※ご注意
・この話に登場する碇シンジは、やばくなったら逃げます。ダメじゃないです。むしろ逃げなきゃダメです。
・この話に登場する碇シンジは、重度のヲタクです。マニアックなアニメやマンガのネタが出てきますが、彼にとっては平常運転です。
来るべき近未来。セカンドインパクトの惨劇を乗り越え、復興への第一歩を踏み出す人類。その輝かしい繁栄の陰で激しくぶつかり合う二つの力があった。
人類から、地球の霊長の座を奪い取ろうとする『使徒』と呼ばれる生命体。
そして、それに対抗するべく設立された国連特務機関ネルフ。
その戦いの炎の中に、史上最強の汎用人型決戦兵器エヴァンゲリオンを操る一人の少年の姿があった。
名を『碇シンジ』
「砕け! 初号機!」
GRvsEVA ~ビッグファイア細腕繁盛記~
■プロローグ:第3新東京市に立つ者
ある嵐の夜、一人の少年の姿が消えた。誰にも気付かれること無く。
なぜならこの少年は、プレハブの離れに住み、家人と顔を合わせることはほとんど無かったからだ。
翌日の朝少年が戻り、出かけていたことを謝ったときにも、その家の者は誰一人として気にとめはしなかった。
だがそれが、のちの戦いの始まりを示していたということを、このときは誰も知る由も無かったのである。
ここは、世界征服を策謀する秘密結社BF団の本拠地。
BF団の首領であるビッグファイアと呼ばれる少年は、今日も大忙しであった。
「空中要塞の建造許可? この前ペンタゴンの地下に秘密基地造ったばっかりだと思うけど……うん、悪いけど不許可」
「イギリス本土上陸作戦? どうして、英国国教騎士団を壊滅させるのにBF団の全戦力がいるの?」
「えっと、エージェントからの要望『もっと戦いを』『殺し足りない』……もう! BF団(ウチ)の構成員は戦闘狂と殺人狂しかいないのかよっ!!」
少年は山積みになった書類を前にして、頭をかきむしる。
「ビッグファイア様。お気持ちはわかりますが、ヤケにならないでください」
そばにひかえていた少女が、散らばった書類を集めながらビッグファイアを諌める。
「う、ごめんなさい……」
「BF団(ウチ)は元々こういうアブナイ人の集団なんです。それをまとめるのがボスの仕事じゃないですか」
「そんな事言われても、僕だって好きで首領なんてやってるわけじゃないよ」
この少年こそ、嵐の夜にいなくなった碇シンジ本人である。誘拐同然に連れてこられ、その潜在能力を勝手に認められて、そのうえ本人の意思を無視して、バビルの後継者すなわちBF団のボスとなってしまったのだ。
「なってしまったものは、しょうがないです。ボスがBF団を率いる器じゃないヘタレの小市民だとしても」
少女は情け容赦なく言ってのける。少年は返す言葉も無い。
「ううっ、言葉の暴力が僕を傷つけるよ……半分でいいから優しさが欲しい」
「バ○ァリンでも飲みますか? それより定時の報告書上がってきてますから目を通してください」
「はぁ~い。お仕事お仕事……」
観念した少年は、新たに積み上げられた書類に目を通し始める。
「こっちは順調。こいつも予定通りっと、おや?」
少年は首をかしげて、膨大な書類のうちの一枚を摘み上げた。
「どうかなさいましたか?」
「『ゲンドウ』って誰だったっけ」
「それって、確か碇シンジの父親の名前では?」
少女があきれたように言う。だが、BF団本部のコンピュータに催眠教育を施された影響か、ビッグファイアにとって碇シンジはもはや遠い存在になっていたのだ。
「いや、それはそうなんだけど……」
少年が言葉を濁すので、少女はその書類を覗き込む。
「碇シンジのダミーからの報告ですね。『来い ゲンドウ』行き先は第3新東京市ですか。そこって確か国連の」
「うん。『ネルフ』だったっけ、ゼーレの下請け組織。そこのトップの名前が確かゲンドウだったような?」
世界征服を目的とするBF団は、国連を裏から牛耳るゼーレとは敵対関係にある。そのゼーレの関連組織となれば、放っておくわけにはいかなかった。
「まちがいありません。碇ゲンドウ、国連特務機関ネルフの司令です」
少年はその報告書をもう一度見直した。
「じゃあこれって、ひょっとするとネルフに潜入するチャンスかも?」
「もうすぐ待ち合わせの時間なのに……どうしようか」
少年は駅のホームで途方にくれた。待ち合わせの場所はまだ先なのに、電車が止まってしまったのだ。
「瞬間移動するわけにもいかないしなあ」
これから『一般人』碇シンジとして敵対組織に潜入するのに、こんなところで超能力を使うわけにはいかない。
「まあ、本物のテレポートできる人は、あの兄妹ぐらいしか知らないけど……うーん普通ならシェルターに避難するべきなんだろうな」
とはいえネルフに潜入するのが目的なのだ、たどり着けませんでしたじゃ話にならない。
「しょうがない。歩いて行こう」
仕方なしに駅から出て、待ち合わせの場所に向かって歩き出す。日差しの暑さに閉口しながら。
「ん? なに?」
歩きながら空を見上げると、戦闘機や攻撃機がいくつも飛び交っていた。
「演習? にしては殺気だってるな。非常事態宣言とかいってたし、何があったんだろ」
そうやってぼんやりしていると、突然山の影から巨大な人型の怪物が現れる。
「な、な、な、なんだあぁぁぁっっ!!」
と叫びながら、少年は地面にへたりこんだ。
ネルフに潜入するにあたって、少年は使徒についての情報にも目を通してはいた。
だが、見ると聞くとでは大違い。周囲を旋回する戦闘機がかすんでしまう圧倒的な存在感、自分などアリを踏み潰すように殺してしまえるだろう純粋な恐怖。
「だああっ! こっち見るなっ! こっちくんなっ!!」
わたわたと手を振る少年に気づいているのかいないのか、使徒はその巨大な足を少年に向けて踏み出した。
本来ビッグファイアの超能力を持ってすれば、逃げるのはもちろん、全力を出せば目の前の使徒を倒すことすらできるかもしれない。
だが今の少年は、巨獣につぶされようとする、ただの虫けらだった。
少年の脳裏に、BF団の本拠地での少女の台詞がうかぶ。
「無理です。やめてください」
少女はきっぱりと否定する。
「なんで? 本人が行くんだから一番いいはずでしょ?」
「ダミーのほうがまだマシです」
「そんな~」
容赦ない言葉に、少年はがっくり肩を落とす。
しかし少女は手を緩める気はないようだ。少年の肩をつかんで、顔を真正面から見据える。
「いいですか? なぜBF団、いえ人類最強の超能力を持つはずのビッグファイア様が、本拠地で延々事務仕事を続けていると思うんです?」
「えーと、なぜでしょう……?」
「い・い・で・す・か!? ビッグファイア様はコンピュータに選ばれたとはいえ、それはあくまでも潜在能力、100%の力を発揮することはまだできないんです!」
「うう、そうでした」
「それに、たとえ超能力が使えたとしても、使いこなすための経験がまるっきりありません。今のビッグファイア様は、何もできない役立たずです」
うわ、言っちゃったよ。
「……家に帰っていいですか?」
少年は半泣きでたずねた。
「駄目です」
「……」
その後紆余曲折の末に、結局少年は第3新東京市に赴くことになったのだが――
『やっぱり、やめときゃよかったかな?』