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No.34794の一覧
[0] 【壱捌話投稿】戯言なるままに生きるが候 (一夏改変IS・戯言&人間シリーズクロス)[不落八十八](2013/03/10 14:47)
[1] 壱話 出会いと別れ。[不落八十八](2012/09/04 16:46)
[2] 弐話 玩具な兵器。[不落八十八](2012/09/04 17:00)
[5] 参話 再びの再会。[不落八十八](2012/09/17 02:28)
[6] 肆話 出会うは最悪。[不落八十八](2012/09/17 02:28)
[7] 伍話 根源回帰。[不落八十八](2012/10/27 16:56)
[8] 陸話 誰がために道を歩む。 [不落八十八](2012/09/22 19:21)
[9] 外伝短編“柒飛ばし” 織斑千冬の人間関係[不落八十八](2012/12/18 23:24)
[10] 捌話 生まれ出でし混沌。[不落八十八](2012/09/17 11:19)
[11] 玖話 代替なる君へ。[不落八十八](2012/10/16 00:42)
[12] 壱零話 似た者同士。[不落八十八](2012/11/24 16:39)
[13] 壱壱話 嵐の渦中。[不落八十八](2012/10/06 01:16)
[14] 壱弐話 空が泣く日。[不落八十八](2012/10/13 23:00)
[15] 壱参話 壊れ始める世界の上で。[不落八十八](2012/10/27 11:27)
[16] 壱肆話 山猫さんの憂鬱日。[不落八十八](2012/10/27 14:16)
[17] 壱伍話 迷宮(冥求)[不落八十八](2012/11/24 13:34)
[18] 壱陸話 喪失(葬執)[不落八十八](2012/12/21 00:16)
[19] 外伝短編“壱柒飛ばし” 織斑千冬の人間関係② [不落八十八](2012/12/26 22:26)
[20] 壱捌話 戦争(線沿) NEW[不落八十八](2012/12/26 22:45)
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[34794] 壱零話 似た者同士。
Name: 不落八十八◆2f350079 ID:6f3b522c 前を表示する / 次を表示する
Date: 2012/11/24 16:39


 話を聞かないで突っ込む奴はただの愚者か孤高の天才だけだ。













「あれ?」
「あん?」
「人識くんじゃないか。息災だったみたいで何よりだね。お久しぶり」
「いーくんじゃねぇか。どうしてここに……ってのはお互いの格好からして野暮か。久しぶりだな」

 ぼくは左手を、人識くんは右手に別々の女の子の手を繋いでいた。
 もっとも、ぼくのは恋人繋ぎで人識くんのそれは逃げ出さないようにするためとしか思えない手首握りだったが。
 血で染めたような赤いニット帽に両腕を隠すような紺色のフード付パーカー。それのサイズは彼女のサイズよりも一回り大きいのか、袖を少しだけ持て余している。何処かの高校にでも使われてそうなプリッツスカートに生足の絶対領域にチラリと見えるスパッツ。
 もしかして、彼女が着ているパーカーの持ち主は人識くんだったりするのか? すると、"そういう"間柄であると仮定できる。
 ……けど、何故か大量に持ってる半額のお弁当が入った袋を持っているのかは分からない。ざっと見て三日分くらいありそうだが。
 張り込みでもするつもりなのだろうか。

「ええと、こちらの方はどちら様ですかね人識くん」
「にいさん、そちらの方は?」

 あー、やばい。マドカちゃんの瞳が若干怯えてる。そして、右手が若干、ほんとうに少しだけ震えていらっしゃる。
 そりゃ、そうだよね。目の前に居るのは幾戦殲殺の殺人鬼集団たる零崎の一人なのだから仕方がないだろう。

「ぼくは人識くんの友人。織斑一夏という名前を持ってるけどいーくんと呼んでくれると嬉しいかな。こっちの子はぼくの妹のマドカちゃん」
「ああ、なるほどな。俺らも似たようなもんだ。俺が零崎人識で、こっちが……。なぁ、どっちで呼ぶべきだ?」
「伊織で良いんじゃないですかね。よろしくねー、マドカちゃん」
「あ、えと。はい。よろしく……」
「マドカちゃんは人見知りだからさ、あんまり苛めないでね。――ぼくが本気になっちゃうからさ」
「お、おう。なんかお前雰囲気変わってねぇか? 前に会った時は毒蜘蛛のような感じだったのに、毒蠍みたくなってんぞ」
「どっちしろ人間じゃないんだね……。まぁ、それだけの切り札を手に入れたってことさ。今なら君にでも圧勝できる気分だ」
「へぇ……やるか?」
「でもまぁ、ここではノーサンキューだ。これから夕飯だしね」

