<このWebサイトはアフィリエイト広告を使用しています。> SS投稿掲示板

チラシの裏SS投稿掲示板


[広告]


No.34794の一覧
[0] 【壱捌話投稿】戯言なるままに生きるが候 (一夏改変IS・戯言&人間シリーズクロス)[不落八十八](2013/03/10 14:47)
[1] 壱話 出会いと別れ。[不落八十八](2012/09/04 16:46)
[2] 弐話 玩具な兵器。[不落八十八](2012/09/04 17:00)
[5] 参話 再びの再会。[不落八十八](2012/09/17 02:28)
[6] 肆話 出会うは最悪。[不落八十八](2012/09/17 02:28)
[7] 伍話 根源回帰。[不落八十八](2012/10/27 16:56)
[8] 陸話 誰がために道を歩む。 [不落八十八](2012/09/22 19:21)
[9] 外伝短編“柒飛ばし” 織斑千冬の人間関係[不落八十八](2012/12/18 23:24)
[10] 捌話 生まれ出でし混沌。[不落八十八](2012/09/17 11:19)
[11] 玖話 代替なる君へ。[不落八十八](2012/10/16 00:42)
[12] 壱零話 似た者同士。[不落八十八](2012/11/24 16:39)
[13] 壱壱話 嵐の渦中。[不落八十八](2012/10/06 01:16)
[14] 壱弐話 空が泣く日。[不落八十八](2012/10/13 23:00)
[15] 壱参話 壊れ始める世界の上で。[不落八十八](2012/10/27 11:27)
[16] 壱肆話 山猫さんの憂鬱日。[不落八十八](2012/10/27 14:16)
[17] 壱伍話 迷宮(冥求)[不落八十八](2012/11/24 13:34)
[18] 壱陸話 喪失(葬執)[不落八十八](2012/12/21 00:16)
[19] 外伝短編“壱柒飛ばし” 織斑千冬の人間関係② [不落八十八](2012/12/26 22:26)
[20] 壱捌話 戦争(線沿) NEW[不落八十八](2012/12/26 22:45)
感想掲示板 全件表示 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

[34794] 参話 再びの再会。
Name: 不落八十八◆2f350079 ID:6f3b522c 前を表示する / 次を表示する
Date: 2012/09/17 02:28


 他人に言いたくない事ってさ、他人に言いたくなるよな。












 人ってのは許容できることに個人差がある。例えば、殺人とかどうだろうか。
 人間が他人を殺すってのは道理に適うわけもないとされているが、人間界ではなく自然界では普通なことだろう。
 弱肉強食な自然界で、人間ってのは頭脳が発達した生物でしかなく、集団を成して都市を造り群れている高度な知識を持つ生き物だ。
 なら、食物連鎖という自然のルールを当て嵌めれば人間同士の殺人なんてものは、食料問題程度にしか感じられないものではないだろうか。
 殺した人間が悪いのではなく、殺された人間が悪いのではなく、殺人論理のズレがいけないのだ。
 例えば。この世界が百人の村で形成されていたとして、一人が死んで、一人が殺したとしよう。
 法的に見ればこれは列記とした殺人罪で捕まり購うべき罪となるだろう。
 なら、ここに一つの条件を足してみようか。
 もしも、その村では飢饉が起こり、食べ物が手に入らなくなってしまった場所であったなら、この問題はどう捉えるだろうか。
 殺人を犯したのは空腹のせいで、飢饉のせいで、餓えたから弱い者を殺して食べようとしたのだと証言したらどうだろうか。
 人間的には許されず、自然的には許されるだろう。問題は、どちらに視点を置くか、言うなればどちらの立場に立てばいいのか、という点だろう。
 人間として生きれば飢え死に、自然の一部としては他人と自己を犠牲にして生き延びる。
 さて、どちらか正解なのだろうか。
 
「……また出会えるとは思ってたけど、こんな凄惨たる教室で出会うとは思ってなかったよ」
「かはは! ほぼ一日振りってとこだな。元気してたか?」
「いや、昨日は拭森の見習いに襲撃されてたから、これといって元気してたわけじゃないけど、身体的に見れば元気してるさ」

 早朝。五時くらいに目が覚めたぼくは暇つぶし程度にぶらぶらと校内を散歩していた。
 何処か嗅ぎ慣れた匂いに誘われたら、そこに廊下側の窓が真っ赤な教室が形成されていたのを発見してしまった。
 お得意の暗器術で色々と忍ばせた今の状態でなら、どんな事でも大体は何とかできるだろうと判断し、扉を開く。
 噎せ返るような"新鮮"な鉄分の匂い。今も尚四散したパーツから赤い液体が広がっていて、つい先ほど"解体"されたのだと理解する。
 解体した人物は何故かバラバラにした四肢をさらに分解し、丁寧に机の上に一パーツずつ並べて、綺麗に揃えられたその光景はもはやアートと言うべきか、晒された肉体の一つ一つが意味を成しているような気分になるほどに、それは、凄惨過ぎていた。
 教室っていうのは、大体椅子や机が黒板の方に寄っているから後ろにスペースが生まれる。
 真っ赤に染まる教室の後方の中央に、この惨劇を作り出した犯人が綺麗な姿で立っていた。
 右頬に大きな刺青、右耳に三連ピアス、左耳に携帯ストラップをつけており、髪を白髪まだらに染めたお洒落頑張ってる少年が居た。
 名は知らぬが、その雰囲気だけで裏に精通するものなら肌で感覚で六感で分かる。
 ――目の前に居る人物は零崎であると。
 ぼくは零崎と呼ばれるそれの中で三人の人物に出会っている。
 針金のような背格好の"自殺志願(マインドレンデル)"、菜食主義者でピアノが上手い"少女趣味(ボルトキープ)"。
 そして、目の前の零崎でありながら零崎らしくない少年。彼は、餓えていると形容するよりも、渇いていると形容したい。
 何処か目的を探すことを目的にして目的を見失っているような、そんな異物のような違和感を、彼は匂わせる。
 手に持っていた血塗れのナイフを血払いし、ポケットに仕舞い込んだ彼は、笑みを浮かべながら口開く。

