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No.35089の一覧
[0] 薄刃陽炎(ネギま×BLEACH 第八話投稿)[ドレイク](2013/09/08 15:09)
[1] 第一話[ドレイク](2012/09/12 07:21)
[2] 第二話[ドレイク](2012/09/12 07:21)
[3] 第三話[ドレイク](2012/09/18 22:46)
[4] 第四話[ドレイク](2013/09/09 22:17)
[5] 第五話[ドレイク](2012/10/08 20:46)
[6] 第六話[ドレイク](2012/10/28 18:56)
[7] 第七話[ドレイク](2012/11/10 17:33)
[8] 第八話[ドレイク](2013/09/08 15:08)
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[35089] 第三話
Name: ドレイク◆f359215f ID:12861325 前を表示する / 次を表示する
Date: 2012/09/18 22:46




「――――その前に、僕にも事情を説明してくれないかな?」




 さよの全霊の言葉。その結果を遮ったのは一人の男。眼鏡をかけ、無精髭を生やしたスーツ姿の男だ。
 無論のこと、その男は刹那にも、そしてさよにとっても初対面ではなかった。

「あ、高畑先生。他の所はもう終わったのですか?」
「ああ、刹那君の所が最後だった……というよりも本命だったみたいだ。援護が遅れて申し訳ない」
「いえ、予想外の援軍もいたので大丈夫ですよ」

 タカミチ・T・高畑――刹那の所属する2-Aの担任であり、この関東魔法協会においては例外二名を除けば、実質的な最強戦力に数えられる存在だ。
 とはいえその纏う雰囲気は、戦闘が終結したこともあってか、教壇に立つときと変わらない、実に人当たりのいい柔らかなものだった。

「そうか……、ありがとう“さよ”君」
「いえいえ~、そんなことないですよ…………あれ?」

 率直な高畑の謝辞にさよは照れ笑いしながら、数秒の間をおいて当然の疑問に気付く。傍らにいる刹那も同様だ。――なぜ高畑先生がさよの名前を知っている? さよが高畑のことを見知っているのは当然だ。一方通行ではあるがずっと会ってきた人物なのだから。

「はは……、君が疑問を抱くのは当然だろうね。そして、僕たちもまた、君の現状に疑問を抱いている。だからまずは話し合いたいと思うんだが、どうかな?」
「わ、わかりました」
「刹那君も、申し訳ないけれど付き合ってくれないかな?」
「はい、“ある程度は治りましたので”」
「?」
「そうか、じゃあついてきてくれ、相坂君」

 刹那のその言葉に混じる僅かな違和感を無視しながら、さよは踵を返す高畑の背中に付いていく。先生の言うことには素直に従うと言う、ごくごく自然な道理を持っているあたり、さよの真っ当さは幽霊というものからかけ離れていた。

「……なんというかさよさんって、“普通”ですね」
「そうですよ?」

 そんなやり取りに思わず噴出しかけた高畑だったが、幸いにして、それがさよに気取られることは無かった。







 うわぁ、ぬらりひょんってホントにいたんですねぇ。それがさよがこの麻帆良女子中学校校長室に入った時に、まず最初に抱いた感想だった。何せ頭が長い。すんごく長い。人間ではなくぬらりひょんだと言った方が納得がいくぐらいに長い。

「……なんか失礼なこと考えてないかのぅ?」

 そんな頭の持ち主こそが麻帆良学園都市理事長と、関東魔法協会の会長を兼任する近衛近右衛門その人である。頭の長さと長々と蓄えた白髭が相まって、まさに狸爺とかそんな言葉が当てはまる雰囲気を漂わせている。

「そ、そんなことないですよ!?」
「本当かのぅ。もしそんなこと思われておったら悲しくて、わし泣きそうじゃわい」
「す、すみませんっ。ちょっとぬらりひょんみたいだなぁとか思っちゃってごめんなさいっ!!」