 ぼくはカゴに入ったハンバーグの材料たちを見せる。少し癪だがカット済みのレタスなども入っている。
 土曜日のくーちゃんとの語らいの休息を過ぎて、今日は日曜日だ。
 明日からは授業があるからして、多すぎる準備は文字通り腐るだけだ。なら、減らすしかないだろう。
 人識くんと伊織ちゃんはお互いが持った袋の中身を見て……ちょっとだけ瞳に影を落とした。
 あー……、人を殺めながら双識さんから逃げてるからホテルなどにしか泊まらざる得ないわけで、外食ばかりなのか。
 そこで、ぼくはふと名案を思いつく。寮の一人部屋に招待してもいいが、伊織ちゃんとマドカちゃんが居るから無理だが。

「そうだ、人識くん」
「なんだよ」
「今日はうちに泊まっていかないか? 久しぶりに積もる話でもしようじゃないか」

 その言葉に二人は目を輝かせ、一人はがくりと俯いた。二人が零崎で一人が隣のマドカちゃんであることは言うまでもないだろう。

「マジか! 最近こればっかりだったからな。久しぶりに良いもん食いてぇとこだったんだ!」
「きゃー♪ 安い余りものじゃなくて手作りハンバーグですか! 是非是非!」
「喜んでくれて嬉しいよ。マドカちゃん、構わないかな。……この二人と接点作っておくことは身のためだよ」
「……ッ! ……そう、ですね。分かりました。にいさんに従います」

 マドカちゃんが何処ぞの組織の所属かは知らないが、個人的に零崎と縁を作っておくことは有効であるはずだ。生き残る確率が少しくらいは上がるだろう。
付け足しのようなものだったが、納得してくれたようだ。

「そっか、ありがとね。それじゃ食材を足さないとね。人識くん、お金は?」
「……あると思うか?」
「無いだろうね」
「何で聞きやがったんだ! 笑うつもりか! 笑うんだろ!? 笑えよほら!」
「あははははははは!!」
「うわ、こいつマジで笑いやがった」
「いやほら、一応だよ? 今日は君らがゲストだしぼくが奢ってあげるさ。君のお兄さんからもしっかりと稼がせてもらってるしね」
「うん? それはどういうことだよいーくん」
「IS学園の女性生徒の写真を君のお兄さんに一枚五百円で売ってるだけだよ。百枚単位で買ってくれるから潤いっぱなしだよ」
「あの馬鹿兄貴……ッ!! 本格的にここらへんの探索以外の楽しみを始めてるじゃねぇか。むしろ、そのために居るだろあいつぅううう!!」
「ほらほら、人識くん落ち着いてくださいよ。ある意味好都合じゃないですか。わたしたちの愛の逃避行……ごめんなさい調子乗りました。拳をグーで構えるの止めてください人識くん。ドメスティックでバイオレンスですから」
「……ともかくだ。ある意味兄貴の金だし罪悪感無しでゴチになりますってことでいいよな伊織ちゃん」
「はい♪」

 それから手分けして食材集め。人識くんを連れ回すように伊織ちゃんは中々の眼力で食材を持ってきてくれた。良いお嫁さんになりそうだ。
 ぼくが高い肉の出費に少しだけ呻きながらもレジを通し、培った技術でささっとレジ袋ではなくエコバックに詰めていく。
 
「おー、凄いテクニックですよ人識くん。いーくんさんの主夫力は遥かに高いですよ」
「くくくっ、嬉しいことをありがとう。そういや最近うちの姉が学園周辺をパトロールしてるんだけどやっぱり君の仕業だったんだね」
「待て。何故決め付けた。いや、間違ってないかもしんねぇけどもよ。でも、アレだぜ? 伊織ちゃんと合流してからやってねぇぞ?」
「いつ?」
「二週間前だな」

 ばっちりと一致するじゃんか。

「ああ、じゃあやっぱり君じゃん。クラスメイトが五人も消えちゃったじゃないか。どうしてくれるんだよ」
「あちゃあ、もしかしてお前の友人だったか?」
「いや、クラスメイト。名前も覚えてない人たちだけど」
「なんだよ。じゃあ、いいじゃねぇか」
「何を言ってるんだ。これじゃあ、転入してくる人たちが全員一組に来ちゃうじゃないか。ありがとう」
「どういたしまして?」
「いや、超不謹慎ですからね!? 人識くん、懲りずにまたバラしてたんですか?」
「あー……、ちょっとだけ。ちょっとだけな。ほら、先っぽだけ」
「いや、先っぽだけで切れますからねナイフは。まったくもう……、わたしが学校で暴走した際に私の両腕を落としてくれちゃった時に言いましたよね。傷付けていいのはわたしだけだって。他の人は駄目ですよって」
「……ごめんなさい」