「驚くとこだぜ、この状況。昨日会った知り合いがまさか京都の殺人鬼で、しかも今日あんたの知り合いかもしれない奴を殺してるっていうんだからよ」
「あー……、うん。そうだね。正直驚いてるよ、うん」
「棒読みじゃねぇか。少しはリアクションしろっての。今じゃバラバラでわかんねぇだろうけどよ、こいつ、女の子なんだぜ?」
「そりゃ、この学園にはぼくと今は君しか男性は居ないからね。整備科には男性が居るだろうけども、ここは操縦科だからね」
「へぇ、そうなのか。それじゃあ、この学園にはさらに人が居るってことだよな。もしかして、こいつみたいに空間を操ったりするやつとかいんのかね」
「さぁ? まぁ、確かにその子はぼくの知り合いみたいなもんだね。昨日追い回されたし、殺すためか拉致するためかは知らないけども」
「はぁん。ってことはこいつプレイヤーの卵だったわけか。道理で俺の招待に感づいてると思ったぜ」
「まぁ、ぼくはプレイヤーじゃないからさ。殺し合いとかは勘弁願いたいわけなのだけど、逃がしてもらってもいいかな?」
「うーん。どっちかってーと俺はアンタを殺したい気分なんだけど、何処か勿体無い気がするんだよな」
「メインディッシュを前菜に持ってくるくらい?」
「そうそう。きっと俺はアンタをあっさりと殺したくないんだよな。アイツに似てるってのもあるけど、触れちゃいけない気もするんだよな」
「おいおい、人を勝手に取り扱い危険物にしてくれないでくれよ。君のほうがよっぽど危ないじゃないか」
「まぁ、そうなんだけどもよ。あ。じゃあ、こうしようか。俺はアンタを手加減して殺しにかかるからさ、アンタは頑張って足掻いてくれよ」
「味見ってことかい?」
「そういうこった。じゃあ、始めようぜ。零崎案内コースって感じでよ」
「勘弁してくれ。僕は人を殺す趣味はないよ」

 服の何処からか取り出したナイフを手に彼が笑う。ぼくが咄嗟に右手に取り出したのは使い慣れた相棒だった。
 その姿を見た刺青の彼は絶句していた。まるで、トラウマの品を目の前に取り出されたような、そんな目だった。
 二十センチ程の皮袋。持ち手が刀の柄のようになっており、加えて炯炯とした漆黒のフォルムで身を飾った――プレイヤー殺しの完成品。
 プレイヤーがプレイヤーと呼ばれる所以とは何だろうか。それは、人を殺す作業をどれだけ精密にマニアックに完璧にこなせるかどうか、だ。
 故に、この武器はプレイヤーが持つには異端のものだ。人が死ぬというのは、総じて身体の命を奪うことなのだから。
 ――人の精神を殺すために作られたと言っても過言ではないこの武器は明らかに異端だろう。

「お、おいおい、それはちょっと勘弁してくれよ一夏くん……。そいつは、マジで笑えない……っ」
「……ブラックジャックって知ってるかい。言うなれば拷問器具の一種なんだけども、こいつは本当に凄くてね。見た目はあれなのに使い勝手が良い。積雪さんのお手製でね。バイトの給金と一緒にくれたんだよ。いやぁ、大変だった。これを完成させるまでの実験体にしばらくぼく自身が使われたからね。幾度死にたくなったことか。おかげで痛いとか苦しいとかの苦痛には慣れちゃったんだよ。そうそう、これは人の皮を使っているらしくってね。中身は人間の血なんだそうだ。どうしてこんなに黒いことになっているのはさ、幾人もこれで撃退しちゃって汚れちゃったからなんだよね。いやはや、ぼくでも少し思うんだ。死ねない痛みってどれくらい最悪かって。この身を削って、いや、打って作られたものだから結構愛着があったりするんだよ。凄いんだぜ、これ。本来なら内臓とか血管とかを傷つけてしまうのを、積雪さんの技術で苦しむだけに抑えられた武器なんだよ。いやぁ、最初は皆きょとんとしてこれを笑うんだけど、数発打たれるごとに分かるんだよね。ああ、これは心が折れる、って。おいおい、どうしたんだい。蒼白じゃないか。気分でも悪いのかい?」
「……人を殺すことは許容しないが、死ぬギリギリまでだったら何してもいいってか!? おいおい、なんだよそのぶっ飛んだ発想は!? 殺人鬼な俺が言うのも何だが、それは最悪過ぎるだろ!? というか、人のトラウマ武器持って来てんじゃねぇよ完成させてんじゃねぇよ!?」
「……意識を奪うことなく、相手を完全に蹂躙するってのがこの武器の良い所なんだけどねぇ」
「止めた! 味見なんかできるかっ! 毒を喰らわば皿までっていうレヴェルじゃねぇよ! 皿に食われるわ!」
「まぁ、ぼくとしてもこういう物騒なものはあんまり出したくないんだけどね。まぁ、積雪さんに『君は並みのプレイヤー以上に恐ろしい性格になってしまったな』と笑われちゃうくらいだからさ、どっちかっていうと好きの分類に入るのかもしれないけど」
「あー……、虎穴に入って尻尾踏んだ気分だぜおい」
「ふうん、それでこの後はどうするんだい? 流石にまだ人は来ないだろうけども、このままはやばいよ?」
「あー、そうだな。だからアンタ廊下から出てこないのか。足跡付かないようにってか」
「そうそう、大事なことだよ。それと、一応君のことを思ってここに居るんだからさ。第一発見者くらいにはなってあげるよ」
「かはは、そりゃあ良い。場所でも変えるか。正直、アンタと殺りあう気が完全に失せたわ」
「それは重畳。手数で圧した意味があったよ。何せ、相手は名も知らぬ零崎なんだからさ」

