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No.34794の一覧
[0] 【壱捌話投稿】戯言なるままに生きるが候 (一夏改変IS・戯言&人間シリーズクロス)[不落八十八](2013/03/10 14:47)
[1] 壱話 出会いと別れ。[不落八十八](2012/09/04 16:46)
[2] 弐話 玩具な兵器。[不落八十八](2012/09/04 17:00)
[5] 参話 再びの再会。[不落八十八](2012/09/17 02:28)
[6] 肆話 出会うは最悪。[不落八十八](2012/09/17 02:28)
[7] 伍話 根源回帰。[不落八十八](2012/10/27 16:56)
[8] 陸話 誰がために道を歩む。 [不落八十八](2012/09/22 19:21)
[9] 外伝短編“柒飛ばし” 織斑千冬の人間関係[不落八十八](2012/12/18 23:24)
[10] 捌話 生まれ出でし混沌。[不落八十八](2012/09/17 11:19)
[11] 玖話 代替なる君へ。[不落八十八](2012/10/16 00:42)
[12] 壱零話 似た者同士。[不落八十八](2012/11/24 16:39)
[13] 壱壱話 嵐の渦中。[不落八十八](2012/10/06 01:16)
[14] 壱弐話 空が泣く日。[不落八十八](2012/10/13 23:00)
[15] 壱参話 壊れ始める世界の上で。[不落八十八](2012/10/27 11:27)
[16] 壱肆話 山猫さんの憂鬱日。[不落八十八](2012/10/27 14:16)
[17] 壱伍話 迷宮(冥求)[不落八十八](2012/11/24 13:34)
[18] 壱陸話 喪失(葬執)[不落八十八](2012/12/21 00:16)
[19] 外伝短編“壱柒飛ばし” 織斑千冬の人間関係② [不落八十八](2012/12/26 22:26)
[20] 壱捌話 戦争(線沿) NEW[不落八十八](2012/12/26 22:45)
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[34794] 壱壱話 嵐の渦中。
Name: 不落八十八◆2f350079 ID:6f3b522c 前を表示する / 次を表示する
Date: 2012/10/06 01:16


 左頬を打たれたら右頬に殴り返すくらいが丁度良い按配の友情だとわたしは思うね。













「どういうことだよこれ……」

 ぼくは幾度も何度も繰り返し続けて自分の体の異常さを知った。
 体が女の子になっていた、とかいうエロゲのような展開ではなく、本当に体がおかしかった。
 左腕はそこらの女性と変わらぬ細さで若さ溢れる肌だが、その手首には黒いバングルのようなものが埋め込まれているような痣がある。
 これはまぁ、まだ許容しよう。恐らく零式改め白式の待機状態のようなものだろう。埋め込まれている意味が分からないが。
 だが、その関節がギュルルルと怒髪天を突くが如く勢いでドリルのように回るという不思議現象は何なんだ。
 昨日の夢の内容は分かってる。まだ覚えているのだけれども……。
 待てよ、もしかしてあいつら……あのコアを元にしてぼくを織斑一夏から切り離したのか!?
 つまり、この体はあの二つ目の……何だっけ。名前を確か聞いたはずなのにな……。
 まぁ、思い出すのは後にしてまず把握だ。冷静に状況を分析しなければ色々とまずいのはぼくだけだ。
 この体はISの装甲と同じであり、表面だけを人間らしく作っただけだった、とすれば辻褄が合う。
 もしかするとどこぞの魔人のように腕を飛ばせたりするのかもしれないが、それはまた今度にしておこうか。
 
「白式の片割れ……か」

 後ろでぐーすか寝てやがる織斑一夏が持つ白式の……ん? いや、待て。それってかなり重要なことじゃんか。
 振り返ればぼくの顔……まぁ、織斑一夏の顔がそこにある。昨日のままだから制服のまま、そしてぼくも女子用の制服を着用している。
 ……スカートってかなりスースーするんだな。ファッションのために自分のガードを緩めるなんてぼくには真似ができる気がしないぜ。
 まぁ、それはともかくだ。
 今目の前に居るこいつの人格はどうなっているのだろうか。ぼくが生まれた時か、それとも二年間を過ごした時か、はたまた別人か。
 ぼくとしては最初は勘弁願いたい。起きてすぐに自殺を図ろうとされては介護しなきゃならないわけで色々と面倒だ。
 かといって後者二つも面倒なのだが……。まぁ、そこは割り切るしかあるまい。被害はぼくでなく、一夏ヒロインズであるのだから。
 そもそも……、どうして彼女らはぼくらを分裂させたんだろうか。いや、ぼくが出てっただけなのかもしれないけれどもさ。
 確かに行動はかなり自由になったから万々歳とも言えるが、これでは束さんの計画を潰しただけになりそうなのだけれども。
 ……まぁ、ぼくがやらねばならないことに関して言えば今の状況はかなりありがたい。
 取り合えず体を起こし、左手の回転を止め、伸びをした。その行動につられるようにふにょんと胸が動いた。