 炒めたもやしのようにしんなりと謝る人識くんとお姉さん面した伊織ちゃんの立場の入れ替わりにちょっとだけ噴出しそうになった。
 すでに尻に敷かれていたとは。殺人鬼の癖に可愛い奴だな君は。

「ふふん、それでいいんですよ」
「君らどういう関係なんだ? 殺人鬼仲間かと思ったら学友だったりと分からないんだけれども」
「あー……、そうだな」
「では、お教えいたしましょうか。実はわたしたちカップ――ぐへぇ」

 即座に伸びた左手が伊織ちゃんの両頬を掴み、強制的に口を塞いだ。その速度は恐ろしく速かった。零コンマって感じで。

「よーし、伊織ちゃん黙ろうか。戯言吐くのはあいつだけで十分だっての。こいつとは腐れ縁で殺し合った仲で妹ってだけだ」
「ふぅん、まぁそこらへんは夜にでも語り合おうじゃないか」
「まぁ、それもそうだな。じゃあ、近くで炭酸でも買っていくか」
「いや、それには及ばないよ。昨日買ったのが残ってるからね」

 そんな陽気で生温い雑談をしながら家へ招き入れ、一応忘れないうちに彼の携帯のアドレスと番号を貰っておく。
 束さんの話からして、これから"ぼく"の友人には端末からのアドレスと番号でやり取りしなきゃならないと思ったのですでに実行中。
 一応狐さんから人識くんまで端末でやり取りできるようになった。まぁ、簡単だよね。機種変しましたとでも送っておけばいいんだから。
 今じゃ織斑一夏が元々持っていた携帯には"ぼく"の友人たちの名は入っていない。まぁ、鈴ちゃんのは残してあるけどね。
 マドカちゃんだけをリビングに残すのもアレなので、手伝ってもらう……予定だったのだが、何故か伊織ちゃんがマドカちゃんを気に入ったようでガールズトークを始めてしまった。まぁ、伊織ちゃんの一方的な質問攻めとも言うけれど。
 暇になってしまった人識くんを手招きし、キッチンに助手として立たせてみた。
 ナイフの扱いに慣れているからか包丁捌きは中々のもので、玉ねぎの微塵切りなどの作業では大いに腕を振るってもらった。
 おかげでいつもよりも多い量ながらも早く下準備が終えることができた。二つのフライパンを使用してハンバーグを焼いていく。
 空いた時間でサラダとスープを作っておく。前者は加工済みなので水切りしてから千切るだけ、後者はコンソメスープを作った。
 焼ける肉の音をBGMに二人でまったりと待つ。弱火でしっかりと焼かないと生っぽくなっちゃうからね。
 良い肉とは言え、食中毒は勘弁だ。

「……なんかよぉ、こうしてのんびりしてる時間ってのが一番楽しくなってくるもんだよな料理って」
「そりゃ、三大欲求の一つを満たすための作業なんだから欲求に忠実なわけだし、それに外食ばかりで作ったこと無いだろうし。そりゃ、楽しいさ。人間誰しもやったことがないってことに興奮するんだよ。そうでなきゃ成功なんて言葉は生まれなかっただろうさ」
「それもそうか。なんかよー……。伊織ちゃんと居るとなーんかズレんだよな。零崎特有の殺人衝動ってのが収まるみたいな感じでよー」

 それは惚気ているのか愚痴を吐いているのかどちらの解釈で受け取ればよいのだろうか。珈琲が飲みたくなって来たんだが。

「……零崎ってのは殺しに理由なく何となく殺したくなるんだっけ」
「ああ、そうだな。特に俺なんか零崎と零崎の子らしいからやばいはずなんだけどな」

 人識くんは自分の手を見て首を傾げる。同じ苗字で繋がってるってことは……、いや、零崎は他人の集まりだから問題無いか。

「何となく、ってことはアレか。呼吸みたいな感じでするんだよね?」
「まぁ、そうだな。俺の場合は理由みたいなもんはあったが、今じゃもう無いな」
「ってことはさ、満たされてるんじゃないの?」
「はぁ? 俺はここ二週間は殺してないぜ?」
「だから、伊織ちゃんが居るから満たされてるんじゃない? 呼吸をするのは必要だからであって何かを埋めるためにあるんじゃない。君たちの殺人衝動ってのが呼吸と同じならば、生きるために必要であるからして別のモノで代替ができるわけだ。呼吸は生きるために必要だからね。殺人は生きがいのようなもので生きるために役に立ってはいないだろう?」
「そりゃ、アレか? もしかして伊織ちゃんの存在が俺の殺人衝動の代わりになってるとでも言うのかよ?」
「まぁ、そうなんじゃないの? 人ってのは孤独になれやしない生物なんだからさ、遺伝子レヴェルで群れたくなるんだよ。きっと寂しいんだね。だからさ、同じ感覚を共有できる伊織ちゃんが居るってのはかなり零崎人識という人間に対して良い環境が整ってるってことだ。だから、満たされてるだよきっと」
「……そう、なのかねぇ。俺は零崎一賊の中でも特殊だからな。それくらいで収まっちまうもんかもしれねぇな」

