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No.34794の一覧
[0] 【壱捌話投稿】戯言なるままに生きるが候 (一夏改変IS・戯言&人間シリーズクロス)[不落八十八](2013/03/10 14:47)
[1] 壱話 出会いと別れ。[不落八十八](2012/09/04 16:46)
[2] 弐話 玩具な兵器。[不落八十八](2012/09/04 17:00)
[5] 参話 再びの再会。[不落八十八](2012/09/17 02:28)
[6] 肆話 出会うは最悪。[不落八十八](2012/09/17 02:28)
[7] 伍話 根源回帰。[不落八十八](2012/10/27 16:56)
[8] 陸話 誰がために道を歩む。 [不落八十八](2012/09/22 19:21)
[9] 外伝短編“柒飛ばし” 織斑千冬の人間関係[不落八十八](2012/12/18 23:24)
[10] 捌話 生まれ出でし混沌。[不落八十八](2012/09/17 11:19)
[11] 玖話 代替なる君へ。[不落八十八](2012/10/16 00:42)
[12] 壱零話 似た者同士。[不落八十八](2012/11/24 16:39)
[13] 壱壱話 嵐の渦中。[不落八十八](2012/10/06 01:16)
[14] 壱弐話 空が泣く日。[不落八十八](2012/10/13 23:00)
[15] 壱参話 壊れ始める世界の上で。[不落八十八](2012/10/27 11:27)
[16] 壱肆話 山猫さんの憂鬱日。[不落八十八](2012/10/27 14:16)
[17] 壱伍話 迷宮(冥求)[不落八十八](2012/11/24 13:34)
[18] 壱陸話 喪失(葬執)[不落八十八](2012/12/21 00:16)
[19] 外伝短編“壱柒飛ばし” 織斑千冬の人間関係② [不落八十八](2012/12/26 22:26)
[20] 壱捌話 戦争(線沿) NEW[不落八十八](2012/12/26 22:45)
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[34794] 陸話 誰がために道を歩む。 
Name: 不落八十八◆2f350079 ID:6f3b522c 前を表示する / 次を表示する
Date: 2012/09/22 19:21


 歩き続けて疲れた? なら、走り続けろ。













 人は誰しも目標を持って生きる。それが夢と呼ばれて様々な展開をみせて繰り広げられるってのが人生だとぼくは思う。
 空を前にして絶望した後の不思議な出来事なんてことを期待したくなるのが人間って奴の性だ。
 もしも、目の前にある道が一本整備されてあるとしたら体外二つのことを考えるんじゃなかろうか。
 一つは真っ直ぐに進み、飼い馴らされる人生を歩むか。
 一つは道を外れて進み、飼い馴らす人生を求めるか。
 極論を言えば、人生ってやつはこのどちらかだ。後は人を給料で飼う飼い主となるか、給料で買われて犬になるかくらいだ。
 選ばないという道もある。足踏みして今日も頑張ったお疲れさんと自分を慰めてやるのも正解の一つだろう。
 人生ってのは道が最初からあるわけじゃない。むしろ、何もありやしないのだ。
 他人という部品を集めて増やして高めて積み上げて、ようやく進むべき道が見え始める。それに登るか否か、それが人生の選択だろう。
 何処まででも愚鈍に無知に愚かに生きるとしても、何処かで手を離さない限り、登ることを諦めない限り、道はそびえたままにある。
 上から手を指し伸ばす奴は居ない。むしろ、隣にやってきてこちらを踏み台にしようと足を伸ばす。
 自分が相手よりも低ければ踏まれ、相手よりも高ければ踏むことができる。それが社会って奴だろう。
 故に、他人を蹴り落とすには効率と技術が必要である。この縦の戦争には仲間がだんだんと必要になっていく。
 果たして、選んだ友人は本当に信頼に値する人物なのだろうか。自分の歩む道に一度だけ重ねて捻っても構わないのだろうか。
 落ちる前に手を掴んでくれるような友人であれば尚更、裏切られた痛みは酷くなる。それが、絆って奴だ。
 お互いの身に刻み合う傷の名であるからして、傷を一つでも負うことが大事になってくる。それが、友情って奴なのだろうか。
 人はお互いに傷付き合いながら生きていく。例えそれは世界を別としても全てにおいて断言できる証拠だ。
 人は生まれるために母親を痛めつけ、人は成長するためにお互いに傷付き合い、人は傷を舐め合う人ができて子を成す存在だ。
 傷付け合うことが、人間の命題なのだ。
 そう、お互いにどれだけ傷付け合い、重症にならない傷を、致命傷を避ける傷を、与えさせることができるのか。
 それが重要なのだ。

