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No.35052の一覧
[0] 閃光の明日は(SAO二次創作)【マザーズ・ロザリオ編開始】[YY](2014/02/21 22:57)
[1] SAO1[YY](2012/09/19 22:01)
[2] SAO2[YY](2012/09/09 17:26)
[3] SAO3[YY](2012/09/17 18:10)
[4] SAO4[YY](2012/09/21 21:44)
[5] SAO5[YY](2012/09/17 18:09)
[6] SAO6[YY](2012/09/19 22:14)
[7] SAO7[YY](2012/09/21 21:46)
[8] SAO8[YY](2012/09/27 21:25)
[9] SAO9[YY](2012/10/12 21:34)
[10] SAO10[YY](2012/09/25 20:39)
[11] SAO11[YY](2012/09/27 19:48)
[12] SAO12[YY](2012/10/01 20:06)
[13] SAO13[YY](2012/10/01 23:29)
[14] SAO14[YY](2012/10/05 21:04)
[15] SAO15(終)[YY](2012/10/05 21:05)
[16] ALO1[YY](2012/10/12 21:33)
[17] ALO2[YY](2012/10/14 23:02)
[18] ALO3[YY](2012/10/18 19:36)
[19] ALO4[YY](2012/10/20 21:25)
[20] ALO5[YY](2012/10/20 21:33)
[21] ALO6[YY](2012/10/27 00:51)
[22] ALO7[YY](2012/10/31 19:17)
[23] ALO8[YY](2012/11/03 19:11)
[24] ALO9[YY](2012/11/06 23:03)
[25] ALO10[YY](2012/11/13 20:05)
[26] ALO11[YY](2012/11/13 20:05)
[27] ALO12[YY](2012/11/16 19:29)
[28] ALO13(終)[YY](2012/11/24 01:53)
[29] 追憶のSAOP1-1[YY](2013/08/26 00:20)
[30] 追憶のSAOP1-2[YY](2012/12/19 19:10)
[31] GGO1[YY](2012/12/30 09:33)
[32] GGO2[YY](2012/12/24 15:32)
[33] GGO3[YY](2013/01/18 00:03)
[34] GGO4[YY](2013/01/18 00:04)
[35] GGO5[YY](2013/02/22 21:18)
[36] GGO6[YY](2013/02/17 07:15)
[37] GGO7[YY](2013/02/22 21:18)
[38] GGO8[YY](2013/03/04 22:35)
[39] GGO9[YY](2013/04/09 22:47)
[40] GGO10[YY](2013/04/23 19:43)
[41] GGO11[YY](2013/05/15 20:33)
[42] GGO12(終)[YY](2013/08/26 00:19)
[43] 追憶のSAOP2-1[YY](2013/08/26 20:13)
[44] 追憶のSAOP2-2[YY](2013/08/30 00:30)
[45] 追憶のSAOP2-3[YY](2013/09/07 20:25)
[46] エクスキャリバー1[YY](2013/10/09 19:49)
[47] エクスキャリバー2[YY](2013/11/17 22:06)
[48] エクスキャリバー3[YY](2013/11/17 22:04)
[49] エクスキャリバー4[YY](2013/12/24 20:17)
[50] エクスキャリバー5(終)[YY](2014/08/25 23:07)
[51] マザーズ・ロザリオ1[YY](2014/02/21 22:56)
[52] マザーズ・ロザリオ2[YY](2014/08/27 00:00)
[53] マザーズ・ロザリオ3[YY](2014/09/06 18:13)
[54] マザーズ・ロザリオ4[YY](2014/09/20 23:06)
[55] マザーズ・ロザリオ5[YY](2014/11/04 20:16)
[56] マザーズ・ロザリオ6[YY](2014/12/11 22:23)
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[35052] GGO4
Name: YY◆90a32a80 ID:b9264a49 前を表示する / 次を表示する
Date: 2013/01/18 00:04


