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No.35052の一覧
[0] 閃光の明日は(SAO二次創作)【マザーズ・ロザリオ編開始】[YY](2014/02/21 22:57)
[1] SAO1[YY](2012/09/19 22:01)
[2] SAO2[YY](2012/09/09 17:26)
[3] SAO3[YY](2012/09/17 18:10)
[4] SAO4[YY](2012/09/21 21:44)
[5] SAO5[YY](2012/09/17 18:09)
[6] SAO6[YY](2012/09/19 22:14)
[7] SAO7[YY](2012/09/21 21:46)
[8] SAO8[YY](2012/09/27 21:25)
[9] SAO9[YY](2012/10/12 21:34)
[10] SAO10[YY](2012/09/25 20:39)
[11] SAO11[YY](2012/09/27 19:48)
[12] SAO12[YY](2012/10/01 20:06)
[13] SAO13[YY](2012/10/01 23:29)
[14] SAO14[YY](2012/10/05 21:04)
[15] SAO15(終)[YY](2012/10/05 21:05)
[16] ALO1[YY](2012/10/12 21:33)
[17] ALO2[YY](2012/10/14 23:02)
[18] ALO3[YY](2012/10/18 19:36)
[19] ALO4[YY](2012/10/20 21:25)
[20] ALO5[YY](2012/10/20 21:33)
[21] ALO6[YY](2012/10/27 00:51)
[22] ALO7[YY](2012/10/31 19:17)
[23] ALO8[YY](2012/11/03 19:11)
[24] ALO9[YY](2012/11/06 23:03)
[25] ALO10[YY](2012/11/13 20:05)
[26] ALO11[YY](2012/11/13 20:05)
[27] ALO12[YY](2012/11/16 19:29)
[28] ALO13(終)[YY](2012/11/24 01:53)
[29] 追憶のSAOP1-1[YY](2013/08/26 00:20)
[30] 追憶のSAOP1-2[YY](2012/12/19 19:10)
[31] GGO1[YY](2012/12/30 09:33)
[32] GGO2[YY](2012/12/24 15:32)
[33] GGO3[YY](2013/01/18 00:03)
[34] GGO4[YY](2013/01/18 00:04)
[35] GGO5[YY](2013/02/22 21:18)
[36] GGO6[YY](2013/02/17 07:15)
[37] GGO7[YY](2013/02/22 21:18)
[38] GGO8[YY](2013/03/04 22:35)
[39] GGO9[YY](2013/04/09 22:47)
[40] GGO10[YY](2013/04/23 19:43)
[41] GGO11[YY](2013/05/15 20:33)
[42] GGO12(終)[YY](2013/08/26 00:19)
[43] 追憶のSAOP2-1[YY](2013/08/26 20:13)
[44] 追憶のSAOP2-2[YY](2013/08/30 00:30)
[45] 追憶のSAOP2-3[YY](2013/09/07 20:25)
[46] エクスキャリバー1[YY](2013/10/09 19:49)
[47] エクスキャリバー2[YY](2013/11/17 22:06)
[48] エクスキャリバー3[YY](2013/11/17 22:04)
[49] エクスキャリバー4[YY](2013/12/24 20:17)
[50] エクスキャリバー5(終)[YY](2014/08/25 23:07)
[51] マザーズ・ロザリオ1[YY](2014/02/21 22:56)
[52] マザーズ・ロザリオ2[YY](2014/08/27 00:00)
[53] マザーズ・ロザリオ3[YY](2014/09/06 18:13)
[54] マザーズ・ロザリオ4[YY](2014/09/20 23:06)
[55] マザーズ・ロザリオ5[YY](2014/11/04 20:16)
[56] マザーズ・ロザリオ6[YY](2014/12/11 22:23)
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[35052] GGO5
Name: YY◆90a32a80 ID:b9264a49 前を表示する / 次を表示する
Date: 2013/02/22 21:18


「酷いよーシノのん」

「ごめんごめん」

 シノンがグロッケンのスタートポイントまで辿り着くと、頬を膨らませた桃色の少女がプンスカと立っていた。
 その腕は問題なく存在しており、先程までの痛々しい姿の見る影はない。
 あの腕のまま長くいることは危険だった。部位欠損はペイン・アブソーバによって《痛覚》こそ大幅に遮断されているが、部位欠損の感覚を長い間継続することは現実に戻った時に何らかの影響を与えかねなかった。
 肉体の一部を喪失した状態を長く経験することは通常あまりない。
 正確には喪失した後元に戻ることはあまりない。
 GGOにもその辺のリミッターはあるとの話だが、長くプレイしているとその手の悪い話の噂は度々耳に入ってくる。
 アスナがそうなってしまうことは望ましくないとの判断もあって──当てられた悔しさもあったが──シノンは彼女を《死に戻り》させたのだが。
 アスナの表情が言葉とは裏腹に少し暗いのを見て、もう少し説明しておくべきだったかと反省する。
 流石に味方と思っていた相手に殺されるのは良い気分では無い。
 実際、戦闘中のスコードロン内では、このまま相手に殺されるよりは味方に殺されて後々アイテムを返して貰う作戦も無いわけではない。
 対人プレイヤーに敗北し、ランダムドロップで手持ちをそれぞれ奪われるよりはずっと良い。
 時には「死んだ方が得策」なこともある。
 シノンはこと戦闘において《諦める》事は大嫌いだが《戦略的撤退》にも重きは置いている。
 慎重なのは良いことだ。強い相手ほど冷静さを最後まで失わず最後まで《勝つ》為に必要なことをする。
 それが《逃げ》であるならそれもいい。シノンとて出会った全てのプレイヤーやMobモンスターを殺してきたわけではない。
 時に無用な争いを避けるのは戦う為の知恵の一つだ。
 それに自身も数限りなく死に戻りは経験している。むしろ強さの裏にはそれらの敗北の数が必ず存在する物だ。
 そう思っていたシノンはつい軽い気持ちで口を滑らせた。