「第三世代型白兵換装仕様……。これが《織斑一夏》に用意された専用機――零式。これをぼくは待っていた」

 独り、放課後のアリーナのピットで受け取った専用機は、白く、染まっていた。骸骨を武者に仕立て上げればこのような感じだろう。
 そんな具合に細身ながら白兵戦の際の無駄を極力減らすデザインがされたそれは誇り高き騎士にも見えた。
 未だにフィッティングを済ませていないというのにぼくは零式の冷たく光沢がある白き装甲に触れて、思う。
 ぼくはどうあるべきか、と。他人を傷つけることは容易い。身内だって必要であれば傷つけよう。だが、自身をどう傷つけていいのかが分からない。
 奥底に眠る彼をどう傷つければいいのだろうか。答えはすぐにはでない。当たり前だ。出るというのなら、ぼくという存在は必要を無くす。
 不意に炭酸が抜けたような稼動音が聞こえ、自動扉から現れた人物を見やる。
 何故か彼女はぼく以上に気合が入っているようで、剣道に用いられる試合着を着こなして堂々と目の前まで歩む。
 
「そろそろ時間だが、大丈夫か?」
「心配してくれるのかい箒ちゃん」

 オレンジ色のリボンで髪を束ねた箒ちゃんはふっと笑みを浮かべてから何かを放り投げた。受け取ればスポーツ飲料だった。
 なるほど、確かに。試合前だし水分は十分に取っておくことにしようか。
 世間一般ではスポーツと容認されているISの戦闘行為。だが、軍事面で見れば一瞬で青白くなるレヴェルのそれだ。
 人を殺す銃を筆頭に刀まで使用されるこの競技に、何処にスポーツ精神に乗っ取った安全性があるというのだか。
 口を離した際に伸びてしまった冷たい線がぼくの首を縦になぞる。まるで死神の鎌がなぞったかのように、ひやりとした。
 縁起が悪い例えをするもんじゃないな。首元を拭い、ペットボトルを返した。勿論、口元を拭っておくのは忘れていない。

「………………」
「一夏?」
「あ。いや、なんでもないよ。ありがと」

 何をやってんだか、ぼくらしくもない。兵器なんて人間のスケールアップ版みたいなもんだろうが、今更緊張なんて……くだらないッ。
 ――規定時間によりフィッティング開始。システムオールグリーン……システムスキャン完了……第一次移行への準備開始……。
 脳内に響く機械音声の人間性の無い冷たさに脳髄が冷却される。……本当に、なにやってんだか。本当にぼくらしくない。
 ――第一次移行に関するデータ一覧の申請受理。第三世代型接近特化IS零式。量子化収納武装二点及び高速機動を重視。
 ああ、分かってる。さっさと乗れってことだろう。焦ってもいいことはないぜ相棒。

「それじゃ、ちょっくら行って来るよ」
「うむ。男を見せて来るがいい」
「……箒ちゃん、その台詞後でベッドで聞かせてくれるかな?」
「? …………ッ! この変態め! さっさと行ってしまえ!!」

 うん、堅物チックな箒ちゃんは笑いながら怒鳴ってくれるほうが好ましい。
 ――稼動データを受信……完了。状況開始、セーフモードに移行。
 少しだけ助走を取って零式の膝を踏み台に体を曲げてパイルダーオン。外部装甲に身体が包まれた瞬間、世界が文字通り、広がった。
 ――視界データを調整……設定データ受信、オールクリア。続いて第一次移行を開始。コンプリートまでセーフモードを継続。
 三六〇度の景色を一挙に総なめにして、ぼくは地面を蹴った。久しぶりに浮かび上がる感覚に緊張ではなく感動が生まれる。
 ピットの射出装置に足をセットさせ、膝を曲げて青ランプのゴーサインによりぼくは弾丸の如くアリーナへ放たれた。
 ネバーランドにでも来た気分で、ぼくは一ロールして空に羽ばたく鳥のように空中へと躍り出た。
 ――戦闘状態にあるブルー・ティアーズからの回線が本部より強制接続されました。