 東京都千代田区お茶の水にある都立病院。
 クリスハイト/菊岡誠二郎からGGOへログインする環境が整ったと聞かされ訪れたその病院はアスナ/明日奈にとっても決して知らない場所ではなかった。
 ここはかつてキリト/和人が入院し、リハビリに勤しんだ病院だ。明日奈自身も幾度となく彼のお見舞いと称して足を運んだことがある。
 そういった意味では感慨深いと言えなくも無い。彼のリハビリ中によるまるで赤ん坊のような弱々しい手の感触は今でも明日奈の胸の奥にそっとしまわれている。
 同時にここでは何度も目覚めぬ彼の姿を目の当たりにしたという悲しい思い出も存在する。
 両方の意味でやはり感慨深いと言えるその病院を見つめ、連絡された入院病棟の病室へと足を運ぶと、そこで待っていたのは依頼主である菊岡誠二郎……ではなく顔見知りの看護師だった。

「やっほー明日奈ちゃん。お久しぶりー」

「安岐さん?」

 彼、和人の担当看護師であった彼女がどうやら《モニター》を担当するらしい。
 菊岡と和人の二人はアミュスフィアを使い、《ゲーム内でリアルの人間を殺すことは不可能》と既に結論付けており、その考えには明日奈も知識不足ながら全面的に同意している。
 だがどうしても《死銃》なるプレイヤーと撃たれたプレイヤーがリアルで死んでいる事実に《無関係》というピリオドを打ち切れなかった。
 その為、安全措置は十分に取った上でGGOへとダイブし調査をする運びとなったのだ。
 そこでその安全措置の一環として安岐は総務省の菊岡に依頼され、《二人》のモニターチェックを担当することになった、と説明された。
 もっとも彼女は『ただのゲーム内部の調査』としか聞かされていないようだが。
 安岐は同時に和人のモニターも担当している。
 明日奈は「隣の病室では彼氏が寝てるよ」と茶化されるように安岐から言われ、部屋の壁に位置する扉を見つめた。
 病室同士を繋ぐように位置しているその扉は普通の病室ではあまり見ることはない作りだろう。
 これはSAO患者を収容した時の名残だそうで、多くの部屋を看護師達や家族が行きき出来るよう取りはからったものなのだそうだ。
 今回は明日奈と和人が《互いにここにいることを知らない》必要があるため、菊岡の計らいでこの病室を使うことになった。
 和人は菊岡に《明日奈を関わらせるな》と条件を出し、逆に明日奈は《関わらせなければ泣いて彼を止める》と菊岡に脅迫まがいの交渉に出ている。
 そのどちらも満たさなければならない菊岡にしてみれば今回のやり方はまさに苦肉の策と言えるだろう。
 安岐にとっても一人で二人分モニターするのに同室にいないとなると負担が大きい。この計らいは彼女にとっても負担の軽減と言えた。
 また菊岡の力では看護師の確保は一人が精一杯だった。
 もっともこれは菊岡個人の力云々よりも病院側の意向が強い。ただでさえ看護する側の人間は不足しているのに飛び入りで付きっきりの看護となれば病院側の負担が大きいのは必至だ。
 その問題点についてもクリア出来る病院を選べば良かったと思わないではないが、元々和人一人、もしくは《協力》という形で何の憂いもなく調査が出来る予定だった菊岡にしてみればまさに寝耳に水のような事態だろうからこれ以上の我が侭は言えない。
 それら全てを理解し、明日奈が望んで《アスナ》をログインさせたGGO世界。
 その結果が、これである。

「……うぅ」

「あ、あの元気だして……?」

 シノンはバーのテーブルにぐったりと突っ伏している桃色の物体に困り果てていた。
 さらさらとしたペールブルーのショートヘア。額の両端に小さく房にして留めてワンアクセント作っているヘアスタイル。
 はっきりと大きい眉に藍色の瞳、それにどことなく猫をイメージさせる雰囲気を纏っているシノンはどうしたものかと頭を悩ませる。
 マフラーの中で溜息を吐き、中程まではチャックが開いているジャケットの胸元で腕を組んで動かない桃色の物体を見つめた。
 彼女からGGOの事を教えて欲しいと頼まれ、迷ったものの自分も知り合いによって助けられこの世界を知った経緯があったからやむなく了解した……のだが。
 早くもその決断を呪いたくなる。
 自分にGGOの事を教えてと頼んだ依頼主、リアルネーム結城明日奈こと《Asuna》はGGOの中央都市グロッケンにて奇声を上げ意気消沈するという変人ぶりを見せた。
 正直こんなことでも無ければ関わりたくない相手ですらある。
 周りからは「あのシノンの知り合いか?」などといったような視線さえ浴びせられ、居心地が悪いことこの上ない。
 既に面倒臭さと逃げだしたい衝動が八割から九割方シノンの中を占めているが、残りの一割程度の優しさが未だアスナを見捨てずにいた。