「……ラッキーとは言い難いなこの状況は」

 というか、物を食べられるのか今の体は。後ほど確かめるとして……まずは千冬さんに連絡を取らねば始まらないだろう。
 束さんにもするべきだが……恐らく今は若干暴走気味だし研究に没頭しているだろう。やるだけ無駄だろう、きっと。
 端末から千冬さんの番号をプッシュし、耳に当てる。三コール。

『……なんだ一夏。こんな朝っぱらから……』

 とても不機嫌そうな声だった。もしかすると出会い頭に怒鳴られるかもしれない、でも今の状況を考えて仕方が無いと割り切る。

「その、ですね。ぼくの部屋に来ていただけます?」
『……どうしたんだ一夏。風邪でも引いたのか? 声が高いが……』
「その理由も含めてお話しますので、迅速かつ即急に来てください」
『少し待っていろ』

 数分後、ぼくはキリッとした千冬さんを向かい入れ、口を少しだけ開いて絶句した表情を見ることになった。
 しばらくフリーズしていた千冬さんは正気に戻り、後ろ手でドアを閉めた千冬さんに押し込まれる形でベッド前へ。
 そして、ぐーすか寝てやがる織斑一夏の姿を見て再び絶句。感情がエントロピーを凌駕しそうな勢いだった。
 
「これは……どういうことだ!?」
「どうにもこうにも……、分裂って感じですかね」
「ふ、ふむ……。これは束がやったのか?」
「いえ、恐らくは違いますね。白式がやったんだと思います」
「……なるほど。そういうことか……」
「いや、勝手に納得されても訳が分からないのですが」

 千冬さんはベッドの淵に座り、愛しそうな顔で眠る織斑一夏を見ながら語った。

「そもそも白式はISのコアの中でも特殊な存在だった。言うなれば零号機とも言える存在でな、対となる黒式と組み合わせることで完成予定だったコアなんだ。しかし、製造過程で膨大な量の資金が必要になり、急遽一つにした。そして、白騎士事件後に膨大な資金を集めた束はその在り方を直そうとはせずに放った。いや、忘れていたんだろうな。起動されていない黒式を内臓したまま売り払われる一つとして出荷された。だが、それがお前の手に収まるとは思わなかったがな」
「零号機、ですか。零式ってのもあながち間違ってはいなかったんですね」
「そうだな。しかし、名が違うということは拡張子が違うようなものなのだ。よくもまぁあんな欠陥機状態のそれを扱えたものだ」
「ちょ、ちょっと待ってください。その言い方だと分かっていたんですか?」
「ああ、分かっていた。だがまぁ、聞かれなかったからな」
「……えー」

 眠る織斑一夏の頭を撫でながら千冬さんは何処かバツが悪そうな顔で苦笑した。卑怯だなー、その笑顔。追求できないじゃないか。

「……こほん。それでだが……、恐らく今の状況は誤作動のせいだろう。そもそも一夏の身体に二つの心がある訳だからな」
「つまり、エラーであるぼくを黒式ごと吐き出した結果がこれだと?」
「ああ、恐らくはな。……白式と黒式は元々管制用ISとして研究していた代物だ。そのため、この二つは対の能力を持っている。白式は全てのISのエネルギーを集める能力を持っている。それを応用したのが零落白夜だ」
「つまり、シールドエネルギーをぶちぬく威力なのではなく、そのエネルギーを瞬時に吸収して直接絶対防御を発動させるということですか?」