「でもゲーム内で死ぬなんてよくあるでしょ? それだけ強いならこれまでにだって何度も……」

「……」

 アスナの表情が歪む。
 瞬間、何か言ってはいけないことを言ったのだとシノンは理解した。
 人にもよるが、ゲーム内の死であれ快く思わない人はいる。
 そこで連鎖的にシノンは思いだした。そういえばアスナはSAO生還者なのだと。
 《本物の生命のやりとり》を経験したことのある彼女にとって、ゲーム内の死は現実のそれに近いほど恐い物なのかもしれない。

 ──違和感。

 もしそうなら、彼女は何故人を殺そうとしたことがあるのか。
 何故その時のことをそこまで引きずっているようには見えないのか。
 先程ためらいなく敵プレイヤーを刺し殺せたのか。
 シノンの胸に不快感じみたもやもやが生まれ始める。
 それは少しだけ形となって、《初対面》の時に感じた印象を呼び覚ました。

 この人は、何処か────オカシイ。

 何と表現して良いのかわからない。
 ただ、例えるならそう、昔の《母親》のそれに近い気がする。
 普段は気付かないが、ふとした瞬間現れる違和感。
 何かが《欠けている》という感覚。
 そこまで考えて思考を振り払った。これ以上は人の心に土足で踏み入ることに等しい。
 彼女の過去には《本当の殺し合い》を強要されるゲームがある。それだけで彼女が普通とは少しだけ違うかもしれないと思うのは十分だ。
 無用な詮索は不要だ。自分だって過去の詮索は余りされたくない。
 今の彼女は友人の伝手で知り合った知人。加えるならGGOで将来有望そうな相手。
 それ以上でもそれ以下でもない。
 だから早々にこの話は切り上げることにした。

「えっと、そう言えばさっきの私の銃弾は何故斬れたの?」

「え? 何故って……」

「いくらゲームの中でも実在する重火器の物理法則を無視しているわけじゃないわ。仮に弾道予測線(バレットライン)が見えていたとしても、あの距離と速度では人間の反応速度じゃ間に合いっこない」

 シノンは真っ直ぐ身体の真ん中を狙ったわけではなかった。
 彼女が狙ったのはアスナの《左足》だったのだ。
 しかし勘という言葉では説明し難い精密さでアスナは銃弾にエストックをぶつけている。
 ここから導かれる可能性は、信じがたいが弾道予測線(バレットライン)が出るより《速く》弾道がわかっているということ。
 そんなことはありえないはずだが、当てずっぽうで斬れる程シノンのヘカートⅡは安くない。
 それがわかっているからこその不可解だった。

「ああそういうこと。うんとね、スコープ越しにでもシノのんの眼が見えたから」

「…………はっ? 眼?」

「うん。眼を見るとね、大体は相手の行動を読めるの」

「……本当に?」

「うん」

「じゃあ、それだけで?」

「うん」

「………………」

 シノンは口を閉じてまじまじと桃髪の少女を見やる。
 返す言葉が見つからない。あっけらかんとして言う少女に嘘は見えなかった。
 相手の眼を見ればある程度次の攻撃がわかるという彼女の言に改めて驚愕しつつ、《好敵手》という言葉が思い浮かぶ。
 まだ荒削りだが、いつか自分を脅かす程のハイプレイヤーになる。そんな予感がシノンの背筋をゾクゾクさせた。
 もし、その相手を返り討ちに出来たなら、それはその時こそトラウマを克服し《強者》になった証では無いだろうか。
 右手が少しだけ震える。シノンの中に爆発的に生まれる希望的観測と欲求が溢れる。

 ────強くなった彼女を《殺したい》と。

「シノのん? どうかした?」

「っ? なんでもない……!」

 急に黙り込んだせいか、アスナが不思議そうに声をかける。
 シノンは小さく首を振って取り繕った。
 いけない、悪い癖だ、とも思う。
 シノンは自身の弱さを克服する為に強さを求める余り、GGO内では《相手を殺す》ことに執着している節がある。
 自覚はあるものの、時々明確に《殺す》という単語をイメージしたり口にしたりしている自分はどうにも好きになれなかった。
 そうしたい、そうすることで克服したいと思う自分がいる一方で効果の程の疑問やそんな自分に嫌気を感じるという二律背反。
 最近ではそれが不安となって押し寄せて来ることもある。そんな時は決まって《誰かを殺す》ことで自分を落ち着けてきた。
 シノンは決して殺人狂ではない。その自負もある。
 だがそれとは別にゲーム内で《殺す》ことが出来るという事実が今の彼女の唯一の心の支えにもなりつつあった。
 相手プレイヤーを殺し──プレイヤーは強ければ強いほど良い──自分は強いと思うことで、弱い自分を封殺し、《自分は大丈夫》と自己暗示のようなものをかける。
 そうでもしなければ弱い自分の心に押しつぶされて気が狂いそうになることがしばしばあった。
 なので気を紛らわせる為にも、シノンは努めて明るく振る舞い、再び話を変えた。

