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No.34794の一覧
[0] 【壱捌話投稿】戯言なるままに生きるが候 (一夏改変IS・戯言&人間シリーズクロス)[不落八十八](2013/03/10 14:47)
[1] 壱話 出会いと別れ。[不落八十八](2012/09/04 16:46)
[2] 弐話 玩具な兵器。[不落八十八](2012/09/04 17:00)
[5] 参話 再びの再会。[不落八十八](2012/09/17 02:28)
[6] 肆話 出会うは最悪。[不落八十八](2012/09/17 02:28)
[7] 伍話 根源回帰。[不落八十八](2012/10/27 16:56)
[8] 陸話 誰がために道を歩む。 [不落八十八](2012/09/22 19:21)
[9] 外伝短編“柒飛ばし” 織斑千冬の人間関係[不落八十八](2012/12/18 23:24)
[10] 捌話 生まれ出でし混沌。[不落八十八](2012/09/17 11:19)
[11] 玖話 代替なる君へ。[不落八十八](2012/10/16 00:42)
[12] 壱零話 似た者同士。[不落八十八](2012/11/24 16:39)
[13] 壱壱話 嵐の渦中。[不落八十八](2012/10/06 01:16)
[14] 壱弐話 空が泣く日。[不落八十八](2012/10/13 23:00)
[15] 壱参話 壊れ始める世界の上で。[不落八十八](2012/10/27 11:27)
[16] 壱肆話 山猫さんの憂鬱日。[不落八十八](2012/10/27 14:16)
[17] 壱伍話 迷宮(冥求)[不落八十八](2012/11/24 13:34)
[18] 壱陸話 喪失(葬執)[不落八十八](2012/12/21 00:16)
[19] 外伝短編“壱柒飛ばし” 織斑千冬の人間関係② [不落八十八](2012/12/26 22:26)
[20] 壱捌話 戦争(線沿) NEW[不落八十八](2012/12/26 22:45)
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[34794] 弐話 玩具な兵器。
Name: 不落八十八◆2f350079 ID:6f3b522c 前を表示する / 次を表示する
Date: 2012/09/04 17:00


 奇跡ってのは必然な偶然ってやつだろ? どうして待ってられるんだ、行動しなきゃ確率も何も生まれないのに。












 IS――正式名称インフィニット・ストラトス。宇宙空間の作業を想定されて篠ノ之束博士に作成されたパワードスーツ。
 名前の可愛らしさとは裏腹に、その性能は既存の兵器を凌駕する化物兵器だ。
 曰く、その速度は戦闘機を凌駕する。
 曰く、その馬力は戦車を凌駕する。
 曰く、その内部装甲は核防壁を凌駕する。
 そして、その性能に組み合わせるように人間が古来から使用してきた武器たちを一定量搭載することができる"量子化"の機能が備わっている。
 IS一台と優秀なパイロットによって戦争行為を一瞬で制圧し、蹂躙し、暴虐の限りを尽くせる程の性能は、世界の歴史を変えるには十分すぎた。
 世界に四六七機のISコアを廻って平和の水面下で、夥しい程の策略と犠牲と暴力が渦巻いている程に、それは罪深い存在だった。
 ただ、一つだけよかったと思える点は、"ISは女性しか使用できない欠陥機"であることだ。
 世界の人口数は六十億ちょっと、既存するISコアは四六七機、そして、世界の女性の人数は単純計算で二分の一、これを喜ばないわけがない。
 本来、戦争は男の手によって作り出され続けてきたモノだ。逆転した世界で、女性はすぐに変革を起こすことは、不可能だった。
 技術はあった、力はあった、でも、経験がなかった。
 そのため、ISの存在を危ぶんだ世界各国の長はアラスカ条約の締結をしてみせ、暴走を未然に防いだ。
 世界各国の長たる男性たちが焦った理由は一つの事件が原因だった。たった一機、たった一騎によって日本の存在が護られたから。
 白騎士事件。白い装甲に身を包んだISがハッキングによって奪われた各国の秘密裏に製造された三千発以上のミサイルを切り捨てた事件は、前代未聞の大事件となった。白騎士を軍事的に確保しようした国、存在を危ぶんで存在を消そうとした国、各国から送り出された軍事兵器を悉くこの白騎士は切り裂いた。
 同時に、世界の歴史を切り裂くことをパイロットは知っていたのだろうか。
 ISの存在により、世界の秩序は激変した。五百に満たないISコアを求めるために戦争が起こり、力無き国の民が犠牲にされ、強大な力を得た国の民は自身の存在を格上であると誤認し、条約が締結されるまでこの悲劇は生まれ続けた。
 結果、推測犠牲者の数は一億前後。これが僅か一年で息を引き取った人数。
 各国はこの強大すぎる力の制御を試みた。いくつもの試行錯誤により、弾き出された政策は、ISのスポーツ化だった。
 オリンピックに似た競技としての新しいISの概念は世界各国に大人気だった。他の国に勝つという理由を前面に押して、地上最強の兵器の開発に着手できるというのだから、乗らないわけがなかった。
 所謂ゆとりの世代である時期に、日本にIS学園が設立され、ISの存在は時間をかけて日常と同化していった。
 ――その身に宿る危険さを孕んだまま、分かる者の操り人形となった。
 ぼくがIS学園に居るというこのイレギュラーは、世界各国の軍上層部をお祭り状態にさせるには十分だった。
 男性の本能というべきか、戦の時期が近いと確信した瞬間だったのだろう。即座にぼくにシークレットメールが届き始めた。
 曰く、金銀財宝と引き換えにぼくの人生を売って欲しい。
 曰く、ぼくの安全を確保するために是非ともうち(国)に来て欲しい。
 曰く、ぼくは居るべきではない存在なので、極秘裏にうち(国)に来るべきだ。
 招待状から脅迫状までレパートリーの多いメールを読むには少し骨が折れたが、一つ一つに丁寧に返信してやったのを覚えている。
 『甘えるな』と一言、丁寧に各国の言葉に翻訳して送り返してやった。
 それからメールは一切来なくなり、ニュースで不祥事を起こした世界の政情が映し出されていた。
 阿鼻叫喚の旗下に、行き過ぎた行動を取ろうとした結果なのだろう。別にぼくに関係はないからどうでもいいのだけれども。