 だが現実は、孫をあたふたさせて楽しんでいる好々爺にしか見えない。権威ある組織の主柱であることの威厳とかそう言った諸々など、欠片も感じられはしない。
 高畑と刹那も、眼前で繰り広げられるそんな光景に、苦笑とも付かない生温かい視線を向けているだけである。

「ま、冗談はこれくらいにしておこうかの」
「えっ、冗談だったんですか!?」
「まぁそれも嘘じゃが」
「ええっ!?」
「流石にそろそろやめてください学園長。話が始まりません」
「いやぁ、今どきおらんぞい。ここまで純真な子は」

 やや気疲れしたような表情の高畑の言葉を受け入れ、好々爺を気取っていた近右衛門の表情が引き締まる。ここからは一人の老人ではなく、関東魔法協会の会長の近衛近右衛門として話を聞くのだろう。
 涙目であったさよも場の流れが切り替わったことを理解し、思わず息を飲む。


「――――では、何があったかを事細かに聞かせてもらおうかの」


 表情は変わらずとも、滲みでる威厳と空気に気圧されながらも、さよは先ほど刹那に話したことを語り始めた。








「――――ふむ、凡そは理解した」

 口元の髭をさすりながら、近右衛門はそう呟く。

「何もわからん――――ということがの」
「何もわからん……ですか?」
「うむ」

 次いで出た言葉。その言葉にさよは落胆を抱く。この場にくるまでの間に刹那から伝えられた、この麻帆良という土地に関する概要を聞き、そこのトップであるならば、今現在自分の身に何が起こっているのかが分かるかもしれないと思っていたからだ。
 薄刃陽炎が自分に害を成さない、というのは直感的に理解しているが、それでも突如起こったこの自身の変質を明確に理論立ててわかりたいと思うのは、幽霊ならずとも至極当然の思いだ。

「勿論こちらが知る技術体系の中にも、そう言った異能の力を持つ武具を、自身の深層心理等から投影し作り出す、というのはある。仮契約<パクテイオー>と言うんじゃがな。しかし、君はそういうものをやったことにも、されたことにも心当たりがないじゃろ?」
「あ、はい。本当に突然できるようになったので」
「率直に言わせてもらうと、君は突如異質な力を得た未知の存在ということになる。まずはそこを理解してもらいたい」

 厳かな口調でそう告げる近右衛門に対し、さよは自分がどれほど異質なのかを理解した。戦力云々はわからない、どれほど自分が異能の力を手にしようが、自分は未だ素人なのだろうと言いきれる。
 単純戦力で見るならばきっとこの麻帆良の地には上が山ほどいるだろうし、刹那も万全ならば自分よりはるかに強いだろう。
 だからこの場合、問題とするならば今の今まで学園側に補足すらされなかったさよが、突如未知の力を手にした、という一点に尽きる。
 そういう謀略に全く以って疎いさよであるが、近右衛門の言葉でそこだけはしっかりと理解できた。


「…………もしかして、私を除霊とかしますか?」


 理解できたからこそ、そういう結論が出てくる。もとよりさよは六十年間過ごして来た自縛霊なのだ。初めからして世の道理に逆らった存在であるし、潜在的な危険が高いかもしれないならば、一番手っ取り早いのは即座にさよを成仏させることだろう。
 さよとしては、率直に言ってしまえば嫌だ。そんなのは嫌だ。身も蓋もない言い方をすれば、もっと生きていたい。幽霊であることは理解していても、今確かにさよの内にあるのは生存欲なのだ。何せ刹那という、六十年ぶりの、最早初めての――とすら言っていい友達が、できそうなのだから。

「いや、除霊などはせんよ。……こちらの条件を飲んでくれるのであれば、の話じゃが」
「ほ、本当ですかっ!!」

 だからその言葉に、さよは一も二もなく飛び付いた。

「さよちゃんや……老婆心ながら言っておくが、そういうときは即答したらいかんぞい?」
「あ……そうですね。それで、条件って言うのは?」
「うむ、まず第一にこちらの監視下に入ってもらうことじゃな」
「それは確かにそうですよね」