「あら、ようやくお出ましですのね。如何ですか空は」
「最高だね。ぼくは戦闘機よりも戦車の方が好みだけれども、これは中々心地良いものだ」
「それはよかったですわ」

 セシリアちゃんの機体ブルー・ティアーズが眼前に舞い降りる。結構な高度を取っていたようで、貴族の優雅さがその行動から感じ取れた。
 これは、少々楽しめるかもしれない。少女だから、女の子だからって少し油断というか過小評価し過ぎていたかもしれない。
 湖の騎士の如くその蒼き流星の装甲に包まれたセシリアちゃんはクラスで見る彼女とは少し違う雰囲気を帯びていた。
 旧スク水のようなISスーツに身を包み、さらに腰部分のスカートスラスターと胸部分の空中展開型兵装を収納したメインスラスターが彼女を包みこむように展開がなされており、それらが遠距離型のISだ、と物語るように稼動していた。
 ……うん、ISスーツマジでえろっこい。ただでさえ一組のクラスランキング三位の乳を持っている彼女だからこそ、より映える。
 ちなみに、新聞部調べだそうだが一位はのほほんさん……ああ、布仏本音さん。苗字と名前の最初を取ってのほほんさんだ。
 甘えんぼ服状態の制服を着ているから分かり辛いが、結構スタイルが良いらしい。そうそう、二位は箒ちゃんだったりする。
 というか、ぼく的には一週間で全員のランキングができていることに驚きだ。新聞部に喧嘩を売ってはならないと心に決めた瞬間である。
 さて、本題に戻ろうか。

「さあ! まもなく開演の時間ですわ。楽しく踊りましょう」
「やれやれ、ぼくはダンスなんてした試しが無いんだけども。足を踏んでも気にしないでくれよ」
「ふふっ、大丈夫ですわ。足を掬おうにも浮いていますもの」
「なるほど、確かに。こりゃ一本取られた」
「では、次は実践でもう一本も取らせてもらいますわ」
「おいおい、そこはぼくが取ってイーブンに持ち込む展開だろう」
「嫌ですわ。この度の円舞曲(ワルツ)の主役はわたくしですもの」

 微笑を浮かべセシリアちゃんはスターライトmkⅡを展開、瞬間に稼動状態へ移行させている。流石代表候補生、見事な展開技術だ。
 アリーナに響くギャラリーの歓声を切り裂くように、開始のブザーが鳴り響く。試合、開始。
 
「踊りなさい――ッ!!」
「ッ!」

 照準からトリガーを引くまでの速度が五秒以下とは恐れ入る。ISの自動制御も相まって高度な技術だね。
 吹き飛ぶ左肩の装甲。すでに射線から当たる場所をパージしたためノーダメージで抑えられたが、このまま留まるわけにはいかない。
 メインスラスターの頑張りにより空中を翔ける。できるだけジグザグにデタラメに動いて射線を乱す。いくらISに照準補助機能があれど、精密射撃用に組み込まれているであろうブルー・ティアーズに中距離予測射撃があるわけが……って、少しかすったぞおい!?

「あら、何を勘違いしているか分かりませんがわたくしのブルー・ティアーズは中距離型のISですわよ?」
「ちくしょう、その情報は知らなかったぞ!!」
「なら、加えて教えてあげますわ。わたくしのブルー・ティアーズには"四"機のビットがありますの。避けれるかしら」

 はぁん。なるほど、ミサイル二機の存在を隠してアドバンテージを稼ぎたいのね。じゃあ、騙されていることにしておこう。
 あくまで、初心者を演じることにしよう。レッツ道化タイム。

「お行きなさい、ブルー・ティアーズ!」
「って、即時展開すんな初心者に!!」
「それはナンセンスですわ一夏さん。わたくし、兎は全力で狩る派なんですの」
「なんか卑怯だぞこの代表候補生!」

 放たれた四機の蒼い軌跡が縦横無尽にアリーナを翔ける。複雑な軌道からの射撃が襲う。射線が読み辛いったらありゃしねぇッ!
 半分運頼りの気合避け状態でぼくは本体であるセシリアちゃんに特攻をかける。この体制なら真後ろからの射撃は無いだろう。
 避ければ自分に当たる、必然だ。しかし、四機の射線とスターライトmkⅡの射撃を避け続けるのは至難の技だ。
 というか、無理。結構当たってたりするからマジで怖い。
 若干自棄気味にぼくは雪片弐型を展開、即座にPICコントロールにより音速を超えた投擲で一機撃墜させる。