 その言葉に彼は唖然とした顔で、でも何処か納得したような顔で鼻で笑った。

「ああ、そういや自己紹介がまだだったな。俺の名は零崎人識。ただのしがない殺人鬼だ」
「ああ、そうだったね。ぼくの名は織斑一夏。ただのしがない不気味な泡さ」
「はぁ? なんだアンタ、世界でも救うのか」
「うん、かなり限定的な世界をだけどね」

 ぼくらは早朝過ぎて誰も居ない校舎を歩きながら、屋上へ向かった。屋上には鍵がかかっていたが人識くんが手馴れた様子で面白い形のナイフでピッキングして開けてくれた。錠開け専用鉄具とか言う特殊なナイフらしい。欲しいな、と言ってみたら結構な額が返ってきた。うーん、無理っぽい。
 それから屋上で再び雑談を開始。朝食の時間までの良い暇つぶしにはなった。
 気になっていたブラックジャックを見た時の怯え様の理由を尋ねてみれば、あれの最初の犠牲者はどうやら人識くんだったらしい。
 ああ、確かにそれは悪いことをしたな。トラウマ抉るってもんじゃないや、それ。
 お互いにこの武器の恐ろしさを知っているという肴があったからか、結構話題が盛り上がった。
 本当ならば自室に招いて一日中語り合いたいくらいに盛り上がった。一人部屋でないのが残念だ。匿えないや。
 人識くんが立ち去った後、今朝の一件は束さんに揉み消してもらうことを思いつき、ぼくは携帯電話を開いた。

「あ、もしもし」
『うん? いっくんじゃないか! 束さんにお電話してくれるなんて恐悦至極拍手喝采だよ! どうしたんだい?』
「あー、ちょいと友人が学園でプレイヤーの卵殺ってしまいまして、どうにかしておいてくれません?」
『ああ、それね。すでにちーちゃんから連絡来てたからすぐに掃除しておいたよ。それにしてもいっくんにお友達だなんてねぇ』
「ははは、ぼくも同じこと思ってますよ。それで、箒ちゃんとは順調です?」
『うーん。やっぱり離れ離れになっちゃったのが長いからちょっと難しいのかなー。いっくんの方から何とかしてくれないかな』
「まぁ、構いませんけど。では、貸し一つくらいで面倒見ましょうか」
『ひーん。いっくんの貸し一つは横暴だから怖いよー。この前はコスプレ強要して一日メイドさんなんかやらせたじゃないかー』
「ノリノリ過ぎて猫耳カチューシャまでつけてくれたじゃないですか。今もあの画像残ってますけど、あ、いっそのことこれを箒ちゃんに……」
『ちょ、それは止めて! 姉としての威厳がもうブロークン状態だよ!』
「すでに粉砕されていることを忘れてません?」
『そ、それをこれから直すんじゃないか!』
「そうでしたね。では、貸し一つってことで」
『あ、でもお掃除の件があるからチャラに……』
「なりません。千冬さん経由で処理したんでしょう? なら、ぼくの管轄外です」
『えー……、いっくんの友人が殺っちゃったんでしょう? なら……』
「貸し無しなら、あの写メを全面的に遣ってしまいますが、それでもよろしいです?」
『ごめんなさいでした! 束さんが悪かったよぉ、お願いだからプライベートフォルダに仕舞い込んで置いてほしいな。厳重に』
「そうしましょうか。では、また」
『うん、ばいばいきーん。よろしくねー』