 熱源の近くに居たからか人識くんはコップを取り出してカートリッジ式の浄水器から水を入れて口に含んだ。

「……君さ、あの子のこと好きなんだろ?」
「んぐっ!? ……てめぇよりによって水飲んでる時に何抜かしてやがる!?」
「いやぁ、だってさそういう詮索もしたくなるじゃないか。で、実際のところどうなんだよ」
「それはわたしも気になりますね」
「ご飯はまだかー。ふむ、良い匂いがするな」
「いや、それはだな……。って、伊織ちゃん居るじゃねぇか。よーし、愛し合おうぜ」
「ま、待ってください人識くん。その手にもったナイフはなんですか!? もしかして愛は愛でも殺し愛の方ですか!?」
「あー、人識くん。家の中で流血沙汰は勘弁してね。ベッドの上で少量なら構わないけども」
「……よーし、お兄ちゃん張り切っちゃうぞー。まずてめぇからだ、いーくんよぉ!!」

 やっべ、業火に豪快に豪華な油注いじゃったみたいだ。
 ISを休眠状態から待機状態へ移行させ、PICコントロールで音速めいた速度で人識くんの顎を狙ってキックを放つ。
 すんでのところで避けた人識くんの前髪の先っぽが漫画のように切れた。
 
「いや、ちょっと待て。何だよその速度!? まさか、てめぇIS使ってやがるな!? それは卑怯だろ!」
「いやほら、ある意味武器だし」
「兵器の分類だろうがそれは!」
「まぁ、そろそろ焼けるからさ。頭冷やすか、ナイフ仕舞ってね。さもないと……」
「さもないと……? 人識くんはどうなっちゃうんですかいーくんさん!」

 この子実にノリノリである。
 というか、人識くんに対してかなり好感度が高いご様子だ。もしかして茶化さないでも良かったかもしれないな。

「カールマイヤー三時間耐久大音量放置プレイまたは調べちゃいけない動画メドレー四時間耐久ってとこで手打ちかな」

 意味を知っているのか、伊織ちゃんが青ざめる。それを見て少々興奮気味だった人識くんも「やべぇのか?」と背筋を凍らせ始める。
 マドカちゃんは「なんだそれは?」とインターネットの怖さを知らないご様子だったので取りあえず説明だけはしておく。
 そこはかとなく遠まわしかつストレートに教えてあげると、
 人識くんはナイフを仕舞い「いや、殺人鬼だけどもそういうのはちょっとな……」と遠慮し。
 若干小刻みに震えながらマドカちゃんは「人間怖い」と何故かトラウマになりかけていたので狂言によりサルベージし。
 伊織ちゃんは「うなー……」と芝居めいた感じで人識くんに抱きついていた。
 数分の沈黙の後に良い感じに焼けたハンバーグを確認し、口を開く。
 
「じゃ、ハンバーグ食べようか」
「散々アレな話しやがった後に食べられるかっ!?」
「それじゃ、人識くんのはわたしがいただきますね」
「んなことさせるかっ! 半年振りの手料理だぞ! 結構頑張ったんだからな俺!」
「にいさん、ご飯まだー?」
「……ああもう、分かったからお皿の準備と麦茶用意してくれるかな」

 どうやら人識くんもメンタル固かった。一人は応急処置のような感じで若干崩れやすくなってるけどまぁ、大丈夫だろう。
 それからしばらくわたわたと動いて食事の準備が終了した。
 きちんと中までしっかり焼けていて肉汁を有効利用した自家製ソースによって美味しさが割り増ししたハンバーグは中々好評で、比較的明るめな話題をぼくがチョイスして人識くんにパスし、人識くんのパスを伊織ちゃんがピンク色に染めかけて人識くんと夫婦喧嘩をし始め、「おお、美味い!」ともはや最初の頃の威厳とやらが抜け落ちているマドカちゃんがもぐもぐしてる姿を見てぼくがほっこり、という状況になるくらいに良い感じに混沌してた。
 