「ちょっと、よろしくて?」

 休み時間に思考の独白をしていたら、誰かに声をかけられた。
 横を見やれば、何処ぞのお嬢様な女の子が立っていた。まぁ、ここ(学園)には女子しか居ないのだけれど。

「なにかな? 生憎君のような可愛い子との接点を忘れる程鈍感じゃなくてね。初対面で合っていると良いのだけれど」
「ええ、そうですわね。わたくしと貴方はこれが初対面ですわ。貴方、わたくしの名前を知っていて?」
「セシリア・オルコットちゃんだろう? 先ほど自己紹介していたじゃないか。それに、イギリスの最年少代表候補生。君のような天才に声をかけられて恐縮だ」
「あら、身分を弁えているとは存じ上げませんでしたわ。日本の殿方は紳士的ですのね」
「いやいや、たぶんぼくが異端なのさ。普通の思春期の男の子なら君に対してしどろもどろするか、ぶっきらぼうに返すだろうからさ」
「……ふぅん。中々見所がありますわね、貴方。男性だからといって調子に乗っているのかと思えば、意外でしたわ」
「ははは、正直ぼくはこの場に居たくないのだけれどもね。如何せん、各国の裏の人たちが狙っているようだから身の安全を確保するためにここに居るのさ。正直に言えば、姉が居なければさっさとこの身を天上に返してるさ」
「自殺志願者にしては、大胆不敵ですわね。その自信、何処から来るんですの?」
「さぁ?」
「はぁ?」
「ぼくは生まれ変わるくらいなら、死んでしまいたいと思ってるから。君が思うぼくの余裕は、ただの心の怠慢だろうね」

 しばらく驚いた様子で立ち尽くすセシリアちゃんを観察する。
 ……ふむ、箒ちゃんとまではいかないが良い乳をしているな。やっぱり外国は育ちが良い。
 傲慢なお嬢様かと思っていたが、意外と弁えるところを弁えているあたり、国の代表の道を背負っている自覚はあるようだ。少しだけ感心。
 
「……貴方は、いえ、何でもありませんわ。ISの起動時間はいくつか分かります?」
「そうだね……最初の十秒と、IS学園の試験の際に三分。あわせて三分十秒だね。いやはや、ISってのがどれだけ化物か、身を持って再認識したよ」
「ふふっ、当たり前ですわ。何せISは最強の兵器ですもの。お飾りじゃないんですの」
「そりゃ同感だ。いやぁ、意外と君面白いね。話していて飽きないよ。ただ、一つだけ言わせてもらうけど、データはあげないよ」
「っ!」
「瞳を見りゃもう分かるんだよ。雰囲気でも、ね。随分な人数に騙されかけてる身分だからね、他人を信じられなくなってるってのもあるけど、必然的に見破れるくらいの経験をしてるんだ。何せ、数発の銃弾を身に受けたり拷問されてたりもするんだ。もう、慣れた」
「……失礼しましたわ。先ほどまで貴方の評価を下げていましたが、それ以上の人物だったようですわね」
「いやいや、別にタメなんだから気にしないさ。ぼくはそこまで器量の小さな男じゃないのさ。何ならフレンドリィにいっくんとでも呼んでも良いんだぜ」
「いえ、その呼び名は遠慮しておきますわ。何処か貴方の術中に嵌っている気がしてままなりませんもの」
「……セシリアちゃんってさ、日本語上手いね」
「え? あ、ええ。努力しましたから。語学で遅れを取ればどんな不利な状況に陥るか分かりませんもの」
「随分と慎重なんだね。日本はそんなに治安が悪いってことはないから、ほら、貯金箱って言われてる自動販売機があるくらいなんだからさ」
「そうですわね。この国に降り立って少しだけ驚きましたわ。義理と人情の街というのも、納得がいきましたわ」
「いや、それ限定的な地域だから。ここはどっちかっていうと東北寄りだから……。まぁ、日本人なら似たようなもんか」
「……不思議ですわね。何故か貴方には隠し事ができない気がしますわ」
「まぁ、ぼくも君がただの女の子でよかったと思ってるよ」
「? どういうことですの」
「いや、これはただの戯言だから気にしなくて良いよ。そろそろ授業が始まる時間だから、戻ったらどうだい?」
「あら、そうですわね。では、また後で」

 流石に代表候補生であっても話術に長けているわけではないらしい。おかげで遣りやすかった。
 常識や知識は多いようだし、色々と遣い易いかもしれないな彼女は。
 《ぼく》がこの世界に居始めてから不思議な出会いがありすぎたせいで、少々ぼくの他人に対する感覚ってのが美味い料理を庶民が食べ続けて舌が肥えちゃったくらいに肥えてしまっていて、キムチ丼のご飯抜きを二杯程食べたとしても味覚じゃないこの感覚は直らないに違いない。
 去年の今頃に出会った罪口積雪と名乗る短髪の背の高い和服の男性に少しだけヤバイ仕事のバイトを、技術提供の即払いという中々良い条件で仕事させてもらっていたこともあったからか、色々なことを動じず同時に考えてしまうくらいにぼくは少し日常離れしていた。
 だからだろう。再び拉致されても銃弾や切り傷程度で生還し、普通に学校へ通っていたぼくの精神面は鉄鋼くらいになっているのは。
 三人の零崎に、二人の“天災”に、一人の呪い名。どう取り付くっても最悪な出会いの組み合わせの人生だとは自覚している。
 でも、《ぼく》という性質ならば、それは必然な偶然なのだろう。きっと、これからもその手の縁が勝手に合うに違いない。
 