 相変わらず愉快な人だな束さん。また遊んであげたいな、一線越えるギリギリな状況まで。歯ブラシ対決とか。
 一応確かめるという確認作業で先ほどの教室へ行ってみたが、確かにすでに血の匂いが残らない程に完璧に掃除されていた。
 先ほどの現状を知った生徒が居たとして、この机や教室を昨日通りに使えるだろうか。知らぬが仏というレヴェルじゃないから、黙っておこう。
 部屋に戻ったら今度は着替え現場に遭遇することなく制服に着替え終えた箒ちゃんと再会した。
 出て行った理由は無難に適当に『トイレに行って来た』ということにした。納得してくれたらしく、話題も話題だから箒ちゃんは興味を引いてくれた。
 むしろ、この話題に食いつく女子高生が居たらドン引きだ。清楚で純潔であってほしいね、目の前の大和撫子には。
 朝食に誘い、適当なメニューを腹に満たしてから教室へ向かう。
 さっそく束さんの依頼通りちょいちょいと会話の節々に自然な流れで束さんの良い話を巻き込み、悟らせないレベルで話術を使って頑張ってみた。
 結果は……、まぁ、そう上手くいくはずもなく。むしろ、「なぜお前が姉さんの事を私に語れるんだ」と嫉妬されてしまった。
 うん、駄目だこの姉妹。早く何とかしないと。結局勘違いと擦れ違いと思い込みでお互いに無いはずの壁に背中合わせしてるだけだった。
 元々亀裂も皹も溝も無かったわけだから、修復の目処も立たないし、むしろ犬も食わないくらいに姉妹姉妹してた。
 だが、このまま引き下がるのもアレなので少しだけぼくの束さん秘蔵プライベートフォルダを開錠して、画像数枚送ってさらに困惑させてあげた。
 食い入るように束さん(バニー)や束さん(メイド)や束さん(甘えんぼ服)などの端末画像を見ていた箒ちゃんは将来性が不安になるくらいにシスコン拗らせて微笑んでた。普通に微笑ましいとかの微笑なら良いのだけれど、口元がにへらとしていた。可愛いなぁもう。
 結局彼女は授業に入って即座に千冬さんの瞬間移動めいた速度で放たれた出席簿クラッシュで正気に戻るまで駄目なままだった。
 耳まで真っ赤にして俯きながら先ほどの自分の心境の事を考えている姿はもう、たまりませんでした。
 その後ぼくも叩かれたのは言わずがなのことだろう。
 放課後。打鉄に乗って基本動作の修練をしようと思ってアリーナへ向かう。隣に箒ちゃんが居るのは何故だろうか。
 話を聞いてみればどうやら箒ちゃんも打鉄の許可を取ったらしく、折角なので練習の後に軽く模擬戦をする約束を取り付けることにした。
 久しぶりのISに浪漫と興奮を交えつつ、パイルダーオン。このフィットする感じが結構好きだったりする。
 打鉄は訓練用ISの名前で、外見は和と洋を混ぜたような鎧姿。武者と呼ぶには無骨で騎士と呼ぶにも無骨だった。
 しかし、訓練用であるために使い勝手はよく、初心者であるぼくも数時間で飛べるようにはなった。

「そこで旋回してみようか」
「ふむ、こうか?」
「そうそう、それがホバリングだよ。少しだけ浮くって感じがコツかな」
「ほう? ……なるほど、確かにそう考えればしっくり来るな」

 箒ちゃんも同じように運動センスがあったからか、ぼくと同じくらいの速度でISに慣れることができた。うん、やっぱり基本は大事だな。
 ……まぁ、ぼくの視線はどうしてもあの魔の領域へ行ってしまうけどもそれは思春期だから仕方ないと割愛させてくれ。
 数分の休憩を取り、お互いのIS技術について思ったことを話し合い、改良点を上げていく。
 訓練用ISであるからか打鉄はコツを掴まないと細かい作業が操縦者に合わせてピンキリな性能を齎すISであると改めて認識することになった。
 なら、専用機というのはどういった具合なのだろうか。セシリアちゃんは国家代表候補生。つまり、四六七機のうちの一つを専用機としている別格だ。
 まだセシリアちゃんの機体の名前も知らないけれど、何と無く彼女のイメージからして遠距離型だろう。
 鷹が地を這う供物を喰らうような上空から狩るイメージ。それに、貴族ってのは自分の手を汚したがらないから、至近距離型はまず無いだろう。
 そして、あの若干社会向きにアレンジされた自己の貴族像からして、意外と幼稚っぽい雰囲気が見てとれた。
 ならば、自分の技術に誇りを持ち、他を高をくくって軽んじるような、精神的なミスを出すに違いない。
 本気で戦うのなら遊ばず一撃で決めるような戦闘スタイルであろうに、自分が格上だと誤認するが故に敗北する。典型的なパターンだろう。
 だから、ぼくがすべきは些細なミスを亀裂の如く致命傷になるまでひたすらに足掻くことだろう。
 ISの起動時間からして不利、打撃専用の専用機というだけでもさらに不利、加えてぼくは勝ちたいと思っていないから絶望的に不利。
 彼女が許すなら正直ぼくは不戦敗でもいいのだけれども。決闘だなんて古臭い台詞を吐いた彼女がそれを容認するとは思えない。
 