 エネルギーを集める、つまりは吸収だ。触れた先を介して吸収を行えば無くなるに決まってる。装甲部分に展開されているシールドのエネルギーくらい削るのは容易いはずだ。
 簡単に言えばバターに焼けたナイフを押し付けたようなもんだ。あっさりとバターは熱さで溶けるって感じで、吸収する刃先に触れた瞬間にシールドが消失するわけだ。シールドの後は虎の子の絶対防御のみ。その絶対防御はISコアから直接生み出されるものであるからして、シールドエネルギーの構築に消費して規定値を超えるのはあっと言う間だろう。
 ISバトルの基本はシールドエネルギーの枯渇だ。そのため、逆の方程式であるエネルギー構築は別ルールとしてシールドエネルギーの値から減るように感知される。そんなシステムが組み込まれているらしい。IS検定二級を持つぼくに死角は無いぜ。

「頭が回るようで説明が省けるな。確かに、そういうことだ。無茶な方法だが、瞬時加速の要領で他のISコアエネルギーを自分のエネルギーに変換することも可能だ。まぁ、それをする馬鹿は恐らく居ないだろうがな」
「どう考えてもスラスターが焼かれますよね……。一度きりの大博打ってとこですか」
「うむ。そして、今お前が持っている黒式もまた管制用ISの片割れだ。確か、他のISを制御する能力を持っていたはずだ。ネットワークから全ての機体へ操作介入し、他のISをコントロールできる能力だ。言うなればISが最悪の兵器となってしまった際の抑止力だ」
「へぇ……。対IS戦では最強じゃないですか」
「……ところがだな。完全にセッティングされた白式とは違い、黒式は忘れられていた。つまり、未完成だ。ISコアネットワークすらも入れない可能性がある」
「欠陥にもほどがあるじゃないですか!?」
「う、うむ。……、しかしまぁ展開することはできるだろうから問題はあるまい。単一仕様が使えないというだけだからな」
「はぁ……。そもそも、忘れられる抑止力って時点で駄目じゃないですか」
「まぁ……、そうだな。と言ってもかなりの量があったからな。しかもあいつは研究は細かいのに管理が雑だから尚更だ。部屋の片隅の塵のような扱いで管理されていたと言っても過言ではないな」
「それはもう管理してません。放置です」
「……ともかくだ。恐らくだがお前がそのような状況に陥っているのはISコアの自立思考回路の成長故の結果だろう。まぁ、問題あるまい」
「ぼくとしては男としての尊厳やらが失ったわけですが」
「別によかろう? 女の身も中々良いだろう」
「……あー、きゅーに立ち眩みがー」

 もにゅんっ……にゅんにゅん、にゅん。……マジでやべぇ。この弾力感はやっばい。溺れたくなる。乳枕最高ですね、はい。
 正確には千冬さんの胸によりかかる形で後頭部を任せただけなのだが、すっげぇ幸せだこれ。男の身ではできぬ諸行、ご馳走様です。
 今度くーちゃんにやってもらおうっと。来週の土曜にやることが増えてしまった。

「……ありがとうございましたっ!」
「う、うむ。まさかお前にそんな生気ある瞳で礼を言われるとは思っていなかったが……。まぁ、今のはサービスだ。次は無いと思え」
「では、次は膝枕を所望しまあああああ、止めてっ! アイアンクローは! 割れる壊れる柘榴っぽくぅうううう!!」
「こ の 馬 鹿 者 め ッ !!  調子に乗るなッ!」

 流石世界最強のブリュンヒルデ。格が違った。そりゃまぁ素手で人類最強の請負人と同舞台に立っているのだから当たり前なのだが。
 錆びたボルトを閉める感じでぼくの米神が悲鳴を上げていた。数秒後に「ふん」と鼻で笑われるような開放の合図。
 あ痛たたたた……。潤さんと良い勝負だね、まったく……。
 お茶目な思考停止はこれくらいにして、お茶を濁すのを止めるとしよう。
 
「……さて、本題ですが」
「随分と長かったな前振り」
「そこは言わないでください。まず、第一にそこに寝てる織斑一夏の記憶の確認、次にこれからのぼくの生活の指針、それくらいでしょうか」

 彼の性格の違いでぼくが動く指針が決まる。さあ、蛇が出るか鬼が出るか、はたまた凶がでるか。何が、出る。
 ぼくはベッドから少し離れ、飛んだ。
 着地した。蛙が潰れたような声が聞こえた。
 
