これはISとROCKYのクロス物です。そういったものに嫌悪感を示される方、「俺のロッキーを汚すんじゃねえ!」という方はブラウザの戻るを推奨します。
あくまで「ロッキーっぽく」です。それに付随して、原作を改編している部分があり。また、ロッキーを知らない人が見たら、只の性格改編ものかもしれません。
どうぞ、お目汚し程度に見ていって下さい。
女性にしか操縦することのできない兵器、「インフィニット・ストラトス」通称 IS。
元々は宇宙での活動を想定して作らたマルチフォーム・スーツではあったが、ある一人の天才(天災とも呼ばれている)により兵器として生まれ変わり。その凄まじい威力は既存の兵器を「鉄屑」と呼ばせるほどにまで貶めた。
もっとも、今でこそスポーツ用として運用されているが、この最強の兵器 ISの登場は、世界を大きく激変させ、とある風潮を世界に広める発端となった。それこそが、
女尊男卑。
この風潮は瞬く間に広がり、社会や家庭を問わず。ありとあらゆる場所で男性と女性の扱いは激変した。「女は舟、男は港」という言葉は当たり前。経済を支える主体が女性となり。また日常においても突然、女性が見知らぬ男性を小間使いにするなど既に見慣れた光景となる程に、最早 男の威厳は過去の遺物となり果てていた。
―――― だがそれでも、それでも男にしか成しえない成功がある。
男にしか生み出せない感動。挑戦し続ける男のみが放てる、一瞬の火花のような煌めきは、いつの時代であっても多くの人を魅了する輝きを放つのだ。
これは、そんな1人の男の戦いの記録である…………。
『織斑一夏が “ロッキー”っぽかったら』
IS操縦者育成を目的とした学校、その名もIS学園。各国から選りすぐりの素質を持ったIS操縦者たちを一同に集め、養成する機関として設立された学園。
そのIS学園の1年D組、織斑千冬が担任を務めるクラスのHRのことである。
「いいですか!? クラス代表は実力トップがなるべき。そしてそれは、わたくしですわ!」
バン! と、机を両の手で強く叩きながら、イギリスの代表候補生 セシリア・オルコットは息を荒げながら熱弁していた。
コトの始まりはこうだ。IS学園ではクラス対抗戦というトーナメントが開かれている。各クラスから1名の代表を選出しクラス毎に競い合うというものだ。しかし、未だ1年ということもあり実力にたいした差は無く(セシリアのような代表候補は例外だが)。競争は向上心を生むので自薦他薦は問わない、という担任の言葉もあってか、1人の女生徒が手を上げて発言したのだ。
『はいっ、織斑君を推薦します!』
『私もそれがいいと思います!』
『アタシも!』
あれよあれよという間に、一夏に票が集まっていった。
本来、女性しか操縦することのできないIS。それを唯一 世界中でただ一人男で操縦することが出来る一夏の存在は大きく、この富んだ話題性から面白半分にクラス代表をやらせようという女子が続出したのだ。
そして、それに「待った」をかけたのが、先程のイギリスの代表候補生であるセシリアであった。
彼女は祖国の代表の一人に選ばれているという自覚があり。また、それに見合うだけの実力を持っていると自負していた。それ故に、「男でISを操縦できる」というだけで選ばれる一夏に納得がいかなかった。そして、なによりも、
「大体、文化としても後進的な国で暮らさなくてはいけないこと自体、耐えがたい苦痛ですわ!」
黄色い猿の暮らす極東という認識。そこの原住民それも男に負けるということは、誇り高き祖国イギリスの貴族「オルコット家」の次期当主として耐えかねないものだった。
「おい、ちょっと待ってくれぃ!」
セシリアの言葉が終わるのを待って、一夏のしゃがれた声がクラス内に響いた。