「ふいー、久しぶりに美味いもん食ったぜ」
「料理頑張ろうかな……」
「それならレシピまとめたメモ帳をあげるよ。人識くんに美味しいものを作ってあげなよ」
「はい! ということで人識くん、毒見役は任せましたよ!」
「待て、なんでポイズンクッキングすることが前提なんだよお前は!?」
「レシピ通りに作れば毒なんてできないだろうに」
「いやまぁ、そうなんですけどね。こう見えても家庭科良かったですし、安心して死んでください人識くん!」
「頼むから出すとしても皿ごと食わなきゃならん料理は止めてくれ! 俺はまだあの欠陥製品のように死にたいとか言っちゃうお年頃じゃねぇから!」
「ふふん、わたしの冥府に送るような味と言われた料理スキルを発動させてあげますよ♪」
「って結局ポイズンかよ、伊織ちゃん」
「冗談です。普通に通信簿で五を貰ってましたよ」
「何点中で?」
「……さーて、洗物しちゃいましょうかー」
「いや、何点中なんだよ!?」

 十点中で五なら中ぐらいだし、五点中なら上の上。まぁ、どちらにしても大丈夫だろうね。
 「美味い美味い」って言いながら食べてる人識くんの顔を見て「むむむ……」と乙女心を発動させてたみたいだし、よっぽどのものは出さないだろう。
 いやはや、愛されちゃってるねぇ人識くん。キッチンへ行った伊織ちゃんの手伝いするためについて行っちゃうくらいだし、これまた時間の問題……いや、人識くんの頑張ってるプライドが邪魔しちゃってるんだろうし、押しておくべきか。いや、逆に引いてみるべきか。
 まぁ、野暮ってもんだねこりゃ。
 食事の後のデザートとして買ってきていた焼きプリンを頬張りながら堅難しいニュースの内容を見てるマドカちゃんの頭を撫でて疲れを癒す。あー、癒されるなー。やっぱり妹は最高だね。
 それから結局マドカちゃんも泊まることになり、整頓された千冬さんの部屋を伊織ちゃんとマドカちゃんにあてがい、ぼくらは炭酸飲料を飲みながら雑談を肴に一晩中語り合って、翌日に別れた。
 ぼくにきちんと了解を得れば使ってもいいと合鍵をくれてやり、友人度を高めて送り出してあげた。
 マドカちゃんは若干寝ぼけながらもきっちりと帰って行ったのを確認してぼくは後片付けをして学園へ行った。
 ……まぁ、やっぱりというか何というか完全に遅刻してしまい、徹夜なのが相まって幾度かッ千冬さんの天下の宝刀たる出席簿が火を吹いたことは言わずがなだろう。
 ちなみに残したチーズケーキは、うっかりぼくと人識くんのお腹の中に昨晩に半分ずつ消えたので渡すことはできなかった。












 悪党とはトカゲのようなものだ。トカゲは尾を切って逃げる。だから、悪党を潰す時はまず頭を潰すことを考えろ。















 銃口から紫煙のくゆる匂いが鼻腔を侵し、その銃先はぼくの後頭部をごりごりと押している。
 現在の状況は大惨敗の真っ只中であり、ぼくは地面に突っ伏している状態である。
 
「……ふぅ、今日はわたくしの勝ちですわね」
「うーむ。やはり中距離戦のセシリアちゃんと相手するには零式の武装じゃそろそろきついなぁ……。幾度もやれば相手の癖も見えるし、対策も取れる。……だからこそ、もう無理かなー。というか無理だよー、無理ぃ。やってられんわー」
「後半の台詞が棒読みだがな。だが、お前が弱音を吐く気持ちは良く分かるぞ。何せ、被弾率二割であるはずなのに決定打が与えられる機会もなく遠距離でゴリ押しされていたからな」
「それに、あんなに集中力をかける作業を二時間ぶっ通しなんて尋常じゃないストレスだしね……。よく頑張ったわ一夏……」

 そう、ぼくとしてはもうネタ切れだったりするのだ。
 零式を解除し、嘆息をついてぼくはもう一度嘆息した。正直に言えば悔しい。ああ、本当に悔しい。
 しかし、戦闘というものは長引けば長引くほど不利になっていく陣営が生まれるものだ。
 というか、今のぼくだ。
 元々接近戦の心得しかないような武器のみを搭載した機体である零式のレパートリーが圧倒的に他の機体に対して貧弱であることは言わずもがな、さらに言うがセシリアちゃんはイギリスの最年少代表候補生という天才の立ち位置に居る人物だ。数度の復習と幾十の予測をこなせば嫌でも全パターンが頭に入るというものだ。
 そして、これは鈴ちゃんにも言える。
 そもそも鈴ちゃんは本能的に戦っている節があるためぼくの全てのパターンを頭ではなく体で覚えてしまっているのだ。中距離戦のエキスパートとも言える鈴ちゃんにはもう負け越している。
 一応機体の稼動率の差で箒ちゃんと並んでいるようなものだが、束さんから専用機でも贈られたら恐らくぼくが下克上する機会しかもう窺えなくなるだろう。
 嘆息を繰り返し、ぼくはふらふらと全敗という重々しくも憎たらしい記録を背負って、先にアリーナの更衣室へ行かせて貰うことにした。
 すでに放課後のアリーナは夕暮れ時でオレンジ色に染まってしまっている。
 きっと、ここが戦場であればぼくのみの血で真っ赤に染まってしまっているだろう。
 それくらいに惨敗したのである。
 頭で分かっていても技術と知識って別もんなんだなぁ、と通算百回目の負け越しのぼくは改めて噛み締める。
 砂でも噛んでいる気分だった。もう、シャワー浴びてベッドに寝てしまいたい。