「何やってるんだお前は!?」
「いや、もうめんどくさいなって。物理的に起こしました」
「待て、それ以前の努力の様子が一度たりとて無かったぞ!?」
「まぁ、いいじゃないですか。ほら」

 若干荒れた呼吸で彼は起き上がった。少しだけ顔が青白いがそれはまぁ、お茶目ってことで一つ。
 目が覚めたばかりだからか、彼は少しだけぼーっと呆けた後、ぼくと千冬さんの顔を交互に見てから「へ?」と馬鹿っぽい声を出した。
 おいおい、何だよ。もしかして前のぼくってこんな馬鹿面晒してたのか? 恥ずかしいってもんじゃないぜ。
 こりゃ確かにドッペルゲンガーを殺したくもなるぜ。自己嫌悪っていうか不愉快極まりない。

「さて、織斑一夏くん。君に質問だ」
「え? 何で君は俺の名を?」
「いいから質問に答えなさい。君は今、"何歳"だ?」
「えっと中二だから、十四だ」
「オッケイ、一番楽なパターンだ。君は事故でちょっとばかし二年間の記憶を失っているようでね。ああ、そうそうぼくは君の両親の隠し子で、織斑山猫と言う。前の学校ではイリオモテヤマネコさんなんて呼ばれてたからいーくんとでも呼んでくれ。ほら、顔色が悪いが大丈夫かい?」
「あ、ああ……。なんか腹が踏みつけられたように痛いけど……。なぁ、それってマジなのか"千冬姉"?」
 
 その呼ばれ方に千冬さんは背筋を跳ねらせる程の衝撃を受けたらしい。そりゃそうだろう。
 彼女にとっての弟はぼくではなく、今目の前に居る彼なのだから。「ああ、そうだ」と千冬さんは泣きそうな顔で苦笑顔を作った。
 ちっとばかし狂言のレヴェルが下がってしまっているように感じられる。やはり、あの器(身体)に"ぼく"の魂(心)があった故の異常、か。
 つまりはぼくはもう狂言遣いと名乗るほどの威力を持っていないわけだ。気をつけなくてはならない。
 もしかするとぼくのアイデンティティって奴が崩れちまってるのかもしれないのだ。それだけは勘弁願いたいもんだが、壊れてしまったものは仕方が無い。壊したままで生けるのならそのままでもいいかもしれない。むしろ、壊すことが利点になるかもしれない。
 雛が殻を壊すように、ぼくもまた殻を砕いたのかもしれない。ああ、そうだ。
 ――嗚呼、そうだった。ぼくは少しばかり自分の立ち位置の居心地の良さに日和ったのかもしれないな。
 ぼくはもう偽者の代替ではなく――人間の偽者である。つまりは、人でなし。
 人が生きる世にぼくが生きる余地はありゃしないってのに、指針が云々と日和ってしまっていた。
 馬鹿だなぁぼく。救いなんてもんがあるとすれば――死による解放だっていうのにさ。まぁ、楽して生きたいけれども。

「君は二年前にとある事件に巻き込まれ、強いショックを受けて今まで二重人格側の性格が君として生きていたんだ。つまり、君の記憶から二年経ったわけだ。君は高校一年生であり、IS学園一年一組の生徒であり、そして、世界で唯一ISに乗れる男性だ。取り合えず色々と大変だろうけども、仕方が無いことだと諦めて潔く人生をエンジョイしやがってくれたまえ。ぼくはそんな君を今まで支えてきたとでも言えばいいかな。といっても病院の患者のように下の世話や生活の手助けまではしなかったけれども。まぁ、初対面ではないのだよ。それは今の君ではなく二重人格側の君であったのだけれども、どちらにしても君であることは間違いあるまい。同じ身体の心から生み出された精神だからね、違うはずがないはずだ。さて、一夏くんや、質問を受け付けるが何かあるかな」
「……マジ?」
「マジ」