「それじゃ、五分マッチで三本先取でいいかな」
「ああ、構わない。推して参る」

 夕飯の時間に近づいてきたからか、アリーナにはぼくらしか残っていない状況。ある意味貸切状態だとも言えよう。
 公式ルールに乗っ取り、十メートルの距離を取って開始する。セットしたタイマーの音がゴングと化し、ぼくらはお互いに武器を持って動いた。
 訓練用IS打鉄には三種類の兵装がある。サブマシンガンのAR17、アサルトライフルのKR78、そして白兵戦用ブレードのムラサメ。
 短距離から中距離までの兵装が揃っているというのに、ぼくはとある縛りによりムラサメしか選択ができない。めんどくさいなぁもう。
 
「はっ!」

 渇いた音が連続して空を切り、AR17から放たれる弾丸がぶち撒けられた。
 箒ちゃんは銃の扱いに慣れているわけでなく、腕が震えてしまってビギナーズラックとも呼べる偶然で威嚇射撃を行っているようなものだ。
 勿論、照準はISによってコントロールされるが、本人自身が腕を揺らしてしまっているようで当たる弾も当たらないそんな状況だった。
 何発か当たることを選択し、ムラサメで地面を抉るように腹を使ってスコップの如く使い方で箒ちゃんに土砂を降らせた。
 とっさに空いている左腕を顔前に出して防ぐ箒ちゃん。残念ながら、それはロスタイムに過ぎない愚考だ。
 ISには絶対防御という文字通り自動的に防御してくれるが、それを簡易的に発動させることは可能だ。故に、砂埃に対しそれを発動すれば目に入る前に弾くことも可能だ。それくらいでシールドエネルギーが削れるわけもないしな。
 最も、そんな高度なテクニックを箒ちゃんが知っているわけもないだろうけど。
 ISの性能を知り尽くしていればこれくらい誰でも思いつくが、逆に言えばその努力をしなければ一生会得できないスキルということだ。
 チキンランに似た技術であるが、ぼくはそれを用いて真正面から不意打ちに成功した。吹き上がる土埃に身を隠し、近づいた瞬間に瞬時加速と呼ばれる技術で上を通過して背後へ回り込む。
 センサーでそれを感知したのだろう箒ちゃんもムラサメを展開させ、自棄気味に牽制としてこちらへ振るう。
 それを逆手に取り、避けて通り過ぎた腕を掴み、PICコントロール、慣性を無視してトップギアで身近な壁へ叩きつけてあげた。
 PICという慣性を無視して動けるようなチート技術がISにあるため、敢えて相手ISごとPICを発動させてやった。
 かなり良い音をしてぶつかってくれた箒ちゃんの腹へ慣性を無視して初速最高速度にした跳び蹴りを食らわせてあげた。
 一瞬でゲージが減り、箒ちゃんの操る打鉄のシールドエネルギーが枯渇したのを確認して、足をどけた。

「ぐ、あ……。い、今私は何をされたのだ……」
「PICコントロールって言って、ISに備わってるPICを最大まで発動させて相手ISの動きを封じる技術さ。確か、ドイツがこれを発展させたAICっていう装置を作ったんだったかな。まぁ、近距離じゃないと発動できないデメリットもあるから、使いづらいってのもあるけど。驚いたでしょ」
「ああ……。目が覚めたらいきなりジェットコースターの急降下みたいだった、という気分だったぞ」
「ごめんね。でもまぁ、これはたぶんぼくしか使ったことないだろうから、他人に言い触らさなければ不意打ちとしては使えるんじゃない?」
「いいのか、それを私に言って」
「まぁ、何も言わずにやった謝礼くらいにでも思ってよ。ISの装甲越しとはいえ女の子蹴っちゃったし、それでノーカンにしといてよ」

 別に切り札ってわけじゃないしね。まぁ、それに言われてできるようなもんじゃな――のわ!?

「おお! できたぞ!」
「……規格外というか、なんというか。おめでとう?」
「ああ、これは色々と応用できそうだな。礼を言うぞ」

 いきなり腕を引っ張られたものだからIS同士でぶつかり合うことになり、吐息を感じるくらい近い距離で喋るはめになった。
 しかも、箒ちゃんは技術の会得に心底嬉しかったのかそれに気づいている素振りも無い。はぁ、まぁぼくは紳士的だからすぐに立ち上がるけども。
 今度はぼくが座り込む箒ちゃんのISをフィッシュッ! ぼくの頭上を通るように背中側へ振り回された箒ちゃんは何処か、楽しげだった。
 あー……、そういや箒ちゃんは束さんのせいで色々と心労溜まってんだっけ。転々と引っ越すから休む暇がないわ、友人ができないわ、約束をしようにも家族バラバラだから甘えることもできないわ、で、色々と苦労しているらしい。
 もしかしてもしかすると、馬鹿げた妄想ではあるが、彼女にも《ぼく》のような存在が浮き出した頃があったのかもしれない。
 いや、彼女は《俺》みたいに一瞬で蹂躙されたわけではないから、ただの思い出として打ち伏すだけで済んだのかもしれないな。
 むしろ、それがバネになって成長しているのかもしれない。まぁ、ぼくが言えたことではないのだけれども。
 











 偽者が偽者らしく振舞ったらそれはもうオリジナルだ。












 ニセット目はPICコントロールを鬼習得した箒ちゃんの無双によりぶんまわされ、三セット目をやる気力と体力を無くされて不戦敗となった。
 苦しいとか痛いとかの苦痛ってのには慣れていて心が折れない自信はあるが、吐き気やら脳みそを混ぜられたような感覚は慣れてないので、どうなったかというと。