「それより今日はこれからどうする?」

「え? あ……」

 するとアスナの顔に再び影が差した。
 どうしたのだろう、と思ってから自分のしたことを思い出す。
 つい先程シノンはアスナを文字通り《殺した》ばかりだ。
 もしかすると一気に信用が失墜してしまったのかもしれない。

「あ~……その、ごめん。まだ気にしてる? さっきのこと」

「さっきのこと……? あ、あー……」

 アスナは一瞬目をキョトンとさせてから、顔を伏せた。
 その顔には相変わらず影が差し、心なしか弱々しくも見える。
 これは益々失敗したかと、シノンは俯くアスナに困り顔になった。
 幼い頃の事件のせいで、人付き合いが多かったとは言えないシノン/詩乃はこう言う時にどうすれば良いのかわからない。

「……ごめんね。もうあんなことは二度としないから」

「……」

「だから、えっと……その……」

「……」

「な、なんだったら私が持ってる使ってないレア銃プレゼントするよ! ね?」

「……」

「う、うう~……な、何か言ってよ、聞けることなら聞くから!」

「……私ね、信じてたんだよシノのんのこと」

「うっ」

「それなのに……」

「ご、ごめ……」

「これはもう、あそこのバーで美味しいモノでも奢って貰わないと」

「奢る奢る! 奢るから……へ?」

「やった! 約束だよシノのん!」

 暗い表情を携えていたアスナが急にパッと明るい顔になる。
 まるでしてやったり、というその表情は瞬時に状況をシノンに理解させた。

「……騙された?」

「最初にやったのはそっちだよ」

「くぅ……!」

 悔しさに歯噛みするシノンだが、ここはグッと堪える。
 確かに自業自得感は否めない。しかし納得も出来ない。
 シノンは些か不満気味に頬を膨らませると、ズンズンとアスナの指定した近場のバーに大股で入っていく。
 アスナはクスクスと笑い、チラリとシステムメニューのリアル時間を確認しながらその後についていった。





「おいしい!」

 テーブルに出された《びっくりバレットチョコサンデーすぺしゃる》なるパフェを頬張り、アスナは幸せそうにもぐもぐと口を動かした。
 アスナの目の前には、十五センチ程の大きな専用パフェグラスにビックリするくらい大きいなアイスがぶち込まれ、表面は生クリームでコーティングし、チョコレートソースをこれでもかとぶっかけてポッキーが二本刺さっているという、やや無骨ながらも食べ応えのありそうなパフェがあった。
 アイスが大きく楕円を描いているのは名前のバレットから銃弾の形をイメージしているのだろう。
 そのお値段実に千五百クレジット。この世界に降り立ったばかりの《初心者(ニュービー)》の所持金千クレジットを上回る料金だ。
 リアル換算するなら、電子マネー返還レートは百クレジットで一円の為、百分の一の十五円になる。
 その辺がVRゲームのお手軽さと人気の秘密の一つだろう。VRゲームでの飲食は実際に味があり、満腹感まで味わえる。
 その為仮想世界で飲食し、現実世界で飲食せずに身体を壊す者も急増していて社会現象の一つになってはいるが、節度を守ればこれほど素晴らしいシステムもない。
 実際問題十五円でこのパフェは食べられない。何より、《実際に太らない》この味覚エンジン再生システムは乙女の強力な味方だった。
 それを幸せ一杯の表情で頬張っているアスナを見て、シノンは溜息を吐く。
 先程までの罪悪感とシリアス感はなんだったんだ、と。
 アスナの変わり身の速さに毒気を抜かれたシノンは面を食らい、どっと疲れが仮想アバターにのし掛かってきていた。
 オマケに好きなものを頼んで、と言えばGGO内の食べ物としては馬鹿高いパフェを注文する始末。
 祖父母の仕送りで一人暮らし生活をしているシノン/詩乃は決して資金が潤沢ではなく、いろいろなところを切りつめている。
 それはGGOの接続料も例外ではなく、VRMMOとしてはかなり高い部類に入るこのゲームの接続料を払うのは当初相当に辛かった。
 最近ではようやくコンスタントに接続料をゲーム内で稼ぎきれるようになったところだったのだが、これはゲーム内でも節約の鬼と化す必要が出てくるかも知れない。
 そこでふと思う。仮想世界でも節約を考えているなんて馬鹿みたい、と。
 シノンは何だか急にしらけてしまい、つまらなさそうにバーの中をぐるりと見回した。
 バーにはたくさんの人ががやがやわいわいとひしめき合っている。
 バーとは言っても今アスナが食べているようにスイーツ類もあるのだが、この世界にはあまりそういったものを求める者はいないので今はアスナしかその類のものを口にしていないようだ。
 大抵は皆、コーヒーか酒をあおっている。仮想世界だからこそ許される全年齢への飲酒。
 ゲーム内でも未成年の飲酒の禁止を訴える団体をニュースで紹介していたな、などと益体も無いことを思い出しながらさらに視線を巡らす。
 すると奥の方で何処にでもあるギャンブルの類のゲームを大勢が挑戦しているのが見えた。
 馬鹿だなあ、とシノンは口に出さずに思う。何度か見ていればわかるがあの手のゲームで儲かることなど殆ど無い。
 中には無理ゲーも多く、この店のゲームだって確かその一つだったはずだ。
 NPCが操る西部劇に出てきそうなガンマンの銃撃を見事くぐり抜けガンマンにタッチ出来たらクリア。
 その時はこれまで挑戦者がプールするハメになった挑戦料を総取り出来るシステム。
 だがシノンは何度か見て気付いていた。あのガンマンにタッチするのは不可能、だと。
 幅およそ三メートル、長さは二十メートル程度の金属タイルを敷いた床を腰の高さぐらいの柵で囲いワンスペースとしている。
 左右に大きく動けるならともかく、幅が三メートルしかない中で二十メートルの距離を銃撃をかいくぐりながら進むなど到底不可能だ。
 十メートルを越えたあたりから卑怯じみた連射撃ちもしてくるので尚更である。
 なのに飽きもせず毎日挑戦するプレイヤーは後を絶たない。今日は特に多く感じられるほどだ。
 シノンは半ば呆れながらたんなる好奇心で現在のプール金額を確認した。
 前に見た時も相当な額になっていた筈だが、今はどれくらいなのか。