 前のぼく……改め一夏くんは「うーむ」と腕を組んで首を少し傾げた。

「アレか? 俺は二年間程眠ってたみたいな感じの解釈でいいのか?」
「そうだね。それが一番楽な受け入れ方法だ。それで構わないよ」
「じゃあ、俺がISに乗れるってのはマジ?」
「自分の右手をご覧よ。なんなら呼んでみるといいよ。今なら零式と呼べば全身展開くらいはできるだろうよ。おっと、間違ってもこんな狭いところでやろうとはするなよ。今の君は素人当然で片腕を展開する程の技術もないんだからね。後にしておきなさい。そうだ、それでいい。間違っても呼ぼうとするな。それでだね、実はぼくは君の影武者として今まで暮らしてきたわけで君が起きたとなるとぼくの居場所が無いわけなんだ」
「え? 俺は男だぜ? 身代わりなんて……」
「いやいや、最近の変装は骨格から変えるのが主流なんだぜ一夏くん。まぁ、ぼくの居場所なんてもんは元々ありやしなかったわけだし、適当に千冬さんにでも頼んでみましょうか。そろそろ正気に戻ったら如何ですかね、千冬さん?」
「あ、ああ。すまない、い……山猫」

 駄目だこの人、女性なのに内心で漢泣きしてやがる。
 それだけ嬉しかったということは、それだけぼくのことを他人と思っていたということであるからして、ぼくはあんまり喜べないし嬉しくも無い、むしろ、悲しいだけだ。どうやらぼくは話を振るべき相手を間違えたようだった。

「……ぼくは保健室の住人にでもなっておきましょうか。どうせ、保健室に来る生徒なんて皆無でしょうし、保健室の真ん中で恋愛相談やら受けて学校中の情報でも集めることにでもしましょうか。保健室の主、なーんて呼ばれてしまうかもしれませんがね」

 今のぼくはIS学園の女子制服を着ている戸籍不明の不審者で侵入者だ。
 束さんの権力を使って捻じ込まれても構わないのだが、人類最強の請負人たる哀川潤への怒涛なる依頼の知らせを切り捨てるという作業を止めてまで研究に没頭している今、そう、潤さんがこの学園からすでに去っている今、あんまり波風を立てることはしたくないのだ。
 まぁ、今の一夏くんの寮部屋は一人部屋であるからして、そこに紛れ込んで隠れていれば問題あるまい。
 織斑一夏という存在ががらりと変わったためにクラスメイトを筆頭にIS学園女子が混乱の渦に巻き込まれてしまうと思うが、今となっては本気で他人事であるのでどうだっていい。くははは、織斑一夏よ悶え苦しみ絶するがいい。
 
「何か今とんでもないこと考えなかったか?」
「いやいや、とんでもない。まぁ、なんだ。ぼくはここで寝泊りさせてもらうよ。授業中は適当に過ごすさ。いやなに、心配はいらない。この世界で今ほど心配が要らない人物なんてぼくか人類最強くらいだって言えるくらいに大丈夫だぜ」
「……なんかそれはそれで気が引けるんだが」
「まぁ、君の双子の妹だと言って編入しても構わないのだけれどもね」

 それもまた面白そうだな。見抜ける奴は果たして居てくれるのだろうか、なんて期待したくなるってのが人間ってもんだろう。機械だけども。

「山猫は学校は……ああ、そうか。俺の変わりに行ってくれてたんだっけか。それじゃ……いや、どうすりゃいいんだ?」
「うん? どうかしたいのかい?」
「まあ、な。同年代の女の子が俺のせいで学校に通えないってのはつらいからさ。千冬姉」

 千冬さんは相変わらずフリーズしていたようだが、涙の痕は消えていて(流れてないけど)普段通りにしか見えなかった。

「………………む? なんだ、一夏」
「山猫をこのまま通わせることはできないのか?」
「できるぞ。最近教頭の怪しい金の出入りを発見したからな。そこを揺すれば恐らく日本代表候補生という肩書き付きで編入可能だ」
「いや、しれっととんでもないことを言わないでくださいよ千冬さん。それ、脅迫ですからね」
「はっはっは、聞こえが悪い言い方をするな。ただ、質問してからお願いをするだけだ」
「質問?」
「豚箱に行きたいですか? と言えば一発だろうな」
「だからそれ脅迫じゃねぇかよ千冬姉!?」
「一夏、時には権力に……長いモノを巻くことが大切なんだぞ」
「実の姉な教師の口から聞きたくなかった!!」
「まぁ、色々と不正を暴くチャンスだがどうせなら有効利用するに限る。理不尽であればあるほど得ができるというものだ」