「うっ、……。うげぇ……」
「ま、まだ吐くのか!? もう胃液も何もないじゃないか! しっかりしろ、一夏ぁあああ!!」

 犯人がお前です。じゃなくて、お前が犯人です。
 保健室に行くこともままならないような死にかけのゾンビみたいな雰囲気でぼくはアリーナの休憩室の洗面台で吐き続けていた。
 目の前の鏡に映るその顔は蒼白で、マイケルもびっくりってくらい白かった。人間本気でやばい時はそれなりのやばさが表情に出るらしい。
 目は口程にモノを言うというが、確かにぼくの二つの目は死んだ魚の目の如く濁りきっていて今にも死にそうな瞳だった。
 箒ちゃんの介護(背中にあたる二つのゲフンゲフン)によって何とか一命と生気を取り戻したぼくはベンチの上でぐったりさせてもらうことにした。
 ああ、背中越しのベンチが冷たくて良い感じだ……。
 
「す、すまなかったな……。まさか自分でもこうなるとは思っていなかったのだ……」
「世界一のジェットコースターで恐怖の体験、ただしレールが円形で永久ループみたいな……っ、感じだったよ……。すごく、死にそうです」
「……ぐぅっ。本当に申し訳ないと思っている。何かできることはないか?」
「そう……、だね。それじゃ膝枕でもして貰おうかな。結構痛いんだこのベンチ」
「わ、分かった。い、今だけ特別だからな……」

 頭が持ち上げられ、自由落下すると柔らかな地面に着地。剣道少女だというのにこのぷにっと感は大丈夫なのだろうか。
 まぁ、がりがりに削られてるとかぎちぎちに鍛え上げられた太腿を枕にしたいとは思わないので、黙っておくことにしよう。
 それにしても絶景である。今にも空から落ちてきそうだと杞憂するくらいに目の前の二つのそれは存在感があり、辛うじて踏み止まっている理性を砕かんとばかりの破壊力のそれは、その、なんだろう、悪い気はしませんね。
 頭部に触れる細やかな指と掌が髪先の方へ行ったり来たりと往復しはじめる。
 最初は撫でられているという事実に少し羞恥心を覚えたが、あんまりにも心地が良かったせいか気分が落ち着いてきた。
 ぼくの頭を撫でながら聖母のように微笑む箒ちゃんの顔に見惚れてしまって、思いがけず自分でありえないくらいに辺りの警戒を解いてしまった。
 しかしながら、流石にこの場に踏み進めるような輩は居らず、結局数時間程そのままゆっくりしてしまった。
 結果、ぼくは箒ちゃんから夕飯を食べ損ねたことに対しての怒りをぶつけられ、寮長室のキッチンに立っている。
 ぼくでも何故こうなったのか分からないが、千冬さんも相伴に預かるらしく、リビング(綺麗にされたまま)の方で箒ちゃんとお喋りに華を咲かせているようだった。文句を言おうにも、正直身内に甘い性格であるからして、中華鍋を振るって炒飯を黙々と作るしかないのだ。
 家事スキルは《俺》が培っていたおかげか、ぼくも人並み以上なレヴェルで料理を行うことができた。
 いやぁ、便利だなまったく。最初からチートモードって感じじゃないか、まぁ、吸血鬼の軍団を引き連れて襲撃はしないけども。
 お皿までは流石に中華系にはできないので、淵が内側に曲がる平皿に盛っていく。まぁ盛り付けくらいは頑張ろうか。
 スープが無いのは勘弁してほしい。ただでさえ冷蔵庫の残り物なんだから。数少ない食材をまとめたような出来だしさ。

「完成っと」
「ふむ、中々良い見栄えじゃないか。また腕を上げたな一夏」
「……千冬さん。後でゆっくりと二人でお話しましょうか。具体的にはこれからの生活方針と食生活について」
「…………………………………うぅ」
「どうしましたか千冬さん? まるで蛇に睨まれた蛙のように竦んでいますが」
「い、一夏。お願いだから『ぼくは人を殺せるような人間だ』って真顔で言いそうな顔で微笑まないでくれ。目が笑ってない……っ」
「ははは、どうしたんですか千冬さん。そんなに震えちゃって。アレですか、お化けでも見ちゃいましたか?」
「あ、あはははは……。そ、そんなとこだ……。さ、さあ! 炒飯が冷めてしまうぞ! 早く食べようか! ほら、これらは私が持って行くから一夏は麦茶を用意してくれ!」

 若干涙目になってすっごく可愛い千冬さんはトレイに乗せた炒飯を持ってリビングへ逃げていった。
 ふふふ、実の姉ながら本当に可愛い。きっとぼくが兄だったなら、こうして愛しく愛で続けていたに違いない。あんな妹が欲しいなぁ。
 いかんいかん。口元が緩んでしまっていた。一応ぼくは狙われている身なのだから注意を怠ってはいけないというのに。
 ペルソナ染みた表情の仮面を被ってぼくは麦茶のコップを三つリビングへ持って行く。下から持つと危なっかしいけど、複数持てるから便利だ。
 ……一人で持つ場合、誰かが上からコップを掴まないと全て倒すことになることに気付けたのは良かった。
 箒ちゃんがすぐに看破し、立ち尽くしたぼくの手からコップを二つ持っていってくれなければ……いや、一つの方を咥えれば正解かな。
 円卓なテーブルを囲み、少し遅い夕飯を開始。中々好評で完食してくれて喜ばしい限りだった。
 箒ちゃんには千冬さんと話すことがあるから、と席を外してもらった。
 生活方針やら食生活について話すことも忘れないが、それは二時間程度の説教に留めておくとする。
 なにやらぐったりと机に突っ伏して千冬さんが打たれ弱い姿を曝してるが、正直ここらで止めてあげたのだから感謝して欲しいものだ。