「よりにもよってなんでこの色なの……? ねえシノのん」

「し、しののん? なにそれ?」

「シノンだからシノのん。リアルでも使えそうだし」

「……」

 残り一割さえ音も無く砕けてしまいそうになる心を詩乃/シノンはグッと堪え考える。
 そもそも彼女の突然の豹変と落胆の原因はそのアバター容姿にあるようだが、シノンの私見ではさほど悪いものではないように見える。
 むしろ《アタリ》の部類に入る程可愛いはずだが一体何が不満なのだろう……と思った言葉は飲み込んだ。
 シノンにも思うところが無いわけではないのだ。このアバター容姿に釣られて男性プレイヤーがひょこひょこ寄ってくることはシノンにもある。
 そんな時、決まってこのアバターのことを呪いそうになるのはシノンとて同じことだった。
 シノン/詩乃はそんなことの為にこのオイルと硝煙の匂いが充満する世界へ飛び込んだのではない。
 その点については全く無駄な機能、とさえ考えてもいた。彼女をこの世界に引き込んだ少年は大層喜んでいたが、シノンにとってはあまり良い気持ちではない。
 だからシノンは最低限出来るアドバイスを模索して口を開いた。

「そんなにその姿が嫌ならお金かかるけど別アカウント取るって方法もありますよ」

「んー……これコンバートなの。ちょっとそうしないといけない理由があって。だからそういうわけにはいかないんだ」

「……そうなんですか。まあ髪の色を変えるアイテムも無いわけじゃないんですけど……」

「え? ホント!?」

「結構メンドイクエストの報酬だったりするからオススメできません。基本このゲームは容姿を求めるゲームじゃないですから」

「そっか……うん、わかった。ありがとうシノのん」 

「……そのシノのんって……まあいいや」

 シノンは止めて、と言いかけて口を噤んだ。
 どうせ長い付き合いにはならない。それなら好きに呼ばせておいてもいいやと思えた。
 さっさと最低限のレクチャーを済ませて別れよう。そう結論付けてシノンは本題に入る。

「それでまずは基本武装なんだけど……銃のことどれくらい知ってます?」

「あ、そうだ。そのことなんだけどさシノのん、メインウェポンって銃じゃなくちゃいけないのかな?」

「……は?」

 何を言っているのだろうかこの人は。
 僅かに残っていた優しささえ吹き飛びそうになる苛立ちがシノンの中に生まれる。
 GGO──ガンゲイル・オンライン──はその名の通り銃の撃ち合いをするゲームだ。
 それでメインウェポンを銃にしないなんて馬鹿げている。
 確かにナイフなどを巧みに使うプレイヤーはいるがあれは飽くまでサブ。
 下手をすれば趣味の領域だ。初心者(ニュービー)には荷が勝ちすぎている。

「あ、その顔は馬鹿にしてるでしょ? 酷いなあ。これでもちゃんとネットで簡単な下調べはしてきたんだよ」

 それなら私はいらないでしょ、というツッコミは流石に飲み込んだ。
 忘れがちだが相手は一応年上だ。リアルでの知り合いというのはこう言う時やり難いと痛感する。

「《ナイフ作成》スキルってのがあるじゃない?」

「まあ、ありますけど……」

「それの上位派生に《銃剣作成》スキルってのがあるみたいなの」

「あることはありますけど……そんなの作ってる人なんて稀ですよ。実戦にもメインウェポンで使うひとなんてそういないです」

「そうなの? これで剣を作れれば私でもそこそこ良いトコいけるかなーって思ったんだけど」

「はあ……」

 気のない返事をしながら、シノンの内心は業火で煮えたぎっていた。
 考え無しにも程がある、と。

(……相手は銃なんですよ? 速いんですよ! 剣なんて振ってる暇無いから! そりゃサブで持ってて近接戦で凄い戦いする人もいるにはいるけど……少なくともこれまでBoBで勝ち上がってる人にそんな人いないわよ!)
 