「――では、このクラスの代表者を決める。立候補推薦は問わん」

 教壇にはびしっと決めた千冬さんが居り、いつもの様子とは掛け離れた凛々しい姿を降臨させていた。
 世界最強の姉。【ブリュンヒルデ】の織斑千冬。それが、《俺》の姉の名前。
 刺青の零崎が言っていたスペックでこの世に人類最強の請負人が存在するのなら、少しだけ賭けに迷う。
 姉が生身でなら人類最強が勝つだろうし、IS着用時なら世界最強が勝つだろう。それくらいの性能さがISには存在する。
 まぁ、人類最強が宇宙空間で生活が出来るほどに人間離れしていたのなら、千冬さんの全敗は免れないだろう。
 ISに乗った人類最強が勝つのでは、とも思うのだが、如何せんISというのはどちらかと言えば生物兵器に近い存在だ。
 ISがもしも、ただの道具であれば、人類最強は世界最強と名を変えていられたかもしれないが、今もなお、そうなっていないということは、彼女にはきっと人類最強で留まらなければならない理由があるのだろう。
 例えば、“自我が強すぎてISに嫌われている”とか。
 そんな理由が無ければ彼女は今頃世界覇者だ。いや、最も彼女にISに対して興味が無いのであれば別だが。会った事無いから憶測だしね。
 
「はい先生。セシリアちゃんを推薦しときます」
「ほぅ、オルコットをか。他薦はないか? 立候補でも構わんが」

 この手の代表者ってのは面倒な雑用を肩書きという便利な布切れで隠してしまっているものだ。
 恐らくながら、生徒会の会議に出たりだとか、IS団体訓練の書類を常々提出しなくてはならないとか、書類を製作して提出しろだとか、クラスに虐めはないかとか、色々と雑用をこなさなくてはならないのだろう。
 ぼくは勘弁願いたい。
 なら、どうすればいいか。他人に投げてしまえばいいのだ。恐らく先ほど交わした会話から彼女が結構誇りを大切にしているような口振りだったし、この手のイベントには率先するはず。そして、「じゃ、わたしは織斑くんを推薦しまーす」なんてキャピキャピした声で先に言われてしまえば、彼女のプライドも傷付くだろうし、矛先はきっと、こちらに来るだろう。

「ふむ、他にはないか? 無ければオルコットと織斑で決めてもらうが」
「へ?」

 どうやら、先ほどの台詞はぼくの言葉ではなく現実で発せられたものだったらしい。
 ……ああ、確かに最初の発言なのに冒頭に「じゃ」なんてつけないね。
 恐らく千冬さんの性格からして「推薦を受けたのだからどかっと座っておけ」なんて言われて流されるのが落ちだろうし、話し合いで決めれればいいなー、とか思ってたらセシリアちゃんが立ち上がってぼくに宣戦布告。

「他の誰かならまだしも、貴方には負けられませんわね! いいでしょう。決闘ですわ、織斑一夏!!」
「いや、そんな――」
「よし、来週の月曜にアリーナの予約を取っておいたぞ。その場で決めるように。では、次の係り決めだが――」

 くそう、押しが弱いっていつも言われるのにぼくって奴はっ。千冬さん、仕事が速すぎるよ。
 セシリアちゃんを見やれば何処か意気揚々としているし、このまま断りを入れにいくのも何か野暮だ。仕方ない。さっさと負けてしまおう。
 ……待てよ、でも彼女は代表候補生だ。変に手を抜くと別の火種になりそうな予感がする。どうもぼくはこの手のトラブルに困らない体質のようだ。
 取り敢えず今日の昼休みあたり、仮想シミュレーター室にでも行ってシミュっておくことにしよう。
 三、四時間目の座学が終わり、昼休みになる。食堂に行こうかと立ち上がったら、目の前に鬼でも殺したか後のような形相の箒ちゃんが居た。
 
「……一夏、決心がついた。詳しい説明をしてくれないか」
「ああ、そのことか……。てっきり、貴方を殺して私も死ぬっていう修羅場にでもなるのかと思ってたよ」
「どんな誤解しているのだ!? その、緊張していたことは認めよう。しかしだな、そんなことは思ったことないぞ」

 ――お前の中の一夏まで殺してしまうことになるじゃないか。
 箒ちゃんもまた割り切ったようだ。こうなれば、説明がしやすい。取り敢えず食堂へ向かい、二人掛けのテーブルを選んだ。
 ぼくが注文したのは日替わり定食Aランチで、ナポリタンの横にエビフライなどの何処かお子様ランチを彷彿させるラインナップが並んでいる。
 対して箒ちゃんは日替わり和風定食で、鮭の切り身とお味噌汁とおひたし。和風のラインナップで見た目が綺麗だ。
 トレイに並ぶ品々に手を出しながらぼくは一通りの説明を箒ちゃんにしてあげた。
 正直、彼女で女性に対して説明する回数は三回目であるから、少し手馴れた口調で説明してあげる。
 ぼくは記憶喪失でありながら二重人格のような曖昧な性格の具現化であり、本来の《俺》である《織斑一夏》はぼくの心の奥に眠っていること。
 そして、この症状がいつ治るかは分からない複雑な病状であること。一通り説明してあげた箒ちゃんは、静かに涙を流してから「そうか」と相槌した。
 ……《俺》の知り合いは中々精神がタフだね。二年前のクラスメイトの鈴ちゃんもさらっと受け入れてくれたし、中々良い人脈を持っているようだ。
 まぁ、ぼくはその人脈を便利な繋がり程度にしか思って居ないのだけれども。正直他人事だから。
 