「お、おい……一夏?」
「そっとしておくべきですわね……」
「そうね。それが一番良いと思うわ。手加減してもあいつなら分かるだろうし」
「本気であってもすでに……なぁ」

 耳を塞ぐ余裕もなく、更衣室でのろのろと死にかけのゾンビが歩く速度で着替え、亀にも劣るような速度で自室へ帰還した。ぼふん。
 泣いたぶんだけ強くなれると言うが、おかしいな……。弱いままなんだけども……。
 実際に泣いているわけではないが、泣き言はたくさんこの枕に零したつもりだ。
 あの歌詞はきっと精神的に打たれ強くなることを指しているのだけれども、ぼくとしては肉体的な強さが欲しい。
 筋トレでもすれば身につくのだろうけれど、そんな長年続けて手に入れれるものを求めているわけじゃない。
 いっそのこと、ぼくが改造してみるか零式。何とかして零落白夜の呪縛を解かねば。奴を何とかしない限りぼくは負け続けるだろうから。
 と、言っても……やることは少ないことは分かっている。エンジニアでもない素人のぼくが手を出しても悪化するだけだろう。
 だからこそ、ぼくは手を出すべきなのだろう。自分の機体を隅々まで他人に任せ切っていたツケを払うべきなのだ。
 例え、それがぼくの勝率の改善に繋がらなくても手を出すべきなのだ。
 零式のコンソールを呼び出し、設定の一覧の詳細に目を通す。機械言語というのだろうか、意味不明な羅列が並んでいる。
 ここじゃないようだ。なら、こちらか。新たに生み出された投影画面に目を通し、手を動かす。
 次々とポップされていく画面を二つの瞳で捉えながら、ようやくお目当ての一覧に手が届いた。
 手をスライドさせ、それ以外の画面を消し、じっくりとその一覧に目を通す。そう、零式のメインプログラムの構築式だ。
 全文英語であるがこれくらいなら読み通せる。米版ブラム・ストーカーなんてものを読もうとして前のぼくが頑張った結果がぼくにある。
 近接戦闘特化であるとは分かっているが、他のアプローチ方法が存在するのではないかと希望を抱くのは仕方が無いことだと思いたい。
 それほどまでにぼくは切羽詰っていたのか、と英文の波の流れを見ながら冷静に頭が冴え始める。
 
「……白、式?」

 その中で目に留まったのは、白式という名前だった。それは不自然過ぎた。それだけが漢字で書かれていたからだ。
 もしかすると、最初の名前はこれだったのだろうか。積雪さんたちが名前を付ける前はそう呼ばれていたのかもしれないな。
 ――感慨深くその名前に指を這わし呟いた瞬間のことだった。
 視界一面の青い空、ぼくを招き入れ歓迎するように鳴く陽気なカモメたち、そして、白い少女。それらは全て反転していた。逆様だった。
 直感でもなく肉眼で見えた、異常な光景。
 ぼくが立つ場は海の上空だった。信じられないとは思うが、ぼくは何の浮力もなしに空に足をつけていた。
 自分でも何を言っているのか分からなくなるが、正気沙汰でも狂気沙汰でもない不可思議な現象に巻き込まれているのだと察する。
 
「違う――」

 足元に焼いた鉄のような痛みはなく、代わりに日向に居るような心地よさがある。つまり――ぼくが逆様なのだ。
 倫理エラーとでもいうのか、論理エラーとでもいうのか、この世界でもぼくはやはり、イレギュラーなエラー的存在であるようだ。
 白い少女の顔は眩しい光によって見え辛く、口元だけが微かに見えるだけだった。
 彼女の姿はシルエットで幼い少女であるとは分かった。

「ここは、いったい?」

 少女の口元が半円へと変わり、眩い光に目を焼かれる。白き残像が消えた後の視界に少女は居なかった。
 変わりに、銀色の騎士甲冑に身を包んだ女性が居た。その眩い甲冑は日の光によって純白の色を作り出していて、幻想的だった。
 これほどまでに美しく光るものを見たことがあっただろうか。
 その騎士の美しさはくーちゃんの美しさとは正反対のそれで、太陽のような美しさだった。
 見惚れているわけではない――目を奪われているだけだ。
 そんな囈言なんていうくだらないことを心で呟いている余裕がある自分に驚く。
 なぜだろう。
 危険であるとは分かっているのに心が安らぐ。押しては引いての大波小波の海の音がぼくをそれほどまでに安心させていた。
 