 捕捉されなかった今までとは違い、存在をしかと認知され、異能の力を手にしたのだ。この地を治める学園側からすれば、そんな存在をこれまで通り放置できる筈がない。

「第二に、これから定期的にこちらの検査を受けてほしい、ということじゃよ」

 これも当然のことだろう。未知の力に対し消去ではなく確保を選んだのだから。その情報を得たいと思うはず。

「……あれ?」

 まかりなりにも六十年という時間を過ごしてきたさよである。その条件に疑問を抱く。
 何せ“緩い”。こちらの条件などと言ってみても、この二つは組織の庇護下に入るのならば当然のことだ。わざわざ条件と口にするまでもないことである。

「本当にそれでいいんですか?」
「勿論じゃよ。もとより我ら魔法使いの理念は力持つ者の責務としての救済じゃ。異能の力を無為に腐らせず、苦難にあうものたちに救いの手を差し伸べる。傲慢に聞こえるかもしれんが、我らはそういう題目によって動いておる。不安要素だからと言って軽々しく排除を選んだりはせぬよ」

 その題目を聞いた時、さよの内心に浮かんだのは疑念ではなく感心だった。そう言う題目のもとに動くのを偽善だとは思わず、嘘っぱちだとも思わず、ただそういうことの為に活動できることそのものに感心したのだ。

「へぇ、すごいんですねぇ」

 だから口にするのは衒いのない賛辞であり、そこには人間社会の摩擦とかそう言ったものは感じられない。浮世離れしているとも言えるだろう。
 そして、得てしてそう言う混じりけのない言葉は、何の変哲がなくとも聞く者にとっては破壊力が絶大なのだ。

「……そう言ってくれるとこちらとしても喜ばしいのう」
「学園長、照れが隠せてませんよ」
「フォッ!? な、何いっとるんじゃ」
「学園長でもうろたえることあるんですね、お嬢様以外で」
「もっと何をいっとるんじゃ刹那君!?」

 正直言って狸爺のデレなど見て誰が得するのか。少なくともこの場には居やしないだろう。

「葛葉先生から聞きました。またお嬢様に無理にお見合いを強要して手酷い反撃を受けた、と」
「だって曾孫の顔を早く見たかったんだもん」
「だもん、とかいい年して言わないでください。遠まわしに言って気持ち悪いです」
「どこが遠まわし!?」
「率直に言うなら早く死んでほしいです」
「酷い!? 老い先短い老人に対して言うことかの。というか怒っとる?」

 そして話の流れは当事者であるさよから完膚なきまでに離れ、学園長対刹那という摩訶不思議な構図に移行する。
 さよは刹那の未知の一面を見て思考を停止させ、高畑はそれを見て苦笑するばかりである。

「ど、どうしたんでしょうか刹那さん」
「ああ、2-Aに近衛木乃香って子がいるだろう? 彼女は名前の通り学園長の孫娘で、刹那君とは幼馴染だったんだ」

 さよの記憶に、黒髪のおっとりとしたクラスメイトの顔が映る。席が少し離れているので、そう言えばそんな子もいたなぁ、という認識でしかなかったが。

「ああ、その所為で無理矢理お見合いさせたことに怒ってるんですか」
「学園長もなんというか、悪ふざけを真剣にやる人だから……」

 そうこうしている間にも刹那がいつの間にやら野太刀を抜き放っていた。峰など返していない本気である。真剣と書いてマジであった。そしてそんなことをやらかしていても表情が全くいつも通りなのが、更にヤバさを倍増させていた。