 どこまでもホワホワしたような《平和ボケ》ともとれるアスナの態度に業を煮やす。
 だがそんなシノンの内心を知ってか知らずかアスナはペースを崩すことなく続ける。

「私は今まで遠距離系のMMOをやったことがないの。基本近接の世界に長く居たから。それなら付け焼き刃よりは、って思ったの。三日後のバレット・オブ・バレッツまでに、出来ることはしておきたいかなって」

「………………」

 シノンは呼吸を整える。
 スタイルという点では基本自由なのだ。諫めることやアドバイスこそするが決めるのは当人。
 それが明らかにダメな方向でも。それ以上のことは知ったことではない。
 そう冷静に思い直し、シノンはとりあえずアスナの好きなようにやらせ見ることにした。

「それじゃなんとかして剣を手に入れるんですか?」

「んー、自分で作れれば一番良いんだけどねえ……え?」

 アスナは頬杖をついて自身のステータスを見つめ、固まった。
 ぷるぷると震えつつシノンを見やる。

「どうかしました?」

「シ、シノのん……どうしよう?」

「何かあったんですか?」

「あるの……」

「へ? 何が?」

「《銃剣作成》スキル……」

「え……」

 流石にシノンも言葉に詰まる。
 なんの巡り合わせだそれは。
 そもそも《ナイフ作成》ならともかく何故《銃剣作成》があるのだ……と思ってから気付いた。
 彼女は別世界からのコンバートアバターを使用している。
 それは元の世界のスキルがこの世界の物にある程度置き換えられることを意味していた。
 恐らくは彼女がもともと持っていた何らかのスキルが変換されスキル値を満たしており、上位派生の《銃剣作成》になったのだろう。
 こんな偶然もあるものなんだな、と思いつつシノンは軽い気持ちで提案した。

「せっかくだからとりあえず何か作ってみたらどうです?」





 安全圏外エリアの廃墟群。
 ビルやら家屋やらが半壊し、コンクリート剥き出しでごろごろしている地帯。
 グロッケンから東へ三キロメートルほど離れた場所にアスナとシノンは来ていた。
 理由は大きく分けて二つ。
 一つは《銃剣作成》による銃剣の作成及び試し斬り。
 もう一つは──シノンにとってはこちらが本命、というよりこれだけが目的──簡単な銃の操作と練習。
 結局アスナはシノンから一つ、使い勝手の良いハンドガンを譲り受けた。
 というより譲り受けるほか無かった。
 ゲームを始めて間もない彼女のアイテムストレージはゼロ。お金も千クレジットと初期手持ち感バリバリだった。
 それでもアスナはそこまでお世話になるわけにはいかないと何度も断ろうとしたのだが、面倒くさくなりつつあったシノンはこれを教えてさっさと別れようと思い半ば無理矢理持たせたのだ。
 そんなアスナだから当然《銃剣作成》用のアイテムの調達にも苦労するかとシノンは思ったのだが、簡単なものならその辺の廃墟から取れる素材でも作れるとアスナは言い出した。
 それもネットで調べた、と。シノンはここに来て初めて少しだけ感嘆する。
 もともとこのGGOはアメリカ発祥のゲームで運営会社であるザスカーもアメリカの会社らしい。らしい、というのは公式サイトにさえそれらのことが記載されていないからだ。
 しかもオフィシャルサイトは全て英語の為、その全てを理解しようと思ったら我々日本人には少々骨が折れることになる。
 翻訳サイトやエンジンも数多く存在するがどれも完全ではなく所々文法がおかしかったりするのが常だ。
 無論日本で稼働しているゲーム故日本人が作る日本語の攻略サイトも全く無いわけではないが、アメリカにあるものと比べるとその情報量は段違いで、コアな情報ならやはりそちらを見るべきというのが今のところの通説だ。
 そして《銃剣作成》などは間違いなくコアな部類に入るとシノンは思う。
 それはつまり、アスナがアメリカのサイトを巡回して自分で英訳するなり翻訳するなりして情報を得ていたということだ。
 その頑張りは素直に感心できた。

