打ちさせてもらいましょう」
「……なんか悪役っぽいぜいーくん」
「知りませんよ。ぼくは今回マジでキレてますから苛々度マックス状態ですんで、死なない程度に鳴いて貰いましょう」
「おい、なんか字が違うイントネーションだったぞ」
「あそこから入りましょう」

 ぼくは潤さんから手を離し、所謂お姫様抱っこにして脚部展開、目的の場所へと飛ぶ。
 潤さんを屋上へリリースし、機動隊とかがぶち破って入るであろう上部にある窓の淵に足をかけて、中を見渡す。
 人数は……四人。黒服の凹凸からして男性三名女性一名。若干多いな。中心部の鉄骨に縛られているのがきっと鈴ちゃんだろう。
 取り合えずごめんね、と言っておく。恐らくきっと多分ぼくのせいだろうからさ。
 窓を切り取るためのナイフとサムテックスを取り出した。
 サムテックスを起動させないように窓へ貼り付けさせ、ぼくが通れるだけの円を切り取る。
 切り取った円盤のサムテックスを押して起動。即座にフリスビーの要領で海の方向へ投げつける。
 爆発を確認した瞬間、奴らは一斉にそちらを向いて隙を見せた。するりと滑空し、スラスターではなくPICで慣性を弄る。
 着地手前に浮かぶようにして、降り立つ。よし、バレてない。若干場所を変え、狙撃できるポイントを探す。
 良い感じのコンテナの陰を確保し、辺りを見回す黒服の――女性の足を狙ってダガーを放つ。
 ISの補助とPICコントロールによる全力投擲により、音速と化したダガーは気づかれることなく女性の右太腿を破裂させた。

「ひぎぃっ!?」

 突然の声に驚いた三人がそちらを見やる。隙だらけだ、間抜けめ。再びダガーを投擲し、直線に重なっていた男性二人の両腿を貫通。
 再び悲鳴があがる。独りだけテンパりながらも無事な奴がいるため、牽制のために銃を構えている右腕を狙って投擲、命中。粉砕。
 ISという最強兵器によってアンチマテリアルレヴェルの投擲を食らわせてやったんだ。喜んでくれよ、お馬鹿さんたち。
 今度は少々大きめのコンバットナイフを取り出し、やや加減して女性の右肩へと放つ。彼女の影に一本の杭が刺さっているように見えた。
 影を利用しながら場所を移動し、反対側から左腕にも投擲する。再び突き刺さるナイフの激痛に女性が叫ぶ。
 慌て始めた男性たちは適当に銃を撃ち始める。馬鹿馬鹿しい、戦場に出るのなら冷静になっておけよ。
 ダガーに持ち替え、男性の両肩にも撃ち込んでやる。出血死されては困るのでやや手加減気味に突き刺さる程度に、着弾を確認。
 呻き声に支配された廃倉庫の中、五体満足で自然体なのはぼくだけだった。
 コンテナの陰から踊り出し、すでに抵抗もできない四人を見下ろし、男性三人が泡を吹いて気絶しているのを確認する。
 女性は鋭い歯軋りの音からしてまだ理性を保っているらしい。逞しい根性だねまったく。
 
「いーくん……、ちっとばかし遣り過ぎだろこりゃ」
「……ああ、そういえば居たんでしたね潤さん。すみません忘れてました」

 つかつかとぼくは倒れ込む男性たちの傍に寄り、死なないように血止めをしてやる。ついでに頑丈なワイヤーで手足を縛って逃げ道を無くす。
 さてと、一番敵意を剥き出しにして今にも喉笛を掻っ切ろうとする犬の如く猛々しさを放つ女性に近寄る。
 ふわりとしたロングなヘアー、暗くて顔がよく見えないが見る気も無い。興味も無い。
 だから、ぼくは腕に突き刺さったナイフに足を乗せた。