 ……正直に言えば、ぼくの計画の妨げになる学園の授業ってやつは勘弁願いたいけれども、ここほどぼくの存在を認めてくれる場所も無いだろう。いやまぁ、割り切って人識くんや積雪さんのとこで動いてもいいのだけれども、まぁ……日和るのもいいのかもしれない。
 正直に言えばぼくはこの二ヶ月頑張りすぎたと思うんだ。一ヶ月後くらいには夏休みも始まるし……、休みたいなぁ。
 ちなみに、今日はさすがに一夏くんは授業を病欠という方法でサボることになった。












 誰かに指図をする奴は決まって自分の事を棚に上げる。つまりは上から目線だ。そりゃ、うざったくも感じるよな。












 結局、一週間と言う短い期間で決着がついた。それまでは一夏くんに頑張ってもらい、こそこそと隠れて部屋で忍んでいた。
 そして、教頭の尊くも汚い犠牲を払い、早くも一年一組への編入が決まった。
 教壇の前に立つ。低身長で巨乳でほどよく淫乱であるぼくだから、正面から見ると若干晒し首のような感じに見えるかもしれない。
 全員が息を呑む音が常時ハイパーセンサー状態の耳が拾う。加減をしておくことを忘れていた。若干感度を下げておく。
 これで恐らくいつもぐらいの感度だろう。あんまりやりすぎると聞きたくない陰口なんかも聞こえてしまいそうだしね。
 
「皆さん――始めまして。ぼくの名は織斑山猫。そこの愚兄の妹で、隣の最愛の姉の妹だ。前の学校ではイリオモテヤマネコさんなんていう皮肉めいたニックネームがついていたので、そうだな、フレンドリィにいーくんとでも呼んでくれれば嬉しいかな。一応日本の代表候補生としてここに居るので、勿論と言うか自慢になってしまうが専用機を持っている。だからといって、見下すつもりは毛頭無いので仲良くさせてくれると嬉しいかな。さて、長い自己紹介となってしまったが、これからよろしく頼むよ」

 沈黙。
 いやまぁ、最初から飛ばしすぎたかもしれない。どうにもこの身体になってから調子に乗ってしまうな。
 今の状況に溺れているというか自惚れているというか、楽し過ぎた。
 精神の自由と言うのは案外にも甘美で、精神と身体が完備している状態というのは何とも自由に感じる。
 やや、というかかなり引かれてしまったので千冬さんの指示に従って後ろの花瓶すらも置かれぬ行方不明の生徒の椅子に座る。
 すでに彼女らは学園側では居ないことになっているらしい。悲しいかな、正解であることを知っているのは恐らくぼくと犯人だけだろう。
 そうそう、代表候補生というのは予定であり、今はまだ違ったりする。つまり、狂言である。まったくもって滑稽な戯言である。
 
「……お尋ねしますが、貴方が一夏さんですわね?」
「……おいおい、どうしてそんなに勘が良いというか鋭いんだよ君は」

 隣の席はセシリアちゃんだったりする。そして、即座にバレた。嬉しいやら驚愕やらで感情が忙しい。出張しまくりだ。
 ちなみに感動の涙というのは背中の冷や汗として出張しているため出やしない。というか、冷や汗出せるのかよこの身体。
 
「話し方と雰囲気ですわね。と言うか、先ほどからあそこに座っていらっしゃる殿方は明らかに貴方じゃありませんもの。挙動不審な行動をなされていますし」
「いや、もういい。皆まで言わなくていい……。はぁ……。流石最年少代表候補生だね。もしかして、日本の代表候補生が増えていない件でもバレてたりするのかな」
「ええ、そうですわね。そちらでも分かりましたわ。そんな重要なニュースが本国からリークされてこないということは嘘偽りの虚偽であると判断しましたし、また、例え真実であれば情報がリークされる時間も無く事が成されたということ。つまり――」
「ストップ。それ以上は勘弁してほしいな。それと、ぼくが代表候補生になるのは予定であって、嘘では無いんだ。順序が違うってだけだよ」

 嘘ではない。順序を偽っただけだ。数日後には公式に発表されるだろう。日本の政府に圧力がかかるかもしれないが、何とかなるだろう。
 ……凄く投げ遣りだけども、悪いことしたなぁ、とは思う。でも、他人の不幸ってのは蜜の味とも言うし、甘い蜜をぼくが吸わせて貰おうと思う。
 その言葉でセシリアちゃんは察してくれたようで、追求を止めてくれた。