「……えっ」

 一瞬錯覚かと思った。だがそれはありえない。
 ここは仮想世界。視覚さえも直接脳に信号を送られて《視ている》のだ。
 それでもシノンは信じられないその金額に何度も目を擦った。

「……少なすぎる。誰かクリアしたってこと? そんな馬鹿な……ねえちょっと!」

 シノンはバーのカウンターからゲームの行く末を見ているプレイヤーに声をかけた。
 声をかけられたソンブレロを被ったメキシカン風な風貌の男性プレイヤーが振り向く。

「なんだい?」

「随分プール金額少なくない? まさか一回誰かクリアしたっての?」

「ああ、実はそうなんだよ。今日颯爽と現れた初見らしいプレイヤーがびゅーって凄い勢いでね。そりゃもうびっくりしたよ」

「そんなプレイヤーが初見……?」

「コンバートじゃないかな」

「ソイツはどんなヤツなの?」

「聞いて驚くなよ? 何と女の子だったんだ。結構幼さを残した可愛い子だったよ。まあリアルじゃどんな姿してるかわからないけどね」

「そう。ありがとう」

「どういたしまして」

 シノンは話を聞くとアスナの待つテーブルへと戻った。
 アスナはスプーンをくわえたまま首を傾げている。
 シノンは顎をしゃくって奥のゲームスペースを示した。
 アスナはシノンが示したガンマンのゲームを見やる。
 丁度挑戦者がプレイしているところだった。
 挑戦者はなかなか機敏な動きを見せ、六メートルほどを詰める。
 だがそこでガンマンのペースが変わった。
 これまでは三発ずつ同じ間隔で連射していたNPCガンマンは二発、一発、と緩急を付けた。
 遅れて来た一発に挑戦者は体勢を崩し、慌てて立ち直ろうとするものの、その時には既にガンマンが次の銃弾のトリガーを引いていた。
 挑戦者の肩にブルーの火花を散り、情けないファンファーレと共に失敗を告げる。
 ガンマンが何事か口汚く罵り、挑戦者はすごすごと去って行った。
 アスナはそれを見ながらさらに疑問符を浮かべる。

