『精神感応系の能力者はいくらでもいますが誰かの心を覗くことはあっても、両者が互いの精神を完全に見せ合うなど、これまであった試しはありません。BF団の記録上の話ですが、おそらく国際警察機構のエキスパートでもこんな“馬鹿な”真似をしたものはいないと思われます』
“馬鹿な”という部分に思い切り力が入っている。ネルフでのハプニングを聞いたBF団の朱里は、当初言葉も出ないほど呆れ果てていたが、本部撤収作業の合間に一応調査してくれた。
調査といっても、少年とリツコだけでは話にならなかっただろう。当人たちも「目を合わせたらなぜか一目惚れした」しかわからないのだ。そんな話を聞かされても原因など調べようがない。
現場に、十傑集《暮れなずむ幽鬼》が居合わせていたのが幸いした。力を失ったとはいえ、強力なテレパシー能力者であり精神操作のエキスパートである彼は、二人の心の動きを正確に把握していたのだ。
そこから導き出された結論が、二人の精神全面解放である。
『精神感応の能力を持つものは、人の心の醜さをいやというほど味わうからな。無論自分の心の汚いことも。相手に自分の心を見てもらおうなどと、そんなことを考えるものは……まして実行に移すものなど前代未聞だ』
幽鬼としても頭が痛い。赤木リツコを引き込むために少年がとった手段だったが、その場に居合わせサポートまでしたのだ。まさかこんな副作用があると彼ですら想像できなかった。
『これが国際警察機構の女であれば大問題ですが、すでにBF団側である赤木リツコとどれほどイチャつこうが、構わないと言えば構わないんですが』
少年は今はこんな感じだが、一応BF団の首領なのだ。札束を積み上げてなんとかなる話ならば、風俗に行こうが女を囲おうがいくらでも可能である。少年の性格上そんな真似は到底できないのだが。
実は国際警察機構のスパイでした、などというオチでもない限りBF団としては問題にすることでもなかった。現状本部がてんてこ舞いでそれどころではない、ということもある。
では何の問題もないのかといえば、そういうわけでもない。
『この件でナツミさんから伝言を預かっています』
『へ? ポイントV1はもう通信禁止じゃ』
BF団に入団したナツミは、ポイントV1と呼ばれる場所に行っている。そこはBF団でも最重要機密、出来損ないのビッグファイアなどよりよほど大事で、そこの場所を秘匿するためにテレパシーを含む通信は一切禁止されているはずだった。
『時限式のメールでした。ポイントV1に向かう前に仕掛けられたようです。おそらくナツミさんの超能力『千里眼』の未来予知で今の状況を知ったのでしょう』
『ナツミちゃん、もの凄い能力なのにこんなことに使ってるの……』
未来予知、不確定なこの世界では絶対とはいえないが、世界の行く末を左右しかねない能力だ。あまりにも個人的過ぎてもうちょっと有意義にできないものかと思う。
『超能力が無駄になっているという意味では、ビッグファイア様が他人をどうこう言えるんですか? とりあえず伝言の内容を伝えます「・・- ・・-・ ・-・・ ・・ ・-・・・ ・・・ ・-・-・ --・-- ・- -・ ・・ -・-・ -・・ ・-・・ ・・-- ・-・・・ ・-・-・ ・-・ -・-・ ・-・-- ・--- -・ ・・ --・-・ -・ ・-・-・ ・-・・ ・・- -・- -・-・・ -・・・ -・・-- -・--・ -・-・- ・ ・-・-・ ・-・-- ・・ 」だそうです』
『かなモールスとはまたマニアックな……』
正確には和文モールスというのだが、少年はモールス信号などわからない。しかしテレパシーで送られてくる情報は、その意味を感情として大まかに感じ取ることができた。
『僕一応ぼっちのつもりなんだけど……多分言っても聞いてくれないよね』
『知りません。ビッグファイア様の私的な交友関係まで、管理するつもりはありませんから……ただし』
そっけない言葉の最後に、力が込められていた。
『現在、鈴原ナツミも赤木リツコも非常に重要な立場にあります。くだらない痴情のもつれでBF団に不利益をもたらすのであれば、タダでは済みませんよ』