「まぁ……、野蛮ですのね」
「考えてみてくれよ。これ、精密射撃よりも難しいと思うんだけど――ねッ!!」

 雪片弐型の柄尻から腕部に密かに繋がっているワイヤーを経由して量子化、収納&展開。無限投擲の出来上がりというわけだ。
 目に見えぬ細さのワイヤーであるためセシリアちゃんからしたら奇天烈に見えただろう。
 ハイパーセンサーのおかげでバッチリ見える胸の呼吸の速度が僅かに変わったから息でも呑んだのだろう。……うん? 顔を見ろって?
 続いてニ投擲目。今度はセシリアちゃんに向かって放つ。ブルー・ティアーズ……同名なのでBTビット。それに外部装甲に簡易シールドが備え付けられているため、横から弾くようにパッシングして軌道がいなされる。すかさず回収し、再び投擲。意識の外にあったであろう右に飛んでいた二機目を撃墜。
 
「くっ、やりますわね」
「そりゃどうも」
「………………」
「あれ」

 ……なるほど、そういうことか。BTビットの制御はセシリアちゃんがやってるのか。ほうほう、なるほど。え? それって……。
 欠陥機ってレヴェルじゃないよねそれ。パフォーマンスとコストが見合ってない気がするんだけど。よくそんなものを搭載してるね。びっくりだ。
 つまり、彼女の視線誘導か意識操作によってあのビットは動いてるってわけだ。それは彼女が気を抜いたら意味を成さなくなるということだ。
 だから先ほどのように楽しくお喋りする余裕も無いのか。ふーん、へぇー…………あはっ。

「セシリアちゃんってさ」
「はい?」
「胸、大きいよね」
「――――ッ!?」

 右手で雪片弐型を、左手で曲鳴を投擲し、空中に止まっていたBTビット二機を撃墜する。雪片弐型だけ即座に回収し、曲鳴は一度放っておく。
 よし、後はミサイル二つにライフル一丁だけだ。その一つは両腕で胸を隠しているために使用不可。なら、突っ込むに限る。
 PICで限界ギリギリの初速度を叩き出し、瞬時加速と呼ばれる内部エネルギー圧縮による超加速技術を使用し、レーザーには劣るが通常の三倍以上の速度で近寄る。

「しまっ」

 慌ててスターライトmkⅡを向けるセシリアちゃんのそれを真っ二つに切り裂い――――た感触が無い。
 悪戯に成功したような笑みを浮かべたセシリアちゃんの手にはレイピア型のインターセプターが握られ……って、長い!? 
 もはやレイピアと呼ぶよりもランスと呼ばれるべきそれで一瞬のカウンターがぼくの腹に決まる。
 擬似神経パルスからの刺激で腹部に突き刺さるような痛みが発生し、その力が乗った一撃で数メートル程引き離された。

「ああ、やはりこちらの方が合ってますわ……ッ!! わたくし元々射撃の腕はよろしくありませんの。わけあってこれしか積めませんでしたが、わたくしの本来のスタイルはヒット&アウェイですのよ!」

 恍惚めいた笑みを浮かべながら空いた手にスターライトmkⅡを掴み、こちらへ牽制射撃。
 回避運動のおかげでそれは避けられたが、先ほどの一撃でシールドエネルギーは四分の一ほど削られてしまっていた。かなり痛い、色々と。
 ぼくの誤算は二つ。ブルー・ティアーズが中距離型ISであったこととセシリアちゃんのバトルスタイルを完全に見誤っていたことだ。
 いやだってさ、見た目とか性能からして遠距離タイプじゃないか。初心者殺しで所見殺しとか鬼畜じゃねぇかっ!!
 ……いや。そういや、積雪さんの詳細には遠距離型と明記はされていなかった気がする。ぼくの痛恨のミスじゃん。
 当たる瞬間に量子化で収納してインターセプターを雪片弐型が通り過ぎた瞬間に展開してカウンターを決める。そんな技術を持っている人物が遠距離型だなんて今更思えない。
 今のように離れればスターライトmkⅡで、近づけばインターセプターで、迎撃される完全なる中距離戦闘の円舞。
 仕切り直しというレヴェルじゃない。完全に不利な展開だ。遠距離系武器を持たない零式では分が悪い。どうするか。
 逃げ回ってスターライトmkⅡのエネルギー切れを待つ、という作戦は機体がIS出なければの話だ。
 ISコアから供給されるエネルギーは値が高く、既存のエネルギーの十倍を超える代物だ。
 ISの競技でシールドエネルギーが設定されているのはそのためだ。ほぼ無限に供給され続ければ決着がつかないのは目に見えている。
 現在世界に散らばっているISコアのいくつかはその膨大な生産量のエネルギーから都市のエネルギー供給源の役割を果たしているくらいに、ISコアのエネルギーはかなり有能であり一部的に万能なのだ。
 そのためISコアのエネルギーを弾丸とする研究の一端であるスターライトmkⅡはほぼ無尽蔵のライフルと言っても過言ではない。
 ……リロードにシールドエネルギーとか使っとけよ、ちくしょう。無理ゲーだろこれ。どうしろってんだよ。
 逃げ回りながら視界に映った曲鳴を見て、ひらめく。そうだった。積雪さんと曲識さんの傑作の一つがここにあるじゃないか!!
 再び雪片弐型を投擲し、インターセプターで弾かれる隙に曲鳴の回収を果たす。