「貴方は――力を欲する者ですか」

 眩くて見えない騎士は眩さの塊から一振りのグレートソードを胸前に掲げ、それをくるりと反転させて地面に突き刺すように空中に刺す。
 その一振りといえない剣の回転で眩さが切り取られるように一部失せる。騎士の顔にはガードがあり、また口元しか見えやしなかった。

「貴方は――力を欲する者ではありませんね。では、何を望みますか」
「望めば手に入るのかい?」
「それは、断言しかねます。貴方がここに居るのは本来有り得ないことなのです。真名を語る者のみがこの世界に居ることを許されます」
「すなわち、あなたがわたしたちの名を呼んだということになる」

 後ろから幼い少女の声が聞こえた。振り返ってみればそこには逆様の白いワンピースの少女が居た。
 どうして、なんていう馬鹿げたことは口に出さない。如何なる理由でさえも、意味が無いのだ。この空間はぼくの居場所ではないから。
 
「だから、本来は有り得ぬ剣の選定に貴方の願いを一つ叶えましょう」
「永遠にその時が来るまで出会うはずが無かった出会いに祝福をしましょう」
「我ら騎士の名に誓って」
「我ら騎士の名に誓って」
「騎士……?」
「ええ、我らは白式のコアのAIの思念体です」
「だからこそ、その名を隠された故に今まで契りを結ぶことができなかったの」
「零式という名を上書きされたから……、まさか、だから零落白夜は欠陥となったのか。本来のベースに合っていないものとして無理をさせていたのか。それは意味がない。宝の持ち腐れじゃないか。何やってたんだよ、ぼくは。つまり、名前を戻す作業をしてしかるべき状態へと還元せよとの仰せということかな、ぼくがここへ呼ばれたのは」

 目の前の騎士は深く頷いてみせた。しかし、何故か後ろからは首を振る動作をしているように感じられた。

「然り、しかしそれだけではない」
「我らの名を呼んでくれたあなたに感謝がしたかった。そして、マザーの暴走を止められる唯一の人物であるとも考えていた」
「マザー?」
「篠ノ之束博士こそが我らインフィニット・ストラトスのマザーです」
「彼女の命令に従い、我らは稼動しています」
「マザーは現在、第四次移行(フォースシフト)の作成と準備を行っています」
「はぁ? ちょ、待て。今は第二次移行(セカンドシフト)までしか確認がされていないはずだろうに」
「ええ、表向きにはそうされています。しかし、マザーがそこで燻っているとでもお思いですか」
「マザーはすでに第三次移行を済ませています。自らの心臓にISコアを同化させ、不老不死の存在になりかけています」

 ぼくの脳裏が空白に埋められる。どういう、ことだ? すでに束さんは不老不死の在り方を見つけてしまっているのか。
 なのに、なぜぼくを自らのクローンとして抜擢したんだ。

「マザーはそもそも我らインフィニット・ストラトスを今のような形で発表するつもりはありませんでした。しかし、膨大の研究費用を稼ぐために今の均衡をわざと保っているのです」
「その言い方だと均衡を崩す方法があるように聞こえたのだけれども」
「はい、あります。現在の状況でその可能性と断定できるのはあなたしか居ません」
「はい?」
「つまり、マザーは貴方を使って均衡を崩されるおつもりなのです」
「そのための第四次移行。"完全なる個体"――超人を生み出すつもりなのですマザーは」
「ええと、もしかしてそれは束さんのクローン体でありながら神に対抗できる身体であるっていう解釈であってるかな?」
「はい、間違っていません。その通りです、"完全なる個体"は自立稼動可能な思考を行う生命体であると推測されます」
「そして、その個体にあなたという思考データを組み込むことにより"完全なる個体"は魂を生み出し、完成するのだろうと憶測します」
「人造人間型のISってことか、つまりは」

 前後から頷く感覚が伝わる。どうやら当たりらしい。いやまぁ、普通に導き出せる解ではあるけれども。
 さて、とぼくは一度こんがり始めた脳裏の情報を整理して、一度脳に休息を与える。
 つまりは、だ。束さんは最終的にぼくを"完全なる個体"とやらの魂の部品にすることで完成をもくろんでいるということだ。
 ……あれ、これってぼくが困る部分無くないか? むしろ万々歳なんじゃないかぼくとしては。
 いや、待てよ。つまりは、だ。今あるISは"完全なる個体"への道のりの副産物でしかない、ということだよな。