「あぁぐっ!?」
「調子に乗るな。ぼくはマジでキレてる。生きてるだけマシだと思え。次は無いぞ、言ったからな。次は無いと」

 取り合えず足の血止めをしてやってから顎を蹴り飛ばす。犬のような悲鳴が聞こえたがどうだっていい。
 ここまで痛めつければISを起動する精神力もないはずだ。そもそもISは精密系の機械であるため制御に多忙なのだ。
 片足が貫通、両腕にナイフが刺さっている状態で展開なんてしたらすぐに崩れ落ちるかナイフがさらに奥に突き刺さるだけだろう。
 そこまで分かっていたからこそ、コンバットナイフを投げたんだ。
 鉄骨に縛られた鈴ちゃんの姿は何処かデジャヴがあった、ああ、生まれた時のぼくの状態と同じなのか。
 両腕を展開し、鎖を引き千切る。暗くて分からなかったが目の上にアイマスクがされていたらしい。
 そして口にはガムテっぽいテープ、古典的過ぎるだろ。
 未だに気を失っているようなので好都合。口だけ剥がしてあげて後はお持ち帰りするだけだ。

「なぁ、いーくん」
「なんですか潤さん」
「お前さ……いーたんに似てたんじゃねぇんだな」

 唐突に、意味の分からないことを言われた。ぼくが誰に似てようがどうだっていいだろうに。
 窓から差し込んだ月日というスポットライトが当たる場所に歩んだ潤さんは、悪鬼羅刹を纏ったかのような威圧感で言った。

「いーたんはあの坊やに似ていた。そうだ、お前は零崎の在り方に似てたんだよ」
「零崎の……在り方、ですか? 呼吸をするように誰かを殺して生きていると実感したい殺人鬼の集まりと似ていると?」
「……いんや、いーくんはあの坊やに似てんだよ。答えを知ったままでわざとすかして考えないことにして必死に他人の体を漁ってたあの坊やに」
「そうですか、それがどうかしましたか」
「どうもしねぇさ。どうもしてやんねぇよ。いーくんの在り方は――異常過ぎる。重すぎるんだよ具合がよ」
「ぼくは殺人を許容しませんよ」
「許容しないが否定もしないんだろうが。お前はいったいどうやって人の生死を語るつもりだ」
「そりゃ決まっているでしょう。――狂う言葉を吐いて語るに決まっているでしょう?」

 分かっているだろうに。何を今更。全てを騙して生きているぼくが今更罪悪感でも持つとでも思っているのか貴方は。
 一種の開き直りとも呼べるぼくの考え方は……人類最強の請負人からしても異常なのだろう。狂ってしまっているのだろう。
 だが、それがどうした。
 狂った程度で狂気沙汰が収まるのなら幾らでも喚き散らしてやるさ、これっぽっちも信じちゃいない神様だって信じてやるさ。
 
「帰りましょうよ潤さん。正直に言えばぼくはこの後のパーティが楽しみなんですよ。そこらの有象無象に構ってられる程暇じゃないんです」
「……お前はどうしてそんなにも――死にたそうな瞳をしてやがんだよ。いーたんだって少しくらいは生気ってもんがあるのにお前は……」
「当たり前でしょう。――死にたいんですよ、ぼくは」

 生きることが嫌になってくる。誰かのための人生ってのがもう、やるせない。彼のために遺産を残すために生きて、ぼくが消えてハッピーエンド。それでいいじゃないか。
 くーちゃんくらいは泣いてくれると嬉しいけれど、他の人は……、どうでもいいや。
 正直に言えばもう飽き飽きしてるんだよ。掴めない夢を追いかけて何のためになるんだよ。馬鹿馬鹿しい。くだらない。傑作な戯言だよそんなもん。犬に食わしとけよそんな幻想。色々在り過ぎてもう壊れたいんだよ。

「ならよ、なんでお前……泣いてんだよ」

 その言葉で……ぼくは瞳から雫が生まれていることを知った。泣いている? ぼくが? そんな馬鹿なことがあってたまるか。

「潤さん……今からぼくは狂言を吐きます。だから騙されてくださいね。――これは心の汗です涙じゃありません」

 心の汗を拭い、ぼくは鈴ちゃんを抱きかかえて踵を返した。もう、考えたくない。さっさと帰りたいんだ。ぼくは、もう止まりたいんだよ。
 ここはきっとぼくの居場所じゃないから、だから、自室に戻って服を着替えて、それから……何をしようか。そうだ、パーティに行かなきゃ。
 汗が目から出てて視界が歪んでしまって仕方が無い。どうしたらいいんだか、ぼくには分からない。渇くまで拭うしか思いつかない。
 行きと同じような手段で学園へ帰還し、鈴ちゃんを起こす。ぷにぷにとした頬の弾力を楽しみつつ、声をかける。