「さて、本題ですが」
「い、今までのが序章だと……!? い、一夏はどれだけ私をオーバーキルしたいのだ! 私はもう駄目だぞ、立ち直れないくらい駄目だ……」
「……はぁ。そうするとぼくは殺されるか拉致されて解剖されて捨てられることになるんですが、それでも良いと?」
「よし、何でも来い(キリッ)」
「流石ブラコン。《俺》が見たら卒倒しますよ、まったく……。今朝、千冬さん死体を一つ処理しましたよね。束さん経由で」
「……なるほど、そういうことか」

 今のでぼくが言いたいことを大体把握してくれたというのだから、ぼくの姉は偉大だ。ブラコン拗らせてるけど。
 ぼくが危機感を持っているのは、この学園に呪い名や未知のプレイヤーの卵がぼく目当てで入学しているという事実だ。ハーレムとか、好意とか、大好きだとか、一目惚れだとか、そういうピンクな理由でぼくを狙ってくれるなら男冥利に尽きるけども、邪魔だから殺して使えるから回収だとかそういう理由を持ち出されると大変厄介だ。
 《ぼく》としては《俺》のために前科は無いようにしたいと思っている。
 でも、現状のまま続くのなら、幾人かの卵を監禁調教して内部から組織を崩すことくらいしてしまいたい気分だったりする。それは、不味い。
 別に、今までの経験からヘマをする事はないが、それはぼくが有名人ではなく一般人だったから気ままに行えたバイト内容であり、今のぼくがそれを行うにはリスクとデメリットがでかすぎる。なら、どうすればいいか。簡単なことだ。選択肢は二つだ。
 一つは、護衛をつけてもらう。ぼくが毎日疲労する環境であれば、長くなればなるほどぼくが不利になっていくだけで解決するものもしない。
 一つは、全員殲滅する。全て、一切合財塵芥の情もなく卑劣に外道に冷酷に熾烈に炸裂する弾丸の如く烈火さを持って蹂躙し尽くす。
 この二つは至ってシンプルだ。
 《ぼく》としては後者を選びたいものだが、《俺》のことを考えると前者であったほうがよいだろう。お人よしが呼吸のように拳銃を撃ててたまるか。
 よって、護衛に就ける人材の確保と安心な関係を結ぶ必要がある。そのうえで、千冬さんにはとある圧力をかけてもらう。
 そう、これから学園に編入する全ての"一年生"の生徒を一組にあることないこと理由をつけて引っ張り込むことだ。
 国家代表候補生にしかこの学園の編入システムは機能しない。よっぽどのコネか圧力が無い限り、不可能なことだろう。世界を敵に回すのだから。
 よって、国家という重みを背負う人物はプレイヤーとして使うことはほぼ在り得ないし存在しないと断定してやってもいいだろう。
 なぜなら、一番注目される人物だから。これに尽きる。学園に来て、ぼくを何とかし、去る。原因を探るのにその人物を疑わないわけがないだろう。
 すなわち、使用される駒は幾らでも詐称やらで作り出せる普通の奴を使われるのだ。故に、プレイヤーである理由が存在しない。
 人殺しのヒットマンを表舞台に立たせる馬鹿は流石に居ないことを祈りたいが、居たら居たらでこれまた大変になる。
 プレイヤーが逆巻く混沌の如き裏の世界で目立つ真似をしたらどうなるか、東京湾の海底を見るくらいに明白だ。きっと、死ぬだろう。
 それに、この学園に編入されるということは同年代である少女だ。これほど扱いやすい駒があると思うか。
 箒ちゃんや鈴ちゃんとか、《俺》の大事な人を駒扱いするつもりは毛頭無い。むしろ、護衛対象だと言っても過言ではないだろう。
 そして、ぼくは外道に道を外すことくらい余裕でできる。というか、すでにしてきた。普通と外道で行ったり来たりしてきたんだ。
 一年間? それは永遠の時間だろう。人にとって、一年間もあれば変わることはできる。それが、不気味な泡たる《ぼく》なら必然的なことだろう。
 
「そうか、ならば私の友人の中で最強な奴に頼んでおくとしよう。確か、今頃北海道に行っている時間だろう。しばらくかかるかもしれんが構わんな?」
「ええ、構いません。人数はどれほどで?」

 あのブリュンヒルデたる千冬さんだ。きっと数十人くらいは容易く顎で使えるに違いない。返って来た返事は、立てられた人差し指一本。
 なるほど、単位はいくつだろうか。十か、百か。千かもしれないな。どんな人物なのだろうか、聞いてみる。
 すると、何処かで聞いたような答えが返ってきた。
 ――人類最強の請負人。
 ――赤き制裁。
 ――死色の真紅。
 ――砂漠の鷹。
 ――嵐前の暴風雨。
 千冬さんの説明を途中で切らせてもらう。うん、その人知ってる。今日聞いたよ、殺人鬼に。該当する人物は一人だった。
 