「それにしても大変なんだよ。どうしてぼくが代表なんかやらなくちゃならんのだか」
「決まってしまったのは仕方ないだろう。それともわざと負けるとでも?」
「いやー、それをするときっと彼女怒って別の何かを起こしかけないから止めておくよ。精々頑張って足掻くさ」
「ふむ……、そう言えばお前は剣道は続けているのか? 昔の一夏は私と一緒にやっていたが」
「……ごめんね。正直に言うとやってない。バイトとか勉強だとかで他の事をする時間が無かったからね。千冬さんの給料は良いから困りはしないけど、出張とか多かったから出費が多くて、結構カツカツだったりしたんだよ」
「そ、それはすまなかった。……でも、残念だ」
「……やって、みようか?」
「は?」
「いや、きっとぼくの身体に染み付いているだろうし、放課後にでもやってみようか」
「……そう、だな。そうしよう。そう言えばお前はISについてはどのくらいなのだ?」
「うーん、正直中の下ってとこかな。あの分厚い資料は読み込んだけど、アレにはルールばかりで動かし方は乗ってなかったからさ」
「む、確かにそうだったな。ってことは打鉄の申請をしておいた方がいいのではないか? 確か、順番待ちが長いと嘆く先輩も居たぞ」
「へぇ、そうなんだ。じゃあ、授業中にしておいたのは正解だったかな。今日は無理だったけど明日から毎日分くらいは確保したし」
「……手際が良いというか、よく千冬さんの授業中にできたなそんな大それたこと」
「え? いや、千冬さん授業中に教壇の下で申請許可くれたっぽいけど。むしろ、ノリノリなんじゃないかな」
「……ううむ、久しぶりに会った織斑姉弟のことがよくわからん……」
「大丈夫。むしろ、ぼくの方が分からないから」

 まぁ、ぼくが生まれてしまった理由は分かっているのだけれども。
 箒ちゃんとの雑談は剣道や武術などのマニアックなもので、結構タメになる知恵が多かったので、収穫だと思う。
 再び教室に戻り、授業開始。午後は山田先生の授業らしい。電子黒板の横に椅子を置いて監視している千冬さんがかなり威圧的。
 大半の生徒はそのせいで緊張しながら授業を聞いているが、正直山田先生の授業は下手糞なのでぼくにはノーサンキュー。
 マルチタスクを端末に起動させて、当てられたら答える程度に把握しつつ、ISの機体という性能を独学していった。
 放課後。ぼくは箒ちゃんに連れられるままに、全身に刺さる視線に慣れつつも、武道場へ向かっていた。
 前の文化祭で男性のプロゲストに着て貰った予備の胴着を貸してもらい、記念として置かれていた竹刀などの剣道具一式を借りた。
 うん、重い。それに、結構すかすかだから隠せるもんも隠せない馬鹿正直な戦いしかできない格好で、少しだけ不安になる。
 何処でぼくを狙っているのか、分からないのだから。

「それでは、軽い組み手で構わんな。好きに打ち込んでこい」
「うん、お手柔らかに頼むよ」

 正面に立つ箒ちゃんからプレッシャーが迫るが、正直温い。朝の彼の方が数百倍に濃いし、殺気も纏っていない気迫じゃ、怖くもない。
 ……まぁ、慣れているだけでぼくには出せやしないのだけれど。
 何処かしっくりと来る竹刀のグリップを両手で掴み、中段の構えで一歩踏み出す。数メートルしか離れていないために、その一歩は大きい。
 多分、ぼくの知り合いの知り合いなら、この距離でぼくを殺せるに違いない。そんな、距離だった。
 他人ができるのなら、ぼくであっても我流であってもできる可能性があるのだ。ならば、やってみるとしよう。
 大きく踏み込み、竹刀を下げて箒ちゃんの竹刀を弾くように下段から払う。

「っ!?」

 本来の剣道ではしないような動きに戸惑うのも仕方が無いだろう。こんな西洋めいた野武士のような戦い方、するわけがないだろうし。
 油断していたのか、簡単に浮き上がった竹刀に返しの一手でさらに払う。無防備になった箒ちゃんの面ではなく、小手を引き打つ。
 乾いた音が聞こえ、放心している箒ちゃんから竹刀の先が触れ合うくらいの距離まで下がる。

「……どういうことだ。お前は……、何処でその技術を習ったのだ」
「武術を習った覚えはないけど、他の心得ならいくつか享受してもらったかな。どうしたの?」
「……一瞬、剣先が消えたんだ。お前の竹刀が見えなくなった」

 ……いやいや、別にそんな凄い技術を持っているわけでもなく、普通に力入れて弾いて払って打っただけなんだけど。
 あー……、もしかすると《俺》だった《織斑一夏》ってのは結構剣道の才能があったのかもしれないな。となると、それにぼくの技術が足されるわけだから、剣先が消えるくらい普通……なのか?
 いや、どうだろう。正直そんなオカルト信じたくないんだけどさ。でも、本人が言うならそうなのか?