「……昨日は少し寂しかったんですのよ?」
「悪かったね。でも、埋め合わせは土曜日以外にしてね」
「ええ、存じておりますわ。でも、わたくしはまだ諦めてはいませんのよ?」

 何処か悪戯っ子チックな笑みを浮かべてセシリアちゃんは微笑んだ。
 こりゃあ、大変だ。魅力的な女性二人に迫られるなんて、モテモテだねぼくは。でも、応えてあげられないんだよね。
 結果良ければ全て良し、となればぼくにだけ幸いでハッピーエンドだ。この糸を手繰り切るまで、ぼくはぼくだけのものだ。誰のものでもない。
 だから、ぼくの終わりはぼくが決める。操り人形ではもう居られないんだ。
 全てを騙し、踏破することが――ぼくの宿命ならば、この命、決して軽いものではない。
 
「そうかい。そりゃ、光栄だ」

 そうぼくは嘯く調子の口調で場を濁した。
 二時間目、数学。前の一夏くんが唸ってる。
 三時間目、現代文。前の一夏くんは余裕そうだ。
 四時間目、IS工学。前の一夏くんは机に突っ伏している。
 ようやく昼休みになる。ぼくはクラスメイトを置き去るように食堂ではなく購買へと向かった。
 本来であれば、食堂でセシリアちゃん、箒ちゃん、鈴ちゃんとランチだ。でも、それも今日からは違う。
 ぼくは織斑家の末妹である設定であるため、気づいたセシリアちゃん以外との接点を持たない。
 それに、今頃は感動の出会いで混乱の渦かもしれないしな。巻き込むのは構わないが、巻き込まれるのは勘弁願おう。
 "辛ぇぱん"なる洒落た名前のカレーパンとパイプを加えたおじさんのロゴの黒珈琲を買って、意外と人が少ない中庭のベンチへと移動する。
 ここなら恐らく彼らは立ち入ることもなく干渉することもなく落ち着いて食事が取れるだろう。
 ……と言うか、惰性的に無意識にチョイスして買ってしまったが食べられるのかぼくは。
 一応ISと言う機械なのだけれども、何処ぞの狸型未来系ロボットのようにエネルギーとして消化できるのだろうか。
 
「……では、さっそく」

 袋を開け、口に咥え、噛む。咀嚼……辛ッ!!
 噛み口を見てもまだカレーに届いていないパンの部分なのにすっごく辛かった。唐辛子でもこねて作ってるのか、ってくらいに辛かった。
 味覚があるってことは消化器官的なものはあるらしい。自分のことながら他人事のように感じるが、実際ダメージを受けているのはぼくの舌で、確かに自分事なのだけれども。なんだろう。自分の身体とは思えないな、やっぱり。慣れるまでは諦めよう。
 二口目、辛い。三口目でカレーにたどり着いたらしく口の中が燃え盛る、辛い。
 黒珈琲で味覚を殺しつつ、味覚に分類されていない辛味に襲われつつも、何とか完食した。次からは買わない、絶対にだ。
 でも、何故だろう。また買ってしまう気がする。適当に選んだつもりなのにふと視線をやればこれを握ってる、みたいな。

「……でもまぁ、不味くはないかな」

 独り呟く言葉は宙に消え、小鳥の囀りと木々の喧騒に耳が癒されていく。あー……、静かだな。
 今頃恐らく彼は彼女らと楽しくランチしてるんだろうなーなんて考えてしまうくらいにぼくは独りだった。
 寂しくないと言えば嘘になるし、寂しいと言っても虚になってしまう。
 なんだかなぁ、これじゃあ彼女たちと一緒に居たいと思ってるみたいだ、と勘違いしてしまいそうだ。可笑しいのに、口元が笑わない。
 やれやれ、日和るにはまだ早いってのになぁ。
 微睡みに身を任せて瞳を閉じてごろんとベンチに横になってお手製の枕を後頭部にやって昼寝。
 ざわざわと嘆くように聞こえる木々の合唱が眠気を助長させる。機械だっていうのに寝ることもできるなんて、便利だねぇ。

「で、何で君が居るのかなここに。ランチタイムはどうしたんだい。……一夏くん」
「ば、馬鹿、言うんじゃ、ねぇよ。お前が、居なきゃ意味が、無いだろうが、よ」
「嬉しいことを言ってくれるが、息切れ過ぎて途切れて継ぎ接ぎ状態じゃないか。少しは落ち着いたらどうだい」