『いや、それはそのとおりだけど、僕にどうにかできるのかなあ……いろんな意味で』
二人の女性を相手にして、うまいことやっていく。そんな器用さが少年にあるとは、朱里も本人も(ついでにナツミもリツコも)思ってはいない。
『別に痴話喧嘩する分にはかまいませんよ。最低限BF団の活動に支障がないように、ということです』
『ラノベの主人公なら『え、何だって?』とか『いやあ、もてる男はつらいなあ』とか言ってれば、何故か修羅場にもならず話が進むんだけど』
『……もしビッグファイア様にそんなご都合主義極まりない主人公補正があったとしたら、BF団がここまで窮地に陥ると思うんですか?』
『だよねえ……』
自分が主人公などという特別なものであったなら、こんな状況になるはずがないのだ。それにBF団は所詮悪の組織、周到な計画を正義の味方に滅茶苦茶にされて捨て台詞を吐いて尻尾を巻いて逃げる、そんな立場でしかない。
現状、正義の味方ではなくビッグファイア本人が一番BF団の頭痛の種になっているという、どうしようもない話になっている。自分が主人公などと錯覚することなど出来るはずがなかった。
『原因はわかったとしても、これじゃどう対処したらいいか見当もつかないな』
このトラブルが精神感応によるものだ判明したとしても、二人が顔を合わせたときの反応を抑えるすべはすぐには思いつかない。
『オレもできる限りフォローはするが……』
幽鬼の言葉も歯切れが悪い。精神操作を行う超能力者ではあるが、こういったむき出しの感情を都合よく押さえ込むのは、十傑集《暮れなずむ幽鬼》にとっても容易なことではない。
『どうしたもんかなあ』
『赤木リツコが対策をとると言っていますが……』
『え、ほんとに?』
途方にくれる少年は朱里の言葉に驚いた。赤木リツコならばこの状況を放置したりはしない、と少年もよく理解していたが、これほど早く対応できるとは思っても見なかった。
『……赤木リツコのほうも、かなり影響を受けているようですね』
『え?』
よい知らせのはずが、朱里のテレパシーは微妙に重い。というかこれは呆れているのだろうか。
『ネルフではビッグファイア様、フォースの正式採用に合わせてエヴァンゲリオン零号機とのシンクロテストを準備し始めているようです。まあネルフの都合など知ったことではありませんが、今はまだ赤木リツコの立場が危うくなるような真似は避けるべきでしょう』
この状況でフォースチルドレンが病室から出られない、などと言うようではスキャンダルで入院する三流政治業者と同レベルに見られてしまう。いまさらフォースの株がいくら落ちようと少年にはどうでもいいのだが、赤木リツコに悪影響があるとなれば話は別だ。
こうして、少年はフォースチルドレンとして再びネルフに赴くことになった。
「それでは、これからフォースチルドレンと零号機のシンクロテストを開始します。MAGIはすでにテスト前の待機状態。零号機は固定状態のまま起動シーケンス消化中……」
ネルフ本部でシンクロテストが始まろうとしている。
赤木リツコは以前の動揺などなかったかのように、淡々と進捗を確認していた。その声はあくまで冷静だ。声だけは。
「リツコぉ、さすがにそれはどうかと思うわ……」
横にいる葛城ミサトがなにやら脱力したようにつぶやく。
作戦部所属で戦闘指揮官のミサトはシンクロテストに立ち会ってもやることなどない。とはいえフォースが使い物になるのかどうか、把握しておかなければならない立場なのでバックレるわけにもいかず、テストの経緯を眺めるしかなかった。
「何か問題でも?」
落ち着いて返事をするリツコの表情をうかがい知ることはできなかった。なぜならリツコの頭には馬鹿でかいHMD(ヘッドマウントディスプレイ)が装着されているのだから。
普通のHMDよりも大振りなのは、HMDの前面にカメラがついているためらしい。
リツコの異様ないでたちに、ミサト以外のネルフ職員も突っ込みたいのだが、あくまでも平静を装うリツコに誰も何も言えずにいた。