「あれがどうかしたの?」

「あれを今日《初心者(ニュービー)》っぽいプレイヤーがクリアしたって言うのよ

「ふぅん。あ、もしかしてそれって黒い男の子?」

 一瞬アスナの脳裏にキリトが思い浮かぶ。
 彼なら、恐らく初見でそんなとんでもないこともやってしまいそうな気がした。
 だが、

「ううん、女の子だったって話だけど。何? 心当たりあるの?」

「女の子……なら違うかな、たぶん」

 何か引っかかりを覚えつつも無理矢理納得する。
 彼以外にも凄い人はいるものだ。

「ふぅん。でもまさか貴方以外にそんなとんでもない《初心者(ニュービー)》がいるなんてね。今度のBoBは荒れるかも」

 シノンの呟きにアスナは苦笑しつつ先程から度々気にしていた時計を見やる。
 ……そろそろログアウトしないとまずい。
 今日は自宅からのインなわけではないのだ。帰る時間も考えると長くはいられない。
 そもそも今日のログインは三日後に開催されるBoB──バレット・オブ・バレッツ──なるソロ遭遇戦の大きい大会で《死銃》に接触するために無理矢理作った準備期間のようなものだった。
 本当なら大会当日からのログインになりそうだったのを、アスナ/明日奈が菊岡に無理を通させて今に至っている。
 シノン/詩乃に教えを乞う約束をした手前、あまり彼女を待たせるわけにはいかなかったし、前情報としてログイン当日にBoB参加なんてありえないと詩乃にリアルできつく忠告された明日奈はやむなく菊岡に働きかけた。
 当然それに引きずられる形で今日はこの世界の何処かに彼、キリトもログインしているはずだ。
 自分だけ先にコンバートしてしまってはALOから消えたAsunaを見て彼に察せられてしまう恐れもあったし、何より菊岡の立場からも一人だけ先にログインさせておくメリットはない。
 その為余計に場所等の確保に緊急を要してこのような形になっているのだが、明日奈の中に悪びれた気持ちはあまり無かった。
 あの《自称総務省職員》である菊岡誠二郎の匂わせる何か。
 それがあまり良いものでは無い気がして、彼には無理を言うくらいが丁度良いと何処かで思ってしまう。
 なので、あるとすれば彼、キリトへの不義理。だがこれも半分半分ほどの気持ちだ。
 何故なら彼もまた自分に黙ってこの世界へ来ているのだから。それもわざわざ口止めまでして。
 彼に黙っているという罪悪感と、彼が自分を危険から遠ざけ一人だけ危ない橋を渡ろうとしているという不安と怒り。
 その両方が明日奈/アスナの中ではせめぎ合っている。

「どうかした?」

「えっ? あ、ううんなんでもない。それよりごめん、私今日はもう落ちなくちゃいけないの」

「あ、そうなんだ。わかった。またね」

「うん。またねシノのん」

 アスナは微笑み、システムメニューからログアウトボタンを押す。
 かつて居たあの世界では存在し得なかったそのボタンはそこにあり、タップすることで問題なくその機能を実行する。
 未だにこの瞬間、戻れなかったらどうしよう、という不安は小さいながらも残っているアスナだが──彼と一緒の寝オチはその限りではない──彼女の身体は光の粒子となって消えていった。
 それを見届けたシノンは立ち上がりバーを出て行く。
 今日はまだ、《狩り》足りない。出費も嵩んだ。だから、

「……一狩り行こうかな……あ、そうだ」

 足が自然と街の外へ向いた時にふと思いだした。
 システムメニューからマップを呼び出し場所を確認する。

「ん、あそこならソロでもなんとかなるかな」

 GGOの世界背景設定は世界大戦が起きた後の地球、というややSFじみたものとなっている。
 近未来的な雰囲気を作ってもいるが、それ故世界観はファンタジーな世界より現実に近い。
 実在する重火器を使っている所もその感覚を後押ししているだろう。
 それ故、ファンタジックなものよりもあらゆる面で想像しやすい利点がある。現実的、と言ってもいい。
 例えるなら今日、アスナが金属を拾って《鉄》を集めたように、リアルでの考え方が割と通じるのだ。
 これが例えばALOならダンジョンに潜り、モンスターないし鉱山等に行って鉱石アイテムを見つけて来る、などといったような流れになる。
 入手アイテムもリアルには存在しないものが多いだろう。キリトがSAO時代にリズベットに作ってもらった剣の素材も、リアルでは聞かないような名前だった。
 その為、そういった《常識面》においてGGOはALOやSAOより現実に近いと言える。
 シノンが目を付けたのはそこだった。
 今日軽い気持ちでアスナに言った言葉がある。

『ううん、その武器がちゃんとしたものだったら上手くいってたよ』

 この言葉に嘘偽りは無い。
 だが、《初心者(ニュービー)》では《ちゃんとしたもの》をすぐに調達は出来まい。

 それがもし──自分だったなら?

 幸いな事に金属等から作れる事は分かっている。
 そこでとびきりの素材があることをシノンは思いだしていた。
 ここは言うなれば近未来。設定上だが、宇宙戦艦の残骸なんてものもある。
 シノンとてそこまで詳しいわけではないが、宇宙戦艦の素材ともなればそれはそれは良い素材になるのではないだろうか。
 実は前に偶然手に入れ、その時は必要なさそうだと捨てたことがあり、それがあればアスナの戦力は劇的に上がるのではないかと思ったのだ。
 普段、その生い立ちから他人にそう関心を寄せないシノンは《誰かの為に》行動することは少ない。
 だが今はやっても良い、という気になっていた。