 瞳を開けずとも左側にやけに体温と二酸化炭素量が高い熱源の存在をハイパーなセンサーが感知していた。
 やれやれ、君って奴は本当にお人よしだな。そんなことをされたら、まるでぼくが寂しくて泣きそうな迷子のような感じじゃないか。
 息を整えたのか一夏くんは「ふぅ」と息を吐いて、「うっし」と気合を入れた。
 ……彼にとってそれらはこちらに聞こえていないと思っているのだろう、残念無念切腹だねこりゃ。

「よし、行くぞ」
「何処にだい?」
「食堂だよ。皆待ってるぜ」
「嘘吐きだねぇ、君は。恐らく君が勝手に置いて行ったんだろう? 『俺、やっぱり探してくる!』なーんて言ったんだろ」
「……と、ともかくだな」

 図星らしい、目を瞑っていても動揺した様子が手に取ったように分かる。

「……なぁ、一夏くんや。質問してもいいかい」
「はぁ? なんだよいきなり……」
「答え次第で行くか決める。適当に答えないようにね」
「ぐっ。わ、分かった。どんと来い」
「もしも、君の前に親友が一人居たとする。その彼は転校することが決まっている。果たして、君は彼に何をしてやりたいと思うかな?」
「……そうだな。俺は……、転校先に言っても自分のことを覚えてもらえるように思い出を作ったり、写真を送るかな」
「ふむ、思い出に写真ね……」
「ああ。千冬姉がさ、『誰かと過ごした時間は大切なものだから写真にして形にもしておけ』って言ってたんだ」
「なるほど……。そういうアプローチもあるのか……。……いいだろう、と言いたいが一夏くん」
「うん?」

 キンコンカーンと懐かしいチャイムの音が聞こえる。一度目のそれの意味は――予鈴だ。
 その音を耳にした瞬間、ぼくはにやりと、一夏くんは絶句した。

「――時間切れだ。今日は職員会議のために短縮授業だと朝に言っていたじゃないか。残念ながら行くのは食堂ではなく教室だね」
「お前分かってて質問しやがったな!?」
「おいおい、例え中身がアレとは言えども女性にお前だなんて言うもんじゃないぜ一夏くん。よっと」

 足をちょいとだけ上げてシーソーのように身体を起こす。んでもってベンチの上に立ち上がり、一夏くんの頭を片手でむんずと掴んで飛ぶ。
 掴んだ点を中心にくるっと支柱を回るようにして身体を回転させ、パイルダーオン。うむ、楽ちんである。
 傍から見れば肩車をしている兄妹という図だ。勿論、ぼくの存在を知る人物であれば、の話だが。

「ちょ!? ……ん? なんかやけに軽いなおま……山猫は」
「そんなことは構わないからさっさと教室へ走りたまえよ。この状態は役得ってもんだぜ。ぼくみたいな美少女を肩に乗せてるんだからね」
「へーへー。分かりましたよーっと」
「まぁ、なんだ。ご褒美の前祝として……えい、えい、えい」
「後頭部に嬉しい柔らかさが!?」
「はい、終わりー。さっさと走れ馬車馬ー」
「ひでぇ!? ちくしょう、やってやる。やってやるぞぉおおお!!」

 時間と場所からして午後の授業に間に合うことが無いとは分かっていたが、何故だかこのやりとりを面白いと感じているぼくが確かに居た。
 そうか、そうだな。日常を暮らしていく方が楽しいのだった。そうすると、彼女らから離れたのは間違いだったかもしれないな。
 結局のところ、ぼくは結構強欲だったみたいだ。彼のように傷をつけまいと思っているのに、彼らを傷つけることを願っていたんだから。
 矛盾してるってもんじゃなかった。笑いたきゃ笑ってくれ、ぼくって奴は意外と強欲だった。
 全てを綺麗に終わらせたいと、強く願ってしまったんだ。こんなにも穢れてしまっている精神で、綺麗でありたいと思ってしまった。
 どうせなら、災厄で最悪な悪役を目指してしまおう。そりゃあもう、世界の半分で誘っちゃうくらいな魔王みたいに道化に舞おうとしようか。
 ――さぁて、楽しくなってきやがったぜ。


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