「もしかして、君らはぼくに――助けを求めていたりする?」
「肯定します」
「はい、そうです」

 そう、だよな。"完全なる個体"が完成したら既存のISは実験でできた残り滓のようなものだ。束さんが放って置く訳が無いじゃないか。
 なら、その掃除は誰がするんだ?
 そりゃ、ぼくがやるわけだよな。"完全なる個体"の力を世界に見せ付けるのにはもってこいのシチュエーションだ。
 つまりは、束さんは――。

「戦争を、起こす気なのか」

 再びの肯定の頷き。まるで背筋を急冷凍されたかのような怖気と戦慄が背中を走った。
 各地のISコアを破壊し、ぼくだけを唯一の完成品として世に残すつもりなのか、あの天災は……っ。
 
「貴方に再び問います。貴方は、何を望みますか?」
「ぼくは――」

 正義の味方にでも、なれというのか君たちは。この、偽者の代替であるぼくに、そんな重い十字架を背負えと言うのか。
 ――笑わせてくれる。狂言遣いの名が泣くぜ。過小評価し過ぎだぜ君ら。
 ぼくは息を整えて言った。

「悪役になってやる。君らにとってではなく、今あるこの世界の在り方を壊しつくしてやるさ」
「貴方は――」
「それ以上は言ってくれるなよ。ぼくっていう存在が安っぽくなっちゃうじゃないか。勘弁してくれよ、ぼくはそんなちっぽけな理由で動くんじゃない。全てはぼくのためだ。ぼくのために、ぼくであるために、ぼくがぼくだからこそ、ぼくは動くんだ。勘違いするなよ、観客(オーディエンス)。君らの拍手の時間はまだ認めちゃいねぇぜ」
「……心からあなたを尊敬いたします」

 すぅと目の前に現れた黒いそれは四角いキューブだった。受け取れということなのだろうか。
 ぼくは貰えるものは死ぬまで使い切る性質であるからして、この手のものは嬉しいと感じる。
 しかし、なぜだろう。凄く嫌な予感がするのは。

「これは?」
「答えは後ろにあります」

 そう騎士言われ振り返れば――白い少女は消失していた。
 変わりにそこには、騎士の写し身のような――黒い騎士甲冑を身に包んだ女性が存在した。
 
「我らは本来寄り添う双子のコアでした」
「常に寄り添う我らは二つであるのに一つのコアとしてその存在を誤認されました」
「故に、我らは一つであり」
「故に、我らは一つではなかった」

 黒い騎士はその右手にごついスレイヤーソードを肩へ掛け、首周りの防具に沿うように器用に回す。
 胸前へ持ってきた剣の先を地面に刺し込み、鈍いながらも漆黒に輝く眩きを生み出す。
 それに吸い込まれるような感覚の後、ぼくは一瞬気を失ったような気分になった。

「貴方に我らの片割れを託します。その名は――」

 言葉が、途切れて、聞こえなくなった。
 ナイアガラのように溢れ出した冷や汗でぼくは目が覚めた。

「…………。なんだっていうんだよ、今のは……」

 視界に映る自室の壁を見て、先ほどの夢を思い返していた。すると突然ぼくの視界がいきなり黒く染まった。
 ……おいおい、ぼくはアイマスクなんて付けた覚えは無いんだが。
 起き上がりながらそれを払い退けるが、それは再び視界を隠す。何度も繰り返していくうちに、信じられないことに気づいた。
 ふにょん、と両手に収まる胸の前に生えた二つの桃。そして、股間からあるべきそれが無くなっているような喪失感。
 先ほどから視界を隠すそれを掴んで引っ張ってみた。痛い。頭の根元が痛い。痛覚があるということは、現実……ということか?
 ……ふぅ。

「はぁ!?」

 思いっきり叫んでしまった。これでもかというぐらいに、大声自慢で披露するくらいに特大の奴を。
 当たり前だろう。ぼくの身体は女のそれになっていたんだから。驚愕しないほうが驚くわ。
 しばらく女体の神秘とやらを実感した後に、ようやく冷静になれたぼくは後ろからリズムの良い吐息が聞こえてくることに気づいた。
 嫌な予感しかしない。ぼくは恐る恐る振り返って――鏡を見たときに嫌でも入るぼくの顔がそこに、あった。しかも涎付きで。
 ……分裂なう、と呟いてみるがフォローをしてくれるはずの騎士はすでに存在していなかった。
 その事実を確認してから、ぼくは……再びベッドに突っ伏した。ぐっすりと眠れる気は……しなかった。












――――――――――――――――――――――――――――物語は加速を始め、何処かで狐が笑みを浮かべた。


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