「問題、かどうか知らないけど、何なのよそれは?」
とうとうミサトが我慢できずに聞いてしまう。知らん顔してスルー、ができないミサトらしいといえばらしい。
「ふっ、これこそは、シンクロテストの準備をマヤに全部押し付けて突貫ででっち上げた、特定事象認識阻害システム、その名も『モ~ザ~イ~ク~く~ん』!」
リツコが胸を張って答えた。口元は外から見ることができるので、リツコがすごいドヤ顔してるのだろう、というのは簡単に想像できる。名前を呼ぶところはなぜか青い猫型ロボット(前世代)っぽかった。なにやらHMDがぺかぺか光ったように見えたが、錯覚に違いない。
「とくて……え? 何?」
ミサトの頭にハテナマークが浮かぶ。リツコの台詞を聞いても何をする何のためのものなのか、さっぱりわからなかった。
「説明しよう! このモザイクくんは、前面のカメラとマイクで取得した画像と音声をMAGIでリアルタイム処理し、HMDのディスプレイとイヤホンに転送するシステムなのよ!」
「……? は?」
この説明を聞いてもミサトの疑問はまったく解消しない。顔に取り付けられたカメラの画像をHMDで表示し、マイクで拾った音をイヤホンで聞く……普通に直接目で見て耳で聞けばいいんじゃないのか。
「あなたの疑問も無理はないわ。このシステムの肝はね、MAGIでリアルタイム処理する際にフォースの姿と声を消してしまうことなの」
つまり普通に目と耳で見聞きできるものと違いはないが、フォースチルドレンのみを見えなくするということだ。
「とりあえずこれで以前の醜態をさらすことはなくなったわ。本来ならもっと根本的な解決法を模索するべきなんでしょうけど、時間的にも今はこれがベターな対応と判断しています」
「なんちゅー大げさな……」
ミサトは呆れたようにため息をついた。フォースを意識しないためだけにこんなシステム作るとか、実はリツコって暇なのだろうか。
勿論、ネルフの技術部トップが暇なわけがないのだが、こんな個人的なことにこれだけ力を入れているのを見ると、どうしても何かズレている気がしてならない。
「いや、まあ……リツコとフォースが顔合わせるたびに騒ぎになるよりはマシか。納得、はしづらいけれどとにかく話を進めましょう」
ミサトも気持ちを切り替えることにした。バカバカしく見えても効果があるのならば、いちいち文句をつけてもいられない。
「えーと、そういうことなら僕にも同じものが欲しいところなんですが……」
エントリープラグの中で少年がつぶやく。なるべくモニターに映るリツコの顔や声を意識しないように、目はあさってを向いている。
「あ、そうか」
ミサトが少年の言葉に頷いた。技術部トップのリツコが挙動不審になるのも問題だが、エヴァのパイロットが落ち着きをなくすのも放置できない。何しろエヴァは常に暴走の危険を持っているのだから。
「無論、できることならそうしない理由はないのだけれど」
だが、なぜかリツコはこれを肯定しないようだ。
「どうしてできな……あれ? リツコ、フォースの声は聞こえないんじゃないの?」
今の少年のつぶやきにリツコは反応した。モザイク君とやらがリツコの言ったとおりのものだとしたら、フォースの声は遮断されるのではないのか。
「さすがにエヴァのパイロットと意思疎通できないのは支障があるから、フォースの声はMAGIで文字情報に変換されて、HMDにテキストとして表示されるのよ」
フォースの声を直接聞けば動揺してしまうが、文章だけならば何とかなる、ということらしい。
「モザイク君については結論から言うと、時間が足りないのよ。システム自体はHMDにカメラとマイクと無線機能つけるだけだから、作るだけならすぐなんだけど」
リツコはため息をついた。リツコにとって心をつないだ少年は赤の他人ではない。自分と同じ症状が起こるのがわかっているのだから、何とかしたいという気持ちは確かにあった。
「まず、このモザイク君1号は防水処理がなされていない。LCLに浸かったら一発でアウトよ。防水処理を施した2号の製作に取り掛かってはいるのだけれど、エヴァのパイロットに装備させるとなると……」