「む? そうか。説明が省けるな。彼女は束の友人の知り合いで、この前ちょっとばかり戦りあってみた仲だ」
「戦りあったんですか!?」
「ああ、かなり強かったな。途中で邪魔が入らなければ恐らく負けていたかもしれん」
「互角だったんですか!?」
「お互いにアバラが数本折れた辺りから本気でやりあっていたからな。久しぶりに強い奴と戦えて楽しかったのを覚えているぞ」
「……生身でやりあったんですか?」
「当然だろう? 私の暮桜はスポーツ用だ。――本気で戦るには役不足だ」

 兵器最強のISが役不足とは……恐れ入るというレヴェルじゃない。戦慄で鳥肌が直立不動してる。何この人、実の姉ながら凄く怖い。
 ISが役不足だと言い張る千冬さんと同格、それ以上かもしれない人類最強はもしかするとすでに世界最強の分類なのかもしれない。実に怖い。
 知りたくなかった事実を耳にしてしまったぼくだが、正直良かったとも思ってる。最悪、この姉に守ってもらえばいいかもしれんと思ってしまった。
 しかし、それは《俺》が許さないだろう。沸々と浮かび上がる千冬さんへの申し訳なさが物語っている。
 守られてきたから、守りたかった。勝手に過去形にしてしまっているあたり、《俺》の傷口は結構深いかもしれない。
 
「……期待しておきます」
「ああ。お前の専用機が送られてくるのは五日後だ。その間だけなら依頼でなくお願いで何とかできるだろう」
「人類最強の友人が実の姉とは……世界は狭いですね」
「はっはっは! そうだな。私の友人は客観的に見れば本当にぶっ飛んでいるからな。仕方あるまい」
「天災に人類最強ですもんね。タッグ組んだら世界が終わってしまいそうですね」
「まぁ、あいつが潤と手を組むことはないだろうな。むしろ、潤の方が突っぱねるだろう」
「はぁ……」

 まだ会ったことのない人類最強の名は潤と言うらしい。明日か明後日か、それとも明々後日か。
 いつ出会うかは知らないが、楽しみにしておくことにしておこう。それが、吉か凶と出るかは、その時しだいだろう。
 それに、千冬さんの知り合いだからいきなりぼくの敵に回ることも無いだろうし。気をつけるに越したことはないけども。
 
「じゃあ、今日は弟思いの姉に免じて一本追加を許可しましょう」
「おお! 流石一夏、話が分かる!」
「……千冬さん、ぼくはこれからどうするべきでしょうかね。このまま守りに入っててよろしいのでしょうか?」
「……そうだな。その件については私からすでに束に反撃をやらせている。だが、潤の話だと裏のプレイヤーたちはあっさりと進入を果たす奴らも居るそうだからな。私もできるだけ警戒はしておく」
「ありがとうございます」
「……そういえば、なぜお前が今朝の件を知っているのだ? もしや、お前第一発見者だったり……ああ、その顔は図星か。お前はポーカーフェイスを気取っているが実はかなり分かりやすいからな。私の前で嘘をつけないと思え」
「マジですか……。あちゃあ、もしや結構ボロ出てます?」
「いや、姉である私が知っているだけで他人は知らん」
「ナチュラルに常に見守り続けているって言ってますよね、さすがブラコン」
「一夏。ちょっとこれからグラウンドで体を動かさないか。肉体言語で近況を語ろうではないか」
「あ、あははは……。死んじゃうから止めときます。すみませんでした」
「分かればよろしい。用はそれだけか?」
「ええ、圧力の件もよろしくお願いします」
「ああ、理事長辺りに後で済ませておく。気張ってばかりでは体が休まらんだろう。早く寝ておけ」
「はい、おやすみなさい」
「ああ、おやすみ」

 後ろ手で扉を閉めて、寮長室を後にする。時間はそこまで経っていないが、すでに寝る時間くらいにはなっている。それに、眠い。
 ……ぼくは自分の身を培った技術だけで済ませようと思っていたが、専用機の恩恵があることをすっかり念頭から外していた。
 ISという現代兵器最強の代物の扱いは一度誤れば世界の終焉を招かねない危険物だ。
 スポーツとして昇華され、隠された闇は深い。罪口商会がすでに手を出しているように、同じ住人である彼らが触れていない道理がありやしない。
 もしかすると、これから先行為がエスカレートするとISを持ち出しての戦闘が行われるかもしれない。
 対IS用の何かを考えておくべきだろう。ジャマーやキャパシイダウンなどの電子兵器も積みたくなってきた。
 心配すればするほど擦れていって、心がだんだんと荒削りになっていく気がしてやるせない。
 かといって心配しない安息は手にしていない。ぼくができることは、まだ、たくさんありそうだ。
 ――いつになったら君は前を向くんだろうね、まったく。


前を表示する / 次を表示する
感想掲示板 全件表示 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

SS-BBS SCRIPT for CONTRIBUTION --- Scratched by MAI
0.027314901351929