一夏は席を立つとセシリアの前まで行く。15歳で身長180cmをゆうに超え、厚い胸板と丸太のような上腕筋。クセっ毛の掛った黒髪で、やや高い鼻と腫れぼったい目蓋はお世辞にもイケメンとは言い難いが、目の前に立たれるとかなりの迫力がある。
「な、なにか?」と、セシリアも負けじと問うと、一夏はゆっくりと胸に手を当てて言った。
「いいか? ここは俺の街だ、友達だっている。…………人間、長く同じ場所に住んでいるとその場所が自分自身になるんだ。俺の住んでいるアパートだって築何十年も経っているが、ちゃんと建っている。頑丈な証拠さ」
「それが何か?」
「だからよ、その……、何て言うのかな? お前さんだって自分の国がバカにされたら悔しいだろう?」
「当然ですわ!」
「そうだ! そうとも、自分の国がバカにされて悔しくない奴なんていないんだ! なぜなら、お前さんはイギリスで長年過ごしてきたからこそ、イギリスがお前自身になっていたからだ」
セシリアはここにきて、この目の前の巨漢が何を言いたいのかを理解するとともに、先の自分の発言を恥入り始めていた。
「お前さんもこのIS学園で暮らす以上、この街で3年間 暮らすってことになる。その3年間、お前さんはこの街の一部となるって訳だ……、だからよ、あんまり嫌いにならねぇでくれないか? この街にもいい所だって沢山ある! 勿論、無理にとは言わねェけどよ」
「…………確かに、先程の私の発言は、あまりに品が無さすぎましたわ。謝罪いたします」
セシリアは己の非を認めて謝り、一夏もセシリアの態度に「ありがとう」と言って席に戻った。
「で、結局どちらがクラス代表をするんだ?」
だが、問題はこれで解決した訳ではない。肝心のクラス代表が決まっていないのだ。担任の織斑千冬がこれについて言及すると一夏は応えた。
「そりゃあ、オルコットでいいだろう? なにせイギリスの代表なんだ。強いやつが出たほうが盛り上がる」
正確にはイギリスの代表候補生なのだが、ISに疎い一夏には解からず。ただ、セシリアが実力者だということで、彼女を推薦した。
しかし、ここに再びセシリアが「待った」を掛けた。
「いいえ、担任の千冬先生が“自薦他薦を問わない”と言った以上、そうはいきませんわ!」
「おいおい、それじゃあ一体どう決めるッてんだ?」
「決闘ですわ!」
ビシィッ! と、一夏を指差しながらセシリアは宣言する。古来より続く、最も簡単に優劣を決める方法の1つ。一対一のタイマンでクラス代表の選出を決めるようセシリアは提案してきた。しかし、これには一夏も思う所がある。
「確かに判りやすいけどよ……。先生、それでいいのか?」
「構わん。クラスが納得するなら、決闘だろうが何だろうが好きにしろ」
決闘の流れがほぼ固まると、セシリアは念を押すように言う。
「言っておきますけど、わざと手を抜いて負けたりしたら私の小間使い―――― いえ、奴隷にしますわよ」
この宣言に一夏は、頭にクエスチョンを浮かべて隣の席の女子に訊いた。
「オルコットは、“俺が欲しい”って言ってるのか?」
「え!? う、うん……多分」
鈍感とも取れる一夏の問いに、顔を真っ赤にして俯いてしまう隣の女子。
『ヒューッ、セシリアやるぅ!』
『織斑君を犬のように……アリね!!』
『セシリアはえろいなぁ~』
そしてこの大胆発言にクラスの女子は色めき立って囃し立てる。国家単位で選ばれたエリート学校といっても15歳の多感な時期である。こういった話しはバッチコイなのだ。
「え、エロくなんてありませんわ! 兎も角、手を抜いたりしたら承知しませんわよ!」
「俺ぁ、別に勝負に手を抜くつもりはないけどよ。オルコットに“傷を残してしまうかもしれない”ってのには気が進まねぇなあ……」
「は?」
今度はセシリアがキョトンとする番となった。それにつられるかのように教室中がクスクスと笑い声をあげて、そのうちの数人が笑いを堪えて一夏に言ってやった。