「飽くまで自分が狩り足りないから。そのついでなんだから」

 誰が聞いているわけでも無いいいわけを口にしながらシノンは以前の記憶を頼りにそこへと向かい出す。
 その目は、獰猛な血に飢えた捕食者のようだった。





 バレット・オブ・バレッツ、通称BoB。
 その日はあっという間に訪れた。
 この三日間、アスナはシノンが調達してくれた素材、《宇宙戦艦の装甲板》を元に強力な細剣(エストック)を作成することに成功していた。
 この武器が完成してからは、シノンもアスナのメインウェポンは《剣》で、という考えを認めざるを得なかった。
 シノンのヘカートⅡの銃弾はこのエストックの前に等々敗北したからだ。
 アスナはそのエストックでヘカートⅡの銃弾を斬り伏せることに成功した。
 ただそれは決闘スタイルだったからで、実際の戦場での話とは違う。
 実際の戦場でのシノンは相手に気付かれることなく遠距離から撃ち抜く技術を持っている。
 そういった点ではやはりアスナはシノンの足下にも及ばない。
 BoBは実戦形式のソロ遭遇戦を主とした大会なので、一概に決闘スタイルのような銃弾を斬れるだけでは優位性を語れるものではない。
 そもそもアスナもその銃弾を切り伏せたことに完全な満足感を得てはいなかった。
 アスナが得意とするのは細剣(フェンサー)による刺突だ。今使用しているのはエストック。
 形状にそこまで大きな差はないがやはり刺突に特化したいと考えるアスナはなんと突きによる銃弾破壊を目標としていた。
 が、現在のところまだ一度も成功してはいない。
 恐ろしく速い《点》で迫る弾に《点》を突くやり方は寸分の狂いも許されない。
 それを狙ってやってのけるなどもはや離れ業も良い所なのだから無理もない。
 だがシノンの目から見てもアスナの技術、戦闘技能は高く予選の突破は可能かもしれないと思わせた。
 BoBは土曜日一日を使って予選を行い、翌日日曜日に本戦を行う。
 エントリープレイヤーがそれぞれ各ブロックで一対一の戦闘を繰り返し、ブロックごとに一位と二位が本戦への出場権を得る。
 シノンから簡単な説明を受けたアスナはGGO内にある総督府でエントリー作業をしていた。
 総督府にあるコンピュータパネルからエントリー手続きをすることが出来る。幸いこれは全て日本語仕様となっていた。
 現在では日本サーバとアメリカのサーバは別稼働になっており、そのせいか外国人プレイヤーは多くない。
 正確にはアメリカに居ながら日本の稼働サーバにてプレイしている者は殆ど居ない。
 シノンによれば別サーバになる前は街のあちこちでも頻繁にネイティブな英語が飛び交い、BoBの優勝者などは海の向こうのプレイヤーだったということだが、少なくともこの三日間アスナは街中などでネイティブイングリッシュを耳にした記憶は無かった。
 それだけこの日本で稼働しているサーバは日本国内のみの仕様環境に対応しているということで、アスナは今更そのことに実感する。
 とアスナは手を止めた。意外過ぎるそのフォーラムに戸惑ったのだ。

「え……これリアル情報も打ち込むの?」

 画面には実際の名前や住所を打ち込んでください、と書いてあった。
 だがよくよく見れば、上位入賞者への賞品付与のためであって、エントリーだけならその必要は無いらしい。
 ただ記入しなければ上位入賞者への賞品付与をもらえない可能性があるとの注意書きもある。
 アスナは賞品欲しさにここに来たわけではないので、そのまま何も記入せずにエントリーを済ませた。

「なんかキリト君だったら賞品に釣られてフラリと打ち込んじゃってそうだな、こういうの」

 そんなことを考えて苦笑しつつ、隣を見やると丁度シノンも登録が終わったところのようだった。
 一緒にパネルから離れる。

「予選ブロックどこになった?」

「私はFブロックだって。シノのんは?」

「Kブロック。お互い別々だね、会うとしたら本戦か」

「とりあえず良かった、のかな。予選でシノのんとやりあってどちらかが本戦いけなかったらイヤだもんね」

「……そうね。でもたとえ知り合いだろうと手は抜かないわよ私は」

「あ、あはは……」

 ギラリとした猫科をイメージさせる瞳にアスナはぎこちなく笑いながら彼女について行く。
 向かう先はこの総督府の地下二十階。上にも下にも長いらしいこの建物の地下がBoBの会場となっている。
 地下二十階に着くと、そこは今までアスナが経験してきた事のない空気に包まれていた。
 地下二十階は半球形状のドーム型で一階ホール並に広い。照明は申し訳程度しかなく床や壁、柱は無骨な金網で作られ中央には巨大なホロパネルウインドウが無数に浮かび予選開始までのカウントダウンをしている。
 そんな中、この場には少なくない数のプレイヤーがちらほらといるが、談笑している者達はほとんどおらず、皆静かに黙っているか少数でボソボソと呟きあって視線を巡らせているかといった張りつめたような緊迫感が漂っていた。
 奥に座るテンガロンハットのガンマンは一際大きいスナイパーライフルのようなものを抱くようにして周りを見ているし、サングラスをかけたスキンヘッドの男は指でくるくるとリボルバーを回している。
 かつての攻略会議でも似たような空気はあったが、微妙に違う空気にアスナがやや飲まれそうになった時、シノンの舌打ちが彼女の耳に入ってきた。

「……チッ、どいつもこいつもお調子者ばっかりなんだから」

「え、ええ!?」

 お調子者、というシノンにアスナは面食らう。
 どのプレイヤーも来る戦闘への集中を高めているのではないのだろうか。
 そんな不思議そうな顔に気付いたシノンは溜息を吐くと小声でアスナに囁いた。

「今から武器なんて見せたら対策してくれ、って言ってるようなものよ。見せびらかして馬鹿みたい。貴方も装備はギリギリにしないさいよ」

「あ、ああなるほど」

 アスナは正直、これまできちんとした対人戦という大会に出場したことは無かった。
 アスナ自身の強さはキリトも認めてくれているものだが、それは対モンスターが主流だ。
 対人戦闘経験が無いわけではないが、それは突発的なものがほとんどで、準備期間のあるルール上の決闘とは違うものだ。
 SAOに居た時もデュエルをした回数はそう多くない。
 そのせいか、ここに来て初めて対人戦闘への意識が低かったことをシノンに教えられた。
 アスナはシノンにレクチャーされたBoBのルールを思い出す。
 バトルは一対一で行われる。バトルフィールドは一キロ四方の正方形。
 場所や環境はランダムで相手とは最低五百メートルほど離れた位置からスタートする。
 敗北すれば一階のホールに転送され、勝利すればここに戻ってくる。それを繰り返し各ブロック上位二名が念願の本大会出場となる。
 尚この大会中の戦闘に限り負けても武器ドロップは発生しない。
 相手の武器を奪い使用することは可能だが、大会が終われば持ち主の元へちゃんと戻る仕様になっている。
 ルールを反芻し、アスナはホロパネルを見上げた。
 時間だ、と思った時にはアスナの体は転送されていた。