「武器の作成は本来リズの領分だけど巻き込むワケにはいかないもんね……よし!」

 アスナがブツブツと呟きながら《銃剣作成》に入る。
 《銃剣作成》に使用出来る素材はピンキリで、鉱物でも実際にあるナイフの類でも良い。
 だが現在GGOにおいては初心者(ニュービー)であるアスナの所持金は少ない。
 ただでさえ銃を一丁シノンに用立ててもらっている手前、これ以上お世話になるわけにはいかないアスナはその為に下調べしておいた材料の採取可能なフィールドポイント、すなわち《ここ》に来たのだ。
 その辺の瓦礫を集めて採取、ストレージの中を見て調べた使用可能な鉱物類かどうか確認する。
 《鉄クズ》や《スティール》などの鉱物アイテムなら使用可能だ。この辺がVRといってもやはり《ゲーム》というところだろう。
 アスナは採取したアイテムで《銃剣作成》を開始した。
 工程はさほど難しくない。そもそも実際に武器を作る為の《腕》が問われるわけではなく、スキル熟練度と素材のレア度、さらに言えばサブ要素としてLucK(幸運)が影響するのであって他に影響するものなどない。
 ただリズなどは武器を作る時いつも真剣な顔で真剣な思いを全身全霊を込めて武器に打ち付けている。
 設定上ではそうすることにメリットは無いとされているがキリトなどは「なんとなく影響はある気がする」と言っていた。
 アスナとしても不真面目にカナヅチを振るわれるより真剣に作ってもらった物の方が気分が良いのは確かだ。
 だからたとえその行為に意味などなくてもアスナは精一杯真剣に銃剣の作成に勤しんだ。
 その真剣ぶりは、アスナの心境を知らないシノンにしてみれば首を傾げる程だったが、やがて出来上がった物にはつい「ほう……」と漏らしてしまう。
 長さ約八十センチほどの細い金属針。
 鋭く尖った剣先よりも、その辺の鉄くずで作ったとは思えない綺麗な刀身に思わずシノンは見惚れてしまった。
 これまでオイル臭い拳銃の光沢ばかり目にしていたせいで金属の本来持つそのままの輝きを見る機会は逆に少なかった。
 アスナの剣はシノンにそれを教えてくれた。

「へえ、よく出来てるじゃ……っ!」

 剣の感想が口から漏れたその時、シノンの索敵に何かが引っかかった。
 ここは安全圏に比較的近いと言っても圏外フィールド。
 何が起きても不思議はない。
 耳を澄ませ、辺りを端から端まで見渡しつつ変化を捜す。
 と、瞬間目端で遠くの建物の傍の地面に砂埃が舞ったのを確認した。

「! 敵よ、それもプレイヤーだわ!」

 シノンは経験からそれだけで相手がMobモンスターではなく対人であると見抜いた。
 隠密行動を取るモンスターがいないわけではないが、ここまで街に近い場所でそうレベルの高いモンスターは出ない。
 それに砂埃の《舞い方》が人の歩いた後のそれに見えた。モンスター《らしさ》を感じさせない。
 それを見抜けるシノンはこのゲームにおいて相当に高い《システム外スキル》を会得していると言っても良い。
 だが────それはアスナにも言えた事だった。 
 アスナにもシノン同様相手の動きは見えていたらしい。相手が隠れた廃ビルへと真っ直ぐに走り出した。

「っ!? 馬鹿! 正面から突っ込んだら蜂の巣に……!」

 いくら素人だろうとそれはないだろう、という驚きと叱責の入り交じった声を上げつつシノンは呆れ半分で即座に有効な狙撃ポイントへ移動する。
 こうなれば彼女が死ぬ前に襲撃者を上手いこと殲滅するしかない。彼女が少しでも生き延びてくれることを祈るばかりだ。
 相手の数は恐らく三人。中流程度のプレイヤーだろう。
 シノンには長年の経験からおおよその状況を脳内シミュレートしていた。
 そもそも砂埃による情報を与えてしまうのはハイプレイヤーとしては致命的。
 街からそう遠くない場所での襲撃から鑑みても、波に乗り始めた中流階級といったところのはずだ。
 無論侮ることなどしない。シノンはどんな相手であれ《殺す》ことを厭わない。
 これはそういうゲームなのだ。
 だが、自らも身を隠し狙撃の準備を始めていると、信じられない光景がシノンの眼前に広がっていた。