「さあって、ラストバトルと洒落込もうじゃないかセシリアちゃん」
「ふふっ、何かするおつもりで? 楽しみですわね! 踊りなさい、わたくしの掌の上で!」

 右手に曲鳴を構え、一直線に宙を切る。セシリアちゃんの虎の子たる弾道型ビットが放たれ、視界の中で暴れる。

「当たれぇえええッ!!」

 振りかぶった曲鳴の片方の音叉にぶつかった瞬間、ビットは砂の如く粉砕され一瞬で塵と化した。……威力怖ッ!
 自分でも戦慄する威力のそれで二機目を粉砕する。うん、セシリアちゃんもこの威力に絶句していた。
 だが、緊張を解くことなく瞬時に鷹の眼の如く煌きを魅せてセシリアちゃんはスターライトmkⅡを収納しインターセプターを構え、迎撃体制へ。
 ビットは小さかったから完全粉砕が可能だったが、インターセプターは先にかけて細くなるランス型のため砕く程度に収まってしまう。
 刀剣ではなくランス型であるために、放たれる次の一撃は二つに予想できる。
 突くか薙ぐか。懐に入る前であるからしてどちらでも可能のはずだ。……きっと、セシリアちゃんは薙ぐはずだ。
 突けば確実に空いた左手に展開した雪片弐型の一撃を貰う、そのため、一撃で仕留められる一撃ではない突きはむしろ愚考。
 薙ぎながら下がり、遠距離武装の無い零式を狙い撃ちしたほうが得策だと考えるはずだ。

「――この一撃で仕留めますわッ!!」

 ……え? それは何だろう。罠とか策略的な心理フェイズ的な意味合いでの言葉なん……だよね?
 愚直に真っ直ぐに加速して向かってきたセシリアちゃんに度肝を抜かれつつ、ぼくは初速度MAXの曲鳴を思いっきり投げつけた。
 払おうと薙いだインターセプターの一撃により、曲鳴の機能が丁寧に対応しインターセプターが小枝のように折れた。

「え」

 軌跡が逸れた曲鳴を一瞥することもなく、それは想定外だったという顔で困惑するセシリアちゃん。
 よっぽどその武装がお気に入りだったのか、それともインターセプターに最大の自信を持っていたのだろうか。
 瞬間的に胸元へと呼び出したスターライトmkⅡで受けの姿勢を取るが、それは近接戦では間違いだ。
 上段構えの兜割りでスターライトmkⅡを切り裂き、返しの一手で絶対防御が発動されるであろうおでこへ叩き付ける。
 一瞬だが弾かれる手応えを感じた。視界に映るセシリアちゃんのシールドエネルギーが急激に減ったのを確認。
 ――よし、このままフィナーレと洒落込もうか。
 その衝撃でぐらついたセシリアちゃんの胴を蹴り上げ、反動で上体が浮かび上がる。昇ってきた右手を掴み、PICコントロールで加速させて手近な壁へ叩き付ける。

「……あ、なんかデジャヴ」

 呟きながら、トドメのライダーキックをぶち込む。何とも呆気ない勝負の終わりだった。自分でも正直びっくりしてる。何で勝ちを拾えてるんだぼく。
 ――WIN。
 勝利のブザーが鳴り響き、歓声がぼくらを包み込む。ぼくとしてはかなり複雑な気分だった。
 ……代表候補生に勝っちゃう素人っていう肩書きは不味いなぁ。いや、メリットになるのかこれ……。
 実力ではなく偶然に勝ち取った勝利の美酒ってのはあんまり美味しくない。ネラーだったら飯が美味く感じられるだろうけれども。
 ぼくはぐったりとしてしまったセシリアちゃんのヒップを見ながら嘆息した。ご馳走様でした。