「ふぅ」

 シノンは予選会場に戻ってきて一息吐いた。危なげなく一回目の予選は勝ち抜いた。
 アスナはまだのようだが、彼女ならきっと大丈夫だろう。
 それより次の戦いに備えて集中しなければ……とそんなことを考えていると、声をかけられた。

「お疲れ様シノン」

「あ、お疲れしん……シュピーゲル」

 ダークグレーの中に明るめのグレーが混ざった直線的な迷彩柄の上下を身に纏い、アーマーは最低限。
 肩からはアサルトライフルを下げ、銀灰色の長髪を垂らした背の高いリアル共に顔見知りのプレイヤーがそこにはいた。
 その隣には珍しく見慣れないプレイヤーもいるようだった。

「迷惑かな、とも思ったけど応援に来たよ。一回戦は余裕だったみたいだね」

「まあね。そちらの人は?」

 シノンの視線にシュピーゲルはややバツが悪そうな顔になった。
 不思議に思いながら隣のプレイヤーをまじまじと見つめる。
 身長はシュピーゲルの隣にいるせいもあってかなり低い。
 漆黒の髪は頭頂部から肩の下あたりまで伸び、肌は現実なら羨ましくなるほど白い。
 かなり整った顔立ちだが、美人というより可愛いという言葉が似合いそうな外見の女性プレイヤーに見える。

「初めまして。シノンさん、でいいのかな?」

「ええ、よろしく」

 一瞬、シノンは警戒レベルを上げた。
 このプレイヤーの異質さに気付いたからだ。
 言葉では友好的だが、その目、その表情に一切の変化が感じられない。
 無愛想ともとれるが、果たしてそこまで表情を消せるものなのか。
 だがシノンは努めてそれを悟らせぬようシュピーゲルにからかいの声をかけた。

「やるわね、こんな可愛い子と知り合いなんて」

「!? ち、違うんだあさ……シノン! こ、これにはワケが……」

「ええ、彼にはたくさんお世話になりました」

「へえ……」

 シュピーゲルを見るシノンの目に剣呑なものが浮かぶ。
 シュピーゲルは慌てて声を荒げながら言った。

「ちょっ!? いい加減にしてよもう! だいたい君……男じゃないか!」

「……へ?」

「あーあ、簡単にばらしちゃ面白くないじゃないか」

 シノンはシュピーゲルの言葉に目を丸くした。
 このどうみても女にしか見えないプレイヤーが……男。
 にわかには信じられないことだがシュピーゲルが嘘を吐くとも思えない。

「本当に男、なの?」

「まあね。俺も好きでこんな女みたいな姿ではいないさ。よりにもよってこんな……あの時とうり二つなんて」

「あの時?」

「……いや、なんでもない」

 一瞬、とても悲しげな表情をした女顔の男性プレイヤー。
 なんだ、普通に表情変えられるんだとシノンは少しだけホッとしてしまった。

「僕は彼がコンバートしてきたばかりで困ってたからちょっと手助けしてあげただけだよ」

「本当にぃ? 本当は可愛い子とお近づきになろうとしたんじゃないの?」

「そ、そんなわけないって! 僕には……っ!」

「?」

 シノンのからかうような言葉に、何かを言い返そうとしてシュピーゲルは言葉に詰まった。
 シノンが首を傾げるとシュピーゲルは顔を背けてしまう。

「二人は仲がいいんだな」

「一応リアルでも知り合いだから」

「なるほど」

 黙ってしまったシュピーゲルに代わりシノンが答える。
 納得したらしい女顔の男性プレイヤーに今度はシノンが尋ねた。

「貴方もBoBに参加してるの? シュピーゲルは出ないって言ってたけど」

「ああ。さっき一回戦が終わって勝ち抜いたところ。Fブロックだよ」

「Fか……ふぅん」

「何か?」

「ううん、今私の知り合いもFブロックで戦ってるなあって思って」

「ああ、そういうことか」

「その知り合いもこのゲームに来たのは最近だけど強いわよ?」

「そりゃ楽しみだな……おいいつまで黙ってるんだよシュピーゲル」

 未だ会話に混ざって来ないシュピーゲルに業を煮やしたのか、女顔の男性プレイヤーはシュピーゲルに声をかける。
 シュピーゲルは恨みがましい声で呟いた。

「半分は君のせいじゃないか」

「はいはいわかった、悪かったよ。俺が悪かった。ええとシノンさん、俺と彼はなんでもありませんので。彼が君や俺で両手に花なんてことは……」

「わぁ────!? ちょっとちょっと!」

 突然の弁明をシュピーゲルは無理矢理やめさせた。
 彼がキッと睨みつけるとそれまで無表情に近かった女顔の男性プレイヤーはわかるかわからないかくらいの小さい苦笑を零す。
 それを見たシノンはクスクスと笑い、そういえば、と思い出したことを口にした。