「……はぁ!?」

 GGOには弾道予測線(バレットライン)と呼ばれる照準予測線が存在する。
 その線のように《飛んでくるだろう》弾を教えてくれるそれは、弾を回避する上で確認するのは必至だ。
 相手の技量にもよるが中流クラスのプレイヤーなら既に標的が弾道予測線(バレットライン)上に重なった瞬間には引き金を引いている。
 反射神経に優れ、高いAGIを持ち、度胸の据わったプレイヤーであれば五十メートルの距離から撃ち込まれる突撃銃の連射でさえ五割程の回避確率があると言われているが、それは飽くまで回避の話。
 近接戦においては事実上、見てからかわすのは不可能だと言われていた。
 シノンにこの世界を教えてくれたAGI一極型ビルドの新川恭二でさえ「TASでもないと無理」と笑って説明してくれたものだ。
 ちなみに当時、TASというのがGGOのプレイヤー名だと勘違いしたシノンはしばらくの間その存在しないプレイヤーを探し回り事実を知って顔を真っ赤に染めたことは恭二にも秘密だったりする。
 全てを理解し、ハイプレイヤーの一因として君臨する今となってはその時の恭二の言葉は偽り無かったと思っていた……のだが。

「き、斬ったの今!? 銃弾を!? 嘘でしょう!?」

 シノンの視線の先ではアスナが確かに金属針……鍔の無いエストックのような出来たての剣を横薙ぎに振って火花を散らせた。
 アスナの勢いは止まらない。ダメージを受けた様子もない。プレイヤーが驚愕に口をあんぐりと開けている間──シノンから言わせればあってはならない隙──にエストックもどきの鋭い矛先をプレイヤーの胸に突き立てた。
 驚愕の表情のままそのプレイヤーは無数のポリゴン片となって爆砕する。
 そのままアスナは足を止めることなく横に転がり跳んだ。コンマ数秒後にはうっすらと弾道予測線(バレットライン)が表示されるのと同時にけたたましい銃声が飛び散る。

「え……今弾道予測線(バレットライン)が出る前に避けた……? まさかね」

 アスナのとんでもない動きにシノンは動揺しつつ自分も仕事に取りかかる。
 中流プレイヤーの襲撃者相手で初心者(ニュービー)に遅れを取るなど上位プレイヤーに位置する身としては面目が立たない。
 素早くスコープを覗き込み、着弾予測円(バレットサークル)内にプレイヤーを合わせる。
 緑色に光る半透明の円。ゆらゆらとその直径を変化させる円がゲームシステムによって今シノンに見せている着弾予測円(バレットサークル)だ。
 銃弾はこの円の中のどこかに当たる。
 この円は目標との距離、銃の精度、天候、光量、スキル・ステータスといった様々な要素によって変動するが、一番影響が色濃いのは狙撃者(スナイパー)の精神状態だ。
 円の大きさは心臓の鼓動とリンクしている。心臓が脈打つたびに拡大縮小を繰り返しているのだ。
 その為狙撃者(スナイパー)はいかに平静でいられるかが問われる難しいポジションでGGO内でも数が少ないのが特徴だが、メリットもあった。
 狙撃は相手に自身が見つかっていない状態なら一射目に限り弾道予測線(バレットライン)が相手に見えないのだ。
 無論今は見ることが出来るだろうが、そんなことはシノンには関係ない。
 スコープ越しに目標を捕らえた。ならそれでチェックメイト。

「どんな時も後ろに注意(チェック・シックス)よ」

 シノンが引き金を引いた瞬間、雷鳴のような爆音を鳴らした彼女の愛銃、《PGM・ウルティマラティオ・ヘカートⅡ》から発射された銃弾は見事じりじりとアスナの背後ににじり寄っていたプレイヤーの側頭部を直撃した。
 相手が目前のアスナにばかり意識を集中していたのはスコープ越しからでも明白で、仮に相手が自身に弾道予測線(バレットライン)を向けられた事に気付いたとしても避けるより速く相手プレイヤーの体に銃弾を撃ち込む自信がシノンにはあった。
 シノンは一連の動作を終えるのと同時、振り返り様に腰から《MP7》短機関銃を抜き引き金を引き絞った。
 高い連射音を響かせて背後に迫っていた最後の襲撃プレイヤーが蜂の巣になっていく。

「くっ!」

 残り僅かだろうライフを削られる前に襲撃者はどうにかコンクリートの壁に身を隠した。
 しかしそれこそがシノンの狙い。
 シノンはポーチから手りゅう弾を取り出すとピンを抜いた。