「あの、……助けなくていいんでしょうか?」
「ハハ、いい薬じゃないかな」

 そうのたまう高畑の表情は実にいい笑顔である。近右衛門の常日頃の周囲からの評価がよくわかる。

「うぉい!? 儂には味方がおらんのか!! というか刹那君ってばもしかして、お嬢様を嫁にするなら私を倒してからにしろ!! とか言う性質かのぅ?」
「何言ってるんですか」
「そうじゃなそうじゃな。そこまでひどくは――――」
「当たり前でしょう」
「もう手遅れ!?」

 そう叫ぶ近右衛門の髭が所々不自然に短くなっているのはきっと気のせいだろう。少なくともさよはそう思っていた。言うまでもなく現実逃避である。
 そしてさよは刹那さんは木乃香さんのことになると余裕がなくなる、と心の中でメモし、話の流れを再び自分に向けるべく口を開いた。せっかく他人に認識されるようになったのに、こういうことでおいてけぼりは勘弁願いたいのだ。

「あのぅ……、ところで私はこれからどうすればいいんでしょうか?」
「あ、それもそうでしたね」
「ふぅ、全く老骨には応えるわい」

 さよの言葉に刹那はようやく刀を収め、近右衛門はほっと胸をなでおろす。さよもまた、ようやく会話の輪の中に戻れたことにほっと胸をなでおろす。

「うむ、そのこと何じゃがな。まずその刀――薄刃陽炎とか言ったかの、それはそのまま出しっぱなしなのかのぅ?」

 その指摘の通り、さよの姿は先ほどの黒い袴のままであり、その腰に鞘に収めた薄刃陽炎を差していた。間違いなく表に出ていい格好ではない。出たら間違いなく銃刀法違反で検挙される。

「あ、それもそうですね」

確かにその通りだとさよは薄刃陽炎をかき消すイメージを描いていく。こうすればこの刀は自分の胸の内にしまわれる、そんな感じがするからだ。
そしてその想像通りにさよの手元から薄刃陽炎が消失し、さよの姿も古めかしいセーラー服になったその時だ。




『――――消えた!?』




 三人の叫びが唱和する。さよにしてみれば刀を消しただけであり、自分までも消した感覚など無い、ない筈なのだが自分を見る三人の視線は驚愕に満ちていた。
 あれ、もしかしてと思い、すぐさま薄刃陽炎を呼び出す。呼び出すための言葉を唱え、手の中に再び鋼の感触が宿る。身に纏う衣装も黒の袴姿へと変わっている。


『…………』


 三人のいぶかしむような視線が痛い。既にさよの脳裏には先ほど自分の身に何が起こったのかが鮮明にわかってしまっていた。なるほど、現実というのはなかなかうまくいくことは無いらしい、と思いながらさよは自分の身に起こったことを言葉にした。


「…………もしかして、この刀を消したら私見えなくなっちゃうんですか?」


 反応はしばらくなかったが、その沈黙こそが何よりの肯定でもあった。

「酷なことをいうようじゃが、刀を出しているとは言っても、こちらの見立てでは高密度の霊体になっておるだけじゃ。恐らく何の力も持たん一般人には見えんじゃろうな」
「そんなぁ!?」

 この瞬間、さよの中にあった普通の学生生活を送りたいという思いは、木っ端微塵に砕かれた。

「ほ、本当に無理なのですか? 例えば専用の人形に入ってもらうとか方法はいくらでもあると思うのですが」
「とはいってもそれがさよくんにとって安全かどうかを確かめるには相応の時間がかかるわい。今日はもう遅いから無理だとしても、明日に専門の術者を呼んで、そこからあれやこれややって、という流れになるじゃろうし」
「それじゃあ一週間ぐらい待てば私も日常生活とかできたりするんですかっ!?」

 少なくとも一、二週間はかかる、と続ける近右衛門だが、さよにとってはそんなことは問題ですらない。何せかれこれ六十年近く我慢してきたのだ、一週間かそこらなど我慢するうちに入らない。

「……そうじゃが?」
「だったらこれまで通り幽霊生活して待ちますよ?」
「いや、それをやられると儂らとしても心苦しいと言うかのぅ」
「確かにそうですね。建前としてもさよ君をその間放置、というのは好ましくないですしね」
「高畑君の言う通りじゃの。とすれば――――」