「どうしたの箒ちゃーん。今のなら普通に返せたでしょ?」
「へ? せ、先輩には見えたのですか。今の」
「もー、何言ってるのさ。あんなにゆっくりな太刀筋見えるでしょうが」
「……そんな馬鹿な。い、一夏、もう一度だ!」
「あ、ああ。構わないけど……」

 再び似たような戦法で面を取る。うーん、別に代わった点は無いのだけれど。
 箒ちゃんは竹刀を置いて、面を取った。そして、もう一度面をつけてから、面を外して……へたり込んだ。

「……だ」
「うん?」
「お前の竹刀は私の面の死角を通っていたんだ……。それも、“連続”して、だ。そんな馬鹿げたことがあってたまるものか……」
「運が良かったんじゃないかな?」
「そんなわけがあるか。最初の構え以外に、私の視界にお前の竹刀はほぼ映っていなかったんだぞ。これを才能と言わずして何と言うのだ」
「偶然じゃない?」
「……すまない、一夏。恐らく私ではお前に一本取ることも難しい。今日はこれで終わってくれないか」
「え、あ、うん。箒ちゃんがそういうのなら……」

 ぼくは何故かニヤニヤしている剣道部の先輩たちの視線の中、面やら篭手やらを外して……懐から出した除菌タオルで拭いた。
 「ああっ!」と悲鳴が上がるが、こういうのにぼくから付着した汗とかついていると、後々ぼくが困る羽目になるだろうからさ。
 こういう事がありそうだったので束さんに頼んでその手のものを完全に消し去れるタオルを開発してもらっていたのだ。
 綺麗に拭き終えて、胴着は後で洗濯して返すと“箒ちゃん”に言ってから、見える場所に置いておいた着替えと鞄を掴む。
 確か、放課後に千冬さんに寮長室へ来るように言われていたな。会議の時間くらいは暇を潰せたから、一度行く事にしようかな。
 まだぼくの寮の部屋を教えてもらっていないんだよね。三年生の卒業の遅れで調整が大変だとか、愚痴ってたし。
 ぶっちゃけると寮長室でも良いんだけど、千冬さんが「そうすると私が堕落するから駄目だ」と念押しされてしまったのだ。
 でも、時々来るように、と付け足す辺り依存されているのかもしれない。はぁ、嫁に貰ってもらう前に花嫁修業をさせるべきだろうか……。
 
「……はぁ。傑作だな、ちくしょう」

 ぼくの独白は廊下に響かず、無音に捻り潰された。どうすりゃいいってんだよ、まったくもう。











 人の夢って叶わないから儚いんだよな。










 寮長室で受け取った部屋鍵をポケットに入れて、部屋に向かっていたら何やら違和感を感じた。
 前に進んでいるのに後ろに進んでいるような、全速前進なのにムーンウォークしてるみたいな、そんな不思議な違和感。
 先ほどから視界に生徒を見ないし、加えて視線が突然に失せた。何だろうか、これは。
 歩いているのにオアシスに辿り着かないような、そういえば自分が何故歩いているのかすらも分からなくなってきた。
 はて、何処かで聞いたことのある状況だ。何処でそれを聞いたんだっけか。

「あー……、取り敢えず初日から仕掛けてくるとは思ってなかったなー。どうしよっかなー」

 そう苦し紛れに聞こえるように口に出してみる。微かな視線を感じたが、背後に居るというだけ分かってそこで諦めた。
 積雪さんに手持ち無沙汰に聞かされた呪い名の四位拭森の名が脳裏に浮かんで消える。
 対象の脳内に干渉し目的を失わせて衰弱した所を殺す、陰見な殺害方法を取るプレイヤー。生徒に紛れた拭森の誰かなのだろう。
 恐らく、ぼくの拉致か殺害のどちらかが目的だと推定。そしてその思考が脳裏から飛ぶ。この何処か足りない感じ、きっと当たりだろう。
 気付いた瞬間にぼくはPDAに単語を打ち込み、単語単語の組み合わせで記憶を繋ぐ。
 呪い名、四位、勃発、抵抗、攻略、可能。そこまで打って、ぼくは壁に頭を叩き付けた。かなり痛いくらいに、思いっきり。
 ……くらくらするが、若干思考は戻った。相手は驚愕しているようで、はっきりと今ので場所を教えてくれた。十メートル後方の階段フロア。
 十、後ろ、フロア、と追加で打ち込み。作戦を練る。いや、いらないのか、むしろ。
 ぼくはそのまま"気の向くままに"歩き続け、ようやく目的地にたどり着く。自分の持つ鍵にかかれた番号部屋へ入ってやった。

「っ!?」

 ……どうやら、遮蔽物があると効果は薄れるらしい。もしかすると、拭森の中でも幼い見習いレヴェルの刺客だったのかもしれない。
 上位格であればPDAがあってもすぐに忘れてしまうに違いない。三秒なんていう永遠めいた時間があれば、対処は可能だ。未熟者め。
 目的を殺すのだから、その目的を無くしてしまえばいい。
 しばらく歩き廻って"偶然"見つけた部屋が"偶然"今自分の持っている鍵のナンバーだったなら、"必然的"にその部屋に入るだろうさ。
 ――何の理由も無く。
 反撃開始、方法はドストレートにドキツクいこうか。女の子とは言え、呪い名。用心に越したことはない。
 まぁ少しばかり歩き疲れたから、それの腹いせでもある。八つ当たりとも言う。
 ぼくは敢えて鍵を閉めずに、ドアノブの種類を調べてから家から先に送られたのであろうボストンバックの中にあるそれを手にした。
 んでもって、それをリミッター外した状態にしてドアノブにくっつけておく。
 これで後は魚が釣れるのを待つだけだ。逃げたとしても、避けられたのだから万々歳だろう。腹いせだし、釣れると良いのだけれども。
 しばらくしてから、ドア越しに小さな殺気が鍵穴から漏れ出す。どうやら当たりっぽい。ドアノブが少し回った瞬間に――、