 一。


 一拍置いてからぽいっとそれを上空へと放る。


 二。


 同時にシノンは逆方向へ走り出していた。


 三。


 手りゅう弾はきれいな彷彿線を描いてコンクリートの壁の向こうへと消えていく。


 四。


「────!?」

 意味不明な叫び声が上がるのと同時にシノンはヘッドスライディングの要領で前方へと跳んだ。


 五。


 シノンが小さな声で「アディオス」と呟いた途端、背後から爆音。もうもうと黒い煙を上げて周辺には燃えた金属片がばら撒かれる。
 間違いなく、先のプレイヤーはお亡くなりになっただろう。
 シノンはゆっくりと立ち上がると砂埃をパッパッと払う。
 仮想体だろうと汚れは些か気になるものだ。何より僅かでもAGIに影響するのが頂けない。
 とりあえずこれで当面の襲撃者は撃退した。そう思ってアスナの方を見やると彼女は丁度手を振りながら歩いてこちらに近寄ってくるところだった。
 その彼女を見て、シノンは尋ねずにはいられなかった。

「さっき、貴方銃弾を狙って斬ったの?」

「……? うん。一応ね」

「嘘……そんなことできるはずない」

「でもできたよ?」

 それは事実だ。彼女がこうして無事にここにいる以上、それが仮想の中の現実。
 しかしそれをシノンの中の理性が認めていなかった。
 ちゃんとこの目で確かめるまでは。

「じゃあ、さっきと変わらない距離から私が撃つからもう一回できる?」

「へ? う~ん多分できると思うけど……」

「やってみて」

 アスナは疑問符を浮かべつつ諒解し、距離を取る。
 シノンも僅かに後退して愛銃を構えた。
 《PGM・ウルティマラティオ・ヘカートⅡ》。
 アンチマテリアル・ライフル……すなわち対物ライフルの一種であるこの銃は全長百三十センチ、重量十三・八キロという図体を持ち、五十口径、つまり直径十二・七ミリもの巨大な弾丸を使用する。
 アンチマテリアル・ライフルはハーグ陸戦条約に抵触し、現実では対人に使うことを禁止、などという話があるが実はそんなことは全くない……というのは恭二の受け売りである。
 ただ対物ライフルの威力は凄まじく、種類によっては二キロメートル先の人を撃って上半身と下半身とが両断して吹き飛ぶ程の威力があるものも存在するらしいので、そんな話が持ち上がるのも無理からぬことだろう。
 シノンはヘカートⅡのボルトハンドルを引いた。
 対物ライフルはその威力や射程距離こそ目を見張るものがあるが、その重量と連射のできないボルトアクションが扱い難さのハードルを底上げしている。
 だがシノンは《じゃじゃ馬》とも呼べるそのヘカートⅡの扱いにももうだいぶ慣れてきていた。
 排出された薬きょうが地面に跳ね返り消えていく。ヘカートⅡには問題なく次弾が装填された。
 二人の距離はおおよそ十メートル。
 この距離なら通常、ヘカートⅡの弾は《絶対に当たる》。
 シノンのスキル熟練度とステータス補正、ヘカートⅡのスペックからシステム的には必中距離。
 先の展開と違う点があるとすれば、ヘカートⅡのスペックは敵プレイヤーの使用したものより高いだろうというアスナに対するデメリットと、撃つ相手が明日奈からははっきりと見えているというメリット。
 これらが展開的に丁度相殺されイーブンとなるかはシノンにもわからないが、アスナは問題ないと言った。
 ならば遠慮はしない、とシノンはヘカートⅡのグリップを握る手を僅かに力ませる。
 弾道予測線(バレットライン)が出ないよう、まだスコープは覗きこまない。
 シノンはふぅ、と息を一つ吐くと素早くスコープ越しにアスナを見つめた。
 ほぼ同時に引き金を引く。この距離なら照準にそこまでの時間を必要とはしない。

(さあ、マグレかどうか、見せてもらうわよ!)

 ヘカートⅡの銃口から轟音が轟き、オレンジ色のマズルフラッシュが一瞬閃光のように奔る。
 その時、シノンは確かに見た。閃光の向こうで、もう一つ、《閃光》のように動く何かを。
 カンッ! という高い金属音が鳴り響く。
 途端銃弾の軌跡がブレたのがシノンの視線でも見えた。
 ……ブレた?