「お、織斑くん、それ本気で言ってるの?」
「男が女よりも強かったのって、大昔の話だよ?」
「それに、ISには絶対防御だってついてるし」
キャハハ! と、しだいに爆笑にとなっていく教室。だが、一夏の言いたかったことは、「男は女より強い」とか、そういう事ではない。それを証明する為に一夏は周囲に言い聞かせるように言った。
「いいか? 俺は、5歳まで剣道をやっていたが剣の腕はからきしでな。剣道を止めてからは、三木って男のジムでボクシングをやっていたんだ。
…………この傷だが、ここの入学する3日前にスパイダーって渾名の男と試合をしてな、そいつが俺のボディを執拗に狙ってきやがった。それがまた強烈でな、ズシンズシン! 身体の芯にまで響きやがる」
そこで一夏は服の裾をめくって見せた。一夏の左脇腹には、青黒く変色した痛々しい打撲痕がくっきりと残っていた。
「お陰で未だに傷が引かねぇ。治っても痕が残るかもしれねえな。それと今、俺の左の目蓋の傷も試合中に切られたものだ。5針縫うハメになった」
見せられた生々しい傷跡の数々に、徐々に女子たちの笑いが引いてゆく。一夏は「そして、これだ!」と言って、右手の小指を掲げて言った。
『きゃっ!?』
女子たちは、小さい悲鳴をあげた。なぜなら、一夏の見せた小指が本来の関節の曲がる向きとは反対にねじ曲がっていたからである。
「OK! 大丈夫だ!! これは、古傷でな。俺が9歳の試合の時にこうなっちまったんだ」
パキリと一夏は指を元に戻す。いくら本人が大丈夫だと言っても、見ていてあまり気持ちのいいモノではない。だが、それこそが一夏の言いたい事でもあった。
「確かに俺は、ISに関してはド素人もいいとこだ。だがな、真剣勝負なら何度も俺は経験している。真剣勝負ってのは何時だって、生傷と危険がつきまとう。下手すりゃあ、後遺症だって残りかねねぇ。幾らISが高い防御力を持っていても、真剣勝負の名前がつく以上それはどうしたって拭いきれねえんだ。いいか、決闘には男も女も関係ねぇ!
おい、皆! オルコットの顔をよっく視てみろ!」
一夏の言葉に全員がオルコットの方に首を向ける。オルコットも突然クラス中から視線に面を喰らい目を丸くする。
「綺麗な顔をしている。将来は色んな男が言い寄ってくるに違いない。こんな美人に育ってくれて両親だって、さぞ鼻が高いだろう」
“両親”という単語にやや眉をひそめるセシリア。そして一夏はセシリアに「よし、それじゃあ俺のツラをもう一度見てみろ!」と叫ぶ。
「酷いツラだろう? 身体中 傷だらけさ。奥歯だって何本かは刺し歯で、鼻が折れたことがないってのが唯一の自慢だ。
ISではお前と俺とじゃ天と地ほどの差がある。けど、勝負はやってみなきゃ判んねぇ。もしかしたら、俺のラッキーパンチがきまって、お前さんの将来の旦那を失望させちまうかもしれない」
「なぁオルコット、それでも俺と決闘するかい?」
これを聴き、オルコットは「フン」と放つと、揺るぐことなく応えた。
「見くびらないで下さい。このセシリア・オルコット、怪我が怖くて闘いを止めるなんてことは、万が一にも有り得ませんわ!」
「さて、話しはまとまったな。それでは勝負は1週間後の月曜。放課後 第3アリーナで行う。織斑とオルコットは、それぞれ用意しておくように。それでは、今日はここまでだ」
担任の織斑千冬の言葉で、一夏とセシリアの試合は決定した。
授業が終わり、クラスが寮に帰る支度をする中、一夏はセシリアの前に立った。
「あら、まだなにか?」
「特に用って程じゃないさ。ただ、よろしく頼む ―――― それだけさ」
スっと一夏の右手が差し出された。
「ええ、こちらこそ」
ゴツゴツと節くれだった一夏の右手と、セシリアの柔らかく女性的な右手。あまりに対称的なこの二つの手が確りと握り合う。