 近右衛門と高畑の視線がさよの隣に集まる。

「私と同室になる、ということですか?」
「うむ、ちと窮屈な思いをさせてしまうが、さよくんの体の都合がつくまでの間匿ってもらえんかの? ある程度の戦闘能力を持ち、儂等ですらも下手をすれば見逃してしまいかねん存在がいると言うことは、あまり公にしたくは無い」
「確かに、暗殺などにはうってつけすぎますね」
「私そんなことしませんよぅ!?」
「この場合、“そう言うことができてしまう”ということが重要なんじゃよ。無論さよくんがそういうことができる性格などとは儂は思わん。じゃが、そういう疑念はできるだけ消しておきたい」

 人形などを利用した仮の体さえ作ってしまえば、後は通常の魔法生徒ということで押し通してしまえるしの。と言葉を繋げる近右衛門の言葉に対し、刹那は頷く。
 さよもまた、迷惑をかけないためには刹那の世話になることが一番いいと判断する。むしろ、

「じゃあ、私刹那さんの部屋にお邪魔しますけどいいですか?」

 さよにしてみれば刹那の部屋にお邪魔する、などという他愛ない行為だけで気分がわくわくする。まるで普通のありふれた友達付き合いみたいだ、と。

「ええ、構いませんよ」

 そんな内心を悟ってくれたのか、刹那は快い許可を出してくれた。こうしてとりあえず、さよが刹那と同室になることが決められたのだった。







「――――で、彼女がしばらくこの部屋に泊まることになった、と?」

 学園寮の一室。そうして招き入れられた刹那の部屋で、さよは刹那のルームメイトと顔合わせすることになった。
 褐色の肌に長く伸ばした黒髪、とても中学生とは思えぬ長身と豊満なスタイル、そしてそれに見合う凛とした美貌は正に麗人と評することのできる美少女だ。

「ああ、さよさんの体の都合がつくまで匿ってやってくれ、と学園長からな」
「確かに、聞く限りいろいろと邪推ができそうだしな。……相坂さよ、だったか、私の名前は龍宮真名だ、よろしく頼む」
「こちらこそよろしくお願いします、真名さんっ」
「……そんなに緊張しなくてもいいと思うんだが」

 真名の言う通り、さよはがちがちに緊張したまま正座していた。さよ自身もこんなに緊張する必要はないと理解しているのだが、だからと言ってこの状況で落ち着いていられると言うのはかなり無理な話だった。

「うぅ、すみません。こうして同じクラスの人と話せるなんてまだ夢みたいで……」
「確かに、六十年間ずっと一人ぼっち、なんて想像すらできません」
「私としては一年近く、君の存在に気が付かなかったのが夢だと思いたいよ」
「どういうことです?」
「こういうことさ」

 そう言うなり真名は部屋の片隅においてあったケースを開くと、そこからボルトアクション式の狙撃銃を取り出し、さよによく見える様に掲げてみせた。

「見ての通り、私はスナイパーでね」
「おぉ、すごいです」

 さよの感心の声に真名は僅かに満足するような表情を浮かべると、さよの眼前でライフルを構えながら問いかけてきた。

「狙撃手にとって一番大切なことは何だと思う?」
「へ? い、いきなりそんなこと言われても……」
「私個人の考えだがな、“見逃さない”ことだと思っている」
「見逃さない、ですか?」
「ああ、確かに集中力やら射撃の腕そのものも重要だろう。だが、スコープ越しに敵を見逃してしまうスナイパーなんて間抜け過ぎるだろう?」
「確かにそうですねぇ」

 真名の持論は狙撃のことなど欠片もわからないさよにとっても非常に納得がいく話だった。確かに敵を見逃してしまうスナイパーなんて話にならない。……だが、何故そんな話を今この場でするのだろうかと疑問が浮かぶ。いくら裏の事情に関わっているとはいえ、初対面の話題としてはそぐわないだろう。