「あびゃっ!?」
「うっし、ビンゴ」

 手に持っていたスタンガンをオンにしてあげて、電気の通すドアノブ越しに撃退してあげた。扉を開くと、痙攣している見知らぬ女生徒が居た。
 手痛い反撃と言ったところだろうか。正直遣り過ぎた感もあるが、身を護るためだ。仕方ないだろう。ぼくだって自分の身は可愛いものだ。
 顔の写メを取って保存して状況終了。こうした撃退には少々手馴れた感があるな。
 取り敢えず伸びている女生徒の脈を測り、あることを確認してから廊下側の壁へ引き摺っておいた。
 まぁ、恐らく人が居ないという状況を作り出した相方の生徒が回収しに来るだろう。……メモでも張っておくか。うっとおしいし。
 警告染みた文を書き連ねた何処でも張り剥がせる付箋をおでこにつけて、部屋へ戻って内鍵を閉める。はぁ、やれやれ。
 初日から来るなんて油断してたぼくも悪いんだけど、どんだけ必死なんだよと突っ込みたくもなる気分をどう晴らそうか。
 
「ああ、そう言えば同居人が居たのだったな」

 扉から近いどう見てもシャワールームな場所からくぐもった少女の声が聞こえて、そしてさらにその声の持ち主に心当たりがあったりしちゃったから、敢えてそちらを見やることにする。開かれた曇りガラス付きの扉から現れたのは、やっぱり箒ちゃんだった。
 バスタオル越しでも分かるその魔の谷間の正体は言わずがな、思春期の少年たちを虜にしてしまうような湿って火照った生肌、そしてきょとんとしながら驚愕と羞恥に染まっていく表情。ああ、至福だね。これから平手を喰らうことを想定してしまうくらいに。完全にラッキースケベな展開だった。

「い、一夏ぁあああああ!? み、見るなぁあああああ!!!」
「ごふっ!?」

 喰らったのは可愛らしい平手ではなく拳の見えぬボディブロウ。確実に水月に入った感覚があり、嘔吐感と激痛がぼくの疲れた神経を焼き切る。
 ………………はっ、意識が飛んでいた。
 どうやらぼくはそのまま壁にもたれかかるように吹っ飛んで気絶してしまったらしい。
 悶絶するような腹部の痛みと変に曲げられた背骨の痛みがそれを物語っていた。
 横を見やればすでに部屋着のつもりなのか和服チョイスな胴着に着替えた箒ちゃんが頬を染めながら正座していて、こちらをジト目で睨んでいた。
 涙目で。ご馳走様です、眼福です。すみませんでした。

「え、えっと……ご、ごめんね。ぼくも注意が足りなかった……。それにしても良いボディブロウだった。剣道止めてボクシングやれるくらい」
「…………すまなかった。私も少し動転していた。殴ってしまったのは詫びるつもりだ。本当にすまない」
「……ああ、いや。大丈夫だよ。そろそろ動けるくらいには回復したからさ。さすが全国剣道大会優勝者だね。威力が段違いだ」
「む? 何故お前がそれを知っているのだ」
「え? 新聞に載ってたじゃないか。五センチくらいの枠でさ。……ああ、これも昔のぼくの記憶っぽいね。ぼくが見た記憶が無いのに覚えてるから」
「……そうか。今ので確信が持てた。お前の中には私の知っている一夏が眠っているのだな」
「ごめんね。ぼくなんかが久しぶりの一夏でさ」
「いや、そうでもない。むしろ、自分の中の気持ちが整理できたからな。今のお前でなければ私はきっと不器用に接してしまっていただろうよ。逆に礼を……。いや、どうなのだろうな」
「さぁ? 君が昔のぼくが好いていた事くらいしか分からないかな」
「……ひ、秘密だぞ。前の一夏には」
「オーケー。今の一夏がその約束を護ろう。まぁ、この手の記憶喪失って思い出した時にはその頃の記憶が残ってたりするから分からないけどね」
「……よし、頭をパーンだな。きっと飛ぶぞ」
「記憶が?」
「脳漿が」
「脳漿がっ!?」

 ボクシングのジャブくらいの速度でぼくの頬横を通って拳が過ぎた。避けなければ、鼻っ面に当たっていたに違いない。いや、マジで危ない。
 お互いの吐息が気がつけるくらいに近寄り、ぼくの腰の上に乗っかる形で箒ちゃんが結構やばい眼でぼくを見つめる。いや、睨んでた。

「ちょ、勘弁してくれ! ぼくはまだ死にたくない! もし、殴って別の人格が生まれて、それが鬼畜な性格な奴でも知らんからな!!」
「……ふむ、その考えは無かったな。だが、心配要らない。篠ノ乃流の裏奥義に亡心波衝撃という他の武術家の教えがあってだな……」
「いや、マジでそれは勘弁してください。割とマジで。と言うか、その奥義名なのに殴ろうとしたよな!? アレって左右から叩く奴だろ!」
「ああ、そうだったな。如何せん、読んだのが数年前だから忘れていた」
「おい。読んだって言ったぞ今! 漫画の技なんて素人ができるわけがないだろう!」
「……試してみるか?」
「……それ以上やるなら、ぼくにだって対処方法はある」

 そうぼくは手に持っていたスタンガンを箒ちゃんの首へ構える。リミッターは一度使うと戻る仕様だから、普通状態で安心モード。
 箒ちゃんの口元が引きつった。ああ、やっぱり武術家でもこういうのは怖いよね。まぁ、ぼくも正直これは無いと思ってる。
 スタンガンから手を離し、床に転がったのを見てホッとした表情の箒ちゃんに戻る。……そのまま正気に戻って欲しいけども。

「……すまなかった」
「えいっ」
「あたっ!? い、いきなりチョップするな!」
「……はぁ。これで手打ちね。そろそろ退いてくれないかな。別に重くは無いけれど、むしろ抱きついてくれると嬉しいくらいだけど、はしたないよ?」
「……? ッ!?」