「んん?……あ、なるほど」
リツコの言いたいことにミサトは気づいたようだ。
「対使徒用の兵器とか作戦上必要となれば臨時でいくらでも無理が利くけど、平時の正式装備にしようとすると、ちょっと」
「試験やら認証やら、まともに相手してたら何週間どころか何ヶ月かかるかって話になりかねないし……いわゆるお役所仕事ってやつね」
ネルフは軍隊組織というわけではないが実戦を行う、使徒を生命体と認めるならば殺し合いをするための組織になる。
前線で命を賭けるパイロットの装備であれば、正式に認められるまでテストやらなにやら手間と時間が大変なことになるのだ。
特にこのモザイク君の場合、パイロットの視覚と聴覚に関わるもの。使徒との戦闘のさなかにバグって画面がブラックアウトしました、などということになれば本当に洒落にならないのだから。
「あれ、本当に面倒くさいのよね~」
ミサトが辟易したようにため息をつく。軍に所属した経験があり一兵士ではなく指揮官として活動していたミサトは、こういう場合の手続きなどの煩雑さを骨身にしみてよくわかっていた。
「むう、理由はわかりましたけど、やっぱり不公平な気が……」
少年がぼやく。まあ、わからないではない。
「んむ~、一応発令所の映像はエントリープラグに映さないようにするし、リツコも直接フォースに話しかけるのは控えるでしょうから、我慢してもらうしかないわね」
ミサトが少年に答えた。リツコのようにハードウェアの力押しで解決しないなら、現場の人間の運用で何とかするしかない。軍に限らない、それが現場にいる者のやり方だ。
「ええー……あ、そうだ。このシンクロテストってリツコさんが責任者ですけど、テストの進行ってMAGIとオペレータの人がいれば何とかなりますよね?」
「へ? えっと、そうなの……?」
突然変わった話題についていけず、ミサトがリツコの方を向く。少年がリツコに直接尋ねないのは、やはり気を使っているのだろう。リツコを、というよりも自分が正気を保つ自信がないから。
「いえ責任者が不在だとまずいのはまずいんだけど。そうね、テストというのは条件を決めることと、それを設定する事前の仕込が肝だから……確かに私がいなくてもシンクロテストを進めるだけなら可能よ」
まあ、終わった後のデータの検証作業が待っているので、リツコなしでのシンクロテストは不可能ではないがあまり意味はない。
「そういうことならば、ここは一発……」
少年はエントリープラグ内でカメラのある方向を向いて、大きく息を吸い込んだ。
「え、ちょっと何するつもり?」
不穏な気配を感じてミサトが慌てる。フォースがろくでもないことをしようとしているのは、はっきりわかった。
だが、少年はミサトに構わず言い放つ。
「リツコサン、アイシテイマス」
すごい棒読みだった。フォースの声はモザイク君でテキストに変換されるので、心をこめたところで意味はない。
それでも少年の顔がみるみる真っ赤になっていく。ある種の自爆技に等しいからだ。
「いきなり何てこと言うのよ! フォース!……リツコ、だ、大丈夫?」
ミサトが思わず悲鳴を上げる。フォースの言葉がリツコへの致命的な一撃(クリティカルヒット)になることは明白だ。
「……」
しかし、リツコは何の反応もしない。ミサトの不安はまず増す高まっていく。むしろ声を荒げて怒り出すほうが安心できるくらいなのだが。
「無反応……というのは、MAGIでこの手のクサイ台詞は、遮断されてテキストにすらしない設定なのかな?」
反応のなさに少年が首をかしげる。リツコの記憶を持つといっても、それはあの病室での精神感応の時点の話だ。それ以降のリツコの行動は、記憶から予測することはできても実際のところはわからない。やばい反応が出るのを警戒して、少年はリツコと直接のテレパシーをつなぐのは避けていた。
これでは仕掛けた少年だけがダメージを受ける、本当の自爆だが。
(まあ、いまさら僕(フォースチルドレン)の奇行を変に思う人はいないだろうけどね)