「――――そしていま私の目の前に、一年近くの間見逃し続けてきた存在がいるんだが」
「え、ええええぇっ!? それって私が悪いんですかぁ!?」
「ああ、私の面子がすごく傷ついたよ」

 真名の猛禽の様に鋭い視線がさよを射抜く。刹那が語ってくれたところによると真名は傭兵らしく、かなりプロ意識も持ち合わせているらしい。だからと言ってどうしろと? むしろさよにしてみればぜひとも気付いてほしかった。主に会話相手的な意味で。

「龍宮、そこまででいいんじゃないのか?」
「何、同居人がどんな性格か知りたかっただけさ。あの程度の揺さぶりでこうも見事な反応を返してくれるんだ、異端であっても害がないのは存分にわかったよ」
「うぅ、またからかわれちゃいました……」

 刹那の取り成しのおかげか、真名の鋭い視線が和らぎ、構えられていたライフルがしまわれる。そのことにさよはほっと一息つきながら肩を落とす。ようやく真名が自分をからかっているだけだと気付いたからだ。
 先程の近右衛門と言い、ひょっとしたらこの学園には変な人が多いのだろうか。いやいや、高畑先生とか刹那さんがいるし……、あれ? でもその二人もさっきの会話を思い返すと少し変な様な気がします。
 果たして本当に友達とかになれるんだろうか……、とか思っているさよだが、正体不明の力を手に入れた幽霊という点で、さよもかなりアレである。
 そうして少し落ち込むさよだったが、よくよく考えればからかったりするのも親愛の証なんじゃないかぁ、とポジティブに考えることにした。幽霊らしからぬポジティブさは、さよの長所でもある。楽観的、とも言えるが。

「本当に、私これからうまくやっていけるんでしょうか……?」

 今まで想像の中であった普通の生活。しかし、自分は集団生活初心者と言っていい。それを近右衛門と真名によって痛感させられてしまったさよの中で、これからへの期待と不安が混ざり合っていく。

「大丈夫ですよ、私もできる限りサポートしますから」
「刹那さん……、はいっ、そうですよねっ」
「ククッ、いつにも増して饒舌だな刹那。情でも湧いたか?」
「からかうな龍宮っ!!」

 けれど、頬を少し赤らめて声を荒げる刹那を見て、少なくとも今までとは違い、頼ることのできる人がいるのだから、まぁ大丈夫だろうとさよは自分に言い聞かせた。







「――――それで学園長」

 その同時刻、さよの体に関する手配を続けていた高畑は、おもむろに近右衛門に問いかけた。
 その表情にはさよと話していた時にあった温和さは鳴りを潜めている。それは、教師とは程遠い、戦士の顔だった。
 それでも近右衛門の顔からは、飄々とした雰囲気が変わらず残っている。まるで強風を受け流す柳の様である。

「なんじゃ?」
「そろそろ教えてほしいものですね、――――“彼女”は一体何なのかを」
「自分で言っておったじゃろう。哀れにも六十年間誰にも気付かれることなく孤独を過ごしておった幽霊だと」
「ええ、彼女の言葉には嘘は無いでしょう。――――ならばなぜ彼女に対しては不干渉、などという命令が出ているんです? しかも僕だけに」

 その問いかけに、近右衛門はただ一言こう答えた。




「高畑君や、何故この麻帆良の地に、――――“彼女”が封印されたと思うておる」







<あとがき>
 死神の力とは別にして、さよの設定に関しても色々いじっていく予定です。やっぱりクラス名簿に名を残しておきながらあれだけ放置をかましているのは不自然すぎるんですよね。
 それはそうと最近総隊長の卍解が出てきましたけど、あの形状って朽木白哉が初めて天鎖斬月を見た時の反応と矛盾しません? 「そんな矮小なものが卍解である筈がない」とか言ってた様な。


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