 自分の状況を知ってか、若干暴れたせいで豊満な胸で乱れた上着を両手で抱きしめる形でキッと睨む箒ちゃん。
 いや、それはぼくのせいじゃない気がする。自業自得な気がするよ、うん。
 正直に言えばピンクブラが見えててちょっとドギマギと恐ろしさとで混沌としていた気分だった。そう、命の喜々的な感じで。違う、嬉々だ。アレ?
 箒ちゃんはすぐさま立ち上がって胸を上下に揺らし、ベッドの方へ逃げていった。
 ……何だろう。呪い名四位の見習いよりも一般人である箒ちゃんの方が手強かった気がする。知り合いだから尚更だろう。
 
「もう疲れたよ、フランダース」

 ……いや、逆じゃん。犬の方が喋った感じじゃねぇか、これ。まぁ、いっか。聞こえてないだろうし。
 それからしばらくして、再び面会した箒ちゃんと部屋のルールを決め終え、ふと気付く。ぼくは何処で小なり大なりすればいいのだろうか。

「確か、整備室とアリーナは男女で使う場所だから別れていたと思うが」
「……ここからの距離いくつだと思ってる?」
「その、なんだ。ご愁傷様」
「畜生。本当に鬼畜仕様だなこの学園の生徒側。主に男子。……待てよ、確か千冬さんの住む寮長室には備え付けられていたような……」

 困った時は泣きつくとしよう。できるだけ余裕を持って水分やらの調整をしておくことにしよう。女装してトイレに入るとか勘弁過ぎる。
 ……そう言えば、まだ自分は借りた胴着のままだった。まぁ、確かに部屋着にしたくなるくらいに楽だけれども、どうもすーすーして落ち着かない。
 ベッドとベッドを遮るカーテンの陰でラフなシャツとハーフズボンに着替えて、箒ちゃんに声をかける。

「そういえば洗濯ってどうすればいいんだ? 何処かにあるのかな」
「む? ああ、洗面台の近くに洗濯機があるぞ。洗剤はすでに備えてあるから使ってくれて構わないぞ」
「そっか、ありがとね。……胴着ってどう洗えばいいのかな」
「ああ、そう言えばその胴着はお前にプレゼントして構わないそうだ。男性用の備品だったから捨てるか雑巾にするか迷ってたらしいからな」
「ふーん……、そうなんだ。じゃあ、お言葉に甘えて貰っておこうかな。家なら部屋着くらいにはしてもいいし」

 何せ、ぼくの家には束さんお手製で特製の仕掛けがたくさんあり、人類最強くらいじゃなければ怪我せずに入ることもままならないような罠が存在している。そして、今のぼくの家には最大レヴェルでそれらが放置されている。帰った時にいくつ消費されているか楽しみだ。
 これは千冬さんも同意したことであるので、解除装置はぼくと千冬さん……ではなく、束さんに一任してあるので、唯一コンタクトが取れる姉弟であるぼくらが連絡することで解除する手筈になっているので安心だ。……たぶん。
 ああ、そうだった。確かぼくに専用機がIS学園側から送られるそうだからその機体のチェックもしておかないといけないんだったな。
 ぼくの端末に送られる手筈らしいので、後でチェックしておこう。しまった、PDAを玄関口に置きっぱなしだった。
 回収しようとベッドの脇から顔を出し、無意識的に隣を見てしまったのが運のつきだった。
 先ほどの胴着を脱いで、半裸状態でシャツらしきものを掴んでいる箒ちゃんが見えてしまった。あー、こりゃ死ぬかも。
 
「きゃぁああああ?!」
「がふっ」

 今度はボディじゃなく、傍目から見て猫ぱんち。しかし、威力絶大でマジで痛いッ!? 
 衝撃で吹っ飛んで、脳震盪とセットで気を失うのは、仕方が無い、気が、する。がくり。
 結局夕飯まで眠り続けてしまったようで、無駄に頭が痛くて冴えていた。
 PDAは時間で液晶が消えた状態で枕元に置かれていたので安堵、そして持っていた胴着は代わりに洗ってくれたようだった。
 しかしまぁ、食事を取って少し安定したが、この昂りどうしようか。そうだ、専用機のチェックをしよう。
 京都に行くようなノリだったが、ぼくは自室に戻りベッドにのそのそと戻ってから端末を操作する。
 倉持研と言うラボから――ではなく、罪口商会という知り合いの企業へ変わった(何が水面下で起きたかは存じ上げないし、知りたくない)そうなので、件名に第四地区罪口商会統括の名――つまり罪口積雪さんの名が載ったメールが届いていた。
 内容をスクロール。近況が細かく書かれてる、かなり丁寧に。ふむ、やっぱりこれは仕事扱いらしいようだ。かなりフランクだけど。
 文面的にあれからもお元気そうで何よりだ。
 入り浸りするピアノバーの曲識さんと一つだけ装備を製作したらしく、使い心地を試して欲しいとの事だった。
 ……倉持研の製作途中のコアをあの手この手で入手したらしく、その納品相手がぼくだと分かった途端、倉持研に脅し――もとい、商談をして正式に仕事を奪ったらしい。というか、日記調で後半にPSとして綴られていて正直ブラック企業の中身を見たような怖さが背筋に通る。
 まとめてあるデータをダウンロードし、閲覧モードに切り替える。空中投影されたスクロール。機体の名は――零式。