ちょっとした意趣返しのつもりなのだ。リツコにダメージがないというのであっても構わない。少し残念ではあるが。
と思っていたのところに、
「……はうっ」
少年の言葉にも無反応、と思われたリツコが卒倒した。どうやら少年の言葉はきっちりリツコに届いていたらしい。無反応に見えたのはHMDで表情が読めなかっただけのようだ。
「ちょっ、リツコ! しっかりして!」
「ああっ! 先輩!!」
発令所は大騒ぎになった。シンクロテストはリツコなしでも実行可能、と本人が言いはしたがリツコは決して突っ立っているだけの名ばかりの責任者ではない。ネルフで実戦以外における最高の現場指揮官なのだ。リツコ抜きでテストを続行しようとするものなど、いるはずがない。
ちなみに本来の最高責任者であるところの、ネルフ司令や副司令は何も言わないし何にもしないので、いてもいなくてもネルフの活動に支障はなかったりする。その分リツコやミサトが苦労するわけだが。
「……あれ?」
少年は首をかしげる。やらかした張本人なのだが、少年の目論見ではリツコは怒り出すか恥ずかしがって発令所から立ち去る、あたりの反応だと思っていたのだ。
この少年の誤算は、未成年でネルフでの評判などどうでもいい少年と、いい歳した大人で人を指揮する責任ある立場であるリツコの認識の差が出ているのだが、少年にはその辺がピンと来ていないらしい。
結局その日のシンクロテストは中止になった。少年、フォースチルドレンは元の病室に連行され、始末書を書かされる羽目になる。
ミサトなどは、独房にでも放り込んでやろうと本気で思っていたのだが、容態が急変でもしたら面倒なので、病室に監禁というところに落ち着いた。シンクロテストにかかる時間と費用を考えれば、決して大げさではない。落ち着いたらテストのやり直しをしなければいけないわけで、かなり洒落にならないことをやらかしているのだ。
もっとも少年はネルフの予算や資源をいくら無駄遣いしようとも、良心は痛まないし気にする義務も義理もない。
「うーん、むむむむむ……」
とはいえ、せっかく味方に引き入れたリツコさんに迷惑をかけたのは申し訳ないし、これに関しては良心が痛みまくる。直接会って土下座でもしたいところだが、いまだリツコの意識は戻っておらず、少年も病室から出られないのでそれもできずにいた。
そして、書かない限り外に出ることがかなわない始末書、反省文でもいいが少年にとっては相当な重荷だった。
BF団に誘拐されて以来まともに学校に通っていない少年は、文章を書く習慣など身についていない。BF団での書類仕事も基本的に報告書の内容を確認して承認、不許可のサインをするだけだった。
強大な権力を持つBF団の首領ビッグファイア、などといってもさすがにこんなものの代筆を団員に頼むことはできない。苦手でもなんでもとにかく文字で空白を埋めていかなければならなかった。
そして、少年が作文用紙を前に四苦八苦しているとき、BF団から緊急連絡がテレパシーで送られてきた。
『ポイントV1の鈴原ナツミから緊急入電!』
『え、だからポイントV1との通信はダメだって……いや、それほどヤバイ内容なの?』
いつも冷静な朱里が珍しく慌てている。禁止事項を破るほどの緊急事態なのだろうか。
『手短にお話します。現在……』
『え? ええええっ!?』
朱里の報告に少年は仰天した。ヤバイどころの話ではない。もはや取り返しのつかない事態が発生していた。
『避難は……』
『間に合いません』
朱里が即答する。それは二人とも十分に理解していた。これがナツミの超能力で予知されたことであるならば、覆すのはほぼ不可能に近いことを。
『覚悟、決めなくちゃいけないか……』
悩んでいる余裕はまったくなかった。いや、本当なら部屋にでも引きこもってうじうじと悩みたいところなのだが、状況がそれを許してくれない。
それでも少年が行動に移るのには、しばらく時間がかかることになった。
そして決心した少年は、BF団本部に残る団員にテレパシーを送る。
『BF団首領ビッグファイアが命じる……お前たちはそこで死ね!』