「手加減はしませんわよ?」
「お手柔らかに頼みたいね」
この会話に思わず二人の頬が緩んだ。
* * *
「あ、織斑君! 寮の部屋が決まりましたよ」
放課後、副担任の山田麻耶が一夏に鍵と地図と思われる紙を差し出した。
「なぁ先生? しばらくは家から通うって聞いていたんだが?」
「まあ事情が事情ですし……」
「俺が“男でISを操縦できる”っていう?」
ええ、と麻耶は応える。
一夏が何故ISを操縦できるのかを調べようとしている研究機関はごまんとある。それ故の学園側からの配慮であった。ここIS学園は世界でも認められた治外法権のような区域なのだ。
一夏は「参ったな」と呟き、頭をかきながら言った。
「けど先生、一度 荷物を取りに家に帰らないと……」
「荷物ならお前の汚い部屋から、わたしが手配しておいた。ありがたく思え」
「着替えだけで十分だろう」と、現れた千冬の言葉に一夏は反論する。
「待ってくれ“カフとリンク”に餌をやらなくちゃいけねぇんだ!」
「なんだ、それは?」
「カメだ!」
それは、一夏が独りで暮らすアパートで飼っていたペット、いや家族であった。
「ああ、それなら知り合いのペットショップで預けてきた。安心しろ、間違ってもスープにされることはない」
千冬のあまりにも無遠慮な発言に、ついに一夏は、
―――― バァン!
机に拳を叩きつけて怒りを顕にした。
「何の真似だ、織斑!!」
「『何の真似』だと!? ふざけるな! こういう事だよ!!」
ガン! と今度は机を蹴り飛ばし、息を荒げて一夏は叫ぶ。
「俺は物心つく前から両親に捨てられていた。5歳の時には、今度はアンタに捨てられて俺は独りぼっちだった! おまけに、家のローンが残っていたせいで俺はあの家を売っ払って、なけなしの金であのアパートに住んでた! あのアパートが俺の家だ!
スープにされないから安心しろ? ふざけるな! 俺の家族を返せ!!」
周囲のものを手当たりしだいに、殴り、蹴り、投げ飛ばした。メチャクチャに暴れまわり怒気をブチ撒ける一夏に、麻耶はすっかり怯えてしまい千冬の陰に小さく隠れていたが、千冬はただジッと一夏を見ていた。
やがて疲れたのか、それとも千冬の冷静な態度に自分のしていることが馬鹿らしくなったのか、一夏は倒れていた椅子を起こすと項垂れるように座った。
「………… 確かにアンタは、すげえよ。ISの世界大会で2度もチャンプに輝いた。世界中がアンタを認めている、このクラスの奴らだってアンタのことを好いている」
顔をあげて千冬の顔を見詰めながら一夏は続けて言う。
「だが、俺はどうだ? 新聞配達と闇金の取り立てで、惨めで何とか生活できている。ボクシングは続けていたが、得られるのは賭け試合で勝った時の端金だけだ。誰も俺に賞賛も、ねぎらいの言葉もくれない。…………その辺のチンピラやゴロツキと変わらねぇ」
「お前はゴロツキなんかじゃないさ」
「ISが操縦できると判った途端、手の平返して家族面か? よしてくれ、もし家族だってんなら、あの豚小屋で暮らしてみろ」
一夏は立ち上がると、落ちていた鍵と紙を拾い上げて二人の前を通り過ぎる。
一夏が教室の入り口に手を掛けた時、千冬はその背中に向かって言った。
「それでも一夏、お前はわたしの『弟』だ」
「―――― その言葉を10年前に言って欲しかったぜ」
振り返らず、一夏は応えて教室を去った。
「お、織斑先生……」
二人残された教室。夕焼けが消えかけ、二人のシルエットが影の一部になってゆく中で、麻耶は見た。千冬の血が溢れんばかりに固く握りしめられた彼女の両の手を…………。
トレーニングシーンは、次で。最後はなんだか、ロッキーというよりランボーぽかったですね(汗)。1のロッキーとミッキーの会話を意識してみたのですが……。