「両手に花って言えば、今戦ってる私の知り合い、二股かけられてるみたいなのよね」

「へえ、そりゃ許せないな」

「でしょう? 私も最低ですねその人、って言ったんだけどさ」

「そ、そういえばそのシノンの知り合いって……女の子なの?」

「……? そうよ」

「そ、そっか」

 久しぶりに会話に戻ってきたシュピーゲルは何処か安心したように胸を撫で下ろした。
 どうにも今日のシュピーゲルがシノンにはわからない。

「しかし二股か……なんでその相手の男もそんなことするんだろうな」

「そうなのよね。その人、リアルではすっごく綺麗な人なのに……二股かけるなんて信じられないっていうか」

「男の風上にもおけないな。俺なら絶対そんな真似しないぞ……っと、そろそろ次の試合か。それじゃ」

「あ、それじゃ」

「がんばって」

 シノンは転送される女顔の男性プレイヤーを見送る。
 シュピーゲルも小さく応援の言葉をかけた。
 シノン自身もそろそろかな、と思ってるいると丁度アスナが戻ってきた。 

「ただいまシノのん」

「おかえり。ここに戻ってきたってことは勝ったんだね」

「うん。怖かったけどなんとかなったよ。みんなシノのんほど凄くなかったし」

「当然よ」

 フフン、と少しだけ気分を良くしたシノンはシュピーゲルのことを簡単に紹介する。
 リアルの知り合いであり、間接的ではあるがシノン/詩乃とアスナ/明日奈を引き合わせたのは彼、シュピーゲル/新川恭二なのだと。

「あ、そうなんだ。初めまして」

「う、うん……ところでそのアバターってもしかして……」

「?」

「あ、ああなんでもない。里香姉さんによろしく言っておいてください」

「うん、わかったよ。と、次の試合だ、行ってくるね」

 アスナが消えるのと同時に、シノンも消えていく。
 一人残されたシュピーゲルは戦闘をホロモニターで追うことにした。





 シノンは再び勝利して戻ってきた。
 彼女にとって予選は通過点に過ぎない。
 通って当たり前。もし負ければ引退してやる、との意気込みさえあった。
 そのシノンが辺りを見回していると、シュピーゲルがホロパネルを見上げているのを見つけた。
 近づいて何か話そうか、と思った時、目端で先ほどシュピーゲルと一緒に現れた女顔の男性プレイヤーを見つけた。
 彼も丁度勝利して戻ってきたのだろう。もしかすると本当に彼女と戦うかもしれないな、などと考えていると、その彼に近づく影があった。
 当たる可能性のある対戦相手か何かだろうか。それとも負けた友人のはらいせか。
 どちらにせよその影の纏う空気があまり良いものではなさそうだと思い、その旨をせめてシュピーゲルに伝えてやろうと先のシュピーゲルがいた場所に視線を戻すと、そこにはもうシュピーゲルはいなかった。
 あれ? と思い辺りを見回す。その時だった。

「どうしたのシノのん?」

「あ、アスナ。また勝ったんだね」

「うん。それよりどうかしたの? なんかキョロキョロしてたみたいだけど」

「あ、いやたいしたことじゃないんだけど……」

 ちらり、と視線をもう一度女顔の男性プレイヤーがいた方に向けると、そこにはもう彼はいなかった。
 そこで無駄に気を使いすぎたか、とシノンは自分のらしくなさに溜息を吐き「なんでもない」とアスナに首を振った。

「それより調子良さそうね」

「うん。次が私決勝だよ」

「へえ。じゃあもう本戦参戦は決まったんだ。おめでとう」

「ありがとう。シノのんもがんばってね」

「ええ。っとじゃあ行ってくるわ」

「うん」

 アスナはシノンを見送りホロパネルを見やる。
 あちこちで戦っている映像が映っては消えていく。
 アスナは大きな問題もなく勝ち進んでいた。
 やはり銃弾を斬られるという予想外な戦法は相手の度肝を抜きまくったらしく、その隙に切り伏せるのはたやすかった。
 次の試合も上手くいくと良いな、そんな軽い気持ちで転送を待っていたアスナだったのだが。
 いざ転送され、相手が来るのをジッと隠れて待っていると、予想もしない相手がゆっくりと歩いてきていた。
 まさか、という気持ちが強いがその姿を見紛うはずがない。
 そのプレイヤーのアバターは……かつてALOでキリトが囚われていた時のそれとうり二つだった。
 同時に、あの何をしても反応しなかった時の、キリトが《壊れて》しまった時と同じような表情をしていた。
 瞳からは生気が失われ、焦点も合わずにただ前へ前へと歩いて行く。
 その姿に、アスナは胸が締め付けられていてもたってもいられなくなり、隠れていたことも忘れて飛び出してしまった。

「キリト、君……? キリト君なの……?」

「え……? まさか、アスナ、なのか……? どうして、ここに……」

 驚く彼の言葉が、やはり彼はキリトなのだと物語っていた。
 だが、次の瞬間、生気を取り戻した彼の瞳が、珍しく怒りの感情に染まる。

「どうして、どうしてここに来たんだ!」

 その姿はまるで、哭いているようだった。


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