「……っ!」

 アスナの苦しげな声がシノンの聴覚野に届く。
 瞬間、何が起こったのかをシノンは理解し、酷い罪悪感に苛まれた。
 それはアスナの現状を見て益々膨れ上がる。
 今のアスナは、仮想体とはいえ《片腕》が吹き飛んでいた。
 その理由は、アスナの足元に転がっている《折れた鉄棒》が物語っている。
 単純な話だったのだ。ヘカートⅡの威力が強すぎた。
 もともとあり合わせで作った武器なのだ。五十口径を相手にしてそうやすやすと無事でいられるわけがない。
 恐らくアスナは正確にヘカートⅡの弾めがけて寸分の狂いなくなんちゃってエストックで切り払ったのだろう。
 見事命中してみせた、までは良かったがあり合わせの武器では耐久値は望むべくもない。
 ヘカートⅡから発射された十二・七ミリもの弾丸はエストックの耐久血を一瞬で根こそぎ奪ってしまった。
 それでも弾道を僅かにずらすことに成功したのは流石と言わざるを得ない。
 だがここでさらなる誤算がアスナを襲う。
 ヘカートのような大口径銃には《インパクト・ダメージ》という追加効果が存在する。
 大口径の弾は命中した付近へインパクトによる範囲攻撃効果が起こり、普通ならライフ全損の憂いさえ少なくない。
 むしろ今、腕一本で済んで生きているのは不思議な程だ。これはもう、信じるしかなかった。

「あ、あはは……ちょっとダメだった、かな……」

「ううん、その武器がちゃんとしたのだったら上手く言ってたよ」

「そ、そうかな?」

「うん。凄いね、どうやったらそこまで強く……」

「あ、ようやくシノのんも言葉の角が取れてきたね」

「え? あ……」

 言われて気付く。いつの間にか敬語が薄れ始めていた。
 失敗したかな、という逡巡は一瞬。ここはゲーム世界だ。
 ゲームの世界でリアルを持ち出すのはご法度。ここではたとえリアルで年齢差があろうとタメで話す方が自然なのだ。
 なにより、それを咎めるどころかアスナは喜んでくれている。ならば何も問題ないとシノンは少しばかり自分をさらけ出すことにした。

「ダメだった?」

「そんなことないよー……っとと」

 片腕が無いせいか、バランスの取り方に苦労しているアスナにシノンは苦笑する。
 先日、戦闘で片足を無くした経験のあるシノンとしてはその気持ちはわからなくもない。

「まずはその腕、なんとかしなくちゃね」

「何か回復アイテムがあるの?」

「部位欠損まで行くと高価なリペアキットが必要になるんだけど……今回は幸い良い案があるわ」

「え? 何?」

 アスナが期待の眼差しでシノンを見つめると、シノンはイタズラっぽい笑みを口端に乗せた。
 瞬間、アスナは背中に嫌なものを感じる。

「今の戦闘で何かドロップした?」

「ええっと……得には」

「そう。じゃあ今のあなたは《初期そのもののまま》なのよね。ストレージ的には」

「えっと、そういうことになる……のかな」

「じゃあ話は簡単よ」

 最高の笑みでシノンはMP7の銃口をアスナへと向ける。
 アスナの顔がサアッと青くなった。

「ちょ、シノのん!?」

「死に戻り、って知ってる? 部位欠損のまま移動するのって大変なのよ。だから、ね?」

「じょ、冗談、だよね?」

「大丈夫、すぐに迎えに行ってあげるから。あ、生き返る場所はセーブしてないから多分最初に出てきた場所よ」

「え、え、ええ!?」

「それじゃ後で街で会いましょ。もし何かドロップしたら届けてあげるから」

「ええ────────────!?」

 アスナの悲鳴に似た叫び声は、途中の銃撃音にかき消された。
 シノンの目の前で桃色の髪をなびかせたアスナは涙目のまま爆散する。 
 その姿にクスリと笑みを零し、シノンは溜飲を僅かに下げた。
 これは八つ当たりの一種でもある。出来るわけなどないと疑った相手の力量、それを見誤った自分への。
 今、彼女が最初に言った「メインウェポン」の話をされれば、悩んでしまう自信がシノンにはあった。
 むしろ彼女のメインウェポンは剣の方が良いんじゃないかとさえ思えてくる。

「これは……とんでもない相手が出来たもんだわ」

 その声は軽く、どこか楽しそうだった。


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