「おーい、鈴ちゃーん。起きろー、朝だぞー…………ひんぬー万歳」
「誰の胸がまな板よっ!? ……あれ?」

 危険ワードを囁いてみたらすぐに起きてくれた。アイマスクは走ってる途中で脱げていたからぱっちりとした瞳がぼくのと交差する。
 ぱちくりしながら鈴ちゃんの頬が赤くなっていく。ああ、少し近いか。すっと離れるとハッとした顔で鈴ちゃんが飛び退く。

「あ、あああああんたっ、今何を!?」
「いや、慎ましい胸最高と囁いただけなんだけど」
「何よそのあんまり嬉しくない嬉しい言葉は!?」
「ひんぬーはステータスなんだぜ鈴ちゃん。グッドラック」
「はぁ!? 喧嘩売ってんのか!!」
「くくくっ、さぁてね。蹴られてしまいそうだから退散するとしようかな。じゃ、先にパーティ楽しんでおくよ」
「ちょ、待ちなさいよ! まだ決着が………………あれ?」
「じゃ、そゆことで」

 やや駆け足でぼくはその場を離脱。静止の要求を叫びながら鈴ちゃんが追ってくる。そうそう、こういうのが良いんだよ。ぼくらしくてさ。
 ぼくは変態ちっくな満足感を得ながら食堂へと走る。勿論、鈴ちゃんがついていけるような速度で……って、速いぞ鈴ちゃん。
 
「こうなったら食堂まで競争よ! 勝った方がパーティの主役なんだから!」
「そりゃ頑張らなきゃな。じゃ、お先に」
「え、あ、ちょ。何よその速度!?」

 PICで若干ズルをしているだなんて口が裂けても言えないかな。そんな馬鹿げたことを思いながらぼくは――。
 ――いーくんの在り方は異常過ぎる。
 まるで鉄鋼弾を撃ち込まれたかのような痛みが胸の奥に走った。
 実際に撃たれたわけじゃない。分かってる。それが痛すぎる言葉ってのは分かってる。分かりきっているからこそ、痛いんだ。
 でも、もう戻れない。この痛みはきっと、成長の痛みだ。ぼくが彼に削られていく痛みだ。そうだ、それでいい。そうだ、そうだった。
 ぼくが成長する度に彼もまた成長を促されるんだったんだね。忘れていたよ。いや、自惚れていたんだ。
 君を過大評価し過ぎたんだ。君はどうしようもなく弱くて最低で――優しすぎるからさ。期待しちまうんだよ。
 ――ぼくを早く殺してくれよ。さっさとぼくを殺して生き返れよ。頼むぜ、お人好しの“俺”。







「うん? あれ、学園の方から何か感じませんか人識くん」
「あん? いんや、何も感じねぇけどいきなりどうしたんだよ伊織ちゃん」
「いやー……、あっれぇ? どうしたんでしょうか、わたし変な電波でも拾っちゃったんですかね」
「いつものことじゃねぇか。アホらし、さっさと行くぞ。兄貴よりやばいのが近くに居そうだからよ」
「やぁん、乱暴にするのはホテルで……、あれ? ごめんなさい!! 冗談だから早足でそそくさと他人の振りして置いてかないで!!」
「馬鹿言うのも大概にしとけよ伊織ちゃん。俺的にはいつでもお前を見捨てる覚悟くらいはできている」
「愛しい妹に決別宣言!? 酷くありませんかお兄ちゃん!」
「おま、こういう時に限って兄呼ばわりしてんじゃねぇよ!」
「じゃあ、何処で呼べというんですか! はっ、まさかベッドの上でとか――あ痛たたたたたっ!? こめかみをぐりぐりしないで!」
「……はぁ、どうしてこうなったんだか……。っと、やべ、落ちるまでやっちまった。あちゃー……、……担ぐか。めんどくせぇなぁもう」
「……………………えへへ、実は優しい人識くん」
「よーし、落とすぞ」
「きゃー♪」


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