「……いや、積雪さん。曲識さんをリスペクトしすぎでしょう。よりによってこの名前のチョイスは……大丈夫かこれ」

 本気で心配だった。乗った瞬間に零崎モードとかマジで洒落にならないのだけど。
 恐る恐るながらおっかなびっくりとした気分でボタンをタッチし、性能とステータスを開く。
 ……良かった、搭載されてないや、零崎モード。搭載されてたら死ぬ気覚悟で直談判しなくちゃならなかったから心底ビクビクしてた。
 外見は……へぇ、白い騎士みたいなモデルで、積雪さんにしてはまともな方向の志向性のデザインでかっこよかった。
 見た目からして、白、と形容したくなる程に無駄の無いデザインで、積雪さんの無駄に至高な能力が発揮されているらしい。
 ええと、武器の一覧っと。……おいおい、何だこの搭載領域の密集率。全部ギリギリで組み込まれてて……ああ、これぼくの習った暗器術だ。
 って、全部打撃系!? おいおい、何なんだこのラインナップ。拷問器具から撲殺バットまで幅広いっていうレヴェルじゃないぞこれ。
 明らかに趣味と言うか、仕事柄全開な武器の種類なんだけども……。って、あれ、これ最後に搭載予定一覧って書いてあるぞ? 
 か、勘弁願いたいなぁ……。バイトはキツクて死にそうで大変で苛烈で熾烈で超絶だったけどもこれも辛い。たぶん、対戦相手が折れる。心が。
 次のページの一言目に「冗談だ」と書かれてあった。……ぼく遊ばれてるなぁこれ。今頃微笑を浮かべている気がする。何か悔しい。
 でも、そのためにここまで精巧な偽ステータスをでっちあげるなんて、才能の無駄遣いとしか言いようが無いのだけれども……。
 ISコアの単一仕様の関係上二つしか搭載が不可能だったらしく、一つは【雪片弐型】という刀武装。メインがこれらしく、発動時にISのシールドエネルギーを強制供給させて、それを相手のシールドエネルギーを突き破る程に放出して直接負荷をかけさせる能力。
 つまり絶対防御を絶対的に必然的に強制過剰発動させる一撃死の博打な能力らしい。
 一発決まれば即KO、外したら絶体絶命と言うピーキーっていうレヴェルじゃない代物で、普通なら欠陥だと叩きつけるレヴェルのそれだった。
 もう一つは音叉状の打撃武器。って、打撃!? ってことはこのISには遠距離系装備が一切無いことになる。結局ハードモードだった。
 片方の音叉が対象にぶつかることで、衝撃を波紋的に叩き込む波状飽和打撃が可能な武器らしい。どんな武器だこれ。
 これがぼくに対するプレゼントらしく、本来なら単一仕様のせいで搭載領域が無いこれに組み込める最小最高の武器を入れてくれたらしい。
 ああ、確かに弾丸とかも量子化しないといけないから搭載領域を圧迫しちゃうから、そもそも遠距離系は載せれないわけだ。
 ……その割にはこの音叉の武器【曲鳴(マガナリ)】の搭載スペースが三分の一を占めているような気がするのだけれども。
 気のせいであって欲しいな。切実に。
 返信として感謝の意を込めた文と今日の件を添えて「次は音響兵器なんてどうですか」と希望めいた事もPSして送り返した。
 返事で「それは盲点だった」と返ってきたので、しばらくすれば遠距離武器も期待できるかもしれない。

「……ただ、たぶんそれもプレイヤー向けのそれを巨大化して調整したものだろうし、IS乗ってても大丈夫……だといいんだけど」

 使用した瞬間に相手が内側から爆散するような兵器だったら封印しなきゃいけないのだけど。大丈夫だろうか。とっても心配だ。
 取り敢えず、明日からは打鉄で操作覚えつつ、近接武器オンリーで作戦を練ろう。
 この音叉は使用前に調整という名の試しをしなければ怖くて使えないから、それを想定した上で、だな。
 となると、セシリアちゃんの機体のことも調べておかなければならないだろう。やることが多すぎて、若干疲れてきた。いや、別のかもしれん。
 ぶつけたからか、それとも気苦労からか、頭が痛かった。優しさ半分の薬でも飲んでおこうかな……。








 ――はい、作戦は失敗しました。目標に対し、襲撃が……え? それどころではないというのは……。
 ――そ、そんな馬鹿なことがあって……はい、申し訳ありません。取り乱しました。まさか、目標が"零崎"と縁があるとは思いませんでした。
 ――……分かりました。気をつけます。……まだ、あの化物がこの街に存在しているなんて……最悪過ぎる。
 ――作戦は予定通り決行する。必ずや目標"織斑一夏"を始末して――、おい、どうした。突っ立って無いで反応しろ! 
 
「かはは、誰が誰を始末するって? おいおい、そんなに震えんなよ。可愛い顔が台無しじゃねぇか。あん? 居るだろ、ほら、後ろだ後ろ」
「てめぇが振り向いて後ろだよバーカ。死体の真後ろから大胆不敵に参上するたぁ、俺も少しだけユニークなところがあるよな! うん?」
「なんだよ、俺ってばもう"殺しちまってたか"。赤いお姉さんにどやされるのは勘弁だからここらで止めておくかぁ? でも、京都じゃねぇし、いっか」
「あーん? なんだこの紙束。IS学園? ……そういや、あの時十二通りって言ってたけどよぉ。それって、外国の奴も含まれんのかねぇ?」
「言語ってのはかなり違うからよ、もしかしてもしかすると俺の知らないのもあるかもしれないし、ないかもしれないが……」
「かはは! 傑作だな、こりゃ。あいつも居やがるのか、あそこに。この前電気屋で見かけたぜ、ニュース。有名人だったんだな、最悪な意味で」
「さぁて、楽しくなってきやがったぜ。あーあー、はろーはろー。繋がってるよなこれ。今からお前らと遊んでやるから待ってろよ。な?」
「あぁん? 俺が誰だか声で分かんないのかお前ら。チャーリーⅠ? ああ、このばらばらになってる奴? すでに冷たい床と同化してんぜ?」
「まぁ、そう心配すんな。慰めにいってやるからよ。ああ? そんなつれないこと言うなよ。こちとら飛行機の券を紙切れにしちまったんだからさ」





「久しぶりに――殺して解して並べて揃えて晒してやんよ」






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