「《夢見るアロンソ・キハーナ》やタイタンは殺すわけにも、壊すわけにもいかない。けど使徒なら話は別だ」
少年は突き出した右手の人差し指を曲げ、中指、薬指と曲げていき、小指を曲げたところで拳全体を握りこんだ。
『とことん、それでいくつもりですか』
「僕の拳が光って唸って、真っ赤に燃える!」
『あ、そうきましたか』
能力者が超能力を使うとき、自己暗示でキーワードや予備動作をつけるのは普通にあることだが、少年の場合はどうなんだろうか。
ふざけているように見えても、変質した右腕はエネルギーを発し輝きはじめる。
使徒を目の前にして、葛城ミサトの深層意識による憎悪が湧いてきた。
(どうして今更? いや、ちょうどいい。まとめて叩きつけてやる!)
右腕の輝きが頂点に達したとき、
「必ぃっ殺っ! シャァァイニング・ナッコォォォッ!!」
つきだした拳から力が解放された。アノマロカリスに似た使徒の数十倍の大きさの、輝く拳が海を裂き海底を削って、水平線の彼方まで飛んでいく。
使徒は光に包まれ、そのまま消滅してしまった。
『再建中の月面基地から打電。地球から怪光線が飛んでいくのを観測したそうです……これが真のアダムの全力ですか』
エネルギーの余波で海は割れたまま、削られた海底の姿を見せている。
『いや、シャイニングだから抑えめにしたんだけど……』
『抑えてこれですか。あなたを地球圏から追放することを、検討したいですね』
『た、確かに、地面に向けたら地殻が崩壊しそうだね……あ、あれ? そういや、タイタンは?』
『たった今、あなたが吹き飛ばしました』
タイタンがいたはずのそこも、海底ごとえぐれてなくなっていた。
「あああ、たまにやる気を出したらこれだよ……何やってるんだ僕は」
少年はがっくりと肩を落とす。タイタンを破壊されないためにやったのに、この有様だ。
『ちょっ、ここでテンション下げないでください!』
『ガイアーが目覚めるのです! これからが正念場ですぞ!』
「……せっかくフォーグラー博士が、タイタンを止めてくれたのに……僕って一体」
叱咤するテレパシーにも関わらず、少年は膝と手を地につき頭を下げる。要するにこんな感じ→orz
「いかん!」
十傑集たちが次々と大怪球から降りて来た。それを見た九大天王が身構える。
「BF団、十傑集! 何をしに現れた!?」
「世界を破滅させるつもりか!」
「ええい! 貴様らに構っているヒマはない!」
十結集は、九大天王を無視して少年のもとに集まった。
「ビッグファイア様! しっかりしてくださいませ!」
「ガイアーが目覚めれば、本当に地球が破壊されてしまう」
「……」
十結集の声に、少年はふらふらと立ち上がる。
「あうあう、役立たずですいません……むしろ足を引っ張ってすいません」
全然立ち直っていなかったが。
その時、海からタイタンとは違う巨大な顔が浮かんできた。
『……あれが、ガイアー!』
「何ということだ」
皆の顔が絶望に歪む。地球破壊プログラムが最終段階に入ったのだ。
だが、その中で今だ希望を失っていないものがいる。
「ガイアーか、よかろう。そやつも停止させるまでだ!」
フォーグラー博士の大怪球が再びアンチエネルギーフィールドを発生させた。浮上しようとしていたガイアーの動きが止まる。
「おお!」
だが、動きを止めたガイアーから、無数の光弾が発射された。四方八方に放たれたそれは、触れるものすべてを爆発させる。
海底火山の活動によって隆起した島も、大怪球も大きなダメージを受けた。
「いかん! ビッグファイア様をお守りしろ!」
三人の十傑集が少年の前に立ちふさがって、バリアをはる。しかし、光弾は次々と襲ってくる。長く持ちそうにない。
「くっ、試作型のシステムではこれが限界かっ!」
フォーグラー博士の研究するアンチエネルギーシステムの理論では、すべてのエネルギーを無効化、吸収できるはずだったが、それは今だ研究段階、試作機ではガイアーの光弾を完全に吸収することはできなかった。大怪球が動作を停止するのも時間の問題かと思われる。
『何やってんですか!』
茫然自失になっている少年に、少女からのテレパシーが届く。
『男ならここで、スーパーピンチ喚び出すくらいの甲斐性見せたらどうです!』
ビクリと少年のからだが震えた。
『喚び出す……それだ!』
『はあ? 本当にスーパーピンチクラッシャー喚ぶ気ですか?』
少女はドン引きする。いよいよ少年がイカレたと思ったのだ。
『そうじゃなくて、今の僕にはガイアーを破壊することは出来ても、停止させることはできない。けど、彼らを召喚すれば……』
『まさか!?』
少女の顔色が変わったのが、少年にもテレパシーで感じられる。
『……3つの僕を喚ぶ』
『危険です! いつ我々に牙を向くかわからないんですよ!?』
『いや、大丈夫!……多分……きっと……』
少年のトーンが下がっていった。
『あのですね、自信あるのかないのか、はっきりしてください!』
『は、はいっ! えーとその、地球の破壊は真の継承者も望むことじゃないから、少なくとも封印するまでは従ってくれるかなあ、って』
『……で、その後は?』
『多分、僕に襲いかかってくるんじゃないかと……』
『……』
重い沈黙だけが返ってくる。
『だ、ダメかな。やっぱり……』
少女は大きなため息をついた。
『仕方ありません。他に選択肢はないようですし、毒を食らわばなんとやら。いけるところまでいきましょう』
『うん、それじゃいくよ!』
少年は右腕を天に突き上げる。
「集え! 三界の覇者達……ぐあぁっ!」
鋭い音とともに、少年の右腕に亀裂が走った。ひび割れた箇所から血が霧状に吹き出してくる。
「ビッグファイア様!?」
「さっきのビッグバンパンチの影響か? こんな時に!?」
ガクガクと震える右腕の裂け目から、金属の刺のようなものがいくつも生えてきた。見る間に腕は元の倍以上の大きさに膨れ上がる。
『まさか! アダムが覚醒を!?』
右腕は、少年の頭上でまるで巨大な花のような形に拡がっていった。
『いけません、ビッグファイア様! このままでは!』
花の中心から、大きな球体がせり上がってくる。殻のようなものが二つに割れて、中から黒い瞳を持った目が現れた。
『!』
次の瞬間、強烈な閃光があたりすべてを白い光に染める。みんなの目が光に慣れたころ、少年の頭上に巨大な光の柱が天を衝くのが見えた。
「これは! 15年前と同じ……」
「……セカンドインパクトの惨劇が、繰り返されるというのか!?」
十傑集と九大天王は、かつて同じ光を南極で見たことがあった。
『これが、災いの塔(ザ・タワー)!……バベルの塔!』