弐号機とアスカというパイロットを得たネルフ。平穏な時間が戻ったかと思われたその時、ネルフの職員全員にテレパシーでメッセージが伝えられた。
『あ、あー、ネルフの諸君、僕は碇シンジ、BF団を代表して警告を伝えます。
今後、僕が助けた民間人三人への一切の干渉を禁止します。拉致、危害、監視全てです。この警告を無視した者の命の保証を、BF団はしません。というか、殺しますのでそのつもりで。
善意、悪意にかかわらず、三人に近づくには死を覚悟してください』
この警告の後、黒服にサングラスの男たちが三人の身柄を確保しようとした。
少女には十傑集《眩惑のセルバンテス》がついて、幻術によって黒服はすべて同士討ちをして死亡する。
「私は子供が好きでね。この子に手出しはさせん。覚悟したまえ」
「おっちゃん誰や?」
状況のつかめない少女が不思議そうに聞いた。
「私は碇シンジ君の代わりに、君を守りに来たのだよ。お嬢さん」
「代わりて、あのにいちゃん何者なんや?」
「ふっ、それは本人に聞いてくれたまえ。ああ、彼からの伝言だ『巻き込んでしまってすいません。ですがあなたの命は必ず守ります』」
「はあ」
命を狙われている、その実感がない少女にはいまいちよくわからない言葉だった。
男子学生二人には赤い仮面の男コ・エンシャクがいて、2条のムチが黒服たちの首を締めて殺してしまった。
「……」
「だ、誰や、おっさん」
「……」
「なんか言うたらどうやねん」
「……」
「何が起きてるか、教えてくれてもいいんじゃない?」
「……」
「あかんわ、こら」
「……」
「みたいだね」
「……」
病院を監視していたチームも、十傑集《素晴らしきヒィッツカラルド》の指が鳴り、発生した真空波によって全て真っ二つになっている。
「これがBF団に逆らうものの運命だ。俺の指は誰一人逃しはしない」
『BF団を脅迫するならば、それ相応の覚悟が必要ということだよ、ネルフ司令。それじゃ、そういうことで』
「ちょっと、どういうこと! これは!?」
「説明してくれるかしら」
いつもの二人が少年の病室に押しかけてくる。
「ありゃ、黒服のほうが先に着くと思ったんですが」
「ちょうど、お見舞いに来てたから……ってそうじゃなくて!」
大人二人が少年に詰め寄った。
「いいですよ。お話しします……僕はネルフ司令に脅されたんですよ。エヴァンゲリオンに乗らなければ、民間人三人に危害を加えるとね」
「……そんな」
「う、嘘よ。そんなこと!」
少年は肩をすくめる。
「……べつに信じなくてもかまいませんが、警告は本物です。あなたたち二人も、民間人三人には近づかないでください」
驚愕する二人。その時、黒服たちが少年の病室に押しかけてきた。よってたかって少年を取り押さえる。
「痛たっ、抵抗してないのに、ひどいな」
少年は、手足に錠をはめられ、黒服に連れていかれた。
「本当だと思う?」
「……思えば三度目の使徒が来たときから、シンジ君の様子がおかしかったのよね」
ミサトの問いに、リツコが考え込みながら言う。
「そういえば、シンジ君を空母に連れていくとき、『拒否権はない』って言ってたわ」
「そう、それじゃ……」
本当に脅迫されていたのかも。その言葉を二人は口にすることが出来なかった。
「ありゃ、本当にネルフ司令に会えたよ……いいのかな?」
手足を拘束され、マシンガンを手にした男たちに囲まれながら、少年はネルフの司令室に連れて来られる。
天井に生命の樹が描かれた、おせじにも趣味がいいとは言えない部屋の机に、ネルフ司令碇ゲンドウがいた。
「……どういうことだ」
「僕はBF団の工作員ですよ。普通組織のトップが会ったりしないでしょう」
「……」
「国際警察機構のエキスパートもいない。危険だと思わないんですか? こんなふうに」
少年の手足を拘束していた錠がボロボロと砕け散る。少年の念動力だ。
すると、部屋の中央に立体ディスプレイが表示される。
「あ、あの三人だ」
画面には、例の民間人三人が映しだされていた。
「私だ、やれ」
ゲンドウの声と共に、銃声が響く。三人を狙撃するように命じたのだ。
「……これは、警告だ。命まではとらん。貴様の態度次第だが」
「はあ、効いてませんが」
「何!?」
少女のもとでは、セルバンテスが銃弾を溶かして無力化していた。
「このようなもの、私には通じんよ」
男子学生二人のところでは、コ・エンシャクが2条のムチで2発の銃弾を跳ね返している。
「……」
「ヒィッツ! やってしまえ!」
セルバンテスの声と共に、ヒィッツカラルドの指が鳴り、真空波が狙撃手を両断した。
「いくらでも来るがいい。すべて真っ二つだ」
病院の屋上で、ヒィッツカラルドが指を鳴らしている。
「えーと、これでも一応手加減してもらってるんですよ」
その気になれば、ヒィッツカラルドの真空波はビルごと真っ二つにできるし、セルバンテスの幻術は第3新東京市すべての人間を操ることができる。
今回は護衛が任務ということで、最小限に抑えているのだ。それでも死体の山ができるのはBF団だからか。
「僕が言うのも何ですが、ここは手を引いたほうがいいですよ。これ以上死人を増やしても無意味でしょう?」
あれだけ死者を出しておいて、こんなセリフが出るのは、小心者なのか大物なのか。
だが、ネルフ司令はその言葉を聞く気は無いようだった。
「やれ」
少年の周囲にいる黒服に命じる。黒服たちは、躊躇することなく少年にマシンガンの弾を浴びせた。
少年はバリアでその弾を全てはじいてみせる。
「んー、この状況をどうにかしようと思うなら、国際警察機構の九大天王を連れてくることぐらいです。けど、あなたの非道を看過する人は、さすがに少ないと思いますよ」
現に事情を話した戴宗は、ネルフに対する不干渉を約束してくれた。他の九大天王も、ヨーロッパでのBF団の活動に対応しており、日本に来れるものはあまりいないはずだった。
少年の周りにいた黒服が、バタバタと倒れていく。
「念動力で、頸動脈を圧迫しました。しばらく寝ていてください」
少年とネルフ司令が1対1で対峙することとなった。
「チェックメイトです。さすがに組織のトップですから、深層意識まですべて調べさせてもらいます」
少年としては、この機会を逃すわけには行かない。徹底的に調査するつもりだった。
「まさか、これほど早く使うことになろうとは……」
その言葉と共に、近づいてきた少年が見えない力に吹き飛ばされる。
「こ、これは念動力! 碇ゲンドウは碇シンジの父親だから、能力者でもおかしくない。けれど、これほどの力を!?」
部屋の壁にはりつけになった少年は、その圧倒的な能力に驚いた。少年の持つ念動力の数十倍のパワーを感じたのだ。
「……死ね」
念動力の見えない手が、少年の心臓を握りつぶす瞬間、少年はゲンドウの右手にあるものを確かに見た。
(ア、アダム! ヨーロッパにあるはずが、どうして……僕を本部から遠ざけたのは、これを手に入れたためか!)
「始末しろ」
意識を取り戻した黒服に、ゲンドウは少年の死体を処分するように命じた。そして、どこかに電話をかける。
「私だ。レイを三人目に移行しろ」
BF団工作員碇シンジは、司令室で激しく抵抗したため、やむなく殺害されたと公式に発表された。