 素直な子供心を捨ててしまった時が大人に成ってしまった時だ。












「……なにやってんだよぼくは」

 どうも心が揺らいで仕方が無い。くーちゃんに会った後日はいつもこんな感じだった。
 きっちり締められた螺子がくーちゃんというドライバーに引っ掻き回されたような気分で、未だに収まらずぐらついている。
 生と死の境界線に立ち尽くす今、ぼくは役目を果たすべきなんだと実感する。色恋に憧れている自分を押し殺し、彼のために万時動くべきだ。
 体の汗と迷いがシャワーの雨に流されていく。そうだ、ぼくは、偽者だ。本物になってはいけないのだ。
 偽者であって偽者に準じ偽者であるべきなんだ。……だから、ぼくは彼に己の意思で殺されなければならないんだ。
 シャワーのバルブを閉め、アリーナのシャワー室の個室から出る。体の水滴をタオルで拭いながら部屋着へ着替える。
 この後の箒ちゃんとの特訓は無しになっている。……第一次移行すらしていないことがバレてしまう。
 セーフモードで戦い続けたのはすっかり第一次移行のことを忘れていたのもあるが、打鉄の稼動率と近いため訓練の際の感覚を維持したかったというのもある。先ほど確認したが、零式の第一次移行状態は打鉄の機動力の数倍であり、罪口商会製の本領を発揮していた。
 つまり、先ほどの試合の数倍の速度で動けるというメリットであり、扱いが難しいというデメリットが生じるのだ。
 メリットの方がでかいが、素人が代表候補生にセーフモード状態のISを使って勝ってしまったというデメリットとも呼べる肩書きのせいで今の現状を維持し続けるしかなかった。というか、セシリアちゃんの立つ瀬が無い。ぼくに断崖絶壁から獅子の親の如く突き落とせというのか。
 数日の訓練で数十倍の時間に置き換えてしまったという事実は、酷くセシリアちゃんのプライドやらを木っ端微塵にしてしまうに違いない。
 暴力の世界に生きてきたぼくだったからできたことであり、そこらへんの素人な女子には不可能な出来事だ。
 さて、一度まとめてみようか。
 まず、第一次移行を曝さないのは二つの理由がある。一つはセシリアちゃんのために、もう一つはぼくの素性隠蔽のために。
 正直に言えばセシリアちゃんは普通に表の世界で生きてきた女の子であるからして、あんまりトラウマやら悲しい出来事の渦中に巻き込みたくない。ましてや、アイデンティティをぶち壊すような展開にはさせたくない。
 そのため、中学生の頃から千冬さんから指導を受けていたことにしてしまおう。元々のぼくの実力が高かった、ということにしてしまいたい。
 これなら千冬さんの【ブリュンヒルデ】の肩書きにより「ああ、なら在り得るかな」と数%の逃げ幅を作れるし、セシリアちゃんも頷ける点にもなるはずだ。実践的な指導ではなく、IS乗りのコツなど教科書レヴェルには乗っていない独学のそれらを口に出せば信憑性があるはずだ。
 ……ただ、一番怖いのは千冬さんがあっさりと暴露することだ。「織斑、なぜ第一次移行を完了させなかった」と皆の前で言ったなら、水の泡だ。
 まだ皮算用の件であるからして被害を受けるのはセシリアちゃんのみ。うん、それは可哀想過ぎる。
 携帯で先ほどの件を打つために更衣室へ戻るとしましょうかね。……はぁ、めんどくさい。
 三列ある真ん中のロッカーへ移動するために数歩進んで、何処か違和感を感じた。
 
「こんな匂いしてたっけ……?」

 何処か高級そうな香水の匂い。男性であるぼくは勿論使用していないため、では誰が、と疑問が浮かぶ。
 この場所に居ることを知っていて、なおかつ香水をつけている人物。いや、IS学園女子高みたいなもんだし結構居るじゃん。わかんねぇよ。
 角を通り過ぎ、左をみやれば休憩用の長椅子に座っている金髪のお嬢さんが居た。

「やあ、お疲れ様。怪我は無いかな――セシリアちゃん」

 先ほどの覇気は無く何処かしょんぼりとした様子でセシリアちゃんは振り返った。今にも泣き出してしまいそうな顔でとても儚く見えた。

「……お待ちしていましたわ、一夏さん」
「ぼくに何か用かな」
「ええ、貴方……何故第一次移行を完了させなかったんですの」

 おおふ、まさか本人に言われるとは思ってなかった。でも、よくよく考えてみれば代表候補生だしそれぐらいバレるかな。

「君の名誉に誓って言うけど……」
「………………………………」
「すっかり忘れてた」

 がくっと肩が落ちる。結構予想外の返事だったようだ。嘆息をついてからセシリアちゃんは呆れた様子で口を開く。

「なんですのそのうっかりしちゃったみたいな軽さは! わたくしの絶望感を返してくださいまし!」
「それじゃ新聞部あたりにリークしておこうか」
「やめてくださいお願いします」
「いや、そんなビクビクしなくていいよ。別にするつもりはないからさ」
「そんなことを言って……わたくしの弱みを握って乱暴するんでしょう? 薄い本みたいに!」
「君は何を言ってるんだ!?」
「だって……」
「いやまぁ、ぼくだって思春期の男の子であるからして、その手のことには興味はあるけれど……絶賛片思い中のぼくには他の女の子にんなことできやしないさ」

 その言葉にセシリアちゃんは意外そうな顔で首を傾げた。

「片思いなされていますの?」
「まぁ、うん。この学園には居ないけどね」

 頬をかいてしまうのは気まずさからだ。よく漫画で見られる仕種だけどやっちゃうもんだね、うん。
 セシリアちゃんは何処か口を栗のようにして呆けていた。IS学園は美少女揃いだから役得だねまったく。

「それでさ、もしかしてんな話をするために来たのかい?」
「あ、いえ。別の相談事ですわ。まぁ……半分はそうでしたけれどね」
「暴虐の限りを尽くされることを半分望んでいたと!?」
「そっちじゃありませんわ!! 貴方がセーフモードでわたくしに勝ったことについてですわ!」
「ああ、そっちか。単純にぼくが千冬さんに指導やら受けてたってだけだよ。そもそも、君が慢心して『この一撃で決めますわッ!』なーんて言っちゃったからでしょうに」
「うぐっ、痛いとこを突きますわね」
「腹部に突かれたのはぼくだけどね」
「蹴られましたからイーブンですの。まぁ……、詳しくは問いませんわ。中々大変だったようですし」
「へぇ、ぼくのことを調べたのか。気になるな、教えてくれるかい?」
「お望みなら……。そうですわね、気になる点だけですが……。まず七歳以下の記録が何者かによる改竄の後がありました、十四歳の夏にドイツで拉致され精神を病んだという記録もありましたね。後は怪しげなバイトなど……、貴方いったい何者ですの?」
「ただの偽者だよ。ぼくは所謂《織斑一夏》の贋作さ。クローンとかではなく精神のね。だから、ぼくは一夏でありながら他人なんだよ」

 ……なるほどね、代表候補生レヴェルでそれほどまで情報が集まるってことはプレイヤーたちにはすでにバレバレってことか。
 これは今後の指針に有益な情報だった。開き直っても構わないってことだよねつまり。もしかすると大暴れしても《ぼく》の責任になるだけで彼の責任にならないのかもしれないな。まぁ、気をつけておくことに余念は無いけども。
 セシリアちゃんは沈黙の後、何処か気まずそうに言った。

「昔話をしても構わないかしら」
「話したいなら構わないさ」

 立ちっ放しってのも疲れるので長椅子の空いた場所へ背中を合わせるように座った。セシリアちゃんは語り始める。
 あるところに貴族の家系に生まれた少女が居ました。高貴で気品ある母親と優しいながらも何処か母にへりくだる父親に愛されて生きました。
 ある日、少女は思いました。どうして父は母に対し謝ってばかりであるのかと。軟弱者としか見えない父の背は何処か細く感じていた。
 少女は母に尋ねた、父は何故あんなにも弱く見えるのかと。母は苦笑気味に微笑んで言った。
 『貴方のダディは確かに弱いわ。でも、弱いからこそ強いのよ』と、当時の少女には分からない答えが帰ってきた。
 それから数年後に、少女の母と父は越境鉄道の大事故により息を引き取ることになった。
 残された少女には重過ぎる遺産が手渡され、少女は戸惑いながら背伸びをすることを覚えた。遺産を、家名を守るために。
 この二つを守ることで亡くなった両親の居た証が現世に残ると思ったから、少女は努力し続けましたとさ。
 そんな内容の話を終えて、セシリアちゃんは嗚咽を漏らしながらぼくへ尋ねた。

「ねぇ……。一夏さん。貴方に、少女の母の言葉の意味を尋ねても、よろしいでしょうか。父のような瞳をする……貴方に」
「……ああ、分かるさ。痛いってくらいにね」

 その言葉にセシリアちゃんの背が跳ねた。振り返ってみれば涙で美しく飾られた顔があった。沈みかけの廃村のような儚さがそこにあった。
 振り返るのを止め、ぼくは言った。セシリアちゃんの両親の偉大さを第三者が伝えてやるために、狂言を抜かして誓言で語ろう。

「そもそも、人の強さってのは二種類に分かれるんだよ。一つは物理的な力の強さ、もう一つは精神的な心の強さだ。君のお母さんは前者で、お父さんが後者なんだろう。弱いからこそ陰で努力をして、自分の在り方を、土台を、強くしていく人は傍目から見たら愚者に見えるだろうね。でもね、天才ができないことを愚者はやっちまうんだよ。才能ってのは努力のことだ。十割の努力こそが才能だ。元々は汚い原石が磨けばダイヤになるように、磨く作業が努力なんだよ。君のお父さんは確かに弱かったに違いないさ。でもよ、強いお母さんの横に居続けたんだろう? 同じ舞台に立つためにどんな努力をしたんだろうね。きっとさ、ISが存在してもその在り方は変わらなかっただろうとぼくは思うよ」
「…………はい。ぐすっ、父はいつものように母を、送り出していました……。いつも、いつも……変わらずに……」
「誇るといいよ。君はきっと最高の両親の娘だ。お母さんのような行動の強さを、お父さんのような心の強さを――」

 ぼくは振り返らないように背をねじってセシリアちゃんの頭を撫でた。
 泣いている子供にはこれが一番効果があるに違いない。両親思いの儚い少女なら、尚更だ。

「――持っているに違いないんだから」

 ぼくの背中に顔を埋めるようにセシリアちゃんは泣いた。ぼく如きの背中で良いのなら、いつでも貸してあげるさ。
 結局のところ、セシリアちゃんのお父さんはもっと凄いことをしていたんだろう。ぼくにはできないようなことを。
 強すぎる妻へ誰かの怒りの矛先が向かないように己を犠牲にして隣で守り続けたんじゃないかな。
 イギリスの貴族の生活がどんなのか知らないが、きっと埃被った誇りを大事にしていたに違いない。気高き気品を大切にしていたのだろう。
 強すぎる者は疎まれる今の世界だ。きっと大変だったに違いない。それは、愛娘から見ても背中が細く見えるくらいに辛かったに違いない。
 ……いいなぁ、彼らの強さはセシリアちゃんに残ったんだ。これほどまで親冥利に尽きることはないに違いない。
 ぼくもまた、残せるのかな。彼にぼくの強さを……残せるのかな。残せると、いいなぁ。
 数十分経った気分だが、数分でセシリアちゃんは泣き止んで「ごめんなさいね」とはにかんで背中から手を離した。

「甘えるな、とは言わないよ。辛かったら誰かに助けを求めるといいさ。ぼくは一生は無理だけど今だけなら、友達としてなら支えてあげるからさ」
「……くすっ。卑怯ですわね、告白する前に振られてしまいましたわ」
「ぼくよりも良い奴なんて腐るほど居るさ」
「そこは星の数だけと言うべきでしょうに」
「くくくっ、ロマンチストだねセシリアちゃんは。悪いけど、ぼくにはこの世は腐っているようにしか見えないんだよ」

 背中の水溜りが引っ付いて冷たい。まぁ、いいか。これくらいならすぐに乾いてくれるはずだろうから。
 立ち上がってぼくはセシリアちゃんに手を指し伸ばした。最初はきょとんとしたセシリアちゃんだが意図が読めたのか、それを握った。

「これから三年もよろしくするんだ。こういう形があってもいいだろう?」
「そうですわね。本当に貴方は……見てて飽きませんわね」

 握手に応じたセシリアちゃんの自愛に満ちた微笑は女神のように見えるほどに美しく感じられた。自分の存在が暗い淵の下にあるように思えた。
 彼女の瞳からはもう――蒼い雫は流れていない